ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
ボーダーの艇がラグナに到着すると、その報告を受けたツグミは王城の玄関へと向かって一行を出迎えた。
その中に唐沢がいるのを見付けて驚くが、それは城戸が許可をしたということであり、それだけ城戸がボーダーの
ラグナまでの往路では途中2つの国を経由するのだが、そのどちらの国もボーダーの寄港を容認していた。
以前にはこういう場合「黙認」であり余計な手出しをしてトラブルを生じるよりも害はないと判断して黙っていたのだが、最近ではボーダーの艇が入国することを公式に認めるようになっているのだ。
まだ積極的に接触することはないが、
そして安全に航行できると判断するに至るなら、今後の民間人の
「みなさん、お疲れさまでした。そしてようこそ
ツグミはまるで
彼女が
「初
唐沢には
彼がボーダーにスカウトされたのは第一次
だから
アフトクラトルによる大規模侵攻でも直接戦闘している様子は見ておらず、ハイレインたちが去った後の人命救助や被災者の支援などに力を尽くしただけであった。
そんな彼にも
「本来人間なんてものは親しい人と一緒にお腹いっぱい食べることができればそれで十分満足できる単純な生き物なんですよ。でもそれが満たされてしまうと他の欲が生まれてしまい、ろくでもないことになってしまいます。
「どうして?」
「もし
「……」
「どうすべきかなのかはまだわかりませんが、このラグナに滞在している間にこんなことを考えるようになりました。たぶんしばらく
「仮説、とは?」
「詳しいことは後でお話しします。立ち話でずいぶん時間を取ってしまいました。お疲れでしょうから夕食の時間までお部屋で休んでください。ゼノン隊長たちは前回使用したお部屋をお使いください。唐沢部長とジンさんのお部屋はわたしがご案内します。それとダフネ女王と側近のみなさんとは歓迎晩餐会の時にお会いいただきます」
「わかった」
「それでは迎賓館へまいりましょう」
ツグミはまるでラグナ側の人間のように振る舞うが、それはそれだけダフネと個人的にも親しくなり、信頼されて自由に王城やその周辺を
ツグミは唐沢を自分の使っている部屋の隣 ── 迎賓館にあるふたつの特別室は隣り合っているため ── に案内し、迅を自分の部屋へと招いた。
「悠一さん、あなたはこの部屋を使ってください。寝室はふたつありますので心配ありませんよ」
ツグミは意味深な笑みを浮かべながら言う。
「ラグナでは婚前交渉は認められていませんけどそれは表向きのことで、貴族階級はともかく庶民レベルでは普通に行われているんですって。だから同じ部屋で一緒に過ごすことは公認されています。密室の中で何があったとしても当事者以外誰にも知られることはないですからね。それに人口を増やしたくて他所から人間を買うくらいですから、どんどん子作りをしてもらった方が国家としてはありがたいはず。昔は認められなかったことでも今は本人たちの判断で、ということらしいです。むしろ婚約者同士が別々の部屋で過ごすということの方がおかしいとのことで、ダフネ…女王陛下が同じ部屋を使いなさいって指示をしたんです。女王陛下の命令ですもの従わなきゃダメですよ。…さあ、荷物を寝室へ運びましょう」
しばらく見ないうちに逞しくなったツグミに少し驚きながらもホームシックにならず元気でいてくれたことを喜ぶ迅であった。
◆◆◆
女王主催の晩餐会において迅と唐沢は正式に女王と謁見を果たした。
ダフネは事前にツグミから迅が婚約者であり、唐沢は交渉術の師匠であることを教えらえていたのでこのふたりにとても興味を抱いていて彼らを大歓迎してくれた。
そして和やかな雰囲気で会食は進み、最後にツグミが昼間に農作業を手伝ってその対価として貰ったイチゴを使ったタルトをデザートとして出した。
このタルトは彼女が千佳に頼んで三門市から運んでもらったグラニュー糖や生クリームなどを使用したもので、ラグナの無農薬栽培の新鮮なイチゴを至高の味へと変えてしまった。
生で食べても十分に美味しいものだが、それに
そしてこれには彼女の「仮説」に興味を持ってもらうためでもあり、食後の紅茶 ── ラグナではコーヒーは手に入らず、また好まれていないために紅茶を飲むのが習慣である ── を飲みながらダフネのサロンでさっそくそれが話題となったのだった。
「わたしがこのラグナにひとり残って約半月、この間にわたしは貴重な経験をいくつもさせてもらいました。特に農家の人たちに交じって農作業を行い、そこで気付いたことがあります。それはまだ科学的な根拠もなく検証もされていない状態なので仮説でしかないのですが、それでも『そんなバカげたことがあるはずがない』と一蹴してしまうこともできないものですので、ぜひとも
ツグミはそう前置きをしてから説明を始めた。
彼女の仮説とは「個人のトリオン能力にはその食生活が大きく影響を与えている」というもの。
もちろん例外もあるだろうが原則としてトリオン由来の食物を継続的に摂取することでトリオン器官はより一層成長するのではないかということなのだ。
「わたしが訪問した国を大きく分けると『積極的に戦争をしている国』と『戦争とは無縁かもしくは軍備にトリオンを多く割くことはない平和的な国』になります。前者はアフトクラトルやかつてのヒエムスやレプトなどの国で、後者はエウクラートンやメノエイデス、そしてこのラグナなどに当たります。ゼノン隊長たちから聞いた
ツグミはその「根拠」なるものを話す。
それは自分の周りにいる
以前に調べたところリスヌは33、ゼノンは24、テオは18という数値で、ボーダー隊員と比べると規格外の千佳の38はともかく、ツグミは18、二宮は14、出水は12であるから高いと言える。
そういった数値は不明だがキオンのテスタやサーヴァ、メノエイデスのウェルスたちもかなりのトリオン能力者であることはトリガー使いとしての功績から推測される。
一方、アフトクラトルは軍備に力を注いでいて「
ヒュースは
またガロプラのガトリン隊メンバーは国内でも精鋭部隊のひとつであるのだが、最強のガトリンですら長年の経験による高い戦略・戦術・戦闘力を持っていることと
またヒエムスやレプトの軍に所属するトリガー使いもボーダーの正隊員と大差ないレベルで、エクトスからトリオン能力者を買おうとするのも無理はないと思えた。
これらはツグミが接したごく一部の
「国の違いによってトリオン能力の差が生じているのだとすればどこに違いがあるのか…ということになり、『
ツグミの話を聞いていた迅たちは心当たりがあるという表情でいる。
「このラグナでは9年前の事故以前は軍備にトリオンを多く割いてきましたが、事故後は国力を高めるために農地を豊かにし、そこに住む国民の生活レベルの向上を目指し、農民にはトリオン体を使用しての作業を勧めてきたそうです。多くの農民がトリオン体に換装できるだけのトリオン能力を持って生まれていて、トリオン体での作業なら生身よりも効率良く作業ができます。そして労働人口不足を補うことができたことで収穫量は労働力の割には多いと言える状態にあります。これらの良質な作物を毎日食べていることで、ますますトリオン能力が高くなる…としたらどうでしょうか? わたしはこの仮説を検証してみたいと考えています。というのも現状では
もしこの仮説が正しいということになれば、
欲しいと思えば他国から奪うという短絡的な考え方が蔓延していた
他国の侵攻がないというのなら軍備にトリオンを多く割く必要はなく、農地を肥やすためにトリオンを注ぐことで
その身体でトリオン体に換装して作業を行うことでますます作業は楽になって収穫量は増えるという良いスパイラルが生まれ、それを続けることで少しずつだが国力は上がっていくだろう。
もちろん病気や怪我といった医療面の充実は必須でボーダーの支援は必要だが、それ以前に
ツグミが熱心に説明して相手に理解させることはその「やる気」を起こさせるためで、本当に欲しいものならば他人から奪うのではなく自力で勝ち取れと説得しているのであり、それに感化されたハイレインはアフトクラトルの進む道を大きく変更したくらいだ。
これもすべてツグミの「自分と自分の親しい人間が幸せになるため」に行っていることにすぎない。
自分が幸せになってもどこかの誰かが不幸であっては嫌だという欲深い彼女だからこそ、自分のことを後回しにしてでも
「個人のトリオン能力にはその食生活が大きく影響を与えている」などという突拍子もない考え方は
両方の世界に接し、想像力豊かな彼女だからこその「仮説」で、検証してみる価値は十分にあると唐沢は判断した。
「ツグミくん、おれもできる限り協力させてもらおう。それに必要な人材や資金のことならおれに任せてくれ」
「ありがとうございます、唐沢部長。あなたがそう言ってくれると鬼に金棒。…いえ、
「おれが
「はい。だってあなたを
そう問われて唐沢は思い返してみた。
(たしかにおれはボーダーに入ったのも城戸さんに乞われてだし、外務・営業の仕事もボーダーの活動に必要だからということでやっている。自分自身が金集めをしたいのではないし、下げたくもない頭を下げるのも全部ボーダーのためだ。おれの能力はおれ自身のためではなくおれを必要としてくれている人のためにこそ役立てることができる。前にいた組織でもそうだ。おれを評価してくれる人間がいてこそ活躍の場があったのであり、自分から積極的に何かをしようとしたことはないな。ツグミくんは面白い。おれを
ニコニコしているツグミに唐沢も笑みを返した。
「わかった。
唐沢の