ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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ボーダー本部基地の地下にある(マザー)トリガーの由来について城戸が説明をすることになります。
原作では同盟国アリステラや王族の生き残りである瑠花と陽太郎の「正体」が第200話で語られていますが、拙作はあらすじに書いてあるように原作第199話までの情報によって描かれていますのでアリステラの名称や王女は登場しません。
ですが旧ボーダー時代に19人のうち10人が死亡するというボーダーの転換点となる出来事をスルーすることはできませんし、拙作でもそのエピソードは描かれていますので、この「471話」で辻褄合わせをしています。
これまでの流れで「同盟国」「()()遠征」と表現して具体的に「アリステラ」という固有名詞を出さなかった理由、どのようにして(マザー)トリガーが運用されているのか、そしてどのようにして「記憶封印」を行うのかなどを独自解釈で描いております。





471話

 

 

本部基地の最深部にある「ボーダーの心臓」とも呼べる(マザー)トリガー。

その存在自体が最重要機密であり、知る者は城戸、忍田、林藤、鬼怒田、そしてツグミの5人だけである。

旧ボーダーメンバーでありながらも迅やレイジといった戦闘員が知らされていないのは彼らが知る必要がないからで、内緒にしていたことについて城戸たちを責めるつもりはないがこうして現物を見せられるのであれば「真実」を教えてもらう権利がツグミにはあるはずだ。

 

ツグミの目の前にある(マザー)トリガーは彼女がエウクラートンの神殿で見たもの良く似ていた。

しかしトリオンキューブの大きさはエウクラートンのものよりも2割ほど小さく、輝きも鈍いように感じられる。

そしてエウクラートンではトリオンキューブのそばにコントロールパネルのようなものがあり、そこで女王が(マザー)トリガーの操作をするのだが、ボーダーのそれにはコントロールパネルやそれに代わるシステムはない。

大きく違う点はエウクラートンのトリオンキューブは宙に浮いた状態でゆっくり回転しているのだが、ボーダーのそれは床から高さ150センチほどの高坏(たかつき) ── 椀形や皿形の器に脚がついたもの ── の上に載せられていることだ。

その高坏から直接トリオンを抽出しているのだろうとツグミは思った。

 

 

「城戸司令、(マザー)トリガーをわたしに見せたからにはこれまで秘密にしていたことを教えてくださるということですよね?」

 

ツグミは(マザー)トリガーを見つめながら隣に立っている城戸に訊いた。

 

「もちろんだ。…以前おまえにはボーダー創設のきっかけやこの(マザー)トリガーを手に入れた経緯を話したことがあったが、今日はさらに詳しいことを話そうと思う。おまえのことだから詳細に覚えているだろうが、あの時の話の中にはいくつか事実とは違う内容のものがあった。つまり私はおまえに嘘をついていたことになるのだが、それを踏まえた上で聞いてほしい」

 

「はい」

 

「…とは言ったものの、どこから話していいのか私にはわからない。おまえのように物事を筋道立てて話すことは昔から苦手だったし、なによりも自分自身が未だに後悔の念に駆られており、心の整理がついていない部分があるのだ」

 

「それなら懺悔の気持ちで自分の気持ちを素直に吐き出してみたらいかがですか? 取り留めのない話であっても話すことで気持ちが楽になるでしょうし、わたしはそれらを総合して城戸司令が伝えたいことを導き出しますから」

 

「フッ、おまえらしいな。…では()()遠征のことから話そう。今から約6年前、最上を含む10人の仲間を亡くした同盟国の戦争に加勢した遠征だが、おまえはその同盟国の名を覚えているか?」

 

城戸に問われ、ツグミは大きく首を傾げた。

 

(そう言えばとても大事なことなのに覚えていない。それに遠征に参加した城戸司令や忍田本部長、ジンさんたちの口からも聞いたことがない。あれほどの犠牲を出した凄惨な事件だというのに…)

 

ツグミは遠征に参加はしていないが、当時の仲間の半数が死亡した遠征であるからハッキリと覚えている。

たしかに辛い出来事であったため、遠征に参加したメンバーはそのことについてほとんど口にすることはないが忘れてしまったわけではない。

何かきっかけがあればその時のことを思い出して話すことはあるのだが、単に「同盟国」とか「()()()」といった言い方で具体的に名称が出てくることはないため、何らかの理由で記憶の中から国名が欠落していると思われる。

 

「わたしは知っているはずなのに思い出すことができません。もしかしてこれは例の秘密を知った民間人や隊務規定違反等で除隊となった隊員に施す記憶封印の技術が使われているのではありませんか?」

 

「さすがだな。そのとおりだよ、ツグミ。だが人間の記憶をそう都合良く、しかも易々と操作できる技術は玄界(ミデン)にはない」

 

「その言い方ですと玄界(ミデン)にはなくとも近界(ネイバーフッド)にはある、ということですね。もしかしたらそれはトリガーで、城戸司令がそのトリガーを使ってわたしを含めた旧ボーダーメンバーの生き残り全員の記憶を操作した…ということでしょうか?」

 

ツグミの言葉を聞いた城戸は一瞬目を大きく見開いて驚いた顔をしたが、すぐにいつもの冷静…と言うよりも冷徹な表情に戻った。

 

「そうだ。あの戦争は大勢の人の命を奪ったが、生き延びた者たちの人生を大きく狂わす残酷で悲惨なものだった。まだ幼かった小南や最上を父親のように慕っていた迅にとっては大きな精神的ショックとなり、小南は一時的にだが失声症となったし迅はPTSDで悪夢を見るのが恐ろしいと言って不眠症になってしまった。このままではせっかく生き存えたというのに日常生活に大きな支障があるとして、その原因である戦争の記憶の一部を封印したのだ。そのおかげで同盟国の戦争に加勢したという事実、メンバーの半数が死んだこと、その同盟国が滅びてしまったことなど『事実』は覚えているが、目の前で仲間の命が失われていく様を為す術なく見ているしかなかったことや、生身となった状態で殺し合いをしたことなど心を蝕む原因となる悲惨な状況は封印して思い出さないようにしてしまった。それだけでなくなぜ思い出せないのかという疑問さえ抱かないようにした。そしてその『鍵』となるものが国名なのだ。記憶は封印されたのであって消去されたものではない。頭の片隅に鍵のかかる箱があって、その中に辛くて哀しい記憶を入れて鍵をかけたようなものだと表現すればわかりやすいだろう。そしてその鍵を国名とした。『鍵』を持っているのは私だけだ。滅びてしまった国の名前などよほどのことがない限り口の端に上ることはないからな、死ぬまで思い出すことはないはずだ」

 

「それでいくつかの点で疑問に思っていたことに腑に落ちました。みんなが『()()遠征』とか『()()国』という言い方をしていたのは辛い記憶を思い出したくないためにわざと具体的な名称を出さずにいたのではなく、記憶を操作されていて思い出せないからそう言っていただけだったんですね。でもそうなると城戸司令だけはすべての記憶を持ったままで6年間過ごしてきたということになります。操作した当人だから自分には記憶封印ができなかったのでしょうけど、それ以上にあなたはこの悲劇を忘れてはならない、どんなに苦しくても自分だけは一生その胸と記憶に刻みつけておこうとしたのではありませんか?」

 

「…ああ、そうだ。このような悲劇は二度と起きてはならぬ。そのためにはボーダーは存続しなければならず、生き残ったメンバーを近界民(ネイバー)との戦争から解放してやることができなかった。再び同様の悲劇が起きることがないよう、私がみんなを守ると最上や若くして命を散らした仲間たちに誓ったのだ。そんな私が辛いことだから忘れたいなどと言えるはずがなかろう? だから私は近界民(ネイバー)はすべて悪であり殲滅すべき存在だという強硬派のリーダーとなり、ボーダーの最高司令官となったのだ。しかしボーダーの創設理念が『近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)の友好の架け橋になる組織を作る』であり、それを否定することはできない。そこで市民の生活を守ることが最優先だという忍田と、近界民(ネイバー)にも良いヤツがいるから仲良くしようという林藤の3つの考え方を存在させることでバランスを取ることにした。まあ、これは対外的なもので私が近界民(ネイバー)殲滅に熱心だったことはなく、逆に林藤が近界民(ネイバー)との友好的な交流に力を入れていたわけでもない」

 

「たしかにそのとおりですね。でも総司令官となったのが残ったメンバーの最年長者であったというだけで、誰もあなたひとりに責任を押し付けたりはしませんよ。記憶封印に関してはこのままでいいと思いますが、全責任をひとりで負うことはありません。たぶんあなたは自分ひとりだけで秘密を抱え込んでいることが苦しくて、救いを求めてわたしに真実を教えようとしたのではありませんか?」

 

すると城戸は自虐的な笑みを浮かべて答えた。

 

「おまえは何でもお見通しなのだな。まるで織羽と美琴のふたりがそばにいてくれているようだ。織羽は頭の回転が早く、わずかな変化や異常にすぐ気付く目を持っていた。美琴は相手の気持ちを察することが得意で、彼女がいるだけで周りの人間の心は和んだよ。こうしてみるとおまえは間違いなくあのふたりの娘だな」

 

「でも忍田真史と城戸正宗というふたりの父親の影響も大きく受けているのは確かです」

 

「父親…か。嬉しいことを言ってくれるな、おまえは。今さら家族を持つ気はないが、私を父と慕ってくれるなら私はボーダーという家族の家長であり父親でいたいと思う。いつまで続けることができるかわからないが、やれるだけのことはやろうと思っている」

 

「その言い方ですとまるでこの(マザー)トリガーがいつまで使えるか不安な気持ちでいて、目的が果たされる前に寿命が尽きるようなことになれば()()()()()が必要となってしまいますから、それまでにはカタをつけたいと言っているように聞こえます」

 

「…!」

 

ツグミが「新たな生贄」と言った瞬間、城戸は身を震わせた。

 

「やはりおまえは敏い娘だな。私が言わなくてもその表情や言葉の端から真実を導き出してしまう」

 

「忍田本部長と林藤支部長は本部基地(ここ)(マザー)トリガーを設置する時に知られていて、鬼怒田室長には開発部門の責任者として知らせないわけにはいきません。最低限のメンバーにしか知らせないのは機密情報が漏れるのを恐れてというよりも、その残酷な現実の上に自分たちの日常が成り立っているという後ろめたさを味あわせたくないから。知らなくていいことは知らせずにいて、何かあれば全責任は総司令官である自分が取ればいいとでも考えているのでしょうね。わたしはエウクラートンの件もあって()()を知ってしまいましたから、今さら隠し通せないと判断したのでしょ?」

 

「まあな。それにいつかおまえの方から知りたいと言って私に詰め寄ってくるのではないかと怯えていて、ならばこのタイミングで話してしまおうと考えたのだ」

 

「それは正しい判断です。近界(ネイバーフッド)近界民(ネイバー)のことを知れば知るほど城戸司令たちが隠していることが気になっていきましたからね。別に悪意があって隠しているなんてこれっぽっちも思ったことはありませんし、またわたしが知る必要のないものであれば無関心でいられます。ですがそんなことを言ってはいられない状況になってきましたから、ぜひボーダーの(マザー)トリガーについて知りたいと思っていました。たぶんこれから聞く話は耳を塞ぎたくなるような内容ではないかと想像できます。でも城戸司令の『目的』を果たすためにはわたしが真実を知って、その上でできることを考えて行動する必要があります。だからあなたが教えてくれることは全部聞きますし、それでもまだ隠しておきたいことなら隠していてもかまいません。その判断はお任せします」

 

「私の判断に任せる…か。私のことを信頼してくれているのだな。ならば聞いてもらおう、私の懺悔を」

 

そう言って城戸は静かに語り始めた。

 

 

 

「ボーダー創設から()()()()の直前までは織羽が持っていた(ブラック)トリガーを()()()()()にセットして、そこからトリオンを抽出していたということは以前に話したが覚えているな?」

 

「はい。それに(ブラック)トリガーと(マザー)トリガーは両方ともトリオン能力者の強い意思によって作られるもので、トリガー使いが自分の武器(トリガー)を核として作るのが(ブラック)トリガーであり、核を別に用意することでトリガー使いでなくても(マザー)トリガーを作ることができるというのだから両者は()()同じものだとミリアムさんから教わっていました。しかし隊員の数が増えて規模を拡大するとなるとそれまで以上のトリオンが必要となって当時同盟関係のあった国から(マザー)トリガーの情報を得て作ろうとしましたが成功せず、当初の(ブラック)トリガーの寿命が尽きるまで使ったのでしたよね」

 

「そうだ。そしてその3つの同盟国のひとつが第三国と戦争を始め、ボーダーは加勢せざるをえなくなった。迅の未来視(サイドエフェクト)で仲間の半分が死ぬとわかっていながらも行かなければならなかったのは、玄界(ミデン)にも近界民(ネイバー)による被害が及ぶかもしれないという恐ろしい未来が視えたからだ。行くも地獄、退くも地獄となればわずかでも救いのある道を選ぶしかない。あの時におまえを参加させなかったのは幼くて戦力とならないという理由だったが、実はおまえを連れて行くことでおまえは必ず死ぬことになり、それがきっかけで後に最悪となる未来が視えたからなのだ」

 

「やっぱり、そうだったんですね。たしかに戦力にならない上に足手まといになるとわかっていましたが、そんな事情があったなんて知りませんでした。ですがみなさんの尊い犠牲のおかげで玄界(ミデン)にはその火の粉が降りかかることはありませんでした」

 

「ああ。あの国は滅びてしまったが、玄界(ミデン)の防波堤になってくれたことは確かだ。しかしおかしなことに気が付かないか?」

 

「おかしなこと?」

 

「そう。近界民(ネイバー)たちが戦争をするのはトリオンが欲しいからだ。近界(ネイバーフッド)ではあらゆるものの元になっているのがトリオンで、そのトリオンが人間由来の生体エネルギーだから戦争をしても相手国の国民を殺してしまっては意味がない。だというのにあの戦争では国民がすべて死に絶えるだけでなく国が滅びてしまった。もちろんトリガー使い同士の戦闘も激しいものだったが、敵兵士は捕虜として捕らえ、味方の捕虜との交換の際に使うのが通例だが、私の知る限り捕虜交換は一度もなかった。この戦争は初めから何かがおかしかったのだ」

 

「……」

 

「誰の目にもこの戦争は負けだとわかった頃、あの国の国王は玄界(ミデン)への亡命を申し出てきた。それも(マザー)トリガーを運びやすいように()の状態にして、それを持って自分と一族の人間が玄界(ミデン)へ亡命。新たな地で亡命政権を樹立して、ボーダーの力を借りて再起を目指すのだそうだ。その考えは理解できないわけではなかった。当時の私はその言葉を信じ、王家の一族…といっても国王夫妻と王女と王子の4人を全力で守ることにした。しかし敵は私たちが(マザー)トリガーと王家の人間を保護したことに気付いたようで、私たちの撤退をことごとく邪魔をした。仲間が10人も死んだのはその撤退戦の時だ。逆に言うと国王と取引しなければ誰も死なずに済んだかもしれない。まあ、それは結果論だがな」

 

「……」

 

「国王はすでに国民の9割以上を失っていて、残りの1割は近隣の国に亡命したと言っていたが、亡命したとされる1割の国民が目的地に到着かどうかは定かではない。そうなると亡命政権だのボーダーの力を借りて再起だの言ってもすべて胡散臭い与太話にしか聞こえない。自分と家族さえ安全な場所で生きられるのならと考えた国王の方便のような気がしていたのだが、それが事実だと知ったのは三門市への帰還の途上だった。私は国王から信じられない話を持ちかけられた。(マザー)トリガーの核を譲るから、自分と家族の4人が玄界(ミデン)で何不自由なく暮らせる環境を用意してくれと言うのだ。亡命政権の話だけでなく1割の国民が他国へ亡命したという話もすべて嘘だった。辛うじて生き存えた1割の国民は(マザー)トリガーを切り離した時点で国土の崩壊に巻き込まれて死んでしまっただろうとのこと。国と国民を見捨てて自らの安穏とした生活のためにボーダーに(マザー)トリガーの核を譲ると言う国王は人間としてはクズで艇から放り出したい気分だったが、これはボーダーにとっては千載一遇のチャンスだと考えることにした。ただしこのことは私の一存で決めたことで、忍田たちは一切知らぬことだ」

 

「その王族の4人は今どうしているんですか?」

 

ツグミが訊くと、城戸はニヤリと笑ったように見えた。

 

「たぶんどこかで生きているのではないかな。4人ともトリオン能力は高く、()()()()()()()()()()()()()どこかの国に売られて最前線で戦わされているだろう。少なくとも王女は()()()()()()()()

 

そう言う城戸の視線はトリオンキューブに向けられていた。

 

「まさか…」

 

「三門市に帰還すると王家の4人は私が手配した()()()()()の住宅に住まわせた。この場所にした理由は特にない。王宮に比べれば狭くて見栄えのしない家で『住』に関しては少々不満があったようだが、『衣』と『食』について彼らはある程度満足していた。しかし人間とは欲深い生きもので、時間が経つにつれて生活水準をもっと向上させろなど要求を出すようになっていった。元々王族として贅沢三昧していた連中だ、庶民の生活で我慢できるはずがないと考えていたがそれがわずか3ヶ月で不満を言うようになった。こちらも金銭的に余裕はないから適当にはぐらかしていたところ、第一次近界民(ネイバー)侵攻が起きた。私たちは全員出撃してなんとか近界民(ネイバー)を撃退したのだが、終わってみれば東三門地区は見る影もなかった。王家の4人が住んでいた家は跡形もない状況であったが、その瓦礫の中に王女ひとりだけが瀕死の状態で横たわっていた。国王、王妃、王子の3人はどこを探しても見付からなかった。遺体が見付からないということはさらわれたのだと考えるのが妥当だ。しかし彼らは三門市民ではないため、行方不明者リストには載っていない。まあ、当然だな」

 

「……」

 

「瀕死の状態の王女は()()密かに本部基地、つまり現在の玉狛支部の建物の地下室に搬入した。本来なら適切な治療を受けさせるべきなのだが彼女はこの世界に存在しない人物であり、99.9パーセント以上の確率で助からない。辛うじて生命を維持しているだけの状態であったから、私の一存で彼女の命を利用させてもらうことにしたのだ。(マザー)トリガーと生贄になる人間を融合させる方法は国王(あの男)から聞いていたからな。まあ、教えた当人は自分の娘が生贄になるとは想像もしていなかっただろう。言っておくがこのことは忍田たちは無関係で、すべて私に責任があることだ」

 

城戸の言葉には王女に対して申し訳ないとか哀れだという感情はなく、むしろ当然の報いだと言いたげなものであった。

王家の4人はボーダーにとっての邪魔者であり、近界民(ネイバー)のおかげでその厄介払いができて助かったのだということをなんとなく匂わせている。

彼の冷酷な表情と相まって非常に冷淡で無慈悲な態度に思えるが、国民を捨てて自分たちだけ助かろうとした国王たちの末路としては相応しいとツグミには思えた。

 

「…別に城戸司令のことをどうこう言うつもりはありません。むしろあなたの判断はその時の最適解だったとわたしは思います。あなたが必死になってボーダーを守り、隊員たちが三門市を守り、その中で王女が死にかけていたから(マザー)トリガーと彼女を融合させた。そのおかげで現在のボーダーと三門市があるんですから。もしこの一件で自分を責めているのであればそれは思い違いです。たしかに(マザー)トリガーと同化して寿命が尽きるまで狭い箱に閉じ込められるようなもので可哀想だとは思いますが、故郷が滅びたというのに平和な国で贅沢な暮らしを享受するだけの王女にできたノブレス・オブリージュと考えれば妥当なところです」

 

ツグミは自分自身がエウクラートンの王家の血筋であり次期女王候補という立場なのでそんな考えを持ってしまうのは無理もない。

すると城戸は苦笑いをする。

 

「おまえらしい考えだな。だがおまえがそう言ってくれるのを期待していた気持ちが私にあったのは事実だ。私は許しが欲しかったのだよ。忍田と林藤のふたりにはこの新しい本部基地に(マザー)トリガーを移動させる際に事情を話した。彼らも私を責めはしなかったが、ここに王女が生ける屍の状態でいるということで二度と近寄らなくなった。私も好き好んでここに来ることはないが、自分の判断や行動の結果がここにはある。それに(マザー)トリガーには寿命があるのだから、ボーダーの最高司令官として状態を確認する義務があるというもの。だから私は月に1回はこうして確認をしに来るのだ」

 

「わたしは以前に城戸司令からここに(マザー)トリガーがあること聞かされた時に、もしかしたら遠征で死んでしまった10人のうちの誰かが自ら身を投じたのではないかと想像していました。死に直面して(ブラック)トリガーになれないならせめて(マザー)トリガーに…なんて考えそうな人は何人もいましたから。でも彼らではないと知って安心しました」

 

「そうか、おまえにとって安心材料となったのなら私も気が楽になるというものだ。これで(マザー)トリガーの由来については以上だが、何か質問はあるか?」

 

この地下室へ来た時の緊張と不安に溢れていた表情が嘘のように消えた城戸。

ツグミに真実を告白したことで6年間も押さえ付けられていた彼の魂が解放されたのだろう。

 

「質問は今のところありません。なにしろ情報量が多くて頭の中で整理するのにちょっと時間がかかりますから」

 

「そうだな。もっとも私も(マザー)トリガーに関して詳しく知っているわけではない。むしろおまえの方が良く知っているはずだ。…ならばそろそろ地上に戻るとしよう」

 

城戸はそう言ってツグミと一緒に地下室を後にした。

 

 

 






原作を読んでいて疑問に思ったことがいくつかありました。
それを独自解釈によって補完した内容になっていたと思います。

その1
近界民(ネイバー)同士の戦争ではトリオンを生み出す生体としての人間やトリガー使いの確保などを目的としているために、相手国の国民を大量殺害したり国土を破壊することまではしないと考えていたのですが、アリステラは敵国に完全に滅ぼされているような表現になっていました。
アフトクラトルはガロプラを攻めた際に(マザー)トリガーを押さえに行っているのですから、近界民(ネイバー)同士の戦争では相手国の(マザー)トリガーを手に入れた方が勝ち(もしくは王手)で、負けた側の国は植民地化されて住民たちは労働力として、またガロプラのように第三国と戦う際の手駒として扱われるものだと推測されます。
だとするとアリステラが滅びてしまう状況となったので王女と王子に(マザー)トリガーを継承させて玄界(ミデン)に亡命させたという話が引っかかってしまうのです。
敵はアリステラを従属させるつもりで侵攻していたのですが、アリステラ国王が自分と家族さえ生き延びることができれば国民は死んでもかまわないと考えたとしたらどうでしょう?
国が滅びたから王族が亡命したのではなく、敵に攻め込まれて命の危機を感じた国王が「一族の存続というエゴのために国民の犠牲を承知の上で(マザー)トリガーを切り離して国を滅ぼした」とすると合点がいきます。
したがって拙作では国王がボーダーに(マザー)トリガーを譲渡するから自分たち家族を亡命させてくれと依頼したという話にしました。
つまり国民を捨てて自分たちだけが生き残ろうとしてボーダーと取引をしたということです。
そんな自分勝手な国王によってアリステラは滅んだということにし、アリステラの(マザー)トリガーはボーダーのものとなりました。
そして譲り受けたものは(マザー)トリガーの「核」ということにしました。
(マザー)トリガー自体は「近界(ネイバーフッド)の惑星国家を形作る巨大なトリガー」となっており、原作でも生贄と融合させている絵がありますが簡単に運び出すことができる代物ではないことはわかります。
ですので「核」という人間の手で運ぶことができ、遠征艇に納まる(出入り口を通り抜けることができる)サイズにすることで可能としました。
その「核」を起動して運用するために新たな「生贄」が必要となり、アリステラの王女を生贄にすることにしたのは原作に登場する瑠花王女の態度が気に入らなかったからです。
(マザー)トリガーを継承した彼女が亡命先で手厚く保護されているのは当然でしょうが、だからといってあの傲慢な態度が許されるとは思いません。
目上の人間に対して平然と呼び捨てをし、腰に手を当てて「ボーダーがここまで大きくなったのは、ほとんどが私たちの存在と唐沢の尽力に由るものなのですから」という驕り昂ぶった態度が腹立たしいと感じたのです。
たしかに(マザー)トリガーの存在と唐沢の外務・営業の働きがなければボーダーは現在のような巨大な組織になっていなかったでしょう。
しかし城戸や忍田といった旧ボーダーの大人たちがいなければ死んでいたわけで、命の恩人である城戸や忍田たちに対する感謝の気持ちが欠片も感じられない嫌な女だと思いました。
そこで憂さ晴らしの理由もあって、第一次近界民(ネイバー)侵攻の際にアリステラの王女が瀕死の状態になったために城戸が()()()()()(マザー)トリガーと同化させ、「核」の状態だった(マザー)トリガーを使用可能としたという話にしたのです。
(マザー)トリガーが使用できるようになったのが第一次近界民(ネイバー)侵攻直後からで、そのおかげで半年の間に新体制に移行する準備ができたと考えると辻褄が合うと思います。

その2
仲間の半数が死んでしまうという凄惨な現場にいたというのに小南たち旧ボーダー時代のメンバーが何事もなかったかのようにボーダーを続けていることが不可解でした。
特に当時12歳くらいだった小南が親しい人間が目の前で次々と死んでいく光景を見ているはずですから、その精神的なショックはただならぬものだったと想像できます。
そこで城戸が彼女だけでなく生き残りメンバー全員の記憶を一部封印することで日常生活に戻ることができるようにするだけでなく、ボーダーを続けられるようにしたということにして、その封印措置の道具を(ブラック)トリガーとしました。
その(ブラック)トリガーが遠征で死んだメンバーかどうかはこの時点ではハッキリさせてまいませんが、ボーダーが記憶封印措置をする際にはこの(ブラック)トリガーを使用していることにしました。


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