ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
「おっと、そうこうしているうちに霧科隊長が動いた! 一旦灯台に戻っていましたが、どうやら陸地に戻って積極的に点を取りにいくようだ! 今は王子隊長・樫尾隊員・水上隊員の3人が全員バラけていて、各個撃破にはちょうどいいタイミング…っとこの動きは樫尾隊員狙いか!?」
ツグミはグラスホッパーを使って樫尾の隠れているホテル棟へとダッシュしていた。
それに気付いた王子が樫尾を呼び合流を急がせる。
[カシオ、早くこっちへ来い! ふたりがかりでやるぞ!]
[了解!]
ツグミは樫尾を狙っているように見せかけ、王子と合流させて一気に叩く作戦であった。
だから彼らが合流したところで、慌てて逃げるようにホテル棟の屋上へとジャンプする。
もちろんこれは彼らをおびき出す作戦で、王子と樫尾はまんまと彼女に乗せられて追って来た。
(次が勝負よ…。タイミングを外したらふたりに
ツグミは王子と樫尾が一緒にグラスホッパーで屋上へ上がって来る
そしてその瞬間が来た!
「
王子と樫尾が最後のジャンプをして屋上の柵を乗り越えた瞬間、ツグミは
彼女の掛け声は王子たちにも聞こえており、彼らは弾の動きを追おうとする。
「えっ!? 弾が、ない!?」
屋上に着地した樫尾が叫んだ。
目を凝らしても弾が見えず、キョロキョロとするだけである。
「また
放たれたはずの
ふたりで同時に
そして一旦攻撃を防いで反撃に出るつもりでいた。
しかし彼らは知らなかった。
ツグミの撃った
通常なら発光する
屋上には照明がなくほぼ闇であるから見えなくて当然で、視覚支援があっても非常に見えにくい。
さらに避けることができないだけでなくシールドは無意味であるから、彼らは腹部や脚などに重石が付けられてしまった。
「くっ…
「う…動けない」
身動きできない王子と樫尾。
さすがの王子も
ツグミはそれを見逃さず、弧月で一気にふたりの首を斬り落としたのだった。
「こ、これは…何が起きたのかまったくわかりません! 東さん、解説をお願いします!」
桜子の知識や経験では理解できない戦術であったようだ。
東もすぐにはこの状況を把握できず、王子たちが残した
「霧科が放った
「なるほど…。これで王子隊は全滅。残すは生駒隊の水上隊員だけとなりました!」
その頃、王子と樫尾が
次に狙われるのは自分であり、自発的に
(せやけどツグミちゃんは
水上が悩んでいると、ツグミはホテル棟の東端の屋上から港の管理棟の裏に隠れている水上に呼びかけた。
「水上さん、隠れていないで戦いましょうよ!
そしてグラスホッパーを起動して水上の目の前に
「罠…やろな、きっと」
水上はそう呟きながらも彼女の誘いに乗ることにした。
従わなければアイビス
そしてホテル棟の屋上へと着地した水上は暗闇の中でツグミと対峙する。
「来てくださって恐縮です」
「もう逃げられへんからな。それでどないな手を使こうて俺を倒してくれるんや?」
「やはり目には目を…ですね」
ツグミはそう言って右手に
今度は
水上は彼女の「目には目を」の言葉を「
「
「シールド!」
ツグミの掛け声に反応し、水上はしゃがんで両手でシールドを張る。
彼女の
水上はツグミのことだから南沢の時のように
そして一旦攻撃を防ぐことができれば、ツグミが次の攻撃をする隙に反撃できる…と水上は王子と同じことを考えていた。
しかし水上はツグミのことをあまりにも知らなさすぎた。
彼女が出した
観客が注視するメインモニターに映し出されたのは、真下から出現したエスクードで股間を強打し、そのまま空中へ放り出された水上がツグミの弧月で胴を二つに斬り裂かれる様子であった。
観客の見つめる中、水上は見るも哀れな姿で
ツグミの「目には目を」の意味は「
「こ、これは…?
桜子は続けた。
「水上隊員が
観客たちは立ち上がって歓喜の声を上げた。
夜の部に出場する二宮隊の結果にもよるが、玉狛第3が暫定1位というのは事実である。
ランク戦スタート時は最下位で初期ボーナスもなかったというのに、4戦目が終わった時点でトップにまで上り詰めたのだから快挙と言うしかない。
それを達成した試合を間近で見られたのだから観客たちが大騒ぎするのも当然のことで、実況の桜子までが小躍りしそうな勢いだ。
その騒ぎを収めたのは古寺だった。
「みなさん、静かにしてください!」
その一声で観客たちは一瞬にして静まった。
「気持ちはわかりますが、ここは静かに東さんの総括を聞いてください」
観客たちは席にきちんと座り直して東の解説を待つ。
桜子も咳払いをひとつして、何事もなかったかのように言った。
「コホン。…さて、振り返ってみて、この試合いかがだったでしょうか?」
「そうですね…ステージの選択権があった玉狛第3が完全に作戦勝ちしていましたね。
「もしかしたら
「それは逆ですね。彼女は何らかの意図があって『夜』を選んだ。その中で
東はそう言って苦笑する。
「序盤で隠岐が落とされてしまいましたが、生駒隊・王子隊はそれぞれ隊員が無事合流していつもの戦い方ができるはずでした。しかし霧科がイーグレットを構えているとなると滅多な動きはできません。戦闘フィールドが中央エリアに限定される『先に霧科を落とさなければ戦いにくい』マップでしたから。Round2で玉狛第2が見せたように『地形を使って相手を動かす』が上手い具合に作用したことで、霧科は最後まで余裕があり自分に有利な状況で戦うことができましたね」
「しかしなぜ霧科くんはあのような面倒な手を使ったんでしょうか? 彼女のアイビス
古寺が難しい顔で東に訊く。
「それは…彼女に聞いてみないとわかりません。ただ彼女の性格からすると、それでは面白くないとでも思ったんでしょう。昔から彼女は他人の予想を裏切る斜め上の戦術を考えるのが好きですからね」
「では、生駒隊・王子隊個々の動きについて解説お願いします」
桜子に言われ、東が説明する。
「まず転送位置ですが、どちらの隊にとっても問題はなかったと思います。むしろ敵のど真ん中に飛ばされた霧科は下手をすると序盤で囲まれてしまい、この時点で落とされていた可能性がありました。しかし黒いバッグワームに助けられながら灯台までたどり着き、その間に生駒隊・王子隊はそれぞれ隊員の合流を果たして複数による攪乱と同時攻撃で霧科を抑える作戦に出ました。これも正しい選択です。3方向から同時に接近されたら対処するのはさすがの彼女でも難しいですから。ただ彼女もこうなることは想定済みで、焦ることなく冷静に対処しました。エスクードを目隠しにしてアイビス
東が何かを思い付いたようだ。
「東さん、どうかしましたか?」
桜子に訊かれて、東は言った。
「霧科が『海』と『夜』を選んだ理由です。彼女は心理的な部分をも考慮していたのではないかと推理したのです」
「どういうことでしょうか?」
「人間は本能的に暗闇と海を恐れるものです。この観客の中にも夜の海を見て恐怖を感じたことのある者もいるのではないでしょうか。得体の知れないものが潜んでいて、中に引きずり込まれそうになるあの感覚。泳げない者であればなおさらです。彼女はそんな無意識に夜の海を恐れる心理を上手く利用したのではないかと思うのです。灯台に立てこもったのは最初の狙撃地点に選んだのもありますが、敵をおびき出すためだったとも考えられます。そして自覚はなくとも無意識に恐れを抱きながら、彼女に操られてやって来た。この時点で彼女は心理的な点でも優位についていたわけです。南沢が彼女に攻撃を仕掛けた時、わずかですが動きがいつもよりぎこちなかった。あれは暗い海に引きずり込まれそうになる感覚に怯えてしまったためではないか、と。まあ、これは俺の推測にすぎませんから、後で彼女に真相を聞いてみます」
そして東は続けた。
「生駒・蔵内・南沢と3人も続けて落ちたことで、残った隊員が一時撤退したのは無理もありません。特に生駒隊はひとりになってしまいましたからね。さらにイーグレットだけでなく高威力のアイビス
「王子隊長と樫尾隊員を接近させたのはやはり
桜子が訊く。
「ええ、そうです。ギリギリまで射程を短くし、その分のトリオンを弾速に回したと思われます」
「しかし相手は
「たしかにその通りですが、彼女は自分を不利な状況に追い込んで大逆転を狙うのが好きですから」
「好き嫌いで戦術を選ぶのはどうかと思いますが、それでも勝ってしまう霧科隊長、恐るべし!」
「ハハハ…。それで最後に水上が落とされた場面ですが、もしあれが水上ではなく王子であったなら結果は変わっていたかもしれません」
「それはどういう意味でしょうか?」
「あの時、霧科は
「あ…!」
「つまり
続いて古寺が言った。
「そういう点で、先に王子隊を全滅させて水上先輩を残したのも作戦だったかもしれませんね。しかしこの試合は生駒隊・王子隊共に霧科くんの思惑通りにいったからであり、もし彼らが彼女を無視してホテル棟裏の森林地帯で戦闘をしていたら成立しなかったものです。森林地帯は非常に戦いづらいですが、戦闘が不能というわけでもありません」
「もちろんその可能性があるのは霧科も承知の上。その場合の作戦も練ってあったはずです。たぶん自分を無視できなくなるような動き、…アイビス
「なるほど…。そこまで深く考えて行動しているとなれば、霧科くんが怒涛の勢いで駆け上って来たのが奇跡や運などではなく、純粋に彼女の器量だということがわかります。A級の戦闘力を持つ
「いや、彼女がすごいのはそれだけじゃない」
感激している古寺に東が言う。
「君たちは気が付いているかどうか知らないが、彼女はこれまでの4戦で
「…!」
古寺だけでなく桜子や観客の何人かはツグミの戦いぶりを思い出して仰天する。
「同じ全勝の玉狛第2の空閑ですら腕や脚を切り落とされている。まあ、これは彼が腕や脚の1本くらい捨ててもそれ以上の結果が出ればいいと考えているからなのだろうが、霧科はそんなことをせずとも勝ち抜いてきた」
「……」
「俺たちはトリオンで作られた戦闘体で戦うから、よほどのことがなければ負傷することはない。命の危険のない戦闘システムだから腕や脚を犠牲にしてでも勝つ作戦を平気で選ぶ。しかし彼女は第一次
東はニヤリと笑って総括を締めた。
「ますます玉狛第3から目が離せなくなりました! これでB級ランク戦、4日目・昼の部を終了いたします! 東隊長、古寺隊員、ありがとうございました。次は19日の水曜日。次回をお楽しみに!」
Round4・昼の部 玉狛第3 VS 生駒隊、王子隊 のトリガーセット
メイン:アイビス
サブ :弧月、バッグワーム、
今回は、Round3の時より
文字だけだとわかりにくいでしょうが、映像化したらけっこう楽しめると思います。