ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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63話

 

 

隠岐が緊急脱出(ベイルアウト)したことで、ホテル棟屋上での攻防が一旦停止した。

隠岐を狙撃したのがツグミであることは誰もがわかっているのだが、どこから狙撃されたのかはわからない。

彼らはツグミが普通の狙撃手(スナイパー)よりはるかに長い射程を持っていることとアイビス(カノン)を装備している可能性を思い出し、王子隊の3人はホテル棟の北側に飛び降り、生駒隊の3人は逆に南側のコテージ棟の裏へと飛び降り、そこからホテル棟の中へと身を隠した。

屋上には身を隠すものは一切なく、そのままだと隠岐のように狙い撃ちされる可能性があるからだ。

ツグミによる狙撃地点がわからない以上、反撃よりはまずは防御に徹するのが賢い道である。

 

「これは…!」

 

東が大きく目を見開いた。

 

「東さん、どうしたんですか?」

 

桜子が訊く。

 

「我々は霧科が灯台にいることを知っていますが、フィールドに散っている隊員たちはそのことを知りません。昼間であれば桜子くんが言ったように彼女が狙撃した時点で居場所が判明するはずなのですが、彼女はこの暗闇と灯台を上手く利用しています」

 

「どういう意味でしょうか?」

 

「通常ですと狙撃したタイミングで狙撃手(スナイパー)の居場所は閃光によってバレてしまいます。ですが彼女はイーグレットの閃光を灯台の灯光の回るタイミングと合わせることで打ち消しました。弾道解析をすればいずれ居場所はバレますが、どこから撃たれたのかすぐにはわからないというのが重要な点です。事実、生駒隊・王子隊共に彼らは次の狙撃を警戒してあっという間に身を隠しました。まずは霧科の居場所を断定し、反撃の作戦を練ることでしょう」

 

東の洞察力は見事なもので、実際彼の推測どおりにツグミは灯台の灯光のタイミングに合わせて隠岐を狙撃していた。

一瞬であってもどこから撃たれたのかわからないという状況では誰でも不安になる。

その状態でツグミは敵部隊(チーム)に反撃までの時間を与えることで、考える時間を()()()()()()のだ。

おそらくこのタイミングで生駒隊・王子隊共にツグミがなぜこのマップを選び、どのような戦術でくるのかを考えるはずである。

これまでの3戦での彼女の戦闘データは両部隊(チーム)共に精査しており、彼女が一筋縄ではいかない手練であることは理解しているだろう。

ツグミがあえて自分の手の内を曝け出してきたのは、敵部隊(チーム)を情報過多の状態にし、判断力を低下させるためであった。

さらにそんな彼女が本人ですら戦闘経験のないフィールドや時間帯を選んでいることで、敵部隊(チーム)はこれから先に何が起きるのかますます読めなくなる。

そうなると自分たちの想像を超える何かを企んでいるのではないか…などと深読みしてしまう。

他人の言動の裏に別の意味が隠されているのではないかと思う瞬間は誰でもある。

勘や想像力を働かせて意味を汲み取るのは大切だが、必要以上の深読みは自分の首を絞めることにもなりかねない。

そういう点で、生駒隊と王子隊から平常心を失わせ、彼女の行動のひとつひとつに疑心を抱かせる…というのがツグミの仕掛けた作戦のひとつなのである。

もちろんツグミは「彼らの想像を超える何か」を企んでいるのだが。

 

そして東の解説は続いた。

 

「霧科のいる灯台へのルートは3つ考えられます。ひとつ目は彼女が使った灯台に続く防波堤を行くルート。ふたつ目は西側から迂回して砂浜(ビーチ)の沖合にある東西に伸びる3つの防波堤を使うルート。これはそれぞれ離れていますがグラスホッパーを使えば問題ありません。3つ目は砂浜(ビーチ)からグラスホッパーを使って直接向かうルートです」

 

「灯台に近付くことができなければ攻撃手(アタッカー)射手(シューター)では攻撃のしようがありませんからね。先に狙撃手(スナイパー)の隠岐隊員を落としたのもそれが理由ということですか?」

 

「そうですね。防波堤を壊して近付けないようにしても、隠岐ならホテル棟の南東の端から十分に狙撃が可能です。しかし一番に隠岐を狙った理由なら他にもあります」

 

「と言いますと?」

 

「彼はグラスホッパー持ちですから、彼自身がグラスホッパーを使うことより、生駒や水上の援護に回ることを霧科は恐れていたのではないかと考えています」

 

「なるほど…。そうなるとやはり防波堤を破壊して敵が近付くためのルートを絶つ作戦なのでしょうか!?」

 

 

東が解説している間にツグミの居場所が断定され、生駒隊と王子隊はそれぞれ作戦会議を始めていた。

全員がバッグワームを起動して位置を特定されないようしているが、それはツグミに対してというより敵部隊(チーム)に対してのものである。

なにしろ彼女が強化視覚(サイドエフェクト)を使えばバッグワームなどまったく意味がないことが前回の試合で周知の事実となっているからだ。

そしてツグミはというと両部隊(チーム)の動きを静観している。

 

(生駒隊・王子隊共にわたしが邪魔で自分たちの得意な戦い方に持ち込めずにいる。グラスホッパー持ちのうちひとりは消したけど、まだ南沢くんと樫尾くんが生きてる。一番面倒なのは生駒さんと南沢くんが組んで 生駒旋空を撃たれること。グラスホッパーで近寄られて生駒旋空の射程に捉えられたらアウト。海の上じゃ逃げ場がないもの)

 

ツグミのシナリオの要は東の推測通りグラスホッパーである。

所持者本人が使用して近寄って来るというのもあるが、仲間に踏ませるという形でも使用ができる。

よって生駒隊は隠岐・南沢のふたりが持っているので、彼らに生駒・水上の援護に使用されると同時に4人で囲まれてしまう恐れがあった。

そこでまず隠岐を落としてグラスホッパー持ちの数を減らした。

複数の敵が同時にグラスホッパーで接近すれば、さすがの彼女でも苦戦する。

南沢ひとりのグラスホッパーでは生駒・水上の同時援護は無理であるから、どちらかひとりの援護しかできなくなるわけだ。

ツグミが灯台から攻撃する作戦に至った理由は生駒旋空と射手(シューター)である水上の射程を警戒してのもので、南沢も弧月に旋空を使うかもしれないが、彼の腕では大した脅威にはならないと彼女は考えている。

これは王子隊にも当てはまる。

王子隊は攻撃手(アタッカー)であっても追尾弾(ハウンド)を装備しているから、射程には気を付けなければならない。

 

(わたしを無視して6人で乱戦になる可能性も捨てきれないけど、そのために戦闘フィールドを大幅に削ったステージを選んだのだものたぶん大丈夫。それにいざという時には火力でねじ伏せるって手もあるし。あまり使いたくはないけど…)

 

 

ツグミがそんなことを考えている一方、解説席の桜子が現状を告げる。

 

「生駒隊、王子隊共に3人で固まって動きが止まった! やはりこれは霧科隊長の狙撃を避けて対策を練っているのでしょうか!? 一方、霧科隊長は灯台から動かない! さあ、どうなる!? 古寺先輩はどう思われますか?」

 

桜子が古寺に訊く。

 

「霧科くんは隠岐先輩への狙撃にイーグレットを使用しましたが、例のアイビス(カノン)を装備している可能性が高い。生駒隊・王子隊共に下手に姿を見せれば砲撃される可能性もあるので固まって動くのは危険です。しかしだからといって散ってしまえば数の有利の意味が減ってしまいます。今は確実に彼女を倒せる手段が考えつくまで安全な場所で動かないのがいいでしょう」

 

「しかし無理に彼女を倒そうとはせず、6人だけで戦えばいいのでは?」

 

「霧科くんの死角となる場所は限られていて、ホテル棟の裏くらいしかありません。ですがそこも森林地帯ですからどちらの部隊(チーム)も本来の動きができず苦戦する。ならば共闘してでも霧科くんを先に落とそうとするでしょう」

 

「ランク戦で共闘? それはRound2で玉狛第2が諏訪隊を利用して荒船隊を追い詰めたようなものでしょうか?」

 

「そうです。もっとも今回はどちらが利用し、利用されるかわかりませんけどね」

 

そう言って古寺は再びメインモニターを見つめた。

 

 

 

 

その頃、生駒隊は古寺の推測通りに作戦を練っていた。

 

「ツグミちゃんの狙撃をなんとかせなあかんな…」

 

生駒がぼやくように言う。

 

「それより彼女を無視して王子隊を取りに行きましょうよ」

 

南沢の意見に首を横に振る生駒。

 

「あかん。仮に王子隊と戦おうとしても彼女の狙撃からは逃れられん。彼女、イーグレットなら動く的でも1000は軽くいけるらしいで」

 

「1000って、マジっすか!? でも北側の駐車場ならコテージ棟で死角になるんじゃないですか?」

 

「例のアイビス(カノン)でコテージごと吹っ飛ばされるかもしれへん。アレは狙撃やない、砲撃や。 …ああ、もうじゃまくさいわ!」

 

生駒と南沢の会話に水上が加わった。

 

「ホテルん中突っ切れば、狙撃されずにある程度の距離までなら行けるんちゃいます? あとは俺が灯台のある防波堤と、イコさんが砂浜(ビーチ)沖の防波堤、海は砂浜(ビーチ)からと、3人バラバラに3つのルート使こうて接近。まず俺が先に攻撃すると見せかけ近付く。すると彼女が俺に気ぃ取られて攻撃するはずや。その隙に海のグラスホッパーとイコさんの旋空弧月で…ちゅう作戦はどうやろか?」

 

「ええねんけど女の子を野郎3人で袋叩きっちゅうのはいい気がせぇへんな。それに俺が斬る前提になっとるやん。俺が悪役引き受けんの? 俺は女の子斬ったらあかん顔やろが」

 

生駒は不満を漏らすが、水上は続ける。

 

「そないなこと言っても誰かがやらなあかんでしょ、ランク戦なんやし。それに俺たちがやらんでも王子隊に殺られてしまうがな」

 

「そやな…」

 

「それに王子隊3人に囲まれて追尾弾(ハウンド)でボコボコにされるより、イコさんの弧月でバッサリやった方が彼女も納得するんちゃいます?」

 

「なんやねん、その理論?」

 

生駒は不服そうな顔をするが、水上は引き下がらない。

 

「イコさんとはゴーグル仲間やし、ツグミちゃんはいい子やさかい、こないなことでイコさんのこと嫌ったりせぇへんと思いますわ。むしろイコさんのカッコ良さに惚れてまうかも」

 

南沢が同意とばかりにうんうん頷いている。

 

「そうか? まあ、しゃーないな。そやけどツグミちゃんだけやのうて王子たちにも気ぃ付けなあかんで」

 

「了解」 「了解っす」

 

生駒隊の作戦はほぼ決まったようだ。

 

 

 

 

そして王子隊も生駒隊と同様に作戦を練っていた。

 

「つぐみーは狙撃手(スナイパー)としてだけでなく攻撃手(アタッカー)射手(シューター)としてもマスタークラス。おまけに強化視覚(サイドエフェクト)でぼくたちの動きは丸見えという面倒な相手だ」

 

王子がぼやくと樫尾が意見をする。

 

「たしかに相手をすると面倒ですけど、無視して生駒隊を取りにいけばいいんじゃないですか?」

 

「いや、オッキーが落ちたとはいえイコさんたちを相手にするのはつぐみーを始末してからでないと難しいな。彼女の死角になるホテル北側の森はさっき見たようにぼくたちだけじゃなく生駒隊も思うような動きができない。それに彼女ならアイビス(カノン)で建物を砲撃して裏側にいるぼくたちを瓦礫で生き埋めにするなんて無茶苦茶なことをするかもしれない。あの火力なら不可能ではないからな。だからここで悠長に作戦会議をしているわけにもいかないぞ」

 

狙撃手(スナイパー)の居場所がわかっていて手出しができないというのは面倒だな。ある程度まで近付ければ攻撃できるが、たどり着くまでの間に狙撃されたらおしまいだ…」

 

蔵内がため息混じりに言う。

そこで王子が提案した。

 

「3人同時に別方向から襲撃するという手もある。たぶん生駒隊も同じことを考えているに違いない。だったら面倒なつぐみーを生駒隊に片付けてもらい、その背後からぼくたちが生駒隊を強襲するというのはどうだろうか? たぶんつぐみーのことだから敵が複数で同時に近付いた時の準備もしているはずだけど、生駒隊もバカじゃないからそれなりに立ち回ってくれるだろう。彼女が落ちればぼくたちは枷がなくなるし、生駒隊の背後を取っているからその後の展開も楽だ。もし彼女が生駒隊にいくらかでもダメージを与えてくれれば、ますます楽になる。まあ、タイミングが難しい作戦になるが、ぼくたちならやれるはずだ。いいな?」

 

蔵内と樫尾は大きく頷いた。

 

「「了解!」」

 

 

 

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