ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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501話

 

 

ヒエムス遠征と第2回拉致被害市民救出レプト遠征がリンクするということで、忍田を中心としたヒエムス防衛戦の計画と、ツグミを中心としたレプト軍にいると思われる三門市民のトリガー使いの救出作戦の会議は一緒に行われることになった。

エヴァルドから受け取ったレプト軍の情報を元に派遣する人員の人数と遠征の期間、そして遠征に伴う諸々の物資の手配や三門市に残る隊員たちの任務のローテーションを組むなどやるべきことは多い。

遠征参加者は想定されていたように太刀川隊(唯我を除く)、風間隊、三輪隊、二宮隊、玉狛第1でA級部隊(チーム)がメインとなる。

やはりB級ランク戦の中盤という大事な時期にランク戦が不戦敗となってしまっては期間が短くても命取りになってしまう。

だから東たちは不参加を表明したのだった。

他には機関員として寺島と千佳、実戦経験豊富な近界民(ネイバー)である遊真と麟児、そして特別顧問としてレプリカが参加することになったのだが、参加希望者のリストに修の名前はなかった。

玉狛第2のメンバーのうち3人が遠征参加となればB級ランク戦に挑むのは無理であるから不戦敗となるのは仕方がない。

ならば修が遠征に参加してもしなくてもB級ランク戦の結果には何の影響もないのだが、彼は自分の意思で不参加を決めた。

それはこのヒエムス遠征が自分の「そうするべき」こととは思えず、千佳のそばにいて守ってやる必要もなくなってしまった以上は参加する理由がないのだ。

戦闘員としても実力不足であることは誰よりもわかっていて、B級上位部隊(チーム)の隊長としてもチームメイトの圧倒的な戦闘能力に支えられているだけで、自分の指揮能力は並レベルだということも認識している。

しかしだからといって彼にボーダーを辞めるという選択肢はない。

彼にはボーダー隊員でいることは自分が「そうするべき」と思ったことであり、遊真や千佳の事情とは関係なくボーダーにいる理由がなくなったからと言って放り出すことは逃げることと同義であるのだ。

自分のやりたいこととやるべきこと、そしてやれることをそれぞれ考え、その中から「そうするべき」ことを見付けようとしている修の姿を見て遊真は「オサムがそう決めたなら、それでいいじゃん」と、千佳は「修くんならきっと見付かるよ」、麟児は「おまえにはちょうどいい休暇のようなもので、留守番をしながら自分の道を探せ」と言っていた。

誰も修の決断に反対はせず、温かく見守ってくれているのは彼に期待をしているからで、その期待に応えたいと彼は「戦闘員ではない自分」を探すために玉狛第2としての活動は解散ではなく小休止ということにしてチームメイトとは別行動をすることになった。

 

 

◆◆◆

 

 

ヒエムス遠征出発は7月23日と決定し、参加メンバーはそれぞれ個人的な準備を始めた。

夏休みと重なったために学生にはちょうどいいタイミングであったようで、三門市に残る隊員たちの防衛任務のローテーションも組みやすくなっている。

B級ランク戦は日程の変更などなく進められるが、暫定1位である玉狛第2は遠征隊が帰国するまで不戦敗となることが発表されると残念がるC級隊員たちやこのチャンスに巻き返そうというB級部隊(チーム)など「玉狛第2のB級ランク戦不戦敗」の反響は大きかった。

 

 

ツグミたち総合外交政策局もキオンへ行っているテオを除いた4人全員で参加することになっているが、林藤から今回のヒエムス遠征に局員見習いとして修を参加させてほしいとの申し出があった。

それは修の希望というのではなく、遠征に参加しないと彼が林藤に報告したところ「だったら戦闘員以外の仕事を経験してみろ」ということになり、連れて来られたのが総合外交政策局事務室であったのだ。

事前に何の話も聞かされていなかったツグミは驚いたが、それ以上に修自身が知らされていなかったことなので驚いて冷や汗を流している。

 

「いや、まあ武器(トリガー)を使わない戦いってのもあるって学ぶにはいい機会だと思ってな。おまえたちが行くのはヒエムスで、馴染みのある近界民(ネイバー)もいる。前線で戦う可能性はほぼゼロだし、万が一の時には()()が使えるから危険も少ない。そして修に戦闘員とは違う戦いがあるってところを見せてやってほしい。役には立たないかもしれんが、足手まといや邪魔にはならないってことは保証する」

 

林藤はそう言って修の肩をポンと叩いた。

 

「別に林藤支部長の保証がなくてもちゃんとわかっています。だけど見習いとはいえ本部職員の仕事、本人が承知していないように思えるんですけど」

 

ツグミがそう言うと、林藤は修に訊く。

 

「修、おまえはボーダーの中で自分にできることを見付けたいって言ったよな? だから俺はここに連れて来たんだが、不服か?」

 

「いえ、そんなことはありません。ただ意外なことだったので驚いているだけです。…ぼくは自分に遠征に参加する資格がないって思うから不参加を申し出たのに、霧科先輩たちと一緒に行くというだけで同じじゃないかって」

 

修はそう言ってツグミの方をチラリと見た。

 

「先輩もぼくが遠征に参加できるほどの力はないって知っているから、ぼくを連れて行こうだなんて思うはずがありません」

 

すると林藤が修に喝を入れるように言う。

 

「だから言っただろ、武器(トリガー)を使わない戦いってのもあるって。ツグミたちのやろうとしていることはそれだ。相手との対話と交渉でお互いに納得する着地点を見付けて問題を解決する。ヒエムスでは三門市民を返してもらう代わりに近界(向こう)で足りない医薬品や生活物資などを提供するってことで話し合いがついた。今度はレプトって国と交渉するつもりだったが、ヤツラがヒエムスに侵攻しようとしているから、ヒエムス政府はボーダーに助けを求めた。同盟国ってわけじゃないが、近界(ネイバーフッド)でのトラブルは俺たちにとっても無関係じゃない。それにレプトにいるトリガー使いの三門市民はヒエムスへ来るんだ。そこでボーダーが救助に来たって知ればきっと脱走して助けを求めてくる。そうなればレプト側の戦力は減少して撤退を余儀なくさせられるだろうし、ヒエムスは楽にレプトを追い返せる。そしてボーダーは三門市民を救出できて、その勢いでさらにレプト本国へ行って強気で残りの市民を返すよう要求できるかもしれない。レプト軍と直接戦うのは遠征部隊の本隊の仕事だが、その後のことは総合外交政策局の仕事。こちら側の世界だって国同士のトラブルを戦争だけで片付けることはなく、平和的に話し合いで解決しようって考える。おまえも高校生なんだからそれくらいは知ってるだろ?」

 

「はい」

 

「キオンとエウクラートンとボーダーで同盟を結んだのも単に文化交流とか技術支援ってだけじゃなく、他国に対するプレッシャーにもなるからだ。ボーダーのバックにはキオンがいると知っていれば無闇に攻めて来なくなる。玄界(ミデン)のことを未だに舐めている国はあっても、キオンを敵に回したら国が滅ぼされるってなれば手出ししない。リターンの割にリスクが高すぎるからな。そうして三門市にやって来る敵性近界民(ネイバー)を減らすのが三国同盟の狙いのひとつだ。実際にボーダーがアフトの連中を追い返し、キオンと手を結んだという情報は近界(ネイバーフッド)の多くの国々に広まっているそうだ。最近では三門市で(ゲート)が開くこともトリオン兵を見かけることもなくなっただろ? 出来高払いのB級にとっては食いっぱぐれとなるが、やばい近界民(ネイバー)がこっちに来ないってことは重要だ。市民は安心して暮らせるし、ボーダーのおかげで平和になったという『結果』が誰にでもわかる形で証明されれば、これからの拉致被害者市民救出計画はもっとやりやすくなる。だよな、ツグミ?」

 

「はい。林藤支部長のお考えは良くわかりましたし、オサムくんに異存がないのならわたしは局長として入局を認めます。もちろん城戸司令の承認済みっていうことが前提ですけど、そこは抜かりないですよね?」

 

「もちろん。城戸さんも修のことは気にしてるから、いろいろ勉強させたいっていう俺の意見に賛成だった。…これからのボーダーは近界民(ネイバー)と戦うんじゃなくてヤツラと上手く付き合っていく方にシフトしていくことになるだろう。武器(トリガー)を使って戦うことことよりもここを使って戦うことが重要となれば、それは修の得意分野だ」

 

林藤は修の頭を軽くポンポン叩いていう。

 

「たしかにオサムくんには戦局を変えるほどの奇策を思いつく才能があります。その才能を活かすには前線に立って戦う一兵士よりも戦場の全体像を掴みやすい後方で指示を出す方が向いているとわたしは思います。それにヒュースを玉狛第2に入れるための交渉を城戸司令相手にできるくらいですから、これから近界民(ネイバー)を相手にすることになっても臆せずやれるんじゃないかって思います」

 

「だろ? だから今回はおまえの仕事っぷりをそばで見せてやってくれないか? いつかおまえにも後継者が必要になる。こいつが使えるかどうかも重要だが、本人がやりたいかどうかの方がもっと重要だ。だから今回は見習いってことで連れて行ってほしいんだ。そしておまえみたいに自分のやりたいこととやるべきこと、そしてやれることが一致する人間に育ててやってくれ。頼む」

 

そう言って林藤はツグミに頭を下げた。

 

「頭を上げてください、林藤支部長。オサムくんさえ良ければこっちは人員が増えて大助かりなんですから大歓迎です。…それでオサムくん、やってみる気はある?」

 

ツグミに尋ねられ、修は自分の意思をしっかりと表明した。

 

「ぼくにできることかどうかわかりませんが、やってみなければ判断はできません。ぜひ、ぼくもヒエムスへ連れて行ってください」

 

「うん、いい覚悟だわ。そう決まったら本隊の出発する23日の1日前にわたしたちは出発するから、それを承知して準備を進めておいてちょうだい」

 

「1日前に出発するんですか?」

 

「そうよ。ヒエムスの人たちと馴染みのわたしが先乗りして向こうの状況を聞いて、こっちの説明をしておくという仕事があるからね。本隊の遠征艇をどこに停めるのかは重要。緊急脱出(ベイルアウト)をした時に艇の場所がバレても危険のない場所に停めなきゃならないからね。今回は隠密行動じゃなくて、ヒエムス軍の応援ってことで、レプトが王都を攻めて来ることはほぼ確定しているからこっちは敵を迎え撃つという防衛戦になる。アフトの時とは全然違うので戦い方も違ってくるから、今本隊ではどう戦うか検討中。まあ、ボーダーの本来の戦いが防衛戦だから不安はないけど、これはボーダーが()()()近界民(ネイバー)と共闘するという重要な出来事にもなる。総合外交政策局にはその記録映像の撮影をして、三門市民の満足するような報告をするという仕事もあるのよ。アフト遠征の時にはリヌスさんたちが慣れないカメラマンの仕事をしてくれたおかげで報告会の時に本隊メンバーがどれだけ大変だったのか知ってもらうことができた。実際に戦う隊員たちは命懸けだけど、カメラマンだって楽な仕事じゃない。こちら側の世界の戦争でも戦場カメラマンっていわれる人たちが危険な場所に赴いて命懸けの撮影をしているからこそ、わたしたちは戦争の悲惨さを知ることができるでしょ? まあ、そこまで危険なことは頼まないけど、上空からのドローンによる撮影も計画しているから、オサムくんにはその操縦をマスターしてもらおうかな」

 

「はい、わかりました」

 

「じゃあ、冬島さんのところに行ってレクチャーしてもらってちょうだい。わたしが事情を説明しておくから。あとはあなたが自分で冬島さんと打合せしてやってね」

 

「はい。あまり自信はないですけど、総合外交政策局員としての仕事なら、それは今のぼくにとって『そうするべき』ことなんですから」

 

「よ~し、いい覚悟だわ。それで香澄さんに事情を説明して承諾をもらうことはひとりでできるわね?」

 

「もちろんです。今度は先輩に面倒をかけずに済みます」

 

「林藤支部長、三雲隊員をしばらくお預かりいたします。その代わり…ではないですが、レクスくんのことはまた支部長とゆりさんにお任せすることになります。どうかよろしくお願いいたします」

 

ツグミが林藤に頭を下げると、その頭に林藤が手を載せて言った。

 

レクス(あの子)はそうやっておまえが自分のことで他人に頭を下げることを気にしている。自分が医師になりたいというワガママを言ってこっちの世界に残ったと罪悪感を抱いているんだろうな。あんな子供に自分さえいなければって思わせちゃダメだ。だけどおまえが悪いわけでもない。それぞれが自分のやりたいこと、やるべきことをやってるだけ。相手に対して罪の意識を抱くよりも、相手のやっていることを応援してやればいいって俺は思うぜ。…ただおまえがいないと大好きなおまえの作ったカニクリームコロッケが食べられないのが残念だって言っていたがな」

 

「それじゃあ、今夜の夕飯にはカニクリームコロッケを作ります。少し多めに作って冷凍して、ゆりさんに預けておきますね」

 

「それでいい。で、俺の用事はこれで終いだ。じゃあな、気ぃ付けて行ってこいよ。たぶんおまえたちの出発には見送りに行けそうにないから、今言っておく」

 

「お気遣いありがとうございます。三門市のことはよろしくお願いしますね」

 

「おう、任せとけ。…修、行くぞ」

 

「あ、はい」

 

林藤は修を連れて部屋を出て行った。

ツグミの想像もしていなかった展開だが、修にとって良い経験になるだろうという予感がして胸がワクワクしてきたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

ヒエムス遠征はアフトクラトルの時のように情報操作や隠密行動といった水面下で行動するものと違い正面から敵と戦うことになる防衛戦だ。

敵レプト軍の戦力はアフトクラトルに比べたら「恐るるに足らず」という評価だが、ヒエムス軍も大差ないということである。

どちらもほぼ拮抗した戦力であったために長い間戦争が続き、エクトスから高い金を払ってまでトリガー使いを買ったのだ。

そしてわずかにレプトに攻め込んでいたヒエムス側が有利であったために勝利したが、どちらもかなり疲弊していたのでヒエムス軍は早々にレプトから撤退している。

そもそもヒエムスとレプトとの戦争に国王フランコは反対していたのだが、当時の宰相セルジョと軍総司令官アシッドがレプトに攻め込んだために不毛な戦争を延々と続けることになった。

戦争に勝ったものの国民の生活が楽になったわけではなく、ヒエムスが隣国との戦争に勝った強い国であることと宰相と軍総司令官が優秀であったからこそ勝てたのだと国民にアピールしたかった()()なので、勝利したという証があればそれで十分だったのである。

国民のために使うトリオンをくだらないことに大量に注ぎ込んだのだから国民にとっては大迷惑だったが、それを口にすれば罰せられるからと皆が黙っていた。

そこにボーダーがヒエムス王家と関わりを持ち、それがきっかけでセルジョとアシッドを追放したものだから、フランコ王とボーダーへの好感度は高まっている。

これから国は良くなっていくだろうという時にレプトの侵攻は国民の不安を煽ることになり、フランコとしては絶対にレプトの侵攻を許してはならないとしてボーダーに援軍を頼んだのだった。

 

レプトによるヒエムス侵攻は青天の霹靂というわけではない。

ヒエムスから大勢のトリガー使いが一気に減ったとなればレプトがそれを好機として侵攻してくることは容易に想像できる。

エヴァルドはその可能性を考慮して予備役に招集をかけるなど軍の再編成を行っていたが、敵は彼の想定以上の兵力を動員して総攻撃を計画していると知ってボーダーに救援を求めてきたのだった。

そしてヒエムスに何か起きればフランコがボーダーを頼ることは既定事項となっていたのだが、そのことは密約となっている。

このことを公にすることはボーダーにとって得策ではないということで当事者間の秘密とした。

ボーダーは近界(ネイバーフッド)からの脅威に晒される弱者の存在であったが、キオンという軍事大国と同盟を結んだことで詳しい事情を知らない国々は玄界(ミデン)を「キオンという虎の威を借る狐」だと考え、キオンが同盟を結んだ理由は玄界(ミデン)の資源を独占するためだと勝手に想像している。

ならばこの「勘違い」を利用すべきだと判断し、ボーダーが同盟を結ぼうとすれば玄界(ミデン)の資源を()()しなければならないので、キオンほどでなくても強国に限定し、弱い国とは手を組むことはありえないという嘘の情報を意図的に流した。

そして同盟国とは親しくするがそうでない国とは交流をしないという大きな「格差」を生むことによって、同盟国ではないヒエムスは玄界(ミデン)にとって無価値な国であって、わずかな代価と引き換えに同胞を取り戻したからにはもう用はないと「縁を切った」と誤認させるにはちょうどいい。

だからレプトはボーダーが駆けつけるなどと想像もしていないわけで、現地で援軍が突然現れたとなれば指揮系統は混乱するだろう。

そういったことを事前に想定して、都合が良くなるよう情報操作を行うことをツグミは諜報のプロであるゼノンたちから学んだ。

敵の情報を入手することだけでなく未来に起きるであろう出来事を想定して、その時に備えていくつもの罠を仕掛けたり嘘と真実を上手い具合に織り交ぜたいかにも本当のことであるかのような偽の情報を流したりと、こちらの都合が良くなるように工作するのも諜報部隊の仕事である。

次の遠征先をレプトに定めたのは単に距離が近いというだけでなく、ヒエムスとの関係から何らかの行動に出ると推測したからで、それが侵攻であったことはやはり近界民(ネイバー)の考え方だ。

ヒエムスと同じようにボーダーと平和的に取引をして三門市民を返してしまうという手もあるのだが、近界民(ネイバー)は国際間の「交渉」というものが得意どころか経験がほとんどなく、強い者の言いなりになるという習慣が長い間続いているためとにかく「力」を必要としていて、それが大量のトリオンであり、トリオン兵やトリガー使いということになる。

いずれボーダーがやって来て三門市民を返せと言ってくるだろうと考えたレプト政府は今のうちにヒエムスを攻めてしまおうと侵攻を急いだのだとツグミは推測している。

そしてヒエムスに勝利すれば自分たちはヒエムスとは違って高い代価を支払って購入した三門市民(トリガー使い)をそう簡単には返さないぞという意思表示にもなる。

ただし逆に負けてしまえばさらに国力が低下し、ボーダーに食いものにされるという可能性もあるものだからかなり慎重に事を進めているにちがいない。

「戦術で勝負する時は、敵の戦術レベルを計算に入れること」という東の教えを常に頭の片隅に置き、ツグミは可能な限り敵味方双方に人的被害が出ない作戦を考えていた。

 

現在想定できる範囲内で一番恐ろしいのは追い詰められた側が(ブラック)トリガーを作って形勢が逆転してしまうことである。

ヒエムスとレプトのどちらにも(ブラック)トリガーは存在しないそうだが、レプトのトリガー使いが(ブラック)トリガーになれば防衛側のヒエムスには大きな被害が出るだろう。

もちろん援軍のボーダー側にも攻撃を仕掛けてくるだろうから、場合によってはボーダーも(ブラック)トリガーを使わざるをえない。

遠征部隊には三輪に風刃を預け、遊真には状況に応じて(ブラック)トリガーを使う許可は下りている。

しかし遊真の(ブラック)トリガーを使用することは彼の寿命を縮めるというリスクを抱えていることから使用することは絶対にさせたくはない。

そうなると風刃だけが頼りとなるのだが、これも()()()()()()()()()()ということになるのでツグミにはできるだけ使わずにいてほしいと思っている。

そうして(ブラック)トリガー同士の戦いになってレプト側が不利な状況に追い込まれると、さらに別の人間が(ブラック)トリガーになろうとするだろう。

そんな愚かな泥仕合だけは避けなければならず、したがってレプトに「勝ち負けどころではなく、これでは戦争として成立しない」と思わせる作戦が最善だとツグミは考えている。

戦争は将棋のような盤上のゲームに例えられる。

ならば飛車・角行や金将・銀将あたりまでを序盤で敵から奪い取れば、残りの桂馬・香車・歩兵だけで戦わなければならず、またレプトから奪った駒をボーダー・ヒエムス連合軍が持ち駒として使えば戦力は倍増することになり、こうなったらゲームとして成り立たないものとなる。

レプト軍のトリガー使いの半数以上が三門市民であり、レプトのトリガー使いは数人で残りは一般兵だということ。

そうなると早期に三門市民のトリガー使いに呼びかけて全員投降させれば、そこで勝敗が決まらずとも戦闘は終了となるはずだ。

この作戦案は忍田によって承認され、レプト軍の無力化を最優先として戦闘が行われることになった。

 

 

 

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