ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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654話

 

 

ツグミが(マザー)トリガーの変化の様子を調べるためにエクトスに滞在を始めて1週間ほどが経った。

衰えてしまった(マザー)トリガーの「力」を復活させるために「神」という名の人間を犠牲にしてきたわけだが、トリオン能力のある()()であれば人間でなくても良いのではないだろうかというツグミの仮説を立証するために、「神」の寿命を迎えつつあるエクトスにおいて実験を行った。

トリオンをたっぷりと含む飼料を与えて育てトリオン器官の発達した牛を人間の代わりに(マザー)トリガーと同化させたことにより、エクトスは再び勢いを取り戻した太陽が地上に暖かい光を注ぎ始め、それによって大地には緑が復活した。

(マザー)トリガーを操作するシーラの話だと特に支障はないようで、以前の状態に戻すには一朝一夕とはいかないまでも1ヶ月もあれば影響が目に見えてくるとのこと。

経過は順調のようで、毎朝のシーラの()()()に合わせて神殿内に設置した鬼怒田特製のトリオン測定装置が正常に稼働しているかを確認し、王都だけでなく郊外の集落や畑など屋外の8ヶ所に同様の装置があって午前と午後の1日2回のデータを収集することがツグミの仕事である。

それ以外には特にすることはないのでシーラの話し相手をしたり、街へ出てミラダや庶民階級の女性たちと交流をして情報収集をしてその結果をヌンツィオやアロイスに話して生活レベルのアップに役立ててもらう。

どの国でも似たようなものだが、庶民階級の女性の声は中央にはなかなか届かない。

彼女たちの苦労は経験をしたものでなければわからないことであり、政庁にいるのは政治や経済や外交といったものを重要だと考えて普段の生活に関わることは些事であると軽んじている役人ばかりだからだ。

ツグミは玄界(ミデン)でのシステムや自分の経験からいくつもの問題を解決する提案をし、ヌンツィオが国会を召集して決定したことをアロイスが実行する。

それによってまず王都内に3ヶ所の銭湯と洗濯場を建設することになった。

アウデーンスでもそうだったが庶民階級の人間は日本人のように風呂に入る習慣はなく、上水道も不十分なため衛生面で不安な部分がある。

そこでツグミは銭湯を建てて入浴を勧めることと同時に女性たちが毎日行う洗濯という家事を少しでも楽なものにしたいと考えた。

銭湯の湯は地下水をトリオンによって温めることで確保し、そのお湯を洗濯にも使えるようにする。

そうなれば冷たい井戸水で手洗いをしなければならない主婦の仕事がだいぶ楽になるはずで、そういった小さな福祉の積み重ねを大事にする気持ちこそ国政を担う者に必要なものだと説いたのだった。

迅はツグミの仕事の手伝いをし、個人的に親しくなったイリジーに頼まれて軍の若いトリガー使いたちの模擬戦の相手をするなどして時間を潰していたが、ツグミには内緒でアロイスから近界(ネイバーフッド)の政治について学んでいた。

いずれエウクラートンの女王の王配として政治に関わることになるからと、時間に余裕のある時には玄界(ミデン)のいろいろな国の歴史や政治について勉強していたことはツグミも知らない。

 

 

◆◆◆

 

 

そんな日々がひと月ほど過ぎた頃、ツグミはとある婦人から面会の申し出を受けた。

その婦人は王都に住む50代の女性で、ツグミとは面識がないとのこと。

 

「イリジーさん、なぜ見知らぬ婦人がわたしに会いたいと言うんでしょうか? わたしが玄界(ミデン)から来たということをその女性が知っているのなら、ひとつだけ心当たりがあるんですけど」

 

ツグミはイリジーに訊く。

 

「たぶんその心当たりというもので合っていると思いますよ。自分も同席させていただきますが、それはきっとあなたなら詳しいことを知っていて教えてもらえると考えているからです」

 

「だとしたらわたしは断ることはできませんね。むしろ会ってくれると申し出てくれたということは会わなければいけない相手のはずですから」

 

「彼女もずいぶんと悩み苦しんだようです。ですがようやく心の整理がついたらしく、あなたが再び来訪したことを知って話が聞きたいと言い出しまして、それで自分が仲介をすることになりました。自分にも多少は関係のあることですし、彼女も誰かがそばにいてほしいということでしたから」

 

「わかりました。わたしが知る限りのことをすべてお話ししましょう」

 

「ありがとうございます。ただし庶民の女性が王城内へ入ることはできないのでツグミさんには明日の午後に彼女の家に行き、そこで会うということでよろしいでしょうか? 午前中はお仕事があるということなので、午後からなら大丈夫かなと思いまして」

 

「ええ、それで結構です」

 

「それでは明日の午後2時に迎賓館へお迎えに上がります。先方にもそのように伝えておきます」

 

「よろしくお願いします」

 

見知らぬ婦人との面会の約束をしたことをツグミは迅には内緒にしておいた。

彼女の想像どおりであったならこの話は迅にも関わりのあることで、話せば自分も一緒に行って謝罪すると言い出しそうだからだ。

ツグミは事後報告するだけに決め、午前中の作業をいつものように終えると迎賓館の自室でイリジーが迎えに来るのを待った。

 

 

 

 

ツグミが案内されたのはイリジーの実家からすぐ近くの民家の立ち並ぶ住宅地で、そこから徒歩で2-3分の場所に銭湯の建設現場がある。

アウデーンスで建設された銭湯の設計図を基にしていて、エクトスではそれにプラスして洗濯場が建てられる。

さすがにコインランドリーというわけにはいかないが、井戸端のように腰をかがめず洗濯ができるだけでなくお湯が使えるということで完成前から主婦たちが期待をしているという。

その工事現場を見てから婦人の家へと向かったツグミとイリジー。

ふたりが目的の家に着くと白髪でやせ細った女性が玄関で出迎えてくれた。

 

「この度はお手数をおかけして申し訳ございません。私はイヴァと申します」

 

「はじめまして。わたしは霧科ツグミといいます」

 

ふたりは簡単に挨拶をする。

 

「さあ、お入りください。狭い家ですけど」

 

イヴァはツグミが国賓であることを知っているために礼儀正しく努めているものの、生まれつきの庶民であるためにぎこちない様子でいる。

しかしそんなことは全然気にならないツグミは招かれるままに家の中へ入った。

イリジーの実家と同じく照明の点いていない薄暗い部屋に通され、イヴァは慌ててロウソクに火を灯した。

 

「申し訳ありません。明かりがこれしかないので」

 

「いいえ、気にしないでください。暗くてもお話は十分できますし、それほど長居はしませんから」

 

ツグミがそう言うとイヴァは彼女が来たくもないのに来たのだと勘違いをして平身低頭して謝り出した。

 

「国賓であるあなた様をこんな粗末な家にお呼びするなどという不敬な申し出に対してお怒りなのはごもっともでございます。ですが ──」

 

「ち、ちょっと待ってください! わたしの言い方が悪かったみたいですね。わたしは怒ってなんていませんよ。むしろあなたにお会いできてとても嬉しいんです」

 

「え?」

 

イヴァは想定外のツグミの言葉に驚いて顔を上げた。

 

「むしろわたしがあなたに会うために来た理由を知ればあなたはわたしを家から追い出すくらい激昂するかもしれません。わたしはあなたにお詫びをするために来たんです」

 

「お詫び…とおっしゃいますと、もしかして…」

 

「はい。それについてこれから詳しい事情をお話します。なにしろ当事者であるわたしが一番良く知っているんですから」

 

「……」

 

ツグミは部屋の暖炉の上に置いてある写真に視線を向けて言う。

 

「あなたの息子さんを殺したのはこのわたしです」

 

イヴァとイリジーはツグミから事情を聞くつもりでいたが、まさか彼女が事件の当事者…加害者であるとは想像もしていなかったものだから仰天してしまう。

 

「イヴァさん、もしよろしければ先に彼のことを教えていただけませんか? もちろん強制しているのではありませんからあなたには拒否権があります。ですがわたしは知りたい。わたしが奪ってしまった彼の人生がどのようなものであったのかを知ることは、これからのわたしにとって必要なことなんです」

 

ツグミには玄界(ミデン)での事件を話す義務はあるが、自分が加害者であることを内緒にして別の人間をでっち上げることもできた。

伝聞ということにしておいて自分とは無関係な事件であったとすることもできたというのに正直に自分が加害者であることを告白した彼女のことをイヴァは受け入れることにした。

 

「…わかりました。それではレネー…息子のことをお話しましょう」

 

イヴァのひとり息子のレネーは庶民階級の生まれではあったがトリオン能力が高く、10歳の時に幼年学校に入学してトリガー使いになったそうだ。

彼が生まれる前に父親が病死したものだから、幼い頃から母親の手伝いをする頑張り屋の少年だったレネー。

幼年学校では年長の生徒と比べても負けないほどの力を発揮し、15歳の時に正式に軍に入隊してすぐに玄界(ミデン)侵攻の遠征部隊に加わった。

それはこの上もなく名誉なことで、イヴァにとってレネーは自慢の息子であった。

遠征部隊で最年少のレネーは実戦も初めてであったが、これまで遠征部隊のメンバーは必ず戻って来ることからイヴァは特に心配していなかったようだ。

ところが遠征部隊が帰国した時、その中にレネーの姿はなかった。

遠征部隊の隊長は「レネーは作戦行動中行方不明となった」と言った。

それはすなわち「戦死」を意味するのだが、捕虜となっている可能性もある。

近界民(ネイバー)同士の戦争なら捕虜交換で戻って来ることができるが、玄界(ミデン)侵攻は一方的な侵略であるからエクトス側に玄界(ミデン)の人間の捕虜はいないので交換が成り立たない。

そもそも玄界(ミデン)側には加害国がエクトスであることすら知らないのだから、エクトス側がレネーを返せと訴えれば玄界(ミデン)側に400人を超える人間を拉致したのがエクトスであることを教えてしまうことにもなる。

だとすればレネーひとりを犠牲にすれば済むことで、軍部は彼を戦死扱いすることにしたのだった。

イヴァは息子が死んだことに納得できず、遺族年金を受け取ることを拒否した。

しかし寡婦であった彼女は息子の稼ぎが頼りであったため、年金を受け取らずにいたら生活は成り立たない。

周囲からそう言われてイヴァは6年前にレネーの死を受け入れ、年金を受給することになった。

ただしその年金には一切手をつけてはいなかった。

それはいつかレネーが帰って来た時に国に返還するためにと使わずにとっておいたのだ。

だから彼女の暮らしはとても厳しいもので、過酷な日々であったことは疑いようもない。

二度と会えないとしても彼が玄界(ミデン)で生きてさえいればいいと考えていて、心の平穏を取り戻した。

そして8年の歳月が過ぎ、玄界(ミデン)からの使者がひとりのトリガー使いの遺骨と遺髪、そして遺品をエクトスへ運んで来た。

その遺品がレネーのものであることから軍部は公式に彼の死を認定し、その事実と遺骨と遺髪と遺品をイヴァに渡した。

それによって彼女は息子の死を認め、遺骨は父親の墓の隣に新しい墓を作って埋葬した。

そういった現実があってようやく止まっていた時間が動き出したとイヴァは言う。

レネーが見知らぬ土地でどのような最後を遂げたのかを知りたいという気持ちも生まれたのだが、心の整理がつかないままに玄界(ミデン)からの使者は去って行った。

ところが再びエクトスにやって来て、今度は長期滞在をしていると聞いたことで会いたいと思えるようになった。

ただエクトスに残っている人物が会ってくれるかどうか不安でいたのだが、それ以上に信頼できる人間かどうか怪しんでいた。

ある日、玄界(ミデン)の少女が工事現場にいて作業員たちに作業の指示をしている姿を見かけ、作業員の屈強な男たちが少女を信頼している様子が感じられて自分も信じてみようという気になった。

そこでイリジーに面会できるように頼んだということであった。

 

「レネーは自分の幼馴染で、あいつが玄界(ミデン)で死んだと聞いて信じられませんでした。生きてさえいればいつかはまた会えると信じていましたが、ツグミさんがオレク閣下に渡したものは軍の関係者のものだってことでベネシュ総司令官に渡り、それから確認をしてレネーの遺族に渡すよう自分が頼まれたんです。その時に自分はあいつの遺骨や遺品をどこかに隠してしまい、イヴァおばさんにはレネーが死んだことを教えずにいようかとも思いました。死んだという証拠さえなければいつまでも待ち続けることができる。そんな希望を胸に生きてもらいたいと考えたですが、イヴァおばさんに対して嘘をつき続けることが苦しくてできませんでした」

 

イリジーは苦しそうな顔をしながらそう告白した。

 

「イヴァおばさんがツグミさんに会いたいと言い、会わせることで自分を含めてレネーに関するいろいろな感情の行先が見つかるような気がして…。真実を知るのは少し怖いですが、知らないままでいるよりはずっと良いと思ったんです。もしあなたが会いたくないと拒否したらそれはそれでかまわないと思ったんですが、あなたは快諾してくれました」

 

「ええ、わたしにとってもこれは大切なことで、こうなることを期待していた気持ちがありました。もちろんずっと秘密にしておくこともできたのですが、この罪を自分の胸に抱えて生きていくことができるほどわたしは強くありません。懺悔をしたい気持ちでいたとしても遺族の方が会ってくれなければ不可能であり、仮に話を聞いてもらうことになっても相手に辛い思いをさせてしまうのだからやめておいた方がいい。自分の苦しい気持ちを吐き出すことで相手を苦しめるのであればそれはわたし自身のワガママでしかない。そんないろいろな気持ちがこの胸の中で渦巻いていました。今でも真実を話すべきかどうか迷っています」

 

「それなら教えてください。内容が私やあなたにとって苦しいものであっても、それが真実であるのなら真摯に受け止めるべきです。そうでなければレネーの人生の最期が偽りのものであったことになってしまう。あの子の最期がどんなものであったとしても真実であれば、あの子の人生はそれで完成されたものとなります。人は最後まで正直であるべきだと私はあの子に教えました。だから私もそうありたい。私のこの命が消える瞬間まで私は嘘偽りのない人生を生きたい。だからレネーのことで誤魔化しはしないでください」

 

イヴァの考え方が正しいのかそうでないのかはわからないが、彼女がそう望むのであればそれに応えなければならない。

自分が罪の意識から解放されたいという気持ちは二の次で、彼女の魂が安らかになれるようにすべきである。

そのためにはただ真実を告げるだけ。

ツグミは決心した。

 

「わかりました。ではわたしの知る限りの事実をお話しします」

 

そう前置きをしてからツグミは8年前の「悪夢の1日」を語り始めた。

 

玄界(ミデン)では第一次近界民(ネイバー)侵攻と呼ばれるエクトスによる侵攻は人口28万の三門市の東部地区を壊滅状態に追いやった。

それは玄界(ミデン)において初めての本格的な近界民(ネイバー)による攻撃であり、トリオン兵とトリガーという未知の武器を使用する敵に対して玄界(ミデン)の既存の戦力ではまったく歯が立たなかった。

そんな中でボーダーを名乗るトリガー使いの集団が突然現れて、侵略者に対して反撃を始めた。

それが功を奏して被害をどうにか食い止めて敵を追い払ったのだが、400人以上が拉致され、1200人以上の犠牲者が出るという大惨事になったのだった。

そのボーダーという組織に当時11歳の少女のトリガー使い ── ツグミがいて、激しい戦闘中に仲間とはぐれてひとりで戦うことを余儀なくされてしまう。

本格的な戦闘が初めての彼女は戦場をさまよいながらトリオン兵を駆除していたのだが、突然ひとりの少年が鉄パイプを握り締めて背後から襲ってきた。

彼女は自分を襲撃してくるのは()()()()()()()()()()()()人型近界民(ネイバー)しかいないと思い込んでいて、地面に映る人型の影の鉄パイプを剣と見間違えて咄嗟に弧月で斬り付けてしまったのだった。

彼女はその少年の血しぶきを浴びて初めて生身であったことに気付き、それがきっかけでパニックになり正しい判断ができなくなって絶体絶命の危機に陥ってしまう。

そんな状態ではもうトリオン兵と戦う余裕などなかったが、その直後に仲間が現れて自分を安全な場所まで連れて行ってくれたので今この時間を生きている…と言ってツグミは一旦口を閉じた。

 

そしてその真実にショックを受けているイヴァとイリジーに向かってツグミは言う。

 

「すべてが戦争の中の出来事であり、お互いに相手を殺そうという気持ちはなかったはずです。少なくともわたしは自分の身を守ることでいっぱいいっぱいであり、冷静な判断ができず本能のままに刀を振ったんです。なぜレネーさんがわたしに襲いかかったのかはわかりません。ただこれはわたしの推測ですが彼は仲間とはぐれてしまったことで撤退を考え、その場にいたわたしを人質にして脱出をしようとしたのではないか、と。あの状況で少女がひとりでいれば逃げ遅れただけの民間人だと思うのは無理もありません。戦闘体の換装が解けてしまった状態では自分の命さえ危うい。一刻も早く安全な場所に移動しなければ死んでしまうという状況でしたから、逃げるためにわたしを利用したとしてもそれは当然の行動かと思います。しかし今となっては確認する手段はありませんが、わたしを人質にして彼自身が助かるのと同時にわたしの命も救おうとしていたのではないかと思うんです。彼が危機的状態を上手く脱出して仲間と合流できたとして、人質だったわたしをエクトスへ連れて行ったかどうかはわかりません。もしかしたら安全な場所で解放してくれたかもしれないと思うと、わたしは単に戦争中の不幸な出来事だということにして片付けてしまうことはできないんです。…戦闘が終わってしばらくしてからわたしはレネーさんの遺骸を回収してわたしたちの弔いの形で彼を供養しました。それは彼のためだけでなくわたし自身の気持ちの整理のために必要な行為であったわけで、いつか彼の祖国へ行くことができたなら彼を故郷に返してあげよう、彼の家族にこの事実を報告したいとずっと願っていてやっとそれが叶いました。これでわたしの話はおしまいです。長い話にお付き合いくださってありがとうございました」

 

ツグミの長い()()が終わると、その場にいた3人はしばらく何も言葉を発することはできなかった。

誰にとっても楽しいと思える話ではなかったのだし、8年前の真実が被害者側だけでなく加害者側にとっても辛い出来事だったのだから当然だ。

そしてツグミが悪いのでもなくレネーが悪いのでもない。

すべては戦争という悪しき行為があって生じた悲劇で、ツグミとレネーは運悪く出会ってしまっただけ。

あえて誰かに責任を問うというのなら、多くの人間の人生を捻じ曲げた命令を下したヌンツィオしかいない。

ただ彼にも国王として自国の民を守るために行ったという理由はあるが、その手段が武力行使ではなかったのならこんなことにはならなかった。

しかしエクトスによる玄界(ミデン)侵攻とリコフォスへのテロがきっかけとなって「神」問題の解決につながったというのなら、その代価としてはあまりにも大きくて不幸なものだったと嘆くしかない。

 

イヴァはうっすらと涙を浮かべていたが、息子の死をしっかりと受け止めることができたようであった。

ここで号泣されてしまったらどうしようかと不安でいたツグミも安心した。

 

(わたしもお父さんやお母さんの死の真実を知らされた時にはすごくショックだったけど、それを乗り越えることができたからこそ今のわたしがある。イヴァさんもある程度は覚悟ができていたとはいえ取り乱すこともなく冷静でいてくれたことはありがたかった。わたしを憎むことで生きる原動力になるのならそれもいいかなと思ったけど、この様子ならそんな負の感情で残りの人生を生きることはなさそう。むしろわたしと同じように辛い過去を踏み台にして強く生きていってくれる。そう信じてもいい)

 

 

それからイヴァはイリジーとツグミを連れて王都の共同墓地へ赴き、ツグミは故郷の大地に帰ることできたレネーの魂が永遠に安らかであるよう心から祈ったのだった。

 

 

 

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