ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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460話

「おおっと、これは熊谷隊員が那須隊長と合流しようとして西へ向かっていたところ、三雲隊長と合流しようとした麟児隊員と鉢合わせしてしまったようだ! このままでは三雲隊長が到着すると1対2で熊谷隊員は不利となってしまう! 那須隊長が援護に向かうが間に合うかどうかで状況が大きく変わるぞ!」

 

ここまで淡々と実況をしていた桜子が興奮気味に叫んだ。

ここで玉狛第2と那須隊には麟児と熊谷が戦闘開始したことは知られたが、鈴鳴第一にはまだチームメイトの居場所しかわからない。

しかし戦闘を開始したふたりにとってバッグワームよりもシールドの方が重要で、バッグワームを解除すると同時に鈴鳴第一にも玉狛第2と那須隊によって戦端が開かれたことが知られ、彼らの動きが変わった。

 

「どうやら来馬隊長と村上隊員は合流を後回しにして熊谷・麟児両隊員が戦っている本部基地北東に向かってそこで合流することにしたようだ! そこに三雲隊長が到着してそこが主戦場となれば、やはり狙撃手(スナイパー)は本部基地屋上を目指すのか!?」

 

「そうなるとすでに本部基地内に入っている夏目隊員が有利ですが、別役隊員と雨取隊員も南西の出入り口を目指しています。一方、北側では本格的な戦闘が始まったようです」

 

京介が指摘するように、本部基地の北側では麟児と熊谷が激しい戦闘に突入した。

麟児の武器は拳銃(ハンドガン)で、通常弾(アステロイド)変化弾(バイパー)を切り替えながら弧月の間合いに入らないように動きながら攻撃をする。

熊谷は弧月両手持ちが基本でシールドを展開しながら麟児の攻撃を防ぐのだが、射程を適度に保っている麟児に容易に近付けない。

旋空は装備しているものの、麟児の素早い動きに当てられるほどの技術はないために一方的に押されてしまう。

 

「麟児隊員は昨年11月に入隊して入隊日当日にB級昇格をしたという新人(ルーキー)ですが、霧科さんがスカウトしたという噂がありますがそれは本当でしょうか?」

 

桜子に訊かれ、ツグミは頷いた。

 

「はい、そうです。彼は雨取隊員のお兄さんですがしばらく三門市を留守にしていました。そして久しぶりに戻って来た彼に会ってその才能に気付いたわたしが忍田本部長に紹介したんです。ただし本人が正規のルートで入隊したいと言い、入隊試験を受けて合格しました。そして玉狛支部の所属となり、三雲隊長、空閑隊員、雨取隊員と4人で玉狛第2を再結成したといういきさつがあります」

 

「そうでしたか…。実際Round1とRound2では新人らしからぬ戦いを見せてくれましたが、やはりそういった事情があったんですね」

 

ツグミと桜子が解説をしている間もずっと麟児と熊谷の戦いは続いていた。

 

「那須隊長が合流するまで耐え切ることができれば逆に熊谷隊員は有利な状況となります。しかし那須隊長が熊谷隊員を援護しようと動いていることはどの部隊(チーム)も承知していて、来馬隊長と村上隊員も合流地点を当初よりも東側に移動しているようですから、那須隊長は足止めされるかもしれません。熊谷隊員も那須隊長との合流を優先したのか、攻撃のタイミングを探るよりも麟児隊員の攻撃を避けながら西側に移動を開始しました。こうなると3部隊(チーム)6人の混戦状態になるでしょう。…いえ、もしかしたら玉狛第2…と言うより麟児隊員はそれを狙っているのかもしれません」

 

「どういうことですか?」

 

ツグミの何か含む言い方に桜子は気になるが、モニターの映像が麟児と熊谷の戦闘から本部基地南側のものに変わったために実況に戻った。

 

「おっと、空閑隊員が別役隊員を補足したようです」

 

本部基地南側では東から南西側の出入り口に向かっていた太一だが、同じく南から本部基地に向かっていた遊真に見付かってしまったのだった。

こうなると太一の命運は尽きたといった感はあるが意外なことに遊真は太一を無視し、太一も遊真に見付かったことにすら気付かないようで遊真の先を走って行く。

 

「これは…空閑隊員は別役隊員を後回しにして雨取隊員との合流を優先したのか? 空閑隊員は別役隊員を倒すチャンスをあっさりと捨ててしまうというのでしょうか!?」

 

すると京介が首を横に振って言った。

 

「チャンスを捨てるのではなく、優先順位が低いというだけでしょう。この時点で彼が優先すべきは雨取隊員との合流だということです。別役隊員も屋上へ向かうのは明らかですし、なによりも那須隊に屋上を押さえられたくないということなのでしょう。なにしろ転送位置はランダムだというのに偶然狙撃手(スナイパー)3人が本部基地の南側半分だけになりましたから、北側半分に攻撃手(アタッカー)射手(シューター)銃手(ガンナー)が集中することになり、北側半分のどこかが主戦場となるのは明らかです。地上に高い建物がないんですから、本部基地屋上は狙撃手(スナイパー)にとって重要なポイントとなるわけです」

 

「そう言えば全員がバッグワームで居場所がわからないようになっていますがチームメイト同士はお互いに居場所がわかっていて、3部隊(チーム)ともチームメイトの狙撃手(スナイパー)に本部基地屋上から援護してもらいたいと考えるでしょうから、どの部隊(チーム)が一番に屋上に着くかが重要なんですね。ですが夏目隊員がすでに本部基地内に入って階段を上っていますので、那須隊が有利ということでしょうか?」

 

「いいえ、そうとは言えません。空閑隊員にとって夏目・別役隊員は脅威とはなりませんから。彼ならグラスホッパーを使って一気に屋上へ駆け上がることは可能で、まだ到着していない敵狙撃手(スナイパー)を屋上で待ち受けて倒すという作戦かもしれません」

 

「それなら雨取隊員が安心して屋上へ向かい、敵狙撃手(スナイパー)がいなくなった状態でひとり悠々と撃ちまくることができますね。でもそれなら先に屋上へ行って待ち伏せしても良さそうなものですが、雨取隊員を待ってから動くのでしょうか」

 

京介と桜子の話を聞きながら、ツグミはそれでは面白くないので「違うな」と感じていた。

 

(これまでの2戦が以前と違うと感じていたのは麟児さんが加入したことで玉狛第2の戦いに()()()()が出てきたってこと。あの人とわたしの戦い方ってなんとなく似ているのよね。こうなるだろうと見せかけていて、その期待を裏切るようなことをするのが好き。ユーマくんが屋上の狙撃手(スナイパー)を倒してチカちゃんの独壇場にするなんて面白くないわよ。わたしだったら…)

 

ツグミがそんなことを考えている間に本部基地南側の地上では遊真と千佳が合流した。

この時点で太一も本部基地内に入っているため、鈴鳴第一と那須隊にはこのふたりの動向は知られていない。

 

「ようやく空閑隊員と雨取隊員が合流したようです。転送位置が悪かったため雨取隊員は南西の一番端に飛ばされてしまいましたから仕方がありませんね。でもここまで敵に発見されずに済んだことで、基地屋上までたどり着ければ…って、おおっと、これは!?」

 

遊真はグラスホッパーを起動して屋上までの足掛かりを作ると、千佳をお姫さま抱っこして一気に外壁を駆け上がっていったのだった。

京介と桜子の予想では遊真が先に上がって出穂と太一を()()して千佳を迎え入れるのだと考えていたが、その想像の上をいっていた。

 

「これは想像していなかった事態となりました! 先に本部基地内に入った夏目隊員と別役隊員はまだ屋上に到着しておらず、最後に着いた雨取隊員が空閑隊員の手を借りて一番乗りとなりました! このために空閑隊員は別役隊員を見逃したのか!? 霧科さんはどうお考えでしょうか?」

 

桜子に訊かれてツグミは答える。

 

「空閑隊員が別役隊員を倒すチャンスはありました。ですがそこで倒してしまえば空閑隊員は自分の居場所を敵に教えてしまうことになります。彼なら別役隊員だけでなく夏目隊員も瞬殺できるだけの技量がありますし、他の敵から倒される心配もないとなればチームメイトの雨取隊員を有利な位置、つまりこの場合は本部基地屋上ですが、そこに送り届けることを優先させようと考えます」

 

「そうなると一緒に屋上へ行き、後からやって来る夏目・別役隊員を待ち受けて空閑隊員が倒すということですね?」

 

「いえ、そうとは限りません。本部基地北側では3部隊(チーム)が混戦となる条件が整いました。それぞれふたりずつの三つ巴になりますから、空閑隊員が加わることで玉狛第2は数の上でも有利となります。また鈴鳴第一と那須隊はまだ空閑隊員と雨取隊員の居場所を知りませんから、このふたりの動向を気にしながらの戦いとなりますので、今のところ味方の狙撃手(スナイパー)の援護を計算に入れた戦闘を考えているはず。空閑隊員と雨取隊員はギリギリまで姿を隠していて敵部隊(チーム)に…っと、空閑隊員と雨取隊員に動きがありましたよ」

 

遊真と千佳は屋上の出入り口の前に立つと何かヒソヒソ話をしているようであった。

音声がないために何を言っているのかはわからないが、遊真はドアを開けたり閉めたりしながら調べものをしているらしいことはわかる。

そして遊真は千佳に手を振ると北側の端まで走って行き、そのまま地上へと飛び降りた。

 

「ややっ、空閑隊員は何もせずに屋上を去ってしまいました! もうすぐ夏目隊員が屋上へ到着するというのに雨取隊員をひとり残してどうするつもりなんでしょうか!?」

 

そんな桜子の疑問はすぐに解けた。

千佳が屋上出入り口のドア付近に炸裂弾(メテオラ)を丸ごとひとつ置いたのだ。

そしてその1分後、出穂が何も知らずにドアを開け、置き炸裂弾(メテオラ)にドアをぶつけて刺激を与えてしまったものだから大爆発を引き起こす。

千佳の炸裂弾(メテオラ)に巻き込まれた出穂は何が起きたのかわからないままに緊急脱出(ベイルアウト)してしまい、緊急脱出(ベイルアウト)の軌跡が空に描かれたのだった。

 

「おおっ~と、最初の得点は玉狛第2の雨取隊員だ! 夏目隊員が雨取隊員の置いた炸裂弾(メテオラ)の爆発に巻き込まれたぞ!」

 

興奮して立ち上がる桜子に対し、ツグミは淡々と解説を続けた。

 

「本部基地の屋上への出入り口は1ヶ所しかなく、途中までは複数のルートがあっても最後にはどうしてもたったひとつの階段を上るしかありません。そこで先回りをして炸裂弾(メテオラ)を仕掛けることにしたのでしょう。夏目隊員は転送先が本部基地の南西側の出入り口のすぐ近くでしたから、自分よりも先に誰かが屋上にいるとは考えておらず、熊谷隊員の援護をしようと急いでいたために屋上の状況を確認もせずにドアを勢い良く開けてしまったせいで炸裂弾(メテオラ)を起爆させてしまったわけです。さすがにゼロ距離での爆発に巻き込まれてしまえば戦闘体も一瞬で消滅してしまうでしょう」

 

「トリオンモンスター雨取隊員の炸裂弾(メテオラ)ですからね。ですがこれで雨取隊員の居場所はバレてしまったことになりますが…」

 

「ですが倒そうとしても地上から200メートルの彼女に届く攻撃手段を持っているのは狙撃手(スナイパー)の別役隊員だけです。こうなると別役隊員が屋上までやって来て雨取隊員を倒したい…と思うでしょうが、雨取隊員もそのことは承知していて待ち構えている可能性が高い。地上に降りて低層階の建物の屋根の上から狙撃をしようとしても雨取隊員には丸見えとなりますから危険です。なかなか難しい状況ですね。今後の別役隊員の動きに注目してみましょう」

 

 

 

 

遊真と千佳が地上で合流した時点まで時間は少しだけ遡る。

先に到着していた遊真に千佳が手を振りながら走って近付いて来た。

 

「遊真くん、おまたせ」

 

「いやいや、リンジさんの作戦どおりだ。でも大丈夫か、チカ?」

 

「うん。ちょっと不安だけどやらなきゃダメだってわかってるから」

 

「じゃあ、行くぞ」

 

そう言って遊真はグラスホッパーを展開し、千佳をお姫さま抱っこする。

 

「なんか恥ずかしい…」

 

千佳は顔を赤らめるが、遊真は全然気にしていないという顔で言う。

 

「行くぞ。落ちないようにしっかり捕まってろ」

 

「うん」

 

遊真はグラスホッパーを使ってほぼ垂直に200メートルの高さの外壁を上っていく。

そしてわずか十数秒でふたりは屋上に到達した。

本部基地内の廊下と階段を走って屋上まで行くには十数分かかるが、一番遠い場所にいた千佳が一番に屋上へ着いたことになる。

おまけにふたりはまだ居場所が敵にバレていないという非常に有利な状況であり、北側の縁に立てば主戦場は丸見えとなるので狙撃手(スナイパー)が場所を押さえたいと思うのは当然である。

そこを千佳が独占するためには邪魔な狙撃手(スナイパー)ふたりを倒さなければならないが、遊真がいればそれは容易い。

しかしそうしなかったのは麟児の指示であった。

麟児は千佳に親しい友人である出穂を自分の手で倒すよう命じていたのだ。

 

「チカ、さっきは大丈夫だと言ってたけど、ほんとにできるのか?」

 

「うん。もう怖くないから。それに出穂ちゃんなら怒ったりしないって自信があるし。前だったら嫌われたくないってできなかったと思うけど、もうそんな不安はないよ」

 

「うむ。それなら炸裂弾(メテオラ)を仕掛ける場所を決めるぞ」

 

そう言って遊真は屋上への出入り口となるドアを調べ始めた。

このドアは片開き戸で幅が約90センチで、内側のノブは右端に付いていて左側に蝶番があるタイプだ。

 

「そうだな…ここに置けばドアを開いた時にぶつかって起爆する。開けてすぐには見えないから、外に出たとたんにドッカーンでシールドがあってもチカの炸裂弾(メテオラ)じゃ即死だ」

 

「……」

 

「おれは()()下に降りて様子を見る。ここを死守することができるかどうかでこの試合の結果が大きく変わるし、それがチカの覚悟で決まるんだ」

 

「うん、わかってる」

 

「じゃ、あとは任せたぞ」

 

遊真はそう言い残して屋上を去った。

 

「…炸裂弾(メテオラ)!」

 

千佳は巨大なトリオンキューブを出現させると、遊真の指示した場所にキューブを置いた。

出穂と太一では間違いなく出穂が先に屋上にやって来るから、ドアを開けた瞬間に炸裂弾(メテオラ)の炸裂に巻き込まれてしまうだろうし、とっさに両防御(フルガード)できるとも思えないので間違いなく緊急脱出(ベイルアウト)となる。

別案としてドアを開けた瞬間に狙撃をするという方法もあった。

人を撃てるようになったとはいえ、一番親しい友人を撃つというハードルは高すぎるので炸裂弾(メテオラ)案を採用したのだが、それでも対抗があるのは無理もない。

しかしここで躊躇していては出穂が到着して友人同士でのタイマン勝負となるわけで、避けられない戦いであれば炸裂弾(メテオラ)で吹っ飛ばす方が()()()()ということなのだ。

 

それから約1分後、想定どおりに出穂が現れて炸裂弾(メテオラ)のキューブに開いたドアを勢い良くぶつけてしまい、ショッピングモールを半壊させるほどの破壊力を持つ炸裂弾(メテオラ)によって一瞬にして戦闘体を破壊されて緊急脱出(ベイルアウト)してしまったのだった。

その様子を50メートルほど離れて見守っていた千佳はその瞬間に叫んでいた。

 

「ごめんなさい、出穂ちゃん!」

 

その目で緊急脱出(ベイルアウト)の軌跡を追うが、すぐに北側の縁に立って修たちのいる主戦場を見下ろした。

 

 

◆◆◆

 

 

北側の主戦場では麟児と熊谷の戦いに修が参戦し、熊谷はますます追い詰められていった。

麟児が()()()()()()熊谷をもっと早く緊急脱出(ベイルアウト)させられるはずなのだが、あえて熊谷を()()()()おいたのには何か魂胆があると思われるが、今のところまだその理由はツグミたちにはわからない。

一方、那須が熊谷との合流を目指していると判断した来馬と村上は那須を追い、熊谷との合流前に彼女を捉えた。

こうして主戦場はふたつに分かれ、それぞれが那須隊にとって非常に不利な状態である上に狙撃手(スナイパー)の出穂が落ちてしまったことでふたりが合流せずにひとりずつ倒されておしまいとなる可能性も生まれている。

 

本部基地屋上に千佳がいることは炸裂弾(メテオラ)によってバレたが、彼女を妨害する手は失われた。

と言うのも本部基地内で屋上を目指していた太一が千佳との勝負を避けて、遅ればせながら来馬・村上との合流を目指すことにしたからだ。

しかし引き返すにも本部基地には窓というものがなく、北東側の出入り口まで行かなければ外に出ることすらできないので、その間は「無力化」してしまったことになる。

これも玉狛第2の作戦の一部で、これによって太一は約20分の間ずっと何もできずにただ階段を上り下りしただけであった。

 

そしてここまでの段階で遊真はまだバッグワームを解除していない状態であるから、鈴鳴第一と那須隊は遊真の強襲を警戒している。

彼が千佳を抱えて屋上まで行ったことは玉狛第2のチームメイトしか知らないことなので、試合がそろそろ中盤だというのに彼が姿を現さないことを気味悪がっているのだ。

同時に千佳が本部基地屋上にいるため狙撃に警戒をしなければならず、建物の陰に隠れながらの戦闘となって思うように動けない。

おかげで千佳は何の憂いもなく狙撃できるのだが、まだそのチャンスは訪れていなかった。

 

 

「試合も中盤戦となりましたが、那須隊の夏目隊員が緊急脱出(ベイルアウト)してしまっただけで、本部基地北側の攻防は膠着状態といった感があります。烏丸隊員、今後どのような動きになると思われますか?」

 

京介が桜子から指名されて解説する。

 

「まず西側の那須隊長と来馬隊長・村上隊員の3人の戦いですが、那須隊長のリアルタイムに弾道設定をするスゴ技とオペレーターの支援によって的確に敵を攻撃していて近付けないようにしながら熊谷隊員との合流を試みています。そうすることによって2対2対2の状況を作って混戦に持ち込もうということでしょう。戦力が分断されてしまっていますから、いち早く合流したいというのが那須隊です。鈴鳴第一は那須隊長を追えば自動的に三つ巴の戦いに巻き込まれるわけですから、その前に落としてしまいたいと思うのですが、背後にいて姿が見えない敵にも的確に攻撃をする那須隊長に効果的な攻撃を当てることはまだできていません。玉狛第2は…今のところ夏目隊員を落としただけで、チャンスはあるというのに積極的に点を取りにいこうとはしていません。以前の玉狛第2は上位2位までに入るためにガツガツと点を取りに動いていましたが、今期はそういう様子はなく過去2試合も肩に力が入らず自然体で勝っています。これが彼らの本来の実力で、B級ランク戦を楽しんでいるように感じていましたがそうでもないようで、正直良くわからなくなってきました。ですが彼女なら何かわかるかもしれません」

 

そう言って京介はツグミにバトンタッチした。

 

「玉狛支部の先輩である烏丸隊員にわからないことでしたら、本部の人間であるわたしにどれだけのことがわかるでしょうか? ですが玉狛第2の戦い方に余裕が見られるのはわたしも感じていました。まあ、それは各自の悩みや迷いが解決したことで気分一新したのではないでしょうか。それに三雲隊長が目的を失ったことが逆に精神的重圧から解放されるきっかけとなり、ボーダー隊員として真にあるべき姿に気付いたのだと思います」

 

「ボーダー隊員として真にあるべき姿とは?」

 

「ボーダーに入隊する動機にはいろいろあります。近界民(ネイバー)に親しい人を殺された恨みを晴らしたい。トリオン兵に家を壊されて住む場所を失った。今の生活を守るため。人それぞれで、玉狛第2の雨取隊員は近界民(ネイバー)にさらわれた友人を自分の手で探して助け出したいという動機で入隊し、三雲隊長と空閑隊員はその願いを叶えるために3人で部隊(チーム)を組むことになったんです。そのためにB級ランク戦では『いかに多く点を取るか』を目的とした戦いを繰り広げてきました。結果として2位になり遠征にも参加しましたが、その後のA級昇格試験では残念な結果となったことはみなさんもご存知でしょう。B級ランク戦は対人戦闘の訓練として一定の効果はありますが、ランク戦で上位の成績を残したからと言って防衛隊員として優れているとは限りません。そしてアフト遠征が終わってこれまでずっと歩み続けていた足を止めることになり、自分自身を振り返ることで気付くことがあったのでしょう。それは…」

 

「それは…?」

 

「この話は試合が終わってからにしましょう。ほら、ようやく那須隊長と熊谷隊員が合流したようですから、これからが本番ですよ」

 

ツグミがモニターを見ながら言った。

 


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