ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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673話

 

 

そして戦闘開始から2時間が経った頃、状況は一変した。

あと1時間もかからないうちに出発できると確定したことで、神官であった王妃が(マザー)トリガーの核を抜き取って神殿から外へ持ち出し、それをきっかけとしてA国の崩壊が始まったのだ。

(マザー)トリガー本体は巨大なトリオンキューブであって人の手で運び出すことは難しいとのことで核だけを取り出すことにしたらしい。

その「核」とは一辺が15センチくらいの漆黒の立方体で、それに触れられるのは神官のみだという。

どのような手続きで外すのかなど詳しいことは私にはわからないが、王妃が(マザー)トリガーから外して遠征艇に運んで来た様子を桐山が確認している。

(マザー)トリガーによってその存在が保たれている近界(ネイバーフッド)の国であるから、その(マザー)トリガーの機能が失われたとなれば国土の維持ができなくて崩壊してしまうのは自明の理。

「神」の寿命が迫って力が衰えたとしても突然力を失うことはないのだが、核を抜いたことで(マザー)トリガー「本体」は()()()()()()()ことになるのだろう。

何も知らないでいた私は地震が起きたのだと感じた。

地面から伝わる小刻みな揺れが地震のそれにそっくりだったからだ。

しかし近界(ネイバーフッド)の国には地震は存在せず、生まれて初めて経験する地震に敵味方関係なく近界民(ネイバー)たちは恐れおののいていた。

それからその揺れがいつまで経っても収まらないことで、私たちもその異常に気付いた。

遠征艇で留守番をしていた桐山から王妃が(マザー)トリガーの核を取り出して運んで来たことを知らされ、この地震が国土の崩壊の序曲であること知った。

一刻も早く遠征艇にたどり着かなければ命を落としかねないと、私たちは戦闘よりも帰還を最優先として行動を開始したのだった。

 

 

最上と迅は瓦礫を撤去して脇坂を救出したものの、彼女は生身の身体であったために右腕が複雑骨折していて大量出血もしていた。

直ちに手当をしなければ助からないのだが、それができる状態ではないことは明らかだ。

ひとまず最上が彼女を背負って逃げることになったが、その途中でトリオン兵に囲まれて迅がひとりで戦うことになった。

迅は優秀なトリガー使いだが如何せん敵の数が多すぎる。

3人ともここでやられてしまうわけにはいかないと、最上は負傷した脇坂を迅に預けて遠征艇まで行かせることに決めた。

いくら最上でも周囲を数十体のトリオン兵に囲まれたらひとたまりもない。

しかしこのまま3人が無事に遠征艇までたどり着ける可能性はほぼゼロ。

最上は迅に「俺は絶対に死なない。だからおまえは早く行け」と指示をし、迅はその指示に従ったのだった。

木崎とゆりは行方を捜していたが、彼女を発見した時にはすでに息絶えていたそうだ。

モールモッドの刃に切り裂かれていたので血まみれになっていて、遺体を運ぼうと木崎が担ぎ上げようとした瞬間に行方の首がもげて地面に転がってしまったという。

その光景を見たゆりは悲鳴を上げ、そのまま気を失ってしまった。

木崎は遺体の回収を諦めて、意識のないゆりを背負って遠征艇へと向かった。

迅は重傷を負った脇坂を遠征艇まで運び、すぐに最上を援護するために彼のいる場所へと取って返した。

そこで迅が見たものは全身ボロボロになり辛うじて戦闘体を維持して戦っていた最上の姿だった。

彼の前には刃を振り上げているモールモッドの大軍。

地面が揺れ続けている状態だから人間であれば異常事態だとして戦闘を放棄して逃げるのだろうが、トリオン兵はそんなことを知ったことではないといわんばかりに攻撃を続ける。

これは私の推測でしかないが最上は迅が戻って来たことを嬉しいと思ったと同時に戻って来てほしくなかったとも思っただろう。

いくら迅の戦力が加わったとしてもふたりでこの危機を切り抜けることは不可能だとわかっていた。

なぜなら最上は左脚を欠損し、右脚のみで立っていたからだ。

これでは走ることはできず、換装を解いて生身の身体になれば走ることができても迅がひとりで迎撃しなければならなくなる。

撤退戦では殿(しんがり)を務める人間が一番危険で命を落とすことも多い。

ならばこの場は自分の身を投じて迅を逃がすことこそ最善の道だと最上は判断したのだと思う。

最上は自らのすべてを投じて(ブラック)トリガーとなり、迅に託した。

この時の光景を迅に訊いたが何も覚えていないと答えた。

それは彼が、まだ14歳の少年で父親のように慕っていた最上が消えていく光景を目の当たりにして記憶の一部を欠落させてしまったからだろうと私は考えている。

実際に私も風間が(ブラック)トリガーとなった瞬間を見ている。

彼の身体が砂粒のようになって風で消え去っていく光景はまるで映画を見ているかのようであり、現実に起きたことと理解できるまでに少し時間がかかってしまった。

そして残酷な現実に引き戻されたとたん私は風間の残した(ブラック)トリガーを握りしめ、気付いた時には遠征艇の見える場所にいた。

迅は最上の形見を握りしめ、数十体のモールモッドを一瞬にして木っ端微塵にした。

その結果、最上隊は迅と木崎とゆりが生還し、脇坂は手当ての甲斐なく遠征艇内で死亡した。

それでも遺体を三門市の墓地に埋葬できただけマシだ。

行方は遺体の回収すらできなかったのだからな。

 

 

忍田隊で生還できたのは彼と九條だけだった。

それも梅咲が(ブラック)トリガーになってくれたおかげで、相馬と甲斐と千尋は敵の(ブラック)トリガーによって絶命していたから遺体の回収は諦めるしかなかったそうだ。

おまえも梅咲の(ブラック)トリガーがどのようなものかは知っているだろう?

今では天羽しか使用できないもので広範囲の敵を一掃する強力なものだ。

この時に使用したのは九條なのだが、その威力は目を疑うほどのものであった。

それまで街であった場所が一瞬で更地になってしまい、それが自分の手によって引き起こされたのだとなればショックを受けても仕方がない。

それ以上に好意を寄せていた相手が(ブラック)トリガーになったことを信じたくないと気持ちがあったのだからな。

 

この写真を見てくれ。

九條の隣には迅がいて、彼女は少し驚いているように見えるだろ?

それは撮影直前まで彼女の隣には梅咲がいて最上の隣に迅が立っていたのだが、ふたりがこっそり位置を入れ替わっていてそれに気付いた九條が驚いたところでシャッターが切られたということだ。

梅咲と迅が入れ替わった理由か?

それは簡単だ。

梅咲が最上の隣に立ちたいと迅に頼んだからだそうだ。

迅に限らず最上を師匠と慕っている者は多く、梅咲もそのひとりだったということ。

もし梅咲が九條の気持ちを知っていて位置を交代しなかったら、きっと彼女は満面の笑みを浮かべて写っていただろうな。

 

 

話を元に戻そう。

林藤隊は敵が雑魚兵士とトリオン兵ばかりといっても数が多かったために撤退にも時間がかかってしまった。

鈴村と平良のふたりが安全に撤退できるようにそれぞれ林藤と小南、風間と私がふたりずつ護衛をしながら戦っていたのだが平良が足を負傷して移動速度がダウンしてしまう。

林藤と小南は鈴村を護衛して先に行き、私が平良を背負って風間の援護で後を追うことにしたのだが、それが間違いだったことに後になって気が付いた。

鈴村は負けん気が強くて戦えなくなって逃げるしかない自分のことを恥じていた。

そんな彼の前に簡易トリオン銃を抱えたままで気を失っている一般兵を見付け、その簡易トリオン銃を握りしめると前方に立ち塞がる敵の中に飛び込んで行ってしまったのだ。

それを見た林藤と小南も後を追うように走って行き、敵を薙ぎ払いながら遠征艇へと向かった。

あと少しで遠征艇が見えてくるというところまで来て、鈴村は敵の銃弾を背中に受けて絶命した。

その光景を間近で見てしまった小南は気が狂ったようになり、あと少しで遠征艇という安全圏に達する地点で引き返して敵の中に飛び込んだ。

それを林藤が止めようとして追いかけ、仲間の敵を討つのだと半狂乱になっている小南を抱きかかえて遠征艇の中へ避難をしたのだった。

私と風間は平良を遠征艇へと送り届け、まだ戦えるからと遠征艇を守るために外で戦闘をつづけた。

しかしいったん遠征艇内へ避難した平良は鈴村の遺体を回収しようとして飛び出して行き、私と風間は彼の後を追って戦場へと戻る。

そこで平良を助けようとした私はトリガー使いの刃によって戦闘体を破壊され、生身の身体になってしまったところをさらに攻撃されてしまい顔に傷を負ってしまった。

そうだ…この顔の傷はその時のもので、平良を助けるどころか自分が危機に瀕してしまったのだよ。

何とも情けないものだ。

そこで出血のために気を失ってしまった私は風間の声で意識を取り戻した。

彼のそばには血の気を失った平良が倒れており、風間自身もこれ以上は耐えられないという生気を失った顔で私を見下ろしていたのだ。

私は意識を取り戻したといっても朦朧としていて、風間の最期の言葉も夢の中で聞いたもののようにぼんやりとしていた。

「城戸さん、あとのことはお願いします。俺は残った者たちのため ──」という風間の言葉は最後まで聞こえなかったが、表情と手の温もりは今でもはっきりと覚えている。

彼は私の知っている仲間思いの優しい笑顔を湛えていて、彼の右手が彼の右手を力強く握っていたことを。

私は風間の最期を見届けると再び気を失ってしまい、次に目覚めた時には遠征艇のベッドの上にいた。

どうやら木崎が私を発見して遠征艇まで運んでくれたようだ。

そして平良が死んだことを聞かされたのだった。

 

 

遠征艇が飛び立つ15分くらい前には(マザー)トリガーを失った国土はほぼ消えてしまっていたらしい。

というのも遠征艇のある高台からは城壁の外の世界が見えるようになっていて、桐山は何気なく遠征艇の窓から外を見るとそれまで見えていた山や川といった景色が何も見えなくなっていて驚いたと後になって聞かされたのだ。

王都から見える範囲で崩壊が迫ってきていたのだから、その時点でB国も撤退しなければ自分たちも死んでしまうと理解できただろう。

そしてボーダーの遠征部隊で生き残った9人が全員遠征艇に戻った頃、B国の遠征艇はすべて(ゲート)の向こう側へと消えていった。

取り残されたトリオン兵が王都内でまだ暴れ回っていたが、もう街の中に生者はいないので放っておけばいずれ内蔵トリオンが切れて動かなくなる。

いや、その前に国土が崩壊してしまうだろうから関係ないか。

人が死んで死の街となった場所で目的を失ったトリオン兵がうごめいている光景は地獄そのものだ。

もしかしたらまだ生きていて助けを求めているA国の民がいたかもしれないが、もう私たちには何もできることはなかった。

仲間の遺体さえ回収できない状況で、国土がすべて崩壊するまであとわずかな時間しかないのだからな。

 

 

私たちの遠征艇が飛び立ったその直後に王都の城壁の辺りの大地が崩れ始め、その後がどうなったのかは誰にもわからない。

(マザー)トリガーを失ったのだからあらゆるものが分子レベルにまで分解されてチリと消えたにちがいない。

別にA国のことなどどうでも良いが、あの場所には回収できなかった仲間の遺体が残されていて彼らもまた一緒に消えてしまった。

そのことだけが悔やんでも悔やみきれず、戦闘から解放されても嬉しいとか良かったなどと感じられずにいたのだが、私以外の生存者も同様であった。

幸いなことに私を除いた8人は心には大きな消えない傷を負ったものの、肉体的には軽傷で済んでいた。

私の顔の怪我は手当てが遅れたことでこのように遠征の苦渋に満ちた記憶と共に死ぬまで消えないものとなってしまった。

トリオンが溜まって換装できたことで三門市まで傷の痛みは耐えることができたものの、心の傷をさらに抉るようなことをA国国王から告げられたのだ。

 

 

あの男ははじめから亡命政権の樹立とか他国に亡命した旧国民の帰る新しい国を興すなどという気は一切なかった。

これは以前にも話したことだが、ヤツは(マザー)トリガーの核を譲るから自分と家族の4人が玄界(ミデン)で何不自由なく暮らせる環境を用意してくれと本性を現した。

亡命政権の話だけでなく1割の国民が他国へ亡命したという話もすべて嘘だった。

王都を離れ疎開していた1割の国民、そのほとんどは貴族や裕福な商人で、彼らは(マザー)トリガーから核を切り離したことによる国土の崩壊に巻き込まれて死んでしまっただろうとのこと。

つまり特権階級の人間たちはB国の侵攻の初期段階で被害に遭わないようにと僻地へと逃げていた。

庶民たちも可能な限り王都から離れようとしたもののトリオン兵によって捕獲されたりトリオン器官を抜かれるなどしていただろう。

しかしヤツが言ったように9割もの人間がすでに犠牲になっていたということは考えられない。

そう、すべてがヤツの嘘だったのだ。

国王という立場を顧みず国と国民を見捨てて自らの安穏とした生活のためにボーダーに(マザー)トリガーの核を譲ると言うクズを遠征艇から放り出してやりたい気分だった。

こんなヤツのために私は…いや、私たちはかけがえのない家族ともいうべき仲間を喪った。

私は愚かだった。

近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)の友好の架け橋になる組織」を目指してボーダーを立ち上げたというのに、こちらがそんな気持ちでいても近界民(ネイバー)玄界(ミデン)の人間と対等に付き合っていくという考えは持っていない。

近界民(ネイバー)どもは玄界(ミデン)をトリオン能力者の狩り場で、玄界(ミデン)の人間を自分たちと同じ人間ではなく獲物や家畜として見ているのだ。

そんな連中と友好的な交流など夢物語でしかなかった。

近界民(ネイバー)が私たちを利用するのなら、私たちも連中を利用してやればいい。

私はボーダーにとっては千載一遇のチャンスだと考えることにした。

織羽が持ち込んだ(ブラック)トリガーによるトリオン供給はいつまでも続かない。

トリオンがなければ三門市防衛もできなくなるのだから、(マザー)トリガーの核があれば活動は続けられる。

ボーダー創設時の4人のメンバーのうち存命なのは私だけになってしまった。

そして彼らから託されたボーダーと残った仲間を守るために私は私の責任で取引に応じることに決めたのだよ。

このことは私以外誰も知らない。

記憶を操作したのではなく、こんな取引があったこと自体知らせなかったからな。

 

 

三門市に帰還した私は本部基地、つまり現在の玉狛支部の建物の倉庫に(マザー)トリガーの核を一時保管しておくことにした。

まず先にやらなければならないことが山ほどあったからだ。

私は家族同然の仲間たちがA国で起きた悲劇を胸に抱えたままで生きていくのは忍びないと考えて彼らの記憶の一部を封印することに決めた。

おまえも知っているように(ブラック)トリガーというものは誰にでも使えるものではなく、また適合者であれば起動することでそれをどのように使えばいいのか、どのような()()があるのかは自然にわかる。

私は風間にこの腕時計のような形の(ブラック)トリガーを託された時に、これが戦闘に使用する武器(トリガー)ではないと直感で知った。

だから私になら使えるだろうと、誰もいない場所で風間の(ブラック)トリガーを起動した。

するとそれが記憶を操作して()()できるものだと知り、まずは一番重症だった九條に使用してみたところ彼女はA国へ遠征に行ったことは覚えているのだがそこで何が起きたのかまったくわからないという。

しかし遠征に出発する以前のことは覚えているため、当然殉職した仲間たちのことは記憶にある。

そうなると梅咲が(ブラック)トリガーとなったことを告げなければならず、そのことを話すと彼女は半狂乱になってしまったのだ。

そこでボーダー隊員であった記憶をすべて封印し、偽りの記憶を植え付けることにした。

まあ、彼女は入隊して1年弱であったから記憶の量も多くないためそれほど難しいことではなかった。

それに彼女の両親は彼女が遠征から無事に帰って来てくれたことだけで十分だと言ってくれたよ。

その代わりボーダーを辞めさせて彼女とは二度と関わらないようにしてくれと頼まれたがな。

続いて九條を除く7人の記憶の封印を行った。

遠征に参加して仲間を喪ったことは記憶にあるがその目で見て経験した悲劇については思い出さないようにしたことで、遠征のトラウマも日常生活に支障がない程度のレベルにはなったはずだ。

最後に遠征先での出来事を告げてからおまえの記憶も封印したが、おまえの場合はそれほど手間がかからずに済んだ。

ただし自分が弱いために遠征に連れて行ってもらえなかった記憶はそのままだったから、強くなりたいと必死になって訓練に励むようになった。

遠征に参加できなかったことがよほど悔しかったのだろう。

 

なぜ遠征先でのことをおまえに話したのかだと?

たしかに記憶を消すことを前提としていたから疑問に思うのは無理もない。

だがおまえは遠征に連れて行かなかったとはいえ私たちの仲間だ、無関係のままというわけにはいかないと考えたのだ。

それにこういう日がいつか来ることになると信じていたから…ということにしておいてくれ。

 

()()()()()()()生還した9人のうち私を除く8人とおまえのメンタルは大丈夫だと安心した私は続いてA国の国王一家のために住む家や生活の面倒をみる家政婦などの手配をした。

場所は東三門…本部基地(ここ)から西に数百メートル離れた今では廃墟となっている住宅地の一角に中古住宅を購入してそこに住まわせた。

もちろん王宮の豪華な部屋のように広くはないが、コンパクトながらも人が生活していくには十分な設備が整っていたからヤツラに不満はなかったようだ。

炊事洗濯などすべての家事は家政婦がやってくれて、生活費の一部を()()()として渡していたので勝手に嗜好品を購入して玄界(ミデン)の庶民ライフを楽しんでいた。

だがそれも半年ほどしか続かなかった。

そう、第一次近界民(ネイバー)侵攻だ。

私は神ならぬ身だから東三門一帯が戦場となるなど想像もしておらず、近界民(ネイバー)である国王一家が国を捨てて玄界(ミデン)に亡命したというのに近界民(ネイバー)によって襲撃を受けるなんてヤツも想像していなかっただろう。

安全な国でのんびりと楽して生きようとしたのだろうが、国王としての役目と民を捨てた男には相応の報いがあって当然だ。

家のあった場所には瀕死の状態の王女だけしか姿がなかったのだから、残りの3人はエクトスに連れ去られたのだと思う。

おまえがエクトスへ赴いた時に探すということもできたが、元国王とその一族ともなればそれなりのトリオン能力を持っているだろうがトリガー使いとしては何の役にも立たないのだから死ぬまでトリオンを搾取されるだけで終わるにちがいない。

 

なんだと? その3人はもう死んでいると言うのか?

その根拠は?

なるほど…トリオン能力が高いのであれば寿命が尽きようとしていたエクトスの「神」にすれば良かったのにそれをしなかったということは3人とも生きてはいないということか。

どの国でも王族は誰もがトリオン能力が高く、最悪の場合は王族の中の誰かが自らその命を捧げるのだということだったな。

これであの国の人間はひとり残らず絶えたということになるのか。

正確に言えば地下にある(マザー)トリガーの中に王女が放り込まれているのだから死に絶えたとはいえないが、自我を失くした身であれば人として生きているとは言い難いからな。

 

 

とにかくA国の歴史はB国の侵攻によって終わりを告げたことになる。

本来なら失われることのなかった国土も国民もたったひとりの愚かな王のために消えてしまったのだ。

B国もこんなことになるなど想定外のことだっただろう。

あの国だって侵攻したのはA国の民のトリオンが目的だったはずなのだから。

こうしてA国はB国に…というよりもきっかけこそB国の侵攻だがA国が自ら滅びたのは間違いない。

そしてそんな勝者のいない戦争に私たちは巻き込まれて大切な仲間を喪った。

得たものといえば3つの(ブラック)トリガーと新たなトリオンの供給源だけだ。

 

 

これが愚かな戦争の顛末で、こんなことを今さら蒸し返したところで何の得もない。

しかしだからといってこのままにしておくことは私にはできないのだ。

あの時は私が勝手におまえや迅たちの記憶を封印してしまったが、9年という時間が経って冷静に真実と向き合うことができるようになったのではないかと私は考えている。

そこでおまえに相談をしたいと思い、こうしてまずおまえにだけ真実を告げた。

その上でおまえは記憶を取り戻したいと思うか?

おまえは実際にA国での現状を見てはいないから取り乱すことはないと思う。

だが遠征から戻って来た私たちの憔悴しきったな姿はその目で見ているはずで、その時の記憶がよみがえるのだから多少は混乱するし辛い思いもするだろう。

今すぐに答えを出せとは言わない。

ゆっくり考えてからでもいいから後悔のない選択をしてくれ。

 

 






城戸の語るアリステラ遠征の顛末はこれでおしまいです。
原作ではほとんど描かれていないためにこの内容は当然妄想の産物であり、原作とは一切関係ありません。
ただ登場人物の名は原作単行本19巻で明らかにされたものを使わせていただき、ワールドトリガー公式TwitterのQ&Aで天羽が使用する黒トリガーは梅咲鉄弥が遺したものだという情報を基にしています。

集合写真で九條真都と迅が見つめ合っているように見えるという原作読者の感想を見たことがあるのですが、わたしには少し違うように感じられました。
迅は彼女を横目で見ているようですが、彼女は「なんで迅さんが隣にいるの?」と驚いて口をパカっと開けているように見えるのです。
拙作における迅はツグミ一筋ですし、梅咲が(ブラック)トリガーになっていることと真都がボーダーを辞めた理由に結び付けることができると考えたのでこのような展開となりました。

アリステラが滅びた理由も単に敵国の攻撃によるものではなく、(マザー)トリガーから「核」を切り離してしまったからではないかと考えて、「核=(マザー)トリガーの心臓」を持ち出したことで(マザー)トリガーが()()()()()()、それをきっかけにして一気に国土が失われたことにしました。
原作で詳しく描かれていないのでわからないことだらけですが、王女と王子に(マザー)トリガーを継承させて玄界(ミデン)へ亡命させたというのであればアリステラ国民は国土の崩壊によって全員死亡したと推測できます。
国土もなく国民がいないのに(マザー)トリガーと王女と王子だけが存在するなんて滑稽です。
たぶん国王と王妃は国と運命を共にしたでしょう。
ですが拙作では国王が自分と家族だけ逃げ出して玄界(ミデン)で生きることを選んだ卑怯者として描いています。
そうすることで旧ボーダーが新たなトリオンの供給源を得ることができた理由にすることができるからです。

拙作は原作を読んだ上で足りない部分を()()()補完した二次作品です。
この展開に納得できないとか面白くないなどの感想を抱く方もいらっしゃるでしょう。
そういった方は葦原先生がアリステラ遠征の詳細を描くまでお待ちくださいませ。


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