ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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437話

 

 

「ツグミくん、ちょっといいかな?」

 

隊室のドアをノックする音がしたものだから、ツグミはすぐにドアを開けて来客の顔を見た。

 

「唐沢部長がわたしの隊室へいらっしゃるなんて珍しいですね」

 

「実はお客様をご案内して来ただけで、おれは()()()なんだ」

 

「お客様って、どちら様ですか? …あ、もしかしたら!?」

 

唐沢が「客」を連れて来たとなればボーダー外の人間であるが、無関係な人間が本部基地に入館することはありえないので、そうなると自然にスポンサーだという結論に達する。

それが誰なのかが問題だが、大規模侵攻の後に唐沢の営業に同行して何人ものスポンサーと会っており、そのほとんどが彼女のファンになっているために見当が付かないのだ。

しかし唐沢が彼女を呼び出すのではなくわざわざ隊室へと連れて来たとなると該当する人物はたったひとりしかいない。

 

「久しぶりだなぁ、ツグミくん」

 

「須坂さん、お久しぶりです。お元気そうでなによりです。どうぞ中へお入りください」

 

ツグミの「お元気そうで」という言葉に唐沢と須坂は顔を見合わせて苦笑し、須坂、唐沢の順で隊室へと入って行く。

 

「こんな場所ですから大したおもてなしはできませんが紅茶を淹れますので少々お待ちください」

 

簡易キッチンで湯を沸かして紅茶を淹れる作業をしながら、ツグミは須坂と唐沢に声をかけた。

 

「ご用があればわたしがそちらに伺いますのに、どうして本部までいらしたんですか? …ああ、城戸司令にご用があって、わたしがここにいると聞いて寄ってくださったんですね。わざわざすみません」

 

ツグミがそう言うと、須坂が口ごもりながら答える。

 

「実はな…儂はボーダーの大口のスポンサーという立場を利用して狡いことをしているのだよ」

 

「狡いこと…ですか?」

 

「ああ。きみには儂の息子夫婦と孫娘が第一次侵攻で近界民(ネイバー)にさらわれたという話はしてあったはずだが覚えているかな?」

 

「はい。お孫さんがわたしと同い年だということで、わたしには特に親切にしてくださいました。とても感謝しております」

 

「そのことなんだが、儂は民間人でありながらボーダーの市民救出計画の支援をしているということで、その進捗状況を一部だが知らされているのだよ。特に儂の場合は拉致被害者の家族ということで、本来ならまだ公表できない内容まで城戸司令から聞いている」

 

「でも城戸司令が教えてくれたのなら別に狡いということはないと思います。別にそのせいで誰かが損をしたり被害を受けるのではないんですから」

 

「いや、それはそうなのだが…」

 

「…?」

 

須坂は何かを伝えたいのだろうが、それがとても言いにくいことのようで言葉を詰まらせてしまう。

すると唐沢が須坂に目配せをして「自分に任せろ」といった感じでツグミに言った。

 

「ツグミくん、おれが代わりに話そう。きみが須坂氏と最後に会ったのはアフト遠征が無事に終わった直後だったと思う」

 

「はい。7月の上旬で、その後はいろいろと忙しくてお見舞いに伺うことができませんでした。…そういえばあの頃は車椅子でしか移動できなかったというのに、今ではご自分の足で歩いていらっしゃる。ずいぶんお元気になられたのですね」

 

ツグミは笑顔でそう答えるが、すぐに表情を曇らせた。

 

「…いいえ、そうじゃありませんね。須坂さんが病気の治療のために会長職を辞したのが4月。5月には入院されて治療に専念していらっしゃいましたが、経過はあまり良いものではなかったはず。癌を患っていて医師から長くて3年、早ければ半年だと聞かされたのは2月でしたから、今の須坂さんのお元気な様子は喜ばしいことですが尋常ではありません。根本的な解決策ではない以上は単なる気休めでしかありませんが、それでもお元気な姿を見られるのは嬉しいです。そしてご家族が戻って来るのをどんなことをしてでも待っていたいというお気持ちは理解できます。ですからそれがお金を積んで特別待遇を受けたからと卑屈になることはありません」

 

唐沢はツグミがいくつもの状況証拠を積み重ねて事実を導き出す()()を持っていることを知っている。

スポンサーと会う時に彼女を同行させても安心していられたのは、事前に相手のプロフィールを教えておくことで相手に相応しい会話をすることができ、相手から好印象を抱いてもらえるからである。

今も唐沢は自分で説明しようかと思ったのだが、その前に彼女は須坂の様子から事実を導いてしまった。

 

(一代で大会社を築き上げ、資産数十億の素封家となり地元の名士として様々な分野に大きな影響を与える存在となったこの人のことを誰もが羨ましい人生を送ってきたと思うだろう。でも息子夫婦と孫娘を近界民(ネイバー)にさらわれ、本人は病で余命幾ばくもない。家族と一緒に暮らすというささやかな願いさえ叶わないんだもの、この人は自分の寿命が間もなく尽きようとしていることがとても悔しいはず。市民救出計画が発表され、もしかしたらもう一度会えるんじゃないかと期待したくなるけど、この人には時間がない。だからボーダーと裏取引をしたんだと思う。それを隠しておくことはできるのに、あえてわたしにその話をしようというんだから、きっとわたしにだけは嘘をつきたくなかったのね)

 

ツグミの表情の変化と言葉から、唐沢も彼女が気付いたのだと察した。

 

「やはりきみなら気付くと思ったよ。それにきみには須坂氏の身体がトリオン体であることも見えているはずだからな」

 

「はい」

 

「須坂氏はきみには内緒にしておきたくはないと言って、月2回の健康診断のついでに寄ったんだよ」

 

「そういうことでしたか…。それでいつから?」

 

すると須坂が自分で話すべきだという顔で言う。

 

「きみが近界(ネイバーフッド)へ行っている8月の中頃だ。この頃になるとベッドから起きられなくなり、このまま何の役にも立たない治療を続けるのがバカバカしくなってきてね、いっそ終末期医療(ターミナルケア)に切り替えようかと考えていたんだ。そこで顔の広い唐沢くんにどこかの施設を紹介してもらおうかと相談したのだが、ひとつの提案を出されて即答した」

 

それはトリオン体に換装することによって日常生活に支障のない肉体を手に入れるというもの。

前例として那須玲がボーダーの研究に協力するという形で入隊をしているが、民間人としては初めてのケースである。

トリオンを使わず、なるべく動かず定期的に生身への栄養補給のための食事をとるという状態を保つことができれば、基本的にずっとトリオン体のままでいられるということは解明されており、安全性はある程度保証されている。

しかし被験者を公に募ることはできず、おまけに遠征にかかる経費が膨大なものとなるためトリオン体の研究は後回しにされてしまい、トリオン技術の医療面への転用はなかなか進まずにいた。

そこに須坂が被験者となる話が持ち上がり、ボーダーは彼に研究費の援助を申し出てお互いに妥当だという金額で()()をしたのだった。

さすがに金額まではツグミに教えることはできないということだが、須坂の個人資産や通常の防衛活動への資金援助の金額を考えればある想像がつくというもの。

今の彼なら全財産を投じてでも惜しくはないだろうし、それが家族と再会するために須坂がボーダーに「投資」した金額なのである。

 

「こうして自由に歩けるようになったのはいいのだが、周囲から怪しまれないように隠しておくのは大変だ。このことを知っているのはごく一部のボーダー関係者と、儂の身の回りの世話をしてくれる使用人と主治医だけだからな」

 

「ですがトリオン体に換装している間でも癌細胞はゆっくりと進行していて生身の身体が蝕まれていくのは事実。それにトリオン器官で生み出されたトリオンを使用するのですから、もしトリオン器官に問題が生じたら換装することもできなくなってしまいます。ご無理はなさらないようにしてください」

 

「わかっておる。…しかしひと目でいいから家族に会いたい」

 

心からの叫びを搾り出すかのような須坂。

そんな彼にツグミは近付き、ソファに腰掛けている彼の足元にしゃがむとその両手を握って力強く言った。

 

「わたしが連れて帰ることはできないかもしれませんが、今わたしは遠征に向かう隊員たちが少しでも安全に任務を遂行できるようにいろいろな人に働きかけています。まだ詳しいことはお話しできませんが、ボーダー(わたしたち)を信じて待っていてください」

 

「あ、ああ…」

 

須坂の目から涙がこぼれ落ちた。

彼にとってツグミの言葉は孫娘のそれと同じで、「お祖父ちゃん、必ず帰るからそれまでわたしを信じて待っていてね」というように聞こえたに違いない。

 

 

それから30分ほどお茶を飲みながら他愛のない話をし、ツグミは須坂を来賓用玄関で見送った。

その時に彼は「やれやれ、ここから先は余命いくばくもない老人を演じなければならん。面倒だがな」と言って苦笑しながら車に乗り込んだのだが、その様子を見ながら唐沢がツグミに小声で言う。

 

「本人にも告知はしてあるんだが、あの人のトリオン器官がどれだけ機能を維持できるかはわからない。ああやって平気なフリをしているが、心の中では戦々恐々としているに違いないんだ。きみが忙しいことは良く承知しているが、できることなら見舞いに行ってあげてほしい。その時にはおれが送り迎えをするから」

 

「はい。…新たな被害者を出さないのはもちろんのこと、第一次侵攻を含めた拉致被害者全員の行方を突き止めて生還させるのがボーダーの使命。そしてずっと家族の帰りを信じて待っている須坂さんのような人に本当の笑顔を取り戻させるのもわたしたちの役目だと思っています。あれから5年半も経ってしまいました。でも拉致被害者の行方がある程度まで判明したんですから一刻も早く連れ戻したいです」

 

「ああ」

 

須坂の乗った車が視界から消えると、ツグミと唐沢は本部基地内へと戻ることにした。

 

「さっきの話の続きですが、市民救出計画を早く進めて須坂さんのご家族だけでなく他の被害者も救出したいですが、だからといって今のボーダーの戦力だけでは心許なく、未知の近界民(ネイバー)と戦うことは極力避けて、対話と交渉によって誰も傷つかず納得する形で解決させたい。第1回目の目的地はヒエムスに決まりましたが、アフトやキオンほどではないにしてもヒエムスは軍事に力を入れて他国に侵攻しては国力を高めてきた国です。こちらが出方を間違えたら即戦闘にもなりかねません。遠征に参加する予定のA級隊員たちはやる気満々のようですが、わたしはそれを危惧しております。最終的に戦闘でしか市民を救出できないのであれば仕方がありませんが、それは本当に最後の手段だということを忘れないでいてもらいたいんです。もちろん戦闘訓練の手を抜いてもいいと考えているのではありません。いざという時に戦力不足で失敗したとなったら後悔するのは彼らですから」

 

「そうだな。戦闘になればボーダー側だけでなく相手国にも被害が及ぶ。それを知った第三国がそれをどのように受け取るかが問題だ。どの国でもエクトスに金を支払って購入した人間を無償で返すはずがなく、やはり金銭もしくはそれに代わる何らかの代価を要求するだろう。そうなるとボーダーにできるのは玄界(ミデン)()()()()()使()()()()()()()を提供することぐらいで、それに納得してもらえなければこちらも実力行使となる。それは近界民(ネイバー)側の立場となれば自分たちの『財産』を奪われるということになり、全力で阻止しようとするだろう」

 

「はい。そしてここで戦闘に勝利して市民を救出したとしても、次の国では上手く交渉ができるとは考えにくくなります。それに戦闘を行えばボーダーの戦力がそこで他国にバレてしまうわけで、戦闘に勝利して市民を救出したとなるとまるでミッションが大成功したかのようですがそれは逆で、このような交渉事の場合は大失敗です。次の国に警戒心を与えてしまい、どちらも疑心暗鬼になって交渉が上手く進むことはないでしょう。なにしろ拉致被害者の市民は複数の国に散らばっているんですから、1回でも戦闘になってしまえば後が大変。キオンが玄界(ミデン)と協力関係にあると知れば相手が譲歩する可能性は高くなりますから、三国同盟の件は絶対に成功させなければいけません。ですから唐沢部長にも頑張ってもらいます。よろしくお願いしますね」

 

「ああ、任せておけ…」

 

 

唐沢はツグミと会話をしていると少し()()と感じることがある。

旧ボーダー時代からのメンバーだということで幼い頃から近界民(ネイバー)との戦いを身近な存在として育ってきたのだから、それが彼女の人格形成に大きく影響をしているのは間違いない。

しかしそれだけで彼女が近界(ネイバーフッド)近界民(ネイバー)に大きく影響を与える人物になるとは考えにくい。

単純に近界民(ネイバー)との戦いの中に身を置いて、それによって近界民(ネイバー)を憎む側に回る者もいれば、近界民(ネイバー)と交流を持とうと考える者もいる。

前者の代表が城戸とすれば後者は林藤となり、その中間の市民の安全を第一と考えて積極的な戦いは行わずに専守防衛を基本とするのが忍田の考えだ。

隊員たちはそれぞれの思想と自分のそれを照らし合わせて考え方の近い「派閥」に属するか、中立的な立場の「無派閥」となる。

派閥に属するといっても特に何かすることや、他の派閥の人間と対立することはないのだが、同時にその考え方に沿った積極的な行動もまったくしない。

特に玉狛支部所属のメンバーはその半数が旧ボーダー時代に()()()()を経験しており、城戸のように近界民(ネイバー)を憎む側になって当然なのだが、逆に敵意を持たない近界民(ネイバー)には融和的である。

旧ボーダー時代に抱いたボーダー本来の主義や創設理念を守りたいというのだろうが、彼らやっていることは自分たちに都合の良い近界民(ネイバー)()()()()()独自の武器(トリガー)開発を行っていて、考え方が正反対の城戸から()()()()()異端の組織となっているだけだ。

ツグミのように城戸たち本部の反近界民(ネイバー)主義の人間の考え方を改めさせようとはしないし、近界(ネイバーフッド)へ行って近界民(ネイバー)と平和的な交渉をしようという意思もない。

()()()近界民(ネイバー)たちとの良好な関係を求めているのなら何らかの具体的な行動があってしかるべきなのだが、玉狛支部という組織の中で自分たちに協力をしてくれる近界民(ネイバー)と仲良しごっこをしているレベルでしかない。

 

そうなると現在のボーダーという組織には従来の「城戸派」「忍田派」「玉狛支部」そして「霧科派」が存在し、()()()()()()ツグミが霧科派のリーダーであり唯一の構成員である。

「霧科派」は旧ボーダーの創設理念を元にしていて、近界民(ネイバー)との友好的な交流を求めているので相手が話し合いに応じるのなら問題が生じたら対話で解決し、逆にこちらの言葉に聞く耳持たない敵意のある近界民(ネイバー)とは徹底的に戦うという思想である。

敵意のある近界民(ネイバー)とは徹底的に戦うという点では忍田派と同じだが、三門市に攻め込んできた敵と戦って倒すだけでは()()()()だ。

病気の症状に対応してその症状を除いたり緩和したりする治療法を「対症療法」と呼ぶが、病気の原因を取り除く根本的な治療とは異なるというところから比喩的に当面の方策といった意味でも使われる。

しかしツグミの「霧科派」は根本的な解決策 ── 近界民(ネイバー)がこちら側の世界の人間に危害を加えようとする「原因」を取り除こうとして、自分で考え、行動し、近界民(ネイバー)の仲間を増やし、城戸たち上層部にも働きかけて、とうとう近界(ネイバーフッド)の大国のひとつと同盟を結ぶまでに至った。

 

(彼女自身は気付いていないだろうが、彼女には極めて稀なカリスマ性がある。見た目は普通の少女で、これといって外見から人を魅了するものは感じられない。しかし彼女と話をしてみると彼女の持つ魅力がその言葉の端々から感じられる。高い知性や幅広い知識を持っていて、彼女の言葉に説得力を感じるものだからいつの間にか説き伏せられてしまっている。彼女の交渉の基本は『win-win』となるようお互いが納得できるまで話し合うこと。自分だけが得をしようとしても意味はないと考えているから、自然と相手の得になる道を模索しようとするから上手く進むのだ。その結果、あれだけ近界民(ネイバー)を敵視していた城戸司令ですら近界民(ネイバー)の協力を得て目的を達成しようとしている。一度は完全に仲違いをしてしまったふたりだが、彼女から歩み寄って今では過去のいがみ合いが嘘だったかのようだ。…彼女がボーダーの味方であるうちはいい。しかしひと度袂を分かつことになった時、彼女の親派が敵側に回ることはなくとも協力は望めないだろう。キオンのテスタ・スカルキはボーダーという組織よりも彼女の人間性に惹かれてボーダーに協力するようになったという経緯がある。アフトのディルク・エリンやランバネイン、そしてハイレインすらもボーダーではなく彼女に対する信頼から自らの行動を決めている。彼女の言動には注視していなければいけないと思うのだが、おれ自身が彼女の考え方や行動に魅せられてしまったという事実がある。…そんなことは万が一にもありえないが、もし彼女がボーダーを見限って独自に近界民(ネイバー)と交流するようになったとしたら、キオンという国は間違いなくボーダーではなく彼女を()()だろう。彼女はただの17歳のボーダー隊員でしかないのだが、須坂氏のようにスポンサーの何人かは彼女個人に投資しているようなものだし、彼女の祖父の霧科文蔵氏に世話になった人物もボーダーというよりも彼女個人に手を貸したいと考えている。…それにおれ自身、ボーダーと彼女のどちら側につくかという二択なら彼女に味方するだろうな。なにしろ彼女と行動した方が()()()のは間違いないんだから)

 

唐沢が考えるようにツグミが城戸や忍田のいるボーダーと対立するようなことが起きるはずがないのだが、万が一に起きた場合には「霧科派」に迅は参加するだろうし、キオンの3人は当然彼女に味方する。

須坂や彼女個人に期待をしているスポンサーの何人かはボーダーを見限り、彼女の組織に援助をするようになると唐沢が考えるくらいだから実際にそうなるはずだ。

するとボーダーは市民救出計画という大プロジェクトを抱えているものの予算を大幅にカットされてしまい、いくらキオンと同盟を結んでいるといってもツグミが袂を分かった組織に対してテスタが協力的な態度を見せるとは思えない。

さらにアフトクラトルが積極的に協力するとは考えられないため、ボーダーは自力で何とかするしかなくなる。

ボーダー内で近界(ネイバーフッド)に関して一番詳しいのはレプリカで、レプリカがいれば未知の国への航行ルートを設定したり対象国の情報を得ることはできるが、近界民(ネイバー)と交渉のできる「人材」はいないのだから市民救出が難航するのは目に見えている。

ツグミがひとり抜けるだけで三門市民救出計画は大幅に遅延する可能性が高く、唐沢は彼女の強い意思と彼女自身の()()、そして無意識に人を惹きつける魅力に畏怖に似た感情を抱いたのだった。

 

(ま、おれの考え過ぎか。なにしろ彼女は家族や仲間と一緒にいたいからこそボーダーで戦い続けてきたんだ。そんな大切なものを切り捨てることができるほど彼女はまだ強くない。これまでの人生と未来の幸せをすべて捨てるような事態にはなってもらいたくはないし、そんな強さなど持ってほしくはないんだ、おれは)

 

唐沢がそんな心配をしているなど露ほども知らぬツグミの頭の中は三国同盟締結のことでいっぱいだった。

 

 

 

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