ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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54話

 

 

「玉狛第2の健闘を祝して乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」

 

ツグミは試合を終えた修・遊真・千佳・栞と合流し、食堂でささやかな慰労会をしていた。

 

「応接室で忍田本部長たちと一緒に観戦させてもらったけど、エキサイティングな試合だったね。特にユーマくん、鋼さん相手に大金星だよ。すごいじゃない」

 

ツグミが遊真を褒めると、本人は目を細めて言う。

 

「なんの、なんの、ほんの実力です」

 

「うん。ユーマくんなら絶対勝てるって信じてたよ。それにチカちゃんも頑張ったね。あの橋を落とした時のアイビスの威力。アレがなければ玉狛第2の勝利はなかったかも」

 

「でもそれは修くんの指示と、栞さんがタイミングを計ってくれたおかげです」

 

謙遜する千佳にツグミは言う。

 

「いやいや、あの暴風雨の中で効果的な砲撃ができたのはチカちゃんがいつも真面目にレイジさんの指導を受けているからだよ」

 

「はい、ありがとうございます」

 

「そして一番凄いと思ったのはオサムくん。後半で堤防を破壊して水浸しにするっていう作戦、良く思いついたじゃないの。オランダの『洪水線』のことを知ってたの?」

 

ツグミが修に訊くと、彼は首を横に振った。

 

「いえ…知りません。というか、その言葉も今初めて聞きました。ぼくはただ那須先輩や来馬先輩が地上で戦っているので、足元を水で浸して動きを鈍らせるつもりで水を引き込むことを思いついただけなんですけど」

 

「だけどあの状況で水攻めを思いついたのは凄いと思うよ。地形を使って相手の動きをコントロールする。前回に続いて地形を上手く利用した見事な作戦だったね。さすがはオサムくん」

 

「ありがとうございます! …ところで『洪水線』って何ですか?」

 

ツグミは修たちに説明をした。

 

「なるほど…。でもそういう戦術を知っている霧科先輩って凄いですよね?」

 

「これは東さんから教わったの。東さんは戦史についても研究してる人だから、たくさんの知識があって話を聞いているだけでも面白いわよ」

 

「そうですか…。ぼくも本気で戦術について学ぼうかな…」

 

修が真剣な顔で考えているところに太刀川と迅がやって来た。

 

 

「お疲れ、玉狛の諸君」

「よう、メガネくん。見事な采配だったな」

 

「あ、太刀川さん、迅さん、どうもありがとうございます」

 

修が立ち上がってペコリと頭を下げて礼を言う。

常に礼儀正しく頑張り屋の修にツグミは好感を覚え、ますます彼らのために何かをしてやりたくなってしまう。

しかし表立って応援するということにもいかず、彼女は裏方に徹するわけなのだが。

 

「そうだ、ツグミ。これ、頼まれてたやつ」

 

迅はツグミにICレコーダーを手渡した。

 

「ありがとうございます、ジンさん」

 

礼を言って迅からICレコーダーを受け取るツグミの様子を見ていた太刀川は怪訝そうな顔をする。

 

「何だよ、それ?」

 

「何って、さっきの試合の解説を録音したICレコーダーですよ。戦っている本人たちは解説を聞くことができませんから、こうして後で聞けるようにしているんです。玉狛第2は絶賛成長中ですから、これでもっと高みを目指してほしいものです」

 

ツグミが太刀川に説明していると、修が加わった。

 

「はい。前回も東さんの解説を聞いて、とても勉強になりました。今回も太刀川さんと迅さんの解説を聞いて、次の試合に活かしたいと思います」

 

修の口から「東さんの解説」という言葉を聞き、太刀川の目が鋭くなる。

 

「東さんの解説だと…?」

 

「は、はい…前回の試合の解説が東さんと緑川で、その時の音声を霧科先輩が…」

 

修が言いかけたところで、太刀川がツグミの手にあったICレコーダーをさっと奪い取った。

 

「あ、何するんですか!?」

 

「東さんの解説、保存してあるだろな? そのデータを俺によこせ。このICレコーダーと交換だ」

 

Round2・夜の部が行われていた時間、太刀川隊は防衛任務で試合を見ることができなかったのだ。

 

「そんな人質取るようなことをしなくても記録したCD-ROMをお貸しします。夜の部の前に一度玉狛支部に帰るので、その時に持って来ますよ」

 

「わかった」

 

そう言って太刀川はICレコーダーをツグミに返す。

 

「ところでおふたりは夜の部のわたしの試合を見てもらえるんですか?」

 

ツグミが訊くと迅が答えた。

 

「その時間、俺たちはちょっと用事があるんだが…できるだけ見られるように努力するよ。なんたっておまえが…っと」

 

迅は何かを言いかけて口を閉じた。

 

「わたしの未来が視えたんですね? 何なんですか? 気になります。教えてください」

 

ツグミは迅に詰め寄るが、迅は首を横に振った。

 

「ここで教えちゃせっかくの感動が薄れるだろ。どんな結果になるのか知らない方がいいって。おまえの試合はエンターテイメントなんだぜ、みんな楽しみにしてんだ。メガネくんたちもそう思うだろ?」

 

「はい。ぼくも気にはなりますが、夜の部を観戦する楽しみが増してきました。こうなればいつもよりも早めに行って、良い席を確保するつもりです」

 

自分の試合ではないというのに妙に力の入っている修。

遊真と千佳もツグミに期待の視線を向けていて、そのキラキラとしたイノセンスな目で見られたらその期待に応えるしかない。

 

「…わかりました。みんながあっと驚くような試合を見せてあげましょう。わたしにもちょっとした秘策がありますから、フフフ…」

 

ツグミが意味深なセリフを口にしたものだから、修たちは否が応でも期待感が高まってしまうのだった。

 

 

 

 

夜の部まであと30分。

ツグミと栞は作戦室で打ち合わせをしていた。

といっても試合のことでの話は特にはないので、すぐに他愛もないガールズトークになってしまった。

しかしこのふたりの話題といえば…

 

「…ということだから『ボーダーメガネ人間協会』の会員数を増やすためには新たな戦略が必要なわけよ」

 

栞はそう言ってツグミの顔をじっと見る。

 

「新たな戦略といいますと?」

 

「もちろん宣伝活動に決まってるでしょ。今、ボーダーでもっとも活躍して知名度を上げてきたヒロインがメガネっ娘であれば、誰でも『眼鏡っていいよな』という感想を持つ。そして自分も眼鏡をかけようという気にもなろうというもの。特にそのコが男性隊員の人気が高ければ尚更よ」

 

「ボーダーでもっとも活躍して知名度を上げてきたヒロイン…って誰ですか? …ああ、チカちゃんのことですね。でもチカちゃんは可愛いですけど眼鏡が似合うかどうかは微妙なんですけど」

 

ツグミが答えると、栞は呆れた顔で言う。

 

「何言ってるのよ。アタシが言ってるのはあなたのこと。千佳ちゃんに眼鏡をかけさせるんじゃなくて、メガネキャラが確立しているツグミちゃんがもっと眼鏡の良さをアピールするべきなの」

 

「いや…メガネキャラと言えばシオリさんとオサムくんが不動のツートップですから、なんならオサムくんにもっと頑張ってもらって…」

 

「女子受けしたいなら、とりまるくんに伊達眼鏡をかけさせるわよ。そうすればメガネ女子の数がガンガン増えるに決まってるから」

 

「はあ…」

 

「ところでツグミちゃんが今かけているオーバル型のフレームはあなたに似合っているけど、定番すぎて面白味にかけるのよね。他のに変えるつもりない?」

 

「これは単にわたしの強化視覚(サイドエフェクト)を抑えるために鬼怒田さんたちが作ってくれたものなので、面白味にかけると言われても困るんです。この眼鏡は特別製で、ファッション性で複数持ちできるようなものじゃないんです。トリオンを使っていてコストがかかるから壊すなって言われてます」

 

「そこが問題。眼鏡とは必要だからかけるというものではなく、かけること自体に意味を持たなければならない。視力の矯正ならコンタクトレンズでも良いわけよ。それなのに未だに一定数の眼鏡愛好者がいるのはなぜだと思う? それは眼鏡をかける行為が人間の深層心理に潜む変身願望の表れでもあるからよ」

 

「…?」

 

「人は誰にでも変身願望というのがあって、仮装とかコスプレとかいったイベントが大人気なのはそれが理由。でも眼鏡ってそんな仰々しいことをせず、日常の中でさっと自分自身を変えることができるもっとも手軽でさりげないアイテムなのよ」

 

ツグミには返す言葉が見つからない。

よって栞の暴走を許すことになる。

 

「眼鏡というのはそのフレームの形ひとつでその人の印象を大きく変えることができるわ。例えばスクエア型なんかはシャープで知的な感じを与える。この眼鏡をかけていると勉強ができなくても頭良さそうに見えるのはこの効果ね。ラウンド型は可愛らしさとか優しさをイメージさせる。気性の激しい人でもこの眼鏡をかけることで周囲には温厚な人だという印象を与えたりもする。人間という生き物は人を外見で判断することが多いから、この眼鏡というアイテムは相手に本来の自分とは違う自分を見せることができるのよ。ああ、これは別に自分を偽れというんじゃなくて、もっと自分のなりたい自分になるために活用すべきという意味。そういうことで眼鏡をもっと普及させることにより自分を開放しようというのが『ボーダーメガネ人間協会』の真の目的なのよ!」

 

「その最後のヤツ、今考えついたんですよね?」

 

ツグミが冷めた眼差しで言うと、栞は空笑いをして頭を掻く。

 

「バレた? でも言ってることは嘘じゃないわよ」

 

「はい。なんとなくですがシオリさんの言いたいことはわかります」

 

「でしょ?」

 

「わたしがランク戦で勝ち続いたところで眼鏡人口が増えるのかわかりませんけど、シオリさんの野望が叶えられるよう一戦一戦頑張りたいとは思います」

 

「うん、ツグミちゃんならそう言ってくれると思ってたよー」

 

「ひとまず今夜の試合をインパクトのあるものにして、霧科ツグミという人間の存在をボーダーの隅々にまで知れ渡るようにします。結果はどうなるのかはわかりませんけど、面白い試合にすることは約束します」

 

「おお、やる気満々だね」

 

「ええ。今日は例の力を使うことになりそうですから、せっかくですので派手にお披露目しようかと考えているんです」

 

「例の力ってアレだよね? バラしちゃって大丈夫?」

 

「知っている人は知っていますし。上位グループに入れば東さんや二宮さんといったわたしのことを良く知っている人たちと戦わざるをえません。どうせいずれバレるんですから、ここら辺でわたしの力の種を明かして、以降の対戦者にはこれまで以上に悩んでもらいます。今日の対戦者には申し訳ありませんけど、いつもより一層力を入れて戦いますね」

 

「うん、ツグミちゃんらしい戦いを見せてほしいな。でも、たまにはアタシも手伝わせてよね。これまでの2戦、アタシはタダの観客でしかなかったんだから」

 

「でも霧科隊を立ち上げるに当たってオペがいないと困るので、シオリさんには名前を貸してもらっているだけですから、わたしとしてはのんびり観戦してもらいたいんですけど」

 

「名前を貸しているだけといっても、アタシも霧科隊、玉狛第3の一員なんだからね。それだけは忘れないでよ。…っと、そろそろ時間だね。準備はいい?」

 

「はい!」

 

ツグミと栞はモニターに映る映像に視線を向けた。

 

 

 






ツグミと栞の眼鏡トークはいつか描きたいと思っていたもので、ランク戦の幕間に入れてみました。
(急遽ここに入れたくなって書いたので文章がおかしいかもしれませんが、それはご容赦ください)
原作の栞がこのような考えを持っているかどうかはわかりませんが、拙作の栞は眼鏡をただ愛するだけでなく、その存在意義について深く考察しているのです。



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