ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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423話

 

 

ツグミの攻撃はすべて防御されてしまい、サーヴァの反撃はレイガストで辛うじて防いでいるといった状態で5分が過ぎた。

 

(全然ダメだけどわかったことがひとつある。あのトリオンキューブは攻撃と防御に割り振ることができず、攻撃なら全部攻撃で防御なら全部防御ってカンジになる。武器(トリガー)の構造上できないのか、あるいは使用者が並列処理できないのか…。両攻撃(フルアタック)両防御(フルガード)の二択なら、こっちがサーヴァさんに両攻撃(フルアタック)をさせるように誘い込んで、防御ができない状態にしてから攻撃を仕掛けてみようかな。でもリスクの高い賭けになる。せめて変化弾(バイパー)が使えたら少しは勝率を上げられたのにな…。なんて今さら言っても無駄なこと。今の装備でできるだけのことをやらなきゃ!)

 

そう気合を入れ直した次の瞬間、ツグミの脳裏には()案が浮かんだ。

 

(そうだ、例のアレを試してみよう。…あ、でも一連の流れが一瞬でも途切れたら反撃を受けて、ノーガードでは戦闘体なんて木っ端微塵になってしまうだろうな。イメージをしよう。これなら勝てるって自信を持って攻撃できるまで何度も…)

 

ツグミが攻撃をしなくなってしまったものだから、サーヴァもひと息ついて彼女の観察を始めた。

 

(あの様子だと光の鎧(インドゥエリス)の仕組みがバレたかもしれん。攻防一体型といっても同時に展開できないのは仕様ではなく使用者が並行処理できないからで、できる人間が持てば効果は増大するのだがなあ。…さて、何やら作戦を練っているようだが、次はどんなことをやってくれるのか楽しみだ)

 

ここでツグミは気付いていなかったが、サーヴァは老齢のせいか長時間の戦闘には耐えられなくなっていた。

ここ数年は前線にも出ず、人前では模擬戦もやらずにいたのは、若き頃の全盛期の姿を人々の記憶の中に残していて、その印象を守っていたからなのだ。

全力で戦えば15分が限界であったため、模擬戦が長時間になるのは避けたい。

もしツグミがそのことに気付いていたら別の展開があったことだろう。

しかし知らない彼女は()()()()()のイメージトレーニングを繰り返していた。

 

(うん、大丈夫! イメージでは勝てる手応えはある。相討ちになる可能性は高いけど、これまでだって何度も危険を承知で挑んできた。今回だって勝算がないからって逃げることはできないのよ。わたし自身が模擬戦に持ち込むシナリオを書いたんだから)

 

 

サーヴァは初期位置から一歩も動いておらず、ツグミだけが動き回って攻撃を続けていた。

その攻撃もすべて防がれていて、観衆は「やっぱり総司令は強い」「玄界(ミデン)の娘が勝てるはずがない」などと心の中で思っていたり口にしたりと勝手に決めつけているようだが、それも無理からぬことである。

どう見ても「貫禄のある歴戦の勇士に対して無謀な戦いを挑んでいる小娘」の姿にしか見えないのだから。

 

ツグミの心臓は高鳴っていた。

それは緊張して鼓動が激しくなったのではなく、闘争心が最高潮に達したからである。

しかしそれを抑えつつ、(シールド)モードのレイガストを構えて正面のサーヴァを見据えた。

 

(いくわよ! スラスター、起動(オン)!)

 

スラスターで加速したツグミは一気に間合いを詰めるがサーヴァが攻撃をする構えを見せる前に彼女の姿は消えてしまった。

突然姿を消してしまったものだから、サーヴァはもちろんのこと観衆も騒ぎ出した。

このトリックは簡単だ。

カメレオンを起動しただけである。

しかしこのままでは攻撃も防御もできないから、まさしく手も足も出ない状態だ。

それでもカメレオンを使ったのは一瞬でもサーヴァの思考をストップさせるためで、彼は攻撃すべきなのか防御すべきなのか躊躇してしまい、その間にツグミは彼の背後を取ったのだった。

 

次の瞬間、ツグミはカメレオンを解除してサーヴァに攻撃を仕掛けた。

さすがに背後を取られるとは思ってなかったことと、地面から(ブレード)が生えてきて右足をざっくりと貫いたことでサーヴァは気が動転してしまう。

地面から生えてきた(ブレード)とはスコーピオンの技のひとつ「もぐら爪(モールクロー)」である。

周囲を完全に防御できても地面まではカバーしきれないという点にツグミは気付いたのだった。

サーヴァが足元に注意が向けられた隙を狙い、ツグミは役目を終えたスコーピオンを解除して弧月を抜くとトリオンキューブの隙間からサーヴァの背中を一気に貫く。

弧月の切っ先はトリオン供給機関を破壊するも、サーヴァは最後の力を振り絞ってツグミに向けて両攻撃(フルアタック)を行った。

ゼロ距離で通常弾(アステロイド)の集中砲火を浴びたようなものだからタダでは済まないどころかツグミの戦闘体も木っ端微塵となり、ほんのわずかの差でツグミの方が先に換装が解けてしまったのだった。

 

 

「相討ち…か?」

 

静まり返った練兵場。

観衆のひとりがそう呟いた次の瞬間、それをきっかけにして怒涛のような歓声が湧き上がった。

それは自分たちが尊敬する偉大なトリガー使いと、彼にひと太刀浴びせて戦闘体を破壊した異国の少女のふたりへの賞賛と感動の叫び声である。

「不敗のトリガー使い」と称されたサーヴァに対して相討ちにまで持ち込んだのだから、ツグミへの評価は模擬戦前と比べて一気に上昇してしまい、それが若い女性であったのだからもはや興奮を抑えきれないのだ。

 

「ツグミ、良い試合となった。ありがとう」

 

先に立ち上がったサーヴァが地面に座り込んでいるツグミに手を伸ばした。

 

「こちらこそどうもありがとうございました」

 

そう言ってサーヴァの手を握り、引っ張ってもらって立ち上がった。

 

「久しく武器(トリガー)を握っていなかったものだから、このような結果になってしまったのだろうな。やはり現役で訓練を続けている若者には勝てぬか」

 

「いえ、そのお歳になってもまだあれだけの戦闘ができるのですから、これまでの鍛錬の賜物と言えるでしょう。わたしこそまだ経験が足りません。もっと多くの経験を…と言いたいところですが、わたしは武器(トリガー)を使うことがない世界にしたいと考えて行動しているのですから、これ以上の戦闘経験を積みたいと考えるのは矛盾となります。そして戦いのない世界を目指す上で貴国キオンの協力は欠かせません。どうかお力をお貸しくださいませ」

 

ツグミはそう言ってサーヴァに深く頭を下げた。

するとサーヴァは言う。

 

「顔を上げなさい。そしてここにいる者たちに笑顔で手を振るといい。きっと皆も応えてくれるだろう」

 

「はい」

 

ツグミは言われたとおりに右手を高く上げて観衆に手を振ると、大歓声がさらにボリュームを増した。

まるでステージに立つアイドルが演奏後に応援をしてくれたファンに対して手を振っているのに対し、熱狂的ファンがそれに応えているかのように見える。

 

「みなさ~ん、楽しんでいただけましたか~!?」

 

「ぅおおぉぉぉぉおぉぉぉっ!」

 

この場にいる観衆は約600人で、その9割強が10代から20代の若い兵士や訓練生だからツグミは一気に500人以上の近界民(ネイバー)味方(ファン)にしてしまったことになる。

残りの1割弱がついさっきまで彼女のことを軽んじていた議員たちで、サーヴァと相討ちになるなど想像できなかったものだから呆然として固まってしまった。

ツグミの当初の計画ではサーヴァに勝つことで自分を強者として認めさせ、「強者が弱者を支配する」という考え方に固執していて自分たちこそが強者であると思い込んでいる議員たちに心理的ダメージを与えるものであった。

勝てはしなかったが相討ちという良い勝負となったことで見物していた大勢の若い兵士たちを味方につけることとなり、これでは軍もツグミの存在を黙殺できない。

サーヴァもツグミのことを気に入っていて、テスタという最高権力者と軍の総司令官と主力となる若い兵士が彼女の味方になったのだから、議員たちがいくら彼女の意見に反対したとしても今の議員たちは「弱者」であって「強者」である彼女には逆らえないのだ。

ツグミは負けた時の次善策を用意してあったが、それは必要なさそうである。

 

 

◆◆◆

 

 

議会の後半はスムーズに進んでいった。

エウクラートンでもそうだったが議員たちは自分が強者で支配する側の人間だという()()()()があって玄界(ミデン)の少女の言葉に耳を貸そうとしなかったのだが、ツグミが彼らの上をいく強者であったことを認めざるをえなくなった。

別にツグミは自分を強者と認めさせたかったのではないが、そうしないと話にならないということで不本意ながらこのような手段を取ったのだ。

そしてツグミの言葉のひとつひとつには相手を納得させようという気持ちが込められているから頭から否定している人間であれば無理だが、多少でも話を聞いて考えようという意思を持つ者には届くというもの。

議員たちの多くが「話を聞いてやろう」という気になったことで、聞いているうちにいつの間にか彼女の()になっていくのである。

おかげでその日のうちにツグミは説明を終え、あとは国内の意見を統一するだけとなった。

 

 

ツグミはテスタに招待されて彼の自宅でのディナーとなった。

もちろんこの場にはサーヴァもいて、話題の中心は模擬戦のことになる。

なにしろツグミが議会で武器(トリガー)を使った模擬戦を申し込む流れは承知していたのだが、サーヴァとはお互いに手の内は明かさずガチ勝負をすることとなっていたから、昼間の試合は八百長ではなく本気で戦った結果であった。

だからこそ緊張感が生まれ、見物している観衆たちがあれだけ盛り上がったのだ。

 

「それにしても玄界(ミデン)武器(トリガー)は面白い。何種類ものパーツを使用者の特性に合うよう組み合わせて専用トリガーとするやり方は近界(ネイバーフッド)では見られない。その発想が生まれたのは玄界(ミデン)の特殊な事情なのだろうが、儂ら近界民(ネイバー)も見習うべきところがある。おまけにたった数年であのアフトクラトルの(ブラック)トリガー使いたちを退け、さらには敵地へと赴いて仲間を奪い返したのだから、トリガー使いの育成についてもなかなか侮れない」

 

サーヴァは模擬戦が終わってすぐにツグミに姿を消したカラクリと地面から生えた(ブレード)の仕組みについて尋ねていて、ボーダーでは8つの武器(トリガー)を組み合わせて独自の戦闘スタイルを構築することを知った。

近界(ネイバーフッド)では訓練生時代にはすべて同じ武器(トリガー)を使用し、正式にトリガー使いとなると優秀な兵士にはその特性に合ったものが与えられる。

これはボーダーのC級隊員が複数ある武器(トリガー)の内のひとつを選んでそれを使って訓練をして正隊員を目指し、B級隊員になったところで8つの枠に攻撃・防御・オプションの武器(トリガー)を自由に組み合わせるシステムにも似ている部分がある。

しかし近界民(ネイバー)たちはボーダーのA級隊員レベルにならないと独自の武器(トリガー)を持つことは叶わず、主戦力ともいえる兵士は固定された攻撃用と防御用のふたつの武器(トリガー)しか使えない。

つまりボーダーで例えるならA級(精鋭)になると玉狛第1の3人が使用しているようなワンオフトリガーを持つことができるが、B級(主力)なら弧月や通常弾(アステロイド)といった攻撃用を()()()とシールドという組み合わせのものしか持てないことになる。

ボーダーでは技術的な面やトリオンの量などで正隊員すべてどころかA級隊員にもワンオフ(オーダーメイド)トリガーを持たせることはできないが、イージーオーダー ── 既存の素材やパーツを好みに合わせて作る ── なら可能である。

そう考えるとボーダーの8種類までの「部品(パーツ)」を組み合わせて使用者にとって最善の武器(トリガー)を作る方式は非常に画期的であり高い効果を生み出すものであり、そして「仮想空間」においてトリオンを消費せずにいくらでも訓練のできるシステムがあると聞けばトリガー後進国の玄界(ミデン)が短時間で軍事大国相手に充分な戦いを見せたのも頷けるとサーヴァとテスタは深く感銘を受けていた。

お互いにトップシークレットであるトリガー技術を断片的とは言いながらも教え合うのだから、相手のことを信頼していて自国に危険が及ばないと確信しており、同盟締結に後ろ向きな議員を説き伏せることができたなら、キオンとボーダーは最も理想的な形で友好関係を築くことができるだろう。

 

 

「儂も現役を退く時期が来たようだな」

 

突然サーヴァが思い出したように言った。

衝撃的な発言だが、それを聞いたテスタが特に驚くこともなくサーヴァに訊く。

 

「そうですね。あなたが国の英雄としてここまで軍を率いてきてくれたことには感謝しています。これからはご自身の納得いく人生を送ることができるよう、国としては充分な年金を支給してあなたの暮らしを支えることにしましょうか」

 

「それはありがたい」

 

「しかしそんなことを考えるようになったのは、やはりツグミとの模擬戦の結果がきっかけですか?」

 

「ああ。光の鎧(インドゥエリス)を使用しても相討ちが精一杯なのは事実。これまで隠していたが儂はもう実戦では役に立たぬ。昼間の模擬戦でも時間が長引けば儂の負けだった。長くて15分、全力で戦えば5分が限界なのですよ。だから積極的に攻撃をすることもできず、ツグミくんの様子を見ながらの戦いになってしまったというわけです」

 

「やはりそうでしたか…」

 

「総統閣下はお気付きだったのですね。68にもなって武器(トリガー)を使うこと自体が奇跡的だというのに、今を盛りとしている若者相手に勝とうなどとは所詮無理なこと。しかし伝説のトリガー使いだと称され多くの兵士から期待をされていましたから、もう戦えないなどとは口が裂けても言えません。いつか無様な姿を見せて失望されるよりは今日の模擬戦を人生最後の戦いとして幕を引きたいと思ったのです」

 

「……」

 

「儂が軍人になったのは他国を侵略するためではなく祖国キオンの国土と同胞を守るためです。ですがもう儂が戦う必要はありません。大勢の若者が儂と同じ気持ちで軍人として働いており、それに戦争によって物事を解決するという愚かな手段が不要となる時代が来たのですから。同盟締結が無事に成立したならば儂らは自由に玄界(ミデン)()()()行くことができるようになるという話ではありませんか。ならばさっさと引退して自由の身になり、玄界(ミデン)の景色を見たり美味しいものを食べたり、これまで経験のできなかったことをしてみたいと思っています」

 

サーヴァは穏やかな顔でそう言った。

彼が軍に入隊したのはまだキオンが積極的に他国へと侵攻して支配エリアを増やしていった時期である。

とにかくトリオン能力の高い者はすべてトリガー使いとして従軍させられ、過酷な戦闘を強いられていた。

しかし兵士の多くは「祖国と同胞を守るため」に戦い、侵略戦争を是としていなかったのだが、それを公言すれば思想犯として強制収容所送りとなってしまうために黙って上層部の命令に従うしかなかったのだった。

つまり望まぬ戦いを何十年も続けてきたのだが、それがテスタの総統就任によって状況は一変する。

彼は積極的な侵略行為を望まず、これまで蓄えた軍事大国の看板を使って「従わないと戦争になるぞ」と相手国に圧をかけて傘下に入る国を増やしてきた。

だからもう何年も前から他国へ軍を派遣するようなことはなくなっており、若い兵士たちは前線で戦うことなく毎日を訓練に明け暮れているのだが、不平不満の声は上がらなかった。

それは彼らが入隊した理由が「祖国と同胞を守るため」であり、それが叶えられているのであれば充分なのだ。

自分たちの役目は他国に侵攻してその国の住民を痛めつけることではなく、軍事大国キオンのイメージを維持し続けることだと認識しているからで、これこそがテスタの考える最善のやり方であった。

そしてテスタが国家元首であれば安心だと考えたサーヴァは引退の機会を伺っていたのだが、ツグミとの模擬戦がちょうどいいと判断したのだった。

 

ずっと黙ってふたりの話を聞いていたツグミは思った。

 

(どの国の人間だって好き好んで戦争をしたいわけじゃない。でもトリオンや食料など生きていく上で必要なものが欲しいとなれば他人から奪ってでも…という考えに及び、奪われる側だって黙って渡すはずがないから戦いになる。自分と家族と友人、そして財産や国土を守るためには強い力が必要。だけど敵となる近界民(ネイバー)だってそれ以上の力で攻め込んでくるんだから、戦うことを選ぶ以上はいつまで経っても終わらない。そんな負のスパイラルを断ち切るためには誰かが現状をおかしいと感じ、他に手段があるだろうと考える人が必要で、幸いキオンにはテスタ・スカルキという賢い指導者が現れた。影響力のある大国の元首の言葉なら彼の言葉に耳を傾ける国も多いだろう。逆にアフトのハイレインのように武力によって他国を支配しようという考えを持つ人間に『それは違う』と異論を唱えようとすれば武力で押さえ付けられて、最悪の場合は命を失うことにもなりかねないから黙ってしまう。ハイレインがボーダーに対して謝罪をするという態度を示したのは意外だったけど良い傾向だと思う。ランバネインがどのように報告したのかはわからないけど、ハイレインが多少でもこちらの言葉に耳を傾けてくれればいいな…)

 

アフトクラトルのことを考えたものだから、ツグミは大事なことを思い出した。

 

「閣下、総司令、お尋ねしたいことがあるのですがよろしいでしょうか?」

 

テスタとサーヴァが同時にツグミの顔を見て、テスタが彼女に訊いた。

 

「どんなことだい? 答えられるものなら何でも教えてあげよう」

 

「ではお言葉に甘えまして。おふたりは『夜の雫(オミクレー)』という名前の(ブラック)トリガーをご存じではないでしょうか?」

 

テスタはわからないという顔をするが、サーヴァは顔を顰めて低い声で言った。

 

「なぜそんなことを訊くのだ?」

 

ツグミはハイレインがアフトクラトルの国王として正式に謝罪をし、その詫びの証という意味で夜の雫(オミクレー)をボーダーに譲渡したといういきさつを話した。

 

「なるほど…。アフトの王家の管理となっていたのか。…いや、詳しいことは儂も知らないのだが、今から50年くらい前の儂がまだ威勢のいい若造だった頃だが、キオンの友好国だった国と侵略してきた国との戦争でその名を冠した(ブラック)トリガーが使用されたと耳にした。しかしキオンが直接関わった戦争ではないし、その友好国だった国ももうないから大した情報は得られないだろうな」

 

「そうですか…」

 

「軍の公式文書に記録が残されているかもしれないから、明日にでも保管庫に行って調べてやろう」

 

「お忙しいところ、どうもありがとうございます」

 

「ただしきみの期待に応えられないかもしれないがな。しかしそんな古い(ブラック)トリガーの名を再び聞くことになろうとは思わなかった」

 

「ボーダーでは夜の雫(オミクレー)を使うようなことにはならないと思うのですが、そのいきさつがちょっと気になるものですから」

 

自分の仮説が正しいのであれば、50年前にはすでに夜の雫(オミクレー)が戦場で使われていたということであるから、半世紀も前に玄界(ミデン)から近界(ネイバーフッド)へ人が渡っていて、そのうちのひとりが何らかの理由で(ブラック)トリガーになったということ。

そして近界(ネイバーフッド)へ行ったのがひとりだけとは限らないので、何十年も救出を待っている人がいるかもしれないという想像もしてしまう。

過酷な環境だから全員が生存しているとは思えないが、だからと言って無視はできない。

自らの意思で渡ったのならともかく、拉致被害者であるならそれが第一次近界民(ネイバー)侵攻の被害者でなくとも救出計画に含めるべきであるとツグミは考えているのだ。

 

(わたしの仮説は外れた方がいいに決まってる。でも近界(ネイバーフッド)では使用されないドッグタグの形の(ブラック)トリガーとなればこんな仮説を考えてしまうのも無理はないよね。今はまだ夜の雫(オミクレー)の正体すらわからない状態だけど、何か手掛かりが掴めればできることがあるかもしれない)

 

ツグミは自分の仮説が外れることを祈りながら、思考の世界から再びテスタとサーヴァとの歓談に戻るのだった。

 

 

 

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