ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

482 / 721
463話

 

 

「玉狛第2の作戦室につないで三雲隊長に直接訊いてみましょう」

 

「ええっ!?」

 

「このB級ランク戦というものは戦っている隊員の様子をここにいる実況・解説の人間や観客は単に見ているだけです。彼らの会話など現場の音声は入ってきませんから、わたしたち解説者は推測で語っていますのでそれが真実かどうかわかりません。確認できませんからね。ですが当事者から話を聞くことで彼らがどのような気持ちで戦ったのかがわかるはず。意味のあることだと思いますよ」

 

「おお、それはナイスアイデアですね!」

 

「勝った部隊(チーム)の隊長に試合の感想を聞くヒーローインタビューはもちろんのこと、負けてしまった部隊(チーム)からも敗因や悔しい気持ちを話してもらうことでここにいる訓練生たちにとっても役に立つアドバイスになると思います」

 

「ヒーローインタビュー…いいんじゃないですか! ここの通信装置を使えば作戦室につながりますから。やってみますね」

 

桜子はすぐに手元のキーボードを操作して玉狛第2の作戦室と音声通話の回線を開いた。

そして事情を説明し、続いてモニター前面に作戦室の様子を映し出す。

 

「じゃあ、始めますね。…玉狛第2のみなさん、完全勝利、おめでとうございます。お疲れのところ申し訳ありませんが、インタビューをさせていただきます」

 

[はい、よろしくお願いします]

 

隊長である修が代表して答えることになったらしい。

突然のことなので冷や汗を流しながら、何を質問されるのか不安でいることだろう。

 

「えっと…前半の山場は雨取隊員の炸裂弾(メテオラ)で夏目隊員が吹き飛ばされて緊急脱出(ベイルアウト)してしまった場面ですが、なぜ狙撃ではなく炸裂弾(メテオラ)だったのか教えてください」

 

[それは本人の精神的な負担を抑えたことと、派手に居場所を教えることで屋上に千佳…ではなく雨取隊員がいることをアピールするためでした]

 

「それは三雲隊長の指示ですか?」

 

[いいえ、この作戦は麟児さ…麟児隊員の提案です。ぼくは屋上に一緒に上った空閑…隊員にやってもらおうと提案しましたが、雨取隊員がいることを派手にアピールすることで鈴鳴第一と那須隊の狙撃に対する警戒が屋上だけになると言い、彼女が地上に降りて動いているとは想像できなくなると言われて麟児隊員の案に賛成しました]

 

修がそう答えると、観客たちから「ほう」とか「へえ」とかいった感心したという意味のため息が漏れる。

それはその作戦を考えた玉狛第2に対してと同時にそれを見抜いていたツグミへ向けたものでもあった。

 

「空閑隊員がずっとバッグワームを起動していたのは、最後の奇襲に備えて屋上で待機するためということでしょうか? まさか雨取隊員と入れ替わっているとは誰も想像しませんからね」

 

[はい。おかげで最後の頭上からの攻撃に際して那須隊のふたりは反応できず、ぼくたちの作戦は大成功となりました]

 

「ぼくたちと言いますと、考えたのは三雲隊長ということですか?」

 

桜子にそう訊かれた修は少し困ったような顔になって言った。

 

[いえ、今回の作戦を考えたのは麟児隊員です。鈴鳴第一と那須隊との三つ巴の戦いは以前に経験していて、ぼくの考えた作戦では簡単に読まれてしまいそうですし、それにマップが発表されてたった10分では思い付きません。ですが麟児隊員が本部基地を利用する今回の作戦をこの短い時間で考えてくれましたので即採用ということになりました]

 

これもまたツグミが推測していたとおりだったので、観客たちは麟児の軍師としての才能とそれを言い当てるツグミに対して尊敬の念を表情で表していた。

 

「ここまで3戦ともすべてほぼノーダメージで完全試合となっていますが、これは意識して戦っているんですか? それとも結果的にそうなったんでしょうか?」

 

[えっと…これはこのB級ランク戦に参加することになって、A級を目指すことももちろん考えてはいるんですが、それよりもボーダー隊員として何が大切なのかを考えたところ絶対に死なないことだとわかったので、できる限り緊急脱出(ベイルアウト)をしない戦いを心がけようとみんなで決めたんです]

 

「それは何かきっかけとなることでもあったんでしょうか?」

 

[それは玉狛第2が遠征に参加したいという目的で結成された部隊(チーム)で、以前のぼくたちはB級ランク戦に1点でも多く取って勝つことしか考えていない部隊(チーム)だったことを反省したからです。たしかにぼくたちは2位になってA級への昇格試験を受験する資格を得ましたが見事に惨敗。ぼくのスパイダーを使ったワイヤー陣も一定の効果はありましたが、それは敵が積極的にぼくたちを倒そうとする場合です。無視して通り過ぎてしまえば何の意味もないものとなってしまいます。何が言いたいのかというと、ぼくたちの2位という成績はボーダー隊員としての真の強さではなく、またB級ランク戦というルールの中で敵も味方もそのルールを守った礼儀正しい戦いをするので危険はまったくありません。ですがアフトクラトルの人型近界民(ネイバー)と戦った時のように敵の目的や行動パターンによっては別の力が必要だと思い知らされたんです]

 

「別の力とは何ですか?」

 

[それは絶対に死なない戦いをするという強い意思です。トリオン体で戦うということは生身の身体にダメージを受けることはありませんから痛みも感じませんし、いざとなれば緊急脱出(ベイルアウト)で安全な場所に転送されるので絶対に死ぬことはありません。ですがぼくはアフトとの戦いでやむなく換装を解いて重傷を負いましたし、遠征先では緊急脱出(ベイルアウト)をすることによって遠征艇の場所がバレてしまって最悪の状況になりかねないことを知りました。ならば何が重要かというと、トリオン体で戦うにしてもできるだけ負傷しない戦い方を覚えること。緊急脱出(ベイルアウト)を前提とした戦いは無茶な戦い方が平気でできてしまいますので、緊急脱出(ベイルアウト)してしまうようなダメージを受けずに済む戦い方、そしてそのためには頭を使って敵の意表を突くような作戦を考えるようにしようと決めました。おかげでここまでの3戦は理想的な戦いができていると思います]

 

「なるほど深い考えがあっての行動だったんですね。やはりそれは麟児隊員の加入が大きく影響しているんでしょうか?」

 

[それももちろんありますが、ぼくの意識が変わったきっかけはある人の戦い方や教えに感銘を受けたからです。その人はぼくたちに優しく、時には厳しくボーダー隊員としてあるべき姿を教えてくれました。それなのにぼくたちはそのことに気付くまでに時間がかかってしまいました。それも遠征に参加するという目的が果たされたことで一度足を止めることができたからです。そして今のぼくたちがあるのは多くの先輩たちや仲間が力を貸してくれたからで、その恩返しをするにはぼくたちが()()()成長して、先輩たちと一緒に戦える実力を身に付けることだと考えています。その覚悟が新生玉狛第2の戦いなんです]

 

モニターに映る修が以前よりもひと回りふた回り成長したことにツグミは嬉しくなった。

 

(オサムくんもA級昇格とか遠征というものから解放されて気持ちに余裕ができたから、初心に戻って自分を見つめ返すことができたのね…。今回の戦いではオサムくんの活躍は見られなかったけど、自分が点を取らなきゃいけないという義務感はなくなったし、麟児さんという司令塔がいてくれるから全部自分でやらなくてもいいっていう安心感も生まれたみたい。良い傾向ね)

 

「最後に麟児隊員にひとつお聞きします。今回の戦闘を見ていてそれぞれの動きや判断に理由があったことは理解できましたが、そこまでしなくても良かったのではないかと思う部分もあります。なぜあなたがこのような作戦を実行したのか教えてください」

 

桜子が麟児を名指しして訊くと、彼は当然だとばかりの顔で答えたのだった。

 

[だってその方が面白いじゃないか。俺が観客の立場だったら驚いたり興奮したりする試合を見たいからね]

 

麟児の言葉を聞いたとたん、観客たちの視線が一斉にツグミに向けられた。

解説の中で彼女は自分と麟児の考え方が同じで、B級ランク戦をエンターテイメントとして観客を楽しませようと考えて戦っているのだろうと言ったばかりであるから、観客たちは驚くのも無理はない。

 

「玉狛第2のみなさん、どうもありがとうございました」

 

桜子は通信を切ると深呼吸をひとつしてから言った。

 

「ますます玉狛第2から目が離せなくなりました! これでB級ランク戦、3日目・夜の部を終了いたします! 烏丸隊員、霧科さん、ありがとうございました。次は18日の水曜日。次回をお楽しみに!」

 

 

こうして玉狛第2にまた新たな伝説(レジェンド)が生まれたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

ツグミは急いで解説席を離れ、観覧室の外にいるはずの迅を追いかけた。

 

「ジンさん、やっぱり待っててくれましたね」

 

迅はぞろぞろと出て行く観客たちの邪魔にならない場所に立ち、ツグミが出て来るのを待っていたのだ。

 

「待っているに決まってるだろ。しかしメガネくんたちの試合を見ようと来てみたら、おまえが解説席にいるんで驚いたよ」

 

「わたしも玉狛の試合が見たくて観覧席に座っていたんですけど、シュンくんの代理ってことで解説を頼まれちゃって。それでわたしの解説はどうでした?」

 

「なかなか様になっていたんじゃないか。それに玉狛第2、メガネくんたちのことを良く理解している。おまえの推測はほぼ当たっていたし、おまえがメガネくんたちに伝えたかったこともちゃんと伝わっていた。よかったな」

 

「はい。…ところでジンさんのこれからのご予定は? わたしは彼氏にバレンタインのプレゼントをしなきゃならないので寮に早く戻らなきゃならないんです」

 

ツグミがそう言うと、迅はニヤニヤしながら答えた。

 

「俺は彼女に作ってもらったバレンタインのお菓子を早く食べたいからすぐに寮に帰るよ」

 

「じゃあ、行き先が同じですから一緒に帰りましょうか」

 

ツグミと迅は並んで歩き出し、本部基地を出てしばらく行くと周囲に誰もいないことを確認してから手をつないだ。

 

 

◆◆◆

 

 

観覧室を出た京介は玉狛第2の作戦室へと向かっていた。

それは約束のものを渡すためで、ひとり廊下を歩いていると向かいから木虎が歩いて来た。

木虎は京介の姿を見るやいなや駆け寄って来てにこやかに挨拶をした。

 

「烏丸先輩、お疲れさまです」

 

「お疲れ、木虎。こんな時間に本部にいるってことは広報の仕事か?」

 

「はい、そうです」

 

「忙しそうだな? ま、身体を壊さない程度に頑張れよ」

 

「ありがとうございます! 烏丸先輩はなぜ本部に?」

 

「B級ランク戦の解説。さっきまで修たちの試合の解説をしていたんだ」

 

「そうだったんですか。それで結果は?」

 

「鈴鳴第一と那須隊との三つ巴で、玉狛第2が()()完全試合で勝った」

 

「上位グループで完全試合なんて三雲くんたちも成長しましたね。雨取さんのお兄さんを加えて4人で再結成したとは聞いていましたが、わずか2試合で上位グループに食い込むなんて去年のランク戦を思い出しますね」

 

「ああ。だけど1年前とは大きく違っている。まあ、時間があったら木虎も修たちの試合を見てやってくれ。期待を裏切らないような戦いを見せてくれるはずだ」

 

「わかりました! ぜひ時間を作って見に行きます」

 

「頼んだ。じゃあな」

 

京介は木虎と立ち話をし、まだ話したいという顔の木虎を残して去って行った。

そして廊下の角を曲がったところで今度は修たちが歩いて来るのが見え、修がパタパタと走って京介のところまで来た。

 

「烏丸先輩、解説お疲れさまでした」

 

「ああ、おまえたちもお疲れさん。頼まれていた解説を録音しておいたぞ。これが預かったICレコーダーだ」

 

そう言って修にICレコーダーを手渡した。

これは以前に玉狛第2の試合を東が解説した時にその音声をツグミが録音しておいて、それを修に渡したことがあった。

解説を聞くことで勉強になると知った修はそれ以降の自分たちの試合のたびに解説者に頼んで録音してもらっていたのだ。

そして今回は京介が解説をするということで、彼にICレコーダーを渡していた。

 

「ありがとうございます。玉狛に帰ったらさっそく聞かせてもらいます」

 

「それはいいが今夜はやめておけ。トリオン体で戦ったとはいっても疲れているだろ。どうせ明日は日曜日で時間はたっぷりとあるんだから、明日の朝飯を食ってからでいいんじゃないか」

 

「わかりました。そうします」

 

「あと、レイジさんが迎えに来てくれるんだろ。待たせるのは悪いから早く行った方がいいぞ」

 

「はい。…あ、でも全員は乗れませんよね?」

 

「俺と宇佐美は林藤支部長が家まで送ってくれることになってる。さっき会議が終わったと連絡があったから宇佐美を呼びに来たんだ」

 

「そうですか。…あ、メールだ」

 

修は携帯電話に届いたメールを開く。

 

「レイジさんが着いたそうです」

 

「じゃ、一緒に行くか」

 

「はい」

 

修たちは気分も晴れ晴れとしていて会話も弾んでいた。

それは単に完全試合を成し遂げたからではなく、自分たちの納得のいく試合ができたことで満足をしているからだ。

A級昇格でも遠征参加にもこだわる必要がなくなったからこそ得られた成長の喜びを感じているのだろう。

 

 

◆◆◆

 

 

一夜明けて修たちは玉狛支部の作戦室で前日の自分たちの試合のログを見てから解説を聞こうとICレコーダーの音声を再生した。

するとそこに想像していなかった人物の声が入っており、彼女の推測がほぼ当たっていたことに修たちは驚いたが、それ以上に麟児は彼女の頭脳に感心していた。

 

(少ない情報の中で俺が近界民(ネイバー)であると推測し、いくつもの状況証拠を集めて証明した手並みは見事だった。ツグミ(あいつ)近界民(ネイバー)に対して偏見や敵意を持っていない。一方、玉狛の連中は近界民(ネイバー)と仲良くしようと口では言っていても、奴らは俺のような本部では扱いづらい近界民(ネイバー)を預かっているだけ。敵意はないが好意もない。それに近界民(ネイバー)との関係改善のために具体的に何かをするわけでもない。旧ボーダーと言われる頃からの古参でトリガー使いとしては有能な奴もいるが、所詮自分の身が一番なのか積極的に何かをする気がなく停滞している。あいつも元は玉狛の人間だったらしいが、ここを出て行ったことで目が覚めたのだろうか? 一度ゆっくり話がしてみたいな)

 

麟児が感じた玉狛支部の雰囲気はあながち外れていない。

数々の苦難を乗り越えてきた精鋭を中心とした本部の方針とは違う考え方を持つ人間の集団で、近界民(ネイバー)を敵視する本部の人間とは逆の友好的な近界民(ネイバー)とは仲良くやっていこうという思想を持っている。

しかしやっていることといえば利用できる近界民(ネイバー)を手元において()()しているだけ。

おまけに本部未承認の玉狛独自の武器(トリガー)の開発をするなどして、組織の一部署でありながら城戸から警戒される存在であるというのだから、麟児の目には異端の存在に見えるのは当然だ。

そして近界民(ネイバー)である彼だからこそ玉狛支部メンバーの言動が薄っぺらく感じ、逆に何度も近界(ネイバーフッド)を往復してキオンやアフトクラトルの元首と自ら会談をするツグミに一目置くのは自然な流れともいえる。

彼女が美辞麗句を並び立てて理想を語るだけではなく、危険を伴うとしても他人任せではなく自分が行動する有言実行の人間であることを麟児は評価している。

さらに元エクトスの諜報員で第一次近界民(ネイバー)侵攻の被害を拡大させた張本人である自分を許すのではなく、また憎むのでもなく「受け入れる」という彼女の懐の深さに感銘を受けて素直に()()()()をしていたのだった。

 

(俺は死罪になって当然のことをしたし、第一次侵攻の遺族や被害者は俺の存在を知れば絶対に許せないはずだ。しかし俺はこうして何事もなかったかのようにボーダー隊員になっている。それはボーダーが俺を監視するためであり、これまでに得た近界(ネイバーフッド)の情報を提供させるため。そしてなによりも千佳をボーダーに引き留めるための手段でしかないが、俺にとって玄界(ここ)は居心地が良い。自分が近界民(ネイバー)であることを隠しながら生きていることは変わらないが、千佳に対して後ろめたさを感じることがない分すっきりとした気分でいられる。そしてここには諜報員をやっていた時には持つことがなかった仲間がいる。祖国エクトスを裏切ってやっと得られた心の平穏がここにはあるんだ)

 

「心の弱っている人間につけ込んで相手の記憶を改ざんしてしまう」という能力を見出された少年リンジはエクトスの軍で諜報員になる訓練を受けさせられ、侵攻の標的(ターゲット)となった国に()()()()()()任務を行うことを繰り返していた。

その中で玄界(ミデン)侵攻が計画された時は、玄界(ミデン)自体が近界民(ネイバー)にとって未知の世界であったため、長期にわたって調査をする必要があり、彼は雨取家の家族になりすましていつものように任務を遂行していた。

当時の雨取家は千佳が近界民(ネイバー)に狙われているという彼女の言葉に両親は耳を傾けず、家庭が崩壊寸前であったためにリンジはそれを利用したのだ。

そして第一次近界民(ネイバー)侵攻によって彼の任務は終了して帰国するはずであった。

ところが彼が雨取麟児という人間で偽りとはいえ両親と妹と一緒に暮らしているうちに情が湧いてしまい、彼は当日家族が三門市を離れることで被害に遭わないように誘導した。

千佳ほどのトリオン能力者をエクトスの人間が見逃すはずもなく、彼女を守るにはそうするしかなかったのだ。

これは明らかに祖国と軍の命令に逆らう行為であるが、生まれて初めて家庭という暖かい場所の存在を知った彼にはなによりも大切で守りたいものになっていたから後悔はしていなかった。

だから友人青葉の失踪を自分のせいだと思い込んでいる千佳の姿を見ていられず、密かにエクトスへ戻る手段を探していた時に弟を探しに近界(ネイバーフッド)へ行きたいという鳩原に接近して仲間に引き込んで密航した。

彼のやったことはエクトスに対しても玄界(ミデン)にとっても許されざる行為だが、彼ひとりを罪人にすれば丸く収まるというものではない。

そもそも近界(ネイバーフッド)におけるトリオンのための戦争や労働人口の少なさが原因であり、子供の頃から人を騙して利用する仕事を強いられた麟児も被害者なのだと考えれば彼を罰したところで何も変わらない。

エクトスへ帰ることもできず、近界(ネイバーフッド)のどこかの国で生きていくにしても彼にはトリガー使いとして戦うしか道はない。

そんな境遇の麟児をボーダーで()()()()ことにしたツグミの提案を上層部メンバーに納得させることは難しかったが、それは心理的なものであって個人的な感情を抜きにしてボーダーと三門市の利益になると熱心にプレゼンした彼女は見事に()()した。

彼女には唐沢という非常に心強い味方がいたためでもあるのだが、唐沢を味方にできるだけの魅力があったからであり、それも彼女の持つ「力」のひとつだ。

 

ツグミ(あいつ)が俺に居場所を与えてくれるなら、俺はあいつに恩返しをしてやりたい。利用するなら存分にやってくれていい。これまでに近界(ネイバーフッド)各地を回って手に入れた情報を提供するくらい何てことはない。死なせてしまった奴らには何もしてやれないが、まだ生きている奴らのためなら何かできるはずなんだからな)

 

麟児がエクトスの諜報員であったことを知る者はボーダー内でも限られていて、その人間が口外しなければ彼の秘密は守られて普通の三門市民として平穏に暮らしていくことは可能だ。

いつかこちら側の世界の人間が近界民(ネイバー)隣人(ネイバー)として認めて共に生きていくことができるようになれば、彼も肩身が狭い思いをしなくて済むようになるだろうが、それには彼自身の協力が不可欠だ。

 

(俺は具体的に何をすればいいのかわからないが、少なくともこいつらが俺を頼ってくれているならそれに応えよう。そうしているうちに俺に対する周囲の信頼にも応えられるようになっているだろうからな)

 

試合のログを見直して反省会をしている修たちの様子を見ながら、麟児は改めて玄界(ミデン)で生きることのできる喜びを噛みしめていた。

 

 

◆◆◆

 

 

桜子はB級ランク戦で試合後に勝利した部隊(チーム)にインタビューをするというツグミのアイデアを発展させ、勝利部隊(チーム)の隊長だけでなくその試合のMVPにもインタビューをするにしてその案を上層部に上申し、許しを得ることができた。

なお当初は全部隊(チーム)から話を聞くという案もあったのだが、負けた部隊(チーム)の隊員には酷だということでこの案は却下となっている。

以降、B級ランク戦では試合後にどのような意図があってその作戦になったのかなど当事者から直接話を聞くことで訓練生には参考になり、正隊員昇格への意欲を掻き立てることになるのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。