ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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640話

 

 

その日の夕食はレグロの屋敷に招かれての晩餐となった。

これまでいくつもの国で王族や貴族の人間との会食をしてきたツグミであっても初対面の相手との()()()は緊張する。

こちらも相手もお互いにどんな人物なのかわからないとなれば警戒するのは当然で、見た目や口調などの印象が最悪であればその先が上手くいくはずがない。

だからツグミは相手が不快だと思わないよう第一印象を一番に考える。

相手に好意を抱かせるほどではなくとも、清潔感や礼節を弁えているという態度を見せることで相手に門前払いをされないようにするのは必須だ。

特に注意レベルではなく自分の敵だという警報レベルの認識の相手となればわずかなことでもトラブルを生じることにもなりかねない。

だからツグミはいつも以上にさまざまなシチュエーションを考えて、どの場合にも対応できるよう頭の中で何度もシミュレーション繰り返した。

そうしてレグロの屋敷に着くとツグミと迅を玄関で出迎えたのがなんと屋敷の主人であった。

普通なら使用人が出迎え、そこに主人が後から顔を出すという流れであるというのに、まるでツグミたちの到着を待ち切れなくて玄関にいたと言わんばかりの様子である。

 

「やあ、よく来てくれたね。私がレグロ・リコフォスだ」

 

それはまるで初めて会う友人の娘に接するかのように満面の笑顔で、大きく腕を開いて「長い間ずっと待っていた」という気持ちを全身で表しているように見える。

彼はサルシドの兄なので容姿は良く似ているが、初対面の印象はまるっきり違う。

リコフォスでサルシドに会った時には国内が大混乱であったから常に深刻で表情は硬かった。

彼が笑顔を見せたのはツグミたちが問題解決の協力をすると約束した時で、その後の交流から本来は明るくおおらかな性格でとてもフレンドリーな人物だということがわかったのだった。

一方、レグロはフレンドリーに見せようとしているところが胡散臭い。

サルシドの手紙にはツグミがエウクラートンの王族だということは書いていないなので、あくまでもボーダーの外交担当の責任者として接しているはずである。

 

(この人…自分が8年前の玄界(ミデン)侵攻に関して何の責任もないから玄界(ミデン)の人間に恨まれていないと思っているのかも? たしかに個人では無関係であったとしてもエクトスという国は加害国なんだし、亡命者でも今はエクトス国民なんだから少しは申し訳ないって気持ちになってもいいはず。それにこのわざとらしいフレンドリーな態度が逆に腹に一物抱えているって思わせる。ま、こっちもいろいろ抱えているんだからそれを悟られないようお芝居しなきゃね)

 

ツグミはそんなことを考えながらも姿勢を正し、お辞儀(カテーシー)をした。

 

「わたしは玄界(ミデン)の界境防衛機関ボーダーの総合外交政策局長霧科ツグミと申します。この度はわたしの個人的な希望を叶えていただき、誠にありがとうございます」

 

「いやいや、そんな堅苦しい挨拶は抜きにしよう。わざわざ私の愚弟の手紙を届けてくれたこと、ヌンツィオ陛下から聞いている。こちらこそ感謝しているよ。だからそのお礼も含めて晩餐に招待をしたんだ。今夜は楽しんでいってくれ」

 

「はい。…こちらがお預かりしているお手紙です」

 

そう言ってツグミはレグロにサルシドから預かっていた手紙を渡した。

すると彼はその場で封を開けて手紙を読み始める。

しかしすぐに読むのをやめて言った。

 

「すまない。客人を待たせたまま手紙を読むなんて不調法だったな。さあ、こちらへいらっしゃい」

 

上機嫌なレグロに案内されたツグミと迅はダイニングルームへと招かれた。

その部屋は大して広くはないものの照明は眩しいほどで、暖房が十分に効いている。

それらは王族や上級貴族の屋敷と同じくあらゆるものにトリオンが使われていて、まるでオール電化されている玄界(ミデン)の家のようだ。

それだけでもレグロがエクトスにおいて最上級の暮らしをしているという証拠で、これではリコフォスに帰る気はないだろうとツグミは思った。

 

テーブルの上には3人分のカトラリーがセットされている。

 

「3人分…ということは、閣下には奥様はいらっしゃらないのですか?」

 

ツグミが訊くと、レグロは素早く左手を隠して困ったような顔で答えた。

 

「ええ、まあ。そんなことは気にせず席にお座りください。すぐに料理が運ばれてきますので、話は食べながらしましょう」

 

レグロは深く突っ込まれたくないようで、話を濁してしまう。

 

「我が家の料理人の腕は超一流ですからね、味には自信があります。きっと満足してもらえるはずですよ」

 

再び笑顔になって言うレグロにツグミは違和感を覚えた。

 

(…この人は明るく振る舞ってわたしたちを油断させようとしているのかと思ったけど、何だか違う気がしてきた。ううん、それもあるのかも知れないけど、別の理由があるんじゃないのかな?)

 

ツグミには遊真やテオのように嘘を見破るとか、レクスのように他人の感情が色でわかるといったサイドエフェクトはない。

ただエウクラートン人特有の「強化視覚」によって普通の人間よりもはるかに視覚情報を得やすいため、他人には気付かないことに気付いてしまうこともある。

対象者のわずかな表情の変化でその人物の言葉が本心なのかそうでないのかがわかってしまう。

ただし良く見えるからというだけでなく、彼女が幼い頃からさまざまな経験をしているからこその賜物だ。

生身の時には鬼怒田に作ってもらった「視力を落とす眼鏡」をかけているので並の人間レベルになるのだが、近界(ネイバーフッド)を旅していて王族や政府の要人クラスの人間に会う場合は原則としてトリオン体に換装しているために視力は裸眼状態になる。

ここでもリコフォス王家の人間に会うために正装のデータを入力したトリガーで換装をしているので、彼女には見たくもないものまで見えてしまうのだ。

そんな彼女が抱いた違和感はレグロ本人の表情だけでなく身なりや屋敷のインテリアなど複数に及んだ。

 

(エクトスでもリコフォスでも結婚をすると左の薬指に指輪をする習慣があると麟児さんから聞いている。だから独身であるなら指輪はしていないはずなのにこの人の指には指輪がある。奥様はいないのかと訊くとあやふやな答え方をして、いるともいないともハッキリとした答えは言っていない。既婚者であることを隠そうとするなら指輪を外せばいいだけだし、うっかり外し忘れたということは考えにくい。サルシド閣下の話だとこの人はかなり頭の回転が早くて何かをするにしてもミスをすることはないということだったから。だからこの人は結婚をしているけれどもそのことを知られたくない…のではなくむしろ独身を装いながらも既婚であることを知ってもらいたいんじゃないかな? わざと指輪をしていて独身のフリをする。それが何を意味するのかわからないけど、この場に夫人がいないことは明らかで、それには何等かの理由がある。もう少し様子を見た方がいいわね)

 

 

席に着くとレグロは手紙の続きを読み始め、その間にメイドの女性が飲み物を運んで来た。

ツグミと迅は酒を飲むことができないので、彼女たちの分は山ぶどうのジュースで、レグロは赤ワインである。

給仕をしている間に手紙を読み終えたレグロの表情は真剣そのもので、手紙の内容を知らないツグミには彼の本心まではわからない。

しかし手紙を読んだことで安心したのか、さっきまでの嘘っぽい笑顔が消えたのは間違いないようだ。

 

「愚弟たちは元気にやっているようだな。長い間ずっと気にはしていたのだがこれで安心したよ。きみに手紙を持って来てもらったことでひとつの決心ができた。今夜の食事はいつもより美味しく食べられそうだ。さあ、乾杯しよう」

 

ツグミたちは乾杯をすると食事を始めた。

いくらレグロが贅沢な暮らしをしているといっても手に入る食材の種類や量が減ってきているのだから料理にも限界はある。

それでも彼が自慢するように味は抜群で、量こそ少ないが満足できる味であった。

そして食事をしながら3人は会話をした。

内容は主にツグミたちの玄界(ミデン)の暮らしについてで、それはどの近界民(ネイバー)でも知りたいと思うもので特別なものではなかった。

レグロが質問をしてツグミと迅が答えるという一問一答式の対話のようなもので、ツグミが事前に想像していたものとは違っていたので「これは間違いなく何かある」と察して、自分から()()はせずにレグロに任せるままにして晩餐会は終わったのだった。

 

 

2時間弱の晩餐会を終えてツグミと迅が迎賓館へ戻ろうとすると、暗がりの中からメイドの女性が姿を現した。

そしてツグミに手紙を手渡して言う。

 

「旦那様からのお手紙です。今夜10時に迎賓館の庭園入口に伺いますとのことです。重要なお話がありますので必ず待っていてください」

 

「わかりましたと閣下にお伝えください」

 

そう答えるとメイドは嬉しそうに微笑んでから一礼すると再び暗がりの中に消えて行ったのだった。

 

「やっぱり何かあるみたい。悠一さんも同席してくださいね」

 

ツグミが迅に言うと当然だという顔で答える。

 

「もちろんだ。しかしさっきの会話ではレグロって男がどんなヤツなのか全然わからなかったが、はたして敵なのか味方なのか…」

 

「わたしの印象では敵…ではないと思いますよ。なんとなくですけどあの人は助けを求めている気がするんです」

 

「どうしてだ? そんな気配はなかったと思うんだが」

 

「会話の内容が不自然でしたから」

 

「?」

 

迅には何が何だかわからないようだ。

そこでツグミは再び歩き始め、自分が感じたことや推測したことを話す。

 

「わたしたちが屋敷に到着した時の閣下のわざとらしいほどの歓迎ぶりは覚えていますか?」

 

「ああ。なんとも胡散臭い奴だと思ったな」

 

「わたしも初めはそう思ったんですけど、その後の態度は品が良くて礼節を弁えた上流階級の人間だという振る舞いでした。たぶんそれはサルシド閣下からの手紙を読み、わたしたちのことを信用に足る人物であるとわかったからではないかと思います」

 

「手紙には俺たちのことが書かれていたってことか。でもそれだけじゃないだろ?」

 

「ええ。食事中の会話は無難なもので、特に踏み込んだ話をしなかったのは理由があるんだと思います。そしてその理由はこの手紙に書いてあるとわたしは考えています」

 

レグロからの手紙を見せながらツグミは言う。

 

「さっさと戻って手紙を読んでみましょう」

 

ツグミは歩く速度を上げ、迎賓館の自室に戻るとすぐに手紙を読んだ。

短い文章ではあるが伝えたいことを明確に書いてあり、残りは直接会って話したいという気持ちが伝わってきた。

 

「やっぱり()()()では話せないことがあったみたいです。わたしは閣下がウランのことを内緒にしていればリコフォスでの悲劇は起きなかったのだからと考えて悪い人なんだろうと思い込んでいました。でも閣下にも事情があったのではないかと思うようになりました。だってサルシド閣下のお兄さんなんですもの、根っからの悪人であるはずがありません。それについては会って話してみればわかるでしょう。きっとわたしたちが想像もしていないすごいことになるんじゃないかって気がします。まだ1時間ほどありますから少し休んでおきましょう」

 

ツグミと迅は1時間後の面会をそれぞれの部屋で待つことにした。

 

 

◆◆◆

 

 

ツグミと迅が庭園入口に着いたのは9時55分で、暗い庭園にあるたったひとつの街灯が灯っている真下でレグロを待つことにした。

すると間もなくレグロがひとりだけで歩いて向かって来るのが見え、ツグミたちの前に来ると深々と頭を下げた。

 

「こんな夜遅くに申し訳ない。手紙にも書いたようにあの場では話せないことがあったものでな。申し訳ないついでにこちらへ来てくれ。ここでは明るすぎる」

 

レグロは暗い庭園の奥の方へとツグミたちを連れて行く。

 

「私がこの国へやって来てしばらくの間はこの迎賓館で暮らしていたから、目を瞑っても歩くことができるくらいこの辺りは慣れているのだよ。…さて、ここなら大丈夫だ」

 

そこは庭園の端にある小屋の前である。

レグロは扉を開けると持っていたカンテラのような照明器具に明かりを灯した。

 

「さあ、中へ入ってくれ。ここなら安心して秘密の会談ができる」

 

そう言って自ら先に入って行く。

広さは6畳の部屋くらいの広さしかなく、壁際に割った薪が積んであってそこにレグロは腰掛ける。

ツグミと迅は彼の向かい側に置かれている木箱に並んで腰を掛けた。

 

「改めてお礼を言わせてくれ。ありがとう、ツグミ、ジン。もう私には他に手立てがないのだよ。どうか助けてほしい」

 

レグロはそう言うと頭を下げる。

 

「閣下、こちらこそわたしたちを信じていただけたようでお礼を申し上げます」

 

ツグミも同様に礼をすると、レグロは首を横に振った。

 

「当然だよ。あの愚弟がこの私に手紙をよこすなど24年間一度もなかった。それは私が自分勝手にも亡命などという愚かしいことをしたばかりに家族から見放されてしまったためだ…と私は考えていた。しかしそうではなかったことが愚弟の手紙でわかった。あいつは私がエクトスにいることを薄々勘付いていたらしい。この国なら古くからの付き合いで厚遇されると考えていたから、あえて連絡を絶っていたのだそうだ。しかし本心は再び家族として一緒に暮らしたいと思っていて、信頼できる人物を遣わすから手紙の返事が欲しいと言ってきた。あいつは賢い人間で、人を見る目は確かだ。そんな愚弟がきみに全幅の信頼を寄せているとなれば私もきみのことを全面的に信じることにしようと考えた。実は今の私は…いや、私と妻のブランカは命を脅かされる状況にあり、何とかしてこの国を脱出したいと考えているのだ。ぜひ私たちに協力してくれないか?」

 

レグロはそう言ってツグミの目を真っ直ぐに見る。

信じてほしいという気持ちはその視線から伝わってくるものの、それだけでは全然足りない。

 

「閣下、もう少し詳しいお話を聞かせていただかなければ返事はできません。現在の状況と、かつて祖国を捨ててこの国へと逃げて来たことに対する今の気持ちを教えていただけますか?」

 

ツグミの言葉にレグロは一瞬怖じ気付いたようだが、すぐに身を正して答えた。

 

「ああ、きみの言うことはもっともだ。それに私のせいでリコフォスの民が大勢死んだというのだから、私はその失われた命に対して真摯に向き合わなければならない。…ではまず24年前の亡命をした時のことから話をしよう」

 

レグロはそう言ってから少しうつむき加減で口を開いた。

 

「当時リコフォスは『神』の寿命が尽きようとしていた。そうなると新しい『神』を選ばなければならないのだが、その適任者が私だった。王家の一族の中で最もトリオン能力が高かった者が選ばれるというのがこれまでの慣習で、受け入れるのが当然であったのだが私は自分こそ宰相として女王の補佐をするものだと考えていたから、祖国のためとはいえ生贄になるのはまっぴらだと国を逃げ出したのだ。自慢ではないが愚弟よりも私の方が政治や経済に明るく宰相の務めを立派に果たせるという自負はあったし、実際に周囲の人間からそう見られていた。だから自分を正しく評価してくれる国へ行くべきだと考えてエクトスへと来た。そしてヌンツィオ陛下の許しを得てこの国で24年間を生きることになり、その間にブランカと出会い結婚もした」

 

そう言って左手の指輪を見せた。

 

「それはリコフォスの王族としてでは得られない穏やかで安らぎに満ちた日々だった。そしてリコフォスの『神』がどうなったのかなど考えることもなくなり、自分の幸せだけを享受していた。同胞がどうなろうと自分さえ良ければいいという自分勝手な人間なのだ、私は。そして今から10年ほど前にエクトスは玄界(ミデン)への大規模侵攻を計画し、そのために大量のトリオンを使用したことで『神』の力が一気に弱まってしまった。ヌンツィオ陛下は玄界(ミデン)で新しい『神』を見付けられると考えていたようだが、その目論見は外れてしまった。それによって『神』の寿命が十数年分縮まってしまったため、一刻も早く新しい『神』を探さなければならなくなったのだ」

 

「エクトスではリコフォスのように王族の中から『神』を選ぶという慣習はないのでしょうか?」

 

「ああ。これまでは他国からトリオン能力の高い人間をさらって来て(マザー)トリガーに放り込んでいたらしい。しかし今回はそれがなかなかできずにいた。玄界(ミデン)侵攻でさらった人間の中には『神』になれるほどの能力者がいなかったために全員が売り払われてしまったので、新たに『神』探しをしなければならない。ところがこの国にはトリガー使いは少ないしトリオン兵も他国から買わなければならないという軍事に関しては弱小国家だ。そこで諜報員を派遣して情報収集をしながら『神』候補を探し、()()()()隊商国家としての商売にもその情報を利用していた。そのうちに『神』候補が見付かるだろうと安易に考えていた政府と軍部だがその当てが外れてしまったことで両者に亀裂が生まれ始めた。もっともそれはイゴール総司令が一方的にアロイス宰相閣下を妬んでいたからという噂もあるのだがね」

 

「わたしもその噂は知っています。それでその『神』の寿命の問題とレグロ閣下ご夫妻が命を脅かされる状況にあることとはどんな関連があるのでしょうか?」

 

「『神』探しが行き詰っているとなればエクトス国内から生贄となる人間を選ばねばならない。ヌンツィオ陛下も同胞の命を奪うことになるのだからそんなことはしたくはない。そうなると陛下の頭にはひとりの人物の顔が浮かんだ。自国の民ではなく、トリオン能力も十分で『神』となるに相応しい人間がいることに気付いたのだよ」

 

「つまりレグロ閣下のことですね?」

 

「そうだ。私はリコフォスの民を裏切ったという罪を犯していて、その罪を償わなければいけないとは思っていた。それがエクトスの『神』になることであれば素直に受け入れるのだが、そうではないのは明確だ。だから私は陛下に命じられた時にハッキリと断った。亡命して今ではリコフォスの人間だといっても元は他国の王族である私を無理やり『神』にしたとなれば野蛮な国だということになり、今後の交易にも多少なりとも影響は出てくる。さらに『神』となる人間が納得して身を捧げるのでなければ(マザー)トリガーとの融合にも悪影響があるのだそうだ。そこで私が納得して素直に『神』になってもらおうと考えた陛下は妻のブランカを人質にしたのだ。彼女も相当なトリオン能力者で『神』となる最低限のトリオンは持っている。だから私が従わなければ妻を生贄にすると脅してきた」

 

「…ひどい。でも誰かが犠牲にならなければ国土を維持できずに国民もろとも滅びてしまうという近界(ネイバーフッド)(ことわり)に逆らうことはできません」

 

「もちろんわかっている。私が24年間の執行猶予を経て本来の役目を果たす時が来たというのだから再び逃げるようなことはしたくない。しかし独り身であったなら考えて従っただろうが、今は愛する妻を残し、彼女を哀しませるようなことになるとわかっていて自ら『神』になることはできない。すると陛下は別の提案をしてきたのだ。詳しいことは言えないがリコフォスの王家には初代より長い間厳重に管理しているものがあって、それを譲ってくれるのなら『神』には別の人間を選ぶと言い出した」

 

「それがユゥアレェィニィアムなんですね?」

 

ツグミがそう言うとレグロは心臓が止まりそうなほど驚いた。

 

「ど、どうしてそれを…?」

 

レグロは唇を震わせながらツグミに訊いた。

 

 

 

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