ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

713 / 721


 

 

【ツグミ・ジン・オーラクルから城戸正宗への手紙】

 

ご無沙汰しております。

城戸さんのことですから総司令官の椅子を二宮さんに譲ってもなおボーダーのことを気にかけていらっしゃることでしょうね。

あまり心配すると白髪が増えますよ。

 

わたしが女王となって1年が経ちました。

エウクラートンという国は三門市と環境がだいぶ違いますが、1年も暮らしていれば身体も慣れてきます。

いえ、むしろそちらにいた時よりもずっと調子が良い感じです。

毎日規則正しく生活し、暮らしの中でストレスの溜まるようなことはないので常に快適ですから。

わたしには関係ありませんがこの国にはスギやヒノキの木がないので花粉症に悩まされる人はいないらしいです。

日本には花粉症で苦しんでいる人がたくさんいますが、その人たちにとってはエウクラートンは天国でしょうね。

 

先日こちらの技術者(エンジニア)玄界(ミデン)に留学させていただきたいと依頼しましたがいかがでしょうか?

トリガーに関しましては圧倒的に勝者である近界民(ネイバー)ですが、日常生活で使用する道具は玄界(ミデン)と比べて100年や200年も前の技術レベルです。

その大きな差を埋めるためには近界民(ネイバー)玄界(ミデン)から学ぶしかありません。

特にインフラの整備に関して計画は進めていますがこちらの技術者(エンジニア)に説明してもピンとこないようなのです。

実際に見て体験するのが一番ですから、ぜひとも受け入れをお願いします。

分野は前回の依頼の手紙に書いてありますからそれらを基本とし、可能であれば他にもいくつか教えていただきたいと考えています。

幸いなことにこちらの技術者(エンジニア)はやる気満々で、希望者の選抜に苦労したくらいです。

本来なら総合外交政策局にお願いするべきことなのでしょうが、まだオサムくんたちには人脈がないので荷が重いと考えました。

城戸さんの知り合いになら適当な方がいそうなので個人的に依頼をしたまでです。

交換条件としてこちらのトリガー技術の提供をする予定で、詳しいことは別途添付した資料をご覧くださいませ。

 

 

◆◆◆

 

 

【忍田真史からツグミ・ジン・オーラクルへの手紙】

 

おまえのことだから何も心配する必要はないと思うが、それでも父親として娘を思う気持ちはわかってほしい。

私は元気だし、皆も元気でやっている。

三雲くんがそちらへ行くというのでこの手紙を託すことにした。

おまえが女王となってもう1年も経ったのだな。

時の経つのはあっという間で、その間にいろいろなことがあった。

第一次近界民(ネイバー)侵攻の9周年慰霊祭が無事に済んだことで私や城戸さんは現役を引退した。

といっても相談役という立場で週に1-2回は本部基地へ行って給料分くらいは仕事をしている。

私の場合は若い隊員たちに剣の稽古をつけてくれと捕まって、模擬戦に付き合っていることの方が多いな。

慶のヤツは迅がいなくなってから元気がなく、私が相手をしてやることが増えた。

私も暇だからかまわないのだが、やはり切磋琢磨するライバルというものは必要だ。

防衛隊員の数も一時期と比べて約半数となった。

それは近界民(ネイバー)の脅威がなくなったからで喜ばしいことではあるが、やはりいざという時の備えは必要だ。

そこで以前におまえが提案していた「防衛隊員と学業の兼業について」で、中学・高校の部活動のひとつとして「ボーダー部」なるものを設立することになった。

三門市内の中学と高校の生徒を対象にトリガー使いを養成する手段として通常の部活動と同じように放課後に本部基地でトリガー使いとしての訓練を受けてもらうのだ。

剣道部や野球部のように部活動として行うものだから原則として無給であり現在のC級と同じく防衛任務には出ることができないが、条件が整えば正隊員として雇用する道もある。

ただし三門市がトリガー特区だからできることで、いくらトリガー使いとして優秀であっても対外的な試合はないので物足りないかもしれないが、学校単位で部隊(チーム)を組んでランク戦を行えばそれで納得してもらえるだろう。

若い頃からトリオン器官を鍛えることで高校を卒業する頃にはまあまあの能力を持つこともできるだろうから、そうなれば警察や消防・自衛隊などからスカウトがくる。

つまり就職に都合が良いというメリットがあるため希望者がそれなりにいるみたいだ。

京介の弟妹も希望を出しているらしいが、ボーダー関係者の親類は優先的に選ばれることになっているのできっと彼らも「入部」するだろうな。

ひとまず新年度には各校10人以内で募集をし、半年の試行期間を経て正式に決定する予定だ。

始動したらまた報告する。

 

私は相変わらずあの家でひとり暮らしをしている。

新しい家族を迎えるということを諦めたわけではないし縁があればと考えているが、やはりこの家にはまだおまえの気配が残っていてそれを消したくないという自分がいるのだ。

心配はしなくていい。

時間がたっぷりあるので料理教室へ通って自分で料理を作ることを覚えたし、たまに城戸さんや林藤を誘って宴会など悠々自適にやっている。

こういう幸せもあるのだよ。

おまえも迅と家族になって幸せだと感じているだろう。

その幸せを抱えて一日も早く帰って来てくれることを祈っている。

 

 

◆◆◆

 

 

【三雲修からツグミ・ジン・オーラクルへの手紙】

 

先日はいろいろとお世話になりました。

女王自ら歓待してくれるというのですから、ぼくたち平民にとっては一生忘れられない出来事になりました。

ツグミさんと迅さんがぼくたちの知っているおふたりのままであったことがすごく嬉しくて、つい予定よりも長居してしまったことはお詫びします。

以前にあなたからいただいたUSBメモリの中に「同盟国を紹介するVTRを作って近界民(ネイバー)近界(ネイバーフッド)を身近に感じてもらう」という計画があって驚かされました。

でもそれは良いアイデアだとも思いました。

近界民(ネイバー)といってもぼくたちと同じルーツを持つ人間ですし、人々が自分たちと同じ生活を営んでいると知れば親近感が湧きます。

根付さんが三門ケーブルテレビで放映してくれるという約束を取り付けてくれたので、第1回目をエウクラートンに決めたんです。

ちょうど春真っ盛りの一年の中で一番快適なシーズンで撮影ができたことで、たくさん撮影した素材のどれを使用しようかと悩むくらいでした。

そして「こちらボーダー広報室」の2時間特番として放映しました。

そうしたら反響が大きく、半月後には全国放映されたくらいです。

それにしても天候を自由に操作できるのは便利ですね。

こちらはすべて「天任せ」ですから思うようにはいかないのが当たり前で、近界(ネイバーフッド)という世界が(マザー)トリガーによって支えられていることを改めて思い知らされました。

 

話は変わりますが先日トロポイからトリュスさんとイェルンさんがいらっしゃいました。

空閑の身体のことでお世話になりましたが、おふたりはずっと空閑のことを気にかけてくれていて様子を見に来てくれたようです。

今のところ空閑の身体に問題は生じていませんが11歳の時のままの姿ですから不便を感じているところもあるのは事実。

そこで以前に作ってもらった換装用トリガーのデータを一部弄って20歳くらいに成長した見た目にしてくれると提案してくれました。

ただしいきなり10年も歳をとったらおかしいので、空閑は半年くらいトロポイに滞在して技術者(エンジニア)の修行をすることになります。

もちろん半年で10年分も老けてしまえば違和感ありますが、近界(ネイバーフッド)で暮らすと体質によってはそうなるのだと強引な理由でもつけて他の人には納得してもらうつもりでいます。

空閑がいない間はぼくたちだけで総合外交政策局を動かしていくことになりますが大丈夫です。

現在は警察からもらった行方不明者リストの中で近界民(ネイバー)による拉致の可能性が高い人物の行方不明時の近界(ネイバーフッド)の軌道配置図を照らし合わせる作業を行う予定です。

そして空閑が帰って来たらさっそく可能性の高い国へと行ってみようと思います。

ではお元気で。

 

P.S.

全国放映されたバージョンの「こちらボーダー広報室」のDVDを同封します。

案内人のツグミさんのことが話題になっていましたが、やっぱり初の近界(ネイバーフッド)有人往還成功者だというだけありますね。

女王であることは秘密にしてありますから安心してください。

 

 

◆◆◆

 

 

【ユウイチ・ジン・オーラクルから三雲修への手紙】

 

メガネくん、久しぶり。

今日は至急教えたいことがあるのでリヌスに頼んで特別便で手紙を送っている。

内容は拉致被害者市民の情報だ。

確実なものとは言えないがディーリゲンスという国に玄界(ミデン)の人間がいるらしいという。

ニュースソースはエクトスのオレク外務省事務次官だから信頼はできるのだが、それでも「らしい」というレベルだからな。

国の位置はレプリカ先生の軌道配置図を見ればわかるはずだ。

戦争中ではないし比較的治安の安定している国ということで、一度行ってみる価値はあると思う。

じゃあ、頑張ってくれ。

 

 

◆◆◆

 

 

【三雲修からユウイチ・ジン・オーラクルへの手紙】

 

迅さん、手紙ありがとうございました。

手紙を受け取ってすぐに総合外交政策局内で緊急会議を行い、遠征計画を立てて総司令官の二宮さんに提出しました。

二宮さんが総司令になってから数ヶ月経つわけですが、まだなんとなく慣れないというか変な感じです。

B級ランク戦で戦った人が今は上司というだけでなく最高責任者なんですから。

向こうも組織のトップという椅子の座り心地が慣れないらしく、幹部会議でも落ち着きがないです。

それはさておき近いうちにディーリゲンスへ遠征を行います。

目的地までは片道約2週間と遠いですが、そこに救出を待っている人がいるかもしれないのであれば行くのはぼくたちの役目ですからどこまででも行くつもりでいます。

ぼくが迅さんに誘われて玉狛支部へ異動となった時にはこんな未来があって、ぼく自身がやりたいことをやれるだけの力を持つことになるなんて想像もしていませんでした。

楽しい…と言うと語弊があるかもしれませんが、毎日が充実していていろいろなことに対してやる気が満ちています。

もし空閑と出会わず迅さんに手を差し伸べてもらっていなければ、ぼくはC級のままでいて何の意味もない日々を過ごしていたか、早々にボーダーを辞めさせられていたことでしょう。

ぼくはトリオン能力が低くて戦闘員としても大した役には立てませんでしたが、総合外交政策局という道を示してもらったおかげで今があります。

どうもありがとうございました。

ツグミさんにも感謝の気持ちでいっぱいで言葉になりません。

一日も早く帰国できるよう祈っています。

 

 

◆◆◆

 

 

【ツグミ・ジン・オーラクルから城戸正宗への手紙】

 

先日の手紙で面倒なお願いをしたというのに早速お返事をいただいて驚いています。

さすがは総司令官を務めていらっしゃった城戸さんですね。

それにあなただけでなく大迫先生にもご尽力いただいたとのこと、お手を煩わせてしまって申し訳なく感じています。

同封した手紙を先生にお渡しいただければ幸いです。

そちらの受け入れ態勢が整いましたらご連絡くださいませ。

こちらは人員の選抜等準備ができております。

今後近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)の技術交流が行われるようになると、トリガーを悪用しようとする輩が増えることは明らかです。

今のところは三門市内の「特区」内だけでの使用に限定されていて、トリガーの管理を徹底していますので流出という事故は起きていませんけど関係する人間が増えれば安心できるものではありません。

また技術者(エンジニア)やわたしが経験したように正隊員がトリガーとセットで拉致されるといった犯罪に巻き込まれる可能性も消えていませんから、彼らの身の安全を保証するためのシステムも必要となります。

トリガー自体は特区外に持ち出しできないようになっていますし、持ち出した時点でホルダーの中のチップが自動的に破壊されるようになっているのでその点は安心ですが、敵が三門市内にアジトを設置してしまうとわかりませんからね。

すべての人間が性善説を基にしているなら心配いらないのですが、現実にはそうではありません。

戦争を金儲けの手段と考えて人々を争わせようとする人間。

権力を掴もうとする、また掴んだものを失わないようにと自分の野望を阻む者を排除しようとする者。

そういった輩が地上から消えてしまうことがない以上はこちらが防衛しなければなりません。

近界(ネイバーフッド)ではキオンとアフトクラトルという二大軍事大国が積極的な戦争を放棄し、他国に睨みを利かせているために規模の大小に関わらず戦争の数が激減したそうです。

アフトクラトルではハイレイン陛下が王座に就いて5年が経ち、国民の支持も高く国政が安定していると報告をもらっています。

陛下は危険な人物のように思われますが、生来陛下は穏やかな暮らしを好む家族思いの優しい人で自分の願いを叶えるためには冷徹な仮面を被って武力侵攻を行っていただけです。

国王という権力を得たことで本来の人間に戻ることができ、国民に対して圧制を強いるようなことがないためにアフト国民は安心して暮らしているのです。

ですが対外的にはかつての数々の国を武力侵攻していたアフトクラトルのままでいて、同盟国に手を出せば全力で報復するという姿勢を見せています。

さすがにアフトクラトルを本気で怒らせるようなバカなことはしないでしょうし、同盟国でない国も侵攻されたらアフトクラトルやキオンに助けを求めて同盟加入を希望することになるので、結局「戦争は割に合わない。同盟に加入して玄界(ミデン)の技術を手に入れた方が良い」となるわけです。

本当なら武力なんてものを持たずにいて、万が一の際にも武力行使することはないと完全な「戦争放棄」ができれば理想的なんですけど、人が人でいる限り争いがなくならないのは世の(ことわり)というもの。

だからせめて近界民(ネイバー)たちには先祖である「5人の王」の後悔と反省を知ってもらい、愚かなことを繰り返さないようにしていきたいと思っています。

エウクラートンは平和そのもので、戦争どころか民の小さなイザコザもありません。

それは政府の組織内に簡易裁判所のような部署を設置し、トラブルが発生したら第三者が中に入って当事者が納得する形で収めるようにしているからです。

近界(ネイバーフッド)の国々には裁判所というものが存在しませんでした。

すべては身分の高い者や金を持っている者がその力で弱者を押さえつけるという手段で解決させていたからです。

「法」はあってもそれが平等なものではなかったために庶民階級の人間は泣き寝入りするしかなかったといいますから、裁判所を設置したことで自分の権利を主張できるようになりました。

庶民階級の人間には身分が低くても「法」が守ってくれるという安心感があり、権力を持っていた者もそれが通用しないとわかるとトラブルが生じないよう気を付けるようになったようです。

キオンもテスタ閣下がエウクラートンの様子を視察して「司法」に興味を持たれました。

わたしの知る範囲では全然足りませんので、次の定期便の際に資料となるものを送っていただけたらありがたいです。

またご面倒をおかけすることになりますが、どうぞよろしくお願いいたします。

 

そちらは間もなく冬が始まる季節だと思います。

くれぐれもお身体ご自愛くださいませ。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。