ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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64話

 

 

解説席の3人は生駒隊と王子隊の作戦会議の様子をモニターで見ていた。

フィールド内での会話は聞こえないが、その行動である程度の予測ができるものだ。

そこで東の解説が入る。

 

「やはり先に霧科を落としにかかるようですね。まあ、このままでは彼女の狙撃で思うように動けませんから仕方がありません。 …っと、まず生駒隊が先に行動を開始したようです」

 

「しかし迂闊に近寄れば狙撃の的にされます。生駒隊はどのようにして接近するとお考えですか?」

 

桜子に訊かれ、東は少し考えてから答えた。

 

「そうですね…灯台へ至るルートが3つ。生駒隊は3人。それぞれ別のルートで進んで攪乱すれば霧科も対応しきれない、と考えているでしょう。まあそれは彼女も何らかの対策はしているでしょうが、未だに大きな動きが見られないのは不思議ですね。普通に考えればとっくに防波堤をアイビス(カノン)で破壊していてもおかしくない」

 

「もしかしたら今回はアイビス(カノン)を装備していないとか?」

 

「まあ、それも考えられますが、彼女のことだからそう思わせておいて近付いた敵を防波堤ごと吹き飛ばすということもありえます。だから生駒隊・王子隊共に慎重にならざるをえません。Round3ではアイビス(カノン)の凄まじい砲撃を見せられましたからね」

 

 

様子見といった感じでツグミは灯台の上で沈黙していた。

そこに栞からの通信が入る。

 

[ツグミちゃん、敵の動きが見える?]

 

[はい、たぶん生駒隊だと思いますが3人共バッグワームを起動してホテル棟の中を移動しているみたいですね。わたしの狙撃を警戒しているんでしょう。2-1に別れて行動しているようですから、それぞれ別方向から同時に襲撃するって作戦だと思います。だからあえて気付かないふりをしておきます]

 

[もちろん準備はOKだよね?]

 

[はい、シオリさんは夜の部に備えてゆっくりと見物していてください。いざという時にはヘルプお願いするかもしれませんけど]

 

[了解(ラジャ)]

 

通信を切ったツグミは生駒隊の動きよりも王子隊に注意を払っていた。

 

(王子隊は…王子さんのことだから生駒隊の動きを読んで彼らを囮にし、さらに背後から攻撃する気なんでしょうね。 …っと、どうやら王子隊が動き始めた。ああ、やっぱり生駒隊と同じ動きをしてる。バッグワームを起動しているから生駒隊には気付かれていないでしょうけど、生駒隊だってバカじゃないから用心はしているはず…)

 

解説席でも王子隊が行動開始したことを確認していた。

 

「ようやく王子隊も動き始めた! この動きは…生駒隊の背後を取るつもりだ! しかし霧科隊長はまだ動かない! これはどうした!? このまま何もしなければ3方から囲まれて逃げ場がなくなるぞ!」

 

桜子は何も知らない。

ツグミの迎撃準備は既に済んでいるのだ。

といっても罠を仕掛けるといった目に見えるものではない。

彼女の「心の中の準備」ができたということである。

様々なパターンの攻撃を想定し、反撃のイメージトレーニングを繰り返した。

だからどんな状況であっても冷静に対処できるようにしてある。

そして東はツグミの()()を見て含み笑いをしていた。

 

(相変わらずだな、おまえは。昔とちっとも変わっていない。あの頃もあえて自分を追い詰めるようなことをし、それから大反撃をするというのが好きだったよな。難しい条件の方がやる気が出ていつも以上に力を出せると言っていたが、たしかにその通りだった。だが俺はいつもハラハラしていたんだぞ。おまえが俺の部隊(チーム)を離れて2年半、またこんな気持ちにさせるとは…。まあ、好きにやってみろ。これはおまえ自身の戦いなんだからな)

 

古寺はというと、ツグミのことを良く知らないために彼女がやろうとしていることがまったくわからずにいる。

 

(このステージなら防波堤を破壊するのが定石のはず。なのになぜ動かないんだ? やっぱり防波堤ごと敵を吹っ飛ばす気なのか?)

 

そうこうしているうちに生駒隊がスタート地点に着いた。

灯台から北西約150メートルの砂浜に南沢がスタンバイ。

灯台から見て真っ直ぐ北に向かう防波堤の約100メートルの位置に水上。

東西に伸びる一番灯台に近い防波堤に生駒。灯台からは約250メートル離れている位置にいる。

この防波堤の東端は灯台まで約50メートルの距離があるから、生駒旋空は灯台まで届かない。

だから南沢の援護によってジャンプし、生駒旋空を放つ予定であった。

さらに王子は水上の、蔵内は生駒の、樫尾は南沢のそれぞれ背後約50メートルの位置にいる。

6人すべてがスタンバイするまでの間、ツグミは一切彼らに手出しをしなかった。

それを彼らは訝しむが、だからといって計画の変更はない。

まず一番に行動を開始したのは囮役の水上で、全力で灯台へ向かって走り出したのだ。

 

(来た! やっぱり水上さんが囮ってわけね。じゃ、本命目がけて…行動開始!)

 

ツグミは水上の動きを確認した上で、灯台から飛び出した。

 

「グラスホッパー!」

 

グラスホッパーを起動すると、それを踏み台にして海を挟んだ西側海上の防波堤にジャンプした。

 

「おわっ、俺かい!?」

 

生駒は想定外のツグミの動きに驚くが、彼女が()()()でいるのに気付き旋空を撃つために弧月の柄に手をかけた。

南沢はグラスホッパーの準備をしていたが、ツグミが生駒と同じ防波堤にジャンプしたために援護の必要がなくなったので、生駒の攻撃のタイミングを見て自分も攻撃を仕掛けることに決めた。

生駒は防波堤の上を走り出し、ツグミも同じように走り出す。

 

(わたしが旋空の射程まで近付いたところで撃つつもりなんでしょうけど、そうはいかないわよ!)

 

「エスクード!」

 

ツグミは十数メートル走ったところで急に止まり、生駒の行く手を阻むようにエスクードを出現させた。

 

「な、なんや!? エスクードやないか!?」

 

ぶつかりそうになって慌てて立ち止まる生駒。

エスクードは敵からの攻撃を防ぐ頑丈なバリケードであるから、通常は敵の攻撃に対して展開する。

それがいきなり何もしないうちに出現し、それも自分のすぐ目の前だったのだから驚くのも無理ない。

 

「こないなもんで俺を足止めする気かいな!? せやけどジャンプすれば…!」

 

生駒はジャンプしてエスクードを乗り越えようとする。

 

「イコさん、ダメです!」

 

南沢が叫ぶが、もう遅かった。

生駒は大きくジャンプしてエスクードを飛び越えたが、着地した彼の前方にはアイビス(カノン)を構えているツグミがいた。

 

「おわっ!? シールド!!」

 

「アイビス・カノンモード…発射(ファイア)!」

 

生駒は慌てて両手でシールドを張るが、ツグミのアイビス(カノン)の前では両防御(フルガード)など意味をなさず、一瞬にして戦闘体を木っ端微塵にされてしまった。

さらに生駒の後方の防波堤の上にいた蔵内もエスクードが目隠しになっていて砲撃から逃げることができずに巻き込まれ、ふたり続けて緊急脱出(ベイルアウト)となる。

 

「生駒隊長、蔵内隊員、緊急脱出(ベイルアウト)! 恐るべしアイビス(カノン)! 霧科隊長、一気に2点もぎ取った!」

 

解説席で桜子が叫んだ。

東と古寺は目を大きく見開いてメインモニターを見つめている。

そのモニターの中ではツグミが次の動きに移っていた。

南沢がグラスホッパーを使ってツグミの的にならないよう細かく動き回りながら彼女に接近していたのだ。

 

「懐に飛び込めばこっちにもんだ!」

 

南沢は弧月を握り締めてツグミを急襲するが、これはツグミにとっては想定内のことである。

 

通常弾(アステロイド)!」

 

左手を真っ直ぐに伸ばしたツグミがそう叫ぶと、南沢は彼女からの攻撃を警戒して彼女の射線から逃れる動きを見せた。

通常弾(アステロイド)なら弾は直線にしか飛ばないので、射線から逃れるのは雑作もない。

しかし彼女は背後に隠していた右手から追尾弾(ハウンド)を放つ。

南沢の動きに合わせて即座にアイビス(カノン)から追尾弾(ハウンド)にトリガーを切り替えていたのだ。

 

「うわっ!?」

 

南沢は意表を突かれた上にグラスホッパーでの移動であるから思うように回避できずにヒットしてしまう。

さらに落下する南沢に、ツグミはトドメとして左手に握った弧月で斬りつけた。

胴を真っ二つに斬り裂かれた南沢はトリオン供給機関破損でそのまま緊急脱出(ベイルアウト)となる。

 

「おおっ!? 霧科隊長は通常弾(アステロイド)を放つと思わせながら追尾弾(ハウンド)を放った! そして空中でバランスを崩した南沢隊員は弧月でトドメをさされてしまった!!」

 

「これはよく水上が使うフェイントですね。掛け声と実際に放つトリガーが違うという騙し討ち(ブラフ)は彼がランク戦で使用していますが、霧科がこれを利用するのは意外です」

 

東が片笑んだ。

 

「そうですね。でも意外というなら霧科隊長が左手で弧月を使ったこともです。彼女は近距離戦だと右手に弧月、左手にレイガストというスタイルですから、右利きだと思ってました」

 

桜子が言う。

 

「いや、彼女は状況に応じてトリガーを入れ替えますから、どのトリガーも左右どちらの手でも同じように使えるように訓練してあります。まあ、通常は弧月を右手(メイン)で持ちますが、たぶんトリガーのセットの関係で今回は左手(サブ)にしていたのかもしれません」

 

「ほう…そういうことでしたか。…っと、フィールド内では動きが…。生駒隊長・蔵内隊員・南沢隊員と立て続けに3人が緊急脱出(ベイルアウト)したことで残った王子隊長と樫尾隊員、そして水上隊員はそれぞれ一旦撤退するようだ!」

 

当初の目論見が外れた両部隊(チーム)は一時撤退し、改めて作戦を練り直すことにしたらしい。

ツグミの狙撃を避けるために樫尾は背後のホテル棟の中へ避難し、王子はツグミの死角になるホテル棟の陰に身を潜め、水上は港の管理棟の後ろに隠れた。

 

 

「これはなかなか面白い展開だな、なあ古寺?」

 

東が古寺に言う。

 

「はい。エスクードで生駒隊長の視界を遮り、彼がジャンプする僅かな時間でアイビス(カノン)を起動。幅が2メートル弱の狭い防波堤ですから、構えてさえいえれば真正面に的が現れます。生駒隊長は霧科くんが手ぶらの状態で向かって来る気配を見せたことで、狙撃手(スナイパー)用トリガーはないと判断したのでしょうが、それが敗因ですね」

 

「そして彼女の射線上に蔵内がいたことで彼も巻き込まれて二枚抜きとなってしまった。これは襲撃のルートを直線上に限定したことでできたこと。それもエスクードごと蔵内を吹き飛ばすとは、彼女ならではの芸当だ。一方、南沢は逃げるという選択があったにもかかわらず攻撃するという道を選んだが、これはマズかったな」

 

「そうですね。普通の狙撃手(スナイパー)に対してなら懐に飛び込んで弧月で斬りかかるというのはアリです。しかし霧科くんは瞬時に近・中距離用トリガーに切り替えて戦うことができますから。たぶん南沢にはそのことが念頭になかったのでしょう」

 

東と古寺が会話しているところに桜子が割って入った。

 

「あの…お話中申し訳ありません。ひとつ訊いてもいいですか?」

 

「どうぞ」

 

「なぜ霧科隊長は生駒隊長を攻撃する際に、灯台の上からでなく離れた防波堤に飛び降りてから攻撃したんでしょうか? 後方にいた蔵内隊員との二枚抜きをするためでしょうか? 彼女には生駒隊長の後方にもうひとりいることはわかっていたはずですから」

 

桜子が東に訊く。

 

「う~ん…それもあると思いますが、たぶん水上を一時的に駒として浮かせるためではないかと。彼はグラスホッパーを持っていませんから、南沢の援護がなければ霧科を追うことができません。生駒隊は3人で攪乱、さらに同時攻撃を仕掛けるはずだったのでしょうが、霧科が灯台に立てこもっていることを前提として考えた作戦ですから、彼女に移動されてしまえば作戦そのものがご破算になってしまいます。実際、北側から地続きで接近していた水上は灯台を射程に捉える場所まで来ましたが彼女に逃げられたような形になり、手も足も出なくなってしまいました。たぶん生駒隊の作戦は水上が囮役となって近付き、霧科が水上を攻撃するところを脇から南沢のグラスホッパーによる援護で生駒が接近して斬りかかるというものだったと推測されます」

 

東の解説は続く。

 

「しかし実際には霧科が彼らの作戦の裏をかいたことで、南沢の役割が変わってしまいました。ここで南沢がとっさに頭を切り替えて水上のフォローに入り、水上が霧科の背後を取ることができたならあるいは…。いや、そうなる展開も霧科なら考慮していたでしょうから、水上と南沢のふたりがかりでも霧科を落とせたかどうかは怪しいです。想定外のことですし、目の前で隊長が落とされたのですから血が頭に上っていて、いつものような連携した攻撃はできなかったでしょうから」

 

「真っ先に生駒隊長を派手に落とすことで南沢くんと水上先輩を動揺させ、冷静な思考力を奪う計画であった…というのなら霧科くんはとんでもない策士ですね」

 

古寺がそう付け加えた。

すると桜子が訊く。

 

「なるほど…。そうすると古寺先輩は霧科隊長がこれからどう動くと思われますか?」

 

「積極的に攻撃に出るか、それとも敵が近寄って来るのを待つか…。この場合、海上という有利な地形を生かした戦術が成功しているのだから後者を選ぶのが普通ですが、霧科くんならその裏をかいて前者を選ぶことも考えられます」

 

「では、東さんにお聞きします。霧科隊長は東さんの元部下でお弟子さんですから、彼女の考えはおわかりになりそうなものですが、いかがでしょうか?」

 

「う~ん…たしかに俺は彼女に戦術の基本を叩き込みました。ですが彼女はその基本を踏まえつつも独自の戦術を生み出す。特にランク戦では思いもよらぬ戦い方を見せ、こちらをハラハラさせます」

 

東はそう答えて苦笑いした。

 

 

 

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