ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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70話

 

 

玉狛支部へ帰って来たツグミは玉狛第2の試合のログを見た。

東隊が選んだステージは「市街地B」というごく平凡なマップだが、天候が「雪」という意外なものであった。

転送直後に修と遊真は合流しようとするが、修は二宮隊の銃手(ガンナー)・犬飼澄晴(いぬかいすみはる)に発見されてしまう。

影浦隊の銃手(ガンナー)・北添尋(きたぞえひろ)の擲弾銃(グレネードガン)型トリガーによる炸裂弾(メテオラ)の無差別爆撃と、30センチメートルも雪が積もった状態であって動きを制限されるため修は建物の中に逃げ込んだのだが、犬飼に追い詰められてしまった。

そこで修は習ったばかりの技を使うが犬飼には効果なく、そこに東隊の小荒井と奥寺が乱入。

犬飼は彼らに左腕を落とされるが、二宮隊の攻撃手(アタッカー)・辻新之助(つじしんのすけ)が追い付いて二対二の戦いとなった。

狭い場所であるから攻撃手(アタッカー)ふたりの東隊有利となったのだが、ひとり浮いた修は欲を出して敵を落とそうとしたところを東の壁抜き狙撃(スナイプ)緊急脱出(ベイルアウト)

小荒井・奥寺・犬飼・辻と4人が1ヶ所にまとまっているという絶好のチャンスであったが、千佳は狙撃に躊躇してしまった。

そのためらいのせいでせっかく撃ったアイビスも4人全員に回避されて効果はなく、逆に居場所がバレてしまう。

さらに自発的に緊急脱出(ベイルアウト)しようとしたが60メートル以内に東がいたことで不可。

遊真は影浦隊隊長・影浦雅人(かげうらまさと)執拗に狙われ、修の救出には間に合わなかった。

おまけに千佳が犬飼と辻に追われるという大ピンチとなり、遊真は影浦との対決より千佳の緊急脱出(ベイルアウト)を優先する。

そしてユズルが犬飼をアイビスで狙撃し、遊真を追いかけて来た影浦が犬飼にトドメを刺した。

おかげで千佳は無事に緊急脱出(ベイルアウト)し、玉狛第2は遊真ひとりになってしまう。

居場所のバレたユズルは二宮と一対一になり、追い詰められて緊急脱出(ベイルアウト)

一方、フィールドの中央では攻撃手(アタッカー)5人が勢揃いして乱戦となった。

遊真は雪の中でもグラスホッパーで有利に動けるが、東の狙撃を警戒しながらであるからいつものキレが見られない。

その間も北添の攻撃は続いていたが、彼は二宮に落とされてしまう。

北添の置き土産とも言うべき炸裂弾(メテオラ )攻撃手(アタッカー)5人の乱戦に大きく影響を与えた。

爆風と爆煙の中、影浦が奥寺を、遊真が小荒井を、東が辻を落として一気に3人が緊急脱出(ベイルアウト)

この隙に影浦が遊真に襲いかかろうとしたが、二宮がふたりを両攻撃追尾弾(フルアタックハウンド)の雨を降らせた。

それをシールドで防ぐものの被弾してしまう遊真。

二宮が距離を詰めて寄せにかかったところを強襲する遊真だが、老獪な二宮の手に落ちてしまった。

ここで二宮隊・影浦隊・東隊はそれぞれ隊長を残すのみとなり、試合は一転して静かな展開となった。

そして時間切れ(タイムアップ)

最終スコアは3-2-2-1で二宮隊の勝利となったのだった。

3人が生き残り、生存点がなかったことで点差が拡がらなかったのが玉狛第2にとって不幸中の幸いであったといえよう。

 

 

「はあ…この分だとオサムくんはすごく落ち込んでるだろうな…」

 

ツグミはひとり呟いた。

Round3の後、修が嵐山隊や太刀川隊に赴いて射手(シューター)の特訓を受けていたことを彼女は知っている。

しかしそれが修にとって両刃の剣であることを認識して不安でいたのだが、まさにその通りになってしまったのだ。

犬飼と一対一になった時、修は習ったばかりの技を使ったのだが手練の犬飼には通用しなかった。

特訓を受ける前の修なら遊真との合流を最優先して逃げただろうが、中途半端に小技を覚えてしまったがために正しい選択ができなかった。

アイビスによる東の壁抜き狙撃(スナイプ)が想定外のことだったとはいえ、試合開始後何もできずに緊急脱出(ベイルアウト)してしまったのだから悔やんでも悔やみきれないだろう。

その悔しさを新たな成長に生かすことができれば玉狛第2はもっと強くなれるのだが。

 

 

 

 

ツグミがモニターの電源を落とすと、そのタイミングを見計らったかのようにドアをノックする者が現れた。

 

「どうぞ~」

 

彼女が気軽に声をかけると、迅が入って来た。

 

「よう、お疲れさんだったな」

 

「ホントに疲れましたよ。ランク戦が終わったと思ったら、すぐに須坂会長に連れ出されて、慣れないパーティーで大勢の人に囲まれたんですから。大規模侵攻でラービットに囲まれた時より緊張しました」

 

わざと肩をポンポン叩きながら言うと、迅は苦笑した。

 

「それよりも何かご用ですか? 深夜に女性の部屋を訪ねて来るからには余程の事情があるはずですけど」

 

「ああ。たぶんおまえが気にしているメガネくんのことだ」

 

「オサムくんがどうかしました?」

 

「今日の解説は風間さんと加古さんだったんだけど、風間さんに『隊長としての務めを果たせ』って言われてさ。それでどうしたと思う?」

 

「もったいぶっていないで教えてくださいよ」

 

「この実力派エリートを玉狛第2にスカウトしに来た」

 

するとツグミは大きく目を見開いて言った。

 

「戦力の増強は必須ですけど、ジンさんをスカウトするなんてずいぶん大胆ですね」

 

「だろ? さすがのおまえですらそこまではしなかったもんな」

 

「わたしだってジンさんと一緒に戦いたかったですけど、断られるだろうと思って諦めたんです。それでどうしました?」

 

「メガネくんには申し訳なかったけど断ったさ。でもスカウトするなら他に適任者がいると暗示しておいた」

 

「他に適任者…ですか。それってもしかして…()、のこと?」

 

「そ、()()()のことさ。もっとも仲間になってくれるかどうかは微妙だけどな」

 

具体的な名前は出さないが、ふたりの間では「彼」「あいつ」が誰なのかわかっているのだ。

 

「そういうわけでメガネくんはこれまでのように自己鍛錬は継続し、新隊員確保のために動くってことになった。おまえも大変だろうが後輩たちのことに気を配ってやってくれ」

 

「はい、わかりました」

 

「ところで話は変わるが、おまえも面白い試合を見せてくれたな。ケレン味の効いたおまえらしい戦いっぷりだった」

 

迅はツグミにぼ〇ち揚の袋を差し出して言う。

ツグミは袋に手を突っ込んで1枚取り出すと、かじりながら会話を始めた。

 

「ジンさん、どこで見てたんですか? オサムくんたちの話だと観覧室にはいなかったそうだし、談話室にいた忍田本部長たちも見かけていないみたいだったし、玉狛支部(ここ)にもいなかったんでしょ?」

 

「ああ、俺は風間さんと一緒に太刀川隊の隊室で見てた。食堂で風間さんとメシ食ってたら遅くなっちまってさ、観覧室が満員で立ち見でもいいかと思ってたらそこに太刀川さんが来て、結局太刀川隊の隊室で見ることになったってわけ」

 

「そうだったんですか…。ジンさんがいないと聞いて、何かあったんじゃないかって心配だったんですよ。わたしの試合は必ず見てくれるって約束ですから」

 

「ハハハ…悪かったな。しかしたったひとりで生駒隊と王子隊を相手に完封とは恐れ入った。それにしても毎回派手な技を使って俺たちを楽しませてくれるよな、おまえは。選んだステージや時間帯にも深い意味があるって東さんも感心していたし」

 

「だって面白い試合をすれば観客(ギャラリー)が喜んでくれるから張り切っちゃうんです。奇抜な戦術を使うのも、敵の思考を上手く読んで立ち回り、武器(トリガー)を効果的に使用すればひとりでも複数の敵を倒せる。技術はもちろん重要だけど頭を使うことも大切だってわかってほしいからですよ。C級のコたちのやる気を出させるには、正隊員が活躍しているところを見せるのが一番。自分たちも早く正隊員になりたいって気持ちになってくれたら大成功です」

 

「それは確実に成功している。なにしろB級ランク戦で立ち見まで出るケースは今期が初めてだからな。回を重ねるごとに観客(ギャラリー)が増えていって、C級のブースの稼働率も上がったと忍田さんが言ってた。いい傾向だよ」

 

「ええ。わたしの目指すものはA級昇格じゃなくて、ボーダー全体の戦力アップですもの。あとはC級たちが自分たちの努力で正隊員に上がること。そして正隊員が自分の持つ力をさらに磨き上げることで三門市の平和が保たれ、さらに遠征計画も成功する。そうなったらジンさんも楽になれるでしょ?」

 

ツグミは食べかけのぼ〇ち揚の欠片を口に放り込むと、指をペロリと舐める。

さらにもっと欲しいという顔で見るので迅が袋ごと与えると、彼女は嬉しそうに次のぼ〇ち揚を取り出してポリポリ食べ始めた。

自分のことよりボーダーという組織や三門市の市民のことを優先に考えて動く大人びた部分と、無邪気な顔で菓子を頬張るその子供っぽい仕草がアンバランスだ。

それらの行動が自分のためであり、またその表情を自分にしか見せないのだと思うと、迅は彼女のことがたまらなく愛しくて胸がいっぱいになった。

 

(可愛いな…)

 

ツグミの仕草に迅は思わず顔がにやけてしまうが、それをツグミに見られまいとしてさっと後ろを向く。

 

「どうかしました?」

 

「あ、いや…新しいぼ〇ち、持ってこようかな、と…」

 

不自然な動きに訝しむツグミと、後ろを向いたままで誤魔化す迅。

するとツグミが手を伸ばしてぼ〇ち揚の袋を迅に差し出した。

 

「まだ入ってますよ」

 

「あ、そうだな…」

 

そう言って迅は振り向いた。

そして袋を掴むと照れ隠しのようにぼ〇ち揚を食べる。

 

「ねえ、ジンさん…今日、城戸()()と少しだけお話しができたんですよ」

 

ツグミが嬉しそうに話し始めた。

 

「城戸()()とは()()()以来ゆっくり話したことがなかったんですけど、今日はあの人が司令じゃない自分と話してくれって言うから、わたしの気持ちを正直に話したんです」

 

「それでどうだった?」

 

「わたしの行動の意味や玉狛支部の存在意義について説明したんですけど、城戸()()にはわたしの気持ちが理解してもらえたみたいで、城戸()()にもわたしの想いは届くだろうって言ってくれました。わたしもあの人もお互いの考え方にはきちんとした理由があるって認めてはいても、やっぱり相容れない部分があってそれは拭えません。でもそれでいい、ボーダーのためにはむしろその方がいいって言ったら驚いていました」

 

「ほう…」

 

迅は感心しながらツグミの話を聞いている。

 

「昔みたいな少人数の組織なら考え方がバラバラだと困りますが、今の規模になったら考え方を統一すること自体が無茶ですもの。だから玉狛が玉狛らしくやっても、前ほど睨まれなくなりますよ、きっと」

 

「そうか…。よかったな」

 

「はい!」

 

迅に頭を撫でられて満面の笑を浮かべるツグミ。

 

「じゃ、俺はもう戻るよ。おやすみ、ツグミ」

 

「おやすみなさい、ジンさん」

 

そして部屋を出て行く迅の後姿をツグミは微笑みながら見送るのだった。

 

 

 







ひとまず本編はここで一旦休載とし、明日からは番外編として「本編の補完的な話」を投稿しようと思います。




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