ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

539 / 721
520話

 

 

かつては多くの国と交流があったことで頻繁に使用されていた迎賓館だが、現在ではほぼ鎖国のようなことをしているために使われなくなった建物にツグミたちは案内された。

もっとも迎賓館といっても名ばかりで、実際には軍の高級士官の宿舎レベルの質素なものだ。

なにしろ数十年前から国賓と呼べる客はいなくなり、ごく稀に()()()()客がやって来た時に使用するだけなのでそれで十分なのだろう。

そしてツグミと遊真が案内された部屋は20年以上前に使用されたきりで、以降は一度も使われていないとイェルンは言う。

 

「ツグミ、きみはこの部屋を使うといい。ここはかつてきみの父上、つまりオリバが滞在していた部屋だ。そして隣のユーマの部屋はユーゴが使っていた部屋。こうして時を経てそれぞれの子供たちが使うことになるとは想像もしていなかったよ」

 

その話を聞いてツグミは部屋の中をぐるりと見渡した。

 

(わたしが知るのは霧科織羽のことだけだけど、ここにはエウクラートンのオリバが存在した証がある。イェルン少佐は父のことを知っていて、ここであったことを話してくれるってことだから楽しみに待ってよう)

 

「ああ、夕食は私とトリュスときみたちの()()で一緒にしようと思う。準備ができたら呼びに来るからそれまで待っていてくれ。これから私は上官に報告に行ってくるが、そう遅くはならない。そしてきみたちの父上のことは夕食の時に話そう」

 

「わかりました」

 

「久しぶりにユーゴやオリバの話ができると思うと私も楽しみだよ。じゃあ、あとで」

 

そう言い残して部屋を出て行くイェルンの後ろ姿を見ながらツグミは織羽、そして遊真とレプリカは有吾の姿を重ねていた。

 

 

 

 

夕食はイェルンの馴染みの料理屋へ行き、個室で会食をすることになった。

料理は特に豪華でも質素でもないものだが、すべての食材がトロポイ国内で生産されたものだということだからすごいとツグミは感激した。

近界(ネイバーフッド)の国々も多くが他国との交易によって自国で生産したものを輸出し、自国にはないものを輸入するという貿易を行っている。

それが政府主体であったり個人の取引であったりはするものの、そうやって生活を豊かにしていく。

しかしトロポイは国の存在自体を隠しているから他国との接触は限られていて、99パーセントは自給自足で済ませているのだそうだ。

この国には近界(ネイバーフッド)最高レベルのトリオン兵や武器(トリガー)のテクノロジーが存在し、そして40年くらい前に起きた戦争の悲劇を教訓に完全に封印してしまった。

アフトクラトルのヴィザがトロポイという国の名と自立トリオン兵の存在を知っていたのは、彼がその前からトリガー使いとして様々な国へ侵攻していたからであろう。

その後のトロポイは戦争を放棄したのだが、アフトクラトルのような軍事強国がその技術を狙って侵攻してくることが度々あり、有吾とオリバが偶然この国に立ち寄った時も戦争の真っ只中であったのだ。

彼らのようにトロポイを目指してやって来るのではなく偶然にたどり着いてしまう「客」も年に数件あるらしく、その多くは記憶を操作されて何も覚えていないままに国外へ()()される。

有吾とオリバの場合はトロポイが危機に陥っていた時に援軍として戦い、勝利に導いたという国益に適う人物であったために「約束」を守ることを条件に記憶はそのままふたりは玄界(ミデン)へ向けて旅立ったのだった。

その「約束」とはトロポイに関する情報を他人に漏らさないことで、ふたりは自分の子供たちにすら話さなかったことは彼らが信義に厚い誠実な人物であった証拠だ。

だからこそトロポイ側もツグミたちのことを容易に受け入れたのだろう。

もっともレプリカが彼女を認めたのだから国益に反することはないという確信があったわけだが、イェルンは彼女と話しているうちに彼女自身を道義を重んじる人間だと判断したことで、話は順調に進んでいる。

すでに軍総司令官まで報告は上げられていて、明日の朝一番には宰相を経由して国王へと伝えられるだろうとのこと。

約20年前の戦争で有吾とオリバを英雄として称えた本人であるから、きっとツグミと遊真のことを歓迎して最大限の援助はしてくれるはずだとイェルンは伝えた。

 

 

 

 

その後、イェルンが出会った有吾とオリバという同世代の青年たちの「昔話」をしてくれた。

 

エウクラートンを脱出した有吾とオリバはキオンの追っ手を逃れるために立ち寄った国でいくつかの工作を行い、有吾の故郷である玄界(ミデン)へと向かっていた。

その途中で彼らの艇のエンジンが故障をしてトロポイに不時着をしたのだが戦争の真っ只中であったため、祖国と同胞を守るために不利な条件ながらも必死になって戦っているトロポイ軍に味方することになった。

その時にオリバはミリアムの(ブラック)トリガーとは別の(ブラック)トリガーを所持していて、有吾とともに最前線へと立った。

敵は(ブラック)トリガーの出現に統率を乱し、その隙を突いてトロポイ軍が反撃を開始したことで形勢は逆転。

通常ならここで敵を撤退させれば終わるものなのだがそれでは次の侵攻を許してしまい、逃げた敵から情報を得た新たなる敵が生まれる可能性もある。

そこで残った敵をすべて無力化し、彼らの記憶を消去した。

トロポイへ侵攻したことはもちろんのこと、トロポイという名称すら彼らの記憶から消されてしまったために()()しても実害はない。

こうして数ヶ月に及ぶ戦いはトロポイが辛勝という結果に終わり、破壊された国土はトリガーによって復旧を目指すことになる。

しかし犠牲は大きいものがあった。

いくら優れたトリオン兵や武器(トリガー)があっても戦争となれば人的被害が生じるのは当然である。

この戦いでは兵士と民間人合わせて300人以上の犠牲者と1000人近くの負傷者が出た。

その負傷者の中にオリバがおり、イェルンの命を救う代償として左腕を失うことになったのだった。

そこで当時から優れた医療面のトリガー技術者(エンジニア)であったトリュスがトリオン製の義手をオリバに装着し、約2ヶ月のリハビリの後に彼と有吾はトロポイを後にした。

その2ヶ月間に有吾はレプリカを作成し、旅のサポートを任せることにしたという。

レプリカによるとそこから先はトラブルに巻き込まれることはなく、無事に玄界(ミデン)にたどり着いた。

ただしレプリカが当時のトロポイの最先端技術によって作られたものであるため、城戸や最上たちにも内緒であった。

だから城戸たちはレプリカの存在を知らなかったのだ。

その後のオリバは霧科織羽という玄界(ミデン)の人間となり、有吾と城戸と最上の4人でボーダーを創設した。

ここから先はツグミが知っている織羽の話、遊真が経験をした有吾との旅とカルワリアでの有吾の最期の話をイェルンとトリュスに話した。

それを聞いていたイェルンとトリュスは朋友がもうこの世にいないことを哀しみ、話が終わると献杯をしたのだった。

 

有吾だけでなく織羽もトロポイと深い関わりがあることを知ったことはツグミにとって大きな収穫であった。

しかしトロポイで知り得た情報は口外することはできず、自分の胸に納めておかなければならない。

それはツグミ自身が信頼されたから教えてもらえた情報であって、城戸や忍田たちが信頼に足りうると認めてもらえていない以上は伝えることはできないからだ。

 

(それでも霧科織羽ではなくエウクラートのオリバという人物の謎がわかったことは良かった。…そうなるとボーダーを立ち上げて第一次侵攻後の新体制になるまでの間のトリオンの入手先はお父さんの持っていた(ブラック)トリガーだったという城戸さんの話の辻褄は合う。それにトロポイ滞在中に有吾さんが人の記憶を操作するトリガーを手に入れて、それを城戸さんに渡したとすればそれを使って隊務規定違反の隊員や知ってはならないことを知ってしまった市民の記憶を操作していることも合点がいく。そのトリガーの出処がトロポイであることは秘密にしていたけど、何らかの理由があって記憶操作のトリガーを渡したという可能性はあるわね。城戸さんでも知らない秘密を知ってしまったわけだけど、あの人に教えなければならないという義務はないし、なによりもお父さんや有吾さんがトロポイという国の名前さえ口にしなかったことだもの、わたしも絶対に言わない。それはわたしの意思であり、お父さんの遺志を継ぐわたしの役目だもの)

 

ツグミだけでなく遊真にとっても自分の知らない有吾(父親)の姿を知ることができたことは嬉しいにちがいない。

しかし彼にとって一番の目的は延命手段を得ることで、それが叶わなければこの旅の意味はなくなってしまう。

だから単純に喜んでばかりはいられず、すべてはトリュスの技術とその技術を他国の人間に譲渡することを許可してくれる国王の寛容さに任せるしかないのだ。

 

 

会食が終わるとレプリカはトリュスとともに研究室(ラボ)へ行った。

明日の朝までには()()を終え、有吾の残した(ブラック)トリガーを経由して遊真からトリオンを得る必要はなくなるそうだ。

それによってわずかでも遊真の寿()()が延びるとなれば喜ばしいことで、ツグミと遊真は期待を胸に迎賓館の部屋へと戻ったのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

翌朝、ツグミと遊真が一緒に食事をしていると、そこに国王の使者だという青年が現れて「国王陛下がおふたりを昼食にご招待したいそうです」と告げた。

その意味するものは彼女たちを国賓として認めたということで、遊真の新しいトリガー製作に許しが出たということにもなる。

そしてそのすぐ後にトリュスがレプリカを伴ってやって来て、「レプリカ()」のお披露目となった。

 

「見た目はまったく変わっていないし思考や記憶に関わる回路も弄ってはいない。ただトリオンを周囲にいる人間から集めてそれを原動力として作動する機能をつけただけだ。そしてここが重要な点なんだが、ユーマとツグミのふたりのトリオンの情報を記憶させ、きみたちのトリオンは吸収しないようにした。特にユーマからトリオンを吸収してしまったら身も蓋もないからな」

 

トリュスの詳しい説明を聞いても理解できた部分はわずかであったが、それでもレプリカが自身でエネルギーを調達できるということはわかってツグミと遊真は手を取り合って大喜びをした。

次は遊真の換装専用トリガーの作製で、こちらも目処は付いているとなればもう心配は無用だろう。

しかし順調に進みすぎていることにツグミは違和感を覚えたが、トロポイ側の描いたシナリオに文句を言ったところで意味はないのだ。

 

「アタシはこれからユーマのトリガー製作に取り掛かるんだが、本人にも協力をしてもらわなければならない。そこで午後にアタシの研究室まで来てもらいたい。いいな、ユーマ?」

 

「ああ」

 

「わたしに何かできることはありますか?」

 

ツグミがトリュスに訊くと意味深な笑みを浮かべて言う。

 

「たぶんきみにはきみに相応しい役目が待っているはず。だからアタシの仕事にきみの手伝いは無用だ。きみはきみのやるべきことを果たしたまえ」

 

「…はい」

 

そう言われてはツグミも引き下がるしかない。

しかし自分に相応しい役目と言われてピンと来ないものだから納得できずにいた。

そして国王との昼食会の後にトリュスの言葉の意味がわかった。

 

 

◆◆◆

 

 

トロポイも近界(ネイバーフッド)でごく普通にある国政に携わる「国王」と(マザー)トリガーを操作する「神官」の「ツートップ制」を採用している。

国王はエルヴィンという名の65歳の男性で、有吾とオリバが来訪した当時の国王でふたりを救国の英雄として讃えたのは彼である。

だからツグミと遊真に会えたことを心から喜んでおり、家臣たちにはふたりに対して最上級の扱いを命じ、当然のことながら遊真の延命に全力を注ぐようトリュスに指示をしたのだった。

エルヴィンは有吾とオリバの「その後」を知りたがり、ツグミと遊真は自分の知る限りのそれぞれの父親の話をして彼を喜ばせ、そして哀しませた。

彼は多くを語らなかったが、それでもツグミには彼が他国の青年たちのことを心から気に入っていたことは言葉の端々から感じていた。

彼は有吾とオリバがトロポイという国が目指す世界を理解していて、トロポイの最高機密である自立トリオン兵の技術を教えたのも悪用されないという確信があったからだろう。

イェルンの話ではエルヴィンは社交的で好奇心旺盛、人を見る目は確かで慈愛に満ちた賢王だということ。

そんな彼が午後の市内視察にはツグミを同伴したいと言い出した。

極力情報を外部に漏らさないようにしている国の元首が他国の人間に何を見せようというのかとツグミは首を傾げるのだった。

 

 

 

 

エルヴィンはツグミを城郭都市内にある学校、診療所、市場などの施設へ案内し、最後に城郭の外に出て都市全体を見渡すことのできる山の上へとやって来た。

中央に王城がそそり立つ巨大な都市を見ながらエルヴィンがツグミに尋ねた。

 

「ツグミ、玄界(ミデン)の人間であるきみの目から見てこの国は魅力的なものなのだろうか?」

 

「あまりにも漠然とした質問ですね。…単純に比べることはできませんが、わたしが知っている近界(ネイバーフッド)の国々の中では住みやすそうな国であることは間違いありません。まず他国との関係を断って外からのトラブルが生じない環境は国民も安心して暮らすことができますし、他国では戦争に費やす技術やトリオンをここでは日常生活に回していますから庶民の暮らしは比較的楽で恵まれていると思います。まず夜になるとどの国も照明がロウソクや菜種油などを使用するランプなどしかありませんから非常に暗い。トリオンは他のものに回さなければならないので、照明に費やすことができないんです。ですがこの国は各家庭で住人のトリオンを集めてそれを照明や暖房などに利用しています。それだけでもこの国の国民は恵まれていると言えるでしょう」

 

「きみもそう思うかね?」

 

「はい。ですが玄界(ミデン)で生まれ育ったわたしとすればあらゆるものが100年も200年も昔の水準で、トリオンに依存しない玄界(ミデン)の生活に慣れてしまったわたしには近界(ネイバーフッド)で暮らすことに魅力は感じません」

 

ツグミはそう言って玄界(ミデン)での暮らしの便利さについて説明をした。

一般家庭にも上水道が整備されていてすぐに飲用できる水が配られ、冬でも温水が簡単に利用できること。

電気やガスによって調理は容易で、冷蔵庫があるために冷蔵・冷凍で食料が長期保存できること。

洗濯や掃除も優れた道具があって、それが庶民階級でも容易に手に入れることができることなどの話をすると、エルヴィンは身を乗り出して聞き入っていた。

すべてがトリオンという物質によって構成されている近界(ネイバーフッド)であるから、それ以外の物質を利用するという考え方すらない。

ところが玄界(ミデン)ではトリオンの存在を知らずにいたために化石燃料や太陽光などによる発電に頼ってきた。

どちらが正しいとか間違っているという問題ではなく、双方をバランス良く利用することで庶民の生活はより豊かになることだろう。

ただひとつ言えるのは近界民(ネイバー)たちがトリオンのみに依存して、不足しているトリオンを他国から奪おうとすることは間違っているということ。

もし玄界(ミデン)の「電気」を生む「発電」を取り入れることができればかなりの部分を太陽光や風力などによって補うことができ、それによってトリオンを奪い合う戦争がなくなると考えれば近界民(ネイバー)たちも玄界(ミデン)に攻め込んでトリオン能力者を拉致するよりも穏便にトリオンに変わるエネルギー技術を手に入れた方が楽だし効率も良いとなるだろう。

それを理解したキオンを始めとしたボーダーを理解する国々が同志となり、近界(ネイバーフッド)の「強者が正しくて弱者はそれに従うべきものだ」という愚かな慣習を打破しようと行動を始めた。

その考え方はトロポイも同じで、トリオンやトリガーの技術では数段劣る玄界(ミデン)がアフトクラトルやキオンという大国を相手に対等に渡り合っている事実を耳にしていたエルヴィンは玄界(ミデン)との接触を考えていたのだが具体的な行動はしていなかった。

そこにツグミたちが飛び込んできたのだから、彼にしてみれば「渡りに船」なのである。

彼女たちを歓迎するのは当然で、それが英雄の子供たちであればなおさらだ。

レプリカが連れて来て、イェルンが認めたことでエルヴィンはツグミに対して信頼を与えたが、まだひとつ決定打的なものがなく自ら話しをすることで確かめようとしていた。

 

近界(ネイバーフッド)で暮らすことに魅力を感じないというのは不便な生活を強いられるからなのか?」

 

「それもありますが、それ以上に身分や慣習などに縛られて自由に生きることができそうにないことがわたしには耐えられそうにないからです」

 

そう言ってエルヴィンに理由を説明する。

女性の数が少ないために女性を大事にする習慣があることは正しいと同時に間違っている。

出産可能な若い女性の数が少ないから大切にするというのではなく、男性と同じくらい大勢いたとしても出産という命懸けの仕事をする女性に対して労わるのは当然であり、年老いて出産できなくなれば扱いがぞんざいになるというのでは女性を道具として扱っていると思われても無理はない。

性別に関わらず他人を敬愛できるようになるべきで、そのためには当人が他人から尊敬される人物にならなくてはいけない。

そうなると子供の頃からの教育やしつけが重要で、日本では義務教育と称して一定の年齢に達すると誰でも学ぶ機会を得ることができることなどを熱心にエルヴィンに話した。

 

「子供の頃からの教育が重要なのか…。たしかに幼い頃から大人が正しい道を示せば子供はそれに従うようになる。ただし大人が正しくないと子供は間違った方向へ進んでしまうことになるのだから、まず私が国民を正しく導かねばならぬということだな」

 

「国王陛下が自らそう考えるのであればこの国の未来は明るいものとなるでしょう。ですがトロポイが他国と交流をせず、国の存在自体を隠そうとしているのであればいずれ限界を迎えるでしょう。それに人間とは欲深い生き物ですから、贅沢を覚えてしまえば元の生活水準に戻ることは容易ではありません。キオンやエウクラートンのような同盟国であれば積極的に技術交流を行うことができますが、貴国がこのまま鎖国を続けるのであればボーダーも力を貸すことはできません。陛下はわたしのことを信頼なさってくれましたがそれはわたしがオリバの娘であり、実際に話をしてみて人柄を認めてくださったからです。ところがボーダーの代表である城戸やわたしの養父である忍田といった幹部の人間のことは会ったこともないのですから信頼できるとは限らない。まずは相手のことを疑いの目で見ることから始まり、国益に値するか否かをいちいち確認しなければ心を開くことができないとなれば交流は難しいでしょう」

 

「うむ…」

 

「自国にとって都合が悪いことであれば相手の記憶を操作して忘れさせてしまう。それも必要な場合もあるでしょうが、それではいつまで経っても国対国の交流はできません。そしてわたしは相手に信頼されたいならば自分の方が率先して相手を理解すべきと考えています。今回はユーマくんの延命に関して最後の綱としてトロポイにまいりましたから、わたしはこの国にとって不利益とならない存在だということを証明し、それを認めてもらったことでこうして陛下と対等に話をさせていただいております。仮にですが陛下は玄界(ミデン)の技術が欲しいと考えても同様のことができますか? 相手の国まで出かけて行き、信頼に足る人物かどうか試され、自分の気持ちや考え方をさらけ出して、最悪の場合には記憶を消されて国外へ放り出されてしまう。そんなことに耐えられますか? それも国王ではなく一般人として試されるとしたら…いかがでしょうか?」

 

「……」

 

黙りこくってしまったエルヴィンにツグミは謝罪した。

 

「国王陛下に対して大変失礼なことを申し上げました。事によっては記憶操作だけでは済まない極刑になることをいたしましたが、わたしはこれまで他の国の元首の方々にも同じように接してきました。たぶんわたしの家族や友人たちはいつもハラハラしながらわたしの行動を見守ってきたことでしょう。ですがこれも信頼ゆえにできたことです。別に貴国に門戸を開けと言っているのではありません。ただ戦争をなくしたいという気持ちは同じでも国を閉ざして自国にだけ優しい世界であれば良いという貴国と、他国と交流をしてその中で戦いではなく対話によって平和な世界を目指そうとするボーダー(わたしたち)とどちらに現実性があるのかを考えていただけたら、わたしにとってこの旅の最大の収穫になると信じています」

 

そう言ってツグミは西に傾きかけた太陽を眩しそうに見つめたのだった。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。