ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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428話

 

 

南門の外にはツグミが驚くものが用意されていた。

 

「これは…トリオン兵、ですか?」

 

「そうです。騎乗用のトリオン兵・ヒポス、通常は騎乗するのですがこうして貴人用の馬車を繋いで走らせることもあります」

 

ヴィザの説明を聞きながら頷くツグミ。

それはまるで馬車のような乗り物なのだが、馬がトリオン兵だという点が近界(ネイバーフッド)らしい。

玄界(ミデン)の馬よりもひと回り大きいサイズで、形はほぼ馬であるからモデルは馬であることな間違いなさそうだ。

そして形状は「クーペ」と呼ばれるふたり乗りの4輪箱型馬車に良く似ている。

馬型トリオン兵(ヒポス)が引く馬車を操るのは年齢が30代後半くらいの男性で、国賓を王城に招く際の専用の御者であるらしい。

つまりツグミは国賓扱いということになるのだ。

もっとも監視付きというのだから「大切に扱わなければならないが、非常に面倒な客」と認識されているのがわかる。

 

「ツグミ嬢、お乗りください」

 

ヴィザが恭しくドアを開けてツグミに乗るように促した。

すると彼女はヴィザに訊く。

 

「わたしのことはランバネインさんからあまり慇懃な態度でなくてもかまわない指示されているかと思います。ハイレイン陛下からは失礼のないよう丁重な扱いをするよう命じられているかと思いますけど、あなたはどちらの言葉に重きを置きますか?」

 

突然の質問に唖然とするが、すぐに平静を取り戻して答えた。

 

「当然、私の仕える主はただひとり。主の言葉こそが絶対です。…今の主は先代と比べると威厳や貫禄は少々足りないのですが、ベルティストン家の当主として最も大切なものを持っていらっしゃる。私は領民たちの中で彼らと共に喜んだり悲しんだりする人間味のある主のことを臣下としてお慕いしております」

 

そう言ってから付け加える。

 

「今の話はランバネイン様とハイレイン陛下には内緒にしておいてください。それと私は彼らがいつまでも仲の良いご兄弟であってほしいと心から願っています。子供の頃にご両親を亡くされ、お互いが唯一の肉親なのですから」

 

「はい、わかっています。…わたしはこの世で一番の悲劇は肉親同士の誤解によるいがみ合いだと考えていますので、おふたりが…いえ、あなたを含めてアフトの民が哀しむようなことには絶対にさせません」

 

「この世で一番の悲劇は肉親同士の誤解によるいがみ合い…ですか?」

 

「はい。親子だから、きょうだいだから理解してくれるはずなのにわかってくれないという身勝手な理由での争いは耐えません。わたしは自分以外をすべて他人だと考え、自分のことを理解してもらおうと、そして相手の言うことを理解しようと努力します。肉親だからとか肉親なのにという()()()がわたしは嫌いです。肉親であろうとも自分とは違う人間であることを前提として接することでそこに少々の遠慮と礼儀が介入するために無用な諍いは起きません。そしてお互いに誤解をしていたのだと理解できれば、今度は肉親だからこそ相手を思い遣る気持ちが関係を改善してくれます」

 

「……」

 

「すみません。なんだかまた余計な話をしてしまいました。お話しはこれくらいにしておかないといけませんね。ハイレイン陛下をお待たせするわけにはいきませんから」

 

そう言ってツグミは馬車に乗り込み、それに続いてヴィザが乗ってドアを閉めた。

向かい合って座るとすぐに馬車が走り出す。

 

「王城までしばらくかかります。眠っていてもかまいませんし、お話しをしたいのであれば私がお相手させてもらいますがいかがでしょう?」

 

「では政治に関わらないこと…たとえばヒュースが玄界(ミデン)に置き去りにされてからディルクさんと再会するまでのことでもお話ししましょうか。彼にとって身を切られるように辛い毎日だったはずですが、案外玄界(ミデン)の暮らしやボーダーの人間と馴染んで楽しんでいたみたいですから」

 

「それは面白そうですね。ぜひ聞かせてください」

 

 

「ここだけの話」ということにして、ツグミはヒュースが玉狛支部のメンバーに心を開いていく様子や、玄界(ミデン)の料理に並々ならぬ興味を示したことなど少々の誇張を交えて面白おかしく話したのだった。

ヴィザはそれをニコニコしながら聞いていたが、特に京介に雷神丸のことを犬だと嘘を教えられて騙されていたエピソードが気に入ったようで、それをきっかけに彼が動物を飼うことが好きだという話になり、それぞれの国の動物のことを話題として盛り上がった。

さらに彼女が7歳の時から育ての親に師事して剣の修行をしていたことを知ると、ヴィザはますます彼女のキャラクターに興味を持つようになる。

そうやって2時間ほど経ったところでツグミたちの乗る馬車は首都に到着したのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

近界(ネイバーフッド)最大級の軍事国家アフトクラトルの首都ともなると堅牢な城壁で囲まれた巨大な要塞都市だろうとツグミは想像していた。

馬車の窓から少しだけ身体を乗り出すとフランスのモンサンミッシェルに似ている威風堂々たる姿が遠目に見え、その時には感慨深いものがあったものの近付くにつれて違和感を覚えた。

その違和感が何なのかすぐにはわからなかったのだが、門を抜けて都市内に入るとその原因に気が付いたのだった。

城とは「王を入れる器」のようなもので、いくら器が立派であってもその玉座に相応しい人間が不在であれば畏敬の念 ── 圧倒的な存在である人物を畏れ敬う気持ち ── を抱きようがない。

神社仏閣などを参詣する時に感じる厳かな雰囲気はそこに神や仏がいるからで、尊い存在があるからこそ自然に謙虚な気持ちになれるというもの。

逆に言えば国宝級の歴史的建築物を見た時に感服はするもののそこまでで、建物に対して恐れ多いという気持ちになることはないのと同じだ。

アフトクラトルの歴代の王がどのような人物であったのかはツグミには知る由もないが、少なくとも現王がこの城の主として相応しい人物とは感じられない。

だからこれから謁見する相手に対しても畏れ敬う気持ちにはなれず、逆に緊張したりプレッシャーで震え上がることもなく自然体でいられるとツグミにとって追い風となっていた。

 

王城の正門で馬車を降り、ヴィザと並んで中へ入って行くツグミ。

要所要所には衛兵らしき人間が立哨しているのだが、彼らから人間特有の温かみが感じられないものだから最新型の人型トリオン兵かと思うほどである。

 

(同じ衛兵でもタルサさんやカトゥスさんみたいに任務を楽しんでいるという雰囲気がない。あの人たちは自分が役目を果たすことで家族や友人・仲間たちが安心して暮らせるのだという自分の仕事にやりがいを感じていたりプライドを持っているけど、ここにいる人たちにはそれが感じられない。事情はわからないけど、少なくとも積極的に任務に就いているとは思えないわね)

 

いくらディルクやランバネインがボーダー寄りの考え方を持ち、ツグミに協力をしてくれるといってもアフトクラトルの情報を積極的に教えてくれるわけではない。

彼女が質問すれば答えてくれることは多いが、絶対に教えてくれないこともある。

特に軍事に関わることは知らないことはもちろん知っていることでも口外はせず、察してほしいと言わんばかりの表情で話題を変えようとしてしまう。

ツグミも相手の事情は理解できるし自分でも同じだからそれ以上追求はしないのだが、つい感じたままを口に出してしまった。

 

「ここの衛兵さんたちは王城(ここ)の勤務に不満でもあるのかしら?」

 

するとヴィザが訊き返した。

 

「それはどういうことですかな?」

 

「だって王城での勤務なんて兵士たちの中でも優秀な人たちが選ばれていると思うんですが、それなのに何だか表情が暗いし、嫌々ながら働いているという感じさえします。ディルクさんの家来のみなさんなんて生き生きとして仕事を楽しんでいるように見えました。だから少し疑問に感じただけです」

 

「…まあ、それぞれ事情がありますから。ひとつだけお教えしますが、王城勤務の兵士は代々の王家に仕える人間であり、特定の領主に仕える兵士とは違うのです。王の交代があってまだ時間も経っていませんので、心の中は複雑なのでしょう」

 

ヴィザはそれだけ言って黙ってしまった。

 

(やっぱり察してくださいということなのね。前王のことを慕っていた兵士であればハイレインのやったことに対して我慢ならないはずで、だからといって命じられた役目を果たさなければ給料を貰えないし、家族がいれば彼らを養っていけなくなるから我慢するしかない。前王も他の有力領主と一緒にクーデターを企んでいたというから処分されても仕方ないだろうけど、家臣たちからすればハイレインさえいなければと逆恨みもするわよね。せめてあの男が自分の野心のために他人の気持ちを踏みにじるようなことをしなければこれ以上悪化することはないだろうけど、この状況を本人はどう感じているのかしら?)

 

そんな想像をするが、すぐにくだらないと気が付いた。

 

(実の弟ですら心が離れていってしまいそうな状態だもの、他人のことになんて気にも留めていないわよね。周囲の人間に気配りができるような人間だったら、わたしも苦労しない。…ううん、そうやって勝つためとはいえ自ら大事な駒をどんどん捨てていって(キング)だけでチェスの勝負をしているような男だもの、おかげでわたしにも勝てるチャンスが巡ってきたと感謝しなきゃ)

 

 

 

 

「ここでしばらくお待ちください」

 

ヴィザはツグミにそう言い残して部屋を出て行った。

 

ツグミが案内された部屋は国王との謁見に臨む貴族たちの控えの間である。

広さは20平方メートルくらいで、中央にソファとテーブルが置かれているだけの簡素な部屋だ。

おまけに窓はなく、ここにベッドがあればそのまま貴人用の独房として使えそうだ。

 

(控えの間ということだけど、面会する前に相手の様子を探ろうって魂胆なんだろうな。普通の人じゃわからないだろうけど、部屋の中にいくつか監視カメラがあるもの)

 

直径が5ミリほどのレンズを持つカメラが天井の四隅にある飾りや、花瓶や絵画などのインテリアの隅に紛れ込ませるようにセットしてある。

意識して見ないと絶対に見付けられそうにないものだが、ツグミならちょっと()()を発揮すれば容易に見付けられるものだ。

 

(こっそり見られているというのはあまり気分のいいものじゃないけど、こうでもしなきゃ会えない相手なんだから仕方がないよね…)

 

ツグミは見られているとわかっているのでおとなしくソファに腰掛けて待つことにした。

ボーダーのノーマルトリガーとミリアムの(ブラック)トリガーは馬車に乗っている間にヴィザに預けてあり、生身の身体で武器になるようなものは一切所持していない。

これは「アフトクラトルの国王に謁見を()()()()()()()」立場なのだから当然のことである。

もちろん卑屈になる必要はないが、無用なトラブルを避けるためには相手の望む恭順な態度を示すのは必要だ。

アフトにおいてはアフトのルールに従うべきで、ハイレインがツグミの()()()をするのであれば好きにさせるしかない。

 

 

 

 

同時刻、ハイレインは執務室で控えの間にいるツグミの様子を観察していた。

 

武器(トリガー)を取り上げたというのにずいぶんと余裕のある態度だな。何を企んでいるのか知らぬが、俺をランバネインのように懐柔できると思うなよ)

 

ランバネインが謝罪のためにボーダーへ赴いてからまだひと月も経っていないのだが、その間ずっとハイレインは不機嫌であった。

なにしろランバネインが「玄界(ミデン)は良いところだ。敵対するよりも仲良くなって玄界(ミデン)の文明を積極的に取り入れるべきだ」と玄界(ミデン)贔屓になってしまったからだ。

ハイレインにとって玄界(ミデン)とはトリオン能力者の()()()だと考えていて、トリオン技術においては後進国であるという認識は今でも捨てきれずにいる。

たしかにトリオン技術に関してボーダーはアフトクラトルどころか近界(ネイバーフッド)の普通の国々の足元にも及ばないのは事実だ。

しかし「トリオン至上主義」の考え方に凝り固まっているからこそボーダーの本質に気付くことはなかった。

そのボーダーの本質とは専守防衛で、アフトクラトルのように積極的に他国に侵攻することはないが、三門市に攻め込んでくる近界民(ネイバー)に対しては徹底的に抗戦するというもの。

ハイレインは事前にボーダーの調査はしていたものの、隊員たちの心情 ── 何のために戦うのか ── を知らずにいたからあのような無様な撤退を強いられる結果となったのだ。

そして本部基地で暴れたエネドラが職員6人を殺害し、C級隊員32人を拉致するという非道な結果に泣き寝入りするような根性なしではなかった。

だからこそ敵の本拠地へと乗り込んで無事に目的を果たすことができたのであり、そのこともハイレインにとっては屈辱でしかない。

おまけに最大のライバルであるキオンに働きかけて手を結び「アフトクラトルに敵対しようと考えている」と勘違いをしているものだから腸が煮えくり返って収まらずにいた。

それでもこのままではマズイと考えて先の侵攻の謝罪をして、ボーダーとキオンの結びつきを邪魔しようと画策したものの、自分の代理として送り込んだランバネインが()()()()篭絡されて帰って来たという始末。

ここでボーダーとの和解を諦めてボーダー・キオン連合との全面戦争に突入するという道もあると考えたが、それは最終手段であって最後に一度くらいはボーダー側の言い分を聞いてやろうと考え直し、ようやくツグミはハイレインとの謁見に臨むことが可能となったのだった。

元々ハイレインはツグミ個人に興味を持っており、ゆっくりと話をしてみたいとも考えていた。

だから彼女ではなく別の人間がボーダーの代表であったなら謁見は叶わなかったであろう。

 

(ランバネインの奴は玄界(ミデン)の料理をベタ褒めしていた。食材が豊富で、食事を楽しむ文化があると言っていた。腹が満たされればそれで充分だと考える輩が多い中、玄界(ミデン)では食事ひとつにもこだわりがあって、それがより良いものを求める原動力となる…らしい。あのランバネイン(馬鹿)を取り込むのは簡単だっただろうが、この俺はそうはいかぬ。なにしろ今のあの娘には武器(トリガー)どころか貢ぎ物もない手ぶらの状態だ。ここには味方もおらず、援軍は来ない。それで何を使って俺を説き伏せようとするのだ?)

 

ハイレインはツグミのことを歓迎してはおらず、むしろ目障りな存在だと考えている。

しかし興味深い人間であることは間違いなく、前回の武器(トリガー)を使っての戦いでは中途半端な終わり方をしてしまったことで再戦を期待していた。

彼の想像していたような形ではないが、やっと一対一での対戦が叶うとなれば怒りや憎しみよりも自分が納得できる形で完膚なきまでに叩き潰してやろうと張り切るのは無理もない。

 

10分ほどツグミの観察をしていたハイレイン。

しかし彼女が緊張もせず、敵の本拠地で孤立無援だというのに余裕を見せていることから精神的にプレッシャーを与える作戦が効果なしと判断する。

 

「よかろう。敵が優秀で強いほど屈服させた時の感動は大きいからな」

 

そう呟くと机の上に置かれていた呼び鈴を鳴らした。

すると隣室で控えていたランバネインがすぐに登場する。

 

「ヴィザと客人をここに連れて来い。始めるぞ」

 

 

◆◆◆

 

 

国王が国賓と謁見する際には「謁見の間」という公式な場で行うことが通例である。

しかし今回のケースは例外中の例外で、ツグミの正体が「ボーダーを代表してやって来た大使」であることが公になると面倒なことになると考えたハイレインは家臣や城の使用人たちに「近界(ネイバーフッド)の某国の皇女が新王就任のお祝いを言うための訪問」であってあまり大げさなものにしたくはないから非公式なものとする旨を伝えてあった。

当然のことながらツグミがエウクラートンの皇女であることをハイレインが知るはずもなく、これは偶然のことである。

 

 

「ようこそ、ツグミ・キリシナ。アフトクラトル国王ハイレイン・ベルティストンは貴女を歓迎する」

 

ハイレインはそう言ってツグミの正面に立った。

ツグミは隙のない完璧なお辞儀(カテーシー)をして挨拶をする。

 

「お久しぶりでございます、ハイレイン陛下。遅ればせながら国王ご就任のお祝いを申し上げます」

 

「フッ、心にもないことを言うことはない。ボーダーにとって俺は憎い敵ではないのか?」

 

「いいえ、()()()()陛下が国王になられたことを心から喜んでおります。まったく顔も知らないどこかのご領主が王になれば、こうして謁見などそう簡単に叶わなかったはず。敵同士という最悪の出会いでしたが、こうして互いに和平への道を歩もうというきっかけとなったのですからあれも運命であったのでしょう。犠牲となった方と遺族の方々には申し訳ないと思いますが、かつて敵であったからといって永遠に憎み続けなければならないという理由にはなりません。もちろんここでボーダーとアフトクラトルが和解したところで死んだ者は生き返らず、遺族の哀しみが癒えるわけではありませんが、これ以上の犠牲者を出さないで済むのなら意義のあることだと思います」

 

「ずいぶんと綺麗事を言うのだな。俺はもっと正直で自分の内面を相手にぶつけ、相手の懐に飛び込んでいく人間かと想像していたが違っていたようだ。俺はそんな体裁の良い言葉よりも本心が聞きたいと思ったのだが…少々買い被っていたようだ」

 

残念そうな顔で言い放つハイレイン。

するとツグミはそれ以上に残念だと言わんばかりの表情になって言った。

 

「わたしも残念です。いくら陛下がアフトクラトルの国王というこの国の中で一番偉い人物であってもそれは単なる肩書きにすぎず、話し合う相手としては一地方領主のランバネインさんにも劣るということなんですから」

 

「何だと?」

 

「わたしはこの国の未来を決めることができる方と話ができると思って楽しみにしてまいりました。でも最高権力者だからといって必ずしも指導者としての資質を持ち合わせていないとわかってガッカリです」

 

ツグミのバカにするような態度にハイレインは怒りに身体を震えさせた。

 

「俺を怒らせたいのか?」

 

「いいえ。わたしが危険を承知でここまで来たのはアフトクラトルの未来を憂う友人たちが安心して暮らせる国になるようちょっとしたお手伝いができるのではないかと思ったからです。それなのに自分の想像と違っていて、わたしの言っていることが綺麗事だからとそれだけでわたしという人間を否定なさろうとするのですから、これでは話し合いに入る前に頓挫してしまいます。賢王のすることではありません」

 

「……」

 

「それに綺麗事を言うわたしを偽善者だと決めつけて、そんな相手とは話にならないとおっしゃるのでしょうね? ええ、わたしは偽善者です。偽善とは損得勘定や見返りを求め、何らかの思惑を持った上で善行をすることです。でもそれのどこが否定される理由になりますか? 人間なら誰でも損得勘定で行動し、その行動の結果に多少なりとも見返りを求めます。自分の目的を達するために偽りであっても善行をすることをわたしは悪いと思いません。むしろ見返りを求めずにすべての人間に対して無償の施しをする人間の方が胡散臭いと考えますが、いかがでしょうか?」

 

まだ挨拶の段階だというのにハイレインに対して喧嘩を売るような態度をするツグミだが、彼女はこうすればハイレインは必ず()()()()()()()と考えて芝居を打っていた。

ここで会見が決裂すれば損をするのはアフトクラトル側である。

ツグミを人質にしてボーダーと全面対決をするとなればアフトクラトルはキオンをも敵に回すのは確定している。

そしてボーダーが32人の雛鳥を全員無傷で取り返し、遠征隊にも犠牲者はひとりも出ていないという事実はボーダーの底知れない恐ろしさをハイレインに突き付けた。

もしツグミを人質にしてもまた奪い返される可能性は高く、まだ迎撃体制の整っていないアフト本国での戦いは圧倒的に不利となる。

それがわからないほど馬鹿ではないとハイレインのことを評価していて、できるかぎり穏便に済ませたいと思うのはアフトクラトル側であるから多少煽ったところで問題はない。

むしろハイレインが握っている主導権を奪うことができれば話を進めやすいと、そこまで考えて発言をしているのだ。

事実、ハイレインはツグミに反論できずにいた。

 

「陛下に対して不遜な発言をしましたことお詫び申し上げます。しかし発言を取り消すことはいたしません。わたしは覚悟を決めてここにまいりました。もちろんそれは身命を賭してという意味で、目的が達成できたのであればこの身がどうなろうともかまいません…などと言うとまた綺麗事をとお思いになるでしょうね。目的が達成できたのであればこの身が…という部分、これは嘘です。わたしの行動の原動力は自分と自分の手の届く範囲の家族や友人が幸せになるためで、自分を犠牲にしてまで他人の幸福を求めるなんてことは一度も考えたことはありません。同時に自分の幸せのために他人を犠牲にすることを正義とは考えません。…と、ここまででわたしという人間がどのような考え方で行動し、一筋縄ではいかないことはおわかりになっていただけたことでしょう。さあ、本題に入りましょう。陛下はお忙しいお立場なのですから」

 

ふたりの様子を見守っていたランバネインとヴィザはどちらも「ツグミが一歩リード」と感じていた。

 

 

 

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