ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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43話

 

 

フィールド内では早川隊・常盤隊の戦いが続いており、そこにツグミが乱入した。

といっても交戦中の隊員たちの中に飛び込むのではなく、イーグレットで狙撃可能な人間を撃つというもの。

そのためにわざわざ斎藤の陣取っていた場所で海老名隊と戦ったのだ。

早川隊と常盤隊はここでツグミを倒そうとするより目の前の敵を倒すことに優先した。

誰を倒しても1点なのだから、二対二のバランスを崩してまで危険なマネをするはずもないのだ。

だからツグミの射線に入らないように注意しながら目の前の敵を倒すということに専念していた。

しかしその均衡が崩れた。

最初に犠牲になったのは早川隊の丸井星司(まるいせいじ)だった。

まだ彼は1点も取れていなかったので、焦って突撃してしまったのだ。

 

「待て、丸井!!」

 

早川の制止にもかかわらず、丸井は突撃銃(アサルトライフル)型トリガーで追尾弾(ハウンド)を計良佳伸(けらよしのぶ)に向けて撃った。

追尾弾(ハウンド)はトリオン体の反応を追う探知誘導、視線でより正確に誘導する視線誘導がある。

彼はその後者を選んだために標的(ターゲット)の計良にのみに意識が集中し、周囲の人間の動きが見えなくなってしまったのだ。

そこをツグミに狙われ、イーグレットで背後から頭部を撃ち抜かれてしまう。

彼女の正確無比な狙撃は師匠の東譲りのもので、逆にそこを突かれてピンポイントで防がれるということもある。

だからこそ他者に意識を向けている人間こそが最適な標的(ターゲット)となるわけだ。

 

「ここで早川隊は残りひとり! 圧倒的に不利となりました。さあ、これからどう動くでしょうか? 常盤隊は数の有利でまず早川隊長を倒し、次に霧科隊長という順番でしょうけど、早川隊長はいかに? 常盤隊のふたりを相手にするか、それとも玉狛第3の霧科隊長を倒しにいくか? おふたりのご意見はいかがでしょうか?」

 

小早川が出水と米屋に訊く。

 

「う~ん…常盤隊はそうしたいだろうけど、たぶん思い通りにはならないな。早川隊長も一対二より一対一の方を選びたいだろうけど、もう遅い」

 

「オレも同感。常盤隊が動く前に…ってほら」

 

米屋がモニターに映るツグミの動きに気付いた。

彼女は丸井を狙撃した直後に移動しており、既に常盤隊の背後に回っていた。

早川とツグミが常盤隊の常盤守(ときわまもる)と計良を挟み撃ちにした形になっている。

つまりこのふたりは目の前の敵をすべて倒せばいい。

一方、常盤隊は挟まれているから片方に気を取られていては背後からやられる。

数で優勢だったはずの常盤隊は逆に不利な状況に追い込まれたのだ。

 

「霧科隊長は右手に通常弾(アステロイド)のトリオンキューブを浮かべ、左手に(シールド)モードのレイガストで臨戦態勢をとっています。早川隊長も通常弾(アステロイド)のトリオンキューブを浮かべていますが、そのサイズは圧倒的に霧科隊長の方が大きい。射手(シューター)(トリオンキューブ)はトリオン能力の差がハッキリと出ますから、いかに彼女が射手(シューター)として格上なのかがわかります」

 

「おれよりちょっと大きいかな。まあ、キューブの扱いはおれの方が上手いけどね」

 

小早川の実況に出水が射手(シューター)ランク2位のプライドで口を挟む。

 

「一方、常盤隊のふたりは背中合わせで各々弧月を構えています。射程距離で言えば常盤隊は不利ですが、どちらも旋空を装備していますから、まだ勝敗はわかりません」

 

真っ先に動いたのはツグミだった。

 

(旋空を持っていると言っても余程の上級者じゃないかぎり数メートル以上離れた動く相手に対して当てることはできない。それに放つ前には隙ができる。さあ、当てられるものなら当ててみなさい)

 

ツグミはスラスターを起動して一気に距離を縮める。

そして常盤の旋空弧月をかわし、レイガストのシールド突撃(チャージ)で体当たりして通常弾(アステロイド)のゼロ距離射撃で常盤を沈めた。

 

「おっと出ました、霧科隊長の十八番(おはこ)通常弾(アステロイド)のゼロ距離射撃! 常盤隊長、なすすべもなく緊急脱出(ベイルアウト)です!」

 

ツグミが常盤に攻撃を仕掛けた直後に計良は早川に向けて旋空弧月を撃つが、早川はそれよりも前に走り出していたので直撃を受けることはなかった。

一方、早川の通常弾(アステロイド)が計良を襲うが、シールドによって防がれる。

やはり射手(シューター)銃手(ガンナー)はトリオン能力の差で勝負が決まってしまう。

ツグミや二宮・出水のようにトリオン能力が高い射手(シューター)通常弾(アステロイド)の威力は強烈だが、一般隊員レベルでは他のトリガーに比べて威力が低い。

シールド1枚で防がれてしまう程度の威力では、実戦では余程工夫しないと意味がないものになってしまうのだ。

 

「早川隊長と計良隊員の一騎打ちは勝負がつきませんでした。さあ、この状況を霧科隊長が黙って見ているはずがありません。次はどんな手を使うでしょうか?」

 

小早川が出水と米屋に訊くが、その答えが出る前にツグミは既に行動を開始していた。

なぜか彼女は(シールド)モードのレイガストの柄の部分に左足のつま先を引っ掛けると、素早い動きで弧月を抜いたのだ。

 

「 スラスター、起動(オン)!」

 

ツグミの姿はまるでサーフボードに乗ったサーファーのようで、弧月を刃が地面と水平になるように両手で持ち、バランスをとりながら計良と早川のいる場所へ滑るように突撃する。

そしてまずはより近い場所にいて背を向けていた計良の胴を弧月で斬り捨て、そのままの勢いで早川に斬りかかった。

思いがけないツグミの攻撃に、早川は弧月で受け太刀。

するとツグミは即座にレイガストを破棄してスコーピオンを起動。

左膝から出した(ブレード)で早川の腹を膝蹴りした。

スコーピオンが深々と刺さったところからトリオンが大量に漏れ出て、そこから戦闘体にヒビが入っていき、そして弧月でトドメを刺す。

 

「早川隊長、トリオン供給機関破損。戦闘体活動限界、緊急脱出(ベイルアウト)!」

 

計良に続いて早川が緊急脱出(ベイルアウト)したことで決着がついたのだった。

 

「ここで試合終了! 玉狛第3には生存点の2点が加算されます。最終スコア、10対1対1対0。玉狛第3の大勝利です!!」

 

10点という大量点をもぎ取ったツグミ。

さらに誰も想像もしない派手な技を使ったことで、観客の歓声はRound1の時より大きい。

 

「ではこの試合を振り返ってみましょう。いかがでしたか、出水さん?」

 

「そうですね…やっぱり霧科隊長のキレのある動きが目立っていましたね。全体の状況をしっかりと把握し、それに対応した行動を徹底していて無駄がありません。この試合は四つ巴と言いながら、実際は三つ巴の戦いに霧科隊長が介入して、終始彼女に手玉に取られていたと言うべきですね。海老名隊・早川隊・常盤隊、どの部隊(チーム)の隊員も基本を忠実に守った行動をしています。言い換えれば動きがシロウト臭い。だからこそ彼女には狙撃手(スナイパー)の潜んでいた場所がピンポイントでわかったし、海老名隊長と茂手木隊員の同時攻撃に即対応できたのもふたりの連携プレーのログを繰り返し見て反撃のイメージを作り上げていたからでしょう。彼女は数多くの経験を積んでいますから、経験の浅いB級下位グループでは勝負になるはずもありません」

 

「なるほど…。続いて米屋さんに感想をお願いします」

 

出水がいつになく真面目にまとめたものだから、米屋も負けじと真剣に答えた。

 

「う~ん…こう言ってはなんだけど、玉狛第3を除く3部隊(チーム)だけの試合だったらこれといって特徴のない面白味に欠けたものになったと思います。海老名隊・早川隊・常盤隊…どの部隊(チーム)も実力はほぼ互角。特に目立った戦術というものがない代わりに、これという欠点もない。良く言えばバランスのとれた部隊(チーム)であり、悪く言えば個性がない。これはただ単に経験不足であり、経験を積んでいけばどんな風にも変わることができるという可能性でもあるわけですが」

 

「将来に期待…というところでしょうか?」

 

「そうです。彼らにとってこの試合は霧科ツグミというベテランが紛れ込んでしまい、いつもの動きが経験豊富な彼女に利用されまくっていたことが不幸でした。一方的にボコボコにされた感がありますが、彼女と戦ったことは決して無駄にはなりません。ランク戦というのは同レベルの仲間と切磋琢磨し、また優れた先輩たちと戦うことで何かを得るというもの。きっと成長のいい肥やしになることでしょう」

 

そして小早川はまとめた。

 

「これでB級ランク戦第2戦・昼の部を終了いたします。夜の部の結果に関わらず、玉狛第3の中位グループは確定しています。次は8日の土曜日。次回をお楽しみに」

 

 

◆◆◆

 

 

ツグミが作戦室に戻ってくると、栞が労をねぎらってくれた。

 

「お疲れさまー。今日も楽しく見物させてもらったよ。アタシの出る幕はまったくなかったね。楽させてもらうのはいいけど、オペとしては張り合いないなー」

 

栞の言葉にツグミは複雑な笑みを浮かべる。

 

「すみません。でもシオリさんの補佐は不要とか、指示を仰ぎたくないとかって言うんじゃなくて…」

 

「いやいや、ツグミちゃんがそんなこと思ってるはずがないってわかってるから。玉狛第2の試合に専念してくれってことだもんね。でもこれから先、アタシを必要とする時が絶対に来る。アタシの未来視(サイドエフェクト)がそう言ってるよ」

 

「アハハ…その時にはよろしくお願いします」

 

「おう、任せとけ。…にしてもレイガストでサーフィンするなんて、ツグミちゃんならではっていうか、開発者の寺島さんでさえこんな使い方は思いつかないだろうね」

 

「ええ。普通に左手にレイガストを握ってシールド突撃(チャージ)っていう手もありますが、それだと弧月を右手でしか持てなくなります。やっぱり弧月は両手持ちの方が安定感と威力が増しますから、どうやれば弧月の両手持ちでレイガストのスラスターが使えるかと考えて、いっそ乗ってしまえと思ったわけです」

 

「なるほど…。それでかなり練習したんでしょ?」

 

「まあ…それなりに努力しました」

 

ツグミはそう言うものの、彼女はサーフィン自体やったことがないからレイガストの上でバランスをとることに苦労した。

さらにスラスターで加速しているから、柄の部分につま先をちょっと引っ掛ける程度では振り飛ばされてしまう。

威力を調整しながら姿勢を崩さずに突撃するのは難しいが、彼女は新しい技を生み出すことを好むから、そのための努力なら苦にはならない。

おまけに見た目が派手な技だから、それを見た観客が驚くのを楽しみにしていた。

しかし自分の努力する姿をあまり見られたくない性格なので夜中や誰もいない時にこっそり練習していたのだった。

 

 

そんな会話をしていると、出水と米屋のふたりが作戦室にやって来た。

 

「よう、お疲れさん、ツグミ。ずいぶんと面白いものを見せてくれたな」

 

「あ、出水さんと陽介さんじゃないですか。試合の解説ありがとうございました。それで何かご用ですか?」

 

「さっきのレイガスト使った技、オレにも教えろよ」

 

米屋が言う。

 

「さっきのって、もしかして最後の…?」

 

「そう! オレもレイガストでサーフィンしてみてえ。おまえのトリガー貸せ。これからランク戦ブース行こうぜ」

 

「あ、おれもやりてえ!」

 

米屋だけでなく出水までもが言い出した。

 

「残念ですが今日はダメです。これから用事があるので」

 

「用事って何だよ?」

 

「唐沢部長から呼び出されているんです。遊びたいなら非番の日に玉狛支部に来てください。模擬戦でもなんでもお付き合いしますよ」

 

「マジか!?」

 

「ええ。本部でのトリガーの貸し借りなんて危険ですよ。忍田本部長や鬼怒田さんにバレたら叱られそうですけど、玉狛でならたぶん大丈夫ですから。じゃ、わたしはこれで失礼します」

 

そう言って作戦室を出て行くツグミの後ろ姿を見送った後、米屋が呟いた。

 

「でも唐沢さんって外務・営業担当だろ。なんでツグミが呼ばれんの?」

 

 

 






Round2・昼の部 玉狛第3 vs 海老名隊・早川隊・常盤隊 のトリガーセット

メイン:イーグレット、通常弾(アステロイド)、弧月、旋空
サブ :レイガスト、スラスター、スコーピオン、バッグワーム

レイガストでのサーフィンはさすがにやり過ぎかとは思いましたが、レイガストを使った大技を出したくて書きました。
「絶対に不可能」だというものでもなさそうですから構いませんよね?



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