ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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66話

 

 

作戦室に戻ったツグミは栞と修・遊真・千佳に出迎えられた。

 

「ツグミちゃん、お疲れさまー」

「霧科先輩、お疲れさまでした」

「きりしな先輩、おもしろかったぞ」

「ツグミさん、すごかったです」

 

4人がそれぞれツグミに労いと賞賛の声をかけた。

 

「みなさん、応援ありがとうございました」

 

ツグミも礼を言って笑顔で応える。

すると栞が興奮冷めやらぬといった感で言う。

 

「信じられないようなスゴ技の連続で手に汗握っちゃったよ。観客席のみんなも驚きの連続だったんじゃないかな」

 

「ええ。そうであってほしいですね。今回はステージ選択権がありましたから慎重に作戦を練って、これまで以上に面白い戦いになったはずですから」

 

 

そんな会話をしていると、作戦室のドアをノックする音がした。

続いて東が入って来る。

それを見た修・遊真・千佳が驚いてペコリと頭を下げ、東も彼らに気付いて軽く手を挙げて挨拶した。

 

「よう、霧科。今日も面白いものを見せてくれたな」

 

「東さん! 東さんも見てくれたんですか?」

 

嬉しそうに呼びかけるツグミに東が答えた。

 

「見ていたも何も、俺は古寺と一緒に解説をしていたんだぞ」

 

「解説ですって!? そんなの聞いてませんよ。たしか今日の解説は冬島さんだったはず…」

 

「俺が頼んで代わってもらった。きみは前に解説してやると約束した時、いつもより余計に張り切るって言ってただろ? だからいつものきみが見たくてわざと教えなかったのさ」

 

「うー…東さんの意地悪。東さんの解説、聞きたかったのに…」

 

そう言って不貞腐れるツグミに、東はポケットからICレコーダーを取り出して彼女に手渡した。

 

「そう言うと思ってちゃんと録音しておいた」

 

するとツグミは満面の笑みを浮かべ、子供のように東に抱きついた。

 

「だから東さん、だーい好き!」

 

「ハハハ…後でゆっくりと聞くといい。それよりもさっきの試合のことできみに訊きたいことがある」

 

ツグミは怪訝そうな顔になり、東から離れて顔を見る。

 

「訊きたいことですか?」

 

「ああ。きみはさっきの試合で灯台を上手く利用して戦っていたが、あの場合は近寄って来た敵を防波堤ごとアイビス(カノン)で砲撃するのが定石だ。足場となる防波堤を壊してしまえばあとはイーグレットとアイビス(カノン)で狙撃するだけでいい。きみの腕なら簡単だというのになぜそうしなかった?」

 

「う~ん…確かにそれは東さんのおっしゃるとおりですけど、わたしはランク戦や模擬戦でも()()()()()建造物を壊さないように心がけて戦っているんです。仮想フィールドでの戦いは実戦に向けての練習ですから、何も壊さずに戦うよう練習すれば実戦でその効果が出ると思って。いくら市民を守るためとはいえ街が無残な姿になっていくのを見るのは哀しいですからね。甘いという人もいるでしょうけど、これがわたしのやり方ですから」

 

そう答えたツグミは寂しげに微笑んだ。

 

「なるほど、きみらしい考え方だ」

 

東はツグミの答えに納得してくれたようである。

しかしツグミははにかみながら続けた。

 

「でも敵がわたしの誘いに乗ってくれなかった時にはアイビス(カノン)をドカドカ撃って、マップ全体を更地にする可能性もあったわけですけど。それにいろいろ考えた作戦を使わないのは勿体無いですし」

 

「ハハハ…それはそれできみらしいな。ああ、それからきみが『海』と『夜』を選んだ理由を教えてくれないか。俺は人間が夜の海を本能的に恐れるという心理的な部分をも考慮していたのではないかと睨んだのだが」

 

それを聞き、ツグミは東の顔を見て答えた。

 

「さすがは東さんです。最初にあのステージを思いついたのはいつもと違う状況を作って敵部隊(チーム)に心理的負荷(プレッシャー)をかけるためでした。相手は生駒隊と王子隊です。()()()()()()をされたらわたしに勝ち目はありません。そしていろいろと試行錯誤しているうちに『海岸リゾート』というフィールドが適していると判断しました。さらに時間帯ですが、これは灯台が利用できるとわかったので『夜』にしました。たぶん観客(ギャラリー)の多くはわたしが強化視覚(サイドエフェクト)を使って有利に事を運ぶために夜にしたのだと考えたでしょうね」

 

「ああ。しかしそれは視覚支援を受ければ問題はない。それでも追尾弾(ハウンド)鉛弾(レッドバレット)の攻撃には有効だったな?」

 

「はい。あの技も通常だと効果のない攻撃ですけど、暗闇の中でならある程度いけると思いまして。…そして実際に頭の中でシミュレーションしているうちに、逆に自分がこの状況に追い込まれたら…と考えたらふと気付いたんです。夜の海は怖い。夜の海には魔物が住んでいて海中に引きずり込まれそうだ、と。落ちたら最後という感覚がストレスになり、いつもの動きができなくなる。わたしが灯台に立てこもれば、隠岐さん以外の隊員は射程の関係でどうしても海上へと来なければなりませんからね。それであのステージと時間帯なら勝てるという自信を得ました。ただしわたしの予想を裏切ってホテル棟の裏で勝手に戦われてしまったら、もう少し面倒な流れになったでしょうけど」

 

「なるほどな…。そこまで考えて戦っているのか。つまりきみは俺が教えた頃のきみではないということだな」

 

しみじみと言う東にツグミが訊く。

 

「そのお言葉は褒め言葉だと受け取ってよろしいですね?」

 

「ああ、もちろんだ。愛弟子の目覚しい成長ぶりが嬉しくて泣けてくるよ」

 

そう言いながら東は目を細めて笑う。

しかしすぐに真剣な眼差しになって言った。

 

「だからこそきみを倒すのは師匠である俺の役目だ。俺の持っている技術や知識、頭脳をすべて使ってきみの進撃を阻んでやろう」

 

「つまりわたしが勝ったら、わたしは師匠を超えたことになりますね?」

 

「ああ。次に会うのは仮想フィールドの中で、師弟ではなく敵同士としてだ。覚悟しておけ」

 

するとツグミは失笑した。

 

「ぷっ…。カッコイイこと言ってますけど、明日の狙撃手(スナイパー)の合同訓練ですぐに会えますよ()()()

 

ツグミに言い返された東は頭をかきながら照れ笑いをする。

 

「ハハハ…そういえばそうだったな。じゃ、俺はこれで失礼する」

 

そう言って作戦室を出ようとしたが、何かを思い出したかのように振り向いて言った。

 

「ひとまず暫定1位おめでとう」

 

「はい、ありがとうございます」

 

ツグミがそう言うと、東は笑顔で作戦室を出て行ったのだった。

 

 

 

 

東がいなくなると、修と千佳がそばにあったベンチに座り込んだ。

 

「はあ…緊張した」

「うん、わたしも」

 

どうやらふたりは東に対して緊張し続けていて、姿が見えなくなった途端に脱力したようだ。

 

「まあ、仕方がないわよね。夜の部で対戦する部隊(チーム)の隊長と顔を合わせれば、緊張するなって言う方が無理だもの」

 

ツグミがそう言うと、修が答えた。

 

「それもありますが、霧科先輩の戦いぶりには驚くことばかりでしたから。ステージや時間帯の選択に『心理的負荷(プレッシャー)』とか深い意味があったことも驚きですし、それをズバリと言い当てる東さんの洞察力にも恐れ入りました。さすがは先輩の師匠ですね。そんなすごい人の部隊(チーム)とこれから戦うと思うと平静でいられなくて…。なんだか戦う前から緊張しっぱなしで、ドッと疲れが出てしまったみたいです」

 

「それじゃオサムくんたちが負けたらわたしのせいってことね。あー、どうしよう…」

 

ツグミがわざと困った顔をすると、修が慌てて言い訳をする。

 

「あ、違います! ぼくはそんな意味で言ったんじゃ ──」

 

「あはは…わかってるって。冗談よ、冗談。まあ、強者を前にしてプレッシャーを感じるのは仕方がないけど、それで臆していては勝てる試合も勝てなくなる。大事なのは平常心。それに次の試合は強敵揃い。彼らの胸を貸してもらうつもりでやればいい。勝っても負けてもあなたたちの将来に役立つはずよ。そして…」

 

ツグミの携帯電話に着信があった。

 

「あ…いつものアレだ。ゴメン、用事があるのを思い出した。ちょっと行ってくるわね」

 

そう言ってツグミは作戦室を出て、廊下で電話を受けた。

 

「はい、ツグミです。今、応接室へと行く…え? 談話室ですか? …はい、わかりました。すぐに向かいます」

 

 

 

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