ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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652話

 

 

「ただ今からキオン、エウクラートン、トロポイ、リコフォス、エクトスの5ヶ国代表による5者会談を開会します」

 

ここは王城の一角にある応接室で、急遽5者会談の会場としてセッティングされた。

会談の司会進行は開催国の王であるヌンツィオだ。

そしてキオンのテスタ、リコフォスのイェリン、トロポイのイザイア、エウクラートンのツグミが円卓を囲んでいる。

 

「開会に当たって本会議の議長を選出したいと思います。そこでこの会議の発起人であるエウクラートンのツグミ・オーラクル殿下を推薦いたしますが、皆様のご意見をお聞かせ願います」

 

するとテスタが「賛成」と手を挙げ、続いてイェリンとイザイアも同じように「賛成」と言って挙手した。

 

「賛成多数によりツグミ・オーラクル殿下に議長に任命いたします」

 

ヌンツィオとツグミは席を交代し、彼女が上座に着いた。

 

「不束者ですがこのツグミ・オーラクルが議長を務めさせていただきます。…ではこの会議の趣旨の説明をさせていただきます」

 

そう前置きをしてからツグミはリコフォスで起きた生物テロ事件から始まる一連の流れを説明し、5ヶ国分の「箱」と「鍵」を公開した。

非常に()()()()()であるから本来なら一ヶ所に集めるべきものではないのだが、最悪の事態にはならないという確証の下にツグミは関係者全員に披露したのだ。

 

「これが『5人の王』の直系の末裔の王家に伝わる『箱』と『鍵』です。先ほどエクトスの分をヌンツィオ陛下からお預かりしましたので、こうして1万年の時を経て再び一ヶ所に集めることができました。しかしすべての『箱』と『鍵』を集めたのは核兵器を復元するためではありません。核という()()()兵器を二度と使用してはならないと判断し、製造方法や原料となるユゥアレェィニィアムをバラバラにしてそれぞれの王家で管理することにした『5人の王』の遺志を正しく受け継ぐため、当代の王家の代表に集まっていただいたのです。これらの扱いをどうするのかを5人で話し合ってひとつの答えを出さなければなりません。そのための手掛かりとなるものをこれからお渡しいたします」

 

ツグミはエウクラートンの「箱」に入っていた歴史書を4部コピーして、それを4人の代表に手渡した。

 

「これはエウクラートンの王家で管理をしていた『箱』に入っていた歴史書の複製です。内容はそう難しいものではありませんが、非常に()()()ものとなっています。なぜわたしたちの先祖は玄界(ミデン)から近界(ネイバーフッド)へ渡ることになったのかという経緯が詳しく書かれています。各王家にも大まかな歴史は口伝によって伝えられているでしょうが、長い時を経たことで誤って伝えられたり不足している部分があるはずです。それを補完するためにもまず読んでいただいて、正しい歴史を知ってもらいたいと思います」

 

ツグミの配った歴史書の複製にはジュニアによって解読された内容がトリオン製の板に刻み込まれている。

これならトリオンによる破壊行為さえなければ永久に残るものとなり、ツグミはこの歴史書をそれぞれ持ち帰って永久に語り継いでもらうつもりだ。

 

自分たちの遠い先祖が玄界(ミデン)で「マニュスの民」と呼ばれていて、世界でも類を見ないほど栄華な文明を誇った。

しかし身に余る「力」を持ってしまったためにメスキナという国を地上から一瞬にして消し去り、まるでその天罰かのようにマニュスの国土と民もすべて消えてしまった。

辛うじて生き残ったマニュスの民は、彼らは西方の小国に流れ着いた。

しばらくの間その国で現地の民と交流をしていたが、マニュスの民は新天地を求めて異世界へと旅立った。

その際に玄界(ミデン)に核兵器を残しては災いの種となると考えて、異世界へと持ち込んだのだった。

ただし近界(ネイバーフッド)と呼ぶことにした世界で使用しないように、また過去の過ちを繰り返さないようにと「5人の王」は製造方法3部に分け、材料と歴史書の5つを「箱」に入れて「鍵」をかけた。

製造方法の前編はキオン、製造方法の中編はトロポイ、製造方法の後編はエクトス、材料はリコフォス、歴史書はエウクラートンで保管することになった。

各国とも自分の国の「箱」に何が入っているのかはわかっているが、他の国の「箱」には何が入っているのかはわからない。

さらに「鍵」は自国の箱のものではないものを持ち、どの国にどの「鍵」が保管されているのかもわからないということにした。

そうすれば自国の「箱」であっても開けることはできず、核兵器を復元しようとしたら5ヶ国すべての「箱」と「鍵」を集めなければならないという手の込んだシステムにしたのは長兄であるキオンの提案であったようだ。

その後「5人の王」の王妃が(マザー)トリガーとなって新しい5つの国が生まれ、それがキオン、エウクラートン、トロポイ、リコフォス、エクトスとなったのだった。

 

「これが()()の歴史であり、これを踏まえた上で『箱』と『鍵』の()()について話し合いたいと思います。核兵器などという危険なものならばこの世界から消滅させてしまえば簡単なことだというのにあえて5つの国で()()することにしたのは愚かな過去をなかったことにせず『5人の王』の子孫がその事実を忘れずに伝えることを()()としたのではないかとわたしは考えております。もし近界(ネイバーフッド)で核兵器を必要とする事態が訪れたとしたら5つの国がすべて同意しなければならないという仕組みになっていますが、今回はエクトスが自国の利益のために他国に対してテロ攻撃をしたことによって急遽こうして各国の代表に集まっていただくことになりました」

 

ツグミがそう言うと視線がヌンツィオに集中した。

そうなるとヌンツィオがすべきことはひとつしかない。

 

「この度は私の愚行によって各国の代表の皆様にお集まりいただき誠に申し訳ございません。言い訳のように聞こえてしまうでしょうが我がエクトスは現在『神』の寿命を間近にして私は焦っておりました。かつて強大な力を誇った先祖の力を手に入れ、トリオン能力者を他国から選ぶことで自国の民を犠牲にせずに済む。そんな自分勝手な考えで再び取り返しのつかないことをしてしまうところでした。この歴史書を読んでなぜ先祖が核兵器を封印したのかも理解できました。したがってこの場で二度とこのようなことはしないとお約束いたします」

 

そう言ってヌンツィオは頭を下げた。

 

「ヌンツィオ陛下、わたしたちは陛下を断罪するために集まったのではありません。きっかけは貴国によるリコフォスへの蛮行ですが、こうして5ヶ国の代表が集まることができたのは『5人の王』によって仕組まれたことだとわたしは考えています」

 

ツグミの言葉に驚いて4人の視線が彼女に集まった。

 

「『5人の王』によって仕組まれたこととはどういう意味なんだ?」

 

テスタがツグミに訊く。

他の3人も同じ疑問を抱いたようで、小さく頷いている。

 

「『5人の王』は自分たちの子孫がいつか一堂に会することを想定して『箱』と『鍵』を残したのではないかとわたしは思うのです。理由は単純です。強大な力を持つ兵器の存在を知っており、5つに分かれた製造方法や材料を集めることで近界(ネイバーフッド)の覇者になれると思えばやってみようという気になる人物が現れるでしょう。現にヌンツィオ陛下が手を出しました。これはエクトス単独の行動でしたが、場合によっては陛下がキオンやトロポイなどの他の4ヶ国に声をかけて、それぞれの国がその提案に乗り5ヶ国が合意して集まるという形もあったでしょう。そして5つの『箱』と『鍵』が揃ってすべての『箱』を開け、その場にいた人間全員がこの歴史書を読むことになります。それを読んだ上で核兵器を復元するか否かを話し合い、自分たちの子孫なら自分たちにできなかったことを成してくれると信じていた。仮に先祖の過ちを知ってなお核兵器を持とうというのであればそれでもかまわないという気持ちもあったかもしれません。その時には相手に向けて撃った核兵器は自分自身にも向けられたものだったと身をもって知ることになります。そして愚かな自分たちの愚かな子孫は滅亡する。その時はその時だという覚悟で集まる機会を残しておいたのではないかとわたしは考えています」

 

そして付け加える。

 

「1万年も昔にわたしたちの先祖は核兵器を作成する知識と技術を持っていました。それはとても驚くべきことです。ですが残念なことに現代の玄界(ミデン)にもマニュスの民が使用したものと同等かそれ以上の破壊力を持つ核兵器が多数存在します。そして核兵器は単純に破壊だけの効果ではなく、もっと恐ろしい影響を与えるのです。核兵器を使用すると地表は放射性物質で汚染されます。それは人体に悪影響を及ぼすものであり、仮に爆発で死ななかったとしても何年も苦しんだ末に亡くなることもあります。さらに放射性物質を含む灰が巻き上がることによって日光が遮られて地表の気温が低下してしまい、植物が枯れて人間が生存できない環境になることが予想されます。核爆発時の熱や爆風、放射線を逃れることができたとしても結局人間は滅びてしまうことでしょう。それほど恐ろしい兵器なのです。ですから核兵器を廃絶しようという運動が行われましたが核兵器を廃絶すれば通常兵器による戦争が誘発されるだろうから、平和のために核抑止力を維持すべきとの主張もあるくらいです。たしかに核兵器は本格的な戦争を抑止する効果があるので、いくら頑張ってもゼロにはできません。それくらい増えてしまったのです。ですが近界(ネイバーフッド)には()()存在しないものですから、わたしたちの意思次第で玄界(ミデン)の二の舞にならぬよう行動することができるんです」

 

「……」

 

「わたしには『5人の王』の真意はわかるはずもなく、すべてはわたしの推測でしかありません。ですが核兵器とはトリオン兵やトリオン体で戦う戦争しか知らない近界民(ネイバー)にとって戦争の概念を覆す兵器だと断言します。使用すれば人は死にます。トリオン体なら爆発に耐えられるでしょうし汚染物質の影響も受けないかもしれませんが、使用後は少なくとも数十年は生身の人間は放射線物質で汚染された大地に立つことさえできなくなり、食料を得られないのですから飢え死にしてしまうのは明らかです。…想像してみてください。(マザー)トリガーやトリオンで造られた建物などはそのまま残っても、人が死に絶えてしまった無人の世界を。そしていつか(マザー)トリガーも力が衰えてその機能を止める。そうなると(マザー)トリガーによって創られた大地も消え失せ、近界(ネイバーフッド)は『5人の王』たちがやって来る前のように何もない暗黒の空間に戻ってしまう。わたしならそんな恐ろしいことになる前に災いの種となるものは排除します」

 

「……」

 

「ボーダーは近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)というふたつの世界を繋ぐ架け橋のような存在になりたいという4人の若者たちの熱い気持ちによって生まれました。お互いが相手を認め、文化や技術交流をしてお互いを高めていくことでどちらの世界に住む人間がより良く生きられるようになると信じ、平和的交流を目指そうとしました。しかしそんな若者たちの夢は無残にも打ち砕かれました。近界民(ネイバー)にとって玄界(ミデン)はトリオン能力者の()()()でしかなく、ボーダーは自分たちの世界と同胞を守るために武器(トリガー)を持って戦う()()の組織となってしまったのです。わたしの父やその仲間たちの純粋な想いが捻じ曲げられてしまい、4人のうち霧科織羽(ひとり)(ブラック)トリガーを奪おうとした近界民(ネイバー)に襲撃されて死亡し、空閑有吾(ひとり)近界(ネイバーフッド)での戦争に傭兵として参加している時に瀕死の息子を救うために(ブラック)トリガーとなり、最上宗一(ひとり)は同盟国の戦争に参加せざるをえない状況で参戦して仲間を助けるために(ブラック)トリガーとなり、残る城戸正宗(ひとり)は大切な仲間を殺されたことで近界民(ネイバー)を憎む気持ちで人が変わったようになってしまいました。4人ともわたしにとって大切な人たちです。わたしは彼らに胸を張って誇れることをやってからでないとボーダーを引退することもできません。たぶんこれがわたしのボーダーにおける最後の仕事になるでしょうから、心残りのないように終わらせたいと思っています」

 

ツグミの気持ちは誰もが理解しているようで、黙ったまま頷いている。

 

「さて、情報はこれで全部提供しました。皆様にはしばらく考える時間が必要かと思います。そこで1時間の休憩を挟み、その間にどのようにすべきかを考えていただきます。そう難しいことではありません。自分と自分の国の民が平和で幸せに暮らせるために何が必要で、ご自身が何をすべきなのか…。それが答えです」

 

こうして一時解散となり、1時間後に再び集うまで各人自由に行動をすることにした。

庭を散歩しながら、あるいは東屋でベンチに腰掛けて…と5人はバラバラになって近界(ネイバーフッド)の未来について考える。

近界(ネイバーフッド)の未来」といってもそんな大げさなものではない。

ツグミが言ったように「自分と自分の国の民が平和で幸せに暮らせるために何をすべきなのか」を考えればいいのだ。

ただしその言葉を文字どおりで判断してしまえばヌンツィオのようになってしまう。

「自分と自分の国の民が平和で幸せに暮らせる」ためには自国だけが強くて豊かであればいいというものではなく、周辺の国々とも対等な立場で平和的に交流すべきである。

玄界(ミデン)において第一次世界大戦後にひとつの国が突出した覇権国家となって平和が脅かされることがないように自国を強化したり同盟を結ぶことで拮抗状態をつくってきた。

しかしその効果はある程度までで根本的な解決にはならず、ひとたびバランスが崩れてしまえば複数の国を巻き込んでの大規模な戦争となってしまう恐れもある。

そこで対立している国も含めてすべての関係諸国がお互いに武力行使をしないことを約束し、その約束を反故にして平和を破壊する国が現れた時には他のすべての国が協力してその行為をやめさせるという「集団安全保障」が主流となっている。

ツグミは「国際連合」を参考にして近界(ネイバーフッド)の国々と同盟を結び集団安全保障を推し進めていて、そこにキオンやアフトクラトルが加わっていることから近界(ネイバーフッド)の国々は他国との武力闘争を避けるようになった。

それは戦闘で不利になった国が「玄界(ミデン)近界(ネイバーフッド)平和同盟」に助けを求めたとなると、場合によっては戦況が大きく覆されることにもなりかねないと考えたのだ。

ある意味この同盟は(ブラック)トリガーのようなもので、仮に核兵器を脅しに使用したところで同盟という(ブラック)トリガーを持ち出されてしまい自ら滅びることになる。

他国から富を奪って贅沢をするよりも国内で得られる()()()()の糧で慎ましやかな暮らしをする方が国民にとって幸せなのだということを国の指導者としては認識しなければならない。

イェリンとイザイアはツグミから玄界(ミデン)の戦争の歴史やその結果生まれた思想や組織などについて航海中に学んでおり、自分たちがなすべきことについていろいろ考えていた。

そしてエクトスに着く前に自分なりの答えを出していて、今さら近界民(ネイバー)の起源や核兵器の恐ろしさを知ったところで考えを変えることはない。

テスタは武力による世界の平定を目指していたが彼自身は戦闘を望んではいなかったので、ツグミがキオンを訪問したことで方針は大きく変えられた。

キオンの軍事大国の名は近界(ネイバーフッド)の隅々にまで知れ渡っており、今さら軍を動かすまでもなく多大な影響を及ぼすことになる。

さらにボーダー…玄界(ミデン)と手を結ぶことによるメリットが大きいとわかればツグミの提案をのむのは当然のなりゆきだ。

同盟に加わることによるメリットの大きさに比べれば「玄界(ミデン)の連中に牙を抜かれた」と蔑まされたところで痛くも痒くもないし、アフトクラトルが同盟に加わったとなると多くの国が玄界(ミデン)と手を結んだ方が良いのではないかと考えるようになった。

テスタは自分が近界(ネイバーフッド)の覇者になりたいわけではないのでこの風潮は大歓迎で、近界民(ネイバー)に必要なのは「強者は弱者から奪い、弱者は強者に従う」「欲しいものがあれば他者から奪い、奪われたくないのなら自分自身が強くなって守らなければならない」といった弱肉強食の世界の価値観を打破する意識改革だと信じている。

今必要なのは強力な武器ではなく、国の違いを越えて協力すること。

ボーダーが主宰する同盟に多くの国が加入してくれるのならテスタはキオンの()を好きに使ってくれていいとツグミに言ってある。

ツグミとテスタ…このふたりは年齢に大きな差こそあれ、同じ未来を目指して共に戦う同志であり、親友でもあるのだ。

ヌンツィオは自分の欲した力が想像以上に恐ろしいものだと知り、自らの手に余る巨大な力は身を亡ぼすとなれば持たぬのが一番。

最悪なのは他国に核兵器を奪われることで、核の恐ろしさを知らない他国に人間に使用されるくらいなら製造方法と材料を破棄してしまう方がマシと考えていた。

 

 

 

 

そして再び5人が会議場に集まり、各人が自分の意見を披露する。

ツグミはすでに意見を言ったようなものだから、イェリンから始めた。

 

「わたしは将来リコフォスの女王となる身で、生まれてからずっと神殿の奥で大切に育てられてきました。だから世の中のことをまったく知らず、ツグミさんがいらっしゃらなかったらこうして外の世界に出ることすらなかったでしょう。そしてリコフォスを発ちエクトスへ到着するまでの短い間でしたがいろいろな国でいろいろな立場の人が日々精一杯生きている姿を見て、ツグミさんから近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)の話を聞いて自分が恵まれていることを知りました。神殿から一歩も外に出られず自由のない自分を不幸だと思っていたことを心から反省しています。世の中には生きることさえままならない人がなんと多いことでしょう。そんな人たちに安らかで一日も長く生きられる国をわたしは願うものです。わたしはリコフォスを戦争とは無縁の国にしたい。ですから核兵器などというものは無用です。わたしは『箱』の中身は滅してしまうべきだと考えます。これをリコフォスの意見といたします」

 

次にイザイアが意見を言う。

 

「僕はトロポイの王子として生まれ、イェリンさんのように将来を定められてしまっている人間です。いつかお爺様のような国王になろうといろいろ勉強してきました。ですから教えられたことしか知らず、それ以外のことは興味さえ持ちませんでした。自分に…王になるために必要なことは全部周りの人が教えてくれるのだから、そのことさえ覚えておけばいい。それ以外のことは知る必要のないことだと信じていたんです。トロポイはその優れたトリガー技術を他国へ流出させまいとして鎖国をしていて、自国さえ平和で豊かであればそれでいいと王家の人間は考えていたからです。ですがツグミさんがお爺様…エルヴィン陛下にトロポイは国を閉ざして自国にだけ優しい世界だと言ったそうで、陛下はその言葉に愕然としたと教えられました。僕もその話を聞いてこれまで正しいと信じてきたことがもしかしたら違うのではないかと考えるようになり、誰かに教えられたことを漫然と信じるのではなく自分自身の目や耳で知りたいと思うようになりました。だからこうして外の世界に触れ、自分で知ったことがとても大切な宝物のように思えます。そういった経験を経て僕も『箱』の中身は不要なものですから処分してしまう方がいいと思います。トロポイは破棄することを提案します」

 

続いてテスタが言う。

 

「私はキオンのライサ女王の名代ですから彼女の意見を申し上げます。…我がキオンは武力による他国への侵攻を繰り返すことによって勢力を拡大してきたという過去があります。しかしそれで国民が豊かで幸せに暮らしているかと問われると『否』としか答えられません。むしろ戦争に駆り出されるトリガー使いや兵士たちは家族と離れ離れになって暮らさなければならず、戦争で勝っても消費したトリオンの量と比べるとわずかに()をしたという程度でしかありません。だから国内は常に疲弊していて十分な食料を国民に配ることもできません。そんな状態の我が国にツグミ殿下が現れ、彼女は我が国にひとつの道を示してくれました。それは私が納得できる素晴らしいもので、それ以来我が国は玄界(ミデン)と歩みを共にしています。したがってキオンはツグミ殿下の意見を支持します」

 

最後にヌンツィオが吐き出すように言った。

 

「私はこの会談の原因を作った張本人で、本来なら皆様と同じ席に着いて意見を言う資格などない人間です。ですが国王ですからエクトスという国の意思を示す義務があります。…我がエクトスは軍事力を専守防衛にのみ行使し、身に余る強大な武力を持つことを放棄することをここに誓うもので、核兵器などというものは我が国だけでなく近界(ネイバーフッド)にとっても不要な存在だと断言いたします」

 

これで全員の意見が出され、それを元にして「箱」の中身をどうするかを決めることになる。

 

「皆様のご意見をまとめると近界(ネイバーフッド)には核兵器は不要であるという結論に達しました。よろしいですか?」

 

ツグミが訊くと4人は同時に頷いた。

 

「では『箱』の中身ですが、もう二度と誰も手を出せないように処分をしてしまうか、もしくはこれまでのように各国で厳重に管理するかのどちらかになると思いますが、それについてはいかがでしょうか?」

 

「ツグミ殿下に一任したいと思います」

 

テスタがそう言うと残りの3人も口々に「賛成」と言う。

 

「では全員一致で不肖ツグミ・オーラクルが『箱』及び『鍵』を適切な手段で処分させていただきます。…では以上をもちまして5者会談を閉会とさせていただきます。ご意見やご質問があればこの場でどうぞ」

 

「……」

 

「ないようですのでこれで解散といたします。解散」

 

こうして最初で最後となる5者会談は終了した。

 

 

 

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