ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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46話

 

 

転送開始のカウントダウンがゼロとなり、修たちは「市街地C」のフィールドに転送された。

 

「さあ、転送完了! 各隊員は一定以上の距離をおいてランダムな地点からのスタートになります!」

 

桜子の実況が入る。

 

「そして狙撃手(スナイパー)の4人がバッグワームを起動! レーダー上から姿を消した! 狙撃手(スナイパー)3人の荒船隊。やはりまっすぐ高台を目指します! 半崎隊員がいい位置に転送されたか! 諏訪隊もそれを追う! 玉狛第2も…」

 

フィールド上の各隊員の位置が映し出される。

荒船隊と諏訪隊は高台を目指すが、玉狛第2は他の違う動きをしていた。

 

「…おっと追わない! 部隊(チーム)の合流を優先したようだ!」

 

「転送直後は一番無防備な時間帯ですからね。合流するのはありです」

 

「あり」といっても荒船隊に高台を押さえられてしまっては非常に不利になることは明らかで、ツグミも修の作戦が読めずにいた。

 

(この様子だとチカちゃんに高台から砲撃させるという手段は使わないのかもしれない。でもそうなるとなぜこのステージを選んだんだろう? あえて荒船隊を有利にする…って、それってもしかして…!?)

 

 

フィールドでは荒船隊と諏訪隊が高台を奪う戦いが始まっていた。

功を焦った笹森が道路を横切ろうとして、荒船隊・穂苅篤(ほかりあつし)からの狙撃を受けたのだ。

しかし諏訪に腕を引っ張られ、被弾は免れた。

 

「笹森隊員、間一髪! 穂苅の牽制ですね。かわされましたが諏訪隊は進みづらくなった。いい仕事です」

 

東の解説が入る。

 

「この間に荒船隊長も脇をすり抜けて登って行く! 荒船隊が完全に上を取った!」

 

桜子の実況どおり荒船隊が高台を陣取り、圧倒的な有利を得ていた。

そんな荒船に向けて千佳のアイビスが放たれた。

弾は民家を派手に吹き飛ばし、荒船も飛ばされるがダメージはない。

 

「素人が…位置がバレバレだぜ」

 

荒船の合図で穂苅と半崎義人(はんざきよしと)を加えた3人が千佳を狙ってイーグレットを撃つ。

それを修と遊真がシールドで防御。

 

「もう一発だ、千佳! 今光ったところを狙え!」

 

「うん!」

 

修の指示で千佳はもう一度荒船を狙って撃つ。

 

「この威力! もはや砲撃! 玉狛第2、意外にも撃ち合いを挑んだ! 東隊長、この展開はどう思われますか!?」

 

「玉狛第2の分が悪いですね。威力はあっても下からでは荒船隊の動きが見えない。そのうえ、撃つたびに自分の居場所がばれる。逆に上に居る荒船隊からは()が良く見える。(シールド)を何枚張っても防御(ガード)が崩れるのは時間の問題です」

 

「東隊長の解説どおり、玉狛第2が一方的にダメージを受けていく! 本職相手に狙撃手(スナイパー)勝負は無謀だったか!?」

 

「…いや、端から勝つ気はないようです」

 

「…え!?」

 

東には修の作戦が見えてきたようだった。

そしてツグミもこれではっきりとわかった。

 

(やっぱりそうだ。あの時に言ったことを覚えていて作戦に取り入れたのね…)

 

「あの時」というのは、一昨日ツグミと修が一緒に厨房で料理をしていた時のことで、ツグミは修から「三つ巴の戦いで、自分ではどうしても倒せない相手を攻略するにはどうすればいいのか」と訊かれたのだ。

そこでツグミは「わたしならまず敵同士をぶつけて共倒れを狙い、そのどさくさに紛れて両方叩く」と答えた。

 

(荒船隊を崩すのに諏訪隊を利用しようっていうんだわ!)

 

ツグミの推測どおりに事は進んでいた。

荒船は狙撃をしたことにより居場所が丸わかりとなっていて、彼の意識が玉狛第2に集中していたところを諏訪が強襲したのだ。

 

「あーっと!! 砲撃の陰で諏訪隊が登って来ていた!!」

 

「さっきの砲撃は諏訪隊の援護ですね。長距離戦で荒船隊に勝てないのは織り込み済み。ステージの選択からあえて状況を荒船隊有利に偏らせることで、諏訪隊と玉狛第2の利害を一致させた。玉狛第2は地形戦を良く練ってますね」

 

荒船隊に諏訪隊をぶつけるという修の作戦は功を奏し、一番有利だと思われていた荒船隊が崩れ始めた。

そこを修たちは見逃さず、攻撃態勢へと移行する。

 

「荒船隊を捕まえた! このまま乱戦に持ち込むぞ!」

 

「OK。こっからはおれの仕事だな」

 

「ここから千佳は別行動だ! 絶対に顔は出すな! 宇佐美先輩の指示を聞いて、もしぼくたちがやられたら緊急脱出(ベイルアウト)しろ!」

 

「…うん、わかった」

 

修は遊真と千佳に指示を与えた。

 

「空閑! 点を取りに行くぞ!」

 

「おう!」

 

修と遊真は行動を開始した。

 

居場所がバレた狙撃手(スナイパー)攻撃手(アタッカー)射手(シューター)銃手(ガンナー)に対して反撃する手立てがない。

だから諏訪に追いつかれた荒船は防戦一方に追い込まれていた。

玉狛第2が敢えて狙撃手(スナイパー)が撃ちたくなるような動きをしていたためそちらにばかり注意が向かい、荒船は諏訪隊の動きに気付かなかったのだ。

この作戦は修が右腕を失うという犠牲を払ったものの、それ以上の効果はあったといえよう。

 

諏訪は大きめの通常弾(アステロイド)をまとめて放つ「面攻撃型」の散弾銃(ショットガン)型トリガーを使用している。

瞬間火力は高く、距離を詰めれば威力はさらに増す。

荒船はシールドで防御をしながら後退している。

 

「荒船隊有利から一転! 玉狛の砲撃を隠れ蓑にして、諏訪隊が獲物に食らいついた! これは完全に銃手(ガンナー)の距離だ! 荒船隊長、さすがに苦しいか!」

 

「いや、これは()()ですね」

 

東があっさりと荒船隊の作戦を読んだ。

その直後、半崎のイーグレットが諏訪の顔面を直撃したのだ。

よもや緊急脱出(ベイルアウト)というところだが、これは諏訪の思うツボだった。

ヘッドショットをピンポイントで防御した諏訪。

狙撃手(スナイパー)の狙いを読みシールドの面積を最小限に絞ったことで耐久力を上げたのだ。

 

「半崎の狙撃の正確さが仇になりましたね」

 

「なるほど、通常よほどのトリオン差がないかぎりシールド単品でイーグレットは防げませんが、狙いを読んでシールドを集中すれば防御が可能です!…しかし一点読みが外れれば死んでいた! 諏訪隊長、なんという胆力!」

 

しかし続く穂苅の狙撃は防げず、右脚を撃ち抜かれてしまう諏訪。

 

「さらに1発! 今度は防げなかった! 目の前の荒船隊長に追いつけない!」

 

「しかしこれで荒船隊は全員の居場所が割れた。この距離はでかいですよ。諏訪も脚の1本くらいは必要経費と思ってるでしょう」

 

バッグワームで姿を消した狙撃手(スナイパー)を炙り出すには、彼らに狙撃をさせればいい。

東が言うように脚1本で居場所を見つけ出すことができるなら安いものだ。

とはいえ、右脚を失くしたことで機動力が低下したことは間違いなく、今後の展開に大きく影響するのは確かである。

諏訪と笹森が一緒に荒船を追い、堤が半崎を追いかけた。

 

[下から来る! 気を付けて!]

 

荒船隊オペレーター・加賀美倫(かがみりん)が半崎に注意を促すが、本人は自分を追いかけて来る堤の姿しか見えていなかった。

 

[見えてますよ。堤さんでしょ?]

 

[違う! 玉狛よ!]

 

半崎に襲いかかったのは遊真だった。

バッグワームで姿を隠して近付き、いきなりスコーピオンで斬りかかったのだ。

 

「うお、速っえ!」

 

半崎はかろうじて身をかわして急所を避けたが、遊真は再度斬りかかろうとする。

そこに堤が到着し、散弾銃(ショットガン)型トリガーで通常弾(アステロイド)を半崎に撃ち込んだ。

さすがに戦闘体を蜂の巣のようにされてしまえば、もうどうすることもできない。

 

「半崎隊員、緊急脱出(ベイルアウト)!」

 

狙撃手(スナイパー)は寄られるとこうなります。寄らせちゃだめですね」

 

「先制点は諏訪隊! そして依然堤隊員の間合い。ここで2点目が動くか!?」

 

堤が遊真からも点を奪おうと攻撃を仕掛けるが、遊真は弾をかわしながら堤に近付いた。

そして攻撃態勢に入り、スコーピオンを振りかざす。

もちろん堤も遊真の動きを読んでおり、その銃口を向けた。

しかし次の瞬間、堤の胴体はスコーピオンによって斬り裂かれて緊急脱出(ベイルアウト)してしまう。

遊真の予想外の素早い動きはグラスホッパーによるものだった。

グラスホッパーによって軌道を変え、堤の死角から攻撃したのだ。

 

「おおお!? 今の動きはグラスホッパー…!? 空中機動を可能にするジャンプ台トリガー! 前回は使っていなかった気がしますが…!?」

 

桜子の疑問に緑川がドヤ顔で答えた。

 

「オレが教えました。昨日」

 

「昨日!? なんと普通に覚えたてだった!」

 

遊真の(ブラック)トリガーの『弾』印(バウンド)とグラスホッパーはほぼ同じものだから容易にマスターできたわけだが、そのことを知らない者にとっては驚きしかない。

 

「さあ、玉狛第2も1点取り返して次の相手へ! 狙うは穂苅隊員! 徹底して荒船隊狙いだ!」

 

狙撃手(スナイパー)が残ってるとめんどくさいからね」

 

緑川が言うように狙撃手(スナイパー)の存在は邪魔でしかなく、さっさと始末してしまいたいと思うのは誰でも同じである。

実際、昼の部でもツグミがまず狙撃手(スナイパー)を片付け、自分が狙撃手(スナイパー)として早川隊・常盤隊の動きを牽制して効果を上げていた。

 

「弾の出所がわかっていれば、トリオン体の反応速度次第で防御(ガード)も可能! 位置を知られては苦しいぞ狙撃手(スナイパー)!」

 

「まあ、普通はそうですね…」

 

東の言葉の意味はすぐにわかった。

フィールドでは穂苅の狙撃をシールドで防御しながら遊真が近付いて行くが、彼の背後から弧月の一撃が襲いかかる。

 

「…ただ、荒船に限って言えば、あいつは元攻撃手(アタッカー)ですからね」

 

遊真に斬りかかったのは荒船であった。

それを見た諏訪が一旦動きを止めた。

 

「荒船が抜きやがった! 日佐人、おまえは穂苅(ポカリ)をやれ!」

 

「諏訪さんは?」

 

「俺は攻撃手(アタッカー)ふたりをまとめて吹っ飛ばす!」

 

「了解!」

 

諏訪と笹森は二手に分かれた。

 

 

「荒船隊長、弧月抜刀! 空閑隊員と剣比べか!?」

 

「荒船は本職の攻撃手(アタッカー)じゃありませんが、ここで空閑を止めたことで穂苅の援護射撃が利くようになります」

 

モニター上の各隊員の位置を確認しながら東が解説する。

そしてフィールドでは遊真と荒船が対峙していた。

 

「こっちで来たか。…まあそれはそれで」

 

「クソ生意気な新人(ルーキー)だ。ぶった斬ってやるぜ」

 

ツグミから荒船のことを聞かされていた修はこうなることも計画に含めていた。

よって遊真も荒船が抜刀したことを驚きもせず、逆にやる気満々でいる。

単純に考えるとマスタークラスの弧月使いである荒船の方が有利のようだが、近界(ネイバーフッド)で数多の戦場を渡り歩いてきた遊真の経験はそれ以上の強みを持つ。

 

(グラスホッパーをマスターしたユーマくんなら荒船さんに勝てるかも。これは面白くなりそう…)

 

ツグミがニヤニヤしていると、隣にいた嵐山が声をかけてきた。

 

「ツグミくんは空閑くんが勝つと確信しているようだね?」

 

「え? ええ…確信というほどではありませが、いい勝負を見せてくれるはずです。空閑には父親譲りの戦いの才能(センス)と、その時の状況に合わせて新しい技を生み出す柔軟な思考能力があります。ですから一対一であれば勝つでしょうけど、これは団体戦ですから他の隊員の動きによって勝敗が分かれると思います。ただそれでも彼の優位は変わりません。彼にはそれだけの経験と実力がありますから」

 

「なるほど…。それに新人ながら地形戦を理解し、自隊の不利を有利に変えることのできる優秀な司令官がいるようだから心配はいらないか」

 

「まあ、彼らはまだ発展途上ですから今後が楽しみといったところです」

 

モニターの画面から目を離さずにふたりは会話し、続く展開に注目した。

 

 

 

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