ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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65話

 

 

「おっと、そうこうしているうちに霧科隊長が動いた! 一旦灯台に戻っていましたが、どうやら陸地に戻って積極的に点を取りにいくようだ! 今は王子隊長・樫尾隊員・水上隊員の3人が全員バラけていて、各個撃破にはちょうどいいタイミング…っとこの動きは樫尾隊員狙いか!?」

 

ツグミはグラスホッパーを使って樫尾の隠れているホテル棟へとダッシュしていた。

それに気付いた王子が樫尾を呼び合流を急がせる。

 

[カシオ、早くこっちへ来い! ふたりがかりでやるぞ!]

 

[了解!]

 

ツグミは樫尾を狙っているように見せかけ、王子と合流させて一気に叩く作戦であった。

だから彼らが合流したところで、慌てて逃げるようにホテル棟の屋上へとジャンプする。

もちろんこれは彼らをおびき出す作戦で、王子と樫尾はまんまと彼女に乗せられて追って来た。

 

(次が勝負よ…。タイミングを外したらふたりに追尾弾(ハウンド)で囲まれてしまう。今日はシールドを持ってないから防御のしようがない。だから…)

 

ツグミは王子と樫尾が一緒にグラスホッパーで屋上へ上がって来る瞬間(タイミング)を待った。

そしてその瞬間が来た!

 

追尾弾(ハウンド)!」

 

王子と樫尾が最後のジャンプをして屋上の柵を乗り越えた瞬間、ツグミは追尾弾(ハウンド)を放った。

彼女の掛け声は王子たちにも聞こえており、彼らは弾の動きを追おうとする。

 

「えっ!? 弾が、ない!?」

 

屋上に着地した樫尾が叫んだ。

目を凝らしても弾が見えず、キョロキョロとするだけである。

 

「また騙し討ち(ブラフ)か!? カシオ、シールドだ!」

 

放たれたはずの(トリオンキューブ)が見えないので騙し討ち(ブラフ)かと王子は思ったが、念のためと樫尾と背中合わせになって一緒にシールドを起動する。

ふたりで同時に両防御(フルガード)をすればシールドの耐久力は大幅にアップし、追尾弾(ハウンド)どころか弧月や徹甲弾(ギムレット)の攻撃であっても十分防ぐことができるという意味だ。

そして一旦攻撃を防いで反撃に出るつもりでいた。

しかし彼らは知らなかった。

ツグミの撃った追尾弾(ハウンド)には鉛弾(レッドバレット)が付加されていたことを。

通常なら発光する(トリオンキューブ)であるが、鉛弾(レッドバレット)が付加されると弾は黒くなる。

屋上には照明がなくほぼ闇であるから見えなくて当然で、視覚支援があっても非常に見えにくい。

さらに避けることができないだけでなくシールドは無意味であるから、彼らは腹部や脚などに重石が付けられてしまった。

 

「くっ…鉛弾(レッドバレット)か…!」

「う…動けない」

 

身動きできない王子と樫尾。

さすがの王子も鉛弾(レッドバレット)にまでは考えが及ばず、次の攻撃を行うまでにほんの僅かだが隙ができてしまった。

ツグミはそれを見逃さず、弧月で一気にふたりの首を斬り落としたのだった。

 

 

「こ、これは…何が起きたのかまったくわかりません! 東さん、解説をお願いします!」

 

桜子の知識や経験では理解できない戦術であったようだ。

東もすぐにはこの状況を把握できず、王子たちが残した緊急脱出(ベイルアウト)の軌道が消えたところでやっと理解したという顔になった。

 

「霧科が放った追尾弾(ハウンド)は通常のものではなく鉛弾(レッドバレット)を付加したものであったようです。追尾弾(ハウンド)は標的を追尾する弾ですが、上手く動けば回避することはできます。しかし鉛弾(レッドバレット)を付加したことで弾が黒くなり、いくら視覚支援を受けても暗闇では容易に見つけることができません。『重くする効果』に大量のトリオンを割いているために通常よりもかなり弾速や射程は落ちますが、見えなければ回避のしようがありませんし、シールドを張っても意味がなく着弾してしまうというわけです。屋上へ誘い込んだのも、ここには照明がひとつもないからですね。王子隊としてはふたりがかりなら勝機があると踏んだのでしょうが、彼女の方が一枚上手でした」

 

「なるほど…。これで王子隊は全滅。残すは生駒隊の水上隊員だけとなりました!」

 

 

その頃、王子と樫尾が緊急脱出(ベイルアウト)したことを知った水上は悩んでいた。

次に狙われるのは自分であり、自発的に緊急脱出(ベイルアウト)するという手もあるが、何もせずに逃げるというのはB級3位部隊 ── 1位と2位が元A級であるから、実質的にはB級1位 ── のプライドが許さない。

 

(せやけどツグミちゃんは完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)やからな…。あのコがイコさんみたく単純な攻撃手(アタッカー)なら楽なんやけど、どないなトリガーでくるのか全然わからへん。追尾弾(ハウンド)鉛弾(レッドバレット)まで使こうてくるとなると手も足も出ぇへんな)

 

水上が悩んでいると、ツグミはホテル棟の東端の屋上から港の管理棟の裏に隠れている水上に呼びかけた。

 

「水上さん、隠れていないで戦いましょうよ! 屋上(ここ)まで来る間に攻撃したりしませんから、安心して上がって来てくださいな! 来ないならアイビス(カノン)で建物ごと吹っ飛ばしますよ!」

 

そしてグラスホッパーを起動して水上の目の前に()()を出現させた。

 

「罠…やろな、きっと」

 

水上はそう呟きながらも彼女の誘いに乗ることにした。

従わなければアイビス(カノン)で吹き飛ばされるだけで、屋上で一対一になればわずかでも勝機はあると考えた結果であった。

そしてホテル棟の屋上へと着地した水上は暗闇の中でツグミと対峙する。

 

「来てくださって恐縮です」

 

「もう逃げられへんからな。それでどないな手を使こうて俺を倒してくれるんや?」

 

「やはり目には目を…ですね」

 

ツグミはそう言って右手に(トリオンキューブ)を浮かべた。

今度は鉛弾(レッドバレット)を付加していない通常弾なので発光している。

水上は彼女の「目には目を」の言葉を「騙し討ち(ブラフ)を得意とする相手には騙し討ち(ブラフ)で」攻撃するのだと考えた。

 

通常弾(アステロイド)!」

 

「シールド!」

 

ツグミの掛け声に反応し、水上はしゃがんで両手でシールドを張る。

彼女の(トリオンキューブ)の大きさを見た水上は攻撃よりも防御を選んだのだ。

両防御(フルガード)であり、地面に固定したことで耐久力は十分である。

水上はツグミのことだから南沢の時のように通常弾(アステロイド)だと思わせて 追尾弾(ハウンド)を撃つ…ように思わせて実は通常弾(アステロイド)を撃つという二重の騙し討ち(ブラフ)で来るだろうと深読みしていた。

両防御(フルガード)なら通常弾(アステロイド)追尾弾(ハウンド)、あるいは弧月であっても防ぎ切ることができる。

そして一旦攻撃を防ぐことができれば、ツグミが次の攻撃をする隙に反撃できる…と水上は王子と同じことを考えていた。

 

しかし水上はツグミのことをあまりにも知らなさすぎた。

彼女が出した(トリオンキューブ)は囮で、本命は別にあったのだ。

観客が注視するメインモニターに映し出されたのは、真下から出現したエスクードで股間を強打し、そのまま空中へ放り出された水上がツグミの弧月で胴を二つに斬り裂かれる様子であった。

観客の見つめる中、水上は見るも哀れな姿で緊急脱出(ベイルアウト)してしまう。

ツグミの「目には目を」の意味は「騙し討ち(ブラフ)を得意とする相手には騙し討ち(ブラフ)で」で正解だったのだが、射手(シューター)用トリガーではなくエスクードと弧月を使うというところまでは考えが及ばなかったのが水上の敗因である。

 

 

「こ、これは…? 通常弾(アステロイド)を撃つと見せかけて、まさかのエスクードに弧月の追撃!! 霧科隊員、水上隊員を緊急脱出(ベイルアウト)させた!! 騙し討ち(ブラフ)を得意としている水上隊員も同じ手に引っかかって落ちるとは、本人も無念に違いありません!」

 

桜子は続けた。

 

「水上隊員が緊急脱出(ベイルアウト)したことで、ここで決着! 生存ポイントが加わり、最終スコア9対0対0! またもや玉狛第3の完全勝利です!! 4戦全勝の玉狛第3の勢いは止まらない! ここまでの総獲得ポイント数は32、暫定ですが二宮隊を抜いて1位の座を奪った!!」

 

観客たちは立ち上がって歓喜の声を上げた。

夜の部に出場する二宮隊の結果にもよるが、玉狛第3が暫定1位というのは事実である。

ランク戦スタート時は最下位で初期ボーナスもなかったというのに、4戦目が終わった時点でトップにまで上り詰めたのだから快挙と言うしかない。

それを達成した試合を間近で見られたのだから観客たちが大騒ぎするのも当然のことで、実況の桜子までが小躍りしそうな勢いだ。

その騒ぎを収めたのは古寺だった。

 

「みなさん、静かにしてください!」

 

その一声で観客たちは一瞬にして静まった。

 

「気持ちはわかりますが、ここは静かに東さんの総括を聞いてください」

 

観客たちは席にきちんと座り直して東の解説を待つ。

桜子も咳払いをひとつして、何事もなかったかのように言った。

 

「コホン。…さて、振り返ってみて、この試合いかがだったでしょうか?」

 

「そうですね…ステージの選択権があった玉狛第3が完全に作戦勝ちしていましたね。ひとり部隊(ワン・マン・アーミー)という不利な条件ではありますが、彼女には強化視覚(サイドエフェクト)という強力な武器がありますから、ステージの選び方次第で勝てると踏んだのでしょう。しかし『夜』という時間帯を選んだのは単に敵の視覚を奪うというものではありません。暗闇でもオペレーターによる視覚支援でなんとかなりますからね」

 

「もしかしたら鉛弾(レッドバレット)を使うためでは…?」

 

「それは逆ですね。彼女は何らかの意図があって『夜』を選んだ。その中で鉛弾(レッドバレット)を使う()()()アイデアが浮かんだのではないかと考えられます。そして霧科が特に警戒していたのは生駒の旋空弧月と、機動力の高い王子隊3人による追尾弾(ハウンド)の同時攻撃ですから、その対策として『海岸リゾート』というフィールドを選んだ。そして灯台に立てこもり、近付く敵を狙撃していく…のだと俺は考えていましたが、彼女はその期待を裏切る戦術をとりました。まったく彼女らしいです」

 

東はそう言って苦笑する。

 

「序盤で隠岐が落とされてしまいましたが、生駒隊・王子隊はそれぞれ隊員が無事合流していつもの戦い方ができるはずでした。しかし霧科がイーグレットを構えているとなると滅多な動きはできません。戦闘フィールドが中央エリアに限定される『先に霧科を落とさなければ戦いにくい』マップでしたから。Round2で玉狛第2が見せたように『地形を使って相手を動かす』が上手い具合に作用したことで、霧科は最後まで余裕があり自分に有利な状況で戦うことができましたね」

 

「しかしなぜ霧科くんはあのような面倒な手を使ったんでしょうか? 彼女のアイビス(カノン)なら遠距離からドカドカ撃ちまくって火力で押し切ることもできたというのに」

 

古寺が難しい顔で東に訊く。

 

「それは…彼女に聞いてみないとわかりません。ただ彼女の性格からすると、それでは面白くないとでも思ったんでしょう。昔から彼女は他人の予想を裏切る斜め上の戦術を考えるのが好きですからね」

 

「では、生駒隊・王子隊個々の動きについて解説お願いします」

 

桜子に言われ、東が説明する。

 

「まず転送位置ですが、どちらの隊にとっても問題はなかったと思います。むしろ敵のど真ん中に飛ばされた霧科は下手をすると序盤で囲まれてしまい、この時点で落とされていた可能性がありました。しかし黒いバッグワームに助けられながら灯台までたどり着き、その間に生駒隊・王子隊はそれぞれ隊員の合流を果たして複数による攪乱と同時攻撃で霧科を抑える作戦に出ました。これも正しい選択です。3方向から同時に接近されたら対処するのはさすがの彼女でも難しいですから。ただ彼女もこうなることは想定済みで、焦ることなく冷静に対処しました。エスクードを目隠しにしてアイビス(カノン)で射撃。通常弾(アステロイド)を撃つと見せかけて追尾弾(ハウンド)を撃つ。これらは足場が限定される海上で行ったことで高い効果が得られました。…っと、もしや…!?」

 

東が何かを思い付いたようだ。

 

「東さん、どうかしましたか?」

 

桜子に訊かれて、東は言った。

 

「霧科が『海』と『夜』を選んだ理由です。彼女は心理的な部分をも考慮していたのではないかと推理したのです」

 

「どういうことでしょうか?」

 

「人間は本能的に暗闇と海を恐れるものです。この観客の中にも夜の海を見て恐怖を感じたことのある者もいるのではないでしょうか。得体の知れないものが潜んでいて、中に引きずり込まれそうになるあの感覚。泳げない者であればなおさらです。彼女はそんな無意識に夜の海を恐れる心理を上手く利用したのではないかと思うのです。灯台に立てこもったのは最初の狙撃地点に選んだのもありますが、敵をおびき出すためだったとも考えられます。そして自覚はなくとも無意識に恐れを抱きながら、彼女に操られてやって来た。この時点で彼女は心理的な点でも優位についていたわけです。南沢が彼女に攻撃を仕掛けた時、わずかですが動きがいつもよりぎこちなかった。あれは暗い海に引きずり込まれそうになる感覚に怯えてしまったためではないか、と。まあ、これは俺の推測にすぎませんから、後で彼女に真相を聞いてみます」

 

そして東は続けた。

 

「生駒・蔵内・南沢と3人も続けて落ちたことで、残った隊員が一時撤退したのは無理もありません。特に生駒隊はひとりになってしまいましたからね。さらにイーグレットだけでなく高威力のアイビス(カノン)も持っているとなると、一層警戒が必要となります。とにかく身を隠すことが最優先で、3人は隠れるために散ってしまいました。そこで霧科は陸上へと戻り樫尾を狙いますが、彼は王子と合流して二対一の状況となりました。ただこれは今考えると霧科による()()であったと思われます。逃げると見せかけて屋上へと誘い込み、王子たちに数の優位で攻め込むことができるようにお膳立てしたのです。王子たちがこの機会(チャンス)逃すはずがないと彼女は確信していたでしょう。そして照明のない暗い場所で鉛弾(レッドバレット)を付加した追尾弾(ハウンド)での攻撃。追尾を回避することができずシールドによる防御も効果なしですから、彼女の前に姿を現した段階で王子と樫尾の命運は尽きていたというわけです」

 

「王子隊長と樫尾隊員を接近させたのはやはり鉛弾(レッドバレット)を付加したことで落ちる射程や弾速を考慮してのことですか?」

 

桜子が訊く。

 

「ええ、そうです。ギリギリまで射程を短くし、その分のトリオンを弾速に回したと思われます」

 

「しかし相手は追尾弾(ハウンド)を装備した攻撃手(アタッカー)ふたりです。タイミングを誤れば逆に王子隊から攻撃されていたのではありませんか? 鉛弾(レッドバレット)を使うのであれば防御はできませんから、勝敗は紙一重の作戦だったと思うんです」

 

「たしかにその通りですが、彼女は自分を不利な状況に追い込んで大逆転を狙うのが好きですから」

 

「好き嫌いで戦術を選ぶのはどうかと思いますが、それでも勝ってしまう霧科隊長、恐るべし!」

 

「ハハハ…。それで最後に水上が落とされた場面ですが、もしあれが水上ではなく王子であったなら結果は変わっていたかもしれません」

 

「それはどういう意味でしょうか?」

 

「あの時、霧科は通常弾(アステロイド)を撃つと見せかけ、実際にはエスクードと弧月を使うという突飛な行動に出ました。ですが思い出してみてください。これまでに彼女が使ったトリガーはイーグレット、アイビス(カノン)追尾弾(ハウンド)、弧月、バッグワーム、グラスホッパー、エスクード、そして鉛弾(レッドバレット)。すでに装備できる限界の8つのトリガーを全部使用してしまっているんですよ」

 

「あ…!」

 

「つまり通常弾(アステロイド)は初めから装備していません。あの(トリオンキューブ)追尾弾(ハウンド)のものです。水上自身が騙し討ち(ブラフ)を得意とする射手(シューター)ですから、水上は南沢の時のように『通常弾(アステロイド)を撃つと見せかけて追尾弾(ハウンド)を撃つと思わせておいて、実際には通常弾(アステロイド)を撃つ』と深読みしたのではないかという気がします。一旦両防御(フルガード)で攻撃を防ぎ、霧科が次の攻撃を仕掛ける隙に反撃するつもりだったに違いありません。これが頭の回転の早い王子であったなら彼女の嘘に気付いたでしょうね。彼女は通常弾(アステロイド)を装備していないのだから撃つことはできない。だからといって追尾弾(ハウンド)を撃つという南沢の時の二番煎じという()()()()()ことはしない。あの(トリオンキューブ)は見せかけで、この距離なら攻撃には弧月を使う。仮にノーマルな追尾弾(ハウンド)であったとしたら回避は難しくない。ならば両防御(フルガード)よりは間合いをとって旋空弧月で攻撃すべきだ…と一瞬で判断して動いたでしょう。なにしろ彼女が旋空を装備していないのは確かなんですから、旋空を持っている王子が有利となります。もっとも真下からエスクードで突き上げられて股間を一撃。痛覚ゼロにしていないと相当な痛みと、それ以上に精神的ダメージを受ける攻撃をしてくるというところまでは王子でも予想はできないと思いますけど」

 

続いて古寺が言った。

 

「そういう点で、先に王子隊を全滅させて水上先輩を残したのも作戦だったかもしれませんね。しかしこの試合は生駒隊・王子隊共に霧科くんの思惑通りにいったからであり、もし彼らが彼女を無視してホテル棟裏の森林地帯で戦闘をしていたら成立しなかったものです。森林地帯は非常に戦いづらいですが、戦闘が不能というわけでもありません」

 

「もちろんその可能性があるのは霧科も承知の上。その場合の作戦も練ってあったはずです。たぶん自分を無視できなくなるような動き、…アイビス(カノン)でホテル棟を砲撃して裏山の森を瓦礫で埋め尽くすとか、ホテルの屋上から嫌がらせの追尾弾(ハウンド)を撃って邪魔をするとか。もっとも彼女なら自分の仕掛けた罠に両隊とも引っかかると確信していたでしょう。前回と前々回の試合で『彼女がいるといつもの戦いができない。速攻で始末してしまいたい』と思わせる戦いを見せてくれましたからね」

 

「なるほど…。そこまで深く考えて行動しているとなれば、霧科くんが怒涛の勢いで駆け上って来たのが奇跡や運などではなく、純粋に彼女の器量だということがわかります。A級の戦闘力を持つ完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)、旧ボーダー時代からの実戦の積み重ねによる経験と知識、それらを上手く使い戦術を組み立てる頭脳。おまけにその戦術が他人の想像を超えるものとなれば、上位グループでも臆することなく全力を出し切ることができる。さすがは元A級、すごいですね」

 

「いや、彼女がすごいのはそれだけじゃない」

 

感激している古寺に東が言う。

 

「君たちは気が付いているかどうか知らないが、彼女はこれまでの4戦で緊急脱出(ベイルアウト)しないだけではなく、かすり傷ひとつ負っていない」

 

「…!」

 

古寺だけでなく桜子や観客の何人かはツグミの戦いぶりを思い出して仰天する。

 

「同じ全勝の玉狛第2の空閑ですら腕や脚を切り落とされている。まあ、これは彼が腕や脚の1本くらい捨ててもそれ以上の結果が出ればいいと考えているからなのだろうが、霧科はそんなことをせずとも勝ち抜いてきた」

 

「……」

 

「俺たちはトリオンで作られた戦闘体で戦うから、よほどのことがなければ負傷することはない。命の危険のない戦闘システムだから腕や脚を犠牲にしてでも勝つ作戦を平気で選ぶ。しかし彼女は第一次近界民(ネイバー)侵攻を戦い抜いた古参で、当時はまだ緊急脱出(ベイルアウト)システムはなかった。つまりダメージを受けて換装が解けてしまえば命に関わる事態となることを経験しているということ。実際、彼女はその時に死にかけていているそうだから、できるだけ攻撃を受けない、受けずに済む戦いをするという習慣が身に付いていて、それが無傷で全勝という結果になっているんだろう。まあ、彼女自身が意識しているのか無意識なのかは知らないが、いつまでもそんな戦いができるほど上位グループの戦いは甘くない。俺としてはどこまでやってくれるのか興味があるのだけどな。フッ…」

 

東はニヤリと笑って総括を締めた。

 

「ますます玉狛第3から目が離せなくなりました! これでB級ランク戦、4日目・昼の部を終了いたします! 東隊長、古寺隊員、ありがとうございました。次は19日の水曜日。次回をお楽しみに!」

 

 

 






Round4・昼の部 玉狛第3 VS 生駒隊、王子隊 のトリガーセット

メイン:アイビス(カノン)、イーグレット、追尾弾(ハウンド)、グラスホッパー
サブ :弧月、バッグワーム、鉛弾(レッドバレット)、エスクード

今回は、Round3の時より騙し討ち(ブラフ)を増やし、追尾弾(ハウンド)鉛弾(レッドバレット)とかエスクードでの目隠し+アイビス(カノン)とか、原作にない面白そうな戦術を詰め込みました。
文字だけだとわかりにくいでしょうが、映像化したらけっこう楽しめると思います。



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