ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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49話

 

 

毎月第一金曜日の午後は各部隊の隊長が集まって行う月例隊長会議がある。

当然、ツグミと修もそれに出席すべく時間に余裕をもって本部基地へと向かっていた。

しかしその途中で(ゲート)が開くという緊急事態が起こり、現場のもっとも近くにいた彼女たちが駆けつけてバムスター1体を停止させた。

そのせいで隊長会議の開始時刻を10分ほど遅らせなければならなかった。

もちろん任務によるものでツグミたちには責任はないなのだが、他の隊長たちを待たせてしまったという負い目があり、会議室に勢ぞろいしている隊長たちの視線を浴びながらふたりは末席に小さくなって座った。

隊長会議では各隊の1ヶ月間の任務やランク戦等の報告をし、さらに支部の隊長は支部での活動の報告もしなければならない。

全部隊で情報共有をして今後の任務に役立てようという趣旨のものである。

ツグミと修が小さくなっているのは遅刻の件もあるが、このふたりにとって隊長会議に出席するのは初めてのことであり、それで緊張しているのだ。

ランク戦でさえ余裕たっぷりのツグミが隊長会議程度で緊張しているのが珍しいので、他の隊長たちは興味深げに見ており、それがますます彼女をナーバスにさせる。

そしてその隣にいる修にもそれが伝染し、ふたりのいる場所だけが妙に張り詰めている。

さらに通常は1時間から1時間半ほどで終わる会議だが、先月の大規模侵攻関連の報告に時間がかかり、2時間以上の長丁場となってしまった。

おかげでツグミと修のやつれ方がハンパじゃない。

その様子を見た他の隊長たちは声をかけづらく、ふたりは最後によろよろと立ち上がって廊下に出た。

 

 

「ツグミ、三雲くん、ちょっと待ちなさい」

 

背後から声をかけてきたのは忍田だった。

 

「忍田本部長…何かご用でしょうか?」

 

いつもの覇気がないツグミ。

修も肩を落としてぐったりとしている。

その姿を見た忍田は心配になった。

 

「ふたりともずいぶんとやつれているな…。ちょうどいい、私の部屋に来たまえ」

 

半ば強制的に連れて行かれるツグミと修。

そして本部長室へ着くと、来客用のソファに並んで座らされた。

 

「きみたちはコーヒーよりもジュースの方がいいかな?」

 

そう言って忍田は内線電話で沢村に連絡する。

 

「沢村くん、すまないが私の部屋にコーヒーひとつとオレンジュースをふたつ持って来てくれ」

 

電話を終えると、忍田はツグミたちの正面に座った。

 

「きみたちにとって隊長会議は今日が初めてだったな? ずいぶんと緊張していたようだが、どうだ、感想は?」

 

忍田に訊かれ、ツグミが答える。

 

「ランク戦のことばかり考えていて、隊長会議のことをすっかり忘れていました。昨日の夜に慌てて報告書を書き、レイジさんに添削してもらったんですけど、出来栄えが気になってしまって会議に集中できませんでした」

 

すると忍田は机の上の報告書の束をパラパラと捲ってツグミと修の書いた報告書をチェックした。

 

「初めてにしては良く書けている。三雲くんの報告書も良い出来だ」

 

「「本当ですか?」」

 

ツグミと修の顔がパッと晴れやかなものになる。

 

「ああ。太刀川隊の報告書など小学生の作文レベルだぞ。それに比べたら上出来だ」

 

忍田の言葉にツグミと修は大きく安堵のため息をついた。

そこに沢村がやって来て、飲み物を置いていく。

 

「その様子だと本部長に褒められたようね?」

 

「はい。ありがとうございます、沢村さん」

 

沢村が出て行くと、ツグミはオレンジジュースを一気に半分ほど飲み干す。

 

「はあ…緊張していたのは報告書の件だけじゃないんです。向かい側の席の三輪さんと二宮さんの視線がプレッシャーで、生きた心地がしませんでした」

 

いつものツグミに戻ったようで、遠慮なく言う。

 

「しかしあのふたりは元チームメイトだろ? 三輪はともかく二宮とは仲が良いと聞いているが」

 

「二宮さんとの仲は良好ですけど、とても厳しい人ですから。わたしやオサムくんに隊長としての資格があるかどうかを見定めようという感じでした。あの様子だと、不合格の判定ではなかったみたいでひとまず安心しています」

 

「当然だ。おまえたちはランク戦でも良い結果を出しているし、隊長としての務めもきちんと果たしている。私は本部長として満足しているぞ」

 

「ありがとうございます」

 

ツグミと忍田の会話を眺めていた修も気持ちが落ち着いてきたようで、いつものように素朴な疑問を口にした。

 

「霧科先輩、三輪先輩や二宮さんとチームメイトだったというのは東さんがA級1位の隊長だった頃の、ですよね?」

 

「そうよ。彼らとチームメイトだったのは1年くらいだったけど。ふたりとも個性が強すぎて、東さんはずいぶん苦労していたわ。それに近界民(ネイバー)に対するそれぞれの考え方が違うから大変。東さんは忍田派、三輪さんはガチの城戸派、二宮さんは忍田派寄りの城戸派、そしてわたしが玉狛寄りの忍田派だから、同じ部隊(チーム)にいたこと自体が不思議なくらい。彼らは将来の隊長候補として東さんに師事していたけど、わたしは狙撃と戦術について学ぶだけだったから、イーグレットでマスター獲得してから辞めたの。その後に加古さんが入ってきて、東さんのストレスによる胃炎はMAXになったわ。そもそも当時の東隊は『優秀だけど人間性に問題のある将来の隊長候補の隊員を健全な隊長()育てる』という目的があって、忍田本部長が強制的に入隊させていたのよ。わたし以外はね」

 

「……」

 

「でも東さんの犠牲も無駄にはならなかった。3人ともA級部隊(チーム)の隊長になって活躍したから。そんな東さんがA級を辞めてB級になったのは、今度はB級の『前途ある健全な若者()育てる』道を選んだからなの。これがなぜ東さんほどの人がB級なのか、そして多くの隊員から尊敬されるのかという理由。忍田本部長はわたしにも隊長をさせたかったみたいだけど、わたしは隊長ってガラじゃないから東隊を辞めた後は無所属(フリー)でいたのよ。普通は無所属(フリー)でいると防衛任務とかでいろいろ問題があるから仲間を集めて部隊(チーム)を作るんだけど、わたしは例外。レイジさんとかジンさんと同じようにひとりで一部隊扱いの実力があるからね」

 

「でも先輩ほどの人なら自分の隊にスカウトしてくる隊長がいたんじゃないですか?」

 

「う~ん…まあそれからしばらくして隊長になった二宮さんとか加古さんとか、あと太刀川さんとかA級部隊(チーム)の隊長たちに誘われたこともあったけど、例のことがあってB級落ちして玉狛支部に転属となったからそれらの話は自然消滅したわ。その後玉狛支部に転属してからもずっと無所属(フリー)でいたってわけよ」

 

「しかしそんなおまえも自らの意思で隊長となってランク戦に挑んだ。そしてA級に戻るのだろ?」

 

忍田に言われてツグミは頷く。

 

「はい。これはわたしが選んだ最善の道です。対外的にはA級になるためにランク戦に参加していることになっていますが、実際のところ自分が精一杯やるべきことをやった結果がA級昇格であればいいと思っています」

 

「そうか…」

 

そう言った忍田の表情は上司のものではなく、ひとりの父親のものであった。

そして修はツグミが自分と同じ道を歩きながらも目指しているものが違うことを知った。

 

(先輩はA級になることを目的としているんじゃなくて、結果としてA級になれたらいいという気持ちで戦っているのか…。そもそも先輩にとって一番大切にしていることは玉狛支部での日常を守ることだからA級とかB級とかは関係ない。ぼくたちのようにA級になって遠征部隊選抜を目指しているのとは違うけど、こういうのもアリなんだな。…というか先輩の余裕というか強さはこういうところにもあるのかもしれない)

 

修はツグミのそばにいて、彼女の視線の先にある()()を自分も見てみたいという気になった。

 

 

 

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