ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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総合外交政策局始動!
456話


 

 

ボーダーがキオン・エウクラートンと同盟を結んだという情報はあっという間に近界(ネイバーフッド)中に広まっていった。

以前からキオンが玄界の軍事組織(ボーダー)と手を結び、ボーダーとアフトクラトルの揉め事ではボーダーに加勢して勝利に導いたという「噂」が流れていたものの、それは単に噂レベルであったから多くの人間が半信半疑であった。

酒場や軍の宿舎などで酒を飲みながら面白半分に話す内容であるから証拠となるものはなく、また尾ひれが付いて事実よりも大げさに言う者もいるから信じるに足るものではないのだ。

しかしそれを利用して事実と虚構を上手く取り混ぜて流布していたおかげで、正式に同盟を結んだという事実を広めることによって過去の噂話もすべて事実であったと思わせることに成功している。

とりわけ()()キオンが玄界(ミデン)と同盟を結ぶにあたってその軍事力を背景にして優位な条件を要求することはなく、あくまでも対等な立場で手を組んだというのだから誰もが驚いていた。

さらにエウクラートンというキオンの従属国に近い立場の国までもが同等の条件によって受け入れられているとなれば、ガロプラのようなアフトクラトルの従属国や常に他国の侵略に怯えている国の人間はこの三国同盟に希望を見出してしまう。

三国同盟と銘打っているが希望があれば他国も受け入れる用意はあり、定められた条約を遵守するのであれば国力や政治形態など関係ないというのだから「寄らば大樹の陰」という言葉もあるように()()()()()()()()()()守ってもらおうと考えるのはごく自然な流れだ。

この時点ではボーダーがキオンに擦り寄って()()()()()()()()()()ように思えるが、キオンが玄界(ミデン)のトリオンを使わない文明に惹かれて互いに文化交流・技術交換をしようとしているのだという真実を知った他国は玄界(ミデン)に一目も二目も置くようになる。

そしてキオンがエウクラートンを対等に扱ってくれるからには自分たちも何かキオンに気に入られるものを持っていれば同じように対等に扱ってくれるだろうと考え自国のオンリーワンをアピールするはずで、それが農業でも工業でもかまわない。

そのオンリーワンを玄界(ミデン)の知識や技術でバックアップするようになれば、その国は他国にはない特別な存在として自信を持つに違いない…とツグミは考えている。

 

ここでアフトクラトルがどう動くかによって近界(ネイバーフッド)の勢力バランスが大きく変わることになる。

ハイレインがこれまでどおりに圧倒的な軍事力に物を言わせて近界(ネイバーフッド)の統一を目指すのか、ツグミたちと協調路線を歩むのかまだハッキリとした答えは出ていない。

しかしツグミがハイレインのことを友人と認めて接してくれたことで彼にとってコペルニクス的転回が生じ、他人を利用できるか否かで判断して自己の利益のためには他人を犠牲にすることも厭わないという考え方を改めることになった。

そして帰国する艇の中でハイレインはひとつの決断をしていたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

帰国したハイレインはすぐに王城内にある私室にランバネインを呼びつけて自分が玄界(ミデン)で経験したことを話した。

ツグミに連れられて猫カフェに行ったことで子供の頃の哀しい出来事を思い出し「大切なものを失いたくないのなら強い力を持たなくてはいけない。欲しいものがあるのなら強い力が必要だ」と改めて胸に刻んだのだが、そのすぐあとに彼女が弱いことは悪ではなくむしろ人間らしくて好ましいと肯定してくれたことで自分を偽らない「ありのまま」でいることが大事なのだと気付かされたと微笑みながら語ると、ランバネインも満足げに笑みを浮かべた。

 

「兄者もツグミに惚れたのか?」

 

ランバネインにそう訊かれてハイレインは狼狽するが、すぐに平静を取り戻して答えた。

 

「…そうだな、好きか嫌いかと問われたなら迷うことなく好きと答えるが、それが男女の恋愛感情による好きという意味かどうかわからないのだ」

 

「どういう意味だ?」

 

「彼女は容姿も愛らしく魅力的な女性であることは間違いない。面白い考え方をする上に、欲しいものがあれば誰かに頼るのではなく自分で手に入れようとする気概も持っている。もし俺が幼い頃に彼女がそばにいてくれたなら、俺はもっと他人に優しくなれたのではないかと思うのだ。その点では彼女は母や姉のような女性だと言える。しかしそれだけではない気もするのだ。俺は30歳になるが生まれてから一度も恋愛というものをしたことがない。異性に興味を持つ頃にはミラという婚約者がおり、誰かを好きになったところで意味はないし不毛だ。それにベルティストン家当主としてやるべきことは多く、おまえのように庶民の街で遊び歩くこともなかったから出会いなどありえない」

 

「俺だって遊び歩いているだけじゃねぇぞ。まあ…庶民の暮らしを視察していると可愛い娘に声をかけることはあるし、逆に声をかけられることもある。もっとも声をかけてくる娘は俺がベルティストン家の人間だって知って色目を使っているだけで、俺自身に魅力を感じているのではない。だから俺だって誰かを本気で好きになったことはないんだ。…いや、ひとりだけいたな」

 

「ほう。もしやその女というのは以前におまえが話していた娘のことか?」

 

「ああ、そうだ。まあ、惚れたというか…面白そうな女なんで興味を持ったというくらいだ。そいつは俺が街でブラブラしていた時に俺を見かけ、貴族の人間が下町を散策していることに興味を持ってこっそり家まで後を追いかけてきたんだ。そこで俺が家に誘っても中には入ろうとしなかった。この俺に対して物怖じせず好奇心で後をつけたが恋愛感情はないと断言しやがった。それなのに俺と話をしていて楽しいとも言い、俺との間に強い絆があるのだとしたらここで別れても再会できると思うなんて言いやがって、思わせぶりな態度で去っていった。後でわかったことだがその娘…イデアは例のエリン家の家族と一緒にさらわれた使用人だったんだ。それでツグミに事情を説明したところ玄界(ミデン)の男と結婚したんだと教えてくれた。今思い返すとイデアとツグミはなんとなく似ている気がする。いや、顔立ちとか見た目はまるっきり違うんだが、性根が座っているというか…精神的な強さがあるってところが似ているんだ」

 

「たしかにツグミは骨のある娘だ。玄界(ミデン)で戦った時にも思ったが、頭の回転が速いだけでなく誰も思い付かないような奇策を講じて我々を翻弄した。(ブラック)トリガーふたりを相手にノーマルトリガーで戦い、それでいて仲間を使って上手く金の雛鳥を守り抜いた。あの時は口惜しい思いをしたが、今となっては彼女を拉致できずにいたことが良かったように思えてくる。アフトに連れて来て拷問でも何でもして従わせようと考えていたと言ったところ、拷問などという古臭い乱暴な手段では人の心は変わらないと彼女に言われたよ。強い信念の持ち主ならたとえ命を奪われるとしても自分の矜持は捨てないだろうから、どちらにとっても残念な結果にしかならないのだと言うがたしかにそのとおりだ。俺は彼女のことを部下にしたいと思うほど評価していたが、拷問程度で敵に寝返るような人間であればその評価は見誤ったということになる。聡明で優しく、おまけに誰もできない…いや、考えもしなかったことに果敢に挑戦しようとしている姿を見ていると、彼女がいつでもそばにいてくれたらと思ってしまう。しかしこのそばにいてほしいという気持ちは以前のように部下にしたいというものではなく、日々の暮らしの中で寄り添って俺に笑顔を見せてくれたら嬉しいというものだ。もしこの気持ちが恋とか愛というものならば、俺は彼女に恋愛感情を抱いていることになる」

 

ランバネインの言うイデアという娘はアフトクラトル遠征で情報収集をしていたツグミの変装時の姿であった。

アフトクラトル遠征で先発隊として乗り込み、偶然ランバネインを発見して尾行をしていてが失敗。

その時に逃げるために真実と嘘を上手く混ぜ込んだ会話によって窮地を脱したのだった。

どうやらこの兄弟は同じ女性 ── ツグミに心を奪われてしまったようである。

 

「ふ~ん…兄者にも人を好きになる気持ちが生まれたなら玄界(ミデン)に行って一番の収穫だな。出立する前と今の兄者の様子は天と地ほどの差がある。なんか悩みが吹っ切れたってカンジで表情が生き生きとしていている」

 

「ああ、その件についても話しておこうと思っていたのだ。実は…」

 

ハイレインは自分がミラに対して取り返しのつかないことをしてしまい、そのことで罪の意識に苛まれていたことをツグミに打ち明けて救いを求めたこと。

そして彼女の「仮説」を聞かされ、それが真実か虚構か確認する手段はないが真実であると思うことで魂が解放されたことを話した。

 

「なるほど…。ミラならありえないということはないな。むしろツグミの推測が当たっている可能性が高い。兄者に対する愛情は偽りないものだっただろうが、おとなしく生贄になるような女じゃない。憎まれたとしても忘れられるよりはマシ…か。たしかに兄者を愛していたからすべてを承知の上で生贄になったという事実を後になって知らされたら兄者も罪悪感を覚える。そして死ぬまで苦しむような爪痕を残すという酷い形で恨みではなく愛情を示すというのだから女って恐ろしい生き物だな。いや、すべての女がそうだというわけじゃないだろうが、あいつならやるだろう。そして俺もあいつに利用されたってわけか。死んでなお俺たち兄弟を手玉に取るとは、これこそ魔性の女ということだな、ハハハ」

 

「ツグミの話を信じるならミラは悪女ということになるが、そう思うことで俺の気持ちは楽になる。哀れな女だが、少なくとも俺は死ぬまであいつのことを忘れることはできない。好きでも嫌いでもないタダの婚約者で部下だった女だが、俺の胸にここまでの深い傷を与えたのだからその強い意思は認めてやろうと思う」

 

「ま、兄者がそう決めたならそれでいいんじゃないか。それにこれでようやく国政に専念できるってもんだ。…で、キオンのスカルキって奴に会ったんだよな? そっちの話もしてくれよ」

 

「ああ、もちろんだ。奴は俺が想像していたよりもずっと面白い人物だった。あの若さで総統という地位を得たのだから相当な野心家だろうと想像していたが奴にはそういったドロドロしたものがなく、清廉で迷いのない目をした青年だった。自分の野心のために前総統を闇に葬ったというのに、その罪を背負って真っ直ぐに正面を向いて歩いている。俺はミラへの罪の意識で押しつぶされそうになっていたがツグミによって救われた。だが奴は誰の助けもなしにひとりで逆風に立ち向かっていたが、そこにツグミが現れて同じ志を持つことを知って手を結んだそうだ。俺はキオンの総統が玄界(ミデン)の小娘に上手く篭絡されたのだと考えていたがそうではなかった。近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)という別々の世界に生まれたふたりだが、戦争を憎んでおり武力を伴わずに近界(ネイバーフッド)を戦争のない世界にしようなどと無茶なことを同時に考えていて運命的な出会いをしたという。始まりはキオンの諜報員が(ブラック)トリガーを奪おうとしてツグミを拉致したことだが、ツグミはそれを不問として諜報員どもを許して友人とした。おまけに諜報員どもの減刑嘆願のためにはるばるキオンまで出かけて行ったというのだから恐れ入ったよ」

 

「それは俺や兄者も同じだぞ。俺たちは玄界(ミデン)に侵攻してあいつの住む街を破壊し、大勢の仲間を連れ去った。それなのにあいつは俺たちのことを許し、友人と認めてくれた。あいつだって俺たちのやったことを許せないと思っているはずだが、いつまでも憎んでいたところで前に進めないと考えて気持ちに整理をつける努力をしているんだ。ボーダーの連中の多くは何らかの形で近界民(ネイバー)を憎んでいる。家族や友人を殺されたとか、人生を大きく変えてしまうほどの哀しみに突き落とされた奴もいる。ツグミだってそうだ。だけどあいつは過去の出来事に縛られて今を不自由に生きることが嫌で、自分の理想とする未来のためならって割り切ることができる。そういった点ではあいつは俺たちよりもずっと大人だぜ」

 

「ああ、そうだな。…あの時、俺は甘い花のような香りに包まれ、優しく頭を撫でられながら幼い頃を思い出していた。彼女から感じたのは母上のようにすべてを許し包み込むような温もり。何の見返りも求めない無償の愛情だった。だから俺は彼女を…」

 

ハイレインがうっとりと遠い目をして言うものだから、ランバネインは不快だという顔で訊いた。

 

「兄者、ツグミに何かしたのか? まさかあいつに ──」

 

「い、いや、俺は別に何も…」

 

慌てて否定するハイレインだがなぜかすぐに素直になって答えた。

 

「俺はツグミを抱きしめた。彼女は拒絶しなかっただけでなく、俺の頭を優しく撫でてくれたのだ。その時に俺はあらゆる悩みや苦しみから解放された気がした。このままずっと彼女の温もりに包まれていられるのならアフトや近界(ネイバーフッド)のことなどどうでもいいとさえ思えるほど心地良く幸せを感じていた」

 

「…ま、兄者にとっていい思い出ができたってことだな。それでミラのことに踏ん切りがついたなら兄者は国王としてそれに相応しい妃を迎えることに迷いはないってことだ。俺も報われぬ恋に身を焦がすよりベルティストン家当主として責任を果たそうと考えている。やっぱ嫁にするなら身分とか家柄なんかじゃなく、庶民でも健康で気立てのいい、それでいて可愛い女がいいな。…ところで三国同盟の件について兄者はどうするのか決めたのか?」

 

ランバネインは真顔に戻ってハイレインに訊く。

 

「その件なら俺自身の答えは出ている。だからおまえにも意見を出してもらいたい。そしてかつての四大領主と地方の有力貴族らを集めて議会を開き、俺ひとりではなく皆の意見を聞いた上でアフトクラトルという国の回答としてボーダーに伝えようと考えている」

 

するとランバネインは不思議そうな顔をする。

 

「兄者らしくないな。この国の最高権力者である国王の意思が国の意思となるというのに、敵対する貴族連中に意見を求めてどうする? どうせ兄者のやり方に反対する連中ばかりだぞ」

 

「俺もそう考えていたから王になるために恥も外聞もかなぐり捨てて、おまけにミラを犠牲にまでしたのだが考え方を改めるに至った」

 

「それもツグミに感化されたか?」

 

「まあな。しかしそれだけではないぞ。…俺は俺の意思によって統一された世界こそが絶対無二のものになると盲信していた。だからこそ近界(ネイバーフッド)では軍事大国として名を馳せるアフトクラトルの最高権力者になったのだ。そして国王である以上は強者でなければ認めてはもらえぬ。俺も他人はもちろん家族であるおまえにも弱みを見せてはならぬと考え、すべてひとりでやろうとしていた」

 

「……」

 

「ところがツグミは俺が弱い人間であっても否定はしなかった。他人に弱みを見せることを恥とは思わず、誰かを頼って相談することも大事だと教えてくれた彼女の言葉が俺のこの胸に深く刻まれている」

 

ハイレインは自分の胸に手を当てて言う。

 

「おまけにこれからはおまえにも弱みを見せて何でも相談してみたらどうかと言っていた。そうすればおまえのことだから『やっと兄者が俺に頼ってくれたぞ!』とか言って大喜びするんじゃないかともな」

 

「ああ、そうだとも! 俺は子供の頃からずっと兄者のために何かしてやりたいって思ってたんだが、兄者は優秀だから何でも自分ひとりでやってしまう。それはそれでいいんだが、迷ったり悩んだりしているのにそれすらも自分ひとりで抱え込んでしまうとなると心配で見てはいられねぇんだ。だからって俺が声をかければ兄者の自尊心を傷つけてしまうかもしれないと思って何できずにいた。それが悔しくて、もし兄者が俺を頼りにしてくれたら全力で助けてやろうって決めていた。やっと俺を頼ってくれる気になったんだな」

 

「そういうことだ。俺は玄界(ミデン)へ行って思わぬ収穫を得た。その最たるものが他人に弱みを見せることは恥ではないということ。弱い俺のことを否定する奴らはいるだろうが、弱さも含めて俺という人間を受け入れてくれる人間がひとりでもいれば俺は敵が100人いようとも恐れはしない。そしておまえやツグミが俺の味方でいてくれると確信したから不安はなくなった。だから俺は何もかも自分ひとりでやろうとするのではなく信頼できる家族や友人の意見を聞いてその上で判断しようと思う」

 

「それはいいが、それと敵対する貴族連中に意見を求めるというのはどういうことだ? どうせ奴らは兄者の提案を片っ端から反対するに決まっている」

 

「もちろんそのことは想定済みだ。しかし自分と意見が違うからといって国王の権力で握り潰そうとしたところで不満の声は際限なく生まれてくるだろう。ならばこちらが意見を聞くという歩み寄りを見せれば奴らもただ反対だと叫ぶことはできなくなる。…たしかに俺は敵対する貴族どもに対して非情な制裁を加えた。しかしこれは国王である俺を暗殺しようとした連中を断罪し、二度とこのような馬鹿なことを考えないよう見せしめとして行っただけだ。まあ、無関係な家族には理不尽な仕打ちをしたわけだが、生きている連中のことなら今からでも十分間に合う。貴族の称号を剥奪して放逐すれば庶民として慎ましやかに生きていくだろう。だからこそ庶民でも安心して暮らせる国造りをすることで罪滅ぼしにしようと思うのだ」

 

「ふむ…」

 

「これはツグミから聞かされた話なのだが、キオンとエウクラートンが三国同盟への加盟の条件として要求したもののいくつかはボーダー側が予め推測して条項に加えてあったものなのだが、あえてその条項を削除したものを2国に提示した。そしてキオンとエウクラートンから要求されたものをボーダー側が了承したことになっている。どうしてだと思う?」

 

「わからん」

 

「それはすべての条項をボーダー側で決めてしまうのではなく、いくつかの部分は近界民(ネイバー)であるテスタ・スカルキやリベラート・オーラクルの意思を反映しているという形にしたのだ。こうすれば誰もが納得する形で結論が出る。ツグミはそれを民主的な方法だと言っていた。民主的とは民主主義に則っているという意味で、民主主義とは簡単に言うと『みんなのことはみんなで話し合って決めること』なのだそうだ。他人事ではなく自分が当事者だという意識を高めることが重要だというのだ。そして政治や社会の問題については()()()()()という答えがあるわけではなく、多くの人間の多様な考え方に基づく試行錯誤が不可欠なのだと。したがって俺は民主主義とやらが正しいのかまだ良くわからないが、敵対する人物であっても国政に役立つ意見が得られるのなら試してみる価値はあると考えた。ちなみにツグミは独裁体制についてこう考えている。独裁体制の下では人々は受動的になり、すべてを権力者に依存することになるため、何か不満があれば『国家が悪い、国王は何もしてくれない』と不平不満を口にするだけで自ら努力しようという気にすらならない。それではいつまで経っても変わらないということだ。政治とは一部の人間が彼らの都合の良いように行うものではなく、すべての国民が当事者であるという意識を持たなければいけない。しかし何万何十万という人間が一同に会することは不可能であり、国民の代表者を選んで彼らに任せるという仕組みを採用しているのが彼女の国や玄界(ミデン)の多くの国の政治形態だという。近界(ネイバーフッド)でも似たようなやり方をしている国はいくつかあるようで、キオンは有力貴族の当主が領民の代表ということになっていて、彼らが議会を開いてそこでいろいろな政治方針を決めているそうだ。キオンではそのやり方に貴族連中は反対せず上手く運営されているらしい」

 

「だから兄者も真似をしてみようというのか?」

 

「真似…と言えばそのとおりだが、とにかく俺がひとりで決めたのではなく複数の人間の意見を聞いた上で()()()で決まったとなれば不満のある連中も文句は言えん」

 

「なるほど。試してみる価値はありそうだな」

 

「ツグミと出会ったことで俺ひとりの狭い世界の知識や経験だけではダメでだということが良くわかった。そしてひとりひとりは乏しい知識や経験しか持ち合わせていなくても大勢集まれば役に立つものが見つかるだろうと気が付いたというわけだ。よってできるだけ早く貴族連中に招集をかけてボーダーとの同盟締結について議論をしたいと思っている。ランバネイン、手伝ってくれるか?」

 

「もちろんだとも、兄者! 俺にできることなら何でもさせてくれ」

 

「ありがとう。やっぱりおまえが一番頼りになるな」

 

ハイレインはそう言って弟の肩をぽんと叩いた。

 

 

 

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