ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
「
「アフトの侵攻もC級の拉致だけでなく『神』となる人間を探していたのだったな」
「はい。
「つまりトリオンを多く含む食品を摂取することでトリオン器官が発達するという仮説の根拠がそれなのか?」
「はい。ですがそう断定するには根拠が弱すぎます。他に条件があるのかもしれませんし、わたしの仮説は自分が見て経験した国の
「ああ、承知した」
「そしてトリオンを含む食材の摂取で人間のトリオン能力を伸ばすことを考えていた中で、わたしはあることに気が付きました。動物にもトリオン器官があってそこでトリオンは製造されている。ならば動物の中にもトリオン能力の高い個体がいるのではないか、と。人間ほどではなくてもそこそこの能力があればトリオンを多く含む餌を与えることでさらにトリオン値が上昇するはずです」
「そうしてトリオン能力の高い動物を人間の代わりに『神』にすることで人間を犠牲にしないで済むようにしたい…と言うのだろ?」
「はい、そうです。わたしは『神』が
「しかしおまえはその
「ええ。動物にもトリオン器官が存在することは以前から知られていたことですが、トリガーを起動するためには明確な意思を発する必要で、動物にトリガーを使わせることは不可能だと判断してそれ以上の研究はしていませんでした。たしかに牛や馬に
「それはエクトスの『神』問題の解決のため…ではなかったのか?」
「ええ、それが主な理由ですけど、他にもあります。これまで誰ひとりとして声を上げずにいた『神』問題に
「わかった。しかし動物を使って成功したとしても人間の時のようにはいかないだろ?」
「もちろんです。例えば牛の寿命は約20年、馬だと20年から30年とされています。人間よりも短いのですから『神』でいられる時間も短くなるのは自明の理。それにトリオン能力がずば抜けて高い個体を使っても数十年が限度でしょう。ですがその度に新しい個体を『神』にすればいいだけです。仮に毎年『神』が必要となったとしても『神』とするために特別に飼育することで以前のようにトリオン能力の高い人間を探すよりも安定した国土の維持が可能となるでしょう。人間を犠牲にするよりもはるかに人道的ですし、『神』として動物の命を犠牲にするとしても家畜として育てたものを食肉とすることと大差はないという感情で済ませることができます。『神』にするのが非道だというのなら食肉にするのだって非道ということになり、自分たちの首を絞めることになりますからね」
「動物好きのおまえがそう言うのだからよほど過激な動物愛護団体の人間でもない限り異論は出ないだろう。もっとも
「ええ。わたしは自他ともに認める動物好きです。でもわたしだってお肉は食べますし、医学発展のためなどの動物実験に関しても否定はしません。農作物を荒らす害獣も彼らには罪はありませんが駆除をしなければならない場合に可哀想だからと反対することもありません。感情論だけでは済まされないことが多いですから、ここは割り切るしかありません。
「……」
「とにかくエウクラートンへ行って現状で条件の良さそうな個体を数頭エクトスへ連れて行き、『神』として
「おまえらしいな。おまえが言ってやれないというのなら、私が彼らに言ってやろう。三雲くんは私に労われたところで嬉しくはないかもしれないがな。おまえが玉狛支部時代から先輩として特別に気にかけていたことは良く知っている。だから最後まで見届けたいという気持ちもわかる。だが大丈夫だ。おまえの
「そうですね。…それに考えてみたら彼らはもうわたしの指示がなくても自分たちで考えて計画を立ててそれを実行しているんですから、わたしがいつまでも保護者面しているのはおかしいというもの。彼らはもう立派なボーダーの総合外交政策局員なんですから。たぶん彼らはもうわたしを必要とはしていない。わたしこそが彼らに依存しているのかもしれません」
「依存…とはどういう意味だ?」
「ユーマくんとチカちゃんがボーダーに入隊すると決まった時、わたしは彼らの希望である遠征参加を叶えてやりたいと厳しく指導しました。それが先輩としてやるべきことだと考えていたからです。玉狛第2という
「だとすればそれを許した私に全責任がある。しかし最終的に自分の進路を決めたのは彼ら自身だ。それに彼らにはボーダーを辞めることができない理由があったと私は思う」
「ボーダーを辞められない理由…」
「ああ。三雲くんは記者会見でアフトに連れ去られたC級を救い出すと宣言した時に第一次侵攻の被害者に関しても言及している。まあ、あの時は場の雰囲気というか勢いでつい言ってしまったのだろうが、彼の性格からすれば一度口にしたことをなかったことにはできない。最後まで責任を持つという意味で拉致被害者市民救出計画を完遂しない以上は辞めることはないだろう。雨取くんはあの時点でボーダーを辞めると言えば周囲から陰口を叩かれるだろうと考えたかもしれない。自分の家族と友人が帰国すれば後はどうでもかまわない。三門市の平和や第一次侵攻の拉致被害者のことなど自分には関係ないと考えているのだろうと言われるのが嫌でボーダーを辞めることができなかった…という可能性もある」
「そしてユーマくんにはボーダーという居場所ができてしまい、今さら
「そういうことだ。人というものは基本的に自分が一番大事なものだ。自分の目的を果たすために他者を利用することは当たり前のことで、それをお互いにやっているから社会は成り立っている。おまえが常日頃言っている『win-win』な関係もお互いに相手を利用し合って双方が同等に利益のある結果を出すことが重要だということ。私からすればおまえのトリガー使いとしての戦力や交渉を上手く進めることのできる能力などずいぶんと利用させてもらった。おまえは自分のためにやったことだから利用されているという感覚はないと言うだろうが、結果としておまえの行動はボーダーと三門市民のために役立っているのだ。私はボーダーの総司令官として優秀なトリガー使いを利用して自分の目的を果たそうとしている。それを誰にも非難されるいわれはない。誰もが大なり小なり同じことをしているからだ。だから私はおまえがボーダー総司令としての私を利用するにならそれでかまわないと考えている。いや、むしろいくらでも利用してくれとさえ思う」
「城戸司令…」
「とにかく三雲くんたちのことは考えずに自分のやるべきことだけをやっていればいい。それが
「わかりました。今日はこうして城戸司令とゆっくりお話ができて良かったです」
「私もだ、ツグミ。最近は話をするにしても上司と部下の会話でしかなかったからな。それはそうと忍田にはまだ会ってはいないのだろ? 帰国の報告だけでなくその元気な顔を早く見せてやれ。きっと執務室で気を揉んでいるにちがいない」
「はい。ではこれで失礼いたします」
ツグミが再び時計を見ると城戸とふたりになってから1時間以上も経っていた。
拙作では原作では明らかにされていない
そもそも
というのも国土が
まず人間がいて、その人間が
したがって
また「神」の寿命が尽きると国が滅びてしまうという原作の設定によって、トリオン能力の高い人間を「神」という名の生贄にする事態はどの国にでも起きる問題になっています。
アフトクラトルでは「神」の寿命が近付いたことで国内では四大領主による覇権争いになっており、ハイレインが三門市に侵攻する原因ともなりました。
そして拙作のオリジナル国家「エクトス」でも「神」の寿命が迫っており、それが第一次
原作で「動物にもトリオン器官が存在する可能性はあるが、トリガーを使う場合はトリガーを起動する明確な意思を発する必要があるため、犬や猫にトリガーを使わせることは難しいと思われる」という内容の設定があり(BBFのQ176参照)、その設定からトリガーは使えなくても
ならば「慢性的なトリオン不足」を解消する手段を見付けなければ城戸たちボーダー創設メンバーの「真の目的」は叶えられないと考え、拙作独自の解決策を打ち出してオリ主に行動させているのです。
原作ではまだアフトクラトル遠征の参加メンバーを選抜する試験の真っ最中で、葦原先生がどのような「結末」を描くのかは全然わからない状態です。
それをただ待っているのでは退屈なので自分で考えた物語を綴っているのが拙作です。
わたしはこの「ワールドトリガー」という作品を愛し、リスペクトしているのは事実です。
したがって葦原先生の目に留まったとしても失礼にならないよう努めているつもりです。
ですが読者の皆様には納得できない部分もあることでしょう。
まあ、UAやお気に入りの数を見れば、数少ない拙作の読者様は納得して読んでくださっていることと思います。
物語は最終回まで書き終えていてこの路線で進んで行きますので、ここまで読んでくださった読者様には最後までお付き合いしていただきたいと切に願っております。