ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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513話

 

 

遠征艇に帰還したツグミはさっそく情報収集の結果を忍田や迅たちに報告した。

ある程度は事前にわかっていたこともあるが、女性が大事にされるのは子供を産み育てることができる間で、その年齢を過ぎると扱いが普通になるという点で「女性は子供を産むために存在する」という考えが当然となっていることに驚くというよりも呆れてしまった。

女性のことを「産む機械」と暴言を吐いた日本の某大臣を思い出させるもので、女王や宰相が国民のことを男女どちらも人間としてではなく「国を豊かにするための道具・家畜」としてしか見ていないということなのだ。

これでは男性だけでなく女性も真の意味で幸福とは言い難く、拉致被害者の女性たちだけでも彼女たちの尊厳を守り自由意思で今後の人生を選べるようにすべきであるという意見で一致した。

 

「明日の午前中に拉致被害者の女性たちが政庁に集められて確認作業を行うことになっていますが、その際にわたしと同行していただくのは忍田本部長の予定でしたがレイジさんに交代していただきたいと思っています」

 

ツグミがそう告げるとその場にいた忍田、迅、ゼノン、リヌス、ニクラスの5人は驚いて彼女の顔を見た。

ボーダー側の現在の責任者は忍田であり、立場的にも彼が立ち会うことが当然だというのにレイジに任せたいと言うのだから驚くのは無理もない。

 

「先ほど宰相が男性のことを嫌っているとお話しましたが、彼女に男性への興味がまったくないという意味ではないと思うんです。そこでこの国で一番モテそうなレイジさんに同行してもらうことによって彼女の()()に揺さぶりをかけたいと考えました。もちろんレイジさんを人身御供にするつもりはありません。ですが忍田本部長みたいな中肉中背で程よいイケメン男性よりも寡黙で筋肉質で家庭的なレイジさんの方が好まれると思われ、お土産に手料理でも持っていけば機嫌を良くして交渉も捗るかと考えたんです」

 

「……」

 

ツグミの提案には17歳の少女らしからぬものがあり、はたしてこれで良いのだろうかと疑問を抱いてしまう忍田たち。

しかしここに唐沢がいたならばすぐに賛成をしたことだろう。

交渉相手の望むものだけでなく性格や行動パターン、思考などを正しく把握して利用するのは交渉を成功させる初歩の初歩である。

彼女が数々の交渉を成功させてきたのはその実年齢にそぐわない知識や判断力、そして会話等によって相手の()()()()を探り当てることが得意だからだ。

ゾラと2回面会して感じたのは彼女が男性全般を嫌っているのではなく自分の好みに合わない「低レベル」な男性ばかりであったからで、もし目の前に自分の理想に近い人物が現れたのであれば態度も豹変することだろう。

彼女の好みのタイプを知っているわけではないが、彼女が結婚しない理由はなんとなくわかる。

宰相という立場の自分と()()()()と考える男性を選ぶとなるとまず身分の点がある。

彼女は前女王の次女であるから高貴な血統の人間だというプライドがあり、彼女と身分が釣り合う貴族の青年はそれなりに数はいても、彼らが男性を見下すような女性と結婚しようなどとは考えない。

貴族なら庶民のもっと可愛げのある女性を金で買えばいいわけで、貧乏な家庭の娘であれば親に大金を支払えば本人はNOと言えなくなる。

いくら女尊男卑といっても庶民は金の力には誰も勝てないということで、個人の意思が捻じ曲げられるということはどこの世界にも普通に存在するのだ。

そして彼女のようなキャリアウーマンタイプは仕事で常にストレスを抱えており、プライベートに戻った時に癒してくれる相手を求めるが、彼女のストレス発散の犠牲になりたいと思う男性はいないだろう。

男性は女性に声をかけることすら禁止されているが、女性から男性には許されている。

ただし女性から求婚されたからといって必ずしも結婚しなければならないということではなく、男性にも拒否する権利はあるのだ。

また彼女の周辺を探ってみると彼女が同性にしか興味がないということでもなさそうで、単に自分のお眼鏡に適う男性がいないか、いても拒否されてしまったという結論に至る。

そこでゾラが好みそうなレイジを連れて行くことで彼女にボーダーに対する敵意や警戒心を解いてもらい、ボーダー(ツグミ)には近界民(ネイバー)の「強者は奪い、弱者は奪われる」という()()()理論は通用せず、どちらも利益を得られる方法を共に模索しようという流れに導こうというのだ。

 

「いいだろう、木崎には私が説明をしておく」

 

忍田の許可を得たことで翌日の政庁行きはツグミとレイジ、そして迅の3人となった。

レイジにはゾラに対する()()をお願いするため、迅は拉致被害者の女性の確認作業をツグミと一緒に行うためである。

本人確認だけでなく今後の身の振り方について本人に判断を促す時間は必要で、帰国を希望しても家族と共に三門市で暮らすことのハードルが高いことを理解してもらわなければならない。

前回のヒエムスの時のように全員を一時帰国させて、ヒエムスに戻りたいという希望者を送り届けるという方法はゾラが許可をしそうになく、妊娠していたり乳幼児を抱えている母親をどのように扱うかは非常にデリケートな問題である。

レプトとの戦争は短期で結果を出すことができたが、こちらは長期にわたって行わなければならないようだ。

 

 

◆◆◆

 

 

政庁の小会議室に案内されたツグミとレイジと迅。

10分ほど待たされてからゾラが入室して来た。

 

「待たせたな」

 

「いえ、お忙しい閣下を雑務にお付き合いさせてしまうのですから、こちらはおとなしく待つのが当然です。…まず、今日はわたしの同僚を連れてまいりましたのでご紹介させていただきます」

 

そう言ってまず迅を紹介する。

 

「彼は迅悠一。わたしと同じ総合外交政策局の局員で、ボーダーの先輩でもあります」

 

「はじめまして。迅悠一です。どうぞお見知りおきを」

 

迅は少しカッコつけながら自己紹介をして礼をするが、ゾラはあまり興味がないという顔でいる。

続いてレイジを紹介する。

 

「彼は木崎レイジ。優秀な防衛隊員で、わたしが幼い頃からお世話になった頼れる兄のような存在です」

 

ゾラはツグミが紹介している間からレイジを見つめて頬を赤らめている。

明らかに迅への態度とは違うことがわかるというものだ。

 

「木崎レイジです。どうぞよろしくお願いします。それであの…もしよろしければですが、手慰みにお菓子を作ってきましたので召し上がってください」

 

レイジはそう言って持って来た籐のカゴをゾラに()()()()()差し出した。

その中身はツグミがレイジに頼んで作ってもらった焼菓子で、材料は遠征のための物資の中にあった小麦粉や牛乳などとツグミが市場で購入したものである。

 

「私に土産を持って来たとは殊勝な心がけだ。見せてみよ」

 

「はい」

 

レイジがカゴを渡すとゾラは中を覗き込んだ。

 

「これは…?」

 

「クッキーです。自分は料理が趣味で、仲間たちに料理やおやつを作ってやることがあります。材料が限られていますのでこんな素朴なものしか作ることができませんでしたが味は自信あります」

 

レイジはぎこちなく微笑みながら言うと、ゾラはますますレイジに興味を抱いたようだ。

 

「ほう…」

 

「味はプレーン、チョコレート、そしてジンジャーの3種類です。ジンジャー…つまり生姜には身体を温める効果がありますので、冷え性の女性には喜ばれると思って加えてみました」

 

「細やかな気配りもできるとみえる。お主はなかなか見込みのある男だな。我が国の男どもよりもはるかに優秀で魅力的だ」

 

「はぁ…ありがとうございます」

 

「ではツグミとジンはここで仕事を進めてくれ。そしてレイジには私の執務室へ来て茶の相手をしてもらおうか」

 

ツグミの想定どおりにゾラはレイジを気に入ったようで自室に()()()()ことにしたようである。

レイジは焦っている様子でツグミの顔を見るが、ツグミは黙って頷くだけだ。

その意味は「予定どおりの展開。後はあなたにお任せします」というもので、レイジの判断でゾラのご機嫌取りをしてもらおうということである。

事前にレイジには自分の計画を説明しており、彼は覚悟をしていたのだがさすがにゾラ(本人)を前にすると尻込みをしてしまったようだ。

しかしもう後戻りはできない。

 

「レイジさん、くれぐれも失礼のないようよろしくお願いします」

 

「あ、ああ…」

 

不安げな表情のレイジの腕に自分の腕を絡めたゾラはこれ以上ないという笑顔で言う。

 

「さあ、行きましょう、レイジ」

 

そのままレイジはゾラに()()されて会議室を出て行ってしまったのだった。

それをツグミと迅が黙って見送る。

 

「レイジさん、取って食われたりしないだろうなぁ?」

 

迅が不安そうに言うが、ツグミは自信ありげに答えた。

 

「大丈夫ですよ。あの人は肉食系に見えますけど何をどうすれば意中の相手に好きになってもらえるかわからない恋愛初心者です。さっきの腕組みも慣れているというのではなく、あらゆることに他人から舐められないようにと振舞っていたあの人の虚勢のようなもの。だからどちらも恋愛経験値はほぼゼロに近い状態で、お互いに相手に嫌われたくないと考えて腫れ物に触れるかのように接するでしょうから」

 

「でもそうでなかったら? 案外レイジさんがソファに押し倒されて…って」

 

「それはすごく面白そうな光景ですけど、機嫌を損ねたくないがためにゆりさんへ顔向けできないようなことはしませんよ。まあ、レイジさんがあの人のことを気に入ってレプトに永住したいと言うようになったらみんなでお祝いしてあげてもいいですけどね。…じゃあ、大勢の人を待たせているんですから早く始めましょう」

 

 

ツグミは会議室の机を移動させて迅が面会人を連れて来るのを待つ。

そして迅が会議室の隣の部屋で待っている女性をひとり案内してきたことで確認作業を始めた。

 

「お待たせしました。どうぞそちらにお座りください」

 

 

 

 

初音を含めた16人の拉致被害女性の確認と現状の説明、そして彼女たちの希望を聞く作業は途中30分の休憩時間を挟んで約5時間で終了した。

幸いなことに彼女たちの家族は親もしくはきょうだいの誰かが生存していて、三門市に帰ることになれば家族が迎えてくれる。

もちろん家族全員が無事というわけではなく、両親のどちらかが亡くなっていたり、きょうだいが同様に拉致されて近界(ネイバーフッド)のどこかにいるという状況であるから、手放しで喜ぶわけにはいかない。

それでも16人全員が帰国を希望しており、現在の家族 ── レプト人の夫と子供たち ── と共に三門市で暮らしたいというものであった。

ヒエムスの事情と大きく違うのは夫と子供という家族単位で生活していて夫の両親を扶養していないことと、夫がレプトに住み続けたいと考えていないという2点である。

レプトでは子供を3人以上成人させて年金を貰える資格を得た夫婦は楽に暮らしていくことができるが、そうではないと夫婦で死ぬまで働き続けなければならない。

子供を無事に成人させるということは男女共に大変なことだが、それができなければ人生の後半はもっと厳しい環境で生きていくことになる。

それを考えたら今のうちに家族で玄界(ミデン)へ移住しようと考えたくもなるというもの。

文化や習慣の違う見知らぬ土地での暮らしであっても、妻が三門市出身者だから不安もないらしい。

ただし拉致被害者女性だけでなく家族を含めて40人以上の若者や子供がレプトを去るとなればゾラが絶対に許可をするはずがなく、そこをどう解決するかが最大の難関となる。

そこですでに蒔いておいた「種」が芽を出す頃で、その効果はレイジ次第であった。

 

 

◆◆◆

 

 

午後3時過ぎ、ツグミと迅は政庁の玄関ロビーでレイジと合流した。

 

「お疲れさまでした、レイジさん。そしてどうもありがとうございました」

 

ハニートラップとまでは言い難いがそれに似たことをさせてしまったものだから、レイジはかなり憔悴してしまっているようだ。

 

「慣れないことさせてしまってすみません。…それでどんな感じでしたか?」

 

「相手が相手だから緊張してだいぶ疲れたよ。だがおまえに言われたように振舞ったら、彼女もまたひとりのか弱い女性だということが良くわかった。遠征艇に戻ったら少し休んで、その後に詳しいことは話す」

 

体力的にはパーフェクトな彼であっても初対面の女性とふたりきりになり、相手の女性の身分が高く年齢も上となると接し方がなかなか難しい。

この話をツグミから頼まれた時には「自分には無理だ」と断ったものの、彼女が「頼み事」をするのはよほどの時だけだと知っているレイジは引き受けたのだった。

レイジの知るツグミは「周囲の人間の期待に応えなければいけないと常に自分を鍛え続けて、自分ひとりの力で必ず成功させる強靭な精神の持ち主」であった。

そんな彼女が目の前の高い壁をひとりでは壊すことができないと、素直に周囲の人間に頼ることができるようになって自分に助けを求めた。

10年近く彼女の()として見守ってきたレイジはそれが嬉しかったので、自分にしかできないのなら頑張ってみようという気になったのだった。

そして夕食後にレイジは事情を知っているツグミ、迅、忍田の3人にだけ話すことにした。

 

 

 

 

「俺は()()()に執務室へ案内された。それまではけっこう強引で押しの強いワガママな女性だと思っていたんだが、部屋に入ったとたんに様子が変わったんだ。そして話をしているうちに本当は繊細でか弱い女性だということがわかった。…その顔は信じられないという顔だが、俺にはそう感じられるものだった。彼女のあの自信たっぷりの態度は他人に弱みを見せたくないという虚勢で、初めは俺にもそういう態度だったんだが接しているうちに俺のことを信頼してなのか、本心を見せるようになっていったんだ。ツグミ、おまえがアドバイスしてくれたとおりにしたところ、思いのほか彼女は俺のことを気に入ってくれて、たぶんこれまで他人…それも男性には見せない女性らしさを見せたんじゃないかと思う」

 

ツグミのアドバイスとは「ゾラを褒める」である。

彼女にシャンプーや入浴剤、他にも化粧水や保湿クリームなどをプレゼントしたツグミは必ずすぐに使うという確信があったため、次に会う時にはそれらの香りがするだろうと踏んでいた。

そしてそれを褒めるようにとレイジに伝えてあった。

実際、ゾラはシャンプーやコンディショナーを使ったことで髪は艶やかになり、良い香りを漂わせていた。

肌も少々くたびれた状態であったものがハリのあるものになっていて、大げさではなく10歳くらい若返って見えたものだ。

レイジは素直に「良い香りですね」とか「お肌がツヤツヤですね」などお世辞ではなく事実を言っただけだがゾラにはそれがとても嬉しかったらしい。

ただしそれができたのはツグミが前もって言っておいたからで、そうでなければレイジには褒めるどころか気が付かなかっただろう。

そしてゾラはますますレイジのことを気に入り、そのうちに彼を()()しようとして長椅子の隣りに座って身を寄せてきたそうだ。

しかしこれまでの「失敗経験」からすぐに身を引いた。

その態度の変化が気になり、レイジは彼女に理由を訊いたことで彼女は本心を吐露することになったのだった。

彼女は女王の次女として生まれたことで将来は宰相としていずれ次期女王となる姉のサポートをすることを強いられていた。

女王は神殿の奥深くで(マザー)トリガーの操作をして、国政に関しては宰相の決めた内容に()()の押印だけで、あとは好き勝手をしていればいいのだが、宰相は公の場に出ることが多いから見た目も気にしなければならず国民の畏怖と尊敬の対象でなければいけないと常に神経を張り詰めていなければならない。

それで1日が終わると心身ともに疲れきってしまい、人生を楽しむ余裕などなかったという。

前女王の娘であり現宰相なのだから他人から敬われることはあっても彼女自身が褒められるということはなかった。

あらゆることができて当然だと思われていて、それが彼女には少し寂しかったのだ。

そこにレイジが彼女自身のことを自然に褒めたものだから、彼女は表情に出さずとも相当嬉しかったようだ。

それからゾラとレイジはクッキーを食べながらお互いのプライベートについて話をし、彼女は本来の姿を他人に見せることに怯えることはなく素直な気持ちで接することができるようになっていった。

そもそも彼女の周りにいた男性にも責任はある。

彼女が高貴な女性であることと周囲の噂を鵜呑みにして彼女を遠巻きにしていて、彼女が声をかけようものなら慌てふためいて逃げていくような連中ばかりだったのだ。

そんな男性に幻滅するのは無理もなく、彼女が宰相として堂々とあろうとすればするだけ男性は彼女を拒んで近付かなくなってしまう。

そのうちにゾラは他人と心を通わすことが苦手となり、他人は彼女のことを知らないので勝手な妄想をして噂を流す。

孤独な彼女にレイジの優しさが通じたことで、彼女はまるで人が変わったかのように振舞うようになったのだった。

一緒に昼食を取り、午後からは政庁の庭を散歩してレプトのことをいろいろ話してくれたそうだ。

レプトは近界(ネイバーフッド)の他の国々と同様に人口増加が見込めないために生産力が低下し続けている。

それを補うために他国から奪うという安易な手段を用い、お互いに貴重なトリオンを浪費し続けていた。

隣国ヒエムスとの戦争にも負け、もう打つ手なしとなっていた時にヒエムスのトリガー使いが大量に減ったことを知り、これで勝てると判断して侵攻をかけたのだが見事に玉砕。

ゾラは虚勢を張って見せていたが本心は未来の見えない状況にひどく苦しんでいたのだ。

彼女が一国の宰相として国民の行く末をひとりで背負っているか弱い女性に見えたものだから、レイジは気の毒に思えてきて彼女を慰めたらしい。

女性の扱いに慣れていないレイジのことだから上手い言葉は使えず、ただ「無理をするな。自分を偽らずに素直になれ」といった優しい言葉をかけただけなのだが、ゾラには十分効果があったのだった。

 

「あの人は悪い人間じゃない。周囲の人間から期待されるから、その期待に応えなければ自分の価値はないと思っているんだ。誰かに頼れば良いのにこれまで器用にすべてを解決してきたから、頼るということが苦手なんだろう。どこかの誰かに似ていると思わないか?」

 

レイジはツグミの顔を見ながらそう言うと、迅と忍田も同様に彼女の顔を見た。

 

「プライドも高いから自分よりも格下の人間に頼れば自分の格が下がると考えているようだった。だから誰かに頼るのではなく、お互いに足りないものは相手から貰い、その代わりに自分の持っているものを同じ分だけ相手に与えるという等価交換ならば対等だしお互いに損はなく得をするだけだと教えてやった。そうしたら『自分ひとりで抱えていたものを誰かに受け止めてもらえるだけでとても楽になるのだな』と清々しい笑顔でそう言ったよ」

 

レイジのおかげで状況は明らかに好転した。

ゾラの心を開くことはツグミにもできたかもしれない。

ふたりとも周囲の期待に応えるために甘えることはせずに自分を律してきたことなど似ている点があるが、それが上手く作用すれば友人にもなれるだろうが、逆に似ているからこそ反発することもある。

後者であれば個人の問題では済まず、取り返しのつかないことになってしまうだろう。

ツグミがレイジを頼って無茶なお願いをしたことは「正解」であったようだ。

 

「レイジさん、どうもありがとうございました。おかげでこれからの交渉はだいぶ進めやすくなったと思います。…この交渉は総合外交政策局長としてわたしがやらなければいけない仕事で、誰かに頼めるものではないと思い込んでいました。でも全部自分で抱え込んで行き詰まってしまってどうしたものかと考えた時、わたしには頼れる仲間がいるということを改めて気付かされました。いつも自分ひとりでやろうとしていたのは周囲の人間から自分を認めてもらいたいから。誰かに頼ればそれは自分で成したことではなく手伝ってもらったからだと言われるような気がしてできなかったんです。他人の評価を気にしてばかりいて重要なことを見失っていました。大切なのは結果を出すことで、自分のプライドなんてものは瑣末なこと。現在のわたしは自分にできること以上のことをやろうとしています。だからこそ仲間の助けが必要で、これからも無茶なことをお願いするかもしれませんが、その時にはどうぞよろしくお願いいたします」

 

ツグミはそう言って頭を下げるのではなく、レイジたちに微笑んだのだった。

 

 

 

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