ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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469話

 

 

翌日、ツグミはセルジョから城戸への返書を託された。

 

「たしかに拝受いたしました。…ところで国王陛下のお身体の具合はいかがでしょうか? 昨日の晩餐会にもご臨席いただけないほどお悪いのであれば、せめて出立する前にお見舞いをさせていただきたいと思うのですが」

 

ツグミがわざとフランコの話題を持ち出すが、セルジョはその件には触れたくはないという態度で答えた。

 

「陛下は昨夜ゆっくりとお休みになられたことでご気分は回復したようだ。だから心配することはない。しかし大事をとって今日一日はお部屋で休んでいただくことにした。陛下はヒエムスにとって余人をもって替えがたい御方なのだからな」

 

(心にもないことを言うのね…。でもこの様子だと昨夜のことはバレてなさそう。わたしたちが密約を結んだなんて知ったらこんなに落ち着いていられるはずがないもの。どうせこの手紙にも体裁のいいことが書かれていて、交渉の際にも上手くいけば自分たちの功績にして、上手くいかなかったらフランコ王の責任にするつもりなんだろうな。だけど事実を知った以上はこっちもそのつもりで()()から覚悟しておきなさい。フランコ王が自分の身の危険を顧みずにわたしに救いを求めてきたようなものなのだから、わたしはセルジョ宰相(アンタ)じゃなくて国王陛下と協力してボーダーとヒエムスにとって最善の道を模索する。アンタたちの個人的な利益なんて知ったことじゃないわ)

 

ツグミはすでに「セルジョ宰相を含めた既得権益者にひと泡吹かせる方法」を考えていて、三門市に帰還するまでに骨子をまとめておくつもりでいる。

 

「今回はご挨拶とこちらの要件をお伝えするために参りましたので、これにて失礼させていただきます。なお先ほど打ち合わせをしたように次回は城戸と共に参りますので、その時に事が滞りなく進むようこちらの提示した内容について手配をしておいてくださいませ。こちらもヒエムス側の希望をお伺いしましたから、それに応えられるよう準備をしてまいりますのでご心配なく」

 

そしてツグミは少々嫌味っぽいことを言う。

 

「次の訪問の際には国王陛下ともっとお話をさせてくださいませ。昨日はこちらが一方的にお話を聞いていただいただけで、陛下のお話はほとんど聞くことができませんでした。宰相閣下とも事務的なお話しかしていませんので、貴国の現状についてもっと詳しくお聞きし、できることなら庶民の生活を視察させていただきたかったです。もっともそちらはあまり他国の人間に()()を知られたくないようですけどね」

 

「……」

 

「まあ、貴国の主産業は農業で特に今は小麦の収穫でお忙しいようだということはわかります。ですから無理は言えませんね。…最後にひとつ面白いお話をしましょう。もちろんこんなことをする気はまったくありませんが、もしわたしがこの国を滅ぼそうと思ったら収穫前の複数の小麦畑に火を放ちます。近界(ネイバーフッド)の国は国防のためにトリオン兵とトリガー使いは用意してますが、自然災害というものにあまり縁がないので消防組織…つまり火災になった際に対処する組織はないんですよね。建物もトリオンか石造りのものが多いので火事に対しての準備がお粗末。これはキオンやアフトで実際に街の様子を見て感じたことですけど、貴国も同様だと想像できます。我が国でも古い時代に『焼き働き』という戦術がありました。これは収穫前の畑に火を放ち焼き尽くしてしまうもので、これと同じことを貴国で行えば主食であり輸出の主力である小麦を失うことになります。そうなったら国内は大混乱となり、武器(トリガー)など使わなくても余裕でこの国に致命傷を与えることができるというものです」

 

「……」

 

「貴国はボーダーの背後にキオンがいることを恐れていらっしゃいますが、トリオンやトリガーに関する技術は劣るでしょうがアフトクラトルを撃退し、キオンが対等に遇してくれる組織であることをお忘れなく。そして戦いとは武器(トリガー)を使うだけではないということも。わたしは何度もお話しましたが戦闘ではなく対話で物事を解決したいと考えていますが、城戸がわたしとまったく同じ方針でいるとは限りません。彼の意思がボーダー…玄界(ミデン)の総意ということになりますので、わたしも彼に従わざるをえません。なかなか気難しい人物で、一度言ったことは撤回しない頑固者でもありますのでその点はお忘れなく」

 

最後にセルジョへ脅迫じみたことを言うとツグミは妖しい笑みを浮かべる。

セルジョはその顔を見て背筋に冷や水を浴びせかけられたかのように身震いしたが、動揺を悟られまいとして歯をキッと食いしばった。

 

「ああ、覚えておこう」

 

「それではこれで失礼いたします」

 

ツグミはそう言ってお辞儀をし、それに続いてテオが敬礼するとふたりは向きを変えてセルジョに背を向けた。

彼の顔は見えないが苦虫を噛み潰したような表情をしているのは容易に想像できる。

ふたりは笑いを堪えながらセルジョの執務室を出た。

 

政庁の正面玄関にはここへ来た時と同じように馬車 ── 玄界(ミデン)でポニーと呼ばれるタイプの小さな馬の2頭立て ── が停まっていて、ツグミとテオを艇のある場所まで送り届けてくれた。

艇ではゼノンが出迎えてくれて、直ちに艇のエンジンを始動させてヒエムスを発ったのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

ツグミたちは当初の予定どおりの3月6日の午前中に三門市に無事帰還した。

採石場跡に艇を停めるとツグミはすぐに忍田に連絡をして迎えに来てもらい、そのまま本部基地で午後の幹部会議に出席して報告をすることとなった。

昼食は本部基地の食堂で食べることにしたのだが、カレーライス、カツ丼、ハンバーグランチといった一般的なメニューですらも近界(ネイバーフッド)を旅して帰って来るとどれもご馳走となる。

 

「晩餐会で出た料理はあの国としては精一杯頑張って見栄えを良くしてんだろうけど、ぜんぜん美味くないんだよな。それに比べて玄界(ミデン)の料理はどれも美味いぜ」

 

そう言ってテオは大好物のハンバーグに食らいつく。

 

「たぶん調味料に問題があるんだと思う。ヒエムスだけじゃなく近界(ネイバーフッド)では海がない国が多いから、塩を手に入れようとしたら輸入するしかない。塩だけじゃなく砂糖やスパイスなども限られた国でしか生産されないから全部輸入品となる。特に塩は人間が生きていく上で必須だから生産国の言い値で買わなければならず、料理をするにしても十分な量を使えないからどれも薄味になっちゃう。それにブイヨンとかフォンといった出汁もほとんど使われていない。なにしろ野菜とか肉を大量に使うし長時間煮込むなど手間と時間がかかるから手を抜いちゃう。素材は悪くないけど良さを生かしきれないところに問題があるのよね」

 

ツグミがそう言うと、ゼノンが同意した。

 

「そのとおりだ。味よりも腹いっぱい食えることが最優先で、ブイヨンに牛や鶏の肉を使うくらいならそのまま焼いて食う方がいいって考える人間ばかりだからな」

 

「それに食肉用の家畜を育てるのにはたくさんの穀物が必要となるから、肉食って贅沢な行為になってしまう。同じ量の小麦があったとして、家畜に飼料として与えて育ててできたお肉よりパンにした方がたくさん食べられるもの。その高価なお肉を出汁を取ることに使うなんてもったいないって思うわ。だからそれだけ玄界(ミデン)の国々は恵まれているってこと。日々の食事さえ満足に食べられない一部の国や地域を除いてだけど」

 

ツグミはそう言ってカレーライスを米粒ひとつ残さず完食し、スプーンを置くと手を合わせて「ごちそうさま」を言った。

 

「ごちそうさまでした。…最近のパックご飯は品質が向上しているけど、こうしてホカホカの炊きたてご飯を食べると本当に帰って来たなって感じるわね。『食』というものは人間の生命維持だけでなくその人物の根源となるものだとわたしは考えているけど、近界民(ネイバー)たちはその意識が生まれない。とにかく食べることさえできれば1日生き延びることができるけど食べられなかったら明日死ぬかもしれないって大勢の人たちが怯えながら生きているくらいだもの。全員とはいえないけど、わたしが見てきた国の庶民階級の人たちは多かれ少なかれこんなことを考えながら暮らしていた。近界(ネイバーフッド)の変革は戦争をなくすことも重要だけど、誰もが飢えで苦しんだり死ぬことがないようにすることはもっと重要だわ」

 

そんなことを言うツグミにゼノンとテオは頷いて同意だと答えた。

キオンでは三等市民が日々の食料を得るために苦労をしていて、売血ならぬ売トリオンで金を稼いでいる者もいるくらいだ。

それで手に入れた金で購入できるのは一等二等市民の残りものであるから、品質は悪く十分な量があるとはいえない。

この階級システムは全員を生かすことができるだけの食料を得られないキオンで、三等市民の中でも弱い者を少数切り捨てることによって残りの大多数を生かすという目的によって制定されたものだとツグミは聞かされていた。

ならば十分な量の食料さえあれば三等市民だからと切り捨てられる人間を出さずに済むと考えていて、寒冷地でも育つ穀物をキオンで育つかどうかの実験をすでに始めていた。

 

「とにかく空腹は辛いけど、自分が空腹なだけでなく子供に食べるものを与えられない親の辛さは耐え難いものだと思う。子供のために働かなきゃならないのに自分の分の食料を子供に与えるからどんどん身体が衰えてしまい、病気になっても医師に診てもらうこともできずに死んでしまう。そうなったら残された子供も生きていくことがますます難しくなる。それじゃいつまで経っても労働人口が増えるはずがないじゃない。だからわたしはまずお腹いっぱいたべられるようにしたい。それができたら美味しいものを美味しく食べること、そして家族や親しい人と一緒に食べることが重要なんだって教えたいと考えているの」

 

するとテオが微笑みながら言った。

 

「オレはツグミの言いたいことがよくわかる。それに一緒にいられなくてもキオンの家族の顔を思い出しながら食べるともっと美味しいって思えてくるし、美味しいものを食べると家族のみんなにも食べさせてあげたいって心底思う。前にキオンに行って家族と過ごした時に、オレが毎日十分な食事ができているって教えたら、父さんと母さんは涙を流して喜んでた。オレが軍に入ったのは口減らしみたいなものだったから、ふたりはオレに対してものすごく後ろめたい身持ちがあって、オレが少尉になったことよりも毎日の食事に不自由せず、いい仲間に囲まれて毎日楽しくやってることを喜んでくれた。(ブラック)トリガー強奪の任務に失敗したから家族を一等市民にしてあげられなかったけど、それでもオレの給料が全部両親の手に渡っているから生活もだいぶ楽になったはずだ」

 

「でもキオンに帰って家族と一緒に暮らしたいでしょ? スカルキ総統は本国への帰還を希望すればいつでもOKだって言ってなかった?」

 

「ああ。そりゃキオンに帰りたいって気持ちはあるけど、そんなことをしたらゼノン隊を辞めなきゃならないんだぜ。オレは今の仕事が面白いから続けたい。ツグミがどんなことをやるのか最後まで見届けたいし手伝ってやりたいんだ。…それにキオンに帰ればこっちの家族と離れ離れになっちまう」

 

「こっちの家族って?」

 

「え? わかんねぇの? ゼノン隊長は厳しいけど頼れる父親で、リヌスは尊敬できる兄貴。それにジンはいろんなことを教えてくれる気のいい兄貴で、レクスは聞き分けのいい可愛い弟。そしてツグミは年下だけどオレの人生を大きく変えた大恩ある姉さんみたいなものだ。血のつながりはないけど、一緒に暮らしているし仲間って言うよりも家族って言った方がピンとくるんだよ」

 

「テオくん…嬉しいことを言ってくれるけど、人生は1回だけなんだから後悔をしない選択をしなきゃダメよ。わたしだっていろいろなものを犠牲にしながら今やるべきことをやっている。それが正しいと思うから後悔はしないって自信はあるの。だからあなたもその時の気分や()()で大切なことを決めるんじゃなくて、ちゃんと深く考えて行動してね」

 

「わかってるって。でもオレだって考えた上でおまえと行動する方がいいて判断したんだ。近界(ネイバーフッド)での戦争が減って、食料が増産できるようになれば誰もが安心して暮らせるようになる。その中にオレの家族もいるわけで、遠回りに見えるようだけどボーダー…おまえに協力することが一番近道の方法だっていう確信がある。だからオレはもうしばらくおまえと一緒に行動する。いいだろ?」

 

「あなたがそういう考えと覚悟で行動しているならわたしに異論はないわ。いえ、こちらこそこれからもよろしくね」

 

「ああ」

 

ツグミとテオのやり取りを微笑ましいといった顔で見ていたゼノン。

カツ丼大盛りを全部食べ終えるとツグミがしたように両手を合わせてごちそうさまを言う。

 

「ごちそうさま。この『ごちそうさま』という食材と作ってくれた人に感謝をする玄界(ミデン)の習慣は素晴らしいと思う。『いただきます』と『ごちそうさま』は玄界(ミデン)に来てツグミに教えられたものだが、今では生まれた時からこうして感謝の言葉を言っていたような気さえするほど自然に口から出るようになった。これも毎日きちんと食事ができるという証拠でもあるから、言うこと自体に心が休まるというか…幸せだと感じるのだな」

 

するとツグミが当たり前だという顔で答えた。

 

「当然ですよ。美味しいものをお腹いっぱい食べられるんですもの幸せに決まっています。玄界(ミデン)の日本という国に生まれ育ったわたしはこれまで一度も飢えたことはありません。だからお腹が空いて辛いという気持ちを味わったことはなく、食事ができることが当たり前だと思っていました。でも近界(ネイバーフッド)の現実を知ってしまうと自分はなんて恵まれた人生を送ってきたのかとしみじみ感じてしまいました。するとこれまで何気なく言っていた『いただきます』と『ごちそうさま』がとても愛おしいものに思えてきたんです。そしてこの言葉を言うたびに素材となってくれた生きものに感謝する気持ちも生まれ、さらに生産や流通に携わった大勢の人にも感謝すると同時に彼らにも同じだけ幸せになってほしいって願う気持ちになれます。もちろんわたしがそう願ったとしても相手に伝わるわけではないんで自己満足でしかないんですけど」

 

「だがこの食堂で食事をした後、きみは必ず調理を担当している職員に『ごちそうさま』と声をかけているだろ。少なくとも彼女たちにはきみの気持ちが間違いなく伝わっている。きみが声をかけると彼女たちは笑顔になり、次にここへ来た時にも変わらぬ笑顔で迎えてくれる。それはきみの気持ちが伝わっている証拠だ」

 

ゼノンの言葉にテオも同意とばかりに言った。

 

「オレもそう思うぜ。自分の作った料理を美味いって食べてもらえるのは自分の仕事を認めてもらえたってことで、毎日同じような料理を作るだけの仕事であっても誰かのために役に立っている、誰かが喜んでくれると思うとやる気が出てくるし、同時に自分の仕事に誇りを持つことができる。それって幸せなことだと思わねえか?」

 

「…そう、ですね。ありがとうございます、ゼノン隊長、テオくん。食事はひとりだけじゃなくてみんなで食べた方がいいってことも改めてわかりました。こうして3人で食事をしてお話をしたからわたしが気付かなかったことを指摘してもらえたんですし。そう思うとフランコ王は軟禁されているようなものですから心身ともに衰弱して健康にも悪影響を及ぼすのではないかと心配です。内政干渉はできませんが、せめて心労となる原因を取り除いてあげたいと思います」

 

「それはきみの腕次第だ。これから行われる幹部会議できみがヒエムスで経験したことや感じたことをどのように報告し、キド司令たちがどのように受け止めるか。またきみが市民救出を第一としながらもヒエムス国民の未来に無関心ではいられない気持ちを説明し、それを彼らに理解してもらえるかによって大きく変わってくる。俺は直接フランコ王とは会っていないが、きみとテオは直接話をしているのだから彼が信じるに足る人物なのかどうかわかったはずだ。彼がきみたちを信頼して国の秘密を話したというのなら、きみたちはその必死になって伸ばした手を掴んで引っ張り上げてやらなければいけないぞ」

 

「ゼノン隊長のおっしゃるとおりです。わたしが行動しなきゃ味方を増やすことはできませんからね。上層部のメンバーは三門市民の救出さえ成功すればヒエムスの未来なんてどうでもいいと考えるでしょうから。わたしだってフランコ王に会わなかったらあの国と縁を結ぶこともなかったはず。でもたった30分の()()であってもわたしにはあの方の気持ちが痛いほど良くわかりました。王族が自分たちの都合の良いように祭り上げたお飾りの王であると認識しながらも、ヒエムスの王としての責務を果たしたいという気持ちは尊敬に値しますから、わたしはあの方と約束したように可能な限り期待に応えられるよう努力するつもりです」

 

「ならば俺たちは全力できみを援護するだけだ。…あと25分で会議が始まるぞ。そろそろ行かないとマズイんじゃないか?」

 

「あっ、そうですね。報告書を人数分コピーしなければいけませんし、わたしは執務室に寄って着替えをしてこなければなりませんから」

 

「じゃあ、そろそろ行こうか」

 

ツグミとゼノンとテオの3人は自分の使った食器をそれぞれ返却口へと運び、そのまま料理の受取所の前を通過する。

 

「「「ごちそうさまでした!」」」

 

3人が同時に中にいる調理職員に声をかけると、一番近くにいた中年女性が驚いた顔でツグミたちの方を見る。

顔馴染みとはなっていたが会話をしたことのないゼノンとテオが声をかけたから驚いたのだが、すぐに満面の笑顔で応えてくれた。

 

「お粗末さまでした。またいらっしゃい」

 

「「「はい!」」」

 

自分も幸せな気分になれて、相手も幸せな気持ちになれる。

こうした小さな幸せが積み重なって人は優しくなれるのだと実感したツグミであった。

 

 

◆◆◆

 

 

かつてツグミが隊室として使用していた部屋はボーダー総合外交政策局局長執務室と名称を変え、ツグミの新しい「城」となっている。

ここで準備をしてから会議に出席するのだ。

現在のツグミは指揮系統図の本部司令の下にある「各部署長」のひとりで、鬼怒田・根付・唐沢と同じ階級であり忍田や林藤とも肩を並べる役職なので、彼女がボーダーという組織にとって重要な役職を担っているのだという証拠でもある。

近界民(ネイバー)との交渉を任せるにあたっては本部司令直属の隊員として特別任務を与えるよりも「権限」を与えて専任してもらった方が効率が良いと判断されたためだ。

これまでの彼女の()()を鑑みれば誰もが納得する人事であり、鬼怒田や根付が異論を唱えなかったのは現在のボーダーの最優先事項である「第一次近界民(ネイバー)侵攻で行方不明となった約400人の市民の救出」で近界民(ネイバー)との交渉において彼女以上の人材はいないと理解しているためである。

 

部屋にはこれまでの備品に加えコピー機や大型モニターなどが設置されていて、そのコピー機で帰路の艇の中で作成した報告書を人数分コピーする。

その間にツグミはロッカーに入れてある新品の()()()の制服に着替えた。

彼女がヒエムスに行っている間に用意されたもので、この制服に袖を通すのはこれが初めてである。

制服とは単に組織に属していることを証明するだけでなく、その組織の一員であるという責任や覚悟を可視化したものでもあるのだが、ツグミにとってはそれだけではなかったようだ。

 

(うん、似合ってる。これで()()真史叔父さんとお揃いの服で()()()んだわ。戦う(やる)気、出てくるな~。よし、頑張るぞ!)

 

スラックスとタイトスカートという違いはあるもののジャケットやネクタイは同タイプのものであるから、彼女にとっては大好きな真史叔父さんとお揃いという点でやる気が沸いてくるのだ。

書類の束を抱え、ツグミは廊下で待ってくれていたゼノンとテオをお供に会議室(新たな戦場)へと向かうのだった。

 

 

 

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