ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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500話

 

 

「城戸司令はボーダーの最高司令官だからとても忙しい人で、拉致被害者市民の救出計画が本格的に動いているからますます忙しくなっている。だけど隊員や職員ひとりひとりのことを気にかけていて、特に要注意人物の動向には気を配ってくれているのよ」

 

「つまりぼくは要注意人物で、直接話をして警告しなければならなかったということですか?」

 

「だってあなたは入隊試験で落ちた時、ペンチで有刺鉄線を切ってボーダーの敷地内に侵入したくらいだもの。他にも学校でC級トリガーを使ったんだから当初の印象は最悪だったのは確かね。だけど要注意人物というのはそう言う意味だけじゃないのよ。問題を起こす隊員だけでなく優秀な隊員であってもこのまま放っておくことはできないって人は何人もるから。たとえば三輪さんなんて近界民(ネイバー)をお姉さんの仇だと考えているから入隊時はひどく荒れていたのよ。このままじゃマズイからって東さんが作った隊に放り込んで多少はおとなしくなったけど、家族を失った心の傷はまだ癒えていない。それでもだいぶ気持ちに整理ができてきたんじゃないかな。第一次侵攻から6年にもなるからね」

 

「……」

 

「あなたの場合は問題行動を起こすからというだけでなく、あなたの行動がとても危ういから心配になるのよ。あなたが問題行動に見えることをするのって、それは自分が『そうするべき』と思ったことから一度でも逃げてしまえば、本当に戦わなければいけない時にも逃げるようになるというあなたの行動原理によるもので、そうと決めたらその行動の先に何が起きて、それに対する責任を負わなければならないという点を考えていないから。本部基地に侵入して上層部の人間に直談判をしようとしたみたいだけど、規定(ルール)を守れない人間に誰が会おうって思ってくれるかしら? おまけにあの時にはトリオン兵が現れて食われそうになったけど、ジンさんのおかげで命拾いした。そして彼の口利きのおかげで入隊が許されたんだって聞いているわ。学校でのC級トリガーの使用だってあの場にユーマくんが居合わせたんだから、彼とふたりで嵐山隊が現着するまで時間稼ぎはできたはず。規定(ルール)違反はもとより無謀な戦いを挑んだってところが問題なの。もしあの時にあなたが死んでいたらボーダーは世間から袋叩きになっていたでしょうね。近界民(ネイバー)と戦える力がない訓練生に本部基地外でもトリガーが使えるように持たせたことが問題。訓練生には本部基地の外にトリガーを持ち出せないようにしておくべきだったって。あなたの軽率な行いがボーダーの存在を危うくすることになるのよ」

 

「……」

 

「それに城戸司令が気にしているのはアフトの大規模侵攻であなたは戦場だというのに換装を解いて生身で特攻をした。それはわたしにも責任はあるんだけど、あの時にあなたは死んでいた可能性もある。そういった危険回避のために緊急脱出(ベイルアウト)システムを開発したのに、隊員がそれを使わずに大怪我を負ったり死んだりしたらそれはあなたの自己責任とかじゃなくてボーダーの責任になる。そういったことを考えず、あなたは目の前の現実だけを見て、自分が生身特攻をすることが自分の『そうするべき』と思ったこととして後先考えず行動に移してしまった。あの時にあなたが死んだらどうなったと思う? ボーダーは非難の的となり、城戸司令は責任をとって辞任。ユーマくんはあなたを守ってやれなかったと悔み、チカちゃんは自分のせいで友人が死んでしまったと自分を責める。結果的にあなたとレプリカのおかげでアフトの連中を撤退させることができたけど、それは結果論でしかない。場合によっては最悪の未来になっていた。ジンさんの未来視(サイドエフェクト)であなたが死ぬという最悪の未来も視えていたということだから、そうなっていた可能性もある」

 

「……」

 

「ユーマくんと三輪さんのおかげでハイレインとミラには戦う力はほとんど残されていなかった。チカちゃんのキューブは安全な場所に隠しておいたのだから探し出されてアフトに連れて行かれる心配はない。冷静になってシオリさんと情報確認をすればアフト勢6人のうち3人が無力化され、ジンさんがヒュースの足止めをしていたことはわかったはず。この状況であなたが無理に行動をせず安全を第一に考えて緊急脱出(ベイルアウト)をしたとしましょう。そうなっても結局のところハイレインとミラはトリオン切れで撤退するしか道はなく、レプリカが連れ去られることはなかったでしょうね。もちろんこれも結果から見た可能性のひとつでしかないけど」

 

「……」

 

「その後の記者会見でもあなたはボーダーが極秘に進めていた遠征計画を暴露してしまった。城戸司令が上手くフォローしてくれたから大事には至らなかったから良かったけど、あなたはボーダーの機密を民間人にバラしたという隊務規定違反でクビになっていてもおかしくはなかったのよ。だけどあの人はそうさせなかった。鬼怒田さんや根付さんなんてものすごく怒っていたけど、城戸司令がふたりを宥めてくれたんだから。あの人はあなたを切り捨てることができたけどそうしなかったのよ。記者会見であなたを生贄の山羊(スケープゴート)にした計画もあの人はボーダーを守るためだと考え、他に方法がないからと承諾したんだって唐沢さんから教えてもらった。大規模侵攻の責任をあなたひとりに負わせることは城戸司令にとって苦渋の選択で、もしあなたが記者会見に乱入せずに終わっていたとするとあなたはボーダーをクビになるだけでは済まない。いくら名前を伏せているといっても第三中学での事件のC級隊員があなただってことはすぐに調べがついてしまう。そうなったらあなたは…いえ、三雲家の家族は三門市にいられなくなってしまったでしょう。だから遠征のことが公になってしまって、逆にあの人は安心したんじゃないかしら。あれ以来、誰もあなたのことを責めようって人は現れなかった。みんなあなたを責めるよりもアフト遠征の方に興味があったから。城戸司令という人はボーダーの隊員や職員を自分の家族のように大切に思っているのよ。だからあなたが問題行動を起こすからといって危険視しているのではなく、何をしでかすかわからない困った息子レベルで心配しているだけ。あなたのご両親があなたのことを心配しているように、城戸司令もあなたのことをとても心配している。だから父親の代わりにあなたに厳しいことを言ったんじゃないかしら?」

 

「城戸司令がぼくのことをそこまで…」

 

「あなたのお父さまは留守がちで、あなたに対して厳しく言ってくれるのは香澄さんだけ。その香澄さんだってボーダーのことを詳しく知っているわけじゃないから、あなたの悩みや迷いに適切な助言はできない。できるのは城戸司令に会ってあなたのことを頼むとお願いをするだけだったわ」

 

すると修は驚いて目を丸くした。

 

「母さんが城戸司令に会ったんですか!?」

 

「それは当然じゃないの。大規模侵攻であれだけの大怪我をしたのに忍田本部長のお見舞い程度で済ませようだなんてありえない。城戸司令は大規模侵攻の後始末を終えると真っ先にあなたの家に行って香澄さんの前で土下座して謝罪したんですって。わたしが彼女から教えてもらった時、城戸司令らしいって思ったわ。冷徹そうに見えて本当は誰よりも思いやりのある温かい心の持ち主。厳しいけれどそれは相手のことを大事に思っているからこそ、死んだり傷ついてほしくないって心から願っているから規定(ルール)を守り、自分のできる範囲でやれることをやってもらいたいと言っている」

 

「……」

 

「わたしもそんな城戸司令のことを勘違いしていた時があった。本当の父親を亡くした時からずっと父親のように接してくれていたから、わたしは甘えてしまっていた。家族なんだからわたしのやることや考えを理解してくれるのが当然だって思っていたから、ボーダー最高司令官としてのあの人の立場ややり方に反することをしてしまったわ。そこで対立して2年近くも疎遠になってしまったんだけど、いろいろあって和解した。わたしは家族っていつも一緒にいて何も言わなくてもわかってもらえるものだと勘違いしていたの。だけど家族といっも所詮は他人なの。血のつながりがあっても自分以外の人間という意味では親も他人になる。言葉にしなければ相手に通じないし、相手のことを知ろうとしなければ相手の気持ちはわからない。そうわかった時、わたしは玉狛支部を巣立つことができたのよ。そして城戸司令の親心が理解できて、あの人が最高司令官であると同時にボーダーの隊員や職員の父親の気持ちでいることも知ったから、アフト遠征の試験や訓練ではかなり厳しくした。だって誰にも傷ついてもらいたくないもの。万が一のことがあればあの人は哀しむし、最高司令官としての責任も取らなければならない。それなのにあの時にあなたは自分が遠征に参加したいというエゴだけで視野が狭くなっていた。アフト遠征に参加すれば近界(ネイバーフッド)で麟児さんやアオバちゃんの情報を探すことができるとか、レプリカを自分の手で取り戻すことができるなんてバカなことを考えていたんじゃない? でも結局あなたは何もできなかった。無事に帰って来るという香澄さんとの約束を守っただけ。自分でも自覚はあるでしょ?」

 

「…はい」

 

力なく答える修にツグミは追い打ちをかけるように言う。

 

「だったらB級ランク戦で勝つだけじゃなく、遠征において必要な能力を身に付ける努力をすべきだったのに、あれから1年経ってもあの頃とほとんど変わっていない。麟児さんのおかげで玉狛第2という部隊(チーム)は格段に強くなり、その隊長であるあなたは周囲から一目置かれるようになった。それなのにあなたはの()()が変わらないのは麟児さんとアオバちゃんは帰って来たし、レプリカも元に戻ってもう遠征に参加する理由がなくなってしまったからよ。B級ランク戦は個人の技量を高めると同時にチームプレイの訓練にもなる重要なものだけど、そこで1位になることやA級に昇格することを目的としてしまっている。手段が目的となってしまっているのよ。でもあなたにA級になりたいという気持ちはない。そもそもA級になりたいというのは遠征に参加するための条件だったからで、今となっては意味のないことだものね」

 

「……」

 

「わたしはあなたがさっき城戸司令に言われたことと同じことをそのまま言うつもりでいて、それであなたを探していたわ。だけど城戸司令に先を越されたのは、たぶんあの人はわたしの気持ちと行動を察して自ら悪役になってくれたんだと思う。いつもわたしはあなたに厳しいことを言ってばかりだった。いわゆる苦言を呈するってことだけど、アレって言う方もかなりしんどいのよ。嫌われたくないという気持ちもあるけど、相手のことを傷つけないように言葉を厳選して、言い方も相手が拒絶せず聞いてくれるように話さなければならないからけっこうストレスが溜まる。それでもあえて言わなければいけないと思うのはその人のことが大切だから。城戸司令が厳しいと思えるのなら、それと同じだけあの人は自分のことを大切に思ってくれているのだと考えてもらいたい。わたしと城戸司令は似ているんだと思う。だからわたしがやろうとしていることをあの人が先回りして、わたしが苦しまないようにと気遣ってくれたんだわ」

 

「…そうですね。こんなぼくに優しくしてくれる人は大勢いますけど、厳しく言ってくれる人はほとんどいません。たしかに城戸司令と霧科先輩は似ています。ぼくの本質を見抜いていて、ヒエムス遠征の話が出たことでぼくがくだらないことで悩むだろうと判断したのは正解です。一緒に暮らしている玉狛の先輩たちですら気付きませんから。いえ、気付いても見て見ぬふりをしているのかもしれません。誰だって嫌われ役にはなりたくないですからね。ぼくは千佳の撃てないという問題で霧科先輩が千佳を責めた時にはひどいと感じました。千佳の過去を知っていればレイジさんや宇佐美先輩のようにもっと優しく接してくれてもいいのにと正直思いましたが、今振り返ってみるとあの荒療治が効いたように思えます。他人を傷つけるのが嫌だと言いながら、保身のために他人の気持ちを傷つけていたことは間違いなく、本人も自分が卑怯な人間だと反省していました。でも自分自身を第三者の厳しい目で見て指摘してもらわないと、自分の嫌な面から目を逸らせて見ようとしないから気付かない。その点ヒュースは千佳のことにすぐ気付き、歯に絹を着せずに指摘した。あいつには千佳に対する仲間意識なんてないから平気で言ったんだろうけど、あれがきっかけとなったことは事実です。ぼくだけでなく玉狛のみんなは千佳のことを大切に思うあまり腫れものに触れるような感じでデリケートに接していました。…ううん、そうじゃない。厳しく接することで嫌われたくなかったのかもしれません。嫌われたくないから本質に触れず、時間が解決してくれるのを待つといった感じで放置していたんです。遠征選抜まで時間がないのに」

 

「……」

 

狙撃手(スナイパー)は誰でも人を撃つのに躊躇する。それが正常な感覚だとレイジさんは言っていましたが、それならレイジさんを含め他の狙撃手(スナイパー)は撃てるようになるのに時間がかかったのでしょうか? それとも初めから平気で人が撃てるという()()()感覚の持ち主だったのでしょうか? たぶん誰もが人を撃つことが平気なのではなく、それが自分の『そうするべき』ことだと信じて乗り越えたんだと思います。だったら千佳だって同じように自然と撃てるようになるのを待つのではなく、多少厳しくても本人に『撃たなければ自分か仲間が死ぬ』と追い込んで撃たせるべきでした。最終戦でようやく自分の意思で撃ちましたが、ずいぶんと時間がかかってしまいました。ぼくたちに千佳を理解する気持ちと勇気があればもっと早く解決するはずだったのに。そう考えると逆に千佳がぼくたちに相談しなかったのは、ぼくたちのことを信頼していなかったからなのかもしれないと思えてきました。人同士が理解し合うには傷つくことを恐れずに本音でぶつかり合うことも必要なんだなって気がします」

 

「それに気付いたなら今まで迷ったり悩んだりしたことも意味のあるものになるわ。それでヒエムス遠征についてだけど、あなたは参加したいの? したくないの?」

 

「それは…」

 

「参加はしたいけど、自分にはその資格がないって?」

 

「はい」

 

「じゃあ、何であなたは参加したいの? この遠征が自分が『そうするべき』ことと思ったのならアフト遠征の時のように資格があろうとなかろうとがむしゃらにしがみつこうとしたでしょうに。それをしないで悩んでいるってことは遠征自体に価値を求めているのではなく、チームメイトが参加するのに自分だけ留守番するのは寂しいから…なんて言わないわよね?」

 

「もちろんです! …ただぼくだけ役立たずな感じでいたたまれないんです」

 

「それは仕方がないわね。あなた以外の3人には遠征参加の資格があるもの。チカちゃんは人を撃てるようになっただけでなく、狙撃手(スナイパー)にとって敵に接近されたらアウトという弱点もカバーできる射手(シューター)トリガーも使えるから心配はいらない。最前線に立たせるのは無理だけど、そもそも狙撃手(スナイパー)は遠くから前衛をフォローする役目だもの、特に問題はないわ」

 

「……」

 

「キョウスケはあなたの師匠だというのに忙しいからと稽古を他人任せにするし、射手(シューター)として続けさせるならトリオン器官を鍛えてトリオン能力をアップさせる訓練をさせるべきだった。それを怠ったのは師匠として失格。一度引き受けたならちゃんとやり遂げるべきだったわね。まあ、今さら言っても仕方がないんだけど、入隊して2年以上経ってもこれじゃあ戦闘員を辞めて別の仕事をすることも考慮に入れるべきよ」

 

「やっぱり先輩もそう考えるんですね」

 

「当然。人には自分のやりたいこととやるべきこと、そしてやれることが上手く噛み合わさらなくて不幸になる人もいるわ。むしろ全部の条件が合致した人は幸せね。太刀川さんみたいに剣を振り回して強敵と戦いたい人がいて、彼はその才能もあったから三門市に住んでいてとてもラッキーだった。キトラちゃんの場合はボーダー隊員の銃手(ガンナー)として戦いたかったしセンスはあった。けれどトリオン能力が低くて銃手(ガンナー)だけではやっていけないとわかったからスコーピオンを使う訓練をして万能手(オールラウンダー)になった。同時にトリオン器官を鍛える訓練もしたから、今ではA級5位部隊(チーム)のエースとして活躍している。彼女の努力はあなたのそれの比じゃない。わたしは彼女が有望な新人として入隊して来た時のことも、銃手(ガンナー)として伸び悩んでいた時のことも良く知っている。そして苦労しながらもトリオン器官を鍛えていた姿も見ているから、歳は下でも尊敬できる人物よ。彼女は年上の人間からは舐められたくないっていう対人欲求があるから()()()()()で呼んだら不機嫌になるんだけど、わたしが彼女と仲が良いのはわたしが彼女をリスペクトしているからで、彼女もわたしの実力を認めて敬ってくれるから良い関係でいられる。彼女は自分自身の努力によって欠点を補うことができたわ。あなたも何人もの先輩たちに協力してもらってB級ランク戦で勝つための技を覚えた。でもA級昇格試験では不合格。それはB級では通用してもA級ではダメってことで、同時に遠征先で近界民(ネイバー)を相手にしても苦戦するレベルってこと。三門市防衛の任務を続ける上では問題ないけど、近界(ネイバーフッド)遠征に参加することは分不相応。それはオサムくん自身が嫌ってほど感じているわよね」

 

「はい…」

 

「そして自分が『そうするべき』ことが見当たらない。アフト遠征の時のように分不相応だろうが自分が必要とされていないとわかっていても絶対に行きたいという強い意思がないから迷っている。迷うことは悪くない。それは自分の進むべき道を一所懸命考えているからだもの。でも今のあなたみたいにやりたいと思ってもそれまでに準備ができていなかったり、それが本当に自分のやるべきことなのかもわからないって状態じゃどうしようもないわね。あなたは大規模侵攻後の記者会見で『運命の分かれ目はこちらの都合とは関係なくやってきます。準備が整うまで待っていたらぼくは一生何もできません』『ただその時やるべきことを後悔しないようにやるだけです』って大口叩いたことを忘れてはいないわよね? それなのに全然準備できていないじゃないの。それじゃたしかに一生何もできないわよね」

 

「……」

 

「さあ、ここで質問です。城戸司令とわたしに厳しいことを言われたあなたはこれからどうしますか? 玉狛支部の先輩たちに話をして慰めてもらい、彼らに協力してもらって遠征に参加する? レイジさんたちは後輩には甘いから厳しいことは言わない。きっと味方になってくれるわよ。それとも遠征以外に自分のできることを探してそれをやる? 念のために言っておくけど、今からじゃ自力で遠征に参加しようとしても間に合わないわよ」

 

「それはわかっています。まだどんな答えを出すのかは決まっていませが、少なくとも逃げるようなことはしません」

 

「ええ、今はそれで十分。じゃあ、わたしの用事はこれで済んだから帰るわね。お邪魔しました」

 

そう言って立ち上がるツグミに修は訊く。

 

「最後にひとつだけ教えてください。城戸司令は『ある人物に頼まれて一度話をしてみてくれと言われた』と言っていましたが、それって先輩のことですよね?」

 

「そうよ。あの人はあなたのことを気にしていたから、それだったら一度話してみたらいかがと言ったの。会って話をしてようやく相手の気持ちがわかり、自分の気持ちを伝えることができるんだもの。わたしがそうだったように。ただし相手の気持ちがわかったところで、それがあなたにとって良いことなのかそうでないのかはあなたの受け取り方次第。…あ、そうだ。言い忘れていたけど、ヒエムス遠征はレプトにいる拉致被害者市民の救出計画とリンクしているので総合外交政策局も協力することになっているのよ。というわけでわたしもヒエムスには行くわ。非戦闘員としてだけど、いざという時には戦う覚悟よ。わたしはトリガー使いとしてまだ現役は引退していない。でも職員側に回ったのはそれがわたしの『そうするべき』ことだと思ったことだから。オサムくんもそういうものが見付かるといいわね」

 

「はい。相変わらず先輩の言葉には胸に突き刺さるものがあって少し胸が痛いですけど、いつもそのおかげで正しい道を歩けている気がします」

 

「わたしもあなたに苦言を呈する時はいつも胸が痛むけど、あなたにとって役に立っているならこの苦しみも無駄じゃなかったわね。じゃ、もし用事があったら会議室と同じフロアにある総合外交政策局事務室にいらっしゃい。しばらくは日勤で毎日その部屋にいるから」

 

「はい、わかりました」

 

ツグミと話したせいか修の表情はスッキリとしていた。

もしかしたら闇の中に一筋の光明を見付けたのかもしれない。

 

 

 

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