ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
「さあ、B級ランク戦2日目・夜の部! 徐々に形勢が傾いてきました! ここまでのスコアは…玉狛第2、1得点ノーアウト! 諏訪隊、1得点1アウト! 荒船隊、得点なし1アウト!
桜子がここまでの得点結果を説明する。
そして続けた。
「ここで反撃に転じたのは剣も狙撃もマスタークラス! 武闘派
「荒船さんは8ヶ月前まではバリバリの
緑川が答えている間も、遊真と荒船の攻防は続いていた。
背後に回った遊真を荒船はバッグワームで見えない位置から弧月で突き刺そうとする。
「バッグワームを目隠しに使って攻撃!?」
「それっぽいことしてますね。ですが実際荒船がバッグワームを解除しないのは、諏訪に削られた足を隠すためでしょう。バレればそこを攻められます」
「なるほど…!」
さすがはベテランの東の分析である。
そして遊真と荒船の攻防はますます激しいものとなっていき、そのバランスが崩れたのは穂苅の狙撃だった。
穂苅の放った弾が遊真の頭をかすめ、その一瞬を狙って荒船が弧月を振り下ろす。
それを遊真がスコーピオンで受け太刀をするが、スコーピオンが刃こぼれを起こした。
「空閑隊員が初めて太刀を受けた! 穂苅隊員の援護狙撃が機能している! スコーピオンと弧月では耐久力に差があります! 打ち合えば荒船隊長が有利!」
荒船隊は遊真と緑川のランク外対戦の映像を何度も見て彼の戦い方を調べ上げていた。
そのおかげで遊真の動きは荒船たちに完全に読まれている。
遊真もこのことには気付いているが、一対二と数的に不利であることも相まって押され気味となっていた。
しかしそこに助っ人が入った。
笹森がバッグワームで姿を消して穂苅に迫っていたのだ。
こうなると穂苅も荒船の援護ができる状態ではない。
「諏訪隊も二手に分かれそれぞれ得点を狙う! 戦況が混沌としてきた!」
「各隊ここが勝負所ですね。荒船隊はふたりともマークされていて、諏訪隊もバラけた。これは玉狛が当初から狙っていた状況にかなり近いはず。最大のチャンスをものにできるか。逆にそれをはね返せるか。あるいは自分たちのチャンスに変えられるか。荒船と空閑のエース対決を中心にして、おそらくここで決まります」
東はこれが偶然ではなく修の筋書きのとおりに進んでいることに気付いていた。
「両方の強さを知る緑川くんから見て、エース対決はどちらに分があると思いますか?」
「そりゃ遊真先輩だね。荒船さんは今
実際、遊真の素早い動きに荒船は翻弄されており、威力は低いながらもスコーピオンは荒船にダメージを与え続けている。
そして東はマップを見て解説する。
「玉狛の三雲が地味にいい動きをしていますね。荒船隊のふたりを狙えるいい距離にいつの間にか陣取ってます。バッグワームを使わずレーダーに映っているので、荒船隊は三雲の攻撃にも意識を割かざるをえない。ただそこにいるだけで荒船と穂苅を心理的に挟み撃ちしている。いい射程の使い方ですね」
笹森が上手い具合に穂苅を追いかけて来て、修は荒船と穂苅の両方を射程に捉えていた。
それは偶然のようにも見えるが、これは修が時間をかけて練りに練った作戦である。
穂苅は修の射線が邪魔で逃げ道が制限され、笹森が近付いて来たために
「…こりゃ死んだな、オレ」
穂苅は自分がもう助からないと察し、イーグレットの銃口を遊真に向けた。
銃弾は遊真の左肩を撃ち抜いたが、次の瞬間に穂苅は笹森の手に落ちた。
「穂苅隊員、捨て身で狙撃!? そして
ここで遊真と荒船の対決は荒船有利に傾いたと思った東だが、緑川の方はその先を見ていた。
「まだだよ」
遊真は後退して民家の塀ギリギリの場所にグラスホッパーを出した。
それを見た荒船は彼が上にジャンプして逃げると考えたのだが、遊真は背後の壁を大きく蹴って低い位置で荒船に突進。
目にも止まらぬ速さでスコーピオンは荒船の両膝を一刀両断した。
「「上手い!」」
グラスホッパーを出したのはフェイントで、遊真が戦闘慣れしている故のトリッキーな技であった。
それを東と緑川は素直に認めた。
しかし戦闘は続いている。
荒船は脚を失うことでトリオン漏出甚大の状態だがまだ生きているのだ。
そしてふたりが手負いとなった状態で諏訪が乱入し、
さらにフリーになった笹森が合流しようと近付いて来ていた。
それも奇襲狙いなのかカメレオンを起動し、遊真の背後を取ろうとしている。
[空閑! 笹森先輩がそっちに向かった! カメレオンを起動! 宇佐美先輩、サポート頼みます!]
[OK! 遊真くん、真後ろのちょびっと左! すぐ来るよ!]
[了解]
カメレオンを使っていてもおよその場所がわかっていれば警戒できるし、攻撃を仕掛けてくる時にはどうしても姿を現す。
そこを突けばいいのだ。
遊真の反射神経と戦闘力なら笹森レベルどうってことはない…はずだった。
しかし笹森は誰も想像していなかった行動に出た。
カメレオンを解除せず、遊真を背後から羽交い締めにしたのだ。
武器を使わないならカメレオンを解除する必要はない。
もちろん遊真はとっさにスコーピオンで笹森を串刺しにした。
「諏訪さん!! 止めました!!」
「よくやった、日佐人。…吹っ飛ばす!!」
笹森は身を捨てて遊真の足止めし、そこを諏訪が
[千佳ちゃん!]
[はい!]
千佳は栞の指示で諏訪のいる建物を狙ってアイビスを撃った。
その威力は邪魔な建物ごと木っ端微塵にし、遊真・笹森・諏訪・荒船の4人が混戦状態となった戦場を一変させた。
ダメージを受けていた笹森に遊真がトドメを刺し、笹森は
諏訪は千佳の射線から逃れるために身を隠す。
荒船はトリオン漏出で瀕死の状態であったが、千佳の居場所を確認してイーグレットを命中させた。
「笹森隊員と雨取隊員が
残るは修・遊真・諏訪・荒船の4人。
戦闘は最終局面となった。
脚を失いトリオン漏出で瀕死の荒船から片脚で機動力の低い諏訪に標的を変えた遊真は、諏訪の
諏訪も追う足がないから、遊真が近付いてくるのを歓迎していた。
そして遊真がグラスホッパーを使って諏訪に攻撃を仕掛けようとしたが、その行動は諏訪に読まれてしまっていた。
「読みきった!」
「勝負ありですね」
桜子と東の視線はモニターに映った修に注がれていた。
「玉狛の勝ちです」
シールドで
諏訪は修の
いや、気付いていたとしても修を対処する隙に遊真に斬られただろう。
かろうじて遊真は生き残り、荒船は戦闘体の限界が来てしまった。
「諏訪隊長、荒船隊長が
玉狛第2の勝利は修の綿密な作戦がポイントだと言えるのだが、やはり遊真の戦闘力の高さと、ここぞという時の千佳の一発がなければ成り立たない。
だから
「きみの後輩たちはすごいね。B級になりたての
嵐山がツグミに話しかける。
「それは3人がそれぞれ自分の得意な分野でその力を十分に発揮し、不得手な部分を誰かが補うことができるからです。三雲は
面倒だと言いながらもツグミは嬉しいというか楽しくて仕方がないといった表情をしている。
「そうだな。だが彼らもまたきみのことを先輩として慕っているものの、同時に強力なライバルであるから厄介だと思っているぞ、きっと」
「でしょうね。…あ、東さんの総括が始まるようです」
ツグミと嵐山は会話を中止して、東の解説に聞き入った。
「…さて、振り返ってみて、この試合いかがだったでしょうか?」
「そうですね…終始玉狛が作戦勝ちしていたという印象ですね。相手の得意な陣形を崩す。エースの空閑を上手く
東がそこまで解説をしたところで、観客席の双葉が米屋に訊く。
「米屋先輩、玉狛の作戦ってそんなに意味があったんですか? 単にクガって人が強かっただけに見えたんですけど」
その疑問は誰でも抱くもの。
東と緑川は双葉たちの会話に耳を傾けた。
しかし米屋は自分では回答できないと、隣の古寺にバトンを渡した。
「どうなの? センパイ」
「おれですか?」
古寺は仕方がないとばかりに解説を始めた。
「…黒江ちゃんのいうとおり確かに空閑は強いけど、普通のマップで五分の条件だったら、玉狛が荒船隊を崩すのは難しかったと思うよ。さっき東さんも解説で言ってたとおり、遠距離戦じゃ経験の差が歴然だからね。玉狛もそれをわかってたから、極端な地形を選んで
「…荒船隊と諏訪隊を自分たちのルールに乗せたってことですか?」
「いい表現だね。そのとおり。『地形を使って
「なるほど、ありがとうございます」
素直に礼を言う双葉。
「え…古寺に全部言われたので、話すことがなくなっちゃいました」
東のひと言で観客席がどっと沸く。
古寺は学力が高く、戦術面について造詣が深い。
彼の分析は東のお株を奪ってしまったようだ。
「あっ、すいません!」
古寺は慌てて東に詫びを入れた。
「…さて、本日の試合がすべて終了! 暫定順位が更新されます! 玉狛第2が8位に上昇。早くもB級中位のトップに立った! 諏訪隊は10位、荒船隊は11位にダウン。次回の対戦の組み合わせも出ました! 注目の玉狛第2の次の相手は…暫定13位那須隊と暫定9位鈴鳴第一です!」
「これは面白い組み合わせですね」
東が興味深げに言う。
「鈴鳴第一と那須隊は前衛・中衛・後衛がそれぞれひとりずつ。そして中衛の隊員が
東の言うように「追う側」から「追われる側」となった玉狛第2。
作戦室で総括を聞いていた修たちは気合を入れ直した。
ランク戦が終了し、観客たちはそれぞれ今見た試合の感想を口にしながら観覧室を出ていく。
ツグミも嵐山たちと別れ、東のもとへ駆け寄った。
「さすがは東さんの解説です。すごく良くわかりました」
「それなら三雲くんたちの役に立てるかな?」
東はそう言ってICレコーダーをツグミに手渡した。
「はい。どうもありがとうございました」
ツグミは深々と頭を下げて礼を言う。
「いずれ三雲隊と霧科隊も東隊と対戦することになるでしょうが、その時はよろしくお願いします。では、これで失礼いたします」
東隊、いずれは対戦しなければならない相手だ。
その時に東を失望させないよう、日々の鍛錬に力を入れることを改めて決意したツグミだった。