ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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62話

 

 

「B級ランク戦、4日目・昼の部がまもなく始まります! 実況はわたくし武富桜子! 解説席には東隊の東隊長と、三輪隊の古寺隊員という頭脳派狙撃手(スナイパー)のおふたりにお越しいただいております!」

 

「どうぞよろしく」

「よろしくお願いします」

 

「今回の注目はやはり前回完全試合で9点をあげた玉狛第3! 向かうところ敵なしといった感じの快進撃ですが、対するは3位生駒隊と4位王子隊。玉狛第3にステージ選択権があるといっても、どちらも生半可な手では通用しない部隊(チーム)です。…っと、ステージが決定されました! 玉狛第3が選んだステージは…『海岸リゾート』!?」

 

「「…?」」

 

東と古寺が首をかしげる。

彼らにも馴染みのないステージなので、ツグミが何を考えて選択したのかわからないようだ。

観客席の観客も「海岸リゾート?」「知ってる?」「知らねー」などとざわついている。

 

「『海岸リゾート』というのは初めて聞くステージなんですけど、おふたりはご存知ですか?」

 

「あるということは知っていますが、訓練・ランク戦どちらでも使用されたという記憶はありませんね」

 

東がそう答え、古寺も同様だとばかりに頷いている。

そしてメインモニターに映し出された風景を見つめた。

 

「東・南・西の3方を海に囲まれて、北側は斜面で森林になっているというマップ。中央に長さ約800メートル、幅が約40メートルの砂浜(ビーチ)。その北東側にL字型3階建てのホテル棟、その手前に芝生広場とコテージ棟の東半分。ホテル棟の西側には北から駐車場、コテージ棟の西半分、そして円形プール。砂浜(ビーチ)の沖合約100メートルの場所には東西に伸びる長さ約200メートルの3つの防波堤があります。防波堤の間隔はそれぞれ50メートルくらいでしょうか。さらに砂浜(ビーチ)の東はレジャーボート用の港になっており、沖へと伸びる約200メートルの防波堤、その先には高さ15メートルほどの灯台があります。…さて、霧科隊長はどんな作戦でくると思いますか?」

 

東は少し考えてから口を開いた。

 

「う~ん…これは主戦場が芝生広場やコテージ棟、駐車場などがある中央エリアになるでしょう。砂浜(ビーチ)では足場が悪いですし、マップの半分以上を占める海上では足場になるものが幅2メートル弱の防波堤しかありませんからね。北側の森は狙撃手(スナイパー)に限らずどのポジションであっても戦闘フィールドとしては条件が悪すぎます。Round3で漆間隊が選んだ『森林地帯A』と同じで、行動が制限されますから。そうなるとこれまでの展開から、中央エリアで戦闘中の敵をホテル棟の屋上からの狙撃…ということになりそうですが、彼女がそんな単純な手を使うはずがありません」

 

「では狙撃ではなく近・中距離戦でくるということでしょうか?」

 

「いや、それも考えにくいですね。生駒隊は近・中・遠距離の全てをカバーする4人部隊の数の有利を生かした多角的な攻撃が得意で、特に生駒の『生駒旋空』は要注意です。さらに王子隊は狭い間合いでの局所戦が得意で、全員が追尾弾(ハウンド)を装備していますから囲まれたらどうしようもありません。どちらの隊も下手に近付けば非常に危険です。霧科は攻撃、特に火力押しの戦い方をするタイプで防御面にはあまり力を入れていません。シールドについても正隊員のほぼ全員がメインとサブで2枚装備していますが、彼女は通常1枚だけです。場合によってはシールドを持たずにレイガストのみという場合もあるくらいですからね。そんな彼女がこの2部隊(チーム)を相手に主戦場に飛び込んで立ち回るのは自殺行為と言えるでしょう」

 

東はツグミの意図が読めずに悩んでしまう。

 

「さすがの東さんでもまだわからないということですね。では古寺先輩、お願いします」

 

桜子は古寺に訊くが、じっとモニターを見つめている。

 

「霧科くんにはこれといった戦術(スタイル)があるわけでなく、これまでの3戦は常に相手の意表を突いて勝ち抜いてきました。そんな彼女にステージの選択権があるわけですから、こればかりは蓋を開けてみるまでまったくわかりません」

 

「なるほど…。そうこうしているうちに転送の準備ができたようです!」

 

 

転送開始のカウントダウンがゼロとなり、ツグミたちは「海岸リゾート」のフィールドに転送された。

 

「さあ、転送完了! …おや、これは…!」

 

夜の闇に包まれ、屋外の街灯やホテル・コテージの部屋の窓からこぼれる僅かな明かりしかない光景がメインモニターに映し出される。

 

「どうやら霧科隊長は時間帯を『夜』にしたようです! やはりこれは敵部隊(チーム)の視覚を奪うのが目的でしょうか? 彼女なら暗闇でもサイドエフェクトで敵の居場所は丸わかりですから」

 

前回の戦いでツグミのサイドエフェクトが「トリオン体を検索(サーチ)できる」という情報は大多数の隊員の知るところとなっている。

当然その力を使わない手はなく、今回も最大限に使用するだろうと生駒・王子両隊もそれを踏まえて作戦を練っているはずである。

 

「いや、それだけで『夜』設定にすることはありませんね。暗闇であってもオペレーターによる視覚支援でどうとでもなりますから」

 

東が断言する。

 

「では他に理由があるのでしょうか?」

 

桜子が訊くものの、東は首をかしげたままだ。

 

「霧科のことだから意味のないことはしません。何か考えているはずです。その()()はまだわからないですが、戦いが進めばいずれわかるでしょう」

 

マップには各隊員の転送位置が表示されていて、ツグミはほぼ中央の芝生広場にいる。

生駒隊は生駒達人が砂浜(ビーチ)の西端、水上敏志(みずかみさとし)は砂浜(ビーチ)の東端、隠岐孝二(おきこうじ)は駐車場、南沢海(みなみさわかい)は港の奥にある管理棟の屋根の上。

王子隊は王子一彰が北側の森の中、蔵内和紀(くらうちかずき)は砂浜(ビーチ)中央、樫尾由多嘉(かしおゆたか)はホテル棟内部、と適当な間隔を置いて転送された。

これだとフィールドのど真ん中にいるツグミは敵に囲まれやすく非常に危険である。

 

「この転送位置ですと霧科隊長は非常に不利ですが…おっと、狙撃手(スナイパー)の隠岐隊員と霧科隊長がバッグワームを起動! レーダー上から姿を消した! 他の隊員は合流を目指してそれぞれ動き始めたぞ!」

 

隠岐は狙撃場所を確保するためにグラスホッパーを起動してホテル棟の屋上へと向かっていた。

他の隊員は中央エリアを合流場所に選び、真っ直ぐに向かっている。

一方、ツグミは囲まれてはならないとバッグワームで身を隠して東南の方角へと動き出した。

その様子がメインモニターに映し出される。

 

「おおっ、黒いバッグワームだ!? 霧科隊長は黒色のバッグワームを使用しています! これはどういうことなんでしょうか?」

 

「トリガーの改造に関しては、性能に大きく関わるものでなければB級でもOKですから問題ありません。バッグワームを使用すればレーダー上からは姿が消えますがカメレオンと違って普通に目に見えますから夜の闇に溶け込む黒を使用するのはいいアイデアです」

 

東の解説通り、ツグミは水上と約15メートルという至近距離ですれ違ったが気付かれずに済んでいる。

 

「ここで重要なのは霧科が敵に発見されるか否かです。彼女の居場所が判明すればそこが主戦場になる可能性が高いですから」

 

「どういうことですか?」

 

「どちらの隊にとっても彼女は早めに落としてしまいたい厄介な相手ですから、見つけ次第交戦となるでしょう。ただし一対一では不利ですから、彼女を逃がさないようにしながら味方の合流を待って攻撃。さらにそこへもう1部隊(チーム)が加わって三つ巴の大乱戦という流れが考えられます」

 

「なるほど…。それで霧科隊長は中央エリアにいると危険なのでとりあえず脱出した、と。ですがどこへ行こうとしているのでしょうか?」

 

桜子と東が実況解説している間、古寺はずっとメインモニターを凝視していたが、ツグミの動きに何かを感じ取ったらしく身を乗り出して言った。

 

「灯台、ですね…」

 

「灯台、ですか?」

 

桜子が古寺に訊く。

 

「そうです。港の入口にある灯台なら主戦場になりうる中央エリアまで射線を遮るものがほとんどありません。距離は約700から800メートルで、普通の狙撃手(スナイパー)ならきついですが霧科くんなら動く的であっても楽勝です。コテージ棟といった隠れる場所もあることはありますが、彼女のアイビスならコテージを吹き飛ばすことなど雑作もないこと。ですから彼女は防波堤を使って灯台へ向かうつもりでしょう」

 

古寺の言うように、砂浜(ビーチ)の東の端から海に突き出している防波堤にたどり着いたツグミは海に落ちないように全力で走っていた。

目指すは防波堤の先の灯台である。

 

「なるほど…。ですが狙撃ですと暗闇ですから逆に閃光がはっきりと見えてしまいます。いくらバッグワームで姿を消していても居場所がバレバレで、灯台にいては周りが全部海ですから逃げ場所がありませんが…」

 

「いや、これはいい作戦ですね。狙撃地点としては申し分ない場所で、防波堤を破壊してしまえば敵は容易に近付けなくなります。…しかし南沢と樫尾はグラスホッパー持ちの攻撃手(アタッカー)ですし、攻撃手(アタッカー)ではありませんが隠岐もグラスホッパーを持っています。彼らを封じる手がなければ桜子くんの言うように逃げ場がなくなりますから、どう対応するのか気になります。もっとも彼女なら策は立てていると思いますが」

 

東の解説の間に、隠岐がホテル棟の屋上に陣取り、中央エリアでは生駒と蔵内が遭遇(エンカウント)していた。

 

「おおっ、生駒隊長と蔵内隊員が遭遇(エンカウント)した! しかし交戦には至らず、どちらもコテージ棟の陰に隠れながらチームメイトとの合流を優先しているようです!」

 

「この状況で蔵内先輩が逃げたのは正しい判断です。生駒隊長とのタイマン勝負は避けるべきですから」

 

古寺が説明を続ける。

 

「これは個人(ソロ)ランク戦ではありません。団体戦である以上はチームメイトとの連携でいくべきです。特に王子隊は3人でのチームプレイが強みの部隊。逆に言えばひとり落ちただけでも非常に不利となります。生駒隊長も姿の見えない霧科くんの狙撃を警戒していますから派手な動きは避けたい。となると双方チームメイトとの合流を急ぐのが定石というものです」

 

古寺のいかにも当然であるという言い方に桜子がしゅんとしてしまう。

しかしそれも一瞬のことで、すぐにいつものハイテンションな実況に戻った。

 

「おおっ、王子隊長が蔵内隊員と合流した! 一方、生駒隊長はまだひとり! 王子隊がふたりがかりで生駒隊長を追うようだ!」

 

生駒は王子と蔵内に追われながらも上手い具合に隠岐の射線に合わせる動きをしていた。

そして隠岐は蔵内に狙いを定めイーグレットで狙撃する。

蔵内は射程があり、しかも炸裂弾(メテオラ)持ちの射手(シューター)なので先に消しておこうという考えなのだ。

しかし蔵内も隠岐の狙撃を警戒していて、隠岐の狙撃と同時に両手のシールドを起動して両防御(フルガード)

今度は居場所がバレた隠岐が王子隊の2人に追われることとなった。

王子隊が生駒たちを追いかけたのは隠岐を()()ためであったのだ。

この騒ぎのうちに生駒と水上と南沢が合流し、ホテル棟の屋上を逃げる隠岐のフォローのために屋上へ上がる。

さらに樫尾も仲間との合流を果たし、ホテル棟屋上は7人で乱戦状態となった。

ツグミはというとその隙に誰にも見つからずに灯台へとたどり着いていた。

 

(さて…ここまでは無事に来られたわね。まず誰からやろうかな…?)

 

ツグミは陸地で動き回っている敵を()()で確認した。

肉眼では個人を特定するまでには至らないが、狙撃手(スナイパー)は隠岐ひとりしかいないのでその動きですぐにわかる。

 

(…やっぱり予定通りに隠岐さん狙いよね)

 

ツグミはイーグレットを手にすると隠岐に照準を合わせ、慎重にタイミングを計って撃つ。

イーグレットから放たれた弾は見事に隠岐の頭部を撃ち抜いた。

 

「隠岐隊員が緊急脱出(ベイルアウト)! 霧科隊長がイーグレットで頭を撃ち抜いたぞ! 初得点は玉狛第3だ!!」

 

桜子が隠岐の緊急脱出(ベイルアウト)を告げた。

 

 

 







玉狛第3(霧科隊)の4戦目は3戦目に続いて「海岸リゾート」というオリジナルのステージにしてみました。
前回の「森林地帯」よりも複雑なマップですが、本文の説明でおおよその見当をつけてお読みください。



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