ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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488話

 

 

トリオンキューブから元の生身の状態に()()された帰国者63人は一夜明けてボーダー本部基地で目が覚めた。

彼らには研究室(ラボ)の仮眠室や作業室などの広い部屋に簡易ベッドを設置して朝までぐっすりと眠ってもらったのだ。

 

彼らの今日の予定はまず食堂へ移動してもらい、事前にリクエストを受け付けていた白米、味噌汁、生卵、焼き鮭、納豆の他にうどんやラーメンなどの麺類やカレーライス、食後のコーヒーや牛乳など何でもありの朝食バイキングとなる。

朝食後は健康診断を行い、健康状態に問題がないとわかれば記者会見の出欠について確認をして、午後からは慰労パーティーの開催。

ここでツグミが頭を悩ませたのはこの時点で帰国者の家族を呼ぶかどうかであった。

家族が無事であるなら早く会いたいだろうが、中には家族全員が死亡していて天涯孤独の身の上になってしまった者もいる。

そんな人に対して家族との再会をして喜んでいる仲間の姿はキツイだろう。

そこで面会人のいる帰国者に対してはパーティーの途中で会場を抜け出して個別に別室で面会をしてもらうことになっている。

 

健康診断の結果、やはり彼らの多くは食料不足による栄養失調が原因の数々の症状が見られた。

しかし彼らの多くが若者であるために適切な治療を受けることで全快できる程度のものであり、それも入院ではなく通院で大丈夫だということであった。

記者会見は健康上問題がないということで城戸の命令で63人全員が出席することになる。

それはひとりでも欠けることなく全員が帰還したという事実をアピールするためで、それは帰国者も顔出しNGという条件があるために出席を承諾した。

ツグミは強制したくないと考えていたが、本人たちが自ら決めたことであれば問題ないということで、記者会見は64()人の帰国者、ボーダー側から城戸、忍田、唐沢、ツグミ、そして司会として根付が出席することで最終決定となった。

帰国者の数が64人となっているのは今回の63人に昨年12月に調査隊によって救出された水戸涼花を加えているからである。

彼女が帰国していることは配偶者と娘が近界民(ネイバー)であるために公にすると彼女たち一家に不利益が生じると判断されたためにこれまで伏せられていたので、63人の帰国者の中に混ぜてしまおうということなのだ。

時間、会場、内容などを簡単にまとめてマスコミ、行政、スポンサー各位といった関係者に記者会見を行う旨の連絡を済ませたのが午前11時すぎで、その直後から問い合わせの電話がメディア対策室に殺到した。

ヒエムスでふたり救出したことと、まだ60人以上の市民がいるので近いうちに救出へ行くという計画は5月2日に放映された「こちらボーダー広報室」において発表されていたが、公式の場で「拉致被害者市民救出計画」の経過報告するのは今回が初めてである。

記者会見の様子は三門ケーブルテレビによって生放送されるが、その夜にも特別番組として編集された1時間番組としても放映される予定だ。

しかし内容が「異世界に連れ去れられた民間人の帰国」というセンセーショナルなものなので、この事実が知られたらその影響は全世界に及ぶだろう。

そのために国内だけでなく海外のメディアの日本支局にも連絡してあるため、用意してあるマスコミ関係者席200席は足りないかもしれない。

そこで市民席は600席とし、当日の朝から整理券を配ることとした。

以前にアフトクラトル遠征でC級隊員を救出した時以上に反響があると思われ、準備は丁寧かつ迅速に進めていったのだった。

 

本部基地の中庭で開かれた慰労パーティーには主賓の帰国者63人だけでなく、城戸たち上層部メンバー、本部基地勤務で手の空いている職員や本部待機の隊員など総勢約100人が参加した。

ヒエムスでは庶民に肉食の習慣があまりないために6年近く肉料理をほとんど口にしていなかったのでBBQパーティーとなったのだが、それ以上に海のないヒエムスで魚料理、特に生魚は皆無と言っていい。

そこで大量の握り寿司を用意してもらうと、帰国者たちは目の色を変えて一斉に寿司に飛びついた。

肉を焼いている間に寿司を食べ、肉が焼けると肉を、そしてまた焼いている間に寿司を食べるということを繰り返している。

その姿を見ているといかに近界(ネイバーフッド)の食文化が貧しいかがわかる。

逆に言えば玄界(ミデン)のレベルが高いということで、これも近界民(ネイバー)たちとの交渉の中でボーダーが有利に事を運ぶために役立つことだろう。

ツグミも関係者のひとりであるからパーティーの輪の中に入り、肉や野菜に舌鼓を打った。

これは帰国者の慰労パーティーであるが、そのために尽力した総合外交政策局員の慰労も兼ねているため、千佳と麟児も招待されていてふたりで楽しそうに語り合いながら食事をしていた。

 

1時間ほどして順に帰国者と家族との面会を行うことにした。

歌ったり踊ったりして賑やかな会場から該当者をひとりふたりと連れ出して、本部基地内の会議室や応接室などで家族と対面するのだ。

そうすることで家族全員を失った帰国者に気兼ねなく感動の再会ができるというもの。

時間はひとり当たり20分と短いが、30日の記者会見が終われば帰る場所のある者はそこへ帰ることができるのだから少しだけ我慢をしてもらわなければならない。

家族にも口外しないよう頼んであり、もうしばらく不自由な状態となるのだがそれは承諾済みだ。

ボーダーにはボーダーの事情があり、今後残りの拉致被害者市民の救出のために必要なことだと言えば断れるものではない。

なにしろボーダーから睨まれたら三門市に住みづらくなるのは明らかで、三門市からの生活サポートを受けるとなればボーダーと仲良くしておいた方がいいことは誰にもわかっているのだから。

一方、会いに来てくれる家族がいない者たちは会場の中央に集められていて、面会のために席を外す人がいることを悟られないよう配慮がされていた。

 

12時から始まった慰労パーティーは片付けを含めて午後3時には終了し、続いて帰国者全員をスマートシティの集合住宅へと案内した。

実家が無事でいずれは戻る予定になっている者も記者会見が済むまでは滞在してもらうことになっている。

突貫工事であったが第1期分の集合住宅150戸分は完成していて、生活に必要なものはすべて揃っているので即入居可であった。

そこで仮住まい ── 人によってはそこに住所を定めることにもなる ── をし、記者会見の後に身の振り方を考えてもらうのだ。

女性たちはすべて一時帰国ということになっていて、三門市で家族と一緒に暮らすことができるとわかれば呼び寄せることになるだろうが、配偶者の男性が就職するには難易度が高いためにきっと悩むことだろう。

さらに配偶者が近界民(ネイバー)ともなれば三門市の家族が受け入れてくれるかどうかも難しい。

ならばむしろ家族全員が死亡してしまった身の上の方が楽なのかもしれない。

とにかく彼女たちの滞在期間は1週間となっていて、その間に身の振り方を考えてもらうことになる。

 

「三門スマートシティ」は建設中の街であり、第1期分の集合住宅150戸分の他ファミリー向けの戸建住宅が25戸完成していて、現在は残りの戸建住宅と公園と大型ショッピングセンターと診療所の工事が行われていた。

直径が約500メートルの円に近い敷地の中央に公共施設を集め、周辺部に居住エリアを設置。

第1期部分は北東部分にあり、そこから時計回りに南東エリアの第2期、南西エリアの第3期、そして北西エリアの第4期という順番になる予定だ。

今のところはとりあえず帰国者の住む場所を提供しようというものだが、それは「被害者補償」の一部ともなる。

「犯罪被害給付制度」というものが制定されているものの、それはこちら側の世界での犯罪に限ったものであるから加害者が近界民(ネイバー)である本件には当てはまらない。

そこで特例を設け、第一次近界民(ネイバー)侵攻及び近界民(ネイバー)による拉致被害者だと認定された被害者に対して国が一定の給付金を支給することになった。

そしてそれに加えて三門市とボーダーも市民に補償をすることになり、衣食住の「住」の部分を現物支給するために三門スマートシティ内の住居を用意したのだ。

もちろん家を与えておしまいではなくこれは最低限のものであり、年齢や性別、その他対象者の状況に応じて個別に対応することになっている。

 

 

 

 

大型バス2台に分乗した帰国者たちは車窓に見える三門市の変わり果てた姿に言葉もなかった。

彼らが自分の目で現在の故郷の姿を目にしたのはこれが初めてで、本部基地を出た直後の警戒区域内や放棄地区は建物がまだ残っているから余計に「三門市に起きた悲劇」が現実であったことを思い知らされる。

見覚えのある家や建物は残っているのだが、一部が壊れているだけでも住民はすべて他の場所で暮らしているから「ここが三門市であることは間違いないが、もう自分の知っている故郷ではない」と残酷な真実を突きつけられてしまうのだ。

だから「懐かしい」とか「嬉しい」という気持ちを表に出すことさえ罪深いとさえ思ってしまう。

なにしろ第一次近界民(ネイバー)侵攻では1200人以上の市民が犠牲となっていて、近界民(ネイバー)にさらわれたとはいえこうして無事に帰国したことを喜ぶのは不謹慎だと思ってしまうから、車内は誰も声を発せずにしんと静まり返っていたのだった。

 

 

帰国者は完成したばかりの集合住宅の前でバスを降り、それぞれ指定された部屋へと入った。

明日は一日部屋の中で今後の人生設計について考えてもらうことになる。

トリガー使いだった男性はこのまま三門市で暮らすことになるのだが、中学生や高校生で拉致された人は復学して正式に卒業したいという希望を持っているため、彼らには先に帰国している篠山と田崎同様に特別授業を受けてもらって2学期から復学できるよう手配している。

6年間もトリガー使いとして生きてきたのだから就職するのであればボーダーの防衛隊員がいいと考える人は多いが、A級隊員でなければ固定給はなくB級隊員の出来高払いだけでは生活していく上で苦しい。

そこで生活で必要な自動車の免許取得、また就職に役立つ資格の取得などに専念してもらうという選択肢も用意した。

そういう点で単身者は楽で、本人たちもそれほど深刻にはなっていないようであるが、女性たちはいろいろ悩んでいて表情は暗い。

そのためにヒエムスで家族と暮らすという選択をした人には三門市で暮らす人とは別の支援を考えていた。

この集合住宅は帰国者用ではなく、第一次近界民(ネイバー)侵攻で住宅を失ってしまい三門市が用意した市営住宅や仮設住宅で暮らしている人たちへ優先的に譲ることになっている。

三門市は被害を受けた市民に対して補償金を支払っているもの分割であるために全額の支払いはまだ終了しておらず、その支払いの済んでいる分を差し引いた金額で売却する予定だ。

ファミリー向けの住宅は建設途中なのですぐには入居できないが、「三門スマートシティ・プロジェクト」が発表された直後に申し込みが殺到していて、第1期分100戸の抽選はすでに終了しているとツグミは唐沢から聞かされていた。

 

ツグミと総合外交政策局メンバーは記者会見が終わるまでこの集合住宅の部屋を借りて滞在し、ここから本部基地へ通うことになっている。

それは帰国者への対応と食事の手配、そして彼らの監視のためであった。

各戸に家電や家具など設置してあってウィークリーマンションのようになっているのだが、衣食住の「衣」と「食」はまだ整っていない。

そこで着替えの衣類は衣類製造販売会社のスポンサーから提供してもらったものを希望者に配布し、食事はしばらくデリバリーで我慢してもらうことになる。

記者会見さえ終わればある程度の制約はあるものの自由に行動できるようになるので、三門市から支給された現金を手に買い物に行くことも可能だ。

誰もまだ経験したことのないことなのですべてが手探り状態で帰国者に満足のいく援助はできていないが、この経験を糧に次のレプト、それに続く残りの国々との交渉とアフターケアを充実させていきたいとツグミは考えていて、そのために自分の行動のすべてを詳細に記録していた。

いつか誰かが自分の代わりにこの仕事をやることになっても戸惑うことにないように、と。

 

 

◆◆◆

 

 

翌29日、午前中に三門市・ボーダーの両者で組織した「三門市生活サポートセンター」のメンバーがやって来て集合住宅内の1室を仮事務所として活動を始めた。

就学・就職などの不安を抱えた帰国者と面接して相談に乗るというもので、これによってツグミの負担は大幅に減る。

なにしろ彼女はボーダー隊員としてはベテランでも、まだ17歳の少女であるから帰国者の「人生設計」に乗ることができるほど人生経験はない。

様々な問題が発生するとそれを逐一プロに連絡して判断を仰いでいたのだがこれで彼女の手間が省けるわけで、帰国者の女性たちが近界民(ネイバー)の家族と共にヒエムスで暮らす意思があるのならその相談に乗ることに専念できることになるのだ。

記者会見場の設営に関しては迅に任せて、ゼノン隊の3人には別のお願いした。

彼らは近界民(ネイバー)であるから自動車の運転免許を取ることは()()できないが、それぞれに自転車がボーダーから支給されているため機動力は十分ある。

そこで細々とした買い物や雑用をしてもらうもので、3人いると大抵のことは30分以内に完了する。

 

そしてとうとう記者会見当日の朝がやって来た。

 

 

◆◆◆

 

 

記者会見は午後2時からとなっているのだが、リハーサルが必要だということで出席者は全員午前10時に会場入りとなった。

しかし朝の6時から観覧希望の市民が整理券をもらうために体育館前に並んでおり、600席分の整理券は9時に配り終えたのだがそのことを知らない市民がスタッフから事情を説明されて渋々帰って行く様子がバスの車窓から見えた。

会場では見られなくても三門ケーブルテレビによって生放送されるし、その夜にも特別番組として編集された1時間番組として見ることができるのだからと素直に諦めてくれたようだ。

 

体育館の裏口にバスを停め、そこから中へ入った。

すでにステージは設置されており、椅子も並べられていて、ひとまず各人が自分の座る場所を確認する。

全体の仕切りは司会者である根付の担当で、ツグミと城戸、忍田と唐沢は幹部席に腰掛けた。

そしてシナリオに沿ってひと通り流れを確認し、記者からの質問に答える帰国者の代表を決めた。

帰国者席は手前にすりガラスのパーティションが置かれていて顔はわからないようになっているので、記者からの質問の際には根付がマイクを代表者に渡すことになるため、一番手前の隅の席に移動することなった。

マスコミ関係だけでも200人、そして観客を含め800人の人間が注目することになるのだがパーティションのおかげで直接客席を見ることはできないので、記者会見慣れしていない帰国者たちも緊張せずに済むはずだ。

 

リハーサルの後は控え室に移動して仕出し弁当の昼食を済ませ、午後1時30分に舞台への移動を開始した。

すでに客席には観客やマスコミ関係者が集まり始めていて、開始時間の15分前にはすべての席が埋まってしまった。

それだけ大勢の人間が関心を持っているということになるわけだが、昨年1月のアフトクラトルによる大規模侵攻以後、ボーダーは大きな変化が見られたことで注目を浴びている。

今のところすべてが良い報告であるから市民はボーダーに期待してくれているが、一度でも失敗とか犠牲者が出たらそこで期待は失望へと変わるだろう。

そうならないためにもひとつひとつを確実に成功させていかなければならず、城戸たちの抱えるプレッシャーは相当なものだ。

もちろんツグミにも同等のプレッシャーはかかっているのだが、彼女が平然といられるのは本人がその時にできる全力を投じているからで、少しでも手を抜くようなことをしてそれが失敗につながることにでもなったら後悔すると考えているからである。

「あの時、ああすれば良かった」と後悔するということは、複数ある選択肢の中から間違った答えを選んだか、もしくは何も選ばなかったということ。

ツグミが後悔しない人生を送っているのは日頃の努力の積み重ねによって数ある選択肢の中から最善の答えを選ぶことができるようになっているからで、たとえ思うような結果が得られなくても「()()()()()やれることはすべてやった」という自負があるからなのだ。

 

リハーサルではすべてが滞りなく進んだが、本番では突発的なことが起きる可能性は捨てきれない。

特にマスコミの質問に関しては事前にどのような質問をするのかをメディア対策室で受け付けており、その質問に対しては正式な回答を用意している。

しかしそれとは別にボーダーに対して好意的ではない人間もいて、そういった連中が悪意のある質問を幹部にではなく帰国者にぶつけてくることは十分に考えられるのだ。

したがってそういった「想定外」に対しての準備も怠らないのがツグミで、いざという時には彼女の判断でその場を収めることになっている。

準備万端という顔で座っているツグミの隣で忍田が不安そうな表情でいて、それに気付いた彼女が微笑みながら言った。

 

「心配する事なんてありませんよ。誰かが余計なことを言わなければ問題はありません。意地の悪い質問が上がったらわたしが対処します。だいたいそういった質問はボーダーを貶めようとしているだけで、本当に訊きたいことではないんです。そういう輩には自分の質問がいかに愚かなものだと認識させることで自ら退くことになります。なにしろこの場にいる人間の多くがボーダーに対して好意的ですから、そういう悪意を持つ者は完全アウェイ状態にあるわけで、そいつの言い分がよほど周囲の賛同を得るものでなければいたたまれなくなって逃げ出すことになりますよ」

 

「しかしどんな質問をされるのか想像できないのだから、どんな答えをすればいいのか私にはまったくわからん。おまえは頭の回転が早いからすぐに答えを出せるのかもしれないが…」

 

「すぐに答えが出せるのではなく、すでにどんな質問でも答えられるように準備が済んでいるだけです。わたしが逆にボーダーに対して悪意あるマスコミ関係者だったとしたらどんな嫌がらせの質問をするのかと考え、それに対応する答えを予め用意しておけばいい。そう難しいことではないんです」

 

「いや、その嫌がらせの質問というものを考え、その答えを用意するのは常人には容易ならざることなんだぞ。それでどれくらい考えたんだ?」

 

「そうですね…帰国者のプライバシーに関するものからボーダーの運営に直接関わるものまでざっと30くらいでしょうか。それ以外の質問でもなんとか対処してみます」

 

「あ、ああ…頼むぞ」

 

城戸はツグミと忍田のやりとりをそばで聞いていて感じた。

 

ツグミ(この子)は玉狛支部を離れてからずいぶん成長したように見える。この子は以前に私に『家族や仲間に失望されるのが怖くていつも周囲の期待を裏切らないようにと自分にできること以上の結果を出そうと頑張っていて、そのせいで無理をしてしまっていた』と言っていた。そして『自分の評価を周囲の人間に任せていたから失望されたくないと考えていたので、その評価は他人に任せるのではなく自分で自分を()()()()()()ことにした』と笑っていたな。他人の評価が良ければ安心するし嬉しい。逆に悪ければ自信を失い自分は価値のない人間だと思ってしまう。だが自分で自分を評価するのなら客観的ではないもののかなり真実に近いものとなるだろうし、他人の目を気にするよりも正直に生きられる。それだけでも精神的に楽になれるはずで、この子にはそれが合っている。だから玉狛支部という『家』と『家族』から離れたことで彼らからどう見られているのかが気にならなくなったのだろうな。自ら巣立ちの時期を見定め、一番良いタイミングで巣立つことができたのだ)

 

ツグミと忍田の会話を聞いていたのは城戸だけではない。

反対側の端の席に腰掛けていた唐沢もふたりの話を聞いていた。

 

(ツグミくんの度胸の良さは生まれついての才能…なんだろうな。普通の少女ならこれだけ大勢の人間の前で堂々と自分の意見を言えるものではない。まあ、近界(ネイバーフッド)へ行って国家元首と対等に渡り合うことができるくらいだから驚くことではないな。…しかし近界(ネイバーフッド)の軍事大国の双璧であるキオンのスカルキ総統やアフトクラトルのハイレイン国王とにこやかに話をしている姿を見たが未だに信じられないくらいだ。たしかに彼女の年長者に好かれる気質は貴重なものだが、相手の立場やその時の状況を把握して言葉を選ぶことができるからこそ会話がスムーズに進む。そして他人には興味がないと言いながらも友人や仲間と認めた者に対しては真摯に接する。それが一度は命懸けで戦った敵であっても、自分と家族や友人との穏やかな生活を脅かさないのであれば過去は問わないという懐の広さもあるんだろうな。そのおかげで拉致被害者市民の救出計画は大きく動き、こうして一部ではあるが喜ばしい報告をする場を得られた。もちろん彼女だけの功績ではないが、彼女がいなければ今ここで64人の帰国者を紹介することもなかったはずだ)

 

 

各人がさまざまな思いを抱えながら開始時間を待っていて、定時の午後2時になったところで根付が舞台の下手から姿を現した。

 

「ただいまから第一次近界民(ネイバー)侵攻における拉致被害者市民の帰国報告会を始めます!」

 

 

 

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