ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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45話

 

 

B級にとんでもなく強い部隊(チーム)が登場したということで、いつにも増してランク戦への期待は高まっていた。

その証拠にRound2・夜の部の開始30分前だというのに観客席はほぼ満席となっている。

ツグミはそうなることを承知していたので、1時間前には解説席に近い場所を確保していた。

 

 

「ツグミ、隣、空いてるか?」

 

ツグミに声をかけてきたのは京介だった。

 

「あれ? 今日はバイトだって言ってたのにどうしたの?」

 

「店長にシフトの変更を頼んだら快くOKしてくれたんで本部で見ることにした」

 

「やっぱり可愛い弟子のデビュー戦だからわざわざ見に来たのね。さあ、どうぞ」

 

ツグミが京介に隣の席を勧める。

その席に京介が腰掛け、ふたりは会話を続けた。

 

「修が可愛いかどうかは微妙だが、弟子のデビュー戦は見逃せないさ。で、おまえの方はどうだった?」

 

「フフフ…聞きたいかね? ならばわたしが直々に教えてあげよう。なんと生存点を含めて10点ゲットだぜ!」

 

「ふ~ん…。ま、良くやったんじゃないか」

 

おちゃらけて言うツグミに対し、京介の反応は淡白だ。

 

「相変わらず愛想がないわね」

 

ツグミがブーたれると、京介はこれ以上ないというくらいの営業スマイルを彼女に向ける。

 

「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」

 

「うっ…ゴメン。もういい。わたしが悪かった。キョウスケが仕事(バイト)以外では笑顔見せられないこと忘れてた」

 

すると京介は一気にいつものポーカーフェイスに戻って言った。

 

「わかればいい。それにしても凄い騒ぎだな?」

 

「そりゃそうよ。玉狛第2への期待が高まっているんだから。初戦であんな戦いを見せられたら誰だって興味持つわよ。普段はB級ランク戦なんて興味なさそうなA級の姿も見られるし、C級の盛り上がり方なんて例年にないくらい。おかげでわたしなんて1時間前から場所取りしてたんだのよ」

 

「ご苦労さん」

 

「もっとも解説席に一番近いここを選んだ理由は、今日の解説が東さんだからなんだけど」

 

「へえ~、今日の解説は東さんか。それは見逃せない…いや聞き逃せないな」

 

「でしょ? わたしもまだあの人から学ぶものはいっぱいある。ICレコーダーも持って来たから録音しておいて後でオサムくんたちにも聞かせてあげるの。 …って、その本人が来たみたい」

 

解説席に着く東。

一緒に実況アナウンサーの桜子ともうひとりの解説者である緑川が着席した。

あとは試合開始の時間を待つだけだ。

 

 

「烏丸先輩、ツグミ先輩、いらしてたんですね?」

 

ツグミたちに声をかけてきたのは木虎だった。

大好きな烏丸の姿を見つけ、話しかけるために来たのだ。

 

「おう、木虎。おまえも来てたか」

 

「キトラちゃん、こんばんは。嵐山さんたちも一緒?」

 

「ええ。嵐山先輩たちはあそこに…」

 

木虎の視線の先には嵐山と時枝が並んで座っていた。

そこでツグミはあることを思いついた。

 

「ねえ、キトラちゃん。わたしはちょっと嵐山さんに用があるんで、あなたはここでキョウスケと一緒にランク戦を見てちょうだい。キョウスケの隣じゃ嫌、なんてことないわよね?」

 

「も、もちろんです!」

 

「じゃあ、ここに座って」

 

ツグミは木虎を自分の席に座らせる。

木虎は何事かと少し驚いているが、憧れの京介の隣に座ることができて満更でもない様子だ。

そしてツグミは嵐山たちの席に移動する際に解説席の東に声をかけた。

 

「東さん、こんばんは。解説、楽しみにしています」

 

「ああ。期待してくれていいぞ」

 

「それでお願いなんですが、このICレコーダーを預かっていただけますか? 三雲たちに東さんの解説を聞かせてあげたいんです」

 

「ああ、もちろんかまわないが。それにしてもおまえは後輩想いだな」

 

東に褒められて微笑むツグミ。

 

「そんなことはありませんよ。ただ玉狛第2が強くなれば、本部のB級部隊(チーム)も強くならざるをえない。それがボーダー全体の戦力アップにつながりますから。東さんの解説はとてもわかりやすいですし的確ですから、勉強熱心で向上心が強い三雲たちはとても喜ぶと思うんです」

 

「そうか。それなら機会があればおまえのランク戦の時に解説してやるよ」

 

「ホントですか!? だったらいつもより余計に張り切っちゃいます」

 

「ハハハ…。ほら、そろそろ始まる。おまえも早く席に着け」

 

「はい。あとはよろしくお願いします」

 

ツグミは軽い足取りで階段を昇って行き、嵐山のところへ行く。

 

「こんばんは。隣の席、よろしいですか? キトラちゃんに席を譲ったんで、わたしの席がなくなっちゃったんです」

 

嵐山は自分の部下が京介と楽しそうに会話している様子を見て、ツグミの真意を悟ったようだ。

 

「ああ、もちろんいいとも。ウチの木虎のためにわざわざ気を使ってくれてすまないな」

 

「いいえ、そんなことはありませんよ。わたしがキトラちゃんにお願いしたんです。たまには嵐山さんとお話ししたいと思って」

 

「おれと?」

 

「はい。(ブラック)トリガー強奪未遂事件の際にはお世話になりましたし、それ以降も三雲たちのことを気にかけてくださっているようですから、お礼を言いたいと思いまして。どうもありがとうございます」

 

ツグミが丁寧に礼を言うものだから、嵐山は戸惑ってしまう。

 

「いやいや、三雲くんには弟と妹が助けられた恩があるからな。それに彼のようなタイプの人間は好きなんだ。隊務規定違反だと承知でも友人や市民を助けようとして自然に身体が動いてしまうというあのカンジ、おれに似ているとこがあるしな」

 

「そうですね。わたしも彼のことが好きだから、目が離せないというか、放っておけないんです。わたしが深く関わると遠征選抜を目的としている彼らの不利になるかもしれないとはわかっているんですけど、つい応援したくなって手出し口出ししちゃうんですよ」

 

「その気持ち良くわかるよ。…っと、始まるみたいだぞ」

 

 

◆◆◆

 

 

「B級ランク戦新シーズン! 2日目・夜の部が、まもなく始まります! 実況は本日もスケジュールがうまいこと空いたわたくし武富桜子! 解説席には先日の大規模侵攻で一級戦功をあげられた東隊の東隊長と、草壁隊・緑川くんにお越しいただいております!」

 

「どうぞよろしく」

「どもっす」

 

「今回の注目はなんと言っても前回完全試合で8点をあげた玉狛第2! 注目度の高さからか会場にもちらほらと非番のA級の姿が見られます!」

 

メインモニターに会場の様子が映し出され、米屋と古寺が加古隊の黒江双葉(くろえふたば)を誘っている様子も見て取れる。

 

「さて、東さん。一試合で8点というのはあまりお目にかかれませんが…」

 

「いや、すごいですね。それだけ玉狛第2が新人離れしてるってことでしょう」

 

「遊真先輩は強いよ。あっという間にB級上がってたし」

 

緑川が割り込んできた。

 

「緑川くんは玉狛の空閑隊員と個人(ソロ)で戦ったというウワサが…」

 

「うわ、その話ここでする?」

 

緑川にとっては屈辱的な戦いであったわけだが、もうそのことは吹っ切れたという感じで続けた。

 

「8-2で負けました! ボッコボコでした! でも今度また十本勝負する約束したから次は勝つよ!」

 

A級の緑川が大差をつけられて負けたということで、会場はどよめきたった。

こうなるとますます玉狛第2への期待が高まる。

 

「玉狛第2の今日の相手は接近戦の諏訪隊に長距離戦の荒船隊。戦法(スタイル)が明確な部隊です!」

 

「順位が低い玉狛第2はステージ選択権があるので、まずは地形で有利を取りたいところですね」

 

東の解説が入ったところで、ステージが決まる。

 

「さあ、ステージが決定されました! 玉狛第2が選んだステージは…『市街地C』! 坂道と高低差のある住宅地ですね!」

 

メインモニターにはステージ「市街地C」が映し出された。

 

「…!?」

 

東が怪訝そうな顔で考え込む。

そんな彼に桜子が訊く。

 

「しかしこれは狙撃手(スナイパー)有利なステージに見えますが?」

 

狙撃手(スナイパー)有利…ですね。道路を間にはさんで階段状の宅地が斜面に沿って続く地形です。登るにはどこかで道路を横切る必要があるので、狙撃手(スナイパー)が高い位置を取るとかなり有利です。逆に下からは建物が邪魔で身を隠しながら相手を狙うのがむずかしい。射程がなければなおさらです」

 

「玉狛にも超強力な狙撃手(スナイパー)がいます。高台を取れればあるいは…という作戦でしょうか?」

 

「うーん、どうだろう…。狙撃手(スナイパー)の熟練度が違いますから、普通にやれば分は悪いと思いますね」

 

「となると、狙撃手(スナイパー)のいない諏訪隊は…」

 

今度は緑川が答える。

 

「いやー超きついでしょ。上、取られたら動けないよ。今頃、諏訪さんキレてるだろーなー」

 

 

 

諏訪隊作戦室では緑川が想像していたとおりの光景が広がっていた。

 

「はぁ!? 『市街地C』!? ざっけんな、クソMAPじゃねーか! おとなしくAかBにしとけよ!」

 

「こりゃなかなかきつい…」

 

「玉狛は狙撃が怖くないんですかね?」

 

堤と笹森は諏訪のようにキレはしないが、玉狛第2の選択に戸惑っている。

まあ、スタート地点はランダムなのでまだチャンスはあるからだ。

 

「取られる前に全力で高台取るしかねーな! ここで勝ちゃ上位入りだ! やるぞ!」

 

「「「おう!!」」」

 

 

 

一方、荒船隊作戦室では自分たちにとって有利なステージであることが意外だと思いながらも胸をなでおろしていた。

 

 

 

そして玉狛第2の作戦室では揃いの隊服に身を包んだ修・遊真・千佳が並んでいる。

 

「うんうん、揃いの隊服! 燃える! いよいよ本格始動だね!」

 

栞のテンションが前回より高めだが、それだけこの戦いに力が入っている証拠でもある。

 

「今日の対戦相手は暫定8位諏訪隊と10位荒船隊。ウチの玉狛第2が12位で一番下だからステージの選択権があったわけだけど…ホントにこれでいいのね?」

 

栞の確認に、修は自信満々で答える。

 

「はい。今のぼくらの力では両方の部隊(チーム)を同時に相手するのは無理です。特に荒船隊は3人全員が狙撃手(スナイパー)。ひとりひとりが大きく距離をとり、射程を活かして攻防両面で連携していて、ぼくらですと崩しにくい相手です。ですから荒船隊を封じる手段として…」

 

修は自分の考えた作戦について説明をする。

 

「なるほどね…。敵の敵は味方…か。いいんじゃない?」

 

「ただこの作戦が成功するかどうかは諏訪隊の動きにかかっているんですけど、ぼくの想像だと必ず諏訪隊が玉狛第2(ぼくたち)より先に荒船隊を潰しにかかるでしょうから、これでいけるはずです」

 

修の言葉に遊真と千佳も頷いている。

自分たちの隊長が考えに考え抜いた作戦を信頼しているのだ。

 

「うんうん、いいねえ…。個人(ソロ)もいいけど、部隊(チーム)単位のランク戦はまた味わい深いからね。よし、後はあたしに任せなさい」

 

「はい、よろしくお願いします。…行くぞ!」

 

 

 

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