ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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619話

 

 

ツグミと迅がトロポイへ発つ日が1月16日と決まった。

そして今回はボーダーの人間としてではなくエウクラートンの王家の人間、ツグミ・オーラクルとその配偶者という立場で訪問をすることになっている。

それは訪問理由がエクトスの不審な動きにキオン、エウクラートン、リコフォス、トロポイの4ヶ国でどのように対処するかの相談をするためで、ボーダーの目指す友好的な交流目的ではないからだ。

ボーダーの迅悠一としてはトロポイの王族に会うことは叶わない立場だが、ツグミの配偶者であれば問題はないという理由もある。

もっとも前回の訪問の際に迅という婚約者がいるという話をエルヴィンにしたところ「次はその男を連れて来なさい」と言われていたのだから、逆に一緒に行かなければツグミは連れて来なかったことを責められるだろう。

そして今回のトロポイ行きには遊真の個人所有の小型艇を借りることにした。

現在のトロポイの位置は玄界(ミデン)から片道約2週間の位置にあり、可能な限り早く往復するためには彼の艇が最適であった。

さらに彼の艇にはレプリカが操縦できるシステムがあるため、同じ型の自律トリオン兵のジュニアにも対応している。

そうなればひとりしかいない操縦士の迅の負担が大幅に減るので、途中の寄港地での滞在時間を短縮できるというメリットもある。

ただし倉庫が小さいために物資を積むにも限界があり、ふたり分の食料と飲料水と生活雑貨を搬入するといっぱいになってしまったので、迅のぼ〇ち揚げの箱はひとつしか積めなかった。

したがってひと月以上の期間をたった12袋で過ごさなければならないことになり、彼にとっては辛い旅になりそうだ。

 

 

出発の前日、ツグミと迅は挨拶をするために城戸と面会をした。

ボーダーに在籍しながらボーダーの任務とは直接関係のない渡航を許してもらったのだからきちんと挨拶をしてから出かけるのが礼儀というものだ。

おまけにこれまで溜まりに溜まっていた有給休暇 ── 非正規雇用の防衛隊員にはないが、総合外交政策局員は正式な職員なので与えられている ── を一気に消化することも許してくれたのだから感謝するしかない。

 

「城戸司令、この度は私用での渡航のお許しをいただきありがとうございます。明日の朝にトロポイへ発つのでその前にご挨拶にまいりました」

 

ツグミが丁寧に挨拶をすると、城戸は申し訳なさそうな顔で言う。

 

「たしかに私用だが、おまえたちにはそれだけの資格と権利がある。ボーダーと三門市のためにどれだけ貢献したのかを考えればそのくらい大したことではない。それにおまえたちには10年以上も戦場、それも最前線で戦わせてしまった。子供たちに戦闘を強いるしかなかった不甲斐ない大人のせいで苦労をかけたのだから、おまえたちの願いを叶えることは罪滅ぼしに近い」

 

「まだそんなことを言っているんですか? わたしに戦う力があったのは定められた運命だったとしても、戦うと決めたのはわたしの意思です。それが幼い子供であっても自分自身で決めたことなんですから後悔はありません。わたしがボーダーに入ることになったのは近界民(ネイバー)に狙われるという事実があったせいで、その時に逃げるという選択肢もありました。でもわたしは逃げたくないから戦う手段を身に付けてここに残ることにしました。むしろ当時の城戸さんや真史叔父さんはわたしを市外の安全な場所に引っ越しさせようと言っていたのに、わたしが離れたくないからと駄々をこねたんです。わたしとしてはそんなワガママを聞き入れてくれたことを感謝しているくらいですから、不甲斐ないとか罪滅ぼしだなんてことは言わないでください」

 

ツグミの言葉が嬉しかったのか、城戸は()()にしか見せない穏やかな表情になって言った。

 

「…そうだな。私がそんなことをいつまでも言っていると死なせてしまったあの子たちにも叱られてしまいそうだ。あの子たちだって無理やり戦場へ送り込んだのではなく、自らの意思で戦うと決めたのだし後悔はしていないはずだ。そして私にできることはあの子たちに対して罪の意識を持ち続けることではなく、二度とあのような悲劇を繰り返さない努力をすること。そして今を生きている者たちの平和な日常を守り続けることしかない」

 

「そうですよ。過去は変えられませんし忘れてはいけないことですけど、過去が今と未来の枷になってはいけません。城戸さんはずっと頑張って来たじゃないですか。ボーダーを立ち上げた4人のうち3人が()()退()()してしまったことで全部の責任をひとりで背負ってきたんです。むしろわたしたちよりも城戸司令こそが長期休暇をもらってゆっくり骨休めすべきです。もっとも今の段階ではまだそれが叶わない現実があります。だからこそわたしは一日も早くあなたがボーダーの最高司令官という役目を降りて城戸正宗という個人に戻ることができるようにしたい。…わたしは自分が幸せになりたいからそのためにやるべきことをやっています。でも自分ひとりだけでなく家族や仲間が同じく幸せにならないと満足できない欲深い人間なんです。ですからわたしのやることはすべて自分のためだということで、全部自己満足のため。エウクラートンの女王になることだって自分を犠牲にしているとは考えていません。女王になったらその権力を利用しますし、なによりも今度は近界民(ネイバー)側の立場で何をすべきか考えて行動するつもりでいますから。もちろん城戸さんや真史叔父さんたちと離れて暮らすことは寂しいですが、それが一生続くのではなく必ず戻って来ます。…でもきっと帰って来る頃にはエウクラートンにもかけがえのない大切な家族や仲間ができて離れがたくなっているかもしれませんね」

 

そう言って微笑むツグミの隣で迅は何も言わないが心の中では彼女に同意し、昔のことを思い出していた。

 

()()遠征に出発する前の日の夜、本部基地の屋上で交わした約束のことを俺は知っているんだ。4人で立ち上げたボーダーという組織だが当時は城戸さんと最上さんのふたりきりになってしまっていて、もし遠征先でどちらかが倒れたとしたら残った方が必ずボーダーと()()を守るって固く約束していた。あの時点で俺が未来視(サイドエフェクト)によって大勢の仲間が死ぬって未来を視てしまったから、城戸さんたちは覚悟を決めていたんだよな。実際に半数以上の仲間の命が失われ、最上さんは風刃になってしまったから城戸さんは組織を維持するために奔走していた。当時はまだ今みたいな立派な本部基地もなかったしトリオンだって少なかったから、残った仲間たちと力を合わせて小さな灯を消えないようにするのが精一杯だったっけ。そこに近界民(ネイバー)が大軍で攻め込んで来た。今さらこんなことを言っても意味ないけど、もっと大きな組織で仲間が大勢いたら死者1200人以上、拉致被害者400人以上なんていう大きな被害を出さずに済んだかもしれない。城戸さんも同じように考えたから組織拡大のために近界民(ネイバー)はすべて敵だというスタンスで隊員を集めた。おかげで第一次侵攻以降はアフトの侵攻まで大きな被害は出なかった。そしてアフト侵攻で被害を最小限に抑えられたのは城戸さんが自分の心を殺してでも最上さんとの約束を守ろうとしたからだ。俺たちこそ城戸さんに感謝しなきゃいけないんだ)

 

ツグミと城戸の話がひと段落すると、城戸は自分の机の引き出しから何かを取り出して机の上に置いた。

 

「迅、これをおまえに返そう」

 

そう言って城戸が迅の前に押し出したのは風刃である。

遊真をボーダーに入隊させるために迅が手放した時点で城戸の預かりとなっていて、それ以降は必要に応じて迅が()()()という状態になっていた。

それを()()というのは城戸にとって迅への感謝の気持ちの表れだといえよう。

 

「これからはおまえがひとりでツグミを守らなければならない。そのためにはこれが必要だ」

 

「はい。これがあれば俺はひとりではなく最上さんと一緒に戦うことができます」

 

迅は風刃を握りしめてそう断言した。

未来視(サイドエフェクト)の能力が衰えた今の彼には以前のように風刃を効率良く使うことはできないだろうが、彼にとって風刃は師匠の形見であり心の拠り所でもある。

それにもう三門市で風刃を使わなければならないような戦いが起きるようなことはさせないという城戸の強い決意の表れなのだ。

だから迅は迷うことも遠慮することもなく風刃を受け取った。

 

「おまえたちはまだボーダーの人間であり、()()()の大切な息子と娘なのだから必ず無事に帰って来るのだぞ。近界(ネイバーフッド)では玄界(ミデン)とボーダーという組織の認識がこれまでとは違うものになってきている。キオンのように好意的に受け止めてくれる国もあれば、それを快く思わない国もある。特にエクトスがリコフォスでの工作に失敗した理由がボーダーの存在であることは認識しているはずで、おまえたちがたったふたりでトロポイへ向かっていることを知れば何か仕掛けてくる可能性もありうる。トロポイまでの航路上で危険な場所はないということだが油断は禁物だ。いいな?」

 

「「はい!」」

 

「おまえたちが帰って来たら飯でも食いながらトロポイでの話を聞かせてくれ。私が良さそうな店を予約しておく」

 

「楽しみにしています」

「それならできるだけ早く帰って来ますよ」

 

ツグミと迅はそう言って微笑み、城戸も笑みを浮かべた。

 

 

そして予定どおりに翌日の早朝にツグミと迅は(ゲート)の向こう側に旅立って行ったのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

ツグミと迅がトロポイに到着すると、イェルンとトリュスのふたりが出迎えてくれた。

トロポイの衛星のような国 ── ゲミトゥスに一時停泊してそこからトロポイへと連絡を入れておいたことで、彼女たちの到着を待っていたらしい。

ゲミトゥスは人口が70万ほどの栄えた国であったが数百年前に疫病で人間がすべて死に絶えてしまい玄界(ミデン)の月のように岩石や砂粒しかない大地と化してしまっていた。

(マザー)トリガーはまだ生きていて「神」の寿命もあとわずかだが残っているという状態で、トロポイにはゲミトゥスの(マザー)トリガーを操作できる人間がいないので放置されているのだそうだ。

近界(ネイバーフッド)の国々は(マザー)トリガーの健全な操作をする者がいなければ滅びてしまう。

その見本がこのゲミトゥスなのである。

ツグミが初めてゲミトゥスの大地に降り立った時、恐いとか哀しいとかそういった感情は一切沸き上がらなかった。

目の前にある現実に対して何も心を動かされることはなかった。

しかしゲミトゥスを離れてトロポイに近付いた頃にようやく恐怖の感情が襲いかかって来て全身が震えた。

「何もない」のだから心が動くこともなく、「満たされた」世界に戻れば「無」を恐怖として感じるのは当然のことだろう。

そして無事にトロポイに到着してふたりの出迎えを受けると、人の温もりがあることを「幸せ」だとツグミは感じたのだった。

 

事前にジュニアが事情を話しておいてくれたため、ツグミと迅はすぐにエルヴィンとの面会に臨むことができた。

「5人の王」のことは国王であるエルヴィンなら当然承知しており、その関係でエクトスが妙な動きを見せていると教えられたのであれば一刻の猶予もないと考えて、ツグミから詳しい話を聞きたいと思うのは無理もない。

エクトスの動きは近界(ネイバーフッド)の平和を目指す者にとって看過できない重大事だということである。

休む間もなくツグミと迅は王城内にあるエルヴィンの執務室へと案内された。

 

 

「よく来たね、ツグミ。待っていたよ。元気そうで何よりだ」

 

「エルヴィン陛下もご健勝のご様子、誠に ──」

 

「そんな堅苦しい挨拶は無用だ。それよりも早くきみの婚約者を紹介してくれ」

 

エルヴィンは迅のことが気になるようだ。

 

「はい。彼がわたしの夫の迅悠一です。以前は婚約者と申し上げましたが、5ヶ月ほど前に結婚式を挙げました」

 

「おお、それは喜ばしい! ジン、もっとそばへ来てくれ」

 

「はい、陛下」

 

迅はエルヴィンの前に立つと恭しく礼をした。

 

「お初にお目にかかります。自分は迅悠一、ツグミの夫です」

 

「話はツグミから聞いている。幼い頃から兄のようにずっとそばにいて守り、そして戦友として共に戦ってきたとか。まあ、彼女が選んだ男となれば相当な人物であると察せられる。できることなら男同士で語り合いたいものだ」

 

「そのようにお褒めいただくとは恐悦至極に存じます」

 

「そう畏まらずとも良い。それはそうとエクトスが妙な行動をしているとのことだが、その話を聞かせてほしい」

 

「ではわたしがご説明いたします」

 

ツグミと迅はソファに腰掛け、お茶を運んで来た使用人が部屋を出て行ったのを確認するとすぐに話を始めた。

ボーダーが遠征で訪れたリコフォスにおいてエクトスの工作員が麻疹(はしか)のウィルスを撒いたことで全人口の4割近くの国民が命を失ったこと。

エクトスの工作員を捕えて吐かせたところ、リコフォス王家が所有する「箱」と「鍵」を奪うために国内を混乱させてその隙に王宮に忍び込む計画であったこと。

そしてツグミがエウクラートンの王族であることを告白したことで「5人の王」と「箱」と「鍵」についての話を聞かされたことなどを的確に説明した。

 

「なるほど…。そしてキオンとエウクラートンへ行って事情を説明し、残る1ヶ国の我がトロポイへとやって来たということか」

 

「はい。5つの『箱』と『鍵』をそれぞれ別の国が持つことによって5つの王家の意見が一致しなければ核兵器の再現は不可能です。そしてどの国にどの『箱』があるのかは不明であるはずなのに、エクトスの工作員はリコフォスにユゥアレェィニィアム、つまり玄界(ミデン)でウランと呼ぶ物質があると知っていたことが不思議なんです。リコフォスにユゥアレェィニィアムがあることを知っているのはリコフォス王家の人間だけですから、普通に考えたら王族の誰かが口外したということになります。でもサルシド宰相閣下は心当たりがないような態度でいましたが、なんとなく隠しごとをしているように思えました。でも王家の人間で女王陛下は外部の人間と接触できませんし、サルシド閣下が他人に話すとは思えません。それが大きな疑問となっているんです」

 

するとエルヴィンが少し考えてから口を開いた。

 

「リコフォスの王族にはもうひとりいたはずだ。名前は…たしかレグロとかいう男だったと思う」

 

「いいえ、サルシド閣下からはそのような方の存在を聞かされていません。あの時に教えてもらえなかったというのはそのレグロという方に関して何かしら()()()()理由があったのだと言えますね。とにかく今はそんな詮索をするより対策を考えましょう」

 

エクトスに対抗するには残る4ヶ国の団結が必要で、すでにリコフォスだけでなくキオンとエウクラートンの王族との協力関係が成立していて、残るはトロポイだけとなっていることを話すとエルヴィンも無条件に賛成した。

 

「ではわたしにひとつ考えがありますが聞いていただけますか?」

 

ツグミはそう言って説明を始めた。

 

「遠い昔に5人の王はその愚かな行動によって故郷を捨てて新たな世界を目指すことになりました。その時に玄界(ミデン)に争いの元となった核兵器を残すことはできないとして近界(ネイバーフッド)へ持ち込んだことが今回の騒動の原因です。たしかに当時はその判断が正しいものだったのですが、残念なことに現在では玄界(ミデン)で核兵器を所持している国はいくつもあります。それを実際に使用して戦争をするわけではありませんが、持っているということが他国への抑止効果になります。ただし今のところは抑止の効果は出ていますが、バランスが崩れた途端にどうなるのかはわかりません。もし近界(ネイバーフッド)で核兵器が再現されたら…そしてそれをエクトスが成したとしたら、近界(ネイバーフッド)のすべての国はエクトスにひれ伏すしかなくなるでしょう。エクトスがそれほど恐ろしい兵器だと知っていて再現しようとしているのか、またはトリオンやトリガーとはまったく違う次元の強力な兵器だとしか知らないのか今のところは定かではありませんが、核の恐ろしさを知っている玄界(ミデン)の人間としてはこう断言します。『近界(ネイバーフッド)において核兵器は絶対に存在してはならない』と。それが平和のための抑止だとしても、存在すれば使用したいと考える愚かな人間が必ず現れます」

 

「ツグミの話だとトリオン由来の兵器に効果があるかどうかわからないが、人間に対しては絶大な効果があって爆発した時の威力によって人が死ぬだけでなく放射能の影響によって病気になったり大地が汚染されて農作物が育たなくなるということだからゲミトゥスのような国を増やすことになるというわけだな?」

 

「そのとおりです。そこでわたしの考えというのはリコフォス、キオン、エウクラートン、そして貴国の4つの『箱』と『鍵』をすべて玄界(ミデン)へと持ち帰って始末をしてしまおうというものです」

 

玄界(ミデン)へと持ち帰るだと?」

 

「はい。たとえば4つの『箱』と『鍵』を玄界(ミデン)の8つの場所にそれぞれを埋めてしまうことにしましょう。そうすればその埋めた場所を知っているのがわたしだけですからエクトスはもう二度と核兵器の再現を企むことはできません。仮に埋めたものが掘り出されて玄界(ミデン)の人間の目についたとしても『鍵』は何の鍵なのかわかりませんし、『箱』は『鍵』がなければ開けられないものですから問題はありません。エクトスの人間が玄界(ミデン)で探そうとしても埋めた場所を知っているのがわたしだけであれば、わたしを拉致して口を割らせるしかないのです。『箱』と『鍵』が近界(ネイバーフッド)からなくなれば、各王家の()()はなくなります。そして事実を知っている者が子孫には伝えずに死に絶えればもう心配するようなことはありません。わたしはエウクラートンの女王となるのですからエクトスが秘密を知るわたしを狙って来るかもしれません。そうなるとエウクラートンの国民を危険に晒すことになるでしょう。だからそうならないためにエクトスを説得して仲間に引き入れてしまおうと考えています」

 

ツグミの言葉にエルヴィンはもちろんのこと、話を聞かされていなかった迅も驚いてしまった。

 

「難しいことだとは承知していますが、ボーダーが主宰する同盟国に加わる国が増えれば玄界(ミデン)の敵になろうとはしないはずです。すでにキオンとアフトクラトルの軍事大国の双璧が玄界(ミデン)の味方をすることは知られていますし、エウクラートンはキオンの衛星のような国ですから、何かあればキオンの大軍勢がすぐにやって来ることがわからない愚か者ではないと信じたいです。過去にエクトスは三門市を蹂躙して大きな被害を与えたのですから、玄界(ミデン)の人間の心象は最悪です。もしわたしに何かあればボーダーはすぐに遠征部隊を送り込んで『核兵器を使用する』と宣言しておけば、彼らはわたしに手出しできないでしょう。だって彼らが核兵器を作ろうとしているのはその効果の大きさ故です。それを自分の国で使用されたら目も当てられませんからね」

 

「しかしそれは自分の身を囮にするってことにはならないか? そんな危険なことをさせる策に私は賛成などできぬ。ジンだってそう思うだろ?」

 

エルヴィンの言葉に迅も大きく頷いた。

 

「もちろんです。そんなバカなことをさせないようにと、俺はこいつのそばにいるんです」

 

「でもわたしが囮になって危険な目に遭ったとしても守ってくれるんでしょ? わたしはあなたの戦力を評価してそれを計算に入れて勝算の高い策を考えたんですよ」

 

「う…」

 

ツグミにそう言われてしまっては迅に反論はできない。

 

「わたしだってエウクラートン国民を巻き込むかもしれないこんな策を好んで選んだのではありません。ですから最終手段であり、他に良い策があるのならそちらに乗り換えることはやぶさかではありません」

 

一見して自分を囮にしようとするこの正気ではない策には「それならそれ以上の策を考えてくれ」というツグミのメッセージが込められている。

このツグミの考えた策は決して悪手ではない。

エクトスにとって玄界(ミデン)とは三門市でしかないが、実際には近界民(ネイバー)には想像ができないほど広い。

そのどこかにバラバラに埋めたとなれば回収は不可能だ。

それに彼女は「埋める」と言っているが、有名な某物語のように火山の中に放り込んでしまえば消滅させられるし、重石をつけて深海の底に沈めてしまうという方法もある。

5つの王家は先祖から受け継がれた「箱」と「鍵」を大事に守り続けてきたが、今の近界(ネイバーフッド)にはそんな物騒なものはない方がいい。

5つの国しかなかった頃は争いなどなく平和な世界であった近界(ネイバーフッド)も国の数が増えればそれに比例するように戦争が起きるようになった。

5人の兄弟である王たちがバラバラにして厳重に管理すれば大丈夫だと考えたのは間違ってはいないが、それを再びひとつにして危険な兵器を造ろうとする人間が現れるとは想像もしていなかったのだろう。

 

結論は出ないままであったが、ツグミと迅がトロポイに到着した初日はこうして過ぎていったのだった。

 

 

 

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