ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
「ただ今からキオン、エウクラートン、トロポイ、リコフォス、エクトスの5ヶ国代表による5者会談を開会します」
ここは王城の一角にある応接室で、急遽5者会談の会場としてセッティングされた。
会談の司会進行は開催国の王であるヌンツィオだ。
そしてキオンのテスタ、リコフォスのイェリン、トロポイのイザイア、エウクラートンのツグミが円卓を囲んでいる。
「開会に当たって本会議の議長を選出したいと思います。そこでこの会議の発起人であるエウクラートンのツグミ・オーラクル殿下を推薦いたしますが、皆様のご意見をお聞かせ願います」
するとテスタが「賛成」と手を挙げ、続いてイェリンとイザイアも同じように「賛成」と言って挙手した。
「賛成多数によりツグミ・オーラクル殿下に議長に任命いたします」
ヌンツィオとツグミは席を交代し、彼女が上座に着いた。
「不束者ですがこのツグミ・オーラクルが議長を務めさせていただきます。…ではこの会議の趣旨の説明をさせていただきます」
そう前置きをしてからツグミはリコフォスで起きた生物テロ事件から始まる一連の流れを説明し、5ヶ国分の「箱」と「鍵」を公開した。
非常に
「これが『5人の王』の直系の末裔の王家に伝わる『箱』と『鍵』です。先ほどエクトスの分をヌンツィオ陛下からお預かりしましたので、こうして1万年の時を経て再び一ヶ所に集めることができました。しかしすべての『箱』と『鍵』を集めたのは核兵器を復元するためではありません。核という
ツグミはエウクラートンの「箱」に入っていた歴史書を4部コピーして、それを4人の代表に手渡した。
「これはエウクラートンの王家で管理をしていた『箱』に入っていた歴史書の複製です。内容はそう難しいものではありませんが、非常に
ツグミの配った歴史書の複製にはジュニアによって解読された内容がトリオン製の板に刻み込まれている。
これならトリオンによる破壊行為さえなければ永久に残るものとなり、ツグミはこの歴史書をそれぞれ持ち帰って永久に語り継いでもらうつもりだ。
自分たちの遠い先祖が
しかし身に余る「力」を持ってしまったためにメスキナという国を地上から一瞬にして消し去り、まるでその天罰かのようにマニュスの国土と民もすべて消えてしまった。
辛うじて生き残ったマニュスの民は、彼らは西方の小国に流れ着いた。
しばらくの間その国で現地の民と交流をしていたが、マニュスの民は新天地を求めて異世界へと旅立った。
その際に
ただし
製造方法の前編はキオン、製造方法の中編はトロポイ、製造方法の後編はエクトス、材料はリコフォス、歴史書はエウクラートンで保管することになった。
各国とも自分の国の「箱」に何が入っているのかはわかっているが、他の国の「箱」には何が入っているのかはわからない。
さらに「鍵」は自国の箱のものではないものを持ち、どの国にどの「鍵」が保管されているのかもわからないということにした。
そうすれば自国の「箱」であっても開けることはできず、核兵器を復元しようとしたら5ヶ国すべての「箱」と「鍵」を集めなければならないという手の込んだシステムにしたのは長兄であるキオンの提案であったようだ。
その後「5人の王」の王妃が
「これが
ツグミがそう言うと視線がヌンツィオに集中した。
そうなるとヌンツィオがすべきことはひとつしかない。
「この度は私の愚行によって各国の代表の皆様にお集まりいただき誠に申し訳ございません。言い訳のように聞こえてしまうでしょうが我がエクトスは現在『神』の寿命を間近にして私は焦っておりました。かつて強大な力を誇った先祖の力を手に入れ、トリオン能力者を他国から選ぶことで自国の民を犠牲にせずに済む。そんな自分勝手な考えで再び取り返しのつかないことをしてしまうところでした。この歴史書を読んでなぜ先祖が核兵器を封印したのかも理解できました。したがってこの場で二度とこのようなことはしないとお約束いたします」
そう言ってヌンツィオは頭を下げた。
「ヌンツィオ陛下、わたしたちは陛下を断罪するために集まったのではありません。きっかけは貴国によるリコフォスへの蛮行ですが、こうして5ヶ国の代表が集まることができたのは『5人の王』によって仕組まれたことだとわたしは考えています」
ツグミの言葉に驚いて4人の視線が彼女に集まった。
「『5人の王』によって仕組まれたこととはどういう意味なんだ?」
テスタがツグミに訊く。
他の3人も同じ疑問を抱いたようで、小さく頷いている。
「『5人の王』は自分たちの子孫がいつか一堂に会することを想定して『箱』と『鍵』を残したのではないかとわたしは思うのです。理由は単純です。強大な力を持つ兵器の存在を知っており、5つに分かれた製造方法や材料を集めることで
そして付け加える。
「1万年も昔にわたしたちの先祖は核兵器を作成する知識と技術を持っていました。それはとても驚くべきことです。ですが残念なことに現代の
「……」
「わたしには『5人の王』の真意はわかるはずもなく、すべてはわたしの推測でしかありません。ですが核兵器とはトリオン兵やトリオン体で戦う戦争しか知らない
「……」
「ボーダーは
ツグミの気持ちは誰もが理解しているようで、黙ったまま頷いている。
「さて、情報はこれで全部提供しました。皆様にはしばらく考える時間が必要かと思います。そこで1時間の休憩を挟み、その間にどのようにすべきかを考えていただきます。そう難しいことではありません。自分と自分の国の民が平和で幸せに暮らせるために何が必要で、ご自身が何をすべきなのか…。それが答えです」
こうして一時解散となり、1時間後に再び集うまで各人自由に行動をすることにした。
庭を散歩しながら、あるいは東屋でベンチに腰掛けて…と5人はバラバラになって
「
ツグミが言ったように「自分と自分の国の民が平和で幸せに暮らせるために何をすべきなのか」を考えればいいのだ。
ただしその言葉を文字どおりで判断してしまえばヌンツィオのようになってしまう。
「自分と自分の国の民が平和で幸せに暮らせる」ためには自国だけが強くて豊かであればいいというものではなく、周辺の国々とも対等な立場で平和的に交流すべきである。
しかしその効果はある程度までで根本的な解決にはならず、ひとたびバランスが崩れてしまえば複数の国を巻き込んでの大規模な戦争となってしまう恐れもある。
そこで対立している国も含めてすべての関係諸国がお互いに武力行使をしないことを約束し、その約束を反故にして平和を破壊する国が現れた時には他のすべての国が協力してその行為をやめさせるという「集団安全保障」が主流となっている。
ツグミは「国際連合」を参考にして
それは戦闘で不利になった国が「
ある意味この同盟は
他国から富を奪って贅沢をするよりも国内で得られる
イェリンとイザイアはツグミから
そしてエクトスに着く前に自分なりの答えを出していて、今さら
テスタは武力による世界の平定を目指していたが彼自身は戦闘を望んではいなかったので、ツグミがキオンを訪問したことで方針は大きく変えられた。
キオンの軍事大国の名は
さらにボーダー…
同盟に加わることによるメリットの大きさに比べれば「
テスタは自分が
今必要なのは強力な武器ではなく、国の違いを越えて協力すること。
ボーダーが主宰する同盟に多くの国が加入してくれるのならテスタはキオンの
ツグミとテスタ…このふたりは年齢に大きな差こそあれ、同じ未来を目指して共に戦う同志であり、親友でもあるのだ。
ヌンツィオは自分の欲した力が想像以上に恐ろしいものだと知り、自らの手に余る巨大な力は身を亡ぼすとなれば持たぬのが一番。
最悪なのは他国に核兵器を奪われることで、核の恐ろしさを知らない他国に人間に使用されるくらいなら製造方法と材料を破棄してしまう方がマシと考えていた。
◆
そして再び5人が会議場に集まり、各人が自分の意見を披露する。
ツグミはすでに意見を言ったようなものだから、イェリンから始めた。
「わたしは将来リコフォスの女王となる身で、生まれてからずっと神殿の奥で大切に育てられてきました。だから世の中のことをまったく知らず、ツグミさんがいらっしゃらなかったらこうして外の世界に出ることすらなかったでしょう。そしてリコフォスを発ちエクトスへ到着するまでの短い間でしたがいろいろな国でいろいろな立場の人が日々精一杯生きている姿を見て、ツグミさんから
次にイザイアが意見を言う。
「僕はトロポイの王子として生まれ、イェリンさんのように将来を定められてしまっている人間です。いつかお爺様のような国王になろうといろいろ勉強してきました。ですから教えられたことしか知らず、それ以外のことは興味さえ持ちませんでした。自分に…王になるために必要なことは全部周りの人が教えてくれるのだから、そのことさえ覚えておけばいい。それ以外のことは知る必要のないことだと信じていたんです。トロポイはその優れたトリガー技術を他国へ流出させまいとして鎖国をしていて、自国さえ平和で豊かであればそれでいいと王家の人間は考えていたからです。ですがツグミさんがお爺様…エルヴィン陛下にトロポイは国を閉ざして自国にだけ優しい世界だと言ったそうで、陛下はその言葉に愕然としたと教えられました。僕もその話を聞いてこれまで正しいと信じてきたことがもしかしたら違うのではないかと考えるようになり、誰かに教えられたことを漫然と信じるのではなく自分自身の目や耳で知りたいと思うようになりました。だからこうして外の世界に触れ、自分で知ったことがとても大切な宝物のように思えます。そういった経験を経て僕も『箱』の中身は不要なものですから処分してしまう方がいいと思います。トロポイは破棄することを提案します」
続いてテスタが言う。
「私はキオンのライサ女王の名代ですから彼女の意見を申し上げます。…我がキオンは武力による他国への侵攻を繰り返すことによって勢力を拡大してきたという過去があります。しかしそれで国民が豊かで幸せに暮らしているかと問われると『否』としか答えられません。むしろ戦争に駆り出されるトリガー使いや兵士たちは家族と離れ離れになって暮らさなければならず、戦争で勝っても消費したトリオンの量と比べるとわずかに
最後にヌンツィオが吐き出すように言った。
「私はこの会談の原因を作った張本人で、本来なら皆様と同じ席に着いて意見を言う資格などない人間です。ですが国王ですからエクトスという国の意思を示す義務があります。…我がエクトスは軍事力を専守防衛にのみ行使し、身に余る強大な武力を持つことを放棄することをここに誓うもので、核兵器などというものは我が国だけでなく
これで全員の意見が出され、それを元にして「箱」の中身をどうするかを決めることになる。
「皆様のご意見をまとめると
ツグミが訊くと4人は同時に頷いた。
「では『箱』の中身ですが、もう二度と誰も手を出せないように処分をしてしまうか、もしくはこれまでのように各国で厳重に管理するかのどちらかになると思いますが、それについてはいかがでしょうか?」
「ツグミ殿下に一任したいと思います」
テスタがそう言うと残りの3人も口々に「賛成」と言う。
「では全員一致で不肖ツグミ・オーラクルが『箱』及び『鍵』を適切な手段で処分させていただきます。…では以上をもちまして5者会談を閉会とさせていただきます。ご意見やご質問があればこの場でどうぞ」
「……」
「ないようですのでこれで解散といたします。解散」
こうして最初で最後となる5者会談は終了した。