ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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584話

 

 

敵諜報員ひとりを確保したツグミと迅は王都方面へ馬車の向きを変えて走り出した。

荷台には唐辛子スプレーを顔面に浴びて悶絶している老人 ── たぶん変装トリガーで姿を変えている ── をロープでぐるぐる巻きにして荷物のように積んでいる。

 

「それにしてもこの催涙スプレーがこんなに効果があるなんて驚きです。さすがは鬼怒田室長ですね」

 

ツグミは使用したばかりの催涙スプレーの缶をいじりながら迅に話しかける。

 

「ああ。これなら生身の状態でも使えるから便利だ。さっきのようにこっちが生身だとわかると向こうは油断をする。自分がトリオン体でいればなおさらだ。まさかトリオン体への攻撃があるとは想像もしていないし、攻撃を受けてもかわすだけの技量は持っているだろうからな。それが油断を生むんだ。しかし鬼怒田さんの技術はすごいが、案を出したのはおまえじゃないか。おまえのアイデアにはあの人も感服していたっけな」

 

ツグミが使用した催涙スプレーを提案したのはツグミであった。

トリオンによって既存の物質を複製できるということを知り、ならばそれを利用して武器や護身用の道具が作れないかと考えた彼女は開発室に提案していた。

そのうちのひとつが唐辛子のカプサイシン成分をトリオンで再現した催涙スプレーで、トリオンでできているものだからトリオン体へのダメージを与えることができるというものだ。

ただし効果は数分で、しかも至近距離から直撃させないと効果がないため使いどころが難しい。

今回のように相手がすぐ後ろにいて油断していたことから上手くいったが、射程は最大で約120センチメートルといったところだから、ここは改良の余地がある。

他に拳銃(ハンドガン)型簡易トリオン銃もある。

以前アフトクラトル遠征の際に非戦闘員用に作ったものはベースがライトニングなので携帯には不向きということになり、拳銃(ハンドガン)型のものを作った。

弾は6発だが、三輪の使用するタイプと同じで弾倉を交換することができる。

これなら生身でもトリオンによる攻撃ができ、ボーダー仕様なので生身の身体に弾が当たっても気絶するだけで済む。

こちらは警察での使用を考慮していて、いずれは三門市の「トリオン特区」内での試用で効果があると判断されたら全国に広まることだろうという話だ。

原則として警察官が銃を撃つ場合は対象者を無効化させたいためであるから、この拳銃(ハンドガン)型簡易トリオン銃を使えば誤って死なせてしまう事故は起きず非常に便利である。

トリオン能力が低く換装できなくても使用できるという点が優れているだけでなく、ボーダーのトリガーの8枠とは別に携帯できるという点も評価されていた。

トリオン体に換装した状態で後から持つことができるため、狙撃手(スナイパー)の護身用武器として役立つだろう。

ただしランク戦では換装後の携帯は不可なので、実戦のみの使用となるのだが。

 

道具(トリガー)とは人間が生活していく上で『あったら便利』と思うことから生まれるものです。ボーダーでのトリガーは基本的に武器オンリーですけど、非常に幅広い分野での利用が可能となる万能の道具なんですよ。ちょっと考えればいくらでもアイデアは浮かんできますよ。たとえば…」

 

ツグミはそう言ってどんな道具(トリガー)があったら便利で、それを利用して日常生活がもっと豊かになればいいと嬉々として語った。

そのうちに敵諜報員のいた大樹の前に到着し、荷台に積んであった男をロープで木の枝に吊るした。

それはまるでミノムシのようで、見た目が老人だからとても惨い姿に見える。

 

「こうしておけば仲間が探すはず。そのうちに向こうから近付いて来てくれますよ。大勢のリコフォスの人たちを犠牲にした張本人ですから、それ相応のケジメはつけてもらわなきゃ」

 

ツグミはそう言うが迅は納得いかないという顔だ。

 

「だが、明らかに罠だと思われるこんな場所に敵が現れると思うのか?」

 

「来ないかもしれませんね。ゼノン隊長の話だと仲間が別行動をしている時には一定の時間で連絡を取り合うそうなんですが、たぶんあの人からの定時連絡がなければ何かあったと判断して仲間が探しに来るはずです。ただ仲間同士の連帯感は非常に強いものがあっても祖国や任務を優先するとなれば見捨てるしかないと考えることもあるでしょう。そうなったら任務失敗ということで報告のために帰国しなければならないんですが、(ゲート)は強制封鎖して逃げられませんし、ゼノン隊長たちが艇を押さえてしまえばゲームオーバー。そうなったら彼らにはふたつの道しかありません。投降もしくは自ら命を絶って祖国の秘密を守るかのどちらかです。でもすでにひとりが捕まっているわけですから、自分は捕まりたくないから自死して楽になるという道は選びづらい。これはゼノン隊長が言っていました。祖国に戻って働くことができるなら仲間を見捨てることはあっても、そうでなければ一蓮托生ということで投降してくるということです。ただ投降しても祖国の情報は絶対に吐かないということですから、あとはゼノン隊長たちの腕次第です。とにかくわたしたちの役目は囮で、ここにいれば仲間の救出とわたしたちの捕獲に自信があるならやって来るでしょうし、そうでなければ姿を見せないこともあります」

 

「それじゃあ待ちぼうけになる可能性もあるわけだ」

 

「ええ。でも夕食の時間まで他にやることはありませんから、ここでのんびりとしていましょう。そのうちにゼノン隊からの連絡…艇を見付けたという良い報告が来るでしょうから、それまでお話しでもしていましょうか」

 

「ああ。ゼノンたちなら完璧に役目を果たしてくれる。それを信じて待っていればいいというだけか。俺たちはあの捕虜を逃がさないようにしているだけで任務遂行済なわけだもんな」

 

「そうです。おやつも持って来ていますので、それでも食べて待っていましょう」

 

馬車の荷台に積んであるピクニックバスケットにはぼ〇ち揚げの袋が2袋入っていた。

当然こういうケース ── のんびりと敵を待つ ── を計算して持って来ていたのだ。

ツグミと迅は荷台に場所を変え、ツグミはぼ〇ち揚げの袋を取り出すとひとつを迅に手渡した。

 

「青空の下で食べるぼ〇ち揚げも()()()()ですね」

 

「そうだな。いつ食べても美味いが、こうしてふたりでぼんやりとしながら食べるのもまたいい。ひと味違う気がする」

 

任務の最中だというのに暢気なものだが、それはふたりがボーダーの防衛隊員としてどんな状況に陥っても対応できるという自信があるからだ。

敵がどんな人物であるか、またどのような方法で接近してくるのかわからない状態だが、これまでの()()()()が精神をも強くしていている。

だからこれが修と千佳のペアだったとしたら敵をひとり捕まえられたかどうかわからないし、仮に当初の目的を果たすことができたならそれで十分だと考えてゼノンに結果を報告して指示を仰ぐだけだろう。

別にそれはかまわない。

自分の役目をしっかりと果たせばそれで十分なのだから。

ただツグミはその性格上「自分にできることは全部やりたい」人間であるため、「上手くいけばもうひとり捕まえられるかも?」と考えてしまうのだ。

迅もそんなツグミの性格を承知しているから付き合っているのだが、当然勝算のないことは止めようとする。

つまり迅としては「ツグミのやろうとしていることを止める理由はない」ため、しばしピクニック気分を楽しもうということにしたのだった。

 

 

 

 

それから1時間もしないうちに標的(ターゲット)に動きがあった。

見かけはリコフォスの一般市民といった感じだが、20歳前後に見えるその青年もトリオン体である。

リコフォスの民間人でもトリオン体に換装できる人間は王都の内外問わず外出の際にはトリオン体で行動するよう指示されているし、王都の外で暮らしている人間もいるのだからタダの民間人だと見過ごしてしまうのが普通だ。

しかしツグミと迅にはその人物の違和感に気付いた。

 

「来たな…」

 

「ええ。普通に民間人を装っていますけど、明らかに()()ですよね」

 

「そうだな。偶然通りかかった民間人を装っているがこれが罠だとわかっているからこそ慎重になっていて、逆にそれがぎこちなく見える。俺たちがわざと目立つ場所に馬車を停めていることもヤツにとっては罠に見えるだろう」

 

「実際に罠ですからね。しばらく様子を見ましょう」

 

ツグミと迅は敵諜報員を吊るした木から30メートルほど離れた場所に馬車を停めて身を伏せながら様子を窺っていた。

だから仲間の青年は罠だと理解して不自然な動きになってしまったのだった。

普通なら木の枝から人間が吊るされていたら何事かと慌てて駆け寄るというのに、青年には罠だとわかっているから冷静に歩いて行く。

だからそれが彼が標的(ターゲット)だという確信をツグミと迅に与えてしまったのだ。

 

青年は吊るされた男を救出しようと手をかけた瞬間、ツグミはそっと身体を起こして握っていた拳銃(ハンドガン)型簡易トリオン銃の銃口を青年に向けて撃った。

その弾丸は青年の右肩を正確に打ち抜き、そのショックでバランスを崩した彼は続いて腹部と左脚大腿部をそれぞれ撃ち抜かれてそれぞれの傷口からトリオンを噴き出した。

ツグミには彼がトリオン体か生身なのかは一目瞭然で、生身なら右肩を撃ち抜いた瞬間にそのショックで気を失っただろうがトリオン体だとわかっていたためにトリオン漏出過多で換装が解けてしまうよう数発撃ったのだった。

そして仲間を助けることもできず、換装の解けてしまった青年はその場に座り込んでしまった。

最後にトドメとしてもう1発彼の背中を撃ち、気絶させて完全に動きを封じてしまう。

罠だとわかっていながらも目の前に仲間が吊るされているのを見てしまえば助けなければと思うのは無理もない。

それに事情を聞かなければ何が起きているのかもわからないのだからどう対処すべきかもわからないままとなる。

そんな心理的な部分を利用した単純な罠で、敵はそれにまんまと罹ってしまったというわけだ。

 

「よし! これでふたりとも無力化成功ね。若い方もロープで縛っておきましょう。…あ、ちょっと待ってください。たぶんゼノン隊長からです」

 

ツグミはそう言ってポケットから小型無線機を取り出した。

 

「はい、ツグミです。……………お疲れさまです。こちらもひとり確保しましたが、それを餌にしたらもうひとり釣れたようです。今、ふたり目を確保しようと思い…………わかりました。では艇でお待ちしています」

 

ツグミはゼノンと短い会話をし、用件を迅に伝えた。

 

「ゼノン隊長たちも標的(ターゲット)の艇を発見して鹵獲したそうです。中には敵諜報員がひとりいて、その人も捕虜にしたそうです。ひとまず今日の作戦はこれで終了ということなので、わたしたちはあのふたりをボーダーの遠征艇に連行するようにと指示を受けました」

 

「何で俺たちの艇なんだ?」

 

「リコフォス側に引き渡したらボーダーと彼らの間での取引ができなくなってしまうからでしょう。それにリコフォスの兵士の立場になれば同胞を大勢殺した憎むべき仇となるわけで、必要な情報を得る前に殺してしまうかもしれないからだと思います。今回の場合は特に戦争ではなくテロですから無関係な人間を無差別大量殺人したことになり、兵士の中には家族や友人を殺された人もいるでしょう。情報収集よりも恨みを晴らすための拷問を行うかもしれないとゼノン隊長は判断したようです」

 

「なるほど…。俺たちの艇なら奴らの命の安全を保障できるということか」

 

「そういうことです。じゃあ、仕事をしてしまいましょう」

 

ツグミと迅はロープを携えて標的(ターゲット)に近付き、青年の方もぐるぐる巻きにしてからふたりとも荷台に()()()王都目指して馬車を走らせた。

 

 

 

 

ボーダーの遠征艇では千佳と麟児がトリオン補給の作業を行っていた。

そこにツグミたちが見知らぬ近界民(ネイバー)ふたり()()()()()のだから、事情を知らないふたりは驚いてしまう。

さらにゼノンたちもひとり連行して来て、正体不明の3人の近界民(ネイバー)は倉庫に放り込まれた。

もちろん自死しないよう所持品をすべて没収し、手足を縛って身動きできないようにしてある。

ここから先はゼノン隊に任せることになっているのだが、ツグミは何か手伝いたいと言い出して捕虜3人の食事を作ることを志願した。

それについてゼノンは反対できなかった。

なにしろミリアムの(ブラック)トリガー強奪のためにツグミを拉致した事件では、その被害者であるツグミ自身が捕虜となったゼノンたちに食事を作ってやったという事実がある。

そのおかげでゼノンたちは自身の行為について悔い、祖国に対する忠誠心は失わないがツグミたちボーダーの人間に心を開くようになっていた。

本当ならツグミを危険に晒したくないのだが、彼女の手料理の()()は実証済みなので捕虜に食事を作ってやることに反対はできず、条件付きで許可をした。

その条件とは男性ふたり以上が護衛として付き添い、料理を捕虜に渡す際にはツグミ本人でなく護衛の男性が行うというもの。

ツグミもあまりワガママは言えない立場なのでそれで了解した。

 

 

ツグミたは夕食時に全員が迎賓館の食堂に集まって、食事をしながらその日の報告をすることになっていた。

修は玉狛第1のメンバーと一緒にリコフォスにいる拉致被害者市民36人の現状把握と本人の希望を調査している。

この日はトリガー使いとして軍に所属している26人を軍総司令部の会議室に集めてひとりひとり面会して話を聞いた。

彼らは全員が独身であるため帰国を希望している。

明日は花嫁として買われた10人の女性に対し戸別訪問を行って調査をするそうだ。

ちなみに36人の拉致被害者市民の中で4人が家族の誰かが第一次近界民(ネイバー)侵攻の際に亡くなっている。

その事実を伝えるのは胸が苦しくなるもので、それはツグミが総合外交政策局長として自分が伝えるべきであると決めていたが、そんな彼女の姿勢を見ていた修は自分がやると言い出してツグミは任せることにした。

修もすすんでやりたい仕事ではないはずなのだが、ツグミが自分に期待していることを感じているためやると決心したのだった。

つまり修は大学進学後もボーダーを続けるつもりでいて、ツグミがボーダーを辞めることになっても彼女がボーダーに心残りがないように自らを鍛えようということらしい。

ツグミは修が真の意味で成長し強くなったことを心から喜び、少しずつではあるが局長としての仕事を任せることにした。

拉致被害者市民との面会という仕事も彼女の満足いくものとなっていて、今後も修に任せても大丈夫だという確信を得ていた。

そしてツグミと迅とゼノン隊の5人は明日から捕虜の取り調べとその経過をリコフォス政府に報告することが主な仕事となる。

ここで敵の正体を明らかにすることでリコフォス側に恩を売り、拉致被害者市民の帰国交渉を有利に運ぶことが目的であるからなるべく早く進めなければならず、ツグミにとって最優先事項となっていた。

麻疹(はしか)を広めた犯人を捕まえるなどボーダーの仕事ではないので無駄なことをしているように見えて、実際はそれが最短で交渉を終わらせる手段であることは誰もが理解しているので異論は上がらなかった。

 

 

◆◆◆

 

 

早めに夕食を切り上げたツグミはボーダーの遠征艇の厨房でレトルトのホワイトソースと冷凍のシーフードミックスを利用したシーフードドリアを作り、迅とテオの護衛で倉庫にいる3人の捕虜に運んで行った。

 

「みなさん、夕食を持って来ました」

 

ツグミがにこやかに声をかけるが、捕虜たちはムスッとした顔で無言のままだ。

もっとも3人のうちふたりはツグミにしてやられたのだから彼女の顔を見るのは癪に障るのだから仕方がない。

それでもツグミはそんなことを気にせず接する。

 

「毒なんて入っていませんから遠慮なく食べてください。簡単な料理ですがみなさんの食べている長期保存のための戦闘糧食よりもずっと美味しいはずですよ」

 

ツグミがそう言うと、テオがそのとおりだと言わんばかりに頷いて言った。

 

「そうだぜ。ツグミの飯は絶品だぞ。玄界(ミデン)の人間はオレたち近界民(ネイバー)と違って捕虜に対して暴力は振るわないだけでなく、食事もちゃんと与えてくれる。敵であっても人間として扱ってくれるんだ。ま、今夜はそれを食べてこれからどうするか3人で相談するといい。おまえたちにとって悪いようにはしないから安心しろ」

 

すると3人の捕虜のうちリーダー格と思われる30代半ばの男性 ── はじめにツグミに催涙スプレーをかけられた老人姿の男 ── が口を開いた。

 

「おまえもこの娘の料理で絆されたクチか?」

 

「まあな。それくらい美味い料理なんだからつべこべ言わずに食ってみろよ。話はそれからだ」

 

「俺たちはおまえたちのようにそう易々と口を割ることはないぞ」

 

「オレたちだって祖国の情報を漏らすようなことはしなかったさ。でもツグミが信頼できる人間だってわかったからキオン本国へ連れて行った。こいつ、キオンの諜報員であるオレたちに誘拐されたってのにその件で恨み言は言わず許してくれて、オレたちの任務の失敗について助命嘆願するんだってことでスカルキ総統に会いたいって言うもんだからさ。そのまま捕虜になって玄界(ミデン)に帰れなくなるかもしれないっていうのにな。信じられないだろうけどこう見えて度胸もあるんだぜ、ツグミは」

 

テオがキオンの諜報員であることよりもツグミが自分を拉致した犯人のために敵地に乗り込んで行ったことに驚いていた。

キオンと玄界(ミデン)が同盟を結んだことは情報として知っていたが、その裏事情など知る由もないのだから当然だ。

 

「とにかく飯は食え。食べて損をしたってことは絶対ないってオレが保証する。別に食ったんだから情報を吐けとも言わない。すべてはおまえたちの心次第だ。じゃ、食い終わった頃に片付けに来るからな。…さ、行こうぜ、ツグミ、ジン」

 

ツグミと迅はテオに背中を押されて倉庫から出た。

 

 

 

 

がらんとした倉庫の中に置かれた簡易テーブルの上には熱々のシーフードドリアが3皿置かれた状態で、捕虜の3人は顔を見合わせていた。

これまで諜報員として活躍してきた彼らにとって敵の手に落ちるという経験は初めてで、捕虜として自分たちの進退について考えたことはなかった。

おまけに捕まった時には扱いが雑だったというのに、遠征艇の倉庫に放り込まれてからは自死されないよう拘束はされているもののペットボトル入りの飲料水が置いてあって自由に飲めるようになっているし、堅い床の上では疲れるだろうとベッド用のマットレスも3人分運んで来てくれていた。

それに熱々の料理 ── 通常捕虜の食事は固いパンと水だけ ── まで用意をしてくれたのだから、捕虜としては破格の扱いである。

テオの言葉を素直に受け止めて良いものか、すべて自分たちを篭絡するための罠なのかわからず戸惑っているのだ。

 

「とりあえず飯は食おう。ここから逃げ出す機会があってもその時に腹が減っていては何もできん」

 

隊長のヴィートが言うと、ツグミに拳銃(ハンドガン)型簡易トリオン銃で撃たれた青年サシャと遠征艇でゼノンたちに確保された少年シモンのふたりは黙って頷き、それぞれがシーフードドリアに口をつけた。

 

「「「美味い!」」」

 

長い間質素な食事しかしていなかった3人にとって温かい手作り料理は故郷を思い出させた。

海のない国だからアサリやエビなどを食べたことはないはずなのだが、3人ともなぜか「懐かしい」という気持ちが沸き上がっていた。

そして同時に同じ気持ちになったものだから自然と笑ってしまったのだった。

 

「あの少年兵が言っていたように美味い料理だ。これが明日も食べられるというのなら、生きるために努力する価値はありそうだな」

 

ヴィートがそう呟くとサシャとシモンも同感とばかりに頷いた。

 

 

 

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