ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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549話

 

 

記者会見が無事に終了し、マスコミ関係者と観客の市民たちは三々五々と会場を出て行く。

舞台の上では帰国者たちが帰宅のために舞台袖へと順に退場していく中、修は初めての大仕事を終えた達成感のためかぼんやりと立ち尽くしていた。

 

「オサム、お疲れさん」

 

遊真に声をかけられて修は我に返った。

すると遊真だけでなく千佳と麟児も一緒にいる。

 

「舞台袖で見ていたよ。修くんの様子を見ていて自分のことじゃないのにドキドキしちゃった。堂々としていてカッコよかった」

 

「完璧に役目を果たしたな、修。初めてとは思えないほどだったぞ」

 

千佳と麟児にも褒められ、修は顔が赤くなってしまう。

 

「ありがとうございます。でもこれも霧科先輩が全部用意してくれたもので、ぼくひとりの成果じゃありません」

 

「謙遜なんてしなくてもいいんだぞ」

 

「いえ、謙遜しているわけではありません。麟児さんだって霧科先輩の仕事ぶりを見てきたんですから、ぼくがどれだけのことをやったのかわかるはずです。ぼくは先輩の成果を披露しただけです」

 

「それを立派に成し遂げたと言うんだ。今は素直に喜んでおけ。すぐにまたラグナに行かなければならないんだ、その前にやれることをやっておくんだ。ひとまずゆっくりと休んで英気を養うといい。それからおまえに会いたいという人物が来ている」

 

「ぼくに会いたい人物…ですか?」

 

怪訝そうな顔で修が麟児に訊く。

 

「ああ。一般市民と一緒に体育館の玄関に来ていたところを俺が見付け、城戸司令の許可をもらって舞台袖でおまえの仕事ぶりを近くで見てもらった。ほら、そこに立っているぞ」

 

麟児の示す先にいたのは香澄であった。

舞台上の備品を片付けるスタッフたちに遠慮するかのように隅でクールな笑みを浮かべている。

 

「母さん…来てくれたんだ」

 

香澄が来てくれるとは想像もしていなかったので修は嬉しいやら恥ずかしいやらで複雑な心境だ。

修は香澄の元へ駆け寄ると頭を下げて言う。

 

「わざわざ来てくれてありがとう、母さん。…感想を聞かせてもらえる、かな?」

 

香澄はその表情を和らげ、修の頭を優しく撫でながら答えた。

 

「よくやったわね、修。立派だったわ。あなたにはこっちの方が向いているのは間違いなさそう」

 

「…ありがとう。母さんに認められたことが一番嬉しいよ」

 

頭を上げた修の表情は清々しいもので、これまでボーダーから()()()しまわなくて良かったと本気で感じていた。

彼にとってボーダー、特に防衛隊員を続けることは「自分がそうするべき」と思ったことであり、ボーダーを辞めるということは逃げてしまうことと同義であった。

だから本当に戦わなければいけない時にも逃げずに立ち向かうことができることだろう。

こうして香澄()に褒められたことで気分は最高だったのだが、続く言葉にテンションは下がってしまった。

 

「それはそうとたまには家に帰って来なさい。忙しいのはわかるけど近界(ネイバーフッド)から帰って来ても顔を見せないどころか電話ひとつ寄こさないんだもの。あなたが総合外交政策局の仕事をしていると聞いていたから、今日ここにいると思って私は来たのよ。…まったくそんな親不孝な息子はウチの子じゃありません」

 

「…ごめんなさい。電話をしなかったのは素直に謝ります。だけど帰りたいとは思っても玉狛支部にいた方が仕事にも便利だし、他の人たちも忙しいんだからぼくだけのんびりはしていられなかったんだ。この後はまたラグナに一時帰国者を送り届けて霧科先輩を連れて帰らなきゃならないんで、もうしばらくは勘弁してほしい。全部終わったら先輩に頼んで少しだけも時間をもらうよ」

 

修がそう言うと香澄は意味深な笑みを浮かべた。

 

「フッ…彼女ならあなたがそんなことを言わなくてもわかっているわよ。必ず『たまには家に帰って親孝行しなさい』ってあなたが嫌がっても帰宅させるようにする。家族というものをとても大切にしている人だから」

 

「そうですね。次の遠征先が決まるまではしばらく身体を休めることができるはずで、先輩にもゆっくりと休んでもらいます」

 

「帰って来る時には必ず連絡を寄こしなさい。あなたの好物をたくさん作って待っているから」

 

「はい。楽しみにしてます」

 

「じゃあ、身体に気を付けて頑張ってね」

 

香澄はそう言って舞台袖から去って行った。

すると入れ違いに麟児が近付いて来て言う。

 

「修、そろそろ行かないとバスが出発するぞ。こっちのことはメディア対策室に任せて早く行こう」

 

「あ、そうだ。じゃあ、嵐山隊の人たちに挨拶してきます」

 

 

修にはまだ仕事が残っている。

帰国者44人を三門スマートシティ内の宿舎へ連れて行き、彼らを守らなければならないのだ。

彼らを脅かすものは近界民(ネイバー)ではなく特ダネを狙うマスコミ関係者であり、隙あらば宿舎に忍び込んで取材をしようとする輩がスマートシティの入口付近にたむろしている。

過去にツグミは何人かの記者を捕まえて記者会見へ出禁にしたこともあり、今回もその恐れがあるために修たち旧玉狛第2メンバーと迅が宿舎で見張りをすることになったのだ。

もちろん民間人相手に武器(トリガー)を使うことはないが、トリオン体に換装していれば千佳であっても安全に任務を遂行できるというもの。

もっとも護衛よりも帰国者たちのための雑用係としての役割の方が大きい。

明日25日の夜には一時帰国者はラグナへ発つのだが家族への土産物を買いたいと思っても自由に外出はできないため、リクエストに応じて取り寄せや配達などができないものを買いに出かけるのも彼らの仕事だ。

千佳がいるのは女性でないと頼めないものなどもあるためで、ツグミの代役をするということで張り切っていた。

同じバスに乗って三門スマートシティ内にあるボーダーの「スマートシティ出張所」で待機することになる。

出張所といっても集合住宅の1部屋を総合外交政策局の詰め所として使用しているもので、電話はもちろんのことデスクトップPCやプリンターなどの事務機器も完備してあった。

スマートシティ内にある飲食店へは帰国者も自由に行くことはできるのだが基本は仕出し弁当で、修たちも同じものを食べることになっている。

ラグナで共に苦労した44人が一緒にいることができるのは今夜限りで、三門市で暮らす者、ラグナで暮らす者とそれぞれ別の道を行くことになる。

三門市で暮らす者たちが集まることは容易だが全員で再びこうして集まることは難しいだろう。

ヒエムスやレプトの時もそうだったがスマートシティ内にあるコミュニティールームを貸し切ってささやかなお別れ会を行うことになっている。

その軍資金の一部はボーダーの機密費から出ていて、城戸の気持ちの表れだとツグミは考えていた。

そして弁当の他にピザやフライドチキンなど皆でシェアできる料理が追加され、帰国者たちの笑顔も増えたように修には見えたのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

ラグナに家族のいる24人の女性たちを残し、三門市で暮らす20人はそれぞれの道を歩み始めた。

実家に帰ってボーダー提携校の高校に通う者、スマートシティ内の住居で暮らしながら就職する者、中にはボーダー職員になる者もいる。

まもなくやって来る4月 ── 新年度に合わせて人生をやり直す者たちはお互いに連絡先を交換し合って再会を約束して別れた。

そして一時帰国の女性たちは再びラグナへと向けて旅立つ。

この女性たちもラグナに永住するかどうかは未定で、可能であれば三門市で暮らしたいという希望を持っている。

とりあえず土産を山ほど買い込んで家族たちの喜ぶ姿を目に浮かべながら送迎バスへと乗り込んだ。

三門市に到着した日に開花した桜は七分咲きになっていて、市内で一番見事に咲いている桜のある公園を経由してバスは艇のある場所へと向かう。

それはツグミの指示ではなく、修自身が考えて実行したことである。

そのサプライズは女性たちにとても喜ばれ、桜の木の下で記念写真を撮ってそれを三門市の土産のひとつにしたのだった。

 

 

 

 

今回の渡航には大型の艇を使用することになった。

それは24人の女性たちをトリオンキューブにしてしまうと艇に解凍装置がないために生身の身体に戻せないからだ。

解凍装置を艇にも積むという案もあったが、製作コストと設置場所などがネックとなって諦めざるをえなかった。

それよりも食料や飲料水を積んで生身のままで搭乗する方が良いと判断されたのだ。

アフトクラトル遠征に使用した一番大きな艇なら30人までOKなので、修たちを含めて全員乗ることができるので問題はない。

そしてボーダー側のメンバーは修、千佳、ゼノン、リヌス、迅、そして唐沢の6人である。

唐沢が「おれも一度くらいは近界(ネイバーフッド)に行ってみたい」と言い出し、ラグナまでの往復と現地で戦闘に巻き込まれる可能性がほぼゼロであって安全だということで実現したものだ。

トリガー使いでない彼は自分で自分の身を守ることはできないので安全が確保されている場合しか渡航はできないのだから仕方がない。

ただし彼が近界(ネイバーフッド)の現実をその目で見ることは重要で、今後三門市で近界民(ネイバー)を受け入れる交渉の際おおいに役立つことだろう。

さらにラグナまでの往路では修にとっても良い結果が得られることになった。

修は唐沢に交渉術の指南を頼んだのだ。

修が総合外交政策局員を続けたいというのであれば唐沢の交渉術を学ぶことは重要だ。

仮にボーダーを辞めて他の世界で生きていくとしても交渉に長けているかどうかは彼の人生にも大きく影響を及ぼすことになるのだから学んでおいて損はない。

また唐沢自身もラグナまで特にすべきことはないために修の頼みを快く引き受けてくれた。

 

三門市を発った翌日、出発直後の慌ただしさがひと段落すると修は唐沢の居室を訪ね、修と唐沢は向かい合ったベッドにそれぞれ腰かけて()()が始まった。

 

「交渉の基本は自分と相手の双方にとって納得のできる結果を導くことだ。相手の立場や利益のことを考えてやるのは当然だが、そのために自分の立場や利益を無視してはいけない。例えば売買では売る側は高く売りたくて、買う側は安く買いたいと思うものだ。ここで売る側は仕入れ値や運送費人件費などがかかっているから利益を得るためにはそういった経費を考慮して販売価格を決めている。しかし買う側はその価格が不満であれば値引きをしろと言うだろう。そこで売る側は自分の利益を確保しながらも値引き交渉に応じることになる。しかしここで相手を満足させようとして自分の利益を削るのであってはならない。売る側は商品を売ることで利益を得て、買う側は適切な対価を支払うことで欲しい商品を手に入れるという『契約』を結ぶ行為なのだから、売る側が一方的に損をして買う側だけが得をするのであればその店は潰れてしまうだろう。逆に価格を高く設定すれば1件当たりの利益は増えるだろうが客は別の店に行くようになってしまってやはり店は潰れることになる。そうならないためにお互いに利益を得られるいわゆる『win-win』となるように相手に働きかける必要がある。一般的に商店で商品を買う場合には価格が決まっていて、その価格どおりに対価を支払うものだが、場合によっては値引き交渉ができるものもあるがきみは知っているかい?」

 

「はい。以前に両親と一緒に実家のテレビを買いに家電量販店へ行き、そこで店員にいろいろ相談して気に入った商品を見付けたんですが予算を少し超えてしまう価格だったので値引き交渉をしていました。そして最終的には2万円くらい安くなり、おまけに配達や設置費用も全部タダでやってもらった覚えがあります」

 

修がそう言うと唐沢はニヤリとした。

まったく経験のない人間に教えるよりも経験のある者に教える方が楽だし理解もしやすいからだ。

 

「それはいい。家電量販店では百円単位のものから数十万円単位のものまで幅広く売っている。しかし値引き交渉に応じてくれるのは数万円単位のものから上がほとんどだ。それは価格の安いものまでいちいち値引き交渉の応じている余裕はないし、客も時間をかけて値引きさせたところで得するのは100円200円ではバカバカしいからだ。だからきみの家で買ったテレビのように高額なものであれば店員も客も交渉をして納得する金額を導くことができるんだ。たぶんきみのご両親がテレビを買った店は初めて行った店ではなく、以前から利用している店じゃないかな?」

 

「はい、そうです」

 

「やっぱりな。店員だって人の子だから一見の客よりも常連客の方が値引きをしてあげたくなるものだ。そしてここで満足してもらえたらまた次に冷蔵庫や洗濯機なども買ってくれる可能性が生まれる。だから三雲家と良い関係を続けるために値引きをして諸経費もサービスしてくれたんだ。しかしここで大幅に値下げをして利益が出ないようなことになればその店員は店舗に損害を与えることになる。その店員だって自分の生活があるからクビにはなりたくない。だから店には利益を、客には満足してもらうために働いているんだ。腕の良い店員はまずトークで惹きつけて関心を持たせる。そこで客が『この人と交渉してみよう』という気にさせ、いかにこの商品が素晴らしいかを客に刷り込ませてしまう。そしてその素晴らしい商品をこれだけ安く買うことができたのだと客に()()()()()ことで気持ち良く買い物をしてもらうんだ」

 

「なるほど…そういうことなんですね」

 

「そしてそれは売る側だけではなく買う側にも()が必要で、できるだけ安く買おうと思ったらいくつか注意すべき点がある。価格の決定権は店員が持っているわけだから、客がいきなり高飛車で『いくらに値下げしろ!』なんて言えば気分を悪くして応じたくなくなる。また他の店にも行くような素振りを見せれば『値下げしたところで他の店に行くなら下げる必要がないな』と思ってしまう。最近は量販店同士で価格競争が激しく、売りたくてむやみに下げることは少ない。こういう買い方をする客は自店舗にこれ以上来てほしくないので、安くできたとしても他の店に行ってもらってもかまわないと考えるんだ。だから客も頭を使って交渉をする。まずモデルチェンジをする直前が一番安くなる時期だ。それを狙うと良い。また平日よりも土日に行くと店も稼ぎ時なので値下げ率がアップする。雨が降っている日は来店客が少ないから丁寧に対応してくれるな。さらに決算時期や年末年始などは店も売り上げを増やしたいから多少安くてもたくさん売ろうとする。6月や12月のボーナス商戦の時期も狙い目だ」

 

「あ、そういえばテレビを買ったのは12月で父のボーナスが出た直後でした。新しい大きなテレビで年末の歌謡番組を見た覚えがあります。たぶん両親はそんな得をする方法なんて知らなかったでしょうけど、もし知っていたらもっと安く買えたかもしれませんね」

 

「そうだな。次の大型家電品を買う時に試してみるといい。…そういうことでお互いにどこまで『妥協』できるかを探るのだが、そのためには相手の状況を知らなければならない。相手のことを知らなければ()()()をどこにすべきか決められないからな。そこで相手の懐に入り込んで探るわけだが、ツグミくんはそれが非常に上手い。相手が年長の男性である場合が多いのだが、そういった人種は彼女のような賢い女の子が好きだ。交渉とは直接関係ない話題でも上手く盛り上げて楽しませてくれるからな。知識が広く深いからどんなジャンルにも対応でき、相手を気分良くさせたところで本題に入るから乗り気になってくれる。初めから聞く耳持たない相手には何を言っても無駄だが、相手が積極的に聞こうとしてくれるならこっちのもの。相手を納得させる()()をたくさん準備してあるからな。相手が何を欲しているのかさえわかれば半分は成功したようなものだ。あとはこちらが上手く導いて相手を満足させればいいだけだ」

 

「難しそうですね。でも面白そうではあります。霧科先輩が大変だけど楽しいと言っていた理由がわかった気がします」

 

「そうか、それならおれも教えがいがあるというものだ。…なあ、気が付いているかい? これはきみがおれとの交渉に成功したと言えるものなんだぞ」

 

「え?」

 

修はわからないという顔で唐沢の顔を見た。

 

「もしきみが他人にものを教わるという謙虚な気持ちがなかったらおれはきみとこうして話をすることはなかっただろう。そしてきみは交渉術を学ぶ手段を得て、おれは()()()()()()()という満足感を得た。お互いに納得できる結果に導くことができたならこの交渉は成功だ。そしてきみが交渉術を身に付けて近界民(ネイバー)と上手く付き合っていくことができれば、ボーダーは三門市防衛という本来の任務が楽になる。三門市が近界民(ネイバー)によって蹂躙されることがなくなればおれが関係各位に頭を下げることもなくなるという良いスパイラルが生まれるわけで、最終的には三門市民も近界民(ネイバー)も安心して暮らせる平和な世界になりました、めでたしめでたし…となることも夢じゃない」

 

「……」

 

「きみはツグミくんと同じで人を惹きつける力がある。彼女の場合は年齢にそぐわない幅広い知識や経験が元になっていて、彼女自身が広い世界に自分から飛び込んで行って世界を変えてしまう。きみはその未熟さゆえにトラブルを起こしてしまう問題児だが、周囲の人間はおれを含めてなぜか見捨てることができない不思議な魅力を持っている。きみは自分のことには無頓着なのに他人のことになると面倒見がいいどころか自分を犠牲にしようとする利他的な人間だ。その点では自分を利己主義者だと言うツグミくんとは真逆なんだが、彼女は自分が一番大事で、自分が幸せになるためには周りの人も幸せでなければダメだという考え方でいる。だから結果的には自分も周りの人間もみんな幸せになれるという仕組みで、おれはその考え方は好きだ。美味いものを食べていてもテレビで開発途上国の子供たちが飢えている様子を見せられたら味なんてわからなくなる。もしここで平気で美味い美味いと食事ができたならそれこそ真の利己主義者だと思う。そして美味しいものは無理でもせめて十分な食事を与えてあげたいと思うようになり、その子供たちが満足いく食事ができるようになればおれも満足できるだろう。ここできみは貧しい国の子供たちが飢えている状況を知っていれば彼らのために募金をしようという気になるだろうが、知らなかったらそんな気にならないはずだ。自分のことしか知らないのならその人間の世界はとても狭くて小さいものでしかない。しかし知ることは未来の可能性をどんどん広げていき、どんな人間になるのかは本人次第だ。つまり無知は罪であり、どんなくだらないと思えるようなことでも知ることは必要。ツグミくんの優れている点はその大量の知識を状況に応じて上手く使えること。きみが彼女と同じようにやろうと思うならまずは知識と経験を増やすことだな。きみはボーダーに入隊して半年近くずっと停滞していて、その間に蓄えるべき知識と経験が不足していた。そのことはきみも十分に反省していると思う。だけど今ならその重要さを理解しているし、やろうと思えばできる環境にある。そしてきみは今その引き金(トリガー)を引いたんだ。もっとも結果がどうなるかは今後のきみの働き次第だが、きっかけが今生まれたことは間違いない」

 

「はい。良くわかりました。…ぼくが迅さんに誘われて玉狛支部に異動になる前でも()()()乞うことができれば導いてくれる人が周囲には大勢いたのにぼくがそれをしなかっただけなんです。ぼくが怠惰だったことで周囲にはいろいろ迷惑をかけてしまいましたから、これからはその償いというか助けてくれた人へのお礼というか…適切な言葉が見付かりませんがやれることを全力でやってみます。これまでの失敗の多くは身の程をわきまえない実力以上のことをやろうとしていたからです。ゲームでもレベルやプレイヤースキルが足りないせいで勝てなかったステージも条件を満たせば勝てるようになる。それと同じで無理をせずに一歩ずつ確実にやることでレベルアップ図ります」

 

「いい覚悟だ。それならおれも時間が許す限りきみに付き合おう」

 

「ありがとうございます!」

 

修の元気な声が狭い居室に響いた。

そしてラグナに到着するまでの間ずっと修は唐沢から交渉術を学んだのだった。

 

 

 

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