ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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472話

 

 

城戸はツグミに(マザー)トリガーについてすべてを明かしたことを忍田にも報告しておかなければいけないと考え、月例隊長会議が終了したタイミングで忍田を執務室へ呼び出した。

そして城戸が事情を説明すると、忍田は特に驚いた様子もなく黙って話に聞き入っていて最後に言った。

 

「城戸さんの判断は正しいと私も思います。真実を明かしたことはあの子に新しい武器(トリガー)を与えたことに等しい。あの子にとって知識や情報、そして総合外交政策局局長という肩書きはあの子専用の武器(トリガー)のようなもの。今後あの子には弧月やイーグレット、シールドなどは必要ないでしょうがそれに代わるものは必要です。新しい武器(トリガー)を手に入れたあの子は嬉々として次の戦場へ赴く準備をしていることでしょうね」

 

「……」

 

「私は幹部会議の前にあの子に本当の気持ち…幹部メンバーに名を連ねることに反対だったことを告げました。しかしあの子の話を聞いていて、あの子が私たちの想像以上に世の中を理解しているのだと気付いたんです。…世界は無慈悲で理不尽で欺瞞と矛盾に満ちています。普通の人間なら世の中はそんなものだと諦めて嫌なものから目を背けながら生きていくのですが、あの子はみんながそうだからと言っても自分が納得できないことに対して盲目的に従うことはなく何か他に道はないのかと模索する。他人から見れば無駄だとかジタバタして見苦しいと思えることでも、あの子にとってはそうしないと諦めきれないのでしょう。あの子も世界は不条理なことがいっぱいあって折り合いつけてやっていかなければならないことくらいわかっているのですが、わずかでも可能性があるのならトコトンまで抗う。しかしこの抗うという行為は無駄ではなく、あの子にはそれすらも次のステップに進むために不可欠なものとなるんです」

 

忍田の言葉に城戸は大きく頷いた。

 

「そうだな。あらゆる経験を貪欲に吸収してすべてを成長の糧にしてしまうから普通の子供よりも精神的な成長が早く、私たちが考えている以上に大人になってしまっていた。そうならざるをえない環境を作ってしまった責任は私たちにあるのだが、あの子は私たちを良い父親だ、尊敬しているとまで言ってくれる。ツグミは織羽と美琴から託された大切な娘だが、私たちは彼らに胸を張って父親の役目を果たしていると報告しても良さそうだ」

 

「城戸さんもそう思いますか。私もあの子のことをいつまでも子供だとばかり思っていたものですから、ここ1年の間の急激な成長に戸惑うばかりでした。見た目はまだ子供ですが、それなのに考え方や行動は並の大人では敵わない。そのアンバランスさが私にとって恐ろしいというか、このままでいいのか悩んでいました。しかし幹部用の制服を着たあの子の姿を見て私はわかりました。城戸さんや私も同じものを着ていますが、それは旧ボーダー時代からの流れで総司令、本部長という役職を務めているからにすぎないのですが、あの子は一隊員からスタートして自分の力で()()()()駆け上って来たんです。さっきあの子の制服姿を見た時に良く似合っていると感じましたが、それは単に服のデザインや着こなしがあの子に合っていたというだけでなく、ボーダー幹部の制服を着る資格を()()()()からなのだと確信しました。今回の人事もあの子が希望して城戸さんが認めたのだから仕方がないなどと私は後ろ向きな気持ちでいたところ、あの子の覚悟を目に見える形で示されたことで私はあの子をいつまでも守ってやらなければならない子供ではなく共に戦う同志と認めることができました。これまでもずっと一緒に戦ってきたのですが、どうしても娘だとか子供だといった意識が拭えなかったですからね」

 

「私も同じだよ、忍田。しかし私はとうの昔に武器(トリガー)を起動するだけの力を失ってしまった。辛うじて護身用のトリガーを起動させるのが精一杯で、戦場に立つことはもうできない。今の私にできるのは次代を担う若者たちを総司令官という立場で守り、新たな武器(トリガー)を与えてやることだけだ。ただしあの子が近界民(ネイバー)と戦うために使用する武器(トリガー)はあの子が自分自身で手に入れた情報や人脈といったもので、それを最大限に活かすために私は総合外交政策局局長という肩書きを与えたにすぎない。弧月における旋空のようなものだ」

 

弧月は(ブレード)トリガーとして非常にバランスが良くて完成された逸品だが、旋空というオプショントリガーを使用することで射程を伸ばすことが可能となり、さらに攻撃力も増す。

だから弧月を使用する攻撃手(アタッカー)の大多数が旋空を装備しているのだが、必ずしも全員が効果を上げているとは言い切れない。

つまり使用者にとっては装備していても宝の持ち腐れとなるわけで、すべては使用者の技量次第なのである。

そして城戸がツグミに「肩書き」を与えたのは彼女が自力で得た武器(トリガー)の効果を数倍にアップさせるため。

一隊員ではできないことも総合外交政策局局長となればその力の及ぶ範囲と効果は格段に増す。

たしかに弧月と旋空に例えるのは正しい。

 

「ところで真実を知った時のあの子の反応はどうでしたか」

 

「私の判断はその時の最適解だったと思う、だと。ツグミは自分がエウクラートンの次期女王候補という立場にあるからか、ノブレス・オブリージュの考え方を当然だと受け入れている節がある。(マザー)トリガーの中にあの国の王女が閉じ込められていることは可哀想だが、故郷が滅びたというのに平和な国で贅沢な暮らしを享受するだけの王女にできた唯一の罪滅ぼしだと考えれば妥当なところ、だそうだ」

 

「実際に彼女は治療を受けたところで助かる見込みはなく、(マザー)トリガーを役立てるためには誰かが犠牲にならざるをえなかったわけですから。それにボーダーの仲間や無関係の三門市民を生贄にするよりははるかにマシというものです」

 

「それにあの子は私が本部基地(ここ)(マザー)トリガーがあること教えた時、遠征で死んでしまった10人のうち誰かが自ら身を投じたのではないかと想像していたとも言っていた。あの子は王家一家の亡命については知らされてはおらず、(マザー)トリガーを運用するためには人がひとり犠牲になることを知っていたのだから誰が生贄になったのか気になっていたはずだ。当然、あの遠征で命を散らした仲間の誰かではないかと思うだろう。それならもっと早くに真実を教えてやるべきだった。あの子には可哀想なことをしてしまったと少し後悔したよ」

 

「しかしあの子はこのタイミングで告白したことを最適解だと言うはずです。事情が事情ですから今までは教えることはできなかったのですし、このままずっと内緒にしていて何かの拍子に意図せずバレるようなことになればその方があなたを責めたかもしれません。それにあの子は十分に大人ですから、あなたの事情を察して許してくれていますので気に病むことはありませんよ」

 

「ああ。…3年前に隊務規定違反でB級に降格させた時、あの子は玉狛支部への異動を望んだ。もちろん止める理由はなかったから許したが、これでまたひとり大切な子供を失ってしまうのかと哀しい気持ちになったよ。しかしそれはあの子も同じ気持ちだったようだ。和解をしてお互いに自分の気持ちを口にできるようになったことで教えてもらったのだが、あの子は私のことをボーダーの上官というだけでなく家族のつもりでもいたために『どうしてわたしの気持ちをわかってもらえないのか?』と哀しくなった。ところがあの子は『家族だからといっても自分とは違う人格つまり他人であり、言葉で伝えなければわかってもらえるはずがない』と気付いたのだそうだ。だから私とあの子はお互いにわかってもらいたいことがあれば察してほしいと思うのではなく、言葉にして相手に伝えることにした。以来、私たちは良好な関係を続けている。今になって思い返すと『子供のくせに』という私のあの子に対する傲慢な態度がいけなかったのであり、あの子の言葉に耳を傾けようとしなかったことが原因だったのだと反省している。おまけに私はあの子に避けられている、嫌われていると勝手に思い込んでいた。しかしそれもあの子の気遣いで、お互いにこれ以上関係を悪化させないように顔を合わせないでいただけだった。賢いだけでなく優しい娘だよ、霧科…いや忍田ツグミという少女は。織羽と美琴も天国で喜んでいることだろう」

 

「私もそう思います」

 

城戸と忍田の顔に自然と笑みが浮かんだ。

 

 

◆◆◆

 

 

幹部会議で話し合われた結果、ツグミに新たな仕事が加えられた。

彼女は3月1日付けで総合外交政策局局長に就任したことになっており、それはその日のうちに全ボーダー隊員・職員に伝えられている。

対外的にも発表されているため、15日の夜に放映される「こちらボーダー広報室」に出演することに決まったのだ。

ツグミはすでに「人類初の近界(ネイバーフッド)往還に成功し、近界民(ネイバー)が人類であることを確認した」ことで有名人となっている。

そんな彼女が17歳でボーダーの幹部メンバーとして名を連ねるとなれば大ニュースであり、現在進行中の三門市民救出計画の進捗状況と合わせて市民がぜひとも知りたいと思っているはずだ。

そこで急ではあるが8日の午後に三門ケーブルテレビのスタジオで収録することになった。

そのシナリオ作りが彼女の役目で、自分の執務室で机に向かっていた。

 

(今後本格化する市民救出計画で近界民(ネイバー)との交渉窓口として総合外交政策局という部署が新設され、その局長としてわたしが抜擢された。理由は近界(ネイバーフッド)への渡航経験があり、近界民(ネイバー)と交流があるからというもの。さらに過去に唐沢部長の補佐として営業・外務の経験があるため。今のところ部署を新設したばかりなので報告すべき仕事はしていないが、今後市民救出計画を進めるに当たって近界民(ネイバー)と直接交渉をする役割を果たすのが主たる仕事…といったところかな。三国同盟締結の発表についてはもうしばらく経ってから。キオンとエウクラートンはアフト遠征成功に甚大な協力をしてくれた国で、実は以前から同盟を結ぶことで玄界(ミデン)近界(ネイバーフッド)の友好的な交流の推進について協議していた、と。近界民(ネイバー)の協力者が増えることによって第一次侵攻で行方不明になった市民の情報が得られ、該当する国へ赴く際にも案内役を引き受けてくれる。こういった流れにしておけば不自然さはなく、徐々に情報公開していくことで市民に対して誠実に対応していると感じてもらえるはず)

 

ツグミが書いているシナリオは自己紹介と1対1での対話形式の質疑応答の内容である。

彼女に与えられた時間は約12分で、内容が内容だけに適当に済ませることはできない。

市民に理解と協力を求めるための広報番組なので、そのことを踏まえた上で伝える情報をホワイトボードに箇条書きにしていく。

 

(番組の前半は通常のボーダー活動の報告を嵐山隊のメンバーが紹介するもので、CM後にわたしの紹介と質疑応答となる。12分といっても正味10分強ってとこだから…)

 

PCのキーボードを叩きながらエクセルで表を作り、タイムスケジュールを考えるツグミ。

頭の中でセリフを思い浮かべ、それが何秒かかるか口に出してみて秒数を計り、該当するセルに入力するのだ。

 

 

 

 

「うん、ひとまずこんなカンジかな? 実際にこのセリフで ──」

 

ツグミがシナリオの第一案を仕上げたところでドアをノックする音が聞こえ、続いて訪問者の声がした。

 

「ツグミ、木崎だ。入ってもいいか?」

 

「どうぞ、お入りください」

 

するとレイジが遠慮がちに部屋の中へ入って来た。

 

「いらっしゃい、レイジさん。あなたが本部基地(こっち)に来ているなんて珍しいですね?」

 

「第1金曜だから隊長会議があった」

 

「ああ、そうでしたね」

 

「会議の時に忍田さんからおまえが帰って来ていると聞いたから会いに来た。…少し話したいことがあったものだからな」

 

なんとなくぎこちない雰囲気のレイジだが、その原因はすぐに判明した。

 

「その…なんだ…1年前におまえが玉狛支部を出て行って、それから会う機会はあったがゆっくり話すことがなかったものだから…」

 

「たしかに顔を合わせてはいますが仕事関連ですからプライベートな話は一切していませんでしたね。2年近く玉狛支部で一緒に暮らしていたんですから急にいなくなれば調子が狂う。あの時はどうもすみませんでした」

 

ツグミが頭を下げるとレイジは慌てて制止した。

 

「おまえが謝ることじゃない! おまえが出て行ったのは俺や宇佐美にも責任はあるのだし、むしろ俺の方に謝罪すべき理由がある。…雨取の師匠でありながらメンタル面について知っていても見て見ぬふりをし、問題解決をしようとしたおまえを悪者に仕立てあげて何のフォローもしなかった俺が悪かった。すまない、ツグミ!」

 

大きな身体を小さくして頭を下げるレイジにツグミは言う。

 

「レイジさんは悪くありません。そもそも誰が悪いとか正しいとかじゃなくて、あの時はそれぞれ事情があって他人のことよりも自分を守ることを優先していただけです。人は誰でも自分のことが大事で、相手のために良かれと思って苦言を呈することでも自分が嫌われてしまうとなれば躊躇するものです。わたしも他人の目や感情を気にしすぎていて嫌われないようにするために良い子でいる努力ばかりしていて疲れてしまいました。その中で他人から嫌われることを恐れないで正しいと思えることをしようと考え直し、他人の評価よりも自分が自分らしく胸を張って生きることの方が大事だと気付いたからこそ、チカちゃんの問題を解決するためにあんな荒療治をしたんです。ですから彼女に酷いことを言ったことも玉狛支部を出たことも後悔はしていませんし、レイジさんたちを恨んだり憎んだりすることもありませんでした。むしろあの事件をきっかけにしてわたしはひと回り成長したように感じます」

 

「……」

 

「レイジさんやシオリさんのようにチカちゃんに優しく接したことは間違っていません。彼女の事情を知っていれば自然とそうなるものです。ですが彼女に対して撃てないことを容認し、撃てるようになる努力をさせなかったことは師匠として失敗だったと思います。ボーダーが新体制になってまもない頃に狙撃手(スナイパー)というポジションが誕生し、東さんが師匠となってわたしとレイジさんがイーグレットの訓練をしていた時のことを覚えていますか? 初めは的撃ちで、そのうちに仮想空間で再現したトリオン兵を撃つ訓練をしました。そして次に人型近界民(ネイバー)を模した標的を撃つ訓練に移行しましたが、すぐには撃てませんでしたよね。これまで何度も人型近界民(ネイバー)と戦ってきているのに、狙撃となると躊躇してしまいました。近接戦闘だと相手もトリオン体であって武器(トリガー)を持っていることは一目瞭然。ここで敵を倒さなければ自分が殺られてしまうと思えば自然と我が身を守るために戦えます。それが照準器(スコープ)を覗かなければ敵と確認できない遠距離だと『もしかしたらあれは生身の人間で、弾が当たったら死んでしまうかもしれない』って思ってしまい引き金(トリガー)を引く勇気が出ませんでした。わたしはそうでしたけどレイジさんはどうでしたか?」

 

「おまえと同じだ。しかし自分で自分に『あれは敵でトリオン体なのだから死ぬことはない』と暗示をかけて撃てるようになった。いや、撃てなければダメなのだと自分に言い聞かせて無理やりに撃てるようになったんだった」

 

「わたしも撃たなければ自分が死ぬ。仲間を死なせることになると自分を追い詰めるような暗示をかけて撃てるようになりました。そんな経験をしたのにあなたは撃てるようになる努力をさせようとせずに撃てないことを許してしまいました。自分が苦労して撃てるようになる努力をしたのに、鳩原さんが撃てないことに苦悩している姿を見ていたのに、あなたはチカちゃんに()()()を与えてそれで問題解決をしたかのような態度でいたのでわたしは腹が立ったんです。シオリさんが甘やかす側になるならあなたは厳しく接する側にいなければバランスが取れないというのに、ふたりで甘やかす側に回ってしまいました。ここでチカちゃんが撃てなくてもかまわないという話で終わってしまったら3人とも気持ちが楽になって問題解決ハッピーエンド…となったでしょうが、現実はそう甘くありません。鉛弾(レッドバレット)狙撃という根本的な解決策ではない小手先の技術で誤魔化す方法はB級ランク戦を勝ち抜くための手段でしかなく、その先にある遠征…人型近界民(ネイバー)とルール無用の殺し合いをすることになった時にあなたは師匠としてチカちゃんを『人を撃つ覚悟』がない状態で戦場に立たすことができますか? わたしだったら絶対にできないと思ったからこそ、あえて苦言を呈して彼女を追い詰めるようなことをしたんです。彼女の『撃てない』は『撃ちたくない』ですから撃たざるをえない状況に追い込めば撃つという確信がありましたから」

 

「そう言われると面目ない。俺は厳しく接して雨取に嫌われるのが怖かっただけで、優しくて頼れる兄貴のような存在でいたかったという気持ちがあったことも否定しない。宇佐美から雨取の様子を聞かされ、自分が甘やかすことを大目に見てくれと言われたんだが、俺自身も雨取を甘やかしてしまった。だが甘やかすことが雨取のために正しいことなのだと思うことで厳しく接することから逃げていただけ。俺は師匠として失格だ。技術は教えることができても狙撃手(スナイパー)として撃つべき時に撃てないことで生じる結果、心構えを教えることができなかった」

 

「シオリさんはチカちゃんがランク戦で危険な役をすすんでやりたがることで自分の命を軽んじているのではないかと言っていましたが、トリオン体で戦うから絶対に死なないという保証があるために死ぬことの恐怖を知らないだけなんです。生身で同じことをやれと言われたら積極的にやるどころか絶対に怯えて身動きひとつできなくなるでしょうね。ボーダー隊員はトリオン体で戦うことが大原則だから死の恐怖に駆られることなく戦うことができますし、保護者も危険ではないと保証されているから我が子の入隊を許す。そのせいで緊急脱出(ベイルアウト)ありきの戦術を簡単に用います。緊急脱出(ベイルアウト)システムのなかった頃の戦争を知っている旧メンバーですら死ぬかもしれないという緊張感が薄れて無茶な戦いを平然とするようになってしまいました。チカちゃんの『ランク戦で危険な役をすすんでやりたがる』は仲間を守るために自分が犠牲になろうというものではなく、痛い思いをしなくて済む()()()のようなものだから危ないことをしても大丈夫。それくらいのことをしなければ役立たずだと思われてしまうという意識によるものだと思い、アフト遠征の最終試験では戦場で生身の身体になってしまうと何もできないどころか仲間の足手まといになるだけと経験させました」

 

「それは雨取が俺に試験に不合格だったと報告をくれた時に聞いていた。厳しいとは思ったが緊急脱出(ベイルアウト)ができないのなら当然のことで、その経験があるとないとでは実戦で戦う時の覚悟が違う。俺だったらそこまでせずに撃つことさえできたら合格にしてしまっただろうな」

 

「今でもまだ人を撃つことにためらいがあり、B級ランク戦では狙撃以外の方法に頼っている節があります。…まあ、彼女が狙撃手(スナイパー)として一人前になる必要はありません。B級ランク戦では適当に鉛弾(レッドバレット)を使いながら狙撃をし、炸裂弾(メテオラ)追尾弾(ハウンド)に頼った射手(シューター)寄りの狙撃手(スナイパー)で十分役に立つ。オサムくんたちがフォローしてくれるから問題はないし、なによりランク戦では絶対に死ぬことはありません。そうやって暢気に訓練と称したゲームを続けて()()()()()()()()()()()()()()いい。近いうちに敵意を持つ近界民(ネイバー)を三門市に足を踏み入れることのない環境を()()()()つくりますから」

 

ツグミの言い方は千佳はもちろんのこと、その他の防衛隊員に対しても無礼な態度である。

しかしその言葉の裏に潜む()()にレイジは気付いていた。

 

(つまり敵性近界民(ネイバー)が三門市にやって来なければ戦う必要はなくなり、第一次侵攻の被害者を全員救出すれば近界(ネイバーフッド)へ遠征する必要もなくなる。そうなれば防衛隊員の仕事は格段に減り、ボーダーの防衛機関としての規模は縮小できるだろう。ツグミは自分がそういう未来を創るからそれまでボーダー活動を()()()()いろと言いたいんだな)

 

ツグミが描く「未来予想図」はボーダーの(マザー)トリガーの寿命が尽きるまでに第一次近界民(ネイバー)侵攻の被害者市民の全員救出を果たし、ボーダーという組織を維持する以上最低限の防衛隊員を残して、トリオンやトリガーの研究を中心としたものに移行する。

そして玄界(ミデン)に留学することを希望する近界民(ネイバー)たちを受け入れるためと近界(ネイバーフッド)に新たな文化を広める人員を派遣する窓口となるもので、武器(トリガー)を使用して戦うことは彼女の計画の中にはない。

 

「そう言えばおまえが総合外交政策局局長になったことに対してまだお祝いを言ってなかったな。就任、おめでとう。これから今まで以上に大変だろうが頑張ってくれ」

 

レイジの言葉にツグミは自然と笑みが浮かんだ。

 

「フフッ、わたしは登るべき山が高ければ高いほどやる気が出てくるんです。城戸司令からは頑張らずに程々にしろと言われました」

 

「…たしかにそうだな。おまえは昔から人の期待に100パーセント応えるだけでは満足できず、それ以上の結果を出してきた。俺が頑張れと言えば150や200パーセントの結果を出そうとするかもしれないな。なら言い直そう。程々にしろ、いいな?」

 

「はい、わかりました」

 

ツグミは玉狛支部を逃げ去るように出たことでレイジたちとの絆の断絶をも覚悟した。

しかしレイジがこうして以前と変わらずに接してくれる頼もしい「兄」であることを確認でき、ツグミはほんわかと温かい気持ちになったのだった。

 

 

 

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