ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
ボーダー本部基地の地下にある
原作では同盟国アリステラや王族の生き残りである瑠花と陽太郎の「正体」が第200話で語られていますが、拙作はあらすじに書いてあるように原作第199話までの情報によって描かれていますのでアリステラの名称や王女は登場しません。
ですが旧ボーダー時代に19人のうち10人が死亡するというボーダーの転換点となる出来事をスルーすることはできませんし、拙作でもそのエピソードは描かれていますので、この「471話」で辻褄合わせをしています。
これまでの流れで「同盟国」「
本部基地の最深部にある「ボーダーの心臓」とも呼べる
その存在自体が最重要機密であり、知る者は城戸、忍田、林藤、鬼怒田、そしてツグミの5人だけである。
旧ボーダーメンバーでありながらも迅やレイジといった戦闘員が知らされていないのは彼らが知る必要がないからで、内緒にしていたことについて城戸たちを責めるつもりはないがこうして現物を見せられるのであれば「真実」を教えてもらう権利がツグミにはあるはずだ。
ツグミの目の前にある
しかしトリオンキューブの大きさはエウクラートンのものよりも2割ほど小さく、輝きも鈍いように感じられる。
そしてエウクラートンではトリオンキューブのそばにコントロールパネルのようなものがあり、そこで女王が
大きく違う点はエウクラートンのトリオンキューブは宙に浮いた状態でゆっくり回転しているのだが、ボーダーのそれは床から高さ150センチほどの
その高坏から直接トリオンを抽出しているのだろうとツグミは思った。
「城戸司令、
ツグミは
「もちろんだ。…以前おまえにはボーダー創設のきっかけやこの
「はい」
「…とは言ったものの、どこから話していいのか私にはわからない。おまえのように物事を筋道立てて話すことは昔から苦手だったし、なによりも自分自身が未だに後悔の念に駆られており、心の整理がついていない部分があるのだ」
「それなら懺悔の気持ちで自分の気持ちを素直に吐き出してみたらいかがですか? 取り留めのない話であっても話すことで気持ちが楽になるでしょうし、わたしはそれらを総合して城戸司令が伝えたいことを導き出しますから」
「フッ、おまえらしいな。…では
城戸に問われ、ツグミは大きく首を傾げた。
(そう言えばとても大事なことなのに覚えていない。それに遠征に参加した城戸司令や忍田本部長、ジンさんたちの口からも聞いたことがない。あれほどの犠牲を出した凄惨な事件だというのに…)
ツグミは遠征に参加はしていないが、当時の仲間の半数が死亡した遠征であるからハッキリと覚えている。
たしかに辛い出来事であったため、遠征に参加したメンバーはそのことについてほとんど口にすることはないが忘れてしまったわけではない。
何かきっかけがあればその時のことを思い出して話すことはあるのだが、単に「同盟国」とか「
「わたしは知っているはずなのに思い出すことができません。もしかしてこれは例の秘密を知った民間人や隊務規定違反等で除隊となった隊員に施す記憶封印の技術が使われているのではありませんか?」
「さすがだな。そのとおりだよ、ツグミ。だが人間の記憶をそう都合良く、しかも易々と操作できる技術は
「その言い方ですと
ツグミの言葉を聞いた城戸は一瞬目を大きく見開いて驚いた顔をしたが、すぐにいつもの冷静…と言うよりも冷徹な表情に戻った。
「そうだ。あの戦争は大勢の人の命を奪ったが、生き延びた者たちの人生を大きく狂わす残酷で悲惨なものだった。まだ幼かった小南や最上を父親のように慕っていた迅にとっては大きな精神的ショックとなり、小南は一時的にだが失声症となったし迅はPTSDで悪夢を見るのが恐ろしいと言って不眠症になってしまった。このままではせっかく生き存えたというのに日常生活に大きな支障があるとして、その原因である戦争の記憶の一部を封印したのだ。そのおかげで同盟国の戦争に加勢したという事実、メンバーの半数が死んだこと、その同盟国が滅びてしまったことなど『事実』は覚えているが、目の前で仲間の命が失われていく様を為す術なく見ているしかなかったことや、生身となった状態で殺し合いをしたことなど心を蝕む原因となる悲惨な状況は封印して思い出さないようにしてしまった。それだけでなくなぜ思い出せないのかという疑問さえ抱かないようにした。そしてその『鍵』となるものが国名なのだ。記憶は封印されたのであって消去されたものではない。頭の片隅に鍵のかかる箱があって、その中に辛くて哀しい記憶を入れて鍵をかけたようなものだと表現すればわかりやすいだろう。そしてその鍵を国名とした。『鍵』を持っているのは私だけだ。滅びてしまった国の名前などよほどのことがない限り口の端に上ることはないからな、死ぬまで思い出すことはないはずだ」
「それでいくつかの点で疑問に思っていたことに腑に落ちました。みんなが『
「…ああ、そうだ。このような悲劇は二度と起きてはならぬ。そのためにはボーダーは存続しなければならず、生き残ったメンバーを
「たしかにそのとおりですね。でも総司令官となったのが残ったメンバーの最年長者であったというだけで、誰もあなたひとりに責任を押し付けたりはしませんよ。記憶封印に関してはこのままでいいと思いますが、全責任をひとりで負うことはありません。たぶんあなたは自分ひとりだけで秘密を抱え込んでいることが苦しくて、救いを求めてわたしに真実を教えようとしたのではありませんか?」
すると城戸は自虐的な笑みを浮かべて答えた。
「おまえは何でもお見通しなのだな。まるで織羽と美琴のふたりがそばにいてくれているようだ。織羽は頭の回転が早く、わずかな変化や異常にすぐ気付く目を持っていた。美琴は相手の気持ちを察することが得意で、彼女がいるだけで周りの人間の心は和んだよ。こうしてみるとおまえは間違いなくあのふたりの娘だな」
「でも忍田真史と城戸正宗というふたりの父親の影響も大きく受けているのは確かです」
「父親…か。嬉しいことを言ってくれるな、おまえは。今さら家族を持つ気はないが、私を父と慕ってくれるなら私はボーダーという家族の家長であり父親でいたいと思う。いつまで続けることができるかわからないが、やれるだけのことはやろうと思っている」
「その言い方ですとまるでこの
「…!」
ツグミが「新たな生贄」と言った瞬間、城戸は身を震わせた。
「やはりおまえは敏い娘だな。私が言わなくてもその表情や言葉の端から真実を導き出してしまう」
「忍田本部長と林藤支部長は
「まあな。それにいつかおまえの方から知りたいと言って私に詰め寄ってくるのではないかと怯えていて、ならばこのタイミングで話してしまおうと考えたのだ」
「それは正しい判断です。
「私の判断に任せる…か。私のことを信頼してくれているのだな。ならば聞いてもらおう、私の懺悔を」
そう言って城戸は静かに語り始めた。
「ボーダー創設から
「はい。それに
「そうだ。そしてその3つの同盟国のひとつが第三国と戦争を始め、ボーダーは加勢せざるをえなくなった。迅の
「やっぱり、そうだったんですね。たしかに戦力にならない上に足手まといになるとわかっていましたが、そんな事情があったなんて知りませんでした。ですがみなさんの尊い犠牲のおかげで
「ああ。あの国は滅びてしまったが、
「おかしなこと?」
「そう。
「……」
「誰の目にもこの戦争は負けだとわかった頃、あの国の国王は
「……」
「国王はすでに国民の9割以上を失っていて、残りの1割は近隣の国に亡命したと言っていたが、亡命したとされる1割の国民が目的地に到着かどうかは定かではない。そうなると亡命政権だのボーダーの力を借りて再起だの言ってもすべて胡散臭い与太話にしか聞こえない。自分と家族さえ安全な場所で生きられるのならと考えた国王の方便のような気がしていたのだが、それが事実だと知ったのは三門市への帰還の途上だった。私は国王から信じられない話を持ちかけられた。
「その王族の4人は今どうしているんですか?」
ツグミが訊くと、城戸はニヤリと笑ったように見えた。
「たぶんどこかで生きているのではないかな。4人ともトリオン能力は高く、
そう言う城戸の視線はトリオンキューブに向けられていた。
「まさか…」
「三門市に帰還すると王家の4人は私が手配した
「……」
「瀕死の状態の王女は
城戸の言葉には王女に対して申し訳ないとか哀れだという感情はなく、むしろ当然の報いだと言いたげなものであった。
王家の4人はボーダーにとっての邪魔者であり、
彼の冷酷な表情と相まって非常に冷淡で無慈悲な態度に思えるが、国民を捨てて自分たちだけ助かろうとした国王たちの末路としては相応しいとツグミには思えた。
「…別に城戸司令のことをどうこう言うつもりはありません。むしろあなたの判断はその時の最適解だったとわたしは思います。あなたが必死になってボーダーを守り、隊員たちが三門市を守り、その中で王女が死にかけていたから
ツグミは自分自身がエウクラートンの王家の血筋であり次期女王候補という立場なのでそんな考えを持ってしまうのは無理もない。
すると城戸は苦笑いをする。
「おまえらしい考えだな。だがおまえがそう言ってくれるのを期待していた気持ちが私にあったのは事実だ。私は許しが欲しかったのだよ。忍田と林藤のふたりにはこの新しい本部基地に
「わたしは以前に城戸司令からここに
「そうか、おまえにとって安心材料となったのなら私も気が楽になるというものだ。これで
この地下室へ来た時の緊張と不安に溢れていた表情が嘘のように消えた城戸。
ツグミに真実を告白したことで6年間も押さえ付けられていた彼の魂が解放されたのだろう。
「質問は今のところありません。なにしろ情報量が多くて頭の中で整理するのにちょっと時間がかかりますから」
「そうだな。もっとも私も
城戸はそう言ってツグミと一緒に地下室を後にした。
原作を読んでいて疑問に思ったことがいくつかありました。
それを独自解釈によって補完した内容になっていたと思います。
その1
アフトクラトルはガロプラを攻めた際に
だとするとアリステラが滅びてしまう状況となったので王女と王子に
敵はアリステラを従属させるつもりで侵攻していたのですが、アリステラ国王が自分と家族さえ生き延びることができれば国民は死んでもかまわないと考えたとしたらどうでしょう?
国が滅びたから王族が亡命したのではなく、敵に攻め込まれて命の危機を感じた国王が「一族の存続というエゴのために国民の犠牲を承知の上で
したがって拙作では国王がボーダーに
つまり国民を捨てて自分たちだけが生き残ろうとしてボーダーと取引をしたということです。
そんな自分勝手な国王によってアリステラは滅んだということにし、アリステラの
そして譲り受けたものは
ですので「核」という人間の手で運ぶことができ、遠征艇に納まる(出入り口を通り抜けることができる)サイズにすることで可能としました。
その「核」を起動して運用するために新たな「生贄」が必要となり、アリステラの王女を生贄にすることにしたのは原作に登場する瑠花王女の態度が気に入らなかったからです。
目上の人間に対して平然と呼び捨てをし、腰に手を当てて「ボーダーがここまで大きくなったのは、ほとんどが私たちの存在と唐沢の尽力に由るものなのですから」という驕り昂ぶった態度が腹立たしいと感じたのです。
たしかに
しかし城戸や忍田といった旧ボーダーの大人たちがいなければ死んでいたわけで、命の恩人である城戸や忍田たちに対する感謝の気持ちが欠片も感じられない嫌な女だと思いました。
そこで憂さ晴らしの理由もあって、第一次
その2
仲間の半数が死んでしまうという凄惨な現場にいたというのに小南たち旧ボーダー時代のメンバーが何事もなかったかのようにボーダーを続けていることが不可解でした。
特に当時12歳くらいだった小南が親しい人間が目の前で次々と死んでいく光景を見ているはずですから、その精神的なショックはただならぬものだったと想像できます。
そこで城戸が彼女だけでなく生き残りメンバー全員の記憶を一部封印することで日常生活に戻ることができるようにするだけでなく、ボーダーを続けられるようにしたということにして、その封印措置の道具を
その