ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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634話

 

 

エクトスの軌道は非常に大きくて細い楕円を描いており、キオンやアフトクラトルなど約1年周期で玄界(ミデン)へ近付いてくる国が多い中、この国は約4年周期であるために一度チャンスを逃すと接触するのが面倒になってくる。

8年前にエクトスは三門市に第一次近界民(ネイバー)侵攻という大惨事をもたらしたが、4年前の接近時には特に何もしてこなかった。

これはツグミの推測によるものだが、4年前の5月に麟児が鳩原たちと共に三門市から姿を消したことで手引きをする人間がいなかったために8年前のような大侵攻を行うことができなかったのではないかということである。

1度目が大成功であったのだから二匹目のどじょうを狙ってもおかしくはなかったのだが、麟児…ではなくリンジからボーダーというトリガー使いの集団が現れたという報告を受けており本国は警戒はしながらもトリオン能力者の()()()として注目していた。

ところがリンジは三門市に残って引き続き調査を行うということになっていたが雨取家に馴染んでしまったことで諜報員としての職務を放棄してしまっていた。

エクトスは「第二次侵攻」を計画していたが雨取麟児となってしまったリンジからの連絡がなくなったために断念したのではないかともツグミは考えている。

仮に「第二次侵攻」があったとしてもこのタイミングであれば現ボーダーの組織が出来上がっていたから大きな被害は出さずに済んだだろうが、麟児が行方不明になっていた時期であるから千佳が無事であったかどうかはわからない。

エクトスの「神」にされていた可能性は高いし、もしかしたら彼らの情報網によって「神」を探しているアフトクラトルの四大領主の誰かに売却していたかもしれない。

そう考えると麟児の失踪は間接的ではあるが千佳の命を守っていたとも言えるのだ。

それはともかく8年という年月は関わった人間の運命を捻じ曲げ、さらに彼らの人生を大きく変えるには十分な時間であった。

当時11歳で旧ボーダーの最年少トリガー使いであったツグミは現在ボーダーの幹部メンバーのひとりとなり、総合外交政策局長という立場で近界民(ネイバー)と対話による交渉という手段で従来とは違う形の「界境防衛」を担っている。

誰もこんな未来を想像もしていなかっただろう。

迅にすら未来視(サイドエフェクト)を行使してもツグミが辿る道を視ることはできなかった。

それは定められた未来だとしても彼女が自分にとって納得できないものであればその()()を捻じ伏せて進んで行ったからであろう。

8年前のケリをつけるために、そして新たな災いの元を断つためにツグミはエクトスを目指していた。

 

 

◆◆◆

 

 

ツグミが初めて見たエクトスの光景はとても寒々しくて寂しいものだった。

以前に雪原の大国・キオンを訪ねた時はもっと雪が多くて寒かったが、それと比べて気温は高く雪も深くないというのにキオンよりも荒涼としていて、「神選び」直前のアフトクラトルと比べてもまだタイムリミットは先だというのに大地から滲み出る()()が感じられない。

エクトスは「神」の寿命が迫っていて、このままでは取り返しのつかないことになるのは誰の目にも明らかだ。

 

(麟児さんから聞いていた話よりもずっと深刻な状況になっているみたい…。アフトでも太陽の力が衰えてきて作物が育たなくなって食料不足に陥ってしまったけど、エクトス(この国)も同じような感じなのかもしれない。冬だから殺伐とした風景なのは当たり前なんだろうけど、それとは違う何か…そう、国自体の生命力が衰えて生きとし生けるものすべての存在が消えそうになっているのを感じる)

 

遠征艇から降りて大地を踏みしめながらツグミはそう心の中で呟いた。

彼女の足元は本来なら畑であるはずの場所なのだが、しゃがんで土をひと握り掴んで見てみるととても痩せているのがわかる。

これまでいくつもの近界(ネイバーフッド)の国々の土壌や水質等の調査を行っていた彼女だからこそ詳しい成分を調べなくても触れただけでわかるのだ。

冬だから何も生えていないのではなく、大地に行き渡らせるはずのトリオンが足りなくて雑草さえも生えない状態で、このままでは春を迎えることがないのではないかとさえ思ってしまう。

 

(『神』の寿命が迫っている今、最優先事項は次の『神』を探すこと。エクトスはずっと昔からたくさんの国と交易をしながら国を発展させてきたけど、実のところは友好的なフリをして各国に密かに諜報員や工作員を潜入させてその国の情報を他国に売るだけでなく、『神』となる人間も探して商売していた。実際に麟児さんも三門市に潜入していてチカちゃんを連れ去る予定だった。でも兄を演じているうちに情が湧いてしまって祖国を裏切ることになったんだからこの推測は間違っていないと思う。それにどの国も『神』っていつかは必要になるんだから高値で売ることができただろうし、自国の『神』もそうやって他国の人間を生贄にしてきたに違いない。こんな胸糞悪いことを考えたくはないけど、三門市民を大勢さらっていくつもの国に売った事実があるんだもの疑いようがないわ。そしてこの状況から『神』に相応しい人物が見付かっていないってことがわかる。だから核兵器を再現しようっていう一か八かの賭けをしているんじゃないかしら?)

 

隊商国家エクトスにおいて人間は商品であり、トリオン能力の高い人間ほど価値がある。

表向きは良心的な商売をしながら「裏」の稼業を行い、表の商売での赤字を補って余りあるほどの黒字を出して国力を上げてきた。

しかし「神」の寿命が近付きつつある現在、自国の「神」になりうる人間が見付からずにいた。

そこで乱暴な手段を講じてでも生贄となる人間を手に入れなければならないと、核兵器を再現してどこかの国 ── それが玄界(ミデン)である可能性も含めて ── を脅迫してトリオン能力者を確保する。

それがツグミの考えたシナリオであった。

 

(ヌンツィオ・エクトス王がどんな人間かわからないけど、少なくともトリオン器官の売買を含めた人身売買が一個人の商売ではなく国策で行われているってことは明らか。それぞれの国に事情はあるだろうけど、国内の問題を自国民だけで解決できないからって他国の人間を巻き込むのはダメ。ううん、巻き込むといってもその人物の命を奪うようなことを平気でやっているんだからそんなこと絶対に許せるものじゃない。そしてこの国の国民が悪いんじゃなくて、すべては最終決定権があって国内で生じたことに責任を持つ義務を持つ国王のせい。直接会ってガツンと言わないと腹の虫が収まらないわ)

 

そうはいっても感情論で物事を収めることはできない。

特にツグミはボーダー、つまり玄界(ミデン)側の代表として公式訪問をしているのであり、彼女の交渉が失敗して関係が拗れてしまえば戦争に発展してしまう恐れもある。

万が一戦争になったとしてもボーダーには同盟国という力強い味方がいて三門市民に直接被害が及ぶことはないだろうが、近界(ネイバーフッド)から無用な争いをなくしたいと考えている彼女には可能な限り避けたい道だ。

 

(とにかく向こうがどう出てくるかをここで待っていればいい。すべてはそれから。()()が来るまでそう時間もかからないだろうから、準備をしてからお茶でも飲んでいよう)

 

ツグミは残念だという表情で再び遠征艇に乗り込んだ。

普段なら雪があっても寒さなど気にせず犬のように走り回ったり迅たちを相手に雪合戦をする彼女だが、あまりにも()()()光景であったため足跡を残しただけでおしまいとなってしまったのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

エクトスの王宮からの使者と兵士がやって来たのは1時間以上も経ってからだった。

ボーダーの遠征艇はあえてステルス機能をOFFにしてエクトス側に居場所を教えているのだからすぐに来ても良さそうなものだったが、エクトス側に何らかの事情があって遅くなったのだろうと考えていた。

レーダーに正体不明(unknown)のトリオン反応が現れたのだからボーダーであれば緊急出動となるし、大概の国でも国軍が動くまでそれほど時間はかからない。

仮に敵が大軍で侵攻して来たとなればわずかでも対応に遅れが出れば命取りにもなりかねないのだから、もしツグミたちがエクトスに攻め込む侵略者だったらかなりの被害が出ていてもおかしくないほど時間が経っている。

この場合に考えられるのは2つの理由で、遠征艇が1隻だけなので様子を見ていたか、もしくは他国の侵入者を警戒するだけの人員がいないかのどちらかだ。

 

ツグミたちの前に現れたのは白髪交じりの40代後半から50代前半くらいの文官と思える男性と恰幅の良い20代半ばのトリガー使いのふたりであった。

年若い女性のツグミが代表して前に立ったものだから、ふたりの男性は少々驚いたようだ。

さらにツグミが名乗るとさらに驚いたのだから、想像もしていなかったということだろう。

なにしろ彼らは8年前の玄界(ミデン)への侵攻のことを知らないはずがなく、玄界(ミデン)からの来客となれば用件はひとつしか心当たりがない。

 

「わたしは玄界(ミデン)にある界境防衛機関ボーダー総合外交政策局長の霧科ツグミと申します。ヌンツィオ・エクトス国王陛下に謁見賜りたく、はるばる貴国へと足を運びました。どうかお取次ぎをよろしくお願いいたします。こちらはボーダー総司令官城戸正宗からの親書です」

 

ツグミが年長の文官に親書を手渡してニッコリと微笑むと、男性ふたりは背筋をピシッと伸ばしてお辞儀をした。

同盟国の力を借りて武力侵攻による()()()をする様子はなく、むしろ対等な立場での対話を希望しているというのであれば礼を失するようなことはあってはならない。

 

「私はエクトス国外務省事務次官のオレク、そしてこちらが王都警護第1師団副師団長イリジーです。ただ今からみなさまを王都の政庁へとご案内いたします。そこで宰相のアロイス・ベーム閣下に会っていただき、閣下から国王陛下へ報告するという流れになります。したがって多少時間がかかりみなさまにはご不便をおかけすることになると思いますが、どうかご容赦くださいませ」

 

オレクの…というよりもエクトス側の態度が想像していたよりも控え目であり、事を荒立てたくないといった節があるとツグミは感じていた。

 

(わたしたちの訪問の目的はわかっているみたいね。きっとここでトラブルになったら責任を全部押し付けられるだろうから、早く宰相案件にしてしまおうってことかな? まあ、それはともかくこれでようやく一歩前進。…あ、そうだ、アレを渡さなきゃ)

 

ツグミは大切なことを思い出し、オレクに告げた。

 

「わかりました。この遠征艇をここに残しておくのであれば私物と国王陛下へのお土産を運び出したいと思いますがいかがしましょうか?」

 

「いえ、王都にある軍総司令部までこの艇で移動していただいて結構です。軍総司令部の駐艇場で降りていただき、そこから馬車で政庁へと向かいます。道案内はイリジーがいたします」

 

「そうですか。ではイリジーさん、よろしくお願いしますね」

 

「は、はい!」

 

美人ではないが愛らしい顔つきのツグミに微笑みながら声をかけられたものだから、若い女性に免疫のないイリジーは顔を真っ赤にしてしまった。

彼女の後ろには迅を含めた男性4人が並んで立っているが、いつものことなので特に気にしてはいないようだ。

以前ならツグミを異性として意識する男性を威嚇するように睨みつけることもあった彼らもいちいち腹を立てていられないということで平然と構えることができるようになっていた。

ゼノン隊の3人はツグミが最も信頼している親衛隊だと自認しており、仮に彼女に好意ではなく悪意を抱く相手であれば老若男女問わず殺気を漂わせるだけで武器(トリガー)を使わずとも相手を縮み上がらせるくらいは簡単だ。

 

イリジーは一旦地上に降りて自分たちが乗って来た騎乗用トリオン兵2体を「卵」に戻してショルダーバッグのような袋に入れると駆け足でボーダーの遠征艇に乗り込んで来る。

そして遠征艇を操縦するリヌスの隣に立ち、方向を指示した。

 

「王都はまだ見えませんが、東へ飛べばすぐに王城の尖塔が見えてきます。それを目印にして真っ直ぐ進み、王都を取り囲む城壁の西門が見えたらそこを旋回して北側に向かうと軍総司令部の駐艇場があります。近くなったら自分が操縦を代わります」

 

「了解しました。では出発します」

 

ボーダーの遠征艇は地上約25メートルの高度を維持しながら東の方角へと向かって飛ぶ。

時間は夕方に近いので背後から太陽の光が差し込み、しばらく行くと西日に輝く王城の尖塔が見えてきた。

ほんのり紅色に染まるその姿はとても神々しく美しいのだが、ツグミには「神」の寿命が迫っているエクトスという国の没落していく姿の象徴にも感じられるのだった。

 

 

◆◆◆

 

 

時間はボーダーの遠征艇がエクトスに現れた時点に遡る。

エクトス軍総司令部のレーダーに正体不明(unknown)のトリオン反応の光点が現れた瞬間、室内に警報が鳴り響いた。

その場にいたのは監視当番の兵士とその場に居合わせた同僚の通信兵のふたり。

彼らはいつものように暇を持て余してカードで遊んでいた。

そもそもエクトスを出入りする艇は原則として自国の交易艇()()だから「異常なし」の日の方が多いに決まっている。

他国の艇が現れないのは多くの国にとってエクトスは友好的な貿易相手国であるから、訪問してくるエクトスの交易艇を受け入れるだけで自らわざわざエクトスへやって来ることはないからだ。

したがって(ゲート)が開くとしてもそれは登録された自国の艇が出入りするだけなので何の問題もないのだが、未登録の艇によって(ゲート)が開かれたとなると警報が鳴る。

しかしその警報が最後に鳴り響いたのは24年前のことなので、若い彼らが警報を聞くのは初めてのことであった。

だからレーダーか警報装置の故障ではないかと考えたくらいで、ボーダーの遠征部隊への対応が遅れた原因のひとつともなった。

そしてチェックを行って機材に不良がないとわかった時点で異常(イレギュラー)の発生だと認定。

そこからの軍総司令部は蜂の巣をつついたような騒ぎとなり、アロイス・ベーム宰相に非常事態の発生が伝わったのは(ゲート)発生からすでに30分以上過ぎていた。

「すわ敵襲か!」と政庁内も大騒ぎとなったのだが、レーダー上でトリオン反応の光点がまったく動かないことで違和感を覚えた。

隠密行動なら(ゲート)が発生したことと何者かが侵入したことは標的(ターゲット)に知られたくないために即座にトリオン反応を消す操作を行う。

ところがトリオン反応は続いていて消える気配はない。

どの国でもそうだが自然現象でイレギュラー(ゲート)が開くということはたまにあり、その場合は暴風雨になる等の天候の急激な変化が起きるものだが天候に変わりはなかった。

ならば大掛かりな侵攻であるかと疑うが開いた(ゲート)はひとつだけで、トリオン兵の反応もまったくないのだからエクトス側にとってはこのトリオン反応の意味するところがわからずにいた。

そこで緊急会議が招集され、出された結果が「24年前の亡命事件」と同じものかそれに類するものであろうというものであった。

この時点で(ゲート)発生から1時間を経過しており、外務大臣と軍総司令官の協議の結果オレクとイリジーが様子を見に行くことになったのだった。

事情がわからないふたりにとっては不安と焦燥で生きた心地はしなかっただろう。

場合によっては武装した多数のトリガー使いが隠密トリガーで潜んでいて、オレクたちの姿を見た途端に襲いかかってくるという可能性もあるのだから。

しかし現れたのが非武装の若い女性のツグミと彼女の親衛隊と思しき4人の男性のみであったことにふたりは安堵した。

ところが次の瞬間、彼女が玄界(ミデン)の人間であり国王に謁見を求めてきたことで訪問の理由を察し、とにかく低姿勢で相手を怒らせないようにして直ちに政庁まで連れて行くことにしたのだった。

彼らにしてみれば政庁に案内して宰相との面会を果たせばそこで任務は完了で、自分たちは通常の仕事に戻ることができるのだから胸を撫で下ろしていたことだろう。

そしてツグミたちがエクトスに着いてから約2時間後、ようやく王都の門をくぐることを許されたのだった。

 

軍総司令部と名称こそ堅苦しくて立派なものだが、エクトスの国軍は戦闘よりも諜報に力を入れているので一般兵士や戦闘特化のトリガー使いは全体の半数以下だと麟児は話していた。

ツグミも実際に現地を目にして納得できた。

人口こそ三門市よりも多い34万人もいるのだが、軍人は500人もいないというのだからC級を含めたボーダーの防衛隊員の数と大差ない。

おまけに500人弱のうち300人近くが諜報活動を主な任務として各国に潜伏しているということで、王都には150人ほどの兵士しかいないらしい。

そして彼らが使う武器(トリガー)が他国で開発された旧型、つまり型落ちを安く購入したものばかり。

トリオン兵も自国で製造できるほどの技術レベルはなく、必ず勝てるという保証がない限り戦闘はしたくないというのが本音である。

だから表向きは隊商国家としていくつもの国と平和的な交流を行い、裏では諜報員を送り込んで情報収集をし、その情報をライバル国に売るようなことを行っているのだ。

情報を買う国もまさか自国の情報が他国に売られているなどと想像もしていないとのことだから暢気なものだが、麟児の証言なのだから間違いはない。

到着した時点で日が暮れてしまったので訓練場には人の影はなく、軍総司令部の建物 ── 見た目は中規模の学校と体育館のようなもの ── にいくつか明かりが灯っている様子が見えた。

軍総司令部の一角にある駐艇場に遠征艇を停め、ツグミたちはそこで降りることになる。

その時にツグミは倉庫の隅に置いてあった高さが約20センチで幅と奥行きがそれぞれ約18センチの白木の箱と弁当箱くらいの大きさの同じく白木の小箱を自分の手で運んで来た。

 

「オレクさん、これは8年前の貴国による玄界(ミデン)侵攻の際に命を落とした貴国のトリガー使いの遺骨と遺髪、そして遺品です」

 

「何ですと…!?」

 

「ご遺体は玄界(ミデン)のやり方で手厚く供養しておりましたが、こちらへ参上する機会を得ましたのでお連れいたしました。これらをあなたにお預けいたします。遺品には特徴がありますから、調べればきっと名前や所属がわかるはずです。どうか遺族の方にお引渡しくださいませ。もし遺族の方がこちらの兵士の最期について知りたいというのであれば、わたしがご説明いたしますのでよろしくお願いいたします」

 

「…わかりました。そして我が同胞を連れて来てくれてどうもありがとうございます」

 

オレクはツグミから遺骨と遺髪と遺品を受け取ると深く頭を下げた。

この遺骨というのは第一次近界民(ネイバー)侵攻でツグミが殺してしまった近界民(ネイバー)の少年兵のものである。

戦闘中に換装が解けてしまった少年兵は戦場をひとりで彷徨っていたツグミを民間人だと勘違いをし、鉄パイプを握り締めて背後から襲ってきた。

ツグミとしては自分を襲撃してくるのは()()()()()()()()()()()()人型近界民(ネイバー)しかいないと思い込んでいて、地面に映る人型の影の鉄パイプを剣と見間違えて咄嗟に弧月で斬り付けてしまったのだった。

彼女はその近界民(ネイバー)の血しぶきを浴びて初めて生身であったことに気付き、それがきっかけでパニックになり正しい判断ができなくなって絶体絶命の危機に陥った。

この時の彼女はまだ11歳で近界民(ネイバー)との実戦は初めてであったし、忍田や迅といった仲間とはぐれてひとりでいたのだから冷静な判断ができなかったのは仕方がない。

しかし過失であれ人ひとりの命を奪ってしまったことは事実で、この時の経験がその後の彼女の戦い方だけでなく人生観も大きく変えることになった。

第一次近界民(ネイバー)侵攻は約48時間で終結し、多大な被害と多数の犠牲と大勢の市民の哀しみだけを残した。

そして騒ぎが落ち着いてきた3日後、ツグミは忍田と共に少年兵の遺体を回収して荼毘に付した。

さらに遺骨を忍田家の墓の隣に埋葬し、忍田家の仏間に位牌と遺髪と遺品を安置して手厚く供養した。

いつかどの国の誰であるかがわかったら遺族に返したいと願い続けていたことがようやく叶うチャンスを得て、ツグミは8年間ずっと心の中に抱え込んでいた「後悔」にケリをつけるためにもエクトスへ来たかったのだ。

 

それから遠征艇で留守番をするテオを除いたツグミ、迅、ゼノン、リヌスの4人は騎乗用トリオン兵に引かれた馬車に乗って政庁へ向かうことになった。

 

 

 

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