ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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551話

 

 

ツグミたちが王城から迎賓館へ移動をしている途中、修はツグミに声をかけた。

 

「霧科先輩、三門市でのことを報告したいと思うんですけど、これからいいでしょうか?」

 

ダフネのサロンで長い時間歓談していたがまだ寝るには早い時間であったため、ツグミは快く応じた。

 

「いいわよ。でもふたりきりというわけにはいかないから、ジンさんも一緒に話を聞くのはどう?」

 

「もちろんかまいません。…あ、夜だし先輩の部屋に行くんですから当然ですよね。それなら千佳も一緒に来てもらいます」

 

修はそう言うとすぐ後ろをひとりで歩いていた千佳に訊く。

 

「千佳、おまえも少しだけ付き合ってくれ。これは仕事だ」

 

「うん、いいよ。わたしもツグミさんに話したいことがあるから」

 

修とツグミの会話を聞いていた千佳は事情を察して快諾した。

 

迎賓館に着くとツグミ、迅、修、千佳の4人はツグミの部屋の応接間で話をすることにした。

ツグミがお茶を淹れている間に修は自室から報告書を持って来て、用意ができるとツグミに手渡した。

 

「ぼくの局長代理として行ったことが全部書いてあります。霧科先輩の書いた報告書を見本にしています。そして先輩が用意してくれたマニュアルに則って拉致被害者市民への対応や記者会見を進めましたからトラブルもなく無事に終え、それらに関しての報告は城戸司令にも認めてらえました。なので先輩にも満足してもらえるものになっているはずです」

 

時を得顔で振る舞う修。

大きな仕事を終えて自信がついたのだろう。

報告書を受け取ったツグミはパラパラとページをめくって内容を確認すると、修に向けて満足そうな笑みを浮かべて言った。

 

「上出来だわ。自分ではできないことは任せられる人にお願いをして、自分にしかできないことは責任を持ってやり遂げている。記者会見ではメディア対策室にお願いしているのは当然だけど、キトラちゃんに教えを乞うというのはあなたが成長した証拠。彼女は礼儀正しく謙虚であれば親切に教えてくれる優秀な人材だもの、彼女を上手く()()()()ことができればとても力強い味方になる。知り合ったばかりの頃はあまり仲が良くなかったし、B級ランク戦で射手(シューター)の技術を教えてもらおうと嵐山隊に頼った時も彼女はあなたに好意的ではなかったわよね? でも彼女の態度は当然で、周りの人たちが甘すぎたという点は否めない。でもそんな彼女があなたにマスコミ対応について教えたってことはあなたの態度に謙虚さが見られたからなんでしょうね」

 

「はい。ぼくは教わるという行為について大きな誤解をしていました。いくら親切な人で快く教えてくれても彼らの時間をぼくが奪っていることになり、彼らは何の報酬も得られません。一方的にぼくだけが得をしてしまい、それではwin-winにはならないと気付いたんです。あの時のぼくはB級ランク戦で上位2位になり、遠征部隊に参加するという自分の利益しか考えていませんでした。もちろんぼくの戦力が上がればボーダーの戦力をわずかでも押し上げることになりますが、それは彼ら個人の利益とは言い難い。ならばせめてもの気持ち、つまりぼくが相手に対して敬意を示し、費やした時間を無駄になったとは思わない結果を出す。それが教えを乞うぼくの義務だと理解したんです。それを踏まえた上で木虎に頼んだら、いろいろ事情は聞かれましたが快く教えてくれました。彼女も記者会見やテレビ放映のことで忙しいのにぼくのために時間を作ってくれたんですから、そのことを考えると自然に頭を下げることができました」

 

「それを自分自身で気が付いたのは良い傾向ね。人間の成長には他人から教わるということは避けては通れない道だわ。ただし親が子に、教師が生徒に教えるのは義務だけど、それ以外では教える側にとって義務じゃない。ボーダーでも先輩が後輩に教えることも友人だからとか知り合いに紹介されたからという理由で、彼らの善意でしかないのよ」

 

「はい。ぼくは何か躓くとすぐに玉狛の人たち…特に烏丸先輩を頼ってばかりでした。それに玉狛支部という特殊な環境であったからこそ、玉狛第2がB級ランク戦であのような結果を出せたんじゃないかと思っています。玉狛第1は本部でのランク戦に参加していない分時間に余裕があり、ぼくたちの指導に時間を割くこともできました。もしぼくたちの部隊(チーム)が本部所属だったとしたら、レイジさんたちみたいに熱心に指導してくれた先輩がいたかどうかわかりません。ぼくには本部所属の知り合いはいませんでしたし、B級ランク戦を見学することすらしませんでしたからどう戦えばいいのかもわからなかったでしょう。何よりもぼくが正隊員になれたのは迅さんの口添えですから、すべてお膳立てしてもらったおかげであって自分の力だけで手に入れたのではないのだという意識がもっと必要だったと感じています。傲慢だという気持ちはなかったですが、謙虚さが足りなかったのは間違いありません」

 

修は心からそう思っているらしく、反省しているというよりは目が覚めたという雰囲気で表情は清々しい。

 

「うん、これでもうわたしがいつボーダーを辞めても総合外交政策局は安泰ってことね。これでようやく肩の荷が下りた気がするわ~」

 

ツグミの態度が本気なのか冗談なのかわからないものだから、修は焦って訊いた。

 

「先輩、すぐに辞めるなんてことじゃないですよね!?」

 

するとツグミはケラケラと笑いながら答える。

 

「当たり前じゃないの。わたしだって可能な限り続けて拉致被害者市民の救出はこの手で完了させたいと思っているくらいだもの。だけど人間の運命なんて誰にもわからない。ジンさんの未来視(サイドエフェクト)だってすべてを把握しているわけじゃないんだから、突発的な事故を防ぐことや人知の及ばないものに関してはどうすることもできないわ。だけどそれに備えて準備をしておくことはできる。…ボーダーの幹部たちのことを思い出してみてちょうだい。誰も彼もその道のプロで、その中でも腕利きのオンリーワンばかり。彼らを集めた城戸司令はすごいなって思うけど、彼を含めて誰かひとりでも欠けてしまったらどう? 想像したくないけどその可能性はゼロじゃない。鬼怒田室長が抜けたら今後の近界民(ネイバー)から手に入れたトリガーの解析やそれを利用した新しい武器(トリガー)の開発はストップしないまでも大幅に遅れる。根付室長が抜けたらマスコミ対策であそこまで上手く立ち回れる人はいない。唐沢部長がいるからボーダーは資金のことで心配することはないし、トラブルが生じても上手く処理してくれているから何事もなかったかのように進んでいる。忍田本部長だって大勢の隊員と部隊を指揮できる貴重な人材よ。今のところ彼らの代わりはどこにもいないわ。ボーダーという組織がまだ新しいことと後進を育てている途中だからね」

 

「……」

 

「総合外交政策局なんてできたばかりの部署で、近界民(ネイバー)相手の交渉がメインでしょ? これまで近界民(ネイバー)は敵だという考え方が主流だったボーダー組織の中に異端の玉狛支部という近界民(ネイバー)と上手くやっていこうという考え方を持つグループがあったからこそ生まれたのよ。それに総合外交政策局員は基本玉狛支部と元玉狛支部のメンバーと近界民(ネイバー)によって組織されている。ここに本部の城戸派や忍田派のメンバーに加わってもらおうとしても難しいでしょうね。だからわたしはわたしが抜けたことで総合外交政策局が空中分解してしまうことを恐れているの。ひとまずわたしの代わりを務めてもらえる人材を見付け、少しずつでもわたしの仕事を覚えてもらう。もしここでその人が自分には無理だと判断したなら無理に引き留めずに別の人を探すわ。やりたくないことを押し付けることはお互いにとって不幸だし、何よりもボーダーという組織の運営に関わることだもの。…オサムくんは局長代理の仕事を無難にやり遂げた。合格点に達していると思う。でもあなたの気持ちはどうなのかまでは報告書に書いてなかったわね。その部分をあなたの口から聞かせてちょうだい」

 

修はここでようやくツグミの真意に気が付いた。

 

(霧科先輩はぼくに局長代理が務まるかを試したんじゃなくて、できると確信していた上でぼくがこの仕事を続ける意思があるのかを確かめたかったんだ。ここでぼくがNOと答えたら別の方法を考えるにちがいない。だけどぼくの答えはひとつだ)

 

「ぼくは局長代理という役目を与えられて、それができるかできないかを先輩に審査されているのではないかと考えていました。でも今の話を聞いていてそれがぼくの思い違いだったことがわかったんです。ぼくはこの仕事をやっていて大変だけど誰かのために役立っているという手応えを感じました。防衛隊員の時だって三門市民のために働いていたわけですけど、何か違うという気がしていました。その理由がようやくわかったんです。ぼくの入隊動機やA級になりたいという理由が個人的なもので、自分のためにやりたいことをやっていただけ。先輩なら理由やきっかけはともかく結果さえ出せばそれで十分だと言うでしょう。たしかにそのとおりなんですけど、目的が別の形で果たされてしまったもので不完全燃焼のような気分になりました」

 

「不完全燃焼…か。あなたの言いたいことはわかるわ。目的が達成できなかったんじゃなくて、自分の手で成したかったものが思いがけない他者からの働きかけで解決しちゃったとなると手放しで喜べない気分になるもの」

 

「はい。そして千佳や麟児さんのことがあってボーダーを続けるしかないなどという後ろ向きな姿勢でいた時に総合外交政策局に誘ってもらいました。これまでのボーダーの仕事とはまったく違うものですが先輩の『近界(ネイバーフッド)からトリオンを奪い合う戦争がなくなれば三門市民が近界民(ネイバー)の脅威に怯えることなく安心して暮らすことができる』という考え方にぼくは共感できます。近界民(ネイバー)が争いを好む野蛮な人間ではなく、彼らもまた自分たちが親しい者たちと穏やかな暮らしがしたいというぼくたちと同じ人間です。それなら武力を用いず話し合いで物事を解決することができると信じて働きかけている先輩の姿を見ていてぼくも手伝いたいと心底思いました。そしてこの仕事ならゴールはとても遠いですけどその分やり応えがあるという気がするんです。先輩はいつも『困難という山が高ければ高いほど頂上まで登り切った時にそこから見える世界は広くてどこまでも続いている』と言っていますよね? ぼくもその高い山の頂からどんな景色が見えるのかを知りたくなりました」

 

「それなら一緒に登りましょう。単独(ソロ)登山は危険な目に遭った時に助けてもらえないけど、相棒(バディ)がいれば安心して登ることができる。いえ、3人4人と仲間がいればそれぞれの得意分野を生かしてもっと高い山に登ることだってできるわ。わたしが登ろうとしている山はまだ誰も登ったことのないいわゆる未踏峰で、登山道すらない険しいものだけど不安よりも山頂に立った時のことを考えるとワクワクして足が止まらないのよ。その気持ちがわかってくれるなら一緒に行きましょう」

 

「はい!」

 

修の「覚悟」を確認したツグミは彼から報告書には書いていないことについていろいろ訊ねた。

報告書は事務的なものなので経緯と結果が客観的に書かれているのでわかりやすいのだが、その時の彼の気持ちや関係者から受けた印象など主観的なものは本人の言葉で聞くしかない。

修はラグナを発って三門市に着くまでに慣れない報告書を書くことに苦労したことから始め、三門市に着くと拉致被害者市民を宿舎に案内したり城戸に報告書を提出しに行ったりしたこと、メディア対策室に記者会見の依頼をしたことなど順に話していった。

特に拉致被害者市民が三門市で帰りを待っていた家族と再会した様子を見て胸が熱くなったことを話しているうちに、修の目にはその時に光景を思い出したのか涙が浮かんでいた。

 

「ぼくは彼らの様子を見ていて自分が彼らと同じ立場になっていたかもしれないということを想像して身震いしてしまいました。ぼくが住んでいるのは蓮乃部ですから直接被害を受けることはありませんでしたし、友人も三門市にはいなかったので第一次侵攻は他人事でしかなかったんです。ですが当時は母が東三門にあったショッピングセンターへ買い物に行くことが多く、その日は休日でしたからぼくも一緒に行っていたかもしれません。もしそうだったら被害に巻き込まれていたでしょう。その日は特に買い物に行く理由がなかったのでふたりで家にいました。その家だってもし父が東三門に建てていたら、ぼくたち家族はどうなっていたかわかりません。そう考えるとぼくたち家族は運が良かっただけで、彼らは運が悪かったということ。他人事じゃなくて、自分がそこにいたかもしれないと思うと親身になってしまい、仕事の範疇を超えてしまった部分もあります。でも彼らが喜んでくれる姿を見て、ぼくが自分のためにやっているのだとしてもそれで誰かが幸せになれると思うとたまらなく満たされた気分になれました」

 

「それでいいとわたしは思う。自分のために他人を犠牲にするなんてもってのほかだけど、誰かが幸せだという気持ちになってくれたならその行動原理が利己的(エゴ)であってもかまわないというのがわたしのポリシーだもの。あなたにそれを押し付ける気はないけど、あなたが同じ気持ちでいるのならそれを否定しない。むしろ仲間ができたってことで大歓迎よ」

 

微笑むツグミに修も微笑み返した。

導いたのはツグミだが、彼女の示した道を歩むかどうかは修本人の判断に任されていた。

その上で同じ道を歩むと決めたのだから、もう修には迷いはない。

 

 

千佳も()()()()()()()総合外交政策局に入局したが、それは彼女のトリオン能力を失いたくないボーダーに残ってほしいと乞われたからで自分自身の意思ではなかった。

麟児の犯した罪の償いもあり嫌々ながらというほどではないがやりたくてやっているというものでもなかったが、修がこの仕事に対して意欲的である姿を見ていて自分も何かできることを見付けたいと思うようになっていた。

そこにツグミが修を局長代理に任命して仕事を頼むと同時に、自分にも女性にしかできない仕事を任せてくれたものだからやる気を出すことになった。

ほんの些細なことであっても相手が喜んでくれる姿を見て千佳はこれまでの自分の愚かさを改めて思い知ることになる。

 

近界民(ネイバー)の存在がまだ知られていなかった頃、わたしは周りの大人に言っても無視され続けたことで人を信用できなくなってしまった。あの頃はわたしも子供だったから大人を説得する手段は持っていなくて人間不信になってしまったけど、第一次侵攻の後にボーダーが公になってからは状況が変わった。みんながわたしを信じ始めて、青葉ちゃんの失踪もわたしが巻き込んだせいだと言われるのが怖いって怯えていて、勝手に自分で他人との壁を作って殻に閉じこもってしまっていた。それはわたし自身が他人を信用しようとする気持ちがなく、他人を疑ってばかりだったから。今にして思えば誰もわたしのせいで青葉ちゃんがさらわれたなんて言わなかった。わたしが勝手に周りの人を拒絶していただけだったんだ。兄さんがボーダーを頼ろうと言ってくれた時にそうしていたら、信じても大丈夫な人もいるって知っていたらわたしには違う道があったはず。だってわたしがそう思うようになって周りを見回すと、どの人もわたしに対して優しいし親切だったもの。撃てないわたしを責めることもなく、撃ったことで責める人もいなかった。それに撃ちたくないという気持ちを撃てないと誤魔化していた時にも叱られはしなかった。ただひとりツグミさんだけがわたしのズルい部分を指摘して厳しいことを言ってくれた。でもそれは近界(ネイバーフッド)遠征に参加したいというわたしのために根本的な解決を促すためにしてくれたこと。すごく厳しくてわたしのことを理解しようともしないこの人のことを憎んだこともあったけど、本当に嫌な人だったらわたしは今ここにいないはず。…そう、わたしはこの人の言っていることが正しいとわかっていても周りの人たちが許してくれるんだから撃てなくてもいいんだと楽な方に逃げようとしていたことを認めたから。わたし自身も自分のズルい部分が大嫌いだったから、それを克服する道を示してくれたツグミさんに感謝して信頼もしているからなんだ)

 

ここで修と同じように自分の気持ちを伝えて決意を新たにしたいと、千佳はツグミに声をかけた。

 

「ツグミさん、わたしの話も聞いてもらえますか?」

 

するとツグミは待ってましたとばかりに微笑んで答えた。

 

「もちろん。チカちゃんの目から見たオサムくんの話も聞きたいと思っていたけど、それよりもあなたの話の方が興味あるわね。ゆっくりでいいから自分の気持ちを言葉にしてみて。本心からの言葉ならそれが拙いものであってもちゃんと通じるから」

 

「はい」

 

千佳は深呼吸をひとつすると言葉を選びながら話を始めた。

 

「わたしは兄さんと青葉ちゃんを探しに近界(ネイバーフッド)へ行きたいという個人的な理由からボーダーに入隊しました。でもそれにはA級にならなければいけないということで、修くんと遊真くんと一緒に部隊(チーム)を組んで()()()()()頑張ってきたつもりです。でもわたしの他人を信じない疑い深い気持ちと甘えによって大勢の人に迷惑をかけてしまいました。誰かがわたしのことを責めるかもしれない、わたしのことをズルいというかもしれない。その()()()()という疑心暗鬼に陥ってしまったのは、わたしならそうするかもしれないからという気持ちがあったからです。でも実際にはそんなことはなく、わたしのトリオン量だって拒絶されたり否定される原因にはならず、むしろみんなは歓迎してくれました。おまけに撃てないことも許してもらえ、できることをやればいいと言って誰もわたしを責めませんでした。わたしは嬉しかったと同時に撃たなくてもいい道へと進んでしまうズルい自分が嫌になり、どうしようもない気持ちでいた時にツグミさんから指摘を受けたんです。他人を信用しないわたしが他人から信用されるはずがない。わたしは胸が痛くなりました。子供の頃に周りの大人たちに信じてもらえなかったから、わたしも誰も信用しないというのは間違い。相手のことを疑ってかかっていればわたしに言葉や態度にもそれが表れてしまいます。木崎さんたちは気付いていなかったようですけど、ツグミさんはわたしのズルい気持ちに気付いていて厳しい言葉をぶつけてきました。それもわたしを嫌ってのことじゃなくて撃てないことを心から心配をして撃てるようになるためにあえて厳しくしたのだということはちゃんと理解しています。ですが結局のところわたしはまだ人を撃つことにためらいがあって、ぜったいに撃たなければならない状態に追い込まれない限り撃とうとはしないでしょう。わたしは防衛隊員としてはそこまでの人間でしかないということです」

 

「……」

 

「そして兄さんと青葉ちゃんは無事に帰って来て、わたしはボーダーにいる理由はなくなりました。でも拉致被害者市民救出計画を進めるためにはわたしのトリオンは不可欠で、誰もはっきりは言いませんけどわたしに辞めてもらいたくはないという態度でいます。わたしがここで辞めたらそれこそ『自分の目的が果たされたから辞めてしまった勝手なヤツ』だと言われるのではないか怯え、兄さんがボーダーに入隊するからわたしも()()()()()()()()()()という言い訳をして残ることにしました。防衛隊員を続けながら遠征がある時にはそれに参加するという中途半端な状態が続きましたが、総合外交政策局の仕事を始めたことで自分のボーダーにおける存在理由について考えるようになったんです。わたしの取柄は膨大なトリオン量だけで、それを戦闘に上手く使うことはできない。でも遠征艇のエネルギーとして役に立つ。正直に言うと人間扱いされてはいないような気分でしたけど、みんなが喜ぶからいいのだとここでも言い訳して自分を誤魔化してきました。ところが今回はツグミさんのいない状態でわたしもやることが増えました。その中でわたしは帰国した女性たちにいろいろ頼まれて雑用係みたいなことをしていたんですが、それを仕事ではなく彼女たちのためにしてあげたいという気持ちでやっていました。すると彼女たちはとても喜んでくれて感謝もしてくれました。それはこちらが相手のために何かしてあげたいという気持ちで接しているからこそ、相手はわたしに対して疑ったり否定的な目で見ることはなくて素直に喜んでくれていたんだと思うんです。もしわたしが仕事だから仕方がないという態度でいたならば、彼女たちも仕事なんだから当然で感謝する必要はないと思ったんじゃないかとわたしは考えています」

 

「……」

 

「自分ならこうしてもらったら嬉しいと思う気持ちで彼女たちに接してきました。子供の時に『自分がされて嫌なことは他人にしてはいけない』と教えられたのにそれをすっかりと忘れていました。自分がされて嫌なことは相手も嫌。逆に自分がしてもらったら嬉しいことは相手も嬉しいと思ってくれるだろうという気持ちで接したことは正解でした。そしてその中でわたしがこれからどうすべきか考え、このまま総合外交政策局で働くことに()()()決めました。わたしが長い間近界(ネイバーフッド)で苦労をしてきた拉致被害者の立場だったらと想像することで何をしてあげたらいいのかわかるんです。ずっと家族と離れて辛い経験をしてきた人たちだからこそ、わたしたちは彼らをきちんと受け止めてあげなければいけない。人それぞれに事情があって人の数だけ考えて対応しなければならない難しい仕事ですが、だからこそわたしはやりたいと思ったんです。わたしも修くんたちと一緒に総合外交政策局を続けます!」

 

最後にはっきりとした口調で宣言した千佳。

その目に迷いはなく、その姿を見ていた修は嬉しそうに笑みを浮かべた。

 

「うん、もうこれまでの迷いは吹っ切れたようね。これならもうわたしが指導しなくても自分のやるべきことを自分で考えて行動できるはず。わたしは局長として指示はするけど、もう指導はしないわ。チカちゃん、それにオサムくんもいいわね?」

 

「「はい!」」

 

ふたりの力強い返事に満足し、ツグミは自分の思い描く未来の絵図にふたりの「役割」を付け加えた。

 

 

 

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