ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
それが
そんな世界に住まう
しかし
だからこの空間において戦闘行為は行われないため
もっともトリガー使いとトリオン兵で戦う
したがってこの「空間」を有効活用することができれば
自分の居室でぼんやりとしていたツグミはふとそんなことを思い出し、話し相手として
〔ツグミ、何か用なのか?〕
「特に用事というわけではないんだけど、ちょっと考えていたことを整理したいと思って。この時間だとみんな休んでいる頃だからあなたを話し相手にどうかなって」
〔なるほど。それでどんな内容なのだ?〕
「それは…」
ツグミは
〔ふむ…たしかに戦争の絶えない
ジュニアがそう言うと、ツグミは身を乗り出した。
「あなたもそう思うのね? これまでは直接相手の国まで赴かないと話が進まないからとても時間がかかってしまっていた。でもそれがリアルタイムとまではいかなくても時間を短縮できるようにすればわたしたちの仕事も捗るし、もちろん国同士の交流にも役立つのは間違いないわ。
〔壮大な計画だな。ツグミは誰も考えないようなことを思いつくだけでなく、夢を夢で終わらせることはなくそれを叶えようと行動する〕
「当たり前じゃない。夢とか願いというものは叶わないものではなく、叶えようとすれば実現するものだもの。でも待っているだけじゃいつまで経っても叶わない。それに叶えようと努力するのは大変なことであっても楽しいから頑張れるのよ。今だってボーダーを
〔…私が作られた時にトリュスは『ツグミには幸せに生きてほしい』という願いを込めてプログラミングをした。それが私の存在理由になっている。私は単なるAIだから人格や自我など持ち合わせていない。だから私自身がツグミの幸せを祈っているのかどうかわからないが、トリュスの願いが私の願いだというのなら私はツグミの人生を最後まで見守ってやるべきなのだ。その中で彼女が歩む人生をより良きものにするために私は作られたに違いないのだから〕
トリュスがどのような未来を夢見ているのかはわからないが、ツグミがオリバの娘だと知ると自ら国王に申し出て門外不出の自律トリオン兵を与えたのだから、それが単にオリバがトロポイの利益に貢献したお礼だというだけではないはずだ。
そんなジュニアにトリュスは自分の知るオリバのデータを入力し、それにレプリカのメモリに記録されていたオリバに関するデータを移植。
そして彼女は自分の「願い」をジュニアに込めて、ツグミに与えたという経緯がある。
トリュスはオリバに好意を抱いていたことなど本人以外誰も知らず、彼女がツグミのことを自分の娘に思えて母親のように見守りたいという願いがジュニア製作へと駆り立てたのだった。
だからツグミはもちろんのことジュニアでさえトリュスの真意など知るはずがない。
ジュニアも自分の存在理由が「ツグミを幸せにすること」と認識していても、なぜそのように作られたのかという理由は知らない。
ただAIとして命じられたことを完遂するだけなのだ。
〔それにしてもツグミは常に未来のことを考えて生きているな。それは当然のことなのだが、他の人間とは見ているものが違う〕
ジュニアが突然そんなことを言い出すものだから、ツグミは首を傾げた。
「それ、どういう意味?」
〔人は誰もが幸せになりたいと願いそのために努力をしているのは同じなのだが、ツグミは足元ではなくずっと遠くを見据えていて長期的な計画を立ててそれに従って行動している。『金持ちになりたい』とか『楽に生きたい』『権力を掴みたい』などという目先の欲にまみれた望みを抱いている者が多いのは事実。それを理解することはできるが、だから争いが絶えないのだということに気付いてはいない。ツグミのように自分の手の届く範囲の家族や仲間が幸せになればそれで十分だというなら争いなど起きようはずがないというのに
「だってわたしたちはボーダー隊員なんだから
ツグミの姿を見ていたジュニアは自分のメモリにあるオリバの姿を思い起こさせた。
(私の知るオリバはデータでしかないが、ツグミの行動や考え方はそれに一致している。父と娘だからというだけではなく、オリバの強い意思がツグミに引き継がれ無意識に行動に移しているのではないかと思われる。幼い頃に死に別れた父親の影響をここまで強く受けているが、それが
ジュニアの知るオリバはデータだが、ツグミのことはトリュスによって作られた時から常に一緒にいてその目で見て感じている。
トリオン兵であるジュニアには人間の意思や生物学的な遺伝というものを知識として知っていても理解をすることは難しいだろう。
そもそもいくら優れたAIであっても人間ではない以上は同じものにはなれない。
それは仕方がないことなのだが、ジュニアにはなぜかそれが歯がゆいという「感情」として芽生えていた。
AIに感情が生まれるはずがないというのに。
〔ツグミ、いろいろ考えるのはいいが頭を休めることも必要だ。あと8時間もすればアウデーンスに到着する。今のうちに眠っておくんだ〕
「うん、わかった。おやすみ、ジュニア」
そう言ってツグミはベッドに横になって目を瞑った。
そんな彼女の寝顔を見ながらジュニアは言う。
〔今の私にできることはそう助言をすることだけだ。未来を切り開いていくおまえに私は助言をする。しかし選ぶのはおまえ自身だ〕
そして音も立てずにツグミのバングルの中へと姿を消した。
◆◆◆
アウデーンスはかつて農業大国であった国だが、数十年前に大飢饉が起きたことで人口は5分の1にまで減少してしまった。
しかし操作のできる女王や巫女と呼ばれる女性が不在となれば別で、この国も巫女が自ら命を絶ったことで次の巫女が見付かるまでの約半年は太陽が昇らずにいたためすべての生命が絶えてしまったのだった。
国外へ脱出できた国民は友好国へ分散避難をしていたから全滅を免れたのだが、人口が8万弱にまで激減してしまったのだから国の存続は不可能だと思われた。
ところが新しい国王 ── 前国王をクーデターで退位させた ── が新しい
現在の国王はその男の息子で、まだ若いながらも精力的に国の復興を進めている。
これまでの慣習や古臭い階級制度などを廃し、政治も原則は君主国でありながらも国民の中から代表を選んで話し合いで決めるという民主主義も取り入れているのだそうだ。
そして近年では人口も徐々に増えつつあり、エクトスから三門市民を購入したのも新しい血を入れるためであった。
20代半ばの若い王で、テスタと同じく好奇心旺盛な変革者ともなれば彼女が興味を持たないわけがないのだ。
アウデーンス遠征のすべては修に任せてあるものの、ツグミは個人的に話をしてみるつもりである。
遠征艇が
相手方の指示どおりに遠征艇を地上に着陸させ、こちらに敵対の意思がないことを示す合図をすると銃を下ろしてくれた。
ツグミと修のふたりが下船し、修が兵士に告げた。
「ぼくたちは
兵士たちは驚いた顔で頷き、次の指示があるまでこの場で待機するよう告げるとひとりは監視役として残り、もうひとりがトリオン兵で王都へ向かって飛び去って行ったのだった。
ひとり残された兵士 ── トリオン体ではないので一般兵だと思われる ── は年齢が17-8歳くらいに見える。
彼は興味深げにボーダーの遠征艇を見ていて、しばらくするとそれに飽きたのか地面に座って今度は銃を磨き始めた。
そんな彼に迅は近付いて行き、ぼ〇ち揚げを勧めた。
「食べる? これ、
毒見を兼ねて自分で食べて見せる迅。
するとその兵士は遠慮しようともせず袋に手を突っ込んでぼ〇ち揚げをつまみ上げると口に入れた。
そしてバリバリという音を立てて咀嚼し、飲み込むと迅に向かって言う。
「美味い! オレ、こんな美味いもの今まで食べたことない!」
「そうか! おまえにもこの味がわかるんだな。それなら俺たちは仲間だ。さあ、もっと食え」
「ああ」
そうしてふたりはひと袋のぼ〇ち揚げを仲良く分け合い、袋が空になる頃にはお互いを名で呼び合っていた。
兵士の名はエンツォといい、王都を守る役目に就いたことを誇りとしているのだと言う。
迅はぼ〇ち揚げを
そういった点では信頼できる兵士であることは間違いない。
それは上からの指示が末端の兵士にまできちんと行き届いているということで、軍という組織が正しく機能しているということでもあるのだ。
それから1時間ほどしてさっきの兵士が戻って来た。
「国王陛下がぜひともお目にかかりたいと申しておりました。自分が案内しますのでついて来てください」
兵士 ── 名をネリオといい、エンツォの先輩 ── の案内によってツグミたちは王都まで行くことになった。
この国も他の
遠征艇は王都の一角にある軍司令部に停め、そこから城まで馬車で移動。
王城内にある他国からの客を泊める施設へと案内され、そこで国王との謁見の時間までひと休み。
そして時間になると国王の側近がツグミたちを迎えに来た。
いつもならツグミがひとりで謁見するのだが今回の遠征の責任者は修であるためにふたりで向かうことにする。
ツグミは慣れているので平然と歩いているが、修は緊張しているらしく冷や汗をかいていた。
「オサムくん、リラックスしましょう。別に取って食われるわけじゃないんだし、ここまでの様子だと歓迎…とまでは言わなくても邪険にされることはなさそう。交渉のことはまだ考えなくてもいい。今日はひとまず挨拶をするだけなんだから気楽にいきましょう」
「そう言いますけど霧科先輩みたいに慣れていないんですよ、ぼくは。相手は一国の王様なんです。本来ならぼくみたいな人間が会えるような人じゃありません」
「それはそうかもしれないけど、あなたはアフトのハイレイン王とガチでタイマン勝負をしたのよ。ビビることなんてないじゃない」
「あの時はまだ王様じゃなかったですし、戦わなきゃ千佳がさらわれるんですから無茶でもなんでも戦いましたよ」
「そうだったわね。でも他の国のお偉いさんたちからも一目置かれているのは間違いないわよ。エウクラートン、キオン、アフト、メノエイデス、他のいくつかの国でもわたしがあなたのことをわたしの後継者だって言ってあるから」
「ええっ!?」
「だってあなたはわたしがボーダーを辞めた後、わたしの仕事を引き継いでくれると言ったじゃないの。…まあ、それはともかく今は国王陛下に対して失礼のない態度で挨拶をして、交渉の場に相手を引っ張り出すことが重要。お土産もたくさん持ってきたことだし、機嫌を損ねることさえなければ目的の半分は達成できたようなものよ。あなたはやるべきことを全部やった状態でここに来たんだからもっと胸を張っていきなさい」
「はい」
そんな会話をしながら歩いていると、国王の側近は大きな扉の前で足を止めた。
「国王陛下は先ほどからお待ちです。どうぞ」
そう言って重厚な扉を開けた。
すると部屋の奥の椅子に腰掛けていた青年が嬉しそうに立ち上がって言った。
「ようこそ、