ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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503話

 

 

ニクラスに限らずこれまで出会った近界民(ネイバー)の多くは年齢や性別など関わらずツグミに対して興味を抱く。

それは彼女が誰に対しても礼儀正しく、相手のレベルに合わせた会話を心がけていることによって、相手の警戒心や緊張を解くことができるという「特技」を持っているからである。

会話の中で相手の性格や好みを掴み、豊富な知識を持っていることで相手に合わせた会話を楽しむことができる。

また何を求めてどこまで妥協できるのかなどの情報を引き出すことが自然にできるために、相手はまったく警戒せずに彼女との会話を楽しんで()の自分を出してしまい、彼女の()()()()()()()()()のだ。

ただし彼女自身は無意識にやっていて、自分の能力には気付いていなかった。

そんな彼女に注目したのは唐沢で、彼女にとっての最大の武器を自分の外務・営業の仕事に引っ張り込んだ。

するとこれまで経験したことのなかった大人たちの世界を垣間見て、彼女は武器(トリガー)を使わない戦いに目覚めてしまい、とうとう近界民(ネイバー)相手にボーダーを代表して交渉事を行うようになったというわけだ。

故事成語に「千里の馬は常にあれども、伯楽は常にはあらず」という言葉があるが、唐沢という伯楽のおかげでツグミという名馬の活躍の舞台が広がったとも言える。

ツグミは交渉の際に「取引をする双方に利益がある」という意味の「win-win」を心がけ、具体的な利益だけでなく「満足した」という精神的な利益をも意識していて、必ずボーダーと相手にとって「この取引は成功であり、かつ満足している」という「成果」を上げていることを城戸たちボーダー上層部も認めている。

だからこそ彼女に「総合外交政策局長」という肩書きを与えたのだ。

若い女性であっても肩書きを持つことによって相手は彼女を舐めてかかることはなくなり、国家元首レベルの相手との面会もスムーズに行えるようになったのはその証拠でもある。

もっともアフトクラトルの遠征部隊を撤退に追い込み、さらわれた仲間を敵地まで乗り込んで行って全員取り戻したボーダーの噂と、アフトクラトルと並ぶ軍事大国キオンと同盟を結んだというふたつの「謳い文句」が効果を高めているのは事実。

玄界(ミデン)というトリオン技術の点ではるかに劣る国の防衛組織(ボーダー)の人間がやって来たところで会う価値などないと一蹴されてしまう状況を一転させたのはアフトクラトルとキオンという強国と対等に渡り合えるという「事実」だ。

そこに10代の小娘が派遣されたとなればよほど愚かな人間でない限りボーダー幹部の「意図」を知りたいと思うはずで、門前払いを食らうことはありえない。

そして実際に会ってみればツグミという非常に()()()人間であるから、ここで相手は彼女を対等と認めて交渉を行うことになる。

なにしろ「玄界(ミデン)とボーダーという組織に興味を持つ」ことさえ成功させれば、あとはそう難しいことではない。

トリオンを必要とせずに発展を遂げた玄界(ミデン)の文明に触れることでトリオン争奪戦ともいえる近界民(ネイバー)同士の戦争をゼロにはできずとも限りなく減らすことができるのではないかという希望が見えてくるからだ。

 

そもそもキオンやアフトクラトルが積極的に他国に侵攻して従属国を増やしていったのは大量のトリオンを供給する「牧場」と「家畜」、そして次の侵攻のための兵士を獲得するためなので、トリオンを必要としないのであれば戦争をする理由はなくなる。

玄界(ミデン)の技術も奪うのではなく玄界(ミデン)に侵攻しないことを条件にほぼ無償で譲渡すると言われたらそんな「旨い話」を断るはずもない。

現にキオンは…というよりテスタはわざわざ玄界(ミデン)へとやって来て自分の目で見て確認し、国民の生活を向上させるために役立ちそうなものを選んで帰って行った。

100万円単位の支出だが、ボーダーにとってキオンが味方であり他国への牽制となるのだから安いものだ。

おまけに土産に新しい艇のエンジンの設計図を持って来てくれたが、これをボーダーで一から開発するとなれば途方もない時間と労力とトリオンが必要となる。

テスタのおかげで拉致被害者市民救出計画の予定よりも進めることができるだろうということで、ますます近界民(ネイバー)との良好な関係が大切であると三門市民だけでなく日本国政府にも知らしめることになるだろう。

彼女はジャンヌ・ダルクのような救国の英雄になりたいのではなく、マザー・テレサのような聖人でもない。

これまでボーダーの誰にもできなかったこと、いや誰ひとりとしてやろうとしなかったことをやろうとしているのは「自分と手の届く範囲の人間の幸せを望む」ひとりの少女だ。

そんなごく普通の少女が特に意識もせずただ自分の選択を正しいと信じて後悔をしない生き方をしているだけでふたつの世界が大きく変わろうとしている。

彼女を取り囲む大人たち、特にテスタや他の近界民(ネイバー)たちが彼女に惹かれるのは、彼女が自分たちの失ってしまったものを持っているからだ。

子供の頃には「なりたい」「やりたい」「欲しい」と思えばそれに向けて素直に邁進できたが、大人になるとそうもいかなくなってしまう。

自分の立場や周囲に与える影響、他人の目や評判などを気にするようになり、何かを為すにしても大義名分を掲げてさもそれが正しくて立派なことなのだと()()()のようなことを言いたがるようになる。

しかしツグミにはそんなことをする必要はなく、自分と家族と友人の幸せを望むのだと公言して自分を偽らない。

大人の世界に足を踏み入れてなおその色に染まることなく、周囲が汚れていればいるほど彼女の「白」はその存在感を増して輝いて見えるというもの。

そんな彼女の「白」とはかつて誰もが持っていた「純粋さ」や「正直な気持ち」で、大人たちの後悔の象徴でもあった。

自分にはできなかったことを彼女に託し、彼女と共に「近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)の人と文化の融合した新しい世界」を見てみたいと思うようになるのだ。

ツグミ本人はそんな身の丈を超えたことをやろうとしている意識はなく、ただ三門市に近界民(ネイバー)が攻めて来ることさえなくなれば(恋人)が辛い未来を視ずに済むという単純な理由のために奔走しているだけ。

ささやかで可愛らしい少女の願いを叶えてやりたいと、大人たちは現在の自分の持つ立場や権力・財力を使って彼女を支援しようとする。

彼女の願いが叶えば自分が失くしたものを取り戻せるなどとは思っていないが、少なくとも彼女の幸せは自分の幸せに繋がっており、双方の利益が一致することは間違いない。

ニクラスはエヴァルドからツグミのことをいろいろ聞かされており、どんな少女がやって来るのか心待ちにしていた。

そしてその期待を裏切らないツグミの姿に彼は嬉しくなり、雑務であろうと自ら案内してやりたくなったのだった。

 

「ひとまずボーダー側の大まかな流れは把握した。それを踏まえた上でこちらも作戦を再考してみるつもりだ。その時にはきみにも同席してもらいたいがどうだろうか?」

 

「もちろん異論はございません。明日本隊が到着することになっていて、わたしも加わるつもりでいましたから」

 

「それなら今日はここまでにしておこう。そしてきみの要望を叶えに行こうか」

 

「はい、お願いします」

 

ツグミはニクラスの案内で城壁の上にある見張り台へと向かうことになった。

 

 

 

 

修はツグミとニクラスの()()()()をすぐそばで見守っていた。

 

(霧科先輩のトリガーを使った戦闘はB級ランク戦で何度も見てきた。どのトリガーもマスタークラスだけど太刀川さんや二宮さんみたいに一芸に秀でているタイプじゃなく本人は『器用貧乏』だって卑下していたっけ。だけど何でも一定のレベル以上で使えるからこそいろいろな戦術を用いることが可能で、他の誰にも思いつかないような奇想天外な戦い方ができるんだ。…でも交渉という武器(トリガー)を使わない戦いは初めて見た。相手はヒエムスという国の軍最高司令官。城戸司令と忍田本部長を足して2で割ったような立場の人らしいけど、そんな人と対等に渡り合っている。もちろん局長っていう肩書きに効果があるんだろうけど、やっぱり何度かヒエムスに来て国王や宰相と個人的に親しくなっているからなんだろうな)

 

ツグミとニクラスが机の上に投影された地図を見ながら敵の進軍ルートを想定し、自軍の兵をどこにどのように配置するのかを話し合っているのだが、戦術に関しては素人の修には難しいようだ。

彼は玉狛第2の隊長としてB級ランク戦を勝ち抜くための作戦をいろいろ考えたが、所詮それはたった4人の戦闘員とひとりのオペレーターという少人数の部隊(チーム)のリーダーというだけで、忍田がやっているような数十人数百人単位の兵の運用はできない。

ところがツグミがプロのニクラスを感服させるだけの作戦案を用意してあり、それを元に話をしているのだが修にはさっぱりわからずにいた。

 

(霧科先輩は東さんから戦術を学んだということだけど、元々そういった才能があったんだろうな。…そういえばアフト遠征の選抜試験や特別訓練も先輩が考えたんだった。B級ランク戦で使うマップは身近な住宅地や工業地区などで、敵部隊(チーム)の戦力や使用する武器(トリガー)は前もってわかっているから作戦は立てやすい。だけど近界民(ネイバー)との戦闘となれば敵のことがまったくわからない状態だし、それが敵地であればなおさら情報がないから困難な戦いになってしまう。だからアフト遠征では先輩やキオンの諜報員の人たちが危険な潜入任務に就いて情報を集めてくれた。さらわれたC級の居場所まで探し当てて城外へ誘導してくれたからこそ、本隊メンバーは最も困難な城内潜入をせずに済んだ。緊急脱出(ベイルアウト)ができない状況での戦いにおいても可能な限り換装が解けないように戦うことを心がけた訓練を行い、それでなお緊急脱出(ベイルアウト)をしても遠征艇とは別の場所に転送先を設定して隊員の安全を第一に考えた作戦を決行した。おかげで誰ひとり負傷もせず、C級を全員無事に取り戻すことができたんだった。戦争では個々の兵士の戦闘能力はもちろんだけど、他にも重要なファクターがあるってことが良くわかった遠征だった)

 

アフトクラトル遠征はボーダーが新体制になって初めての戦闘を目的とした近界(ネイバーフッド)遠征で、三門市民の期待を背負ったものであったから絶対に失敗は許されない厳しいものだった。

ボーダーよりも圧倒的な技術力を持つ軍事大国の本拠地に乗り込む戦いであり、敵地の情報は皆無であったから非常に厳しい戦闘になることは予想できた。

仮にゼノンたちの協力がなければ、そしてツグミがディルクの協力を得ることができなかったら…遠征の結果は違うものとなっていたことだろう。

ボーダーの力だけでC級隊員の居場所を突き止めるのは困難を極めただろうし、場所がわかってもどうやってそこから逃がすのかが問題となる。

不慣れな都市の中で大規模な戦闘となればいつもの三門市の警戒区域内でのものとは勝手が違うし、近界民(ネイバー)とはいえ民間人を犠牲にする戦いを平気でできる戦闘員は多くない。

近界民(ネイバー)はすべて敵だ」と豪語する三輪ですら、積極的に民間人を殺害するようなことはせずとも自分のせいで死んだり傷ついたりする姿を見て冷静に戦えるとは思えない。

瓦礫の下で倒れている若い女性に駆け寄って「誰かお姉ちゃんを助けて!」と叫ぶ少年の姿でも見てしまえば、6年前の自分の姿と重ね合わせてパニックになることだって考えられる。

敵の本拠地で戦うということは敵側にとって被害を生じるものになるが地理的には有利であることは否めない。

敵に有利な状況での戦いを強いられ、自分たちのいつもの戦いができないとなれば実力を100パーセント発揮できるものではなく、C級隊員を救出するどころか新たな犠牲が生じていたかもしれない。

だからこそアフトクラトル遠征の成功の鍵は「敵地の情報を得て、戦闘に有利となる味方をつける」ことで、この遠征は諜報活動がいかに重要なものかを証明したのだった。

 

(この時には霧科先輩は戦闘に参加していない。だけど別の場所で戦っていて、その結果ぼくたちは敵地での圧倒的な不利を覆すことができた。こういう戦い方があるってことに驚いたけど、いまいちピンとくるものはなかった。だけどこうして実際に先輩のやっていることを見るとこっちの方がぼくに向いているかもしれないと思えてきた。入隊試験を受けて不合格だった時には戦闘員以外はありえないと信じ込んでいた。それは千佳を守るのはぼくしかいないと考えて、他に考えが及ばなかったからだ。でも麟児さんは無事に帰って来たし、千佳の友達も帰って来たんだから遠征どころかボーダーにいる理由すらない。三門市民を守ることはぼくにとって自分が『そうするべき』ことではない。そんなことを言えば自分勝手だと思われるだろうけど、ぼくはヒーローじゃないし、入隊動機だって麟児さんとの約束と千佳を守ることだけで他の人たちのことなんて考えたこともなかった。…でも今となってはそんなエゴは言っていられない。それならぼくはぼくにできる形でボーダーを続けるしかないんだ。そしてそれが武器(トリガー)を使わない戦いであってもいいはずだ)

 

トリガー使いとしても十分に通用するツグミが防衛隊員ではない道を歩んでいる。

それは彼女に複数の道が存在していて、本人が自分の意思で選んだものであり、見事にやり遂げている。

これは「自分のやりたいこととやるべきこと、そしてやれること」が合致した()()()例であり、修は自分もそうした道を探したいと考えていた。

そこで林藤が総合外交政策局の局員見習いとして彼をツグミに託した。

修自身もツグミの仕事ぶりを見ていて興味を持ったようであり、武器(トリガー)を使わない戦いならば自分にでもできることがあるのではないかと本気で考えるようになり「戦闘員ではない自分」という選択肢があると意識するようになったのだった。

 

ツグミも修には兵士として前線で戦うよりも一歩退いた位置で全体の様子を見極めた上で兵士の運用を行う方が合っていると考えていた。

これまでは本人が戦闘員として戦うことしか頭になかったことと、ツグミが修たちのことから手を引いてしまったために実現することはありえなかったのだが、修本人が考え方を変えて総合外交政策局の仕事に興味を持ち、やる気を出したのだからツグミは全力で応援するしかない。

ヒエムスまでの艇の中では自分が12歳の時に東から学んだ戦術の基礎をレクチャーし、その中でツグミは自分が想像していたよりずっと司令官向きの才能を持っていることに気付いた。

そしてこれを利用しない手はないと考え、ヒエムス遠征を終えて帰還するまでに間にもっと多くのことを学ばせようと()()のだった。

 

 

◆◆◆

 

 

首都を囲む城壁の上にやって来たツグミと修とニクラスはレプトが進軍してくると想定される南側の見張り台から景色を眺めていた。

城壁の高さは約30メートルで、首都を守るためのものなので壁の厚さもボーダー本部基地の外壁の倍以上もあるらしい。

イルガーのように上空からの爆撃を受けたらひとたまりもないが、レプトには飛行タイプのトリオン兵はいないということだから安心しても良いだろうとのこと。

首都の北側は山岳地帯となっていて、そちらからの攻撃の可能性はほぼゼロということなので作戦は首都の南側で行われる計画だ。

そしてこの季節は北側の山岳地帯から吹き降ろす強風が続き、見張り台まで上って来るまでに風で飛ばされそうになるほどだった。

 

「話には聞いていたけどすごい風だわ。ここからなら最大出力で音楽を流せばかなり遠くまで聞こえそう。戦闘の騒ぎの中でも十分に聞こえるだろうから、この風を利用しない手はないわね」

 

ツグミはそんなことを言いながら、見張り台の中を覗いてみる。

 

「定員は4名、ってとこね。ここに機材を設置しても2-3人なら哨戒任務は余裕で可能。…ニクラス閣下、ここを使わせてください。さっきの打ち合わせのようにレプトのトリガー使いが現れたところで作戦開始。ここなら戦場全体を見渡せるでしょうから、わたしの部下をここに配置させてもらいたいと思います」

 

「ああ、かまわないぜ。機材運びに人手が必要なら、俺の部下を使ってくれ」

 

「ありがとうございます」

 

ツグミはニクラスに礼を言うと、次は修に呼びかけた。

 

「ねえ、オサムくん。ここからは戦場となるエリアが良く見えるけど、その大部分が畑や農作業をする人たちの集落。近界(ネイバーフッド)での戦争ってほとんどがこうした広い場所での戦いから始まるんだけど、攻撃側が強いとドンドン押されていって街を囲む城壁が頼みの綱となる。これを破壊されたら敵が街の中になだれ込んで来て、中に住んでいる人たちを巻き込んでの戦いとなってしまうわ。そうならないために頑丈な城壁で街を取り囲むのよ。防衛側が強ければ敵を押し返していって、最後には撤退させることになっておしまいとなる。あなたのワイヤー陣はこうした何もない場所では使えない。さらにB級ランク戦で効果を上げたのは住宅地など建物が集まっているからこそで、おまけに破壊しても問題がないから使えるってだけ。それにアフトの連中と戦った時にもしワイヤー陣が使えたとして効果があったかしら? そう考えるとあなたが必死になってやってきたことはB級ランク戦で勝つための技でしかなく、実戦ではほとんど役に立たないものだと理解できるんじゃないかな」

 

「はい。もし仮にぼくのワイヤー陣が有効となる状況になったとしたら、それは城壁が破壊されて敵兵士が街の中に入って来た時。そうならないように城壁の外側で戦わなければいけない。三門市での防衛戦でも原則として警戒区域内で戦うからワイヤーを張って敵をそこにおびき出して罠に嵌めることはできますが、トリオン兵にはほぼ効果はないですからね。ヒュースやハイレインに追いかけられた時もワイヤーなんて何の役にも立たなかったと思います」

 

「そうね。ワイヤー陣はB級ランク戦でこそ効果がある技よ。そこに罠があるとわかっていても点を取るためには近付かなければならないから」

 

「はい。…ぼくはB級ランク戦で勝つことだけに夢中で、最初は自分で点を取ることを考えていました。でもそうではなく空閑という強い隊員をもっと強くするためにサポートをすることが重要だと知って、次はスパイダーを使った技を覚えました。これによって空閑と千佳との連携が上手くできるようになり、ぼくが落ちてもワイヤー陣が残ることで()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()で罪の意識が薄らいだんです。ぼく自身は強くなる努力はしていません。以前に先輩からトリオン器官を鍛える訓練をするように言われましたが、その結果が出るまでには時間がかかるため焦っているぼくは小手先の技ですぐに目に見える結果を出すことしか頭にありませんでした。別に無駄な時間を過ごしたとは思いませんが、大切なことを蔑ろにしていたことは反省しています」

 

「早く遠征に行きたいという焦りがすべての原因ね。わたしは2年か3年くらいかけてA級レベルの実力をつけさせてから戦闘を伴わない遠征に参加させようと思っていたんだけど、あなたたちはアフト遠征に参加することを目標にしてしまった。普通に考えたら無理ゲーなんだけど、あなたたちの周りには手助けしてくれる先輩たちが何人もいたから玉狛第2は新人にも関わらず遠征に参加できた。その時に反省すべき点がいろいろあったというのに、1年経った今になってやっと反省しているというんだからボーダー隊員としての自覚が足りなかったわね。麟児さんとアオバちゃんが帰国したからもう近界(ネイバーフッド)へ行く理由がなくなったからでしょうけど、それならボーダー隊員を続ける理由をしっかりと定め、そのために努力するべきだったわ」

 

「…はい」

 

「まあ、それがわかっているのなら今は十分。せっかくヒエムスまで来たんだから、自分の今後について良く考えることね。総合外交政策局の仕事に興味を持ったみたいだから、わたしのそばにいてやることをしっかり見ていなさい。その時間が有意義だったか無駄だったかはあなたの受け取り方で変わってくる。ちなみにわたしたちの仕事は近界民(ネイバー)との外交だから、遠征に参加するよりも近界(ネイバーフッド)へ行く回数は多い。いろいろな近界民(ネイバー)と交流していくうちにユーマくんの身体のことで何かできることが見付かるかもね」

 

ツグミは修に対して厳しいことを言うが、彼を否定して追い詰めるだけでなく未来への希望や期待を抱かせるフォローも忘れない。

ここで彼女は修にトリガー使いとして戦うことの厳しさと限界を諭したが、トリガーを使わない戦いがあることを証明してみせている。

修はバカではないのだから()()()()彼女の気持ちを汲み取ることができるだろう。

 

 

 

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