ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
「玉狛第2の作戦室につないで三雲隊長に直接訊いてみましょう」
「ええっ!?」
「このB級ランク戦というものは戦っている隊員の様子をここにいる実況・解説の人間や観客は単に見ているだけです。彼らの会話など現場の音声は入ってきませんから、わたしたち解説者は推測で語っていますのでそれが真実かどうかわかりません。確認できませんからね。ですが当事者から話を聞くことで彼らがどのような気持ちで戦ったのかがわかるはず。意味のあることだと思いますよ」
「おお、それはナイスアイデアですね!」
「勝った
「ヒーローインタビュー…いいんじゃないですか! ここの通信装置を使えば作戦室につながりますから。やってみますね」
桜子はすぐに手元のキーボードを操作して玉狛第2の作戦室と音声通話の回線を開いた。
そして事情を説明し、続いてモニター前面に作戦室の様子を映し出す。
「じゃあ、始めますね。…玉狛第2のみなさん、完全勝利、おめでとうございます。お疲れのところ申し訳ありませんが、インタビューをさせていただきます」
[はい、よろしくお願いします]
隊長である修が代表して答えることになったらしい。
突然のことなので冷や汗を流しながら、何を質問されるのか不安でいることだろう。
「えっと…前半の山場は雨取隊員の
[それは本人の精神的な負担を抑えたことと、派手に居場所を教えることで屋上に千佳…ではなく雨取隊員がいることをアピールするためでした]
「それは三雲隊長の指示ですか?」
[いいえ、この作戦は麟児さ…麟児隊員の提案です。ぼくは屋上に一緒に上った空閑…隊員にやってもらおうと提案しましたが、雨取隊員がいることを派手にアピールすることで鈴鳴第一と那須隊の狙撃に対する警戒が屋上だけになると言い、彼女が地上に降りて動いているとは想像できなくなると言われて麟児隊員の案に賛成しました]
修がそう答えると、観客たちから「ほう」とか「へえ」とかいった感心したという意味のため息が漏れる。
それはその作戦を考えた玉狛第2に対してと同時にそれを見抜いていたツグミへ向けたものでもあった。
「空閑隊員がずっとバッグワームを起動していたのは、最後の奇襲に備えて屋上で待機するためということでしょうか? まさか雨取隊員と入れ替わっているとは誰も想像しませんからね」
[はい。おかげで最後の頭上からの攻撃に際して那須隊のふたりは反応できず、ぼくたちの作戦は大成功となりました]
「ぼくたちと言いますと、考えたのは三雲隊長ということですか?」
桜子にそう訊かれた修は少し困ったような顔になって言った。
[いえ、今回の作戦を考えたのは麟児隊員です。鈴鳴第一と那須隊との三つ巴の戦いは以前に経験していて、ぼくの考えた作戦では簡単に読まれてしまいそうですし、それにマップが発表されてたった10分では思い付きません。ですが麟児隊員が本部基地を利用する今回の作戦をこの短い時間で考えてくれましたので即採用ということになりました]
これもまたツグミが推測していたとおりだったので、観客たちは麟児の軍師としての才能とそれを言い当てるツグミに対して尊敬の念を表情で表していた。
「ここまで3戦ともすべてほぼノーダメージで完全試合となっていますが、これは意識して戦っているんですか? それとも結果的にそうなったんでしょうか?」
[えっと…これはこのB級ランク戦に参加することになって、A級を目指すことももちろん考えてはいるんですが、それよりもボーダー隊員として何が大切なのかを考えたところ絶対に死なないことだとわかったので、できる限り
「それは何かきっかけとなることでもあったんでしょうか?」
[それは玉狛第2が遠征に参加したいという目的で結成された
「別の力とは何ですか?」
[それは絶対に死なない戦いをするという強い意思です。トリオン体で戦うということは生身の身体にダメージを受けることはありませんから痛みも感じませんし、いざとなれば
「なるほど深い考えがあっての行動だったんですね。やはりそれは麟児隊員の加入が大きく影響しているんでしょうか?」
[それももちろんありますが、ぼくの意識が変わったきっかけはある人の戦い方や教えに感銘を受けたからです。その人はぼくたちに優しく、時には厳しくボーダー隊員としてあるべき姿を教えてくれました。それなのにぼくたちはそのことに気付くまでに時間がかかってしまいました。それも遠征に参加するという目的が果たされたことで一度足を止めることができたからです。そして今のぼくたちがあるのは多くの先輩たちや仲間が力を貸してくれたからで、その恩返しをするにはぼくたちが
モニターに映る修が以前よりもひと回りふた回り成長したことにツグミは嬉しくなった。
(オサムくんもA級昇格とか遠征というものから解放されて気持ちに余裕ができたから、初心に戻って自分を見つめ返すことができたのね…。今回の戦いではオサムくんの活躍は見られなかったけど、自分が点を取らなきゃいけないという義務感はなくなったし、麟児さんという司令塔がいてくれるから全部自分でやらなくてもいいっていう安心感も生まれたみたい。良い傾向ね)
「最後に麟児隊員にひとつお聞きします。今回の戦闘を見ていてそれぞれの動きや判断に理由があったことは理解できましたが、そこまでしなくても良かったのではないかと思う部分もあります。なぜあなたがこのような作戦を実行したのか教えてください」
桜子が麟児を名指しして訊くと、彼は当然だとばかりの顔で答えたのだった。
[だってその方が面白いじゃないか。俺が観客の立場だったら驚いたり興奮したりする試合を見たいからね]
麟児の言葉を聞いたとたん、観客たちの視線が一斉にツグミに向けられた。
解説の中で彼女は自分と麟児の考え方が同じで、B級ランク戦をエンターテイメントとして観客を楽しませようと考えて戦っているのだろうと言ったばかりであるから、観客たちは驚くのも無理はない。
「玉狛第2のみなさん、どうもありがとうございました」
桜子は通信を切ると深呼吸をひとつしてから言った。
「ますます玉狛第2から目が離せなくなりました! これでB級ランク戦、3日目・夜の部を終了いたします! 烏丸隊員、霧科さん、ありがとうございました。次は18日の水曜日。次回をお楽しみに!」
こうして玉狛第2にまた新たな
◆◆◆
ツグミは急いで解説席を離れ、観覧室の外にいるはずの迅を追いかけた。
「ジンさん、やっぱり待っててくれましたね」
迅はぞろぞろと出て行く観客たちの邪魔にならない場所に立ち、ツグミが出て来るのを待っていたのだ。
「待っているに決まってるだろ。しかしメガネくんたちの試合を見ようと来てみたら、おまえが解説席にいるんで驚いたよ」
「わたしも玉狛の試合が見たくて観覧席に座っていたんですけど、シュンくんの代理ってことで解説を頼まれちゃって。それでわたしの解説はどうでした?」
「なかなか様になっていたんじゃないか。それに玉狛第2、メガネくんたちのことを良く理解している。おまえの推測はほぼ当たっていたし、おまえがメガネくんたちに伝えたかったこともちゃんと伝わっていた。よかったな」
「はい。…ところでジンさんのこれからのご予定は? わたしは彼氏にバレンタインのプレゼントをしなきゃならないので寮に早く戻らなきゃならないんです」
ツグミがそう言うと、迅はニヤニヤしながら答えた。
「俺は彼女に作ってもらったバレンタインのお菓子を早く食べたいからすぐに寮に帰るよ」
「じゃあ、行き先が同じですから一緒に帰りましょうか」
ツグミと迅は並んで歩き出し、本部基地を出てしばらく行くと周囲に誰もいないことを確認してから手をつないだ。
◆◆◆
観覧室を出た京介は玉狛第2の作戦室へと向かっていた。
それは約束のものを渡すためで、ひとり廊下を歩いていると向かいから木虎が歩いて来た。
木虎は京介の姿を見るやいなや駆け寄って来てにこやかに挨拶をした。
「烏丸先輩、お疲れさまです」
「お疲れ、木虎。こんな時間に本部にいるってことは広報の仕事か?」
「はい、そうです」
「忙しそうだな? ま、身体を壊さない程度に頑張れよ」
「ありがとうございます! 烏丸先輩はなぜ本部に?」
「B級ランク戦の解説。さっきまで修たちの試合の解説をしていたんだ」
「そうだったんですか。それで結果は?」
「鈴鳴第一と那須隊との三つ巴で、玉狛第2が
「上位グループで完全試合なんて三雲くんたちも成長しましたね。雨取さんのお兄さんを加えて4人で再結成したとは聞いていましたが、わずか2試合で上位グループに食い込むなんて去年のランク戦を思い出しますね」
「ああ。だけど1年前とは大きく違っている。まあ、時間があったら木虎も修たちの試合を見てやってくれ。期待を裏切らないような戦いを見せてくれるはずだ」
「わかりました! ぜひ時間を作って見に行きます」
「頼んだ。じゃあな」
京介は木虎と立ち話をし、まだ話したいという顔の木虎を残して去って行った。
そして廊下の角を曲がったところで今度は修たちが歩いて来るのが見え、修がパタパタと走って京介のところまで来た。
「烏丸先輩、解説お疲れさまでした」
「ああ、おまえたちもお疲れさん。頼まれていた解説を録音しておいたぞ。これが預かったICレコーダーだ」
そう言って修にICレコーダーを手渡した。
これは以前に玉狛第2の試合を東が解説した時にその音声をツグミが録音しておいて、それを修に渡したことがあった。
解説を聞くことで勉強になると知った修はそれ以降の自分たちの試合のたびに解説者に頼んで録音してもらっていたのだ。
そして今回は京介が解説をするということで、彼にICレコーダーを渡していた。
「ありがとうございます。玉狛に帰ったらさっそく聞かせてもらいます」
「それはいいが今夜はやめておけ。トリオン体で戦ったとはいっても疲れているだろ。どうせ明日は日曜日で時間はたっぷりとあるんだから、明日の朝飯を食ってからでいいんじゃないか」
「わかりました。そうします」
「あと、レイジさんが迎えに来てくれるんだろ。待たせるのは悪いから早く行った方がいいぞ」
「はい。…あ、でも全員は乗れませんよね?」
「俺と宇佐美は林藤支部長が家まで送ってくれることになってる。さっき会議が終わったと連絡があったから宇佐美を呼びに来たんだ」
「そうですか。…あ、メールだ」
修は携帯電話に届いたメールを開く。
「レイジさんが着いたそうです」
「じゃ、一緒に行くか」
「はい」
修たちは気分も晴れ晴れとしていて会話も弾んでいた。
それは単に完全試合を成し遂げたからではなく、自分たちの納得のいく試合ができたことで満足をしているからだ。
A級昇格でも遠征参加にもこだわる必要がなくなったからこそ得られた成長の喜びを感じているのだろう。
◆◆◆
一夜明けて修たちは玉狛支部の作戦室で前日の自分たちの試合のログを見てから解説を聞こうとICレコーダーの音声を再生した。
するとそこに想像していなかった人物の声が入っており、彼女の推測がほぼ当たっていたことに修たちは驚いたが、それ以上に麟児は彼女の頭脳に感心していた。
(少ない情報の中で俺が
麟児が感じた玉狛支部の雰囲気はあながち外れていない。
数々の苦難を乗り越えてきた精鋭を中心とした本部の方針とは違う考え方を持つ人間の集団で、
しかしやっていることといえば利用できる
おまけに本部未承認の玉狛独自の
そして
彼女が美辞麗句を並び立てて理想を語るだけではなく、危険を伴うとしても他人任せではなく自分が行動する有言実行の人間であることを麟児は評価している。
さらに元エクトスの諜報員で第一次
(俺は死罪になって当然のことをしたし、第一次侵攻の遺族や被害者は俺の存在を知れば絶対に許せないはずだ。しかし俺はこうして何事もなかったかのようにボーダー隊員になっている。それはボーダーが俺を監視するためであり、これまでに得た
「心の弱っている人間につけ込んで相手の記憶を改ざんしてしまう」という能力を見出された少年リンジはエクトスの軍で諜報員になる訓練を受けさせられ、侵攻の
その中で
当時の雨取家は千佳が
そして第一次
ところが彼が雨取麟児という人間で偽りとはいえ両親と妹と一緒に暮らしているうちに情が湧いてしまい、彼は当日家族が三門市を離れることで被害に遭わないように誘導した。
千佳ほどのトリオン能力者をエクトスの人間が見逃すはずもなく、彼女を守るにはそうするしかなかったのだ。
これは明らかに祖国と軍の命令に逆らう行為であるが、生まれて初めて家庭という暖かい場所の存在を知った彼にはなによりも大切で守りたいものになっていたから後悔はしていなかった。
だから友人青葉の失踪を自分のせいだと思い込んでいる千佳の姿を見ていられず、密かにエクトスへ戻る手段を探していた時に弟を探しに
彼のやったことはエクトスに対しても
そもそも
エクトスへ帰ることもできず、
そんな境遇の麟児をボーダーで
彼女には唐沢という非常に心強い味方がいたためでもあるのだが、唐沢を味方にできるだけの魅力があったからであり、それも彼女の持つ「力」のひとつだ。
(
麟児がエクトスの諜報員であったことを知る者はボーダー内でも限られていて、その人間が口外しなければ彼の秘密は守られて普通の三門市民として平穏に暮らしていくことは可能だ。
いつかこちら側の世界の人間が
(俺は具体的に何をすればいいのかわからないが、少なくともこいつらが俺を頼ってくれているならそれに応えよう。そうしているうちに俺に対する周囲の信頼にも応えられるようになっているだろうからな)
試合のログを見直して反省会をしている修たちの様子を見ながら、麟児は改めて
◆◆◆
桜子はB級ランク戦で試合後に勝利した
なお当初は全
以降、B級ランク戦では試合後にどのような意図があってその作戦になったのかなど当事者から直接話を聞くことで訓練生には参考になり、正隊員昇格への意欲を掻き立てることになるのだった。