ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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【ご注意】

原作ですと上位グループに「弓場隊」がいるはずなのですが、オリ主の部隊が上位グループに進んだことになっているために、弓場隊(と弓場隊ファン)には申し訳ないのですが中位グループに入ってもらうことにしました。






B級ランク戦・Round4
58話


 

 

B級ランク戦は2月~4月、6月~8月、10月~12月の年3回行われる。

そして各シーズン、毎週水曜と土曜に昼の部と夜の部に分かれて開催されるが、スケジュール調整のため水曜は3試合ごとに休みになる。

よってRound3とRound4の間は1週間あり、その間に作戦を練ったり訓練に励んだりする時間が持てることになるのだ。

ツグミも御多分に漏れず、玉狛支部の自室で頭を悩ませていた。

なにしろRound3では9得点で5位へと急上昇。

いきなり上位グループ入りしてしまったからだ。

上位グループには元A級の二宮隊と影浦隊がいるし、東隊を含めた他の部隊(チーム)も強敵ばかり。

生半可な戦術では勝ち残ることなど不可能だ。

おまけに玉狛第2が6位におり、近々当たることが予想される。

 

「次の対戦相手は…3位生駒隊と4位王子隊か。ステージの選択権があるといっても厳しいな…」

 

柄にもなくぼやくツグミ。

生駒隊隊長の生駒達人(いこまたつひと)は旋空の起動時間を0.2秒に短縮することで全攻撃手(アタッカー)中最長となる40メートルにまで伸ばす通称「生駒旋空」で彼を攻撃手(アタッカー)ランク6位たらしめている。

近・中距離においての戦闘能力は段違いで「ボーダー随一の旋空弧月の使い手」の称に違わぬ高い戦闘能力を持つ。

王子隊隊長の王子一彰(おうじかずあき)はツグミと同じように敵の思考と戦況の流れを読み切る能力に優れ、時にハイリスク・ハイリターンな策をとることも厭わない策士である。

機動力をひとつの売りにする王子隊の中でエースを張るだけあって機動力も高く、素早さを利用した鮮やかな立ち回りや奇襲攻撃をみせる。

似ている部分が多いからこそ相手の思考を読みやすいが、逆に読まれやすいということにもなるのだ。

そのふたりが率いる2部隊(チーム)を相手にひとりで挑むのだから弱気になるのも無理はない。

それにこれまでの3戦はすべてツグミが他の部隊(チーム)の意表を突いた戦術で勝ち抜いてきた。

だから今度の戦いでは真っ先に狙われるだろう。

いくらツグミがA級レベルの戦力があるといっても、ひとりで戦うには限界がある。

特にB級上位ともなれば、エースはA級レベルの実力があるから、一対一でも簡単には勝たせてもらえるはずがないのだ。

場合によっては利害が一致した2部隊(チーム)が彼女を同時に狙うということもありえる。

 

(生駒隊は攻撃手(アタッカー)攻撃手(アタッカー)射手(シューター)狙撃手(スナイパー)の4人、王子隊は攻撃手(アタッカー)攻撃手(アタッカー)射手(シューター)の3人。特に王子隊が厄介なのよね。射手(シューター)だけでなく全員が追尾弾(ハウンド)を持っている。囲まれたら最後、逃げ道はなくなってしまう。だから王子隊は合流する前に各個撃破をするのがいいんだけど、そうなると生駒隊に追われて板挟み状態になりかねない。…う~ん、こうなるとやっぱり地形を利用して立ち回らないと絶対に無理だわ)

 

ツグミはありとあらゆるステージを調べ上げ、その中でいくつか使えそうなものを選んだ。

そしてそれに合わせた天候や時間などを組み合わせる。

そのパターンは数十にもなり、さすがのツグミでも頭がパンクしてしまった。

 

「あー、もうやめやめ。思いっきり身体を動かして気分転換でもしようっと」

 

ツグミが大きく背伸びをしたところで携帯電話に着信があった。

その発信者が意外な人物であったので、彼女は一瞬戸惑ってしまう。

 

「はい…霧科です」

 

「今、いいか?」

 

「はい、大丈夫です。でも二宮さんからお電話をいただくなんて、何かご用ですか?」

 

「おまえの後輩…三雲修と雨取千佳に用がある。今日は玉狛にいるのか?」

 

「いいえ。三雲は空閑と一緒に本部基地へ行っています。夕食の時間までには戻ると思いますけど定かではありません。雨取は夕方に玉狛支部へ来ることになっていますから、もうそろそろ来るのではないかと」

 

「そうか。…それなら今からそちらへ行く」

 

「ええっ!? …あ、失礼しました。二宮さんがわざわざこちらへいらっしゃるよりも、ふたりに連絡をして本部基地でお会いした方が ──」

 

「いや、俺がそっちへ出向く方がいい。他人には知られては都合が悪いことだからな」

 

「わかりました。お待ちしております」

 

 

 

 

二宮からの電話から30分ほど経って、本人が玉狛支部へとやって来た。

 

「いらっしゃい、二宮さん。こちらへどうぞ」

 

ツグミは二宮を応接室へと案内し、紅茶と焼菓子を出す。

 

「突然のことですのでたいしたおもてなしはできませんが、この紅茶はきっと気に入っていただけると思いますよ。スコーンはわたしの手作りです」

 

「…いただこう」

 

そう言って二宮は紅茶をひと口飲んだ。

二宮は何も言わないが、その満足気な様子にツグミは安堵する。

 

「ご用の件ですが、雨取は別室で待機しておりますけど、三雲はもう少し時間がかかるようです。先に雨取だけでも呼びますか?」

 

「いや、ふたり揃ってからでいい。それまでおまえが俺の相手をしろ」

 

「…はい、わかりました」

 

二宮の向かい側のソファに腰掛けるツグミ。

そして二宮が口を開くのを待った。

 

「こうしてふたりでゆっくり話をするのは久しぶりだな」

 

「ええ。わたしが玉狛支部に転属して以来ですから2年ぶりです。本部基地で会えば挨拶や軽く立ち話くらいはしましたが、こうしてふたりきりで話す機会はこれまで一度もなかったですからね」

 

ツグミがそう答えると、なぜか二宮は目を細めてフッと微笑んだ。

 

「どうかしましたか?」

 

二宮らしくない様子にツグミが訊く。

 

「いや、昔のことを思い出したんだ。おまえは東さんには従順だったが、俺と秀次に対しては可愛げがなく小生意気だった。だが今はこうしてきちんと応対ができるようになったのだから、ずいぶんと成長したのだな…と」

 

「あら、それは違います。あの頃からわたしは年齢や経歴(キャリア)などにかかわらず、尊敬できる相手であればそれに応じた接し方をしていました。東さんは隊長で狙撃と戦術の師匠ですし、人間的にも尊敬に値する人ですから。でもチームメイトの中には自分が年長だというだけで態度のでかい後輩たちがいて、彼らのことは嫌いでした」

 

ツグミはわざとらしい作り笑顔で答えた。

 

「後輩、ね…。たしかに間違ってはいない。おまえは旧ボーダー時代からの隊員であり、東さんに師事したのも俺たちより先だったのだからな。しかし生意気な態度が見られないということは、俺を尊敬に値する人間だと認めたということだな?」

 

「もちろんです。射手(シューター)ランク1位にして個人(ソロ)総合ランク2位、B級1位二宮隊の隊長ともなれば礼を失することはできません。それに昔と比べたら別人かと思われるほど人徳とか品格が身に付いてきましたから。きっと東さんから薫陶を受けたおかげですね」

 

元チームメイトということもあり平気で皮肉を言うツグミに二宮は苦笑するしかない。

 

「フッ…そこは変わっていないか」

 

「何かおっしゃいましたか?」

 

「いや、何でもない。…ところで、おまえは例の件について後輩たちから何か聞いているのか?」

 

例の件というのは二宮隊の鳩原未来(はとはらみらい)が民間人にトリガーを横流して失踪した事件のことである。

ツグミは彼女と親しくしていたということで、事件発生当時には上層部からあらぬ疑いをかけられた。

もちろんこの事件とは一切関わりはなかったので、ツグミの事情聴取は形だけのもので終わったのだったが。

そして事件に関係した民間人のうちのひとりが千佳の兄であった。

 

「鳩原さんのことですよね? わたしは何も聞いていません。ただ、三雲たちが部隊(チーム)を結成したのは近界(ネイバーフッド)遠征に参加し、雨取の兄と友人を探して連れ戻すためだということは知っています。それにしても、二宮さんはまだあの事件のことを調べていらっしゃったんですか?」

 

「…ああ」

 

「お気持ちはわかりますが、今さら事件の背後関係を調べたところで ──」

 

「わかっている。しかしあの馬鹿がひとりでこんな大層なことをしでかすとは思えん。あいつを唆した奴がいるのは間違いない」

 

「それが雨取の兄だとおっしゃるんですか?」

 

「だからそれを確認しに来た。ほんの僅かな手がかりでもいい、俺は真実を知りたい。それだけだ」

 

「……」

 

部下の重要規律違反によってA級だった二宮隊は連帯責任としてB級に降格となった。

二宮が鳩原に裏切られたという気持ちがあるのは間違いないだろうが、憎んだり恨んだりしているとは思えない。

ただ気持ちの整理をつけるために真実を探しているのだろうと察して、ツグミは何も言えなくなった。

そしてそんなしんみりした雰囲気を変えようとしてなのか、二宮が話題を変えた。

 

「それにしてもおまえがランク戦に参加するとはな。俺が部隊(チーム)に誘っても断ったくせに、どういう心境の変化だ?」

 

「大規模侵攻の後、上層部(おとなたち)が少しうるさかったものですから。わたしとしてはA級とかB級など関係なく、ただ市民の生命と平和な日常を守ることができればそれで十分なんですけど、彼らには大人の事情があるらしいんです。そんなことで仕方なくA級を目指すことになりました。近いうちに二宮隊とも当たることになるでしょうが、その時はどうぞよろしくお願いします」

 

「まあ今のところは全戦全勝だが、次はそうもいくまい。前回の戦いでおまえのサイドエフェクト…トリオン体を検索(サーチ)できる能力はバレてしまったからな。しかしあれだけ派手に使えばバレるのはわかっていたはずだ」

 

「ええ、そうですね。ですがあれはあえて派手にお披露目したんですよ」

 

「どうしてだ?」

 

「だってあの力のことは二宮さんのように知っている人は知っていますし、いずれは皆に知られることです。だったらわたしにはバッグワームやカメレオンが意味ないとのだ周知させれば、これから対戦する部隊(チーム)は対策により一層悩むようになるでしょう。これでますます面白いことになりますよ」

 

「…ったく、おまえらしいな。余裕があるのはいいが、その余裕がアダとならなければ良いのだが。次は生駒隊と王子隊だったか? 奴らは一筋縄ではいかない部隊(チーム)だぞ」

 

「はい、重々承知しています。ですからステージの選択権を有効利用して戦うつもりです」

 

「おまえの地形戦の妙は東さん直伝だからな。戦況を即座に判断して行動できる上に、どんな状況にも対応できる腕を持っている。俺はそんなおまえとの対戦を楽しみにしているのだ、だから次も必ず勝て」

 

「う~ん…勝つつもりで戦いますが、こればかりは自信もって『はい』とは言えません。でも、わたしも二宮さんと戦えるのを楽しみにしています。無様な負け方をしてあなたに失望されないよう、できるだけのことはしたいと思っています」

 

「いい心がけだ。だが次の戦いではおまえの後輩たちを徹底的に叩きのめすからな」

 

「はい、容赦なくガンガンやっちゃってください」

 

「いいのか?」

 

意外だという顔で二宮はツグミを見る。

 

「はい。彼らは怒涛の勢いで上位グループの仲間入りをしましたが、わたしは時期尚早だと思うんです。今はB級とはいえ元A級部隊(チーム)の強さは戦ってこそわかるというもの。その立ちふさがる壁の高さを知ってもらうには絶好の戦いになるでしょう。彼らにはまだ欠けた部分がたくさんありますから、大負けして一度立ち止まった方が良いという意味です」

 

「なるほど。つまりおまえは三雲たちにはA級になれる素質があると考えているのだな?」

 

「ええ、もちろんです。例のことがありますから遠征部隊を目指す彼らに直接指導することはできませんが、玉狛支部の先輩としてやれることはやっています。どこかの誰かさんと違って素直で謙虚なとても可愛い後輩たちですから、つい応援したくなるんです」

 

ツグミがそう答えた時、携帯電話にメールの着信があった。

発信者は修で、本部を出たというものであった。

 

「三雲が本部を出たそうですので、もう少しだけお待ちください。…よろしければ、紅茶のおかわりはいかがですか?」

 

「ああ、頼む。それから、菓子もいただこうか」

 

そう言って二宮はスコーンに手を伸ばした。

 

 

 

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