ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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534話

 

 

2月14日、三門市では珍しく雪が舞う朝を迎えた。

降雪といっても風花なので積雪の心配はないだろうが非常に寒い一日になるであろう。

調印式のためにツグミたち総合外交政策局員を始め非番のB級隊員を動員して観客の誘導や周辺の交通整理などを行ってもらうスタッフは全員トリオン体で活動してもらうために寒さは問題ないのだが、報道関係者や市民会館へとやって来る約700人の観客たちにとっては辛いことになりそうだ。

そこで開場時間を30分繰り上げることにし、具合が悪くなった市民の対応ができるようにと急遽医師と看護師をひとりずつ派遣してもらうことになった。

弁当の方はツグミが手配した女性たちが早朝から頑張ってくれているおかげで予定どおりに納品が可能だという連絡を受け、突発的なトラブル ── 配達車両の事故等がなければスタッフが食事抜きで働かされる心配はない。

前日の午後に三門市に到着したメノエイデスの一行の接待は城戸と忍田と迅との3人に任せており、ツグミは現場の総責任者として走り回っている。

彼女の頭の中にはタイムスケジュールと役割分担がしっかりと整理されて入っていて、分刻みの流れなどものともしないでいた。

 

 

午前10時、七尾市にある宿泊施設からメノエイデス一行が三門市民会館に到着。

控え室に案内するとそこでボーダー幹部全員揃っての挨拶と式典の流れの確認をする。

そして舞台へと全員で移動し、すでに設営されているそれぞれの席についてリハーサルを行った。

()()のマヌエルと城戸が中央、フーガが上座でボーダー幹部たちが下座に座り、根付が司会進行として最も下手である観客席から見て左の隅に立つ。

控え室で確認した()()をここでひと通り再現し、それを迅と修、沢村の3人が舞台袖でチェックする。

ここで特に問題がなかったので再び控え室に戻り、昼食時間までしばし寛いでもらいことになった。

この頃になると来賓が到着し始める。

三門市長、助役、収入役、市議会議員、県会議員たちの他に近隣の市町村の首長も招待していた。

またボーダーのスポンサーにも全員に招待状を送っていて、都合のついた人は出席してくれることになり、欠席者からは祝電が届いている。

彼ら来賓客にも昼食が用意されていて、大ホールに併設されているリハーサル室で食事をしてもらう手筈だ。

弁当は予定どおりの午前11時30分に届き、VIP用弁当は控え室に運ばれ、一般用は隊員たちの休憩場所となっている別館会議室へと運ばれた。

医師と看護師には多目的室で待機してもらっているが、彼らには仕事をすることなくモニターで式典の様子を見守ってほしいものである。

 

 

外は朝よりも雪が激しくなって地面を白く塗り替えてしまったが、交通機関等への影響はなく調印式は行うことは可能である。

そこで正午のタイミングで防災無線を使用して調印式は予定どおり行われることを市民に伝えた。

すると開場を30分前倒ししたこともあって午後0時30分には多くの市民が正面入口に集まっていて、誘導担当の隊員たちは慣れない仕事に戸惑いながらも誠意をもって対応する。

事前に忍田から「市民の信頼を失わない仕事をしろ」と指示されており、効率よりも市民に感謝される仕事を意識しているようだ。

また市民も近界民(ネイバー)のことで不安を抱くようなことはなく具体的な被害も出ていない状態がしばらく続いていて、それがボーダーの働きのおかげであると考えているから誰もが好意的に接してくれている。

以前にはボーダーに対して恨み辛みをぶつける輩がいて、第一次近界民(ネイバー)侵攻はボーダーの自作自演だという暴言を吐く者もいたが、今ではそんな妄言を信じる者は誰ひとりとしていない。

それだけボーダーという組織が三門市民にとって信頼と希望の象徴となっているという証だ。

マスコミもボーダーに対して悪意のある報道をすると視聴率が上がったり販売部数が伸びたりと一時的にはメリットが生じたが、アフトクラトルの大規模侵攻以降のボーダーの活躍と()()が三門市民に受け入られたために反ボーダーをネタにすることができなくなっている。

そうなると手のひらを返したかのようにボーダーを讃美する記事を書くようになったが、そういった日和見主義な連中の報道など誰も興味を持つことはなく、ボーダーの記者会見の場から自然と消えていったのだった。

したがって今回の調印式に対して反ボーダーの意見を掲げる者はこの場にはいないため、生中継で全世界に発信しても根付が心配するようなことにはならないはずだ。

調印式開始の10分前には来賓客、観客、報道関係者が全員指定された椅子に着席して待っていた。

 

 

そして午後2時ちょうど、ボーダーとメノエイデスの同盟締結調印式が始まった。

 

 

◆◆◆

 

 

「定刻になりましたので、只今からボーダー及びメノエイデスによる同盟締結調印式を行います」

 

根付の司会で式典が始まった。

舞台の緞帳がゆっくりと上がり、舞台中央の席には本日の主役となるマヌエルと城戸、上座にフーガ、下座にツグミを含めたボーダー幹部たちが着席している。

根付が全員の紹介をし、続いて総合外交政策局長であるツグミからメノエイデスという国の紹介と今回の同盟締結に至った経緯の説明が行われた。

ボーダーとメノエイデスの関係は旧ボーダー時代に始まったものだが、公には秘密となっている。

新体制になってからは近界(ネイバーフッド)遠征の際に経由地としていることでボーダー隊員の一部の人間はその存在を知っており、ツグミが捕虜となったウェルスの逃亡に手を貸した事件はその時一緒に参加した隊員なら誰もが知っていることだ。

ただし三門市民を始めとしたボーダー関係者以外には人間が近界(ネイバーフッド)へ行ったのは2年前の5月と()()発表しているため、矛盾することのないものにしている。

ウェルスが鳩原智史を三門市まで送り届けてくれたのが1年半前なのでまだ記憶に新しく、メノエイデスは三門市民にとって馴染みのある国である。

だからこそこれだけ多くの市民が同盟締結の瞬間をその目に焼き付けようとしているのだ。

 

次に同盟締結の内容についての説明を行った。

これはキオン及びエウクラートンとボーダーが三国同盟として結んだものの拡大版となり、内容は「相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉」を原則とし、同盟国が第三国からの侵略を受けた場合には各国が援軍を送ることを確約する。

つまり玄界(ミデン)に第三国の近界民(ネイバー)が侵攻して来た場合はキオン、エウクラートン、メノエイデスがそれぞれ救援のために軍を派遣するし、その逆のケースもありうるということだ。

かつて旧ボーダー時代には近界(ネイバーフッド)の3つの国と同盟関係にあったが、その時には明確な約定などなく一番弱い立場であったボーダーが利用されただけに終わった。

その反省もありボーダーはどの国とも対等な関係で同盟を結ぶことに重点を置き、それを近界(ネイバーフッド)の国にも認めさせている。

キオンが一番大きな国で軍事力もトップだからといってキオンがリーダーというわけではなく、現在はボーダーが旗振り役だがいずれ同盟国が増えた時には改めて各国の代表を集めて「話し合い」と「選挙」で決めたいと考えている。

ただしこれは近界民(ネイバー)たちにとっては初めて触れる「概念」や「契約」であるために細かいところまでまだ決めることができない。

したがって同盟国の外交担当者には三門市に来てもらって玄界(ミデン)では国際平和と安全の維持や、経済・社会・文化などに関する国際協力をどのように実現しているのか学んでもらい、その後にどの国も納得できる内容で成文化するというものである。

これらの内容を要約すると「今のところは原則の『相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉』を守り、同盟国に何かあったら残りの国で協力して助けてあげよう。そして玄界(ミデン)の複雑な国際関係などはまだ良くわからないのだから、勉強と経験を積みながらみんなで恒久的な平和と理想的な関係を結ぶことを目指しましょう」というもの。

すべてはまず同盟国同士が仲良くすることから始めようというもので、子供にでもわかりやすい内容だ。

三門市民が求めているのは日々安心して暮らすことができるという「保証」と「わかりやすさ」で、小難しい文書による条約なんてものは()()どうでもいい。

だからここではボーダー側の代表である城戸とメノエイデス側の代表マヌエルが親しげに握手をして、お互いにサインした書類を交換するという「パフォーマンス」だけで十分なのである。

 

そして調印式のメインイベントである城戸とマヌエルによる書面へのサインとその交換、そして握手が行われるとその歴史的瞬間を目撃した観客たちは割れんばかりの拍手で「新しい友人の誕生」を祝った。

近界(ネイバーフッド)にいくつの国があってどれだけの近界民(ネイバー)がいるのかはボーダーの人間ですら知らないことで、三門市民が知る由もないこと。

しかしこれで少なくともメノエイデスという国が敵ではなく味方となったという事実は三門市民にとってなによりの朗報となる。

以前から友好的な交流はあったものの、こうして正式に同盟国となったことは改めてメノエイデスとその国民が良き隣人(ネイバー)となったという「目に見える根拠」であるから、誰もが喜び歓迎するのは当然であった。

 

続いてマヌエルによる挨拶が行われる。

彼は席を立ち、その場で三門市民に向けてメッセージを発した。

 

「ミカド市民のみなさん、そして玄界(ミデン)のみなさん、初めまして。私はメノエイデスの首相のマヌエルです。こうした喜ばしい場でみなさんにお会いできたことを光栄に思います。この度は我が祖国メノエイデスをボーダーの主宰する同盟の一員として迎え入れていただき誠にありがとうございます」

 

マヌエルはメノエイデスの首相となって今年で12年目という68歳、物腰の柔らかい温厚な()()()()()である。

見た目はアフトクラトルのヴィザをもう少しふっくらとさせた印象で、少なくとも容姿からは彼が危険な敵性近界民(ネイバー)だとは誰も思わないだろう。

そんな彼が微笑みながら話しかけるのだから、観客だけでなく報道関係者たちも警戒心を抱くことなく彼の言葉に耳を傾けている。

しかし挨拶をした直後、彼の表情は険しいものとなった。

 

「かつてミカド市は近界民(ネイバー)によって多大な犠牲と被害を受けたと聞いています。その侵略者は我が国ではありませんが、同じ近界民(ネイバー)であるということに私は非常に申し訳ないと感じています。近界民(ネイバー)では対話で平和的に物事を進めるという概念がなく、強者が弱者を虐げて奪うという乱暴な手段を用いるのことが一般的となっています。我が国はそんな近界民(ネイバー)の慣習を恥じており、他国とはできる限り接触をせずにおりました。過去にミカド市が悲劇に見舞われた時にもエクトスという国が我が国を経由して玄界(ミデン)へ向かったことを承知して黙認してしまいました。もしここで我が国が彼らに対して干渉すれば、彼らが我が国を敵国と認めてその兵力を我が国民に向けると考えたからです。エクトスは隊商国家として名を知られており、玄界(ミデン)への侵攻はトリオン能力を持つ人間を拉致し、また大量のトリオン器官を奪ってそれを他国に売り払うための軍事行動。別に玄界(ミデン)の人間でなくともかまわないわけで、私は国民を守るためにエクトスの蛮行を見て見ぬふりをしてしまったのです。そのためにミカド市の方々が大勢犠牲となられました。この場を借りて謝罪をしたいと思います。大変申し訳ございませんでした」

 

そう言ってマヌエルは客席に向かって深く頭を下げた。

その時間はわずか7秒であったが、その謝罪には一国の責任者として国民を守るために仕方がなくやったことだが、そのせいで他国の国民に大きな犠牲を生じさせたという後悔が込められていて、客席からは声どころか咳払いひとつ聞こえない。

実はこの事実をボーダー側はメノエイデスの良いイメージを維持できるよう公にはしない方が良いと提案したのだが、マヌエルは清廉な人間であるためにここで隠し事はしたくないと言って舞台上で謝罪をしたのだった。

さすがに観客たちは衝撃の事実にショックを受けたが、彼の真摯な態度と事情を鑑みて許そうという気になってしまった。

さらにマヌエルが正直な人間であり、ウェルスの件もあってメノエイデスの人間なら信頼できると確信を得たのだから不安はまったくない。

これがボーダーの発信する情報だけであったらまだいくらか疑う部分が残ったかもしれないが、自分の目と耳で確認して頭が納得したのだから疑いようがないのだ。

彼の謝罪についてはツグミの助言があった。

一般に不祥事を起こした企業や人間が謝罪会見を開く際に必ずお辞儀をするのだが、これは単純に長い時間深く頭を下げればいいと思いがちだがそういうものでもない。

会釈の角度が浅かったりお辞儀の時間が短ければ「誠意がない」「本気で悪いと思っていない」と受け取られ、逆に深く頭を下げて長い時間お辞儀をしてもそれが大げさな印象となり「パフォーマンスに見える」「頭を下げておけばこれでいいんだろ? と本気度が感じられない」というものになる。

そこでツグミがマヌエルにお辞儀の角度や時間を指南し、最も好印象を受けられるように練習してもらっていた。

その甲斐もありマヌエルはしっかりと観客としてその場にいる三門市民だけでなく、テレビの生中継を見ている視聴者の心をしっかりと掴んだことだろう。

 

謝罪を終えて一区切りをつけたマヌエルはボーダーの思想に共感して同盟に加わることを決めたと話した。

しかし長い間ずっと中立を貫いていた国であるから、玄界(ミデン)と深い関わりを持つことに消極的な人間が多く、そのような中で政府首脳陣を説得するのに時間がかかってしまったことなどを話しただけだ。

メノエイデスは玄界(ミデン)に一番近い場所にある国というだけで特に何もない小国であるから他国からの侵攻を受けず、また他国に侵攻しないために近界(ネイバーフッド)の国でありながらも国民は平和で安心して暮らすことができた。

ところが約8年前に突然侵攻を受けて戦わざるをえなかったのだが、その時運悪くボーダーの遠征と重なってしまったためにボーダーの遠征部隊を敵国と間違えて戦闘状態になってしまった。

その時にボーダーがウェルスを捕虜にし、彼をツグミが逃がしたという事件となったのだが、それがなければ両国の関係は別のものになっていたことだろう。

もしボーダーがウェルスを三門市に連れて帰るようなことになれば中立であったメノエイデスは敵性国家となっていたはずで、ツグミが彼を逃がしたことで軍と政府に正しい情報が伝わったために彼らが敵になることはなかった。

むしろツグミのウェルスを家族の元に帰したいという優しい気持ちがあったからこそ、メノエイデスはずっと中立の立場であったというのにボーダーに対しては近界(ネイバーフッド)の情報提供や飲料水・食料の提供など協力をしてくれるようになり、アフトクラトル遠征でも彼らの協力があって成功したとも言えるのだ。

こうした事情は公にはできないために内緒となっている。

ただ味方となる近界民(ネイバー)がひとりでも増えることは逆に言うと敵となる近界民(ネイバー)が減るということになり、三門市民にとってその理由や経過がどのようなものであろうとも関係はない。

もう二度と大切なものを失わない平和で穏やかな暮らしができれば十分で、ボーダーがどのような「取引」をしているのかなどに興味はないから全面的に賛成している。

いや、ボーダーという組織を信頼しているので自分たちの身に不利益が生じることなどないと確信しているから反対などするはずがないのだ。

 

最後にマヌエルは持参してきた1枚の絵を見せた。

それは高名な画家のものではなく、自身が描いたものでもない。

普通の画用紙にクレヨンで描かれた子供の絵で、青い空の下に緑の大地が広がっていて、そこに描いたであろう子供とその家族が笑っている。

B判四つ切りのサイズなので会場の前の席の観客にしか見えないため、舞台上のスクリーンにその絵を投影して大勢の人に見てもらえるように演出をしている。

家族の他にも花や動物などの絵もあるが、やはり好きなものといえば一番は家族だというのはどの世界であっても同じだ。

 

「メノエイデスの子供たちに自分の一番好きなものを描いてもらいました。この絵に使用したクレヨンと画用紙は総合外交政策局の方が贈ってくれたもので、子供たちはとても喜んでそのお礼にと描いてくれたました。恥ずかしながら我が国は…いえ近界(ネイバーフッド)の国々は玄界(ミデン)と比べて子供の教育に力を入れていません。どの国でもひと握りの恵まれた貴族階級の子供でないと学校に通うことができないというのが現実です。そんな我が国に総合外交政策局の局長が訪問された時に初等教育が大事であることを力説し、子供たちに絵を描くことを勧めてくれて画材をくださいました。もちろんメノエイデスにも画材はありますが、このように色鮮やかなものは大変高価で子供に使わせることなどできません。ところが玄界(ミデン)では幼い頃からこれらを使って絵を描いているという。とても驚きました。そこで私はボーダーと玄界(ミデン)のみなさんへ感謝の気持ちを込めて子供たちの描いた絵を寄贈させていただくことにし、それを快諾していただきました。ここには約100枚の子供たちの絵があります。どうかこれを友好の証として受け取ってください」

 

すると客席の中からパチパチと拍手の音が聞こえ、それがホール全体に広まっていった。

 

「ありがとうございます、みなさん。私は68年間の人生の中でこれほど感動したことはありません」

 

涙をこぼすマヌエルに城戸が近寄ってハンカチを手渡した。

それを受け取ると目を押さえるマヌエル。

その感動的なシーンは()()()とか()()ではなく、ひとりの老人が心から涙を流しているのであり、そしてその老人を労ろうとする優しい孤高の男性の本当の姿である。

子供が描いた絵というものには大人を感動させる()()があり、絵には言葉はなくても力強く訴えかけるものがあることは明らかだ。

ツグミがクレヨンと画用紙をメノエイデス政府に贈ったことは子供たちに喜んでもらいたいという気持ちがあったのは当然だが、こうした「効果」を期待していたという気持ちもあった。

そしてその狙いは成功し、城戸が子供たちの絵画を三門市役所の玄関ホールで2月末まで展示することを告げた。

 

マヌエルの話が終わると彼は自分の席に座り、そのまま城戸がマイクを受け取って目の前の三門市民とテレビカメラの向こう側にいる大勢の人間に訴えた。

 

「我々はこうして新しい仲間を迎えることになりました。彼らは近界(ネイバーフッド)という我々とは異なる世界に生まれ、我々のものとは違う価値観を持つことによって悲しいかな敵対するという道を歩んでしまったのです。しかし両者の根底にあるものは同じで、誰もが家族や友人といった親しい者たちに囲まれて穏やかな日々を過ごしたいと考えています。同じ気持ちを持つ者同士が力を合わせて理想の世界を創っていこうというのがこの同盟の目的で、みなさんにはこの喜ばしい瞬間の見届け人となっていただきました。まだ同盟に加わりたいと名乗り出てくれた国はありますが、メノエイデスのように近界(ネイバーフッド)の慣習を変えることは難しく時間がかかることでしょう。ですが希望は見えます。昨年の6月にキオン・エウクラートンとの三国同盟締結調印式ではフーガ外相が臨席してくださり、その時からメノエイデスは同盟加入のために国内の反対派…というよりも既得権益を失いたくはない多数派を説得し続けてようやく今日の調印式にこぎ着けたのですから。焦りは禁物です。時間がかかったとしてもこのように確実に結果を出すことはできるのだと証明できたのです。これからも同じ志を持つ国が現れ、我々の掲げる原則『相互尊重、相互不可侵、相互内政不干渉』を遵守できると約束してくれるのであれば我々は拒むことはありません。そしてみなさんも我々と同じ気持ちでいてくださるのなら、それこそ我々ボーダーは百万の味方を得た思いでございます。今後ともボーダーの活動に…若者たちの願う未来に希望を持って見守ってください」

 

城戸はそう言って客席に向かってお辞儀をした。

 

これで調印式の式次第は終わりとなり、観客たちは感動冷めやらぬ状態で家路につき、報道関係者は一刻も早く帰社しようと市民会館を後にしたのだった。

 

 

 

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