ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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632話

 

 

当初の予定では三門スマートシティはアフトクラトルによる大規模侵攻で天羽が更地にしてしまった場所の再開発事業で、トリオンとトリガーの技術を取り入れた実験的な意味合いを持つ街になるはずだった。

したがって近界民(ネイバー)が住むという計画はなかったのだが、拉致被害者市民への補償として住宅を提供したことで自然と近界民(ネイバー)の受け入れ先ともなった。

第2期工事も順調に進んでおり、7月上旬の完成を目指している。

第1期エリアの住宅地では三門市民と共に帰化した近界民(ネイバー)たちが暮らしており、その様子から「近界民(ネイバー)は危険な存在ではない」と判断されたことで三門市全域が「トリオン特区」として正式に認められたのだ。

それは与党で大きな影響力のある大迫代議士の力があってこそで、政府は近界民(ネイバー)と交流することによるリスクを危惧していたが、リスクをはるかに上回るリターンに対して魅力を感じるようになっていったということだ。

しかし近界民(ネイバー)はタダの外国人ではなく、一般には異世界人(エイリアン)として認識されているので大歓迎というわけにはいかない。

そこで三門市を実験場として近界民(ネイバー)の持つトリオン技術の()()だけ吸い取ろうというのが政府の考えだ。

この実験が上手くいけばそのまま進めれば良いのだし、具合が悪いとなれば責任を三門市とボーダーに押し付けようという腹の内は見え見えだが、ボーダーとしてはそんな狸ジジイどもを利用させてもらおうというのである。

 

「スマートシティの敷地に隣接した約4万平方メートルの放棄地区を政府で買い上げてトリオン技術に特化した大学と研究施設を建設するという案も出ているそうです。現状では三門市立大学の研究室でトリオンの構造を明らかにする研究を細々と行っているというレベルですから、そこでツグミくんの提唱した『個人のトリオン能力にはその食生活が大きく影響を与えている』という仮説を証明してもらおうと東くんを通して大学に依頼をしました」

 

「その仮説の件ならさっきツグミと少し話をした。人為的にトリオン器官を発達させる手段があれば現在の化石燃料を使用することによる環境問題を解決する道が開けるかもしれない。トリオン技術の平和的利用を目的とした研究は今後重要なものとなるのは明白で、それを独占できれば莫大な利益を生むビジネスとなる。だから民間のボーダーだけに任せておくのではなく、国家として介入しようというんだろうな」

 

「でしょうね。それと厳重に管理して外国に技術が漏洩しないよう徹底させるにはこの三門市はちょうどいいんですよ。ボーダーは対近界民(ネイバー)を想定した防衛組織で防衛隊員のレベルは一定の水準に達しています。言ってみれば既存の兵器が通用しない軍を持っているようなものです。おまけに過去に外国のスパイが何度も侵入していますがすべて排除しています。なにもボーダーが対近界民(ネイバー)に限った組織ではなく、必要であればその力をこちら側の世界の人間に対してでも行使するのだと知らしめれば最悪の事態にはならない。なにしろボーダーは近界(ネイバーフッド)の国々と同盟関係を結んでおり、後ろ盾はバッチリですからね。政府がボーダーに代わる組織を持つことは不可能。ならばボーダーのある三門市…この本部基地は機密情報を守る牙城として唯一絶対無二の存在なんですよ」

 

唐沢の話を聞いて城戸はため息をついて言った。

 

「ハァ…。人間の心の中から権力争いや暴力、他者への嫉妬などの醜い感情を消し去る道具(トリガー)があったならどれだけ素晴らしい世界になるだろう。そんなことを考えてしまったよ。人が己の手の届く範囲のささやかな幸せだけを望んでいたならば兵器や武器などを欲するはずがない。ましてや核などといった大量破壊兵器を持とうとする奴らの気が知れない」

 

「核とは物騒ですね。まあ、核ではなくても身に余る兵器を持つこと自体が人類の幸福につながるわけがありません。ボーダーだってこちら側の世界の人間の人智を超える武器を持ってしまったことは決して喜ばしいことではないんですから。当時は持つという選択肢しかなかったためで、必要としないのなら手放したいところですよ。武器(トリガー)を持つのが若者たちであればなおさらで、武器や兵器としてのトリガーが不要な未来になってもらいたい。ツグミくんの影響を受けておれでもそんなことを考えるようになりました。昔は逆の立場…後ろ暗い組織で資金集めをしていたおれですが、あなたに正義の組織(ボーダー)へスカウトされたことでずいぶんと変わったと思います。…おれもそろそろ身を固めてカタギの世界で生きたいと思ってはいるんですが、この街で生きていくのであれば家族が安心して暮らせるようにしてからだと考えてしまうんです。だからなかなか踏み切れずにいて…。これでもフットワークは良い方だと思っていたんですけどね。ラグビーやってましたから」

 

唐沢は苦笑しながらそう答えた。

 

「まあ、それはともかく大人は子供に健やかに生きる環境を整えてやらなければならない責任があります。特にボーダーの人間は()を持つんですからそれを正しく行使しなければいけません。多くの犠牲の上にこの平和が成り立っているんですから、犠牲となった者たちのためにもおれたちは戦わねばなりませんが、次にボーダーの敵となる相手が近界民(ネイバー)であっても、またこちら側の世界の人間であってもやることはひとつです」

 

「そうだ。そのために私はまだこの舞台から下りるわけにはいかない。私にはやるべきことが残っているのだからな。きみにもしばらく付き合ってもらうことになるが、私のように手遅れになる前に家族を持っておいた方がいい。大切なものを失いたくないという気持ちは人を強くする。私は大切なものを過去に失った。だから二度と失うまいと今を戦っているのだが、その大切なものに力を与えられ、疲れ果てた心と身体を癒してもらっている。人によって幸せの形は違うのだから他人の目に私の姿がどう映るのかはわからないが、私自身は幸せだと感じている。身に余るほどの幸福を与えてもらっている以上、私は()()()()の行く末を見守り、彼らに幸多かれと祈ることしかできない。私はボーダーの最高司令官という肩書を持つため強い人間だと思われているが、それは私に与えられた役を演じているだけだ。実際の私は弱く愚かな人間なのだよ」

 

「……」

 

「こんなことを他人に言うなんて私らしくはないが、今はなぜか誰かに聞いてもらいたかったのだ。みっともない姿を見せて済まなかった」

 

「いえ、お気になさらずに。少し驚きはしましたが、たまにはいいんじゃないですか? それにおれのことを心を許しても大丈夫な人間だと認めてもらったようなものですからむしろ嬉しいです」

 

「それなら安心した」

 

城戸の意外な一面を見た唐沢だが、その理由はすぐにわかった。

 

(城戸司令はさっきツグミくんと話したと言っていた。仕事の上での話だろうが、彼女のことだから城戸司令の()()()()()()()を刺激したにちがいない。彼女の言葉には時々胸を締めつけられたりハッとさせられることがある。大人特有の醜さや汚れた部分を指摘するのではなく、そうならざるをえなかった状況を思い浮かべ、相手の欲しいと思う言葉を投げてくれるんだ。彼女にその意図はないが、受け取った方にとっては許しを与えられたように感じて嬉しくなり、それと同時に大人になって失ってしまったものの大切さを思い知らされる。子供の頃には見えなかったものが大人になって見えるようになるのと引き換えに子供の頃に持っていたものを失ってくのだろうかと考えさせられたこともあった。きっと城戸司令にも何か思うところがあって、そのせいで()()()()()姿を見せてしまったのだろうな。…しかし普段見られない人間らしい姿を見せてもらって驚きましたが、だからといってあなたへの信頼は変わりません。むしろあなたのことをもっと支えたいと思いましたよ、城戸司令)

 

城戸は気恥ずかしいのか視線を逸らしながら言う。

 

「ところで話は変わるが以前ツグミがきみに依頼した家畜の飼育実験のことなんだが、あの子が見に行きたいと言っている。もし時間があるなら案内してやってくれないか? 場所さえわかれば勝手に行くだろうが、先方の酪農家とは面識がないのできみがいてくれた方が話も進めやすいだろう」

 

「ええ、かまいませんよ。でしたらツグミくんと直接話をして都合を合わせます。今の彼女はなんだか忙しそうですからね。拉致被害者市民救出計画を三雲くんに任せて彼女は別件で動いているみたいですね? ああ、別に教えてほしいということではなく、ただちょっと気になったものですから。彼女が総合外交政策局長として別件で動いているとは思えないもので、そうなるとおれたちの知らないところでヤバイことが進んでいるんじゃないかと。…城戸司令、顔色が変わりましたね? 大丈夫、詮索はしません。ですがおれの力が必要だと判断したら遠慮なく声をかけてください。非合法なことでもやらせてもらいますから」

 

「…きっときみの力を借りることになるだろう。その時にはぜひ頼む。それまでは…」

 

「わかっています。ツグミくんにも気付いていないフリをしますから」

 

「感謝する」

 

そうひと言だけ言って城戸は頭を下げた。

 

 

◆◆◆

 

 

それから2日後の朝、ツグミと迅は唐沢の運転する車で蓮乃辺市にある牧場へと向かっていた。

ツグミは自分の仮説を立証するための実験を依頼している酪農家を訪問することにし、その酪農家と知り合いである唐沢が案内してくれることになったのだ。

話によるとその酪農家とは唐沢の前職の同僚で、父親が他界したことで実家の家業を継ぐために組織を離れたのだという。

唐沢の前職が「黒服の組織」であるとかないとかいろいろな噂があるが、その頃の同僚となれば相当な切れ者だろうとツグミは勝手に想像していた。

ところが実際に会ってみて自分の先入観や憶測が的外れであったことを思い知らされたのだった。

 

「はじめまして。この松井牧場の経営者の松井龍雅(まつい りょうが)です」

 

そう言ってにこやかにツグミと迅に握手を求めてきたのは身長が2メートル近い大柄で温厚そうな男性であった。

 

「はじめまして。ボーダー総合外交政策局長の霧科ツグミです。このたびはわたしの個人的なお願いのためにお手数をおかけし申し訳ございません。遅ればせながら今日はご挨拶とお礼にまいりました」

 

「いや、大したことじゃないよ。牛飼いは牛を育てるのが仕事。そのついでに何かの実験に付き合っているってだけで、それが克己の頼みとあったら断れないしね」

 

「そう言っていただけると気が楽になります。できることなら自分の手でやりたいことですけど、素人のわたしには無理です。やはり餅は餅屋といいますから、顔の広い唐沢部長にお願いしたんです」

 

「たしかに克己に頼めばどんなことでもやってくれるからね。私も昔一緒に働いていて心強かったな。私とこいつは同じ(グループ)で10年近く人には言えないようなことをやっていたんだ。今はこうしてカタギになって牛飼いをやってるが、まさかこうしてまたこいつと関わってくるとは想像もしていなかったよ」

 

そう言って松井は頭を掻いた。

短いぼさぼさの髪がさらにくしゃくしゃになるが一向に気にしていないようだ。

 

(この人…なんとなく影浦隊の北添(ゾエ)さんを思い出させる人だわ。たぶん仲間から慕われていた愛され枠だったんだろうな。唐沢部長の前職の同僚ってことはこの人も黒服を着ていたってことなんだろうけど、この体形だと特注の服を着てたわね、きっと)

 

などと考えていると、松井がツグミの心の中を読み取ったかのように言った。

 

「これでも昔はそこにいる克己よりもスマートでイケメンだったんだぜ。今はこんなだから想像もできないだろうけどね、ハハハ…」

 

「いえ…失礼しました」

 

つい謝ってしまったツグミ。

そんな彼女の様子を見ていた唐沢は後ろを向き、声は出さないものの肩を揺らして笑っている。

 

「この仕事は体力勝負だから自然とこうなってしまうんだよ。さあ、こちらへどうぞ。私の自慢の()()()を紹介します」

 

松井はそう言って牛舎へとツグミたちを案内した。

松井牧場はホルスタイン種の乳牛を約40頭飼育していて、搾乳した生乳の9割が牛乳として市販されて残りの1割は牧場の一角にある工房でチーズなどの乳製品に加工して販売している。

またカフェも併設していて、ソフトクリームと地産野菜を使ったピザが人気だそうだ。

そして現在8頭の仔牛がいて、4頭ずつ分けてそれぞれに「トリオン入り」と「トリオンなし」の2種類の餌を与えてトリオン器官の成長の違いを確かめる実験をしている。

ほぼ同時期に生まれた仔牛で体格も近い個体を集め、離乳期を迎えた時点で4頭には近界(ネイバーフッド)から取り寄せた牧草やトウモロコシなどトリオンを含む大地で育った餌を各個体に同量与える。

残りの4頭は玄界(ミデン)で生産した同種の牧草やトウモロコシを同量与えて、10日ごとにトリオン量の測定を行うのだ。

松井は具体的なことは知らされておらず、ただ2種類の餌の違いで成長がどう変わるのかを調べているだけである。

しかしボーダーの依頼となれば元黒服の組織の人間なら薄々勘付いているはずだが、あえて知らないフリをしてくれているところはありがたい。

専用の牛舎はボーダーが資金を援助して建てたもので、清潔な良い環境の下で仔牛はすくすくと育っていた。

壁際にはトリオン測定用の機材が設置されていて、測定したデータは自動的にボーダー本部基地の研究室(ラボ)へと送信されるのだそうだ。

だから数値を知りたいだけならわざわざ足を運ぶ必要はないのだが、ツグミは実験を手伝ってくれている松井に挨拶とお礼をすべきだと考えて訪問することにした。

…というのは表向きで、牧場で飼育されている羊やニワトリと戯れたいというのが本心である。

 

「この手前にいるのがボーダーから提供された飼料を与えているグループで、奥にいるのが普通の飼料を与えているグループ。見た目は特に違いはないんだが、この計測器を使うと明らかに違うということがわかるんだよ。これを見てくれ」

 

松井が見せたのは8頭の仔牛のトリオン量の推移を示したグラフだ。

それぞれ個体にはA-1やB-2という名称が付けられていて、その数値を見ればグループAがトリオン入りの餌を与えられていて、グループBが普通の餌だということはわかる。

グループAの中でも個体差はあるが、平均するとグループBの数値の1.4倍のトリオン値を示していた。

育てる環境はまったく同じなので、与えた餌による効果で数値に違いが出てきたのは間違いないだろう。

 

「克己に頼まれたのは仔牛のデータだけなんだが、私の独断でニワトリにも同じようにふたつのグループに分けて実験をしているんだよ。こっちの方は成長が早いせいか数値の違いが顕著に出ているね」

 

もうひとつのグラフにはニワトリ20羽を10羽ずつ分け、仔牛と同様にグループAとグループBでそれぞれ数値を測定している。

実験開始時はヒヨコだったものが1年も経つと立派な雌鶏になっていて、7ヶ月前からは卵を産んでいるのでご丁寧にもその卵に含まれるトリオンの数値まで調べてくれていた。

ニワトリ自体のトリオン値の違いはグループAがグループBの数値の2.3倍を示している。

そして卵に含まれるトリオンはさらに差が大きくなって2.7倍という驚くべきものとなっていた。

 

「近いうちに乳牛も搾乳することになるから、その生乳に含まれる()()()()の数値も測定してデータを送っておこう」

 

「ありがとうございます」

 

ツグミが礼を言うと松井はにこやかに笑って言う。

 

「それでこれはきみが望む結果なのかな?」

 

「はい。自分の仮説を立証するには裏付けとなるものがまだ足りません。ですが松井さんのおかげで上の人間を動かすことができるようになりますから、次の段階に進めると思います。予定よりも早く結果が出そうなので、ますますやる気が出ちゃいました」

 

「そうか…。そう言ってくれると私も協力しようという気持ちになれるというもんだ。…正直言うとボーダーが家畜の餌の研究をしているという点が腑に落ちないし、いくら克己の頼みであっても意味不明なことをやっていて、このデータが好ましいものなのかそうでないのかわからないってのは不安と言うか…なんかモヤモヤしていたからな。でも安心した」

 

そして嬉しそうな顔で松井はツグミに言う。

 

「そうだ、もうすぐ昼飯の時間だろ。ウチの店のピザを食べてくれ。それときみはモフモフの動物が大好きだって聞いているけど、時間に余裕があるなら昼飯の後に羊の毛刈りをやってみないか?」

 

モフモフと触れ合うことを目的としていたツグミにとって羊の毛刈り体験は願ってもないことだ。

 

「ぜひお願いします!」

 

これ以上ないというほど嬉しそうな顔をするツグミのことを迅と唐沢は微笑ましいという表情で見ていて、松井と談笑しながらカフェへと向かう彼女の後を付いて行くのだった。

 

 

 

 

松井牧場で羊の毛刈りや搾乳体験、乗馬などを目いっぱい楽しんだツグミは疲れてしまったのか、帰りの車の中ではぐっすりと眠ってしまった。

こうなることを予測していたのか唐沢は毛布を用意してあり、途中の道の駅で車を停めて後部座席で眠っている彼女にかけてやった。

 

「唐沢さんも未来が視えるようになったんですね?」

 

助手席の迅が唐沢に言うと、唐沢は当然とばかりに答える。

 

「ツグミくんの嗜好と行動パターンから予測できるさ。龍雅の牧場には彼女の好きな動物がたくさんいる。目を輝かせて動物たちと戯れていた姿は見ているこっちが幸せな気分になれるものだった。…おれは彼女のファンなんだよ。きみとは違った意味で彼女のことが大好きで、彼女が喜ぶ姿を見たいと思うのはファンの自然な心理さ。彼女は年齢以上に大人な部分があるが、逆に子供っぽいところも多い。だから動物がたくさんいるところに連れて行けばこうなることは疑いようがない。推理の初歩的だよ」

 

「そうですね。ツグミ(こいつ)は7歳で両親を亡くしてからずっとボーダーという組織の中で早く大人にならなければと無理してきましたから、心の中に無邪気で可愛い物好きの幼い女の子が未だに住み続けているんです。…近界民(ネイバー)の存在が霧科ツグミという人間の人生を大きく捻じ曲げてしまったわけですが、そもそも彼女の親父さんが近界民(ネイバー)であるという時点で逃れられない運命であったんだと俺は考えています。だから俺がそばにいて守ってやろうと決め、誰よりも近くにいることを許されたことで俺は満たされています。今の俺はこの手の届く範囲にいる人間の幸せだけを追い求めればいいだけなんです。前みたいに未来視(サイドエフェクト)で苦悩することもなくなり、なんだか解放されたって気分になりました」

 

「解放…か。たしかにきみの未来視(サイドエフェクト)で何度も助けられていて、そのことには感謝をしている。しかしきみの精神的犠牲の上に成り立っている平和におれたちは胡坐をかいていた。それが当たり前になってしまっていて申し訳ないという気持ちでいたが、そんな枷から解放されて自由になったのであればこっちも気が楽になる。これからはきみ自身とツグミくんふたりの幸せを追い求めてくれ」

 

「はい」

 

迅と唐沢がそんな会話をしているなどと露ほども知らず、ツグミはモフモフな動物たちに囲まれるという幸せな夢を見ていたのだった。

 

 

 

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