ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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465話

 

 

ツグミとテオが通されたのは宰相セルジョの執務室であった。

本来なら正式な謁見室を使用すべきなのだが、前触れもなく突然訪問をしたツグミの側に非礼があるのだから文句は言えない。

そもそもそんなことに拘らないツグミだから、話ができれば場所はどこでもかまわないのだ。

 

セルジョは年齢が30代後半で、容姿は角の生えていないハイレインを少し老けさせて神経質そうな印象にした感じであった。

一部の例外を除いてどこの国でも国王というものは世襲制で、本人に治世の能力がなくても補佐する人間が優秀であればそれなりに国は回っていくものと相場が決まっている。

 

(でもそれは真理じゃない。宰相が優秀で国王がもっと優れているという場合だってありえるもの、この人を説得できたからって油断はできない。といってもまずはこのステージをクリアしなきゃ次に進めないのは確か。どうやって攻略しようかな…?)

 

初対面でまったく予備知識のない相手と話をする場合、相手が会話に応じてくれないことが一番困るわけで、どうやって相手の口を滑らかにするかが重要だ。

そのためには年長者に対するツグミの礼儀正しさや賢さが最強の武器となる。

 

「この度はお忙しい中、突然の来訪にも関わらず快く面会のお許しをいただき誠にありがとうございます。わたしは玄界(ミデン)にある界境防衛機関ボーダーの霧科ツグミと申します」

 

「私はヒエムス宰相セルジョ、玄界(ミデン)からの愛らしいお客人を歓迎する。して、そちらの青年は? 見たところ玄界(ミデン)の人間ではなさそうだが」

 

「はい。彼はキオンのテオ少尉。若いですがテスタ・スカルキ総統から直々にボーダー出向を命じられた優秀な軍人です」

 

ツグミがテオを紹介すると、すぐにテオが挨拶をした。

 

「キオンのテオです。以後お見知りおきを」

 

するとセルジョは頷いた。

 

「なるほど、きみたちがキオンの国章の描かれた艇に乗っていたのはそのためか」

 

「はい。スカルキ総統がお使いになっていた政府専用機を譲ってくださったんです。あの方は玄界(ミデン)の文化に非常に興味を持っておられて、ボーダーに対して積極的に支援をしてくださいます」

 

「それで同盟を結んだのか…?」

 

「はい。もうお耳に届いていたのですね。ボーダーは玄界(ミデン)にある日本という国の防衛組織でしかありませんが、近界民(ネイバー)との外交に関しては全権委任されております。そしてここに持参いたしましたのはボーダーの最高司令官・城戸正宗からの親書でございます。どうぞお受け取り下さい」

 

ツグミはそう言って親書の封筒をセルジョに差し出した。

そこに書かれている内容は正常な国交を開きたいがその前にヒエムスにいる玄界(ミデン)の人間を返してほしいという内容のもの。

本来ならボーダー側が知るはずのない情報まで書かれているものだから、読んでいるうちにセルジョの顔色が変わった。

そして最後まで読み終えると厳しい顔でツグミに訊いた。

 

「たしかに我が国には()()玄界(ミデン)人が()()しているが、どのようにしてそのことを知ったのか教えてもらえるかな?」

 

「わたしの知る限りでよろしければお教えできますが、その前に訂正していただきたい点がございます。そこにも書いてございますが、数人ではなく約60人という大人数のはずですし、強制的にこの国に留め置かれているのでは滞在とは言えないのではありませんか? それにレプトとの戦いにおいて捕虜にしたトリガー使いの中にも我が同胞がいるとわたしは聞かされております」

 

「……」

 

「貴国は一部の交易国以外とはほとんど交流がなく鎖国を貫いていて出入国管理を厳重にしているとのことですから、国内の情報がそう簡単に漏れるはずがないと考えていらっしゃるのでしょうね? ですが玄界(ミデン)にも諜報活動を行う者はいますし、さらに亡命者が自分の知る範囲だけですが情報を提供してくれるものですよ」

 

「まさか…!?」

 

「それにエクトスが拉致した我が同胞をさまざまな国に売っていることは承知しています。その情報源は確かなものですので信頼度は非常に高く、貴国にはトリガー使いとして訓練された37人と結婚適齢期の若い女性28人をヒエムスで1年間に生産された作物の半分と交換したと聞かされています」

 

この情報は麟児がエクトスで手に入れたものだから確かなもの。

隊商国家として名を馳せているエクトスが顧客の情報を第三国の人間に漏らすはずがないのだが、セルジョにはエクトスから漏洩したとしか考えられないために頭が混乱しているようであった。

 

「それに軍の中には祖国を裏切るような行為、貴重な()()()()使()()()()()ですら他国に売り渡してしまうようなことを平気でする人間が混ざっていては貴国の情報はダダ漏れです」

 

「何だと…?」

 

「軍の綱紀粛正は最優先課題だと思われます。ですがわたしがこれ以上言うと内政干渉となりますのでこれくらいにしておきましょう。とにかくボーダーはエクトスにさらわれた三門市民を救出したいだけで、貴国に責任を問うことはいたしません。もちろん貴国が大枚をはたいて購入した労働力をただ返せとは言いません。それ相応の代価を支払う準備はできております」

 

ツグミの言っている「貴重なトリガー使いの少女」とは青葉のことで、彼女が失踪したことはセルジョも報告を受けていた。

管理がしっかりされている軍の施設の中にいた彼女がある日突然姿を消したことは軍内部ではすぐに発覚したのだがセルジョの耳に入ったのは2ヶ月近く経ってからで、それも病死したと報告されていた。

しかし病死という原因に不明な点があったためにいろいろ調べた結果、彼女が失踪したのだとわかったのはそれからさらにひと月経ってからであった。

ここまで言えば青葉が軍内部の人間の手引きがあって玄界(ミデン)へ行ったと考えるのが妥当で、彼女が軍の情報をボーダーに提供したと考えるはずだ。

だがヒエムスに売られた人数やその代価については軍の現場の人間が知るはずもなく、ましてや末端のトリガー使いが知っているわけがないので情報の出処が気になってしまう。

 

「…わかった、訂正しよう。たしかに我が国にはエクトスから65人の玄界(ミデン)人を買った。レプトの捕虜の中に玄界(ミデン)人がいたことも承知している。だがその情報はどうやって入手したのだ?」

 

セルジョはツグミを威圧するような視線で訊いた。

しかしそんなものには()()()()()彼女に効果はない。

 

「ボーダーという組織はトリオンや武器(トリガー)の技術に関しては近界民(ネイバー)に劣る点は多いですが、それ以外のものについてはあらゆる分野ではるかに進んでいます。スカルキ総統は近界(ネイバーフッド)に存在しない文明に魅せられ、トリオンに頼らずに済む世界を目指してボーダーと同盟を結んだのです。()()キオンの元首が対等な立場で同盟を結ぶほど、玄界(ミデン)にはトリオン以上の価値を持つものがあるという証拠です。さらにアフトクラトルの侵攻を押し留めて被害を最小限に抑えたことで、ハイレイン陛下が自らの蛮行を謝罪して同盟に参加することまで検討してくださっています。近界(ネイバーフッド)の国の中でキオンとアフトクラトルという軍事大国を結び付けることができる国はありますか? この『目に見えない力』がボーダー(わたしたち)の強みで、さまざまな国の人間とのつながりを生んでいるのです。ここまで言えば聡明なる宰相閣下にはおわかりになると思います」

 

ツグミはそう言って微笑んだ。

キオンの人間を惹きつけるほどの文明を持ち、軍事力でもアフトクラトルを退けるだけの技術も持っている。

その上近界民(ネイバー)には不可能どころか考えさえしない「敵対する軍事大国のキオンとアフトクラトルの2ヶ国を仲介して双方とも味方にする」ことをやってのけようとする組織ボーダー。

そしてその得体の知れない恐ろしさを秘めた玄界(ミデン)の組織から派遣されたのが17歳の少女で、その従者がキオンの総統が自ら派遣した軍人ともなれば迂闊に「NO」という発言はできないとセルジョは判断した。

 

「その件についてはもうこれ以上詮索はしない。国王陛下への謁見については私が責任を持って取り計らおう」

 

「ありがとうございます。できることならできるだけ早くお願いしたいです。なにしろこちらは貴国だけでなく他にも同様に訪問をしなければならない国が数ヶ国ありますので」

 

「もちろんそのつもりだ。遅くとも明日の午後には国王陛下を()()()()()()ようにするから安心して待たれるが良い」

 

「はい、わかりました」

 

するとセルジョは執務机の上の呼び鈴を鳴らすと、すぐに隣の部屋からツグミと同じくらいの年齢の少女が姿を現した。

 

「この娘は私の侍女でリータという。彼女にきみたちの身の回りの世話を命じておいた。国王陛下の謁見まできみたちには滞在してもらうことになるが、勝手に歩き回られては困る。そこで用事があれば彼女に何でも言ってくれ。…さあリータ、ご挨拶をしなさい」

 

「リータにございます。ご滞在の間、わたくしがおふたりのお世話をさせていただきます」

 

リータはツグミとテオの前に立つとカテーシー、つまり社会的ランクが下の者からランクが上である相手に対して行うお辞儀をした。

 

「わたしはツグミ、こちらは従者のテオです。よろしくお願いします」

 

ツグミも同様にカテーシーをして挨拶をする。

この場合ツグミは外国からの賓客という立場であるから、リータにカテーシーをするのはおかしい。

だから他の3人は皆怪訝そうな顔をするが、ツグミはニッコリと微笑むだけだ。

 

「では、おふたりのお部屋までご案内いたします」

 

そう言ってリータは部屋のドアを開けた。

 

 

◆◆◆

 

 

迎賓館にはツグミたち3人しかいないようで、しんと静まり返っている館内にはリータの履いている靴のヒールの音だけが響き渡っていた。

ツグミはリータに話しかけて会話に引っ張り込もうとするのだが、「はい」「いいえ」「申し訳ございません」という3つの言葉ですべておしまいにしてしまう。

それは余計なことを言って国の情報を漏洩してしまってはいけないということなのだろうが、ツグミにはリータの態度からとある仮説が「確信」に近付いていった。

 

 

「こちらをツグミ様が、そして内扉で繋がっている隣の部屋をテオ様がお使いください。わたくしは別室で待機しておりますので、何か御用がございましたら呼び鈴を鳴らしてくださいませ」

 

リータはそう言って退出しようとするが、ツグミは彼女を呼び止めた。

 

「待ってください、リータさん。ひとつ訊いていいですか?」

 

「はい、何でしょうか?」

 

「リータさんのお仕事はわたしたちのお世話だけなんですか?」

 

「はい、そうです」

 

「だったらお茶を3人分、淹れてもらえせんか?」

 

「3人分…ですか?」

 

「そう。わたしと彼とあなたの3人分です。わたしにはあなたにお願いすることは他にないので、あなたも暇でしょ? だったら一緒にどうかなって」

 

「わたくしはおふたりと同席する身分の人間ではございません。それに油断をさせてわたくしから情報を引き出そうとしても無駄です」

 

リータは平然と答えるが、そんなことお構いなしでツグミは私物の詰められているスーツケースを開いて中から荷物の半分を占めていた「お菓子」を取り出してテーブルの上に置いた。

 

「情報うんぬんじゃなくて、単にお菓子とお茶で会話を楽しみたいだけ。近界(ネイバーフッド)を旅していてわかったのは圧倒的に女性が少ないこと。おまけに同世代の女の子と出会うことなんて滅多にないから、いろいろな話がしたくなるだけなんです」

 

「わたくしと話をして楽しいとは思えません」

 

「それは話してみないとわかりませんよ。まあ、話がしたくないというのなら黙っているだけでもかまいません。とにかくお茶は3人分淹れてください」

 

「…承知しました」

 

ツグミが諦めないと判断したリータは部屋の片隅にあるコンロ ── トリオンを燃料として加熱するIHヒーターのようなもの ── で湯を沸かし始めた。

湯が沸くまでの間に彼女は引き出しの中からティーカップとソーサーのセットを3組取り出し、ティーポットにきっちりと計った茶葉を入れるなど非常に手際が良い。

その様子を眺めながら、ツグミはどうやって彼女の警戒を解こうかと考えていた。

 

(本人はまだバレていないと思っているだろうけど、彼女はタダの使用人なんかじゃない。セルジョさんは彼女を自分の侍女のようなことを言っていたけど、彼女はそういった使用人特有の()()()がないもの。彼女が誰かにかしずくのではなく、彼女が誰かにかしずかれる立場よ。…ちょっとカマをかけてみようかな?)

 

リータが運んで来たお茶はハーブティーであった。

一般的な茶葉を使った紅茶は近界(ネイバーフッド)にも存在するのだが、産地が限られていて高級品であるから貴族階級にしか流通していない。

王宮や迎賓館でのお茶にすら国産で比較的安価のハーブティーしか出せないとなると、ますますヒエムスの財政は切迫しているものと思われた。

 

「恥ずかしながらこのようなものしかお出しできませんが、これは我が国のカモミールで作ったお茶でございます。お口に合うかどうかわかりませんが、どうぞお召し上がりください」

 

遠慮がちなリータに対し、ツグミは笑顔で答えた。

 

「そんなこと気にしないでください。わたしはハーブティーも大好きですよ。玄界(ミデン)でもカモミールは人気のあるハーブで、このようにお茶にして飲用すると胃腸の調子を整える働きがあるため胃痛、胃炎、胃潰瘍などの胃のトラブルに役立つだけでなく、ストレスの下痢や過敏性腸症候群にも有効なんだそうです。また身体を温める効果のある生姜を摺りおろしてカモミールティーに入れると冷え性や冷えからくる頭痛、下痢、風邪のひき始めなどに効果があるだけでなく、女性ならではの生理痛や月経異常などの改善にも期待できます」

 

ツグミの話を呆気にとられて聞いているリータを横目にツグミはカモミールティーをひと口飲んだ。

 

「…美味しいです。カモミールは可愛らしい花を咲かせますが、踏みつけられるほど強く育つと言われるほど繁殖力が強い植物です。そのため謙虚さと忍耐の象徴ともされていて、玄界(ミデン)には花のひとつひとつに花言葉というものがあってカモミールは『逆境に耐える』『苦難の中の力』。今は貴国の多くの国民が逆境に耐えている状況ですが、賢明な君主の判断によっては見違えるような豊かな国になることも夢ではありません。ボーダー(わたしたち)は貴国に不利益をもたらそうと言うのではなく、さらわれた三門市民を故郷へ連れ帰って彼らの生還を待ち望んでいる家族と再会させたいだけ。そのための代価も支払う準備もしています」

 

「なぜそんなことをわたくしに言うのですか?」

 

リータがツグミに訊くと、ツグミは意味深な笑みを浮かべながら答えた。

 

「だってあなたは国王陛下に直訴できる立場なんでしょ?」

 

「何を言うんですか? いくら宰相専属の侍女とはいってもわたくしごとき使用人では国王陛下にお目通りすることもできません」

 

「でもあなたが王女であれば父親である国王陛下と会えないなんてことはないでしょ?」

 

ツグミが「王女」という言葉を口にした瞬間、リータの顔色が変わったことをテオも見逃さなかった。

 

「何を根拠にそんなことをおっしゃるのかわかりません。たしかに国王陛下には王子と王女がひとりずついらっしゃいますが、なぜわたしが王女などという突拍子もないことを…」

 

「たしかにあなたの言うとおりですが、あなたは否定していませんよね? わたしだってこんな大事なことをいい加減な理由で言ったりはしません」

 

「それならなぜそんなことを言うのか説明してください」

 

少しだけ苛立っているようなリータにツグミは言う。

 

「まず少なくともあなたがセルジョ閣下の侍女ではないことは明らかです。根拠はふたつあります。まずひとつはあなたが生身ではなくトリオン体だということ」

 

「…!」

 

「わたしにはちょっとした能力があり、トリオン体でできているものを判別できるんです。あなたはわたしたちの前に現れた時からずっとトリオン体ですが、なぜあなたがトリオン体でいるのか? セルジョ閣下ですら生身だというのに侍女のあなたがトリオン体でいる理由はひとつしか思い浮かばないんです。それはその身に何かあってはならない身分であるから。あなたはセルジョ閣下からわたしたちのお世話を任されましたが、それはわたしたちの動向を監視するため。でも他の使用人に任せることも可能だというのにわざわざあなたが任されたのは、たぶん一番賢くて万が一の時に即在に対応できる人間だからです。もしわたしたちがあなたを人質にして要求を突きつけたとしても、トリオン体のあなたなら生身のわたしたちなんて何てことはないですものね」

 

「……」

 

近界(ネイバーフッド)では国王の一族とか元首とそれに準ずるような最重要人物が武器としてのトリガーではなく護身用のトリガーを常に身につけていることは知っています。そしてふたつ目の根拠はあなたがトリオン体の上に侍女の制服を着ていること。あなたと同じくらいの体格の侍女の方がいて、その女性の服を借りて着ているんじゃないかしら? でもサイズが微妙に合っていない。袖丈は少し短いですし、胸囲が服よりも大きいので今にもボタンが弾けそうじゃないですか。侍女がそんな制服を着ているようではセルジョ閣下の威信を貶めることにもなりかねない。そして一番重要なポイントはあなたがヒールのある靴を履いているという点です。侍女など使用人が歩くとコツコツ音を立てる靴を履くことはありえません」

 

リータはツグミの推理に身震いしてしまった。

 

「わたしはボーダーのアフトクラトル遠征前に現地に潜入して調査をしたことがありますが、とある貴族の使用人になりすまして行動をしました。この時に使用人は男女関わらず歩く際に音の出ない靴を履くのが一般的で、主人やそのご家族が仕事をしたり寛いでいる時に靴音で不快な思いをさせてはいけないからだと教わりました。あなたがわたしたちを案内している時、辺りが静かなので余計に靴音が響いていましたから、服は借りることができても靴のサイズが合わなかったためにあなた自身のヒールのある靴のままでいるしかなかったのではないかと推測しました。ヒールのある靴を履く身分の少女となれば限定されますからね、カマをかけてみました」

 

アフトクラトル遠征の本隊が到着する前に城郭都市内の捜索や情報収集などを行った際にエリン家の侍女になりすましていたツグミの経験がここで役立った。

貴人の使用人ともなれば常に主の命によって動き回らなければならず、したがってその度にコツコツと音を立ててしまうような靴を履くことは厳禁である。

それにヒールのある靴では仕事をするのに不便だし、街の中の石畳の道を歩くには適していない。

ヒールのある靴を履くということは床が平らな建物の中だけしか歩かないという意味で、王宮や政庁、迎賓館などでヒールのある靴を履く身分の人間となれば限定される。

おまけにツグミとテオが控え室で待機している時にハーブティーを運んで来た侍女は音を立てない靴を履いている()()であったために、リータへの違和感が際立ったのだった。

ここまで証拠を突き付けられてしまうとリータも反論できず、諦めて正直に事情を説明することにした。

 

「ツグミ様のおっしゃるとおりです。わたくしは ──」

 

「ちょっと待って」

 

ツグミがリータを制止する。

 

「あなたがこの国の王女だって認めるのなら、わたしのことを様付で呼ぶ必要はないんじゃないかしら? むしろわたしの方があなたに敬語を使わなきゃならない立場になるんだから」

 

「ですがあなた方は大切なお客様ですから…」

 

「そうね。その認識は間違ってはいないんだけど、お互いに相手を様付で呼ぶなんて他人行儀でわたしはあまり好きじゃない。美味しいお菓子とお茶と一緒に楽しい会話をするのに相手の身分とか立場なんて邪魔なものはない方がいいと思わない? わたしはヒエムスの王女ではない()のあなたとお茶会を楽しみたいだけで難しい話をする気はないんだけど、やっぱり王族の一員ともなるとそういうくだけた会話はできないのかしらね」

 

わざと残念そうな顔をするツグミ。

リータの立場からするとツグミたちを監視する役目を命じられたというのに相手に正体がバレてしまったことでミッション失敗となっている。

その上ツグミたちの機嫌を損ねてしまったとなればこの先の国王との謁見に影響することは目に見えている。

 

「わかったわ。()のわたしと話がしたいというのなら、名前はお互いに呼び捨てにしましょう。いいかしら、ツグミ?」

 

「ええ。もちろんいいわよ、リータ」

 

そう言って少女ふたりは顔を見合わせて微笑んだ。

 

 

 

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