ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
【三雲修からツグミ・ジン・オーラクルへの手紙】
お元気ですか? ぼくたちボーダーのメンバーはみんな元気です。
嬉しい報告がひとつあります。
三門スマートシティ・プロジェクトがついに完了しました。
4期に分けて進めていた工事が無事終了し、これまでのように第一次侵攻の拉致被害者とその家族を最優先とし、他に第一次侵攻で家屋を失って仮住まいをしていた人たちや
全部で約3500人の住民がここで暮らすことになります。
そしてぼくの家族と空閑がここに引っ越すことになりました。
別に総合外交政策局員だからというのではなく、ぼく自身が
幸い両親ともに賛成してくれて、今週末に引っ越す予定です。
先日の手紙で報告したディーリゲンスで救出した松前さんという市民の件ですが、彼とその家族はテオさんの家族の家の隣が空いていたのでそこに入居してもらいました。
立場は違いますがどちらも慣れない世界で暮らしていても上手くやっていけた人たちですから、互いの気持ちも理解し合えると考えたからです。
最初はキオンの軍人だったというテオさんのことを松前さんは警戒していたようですが、テオさんの持ち前の明るさと人懐っこさですぐに打ち解けてくれました。
それにテオさんの弟と松前さんの息子が同い年ということで特に仲良くなって一緒に小学校へ通っているくらいです。
ぼくだって麟児さんが
来月には「拉致被害者市民救出計画」が「行方不明市民捜索計画」と名称を変え、
特定の国を目指すのではなく、可能性の高そうな方面へ1-2ヶ月くらい遠征をして手掛かりを探すのです。
そして立ち寄る国と友好関係を結んでいき、協力を求めることにします。
同時に同盟加入についても勧め、ボーダーの影響を受ける国を増やしていくんです。
これはツグミさんの計画にはなかったことですが、ぼくが提案したものを空閑たちと相談して決定したものです。
これまですべてあなたの教えや指示に従ってきただけでしたが、自分の力でやってみようという自信が生まれたからです。
かつてやりたいことがあるなら力を持たなければダメだとあなたから何度も言われ続けてきました。
ようやく自分がその力というものを手にし、やりたいことができるようになったと思えます。
昔の情けない自分に今の姿を見せてやりたいくらいです。
では、お元気で。
迅さんにもよろしくお伝えください。
◆◆◆
【空閑遊真からツグミ・ジン・オーラクルへの手紙】
ツグミ、元気にしてるか?
「さん付け」で呼ばないことをオサムはマズいと言うけど、おれはこれくらいのことでツグミが気を悪くすることはないって思ってる。
本当はきりしな先輩って呼ぶのが一番しっくりくるんだけどもう霧科じゃないし、先輩であることは変わらないけどなんか変な感じだからな。
それで本題に入るけど、オサムから聞いていると思うがおれはトロポイへ行ってトリオン体の姿を変えてもらって来た。
前は11歳の時のままだったから身長が141センチしかなかったけど、今では166センチに伸びたんだぜ。
それでもオサムの175センチには届かないけど、あんまり大きくすると周りが変に思うからこれでいいんだと思う。
もちろん顔だって大人っぽくなって、オサムとチカのふたりは帰って来たおれを見て「どちら様?」って顔になった。
その時の顔、ツグミにも見せたかったぜ。
チカは148センチでおれはチカのことを見下ろすようになったから変な感じだけど、本当ならこれが普通なんだと思う。
おれがバカなことをしたせいで親父は
でもこれでなんか許されたって気がした。
いちおうおれの身長が半年で25センチも伸びたことについては
信用してくれているかそうでないかは確かめたことはないけど、オサムは普段のおれのことを知っている人間ならみんな信用してくれていると言ってくれた。
オサムの言うことだからおれは信用できる。
同封した写真は総合外交政策局員全員で撮った集合写真で、左端に立っているのがおれだ。
髪が白いことくらいしか昔の面影はないかな?
だってトリュスさんが「違和感がない程度にイケメンにする」って張り切ったからね。
それでお任せしたんだけどで仕上がった顔が親父にそっくりなんだ。
親子なんだから似ていて当然だと言うけど、親父ってイケメンだったかなって不思議に感じたが理由がわかった気がする。
たぶんトリュスさんって昔におれの親父に惚れていたんじゃないかって。
トロポイの危機を救った功労者だから
だからトリュスさんに「親父のことが好きだった?」と訊いたら「さあね」って答えただけだった。
それじゃ本当か嘘か見抜けないけど、深く追求するのは野暮ってもんだからそれ以上は訊かなかった。
そして半年間、おれはトリガー技術についていろいろ教えてもらった。
おれは専門家じゃないからわからない部分もあるけど、親父は全部理解していたらしい。
改めて親父がすごい男だったって思い知らされたよ。
おれからの報告はこんなところだ。
ツグミのことだから大丈夫だと言うだろうけど言っておく。
無理するなよ。
そして元気で帰って来るのを待っているからな。
◆◆◆
【雨取千佳からツグミ・ジン・オーラクルへの手紙】
ツグミさん、お元気ですか?
わたしは元気です。
修くんと遊真くん、兄さんも元気でやっています。
テオさんの家族のみなさんが時々玉狛に遊びに来て、人が減って寂しくなってしまった旧玉狛支部も彼らが来ると明るくなります。
玉狛支部という名称はなくなってしまいましたが、ここは旧ボーダー時代からの思い出深い場所ですし今はわたしたち総合外交政策局の事務局として使っているのですからボーダーがなくならない限りたくさんの思い出はここにあって、これからも増え続けていくでしょう。
ツグミさんの使っていた部屋はそのままになっています。
あなたが使うことはないと思うんですけど、なんとなく片付けてしまうのが惜しくて誰も触れようとはしません。
ずっと前に城戸さんが使用していた部屋を修くんが使うことになったように、もしあなたの部屋を使うべき人が現れたら使ってもらおうということになっています。
ボーダーでは三門市内の学校に通っている中高生が「ボーダー部」の活動を行っていますが、なんとわたしが
といっても現役の防衛隊員と元防衛隊員全員が交代で指導することになっていて、わたしもその条件に当てはまるからなんですけど。
人を撃てなかったわたしが後輩に指導するなんて不思議なものです。
誰でも初めは人を撃つことに抵抗があり、それには時間をかけて慣れるしかないとレイジさんから教わりました。
でもわたしの場合は他人の目を気にして周りの人に嫌われたくないという理由で、他の人とは全然違うものでした。
そのことで周りに迷惑をかけ、特にツグミさんにはずいぶん叱られましたね。
そんなわたしがどんな指導ができるのだと考えましたが、わたしだからこそできることがあるのだと悟りました。
あなたが旅立った日、わたしたちがお弁当を持って見送りに行ったことのお礼にとあなたはわたしたちに言葉を残してくれました。
「あなたが出会う最悪の敵は、いつもあなた自身であるだろう」というニーチェという人の言葉はわたしの胸に深く刻み込まれました。
あらゆることが上手くいくかいかないかは周りの人たちではなく自分の心次第であって、わたしが勝手に他人からどう見られているのかを判断するのではなく、相手がわたしをどう見ようとも自分は自分だという自信を持っていれば何も怖くはない。
他人の批判なんてものは仲間や友人の信頼に比べたら何の価値もないのだと思うことでわたしはとても強くなった気がします。
敵を作ってしまうのは自分自身。
壁だと思うものを作ってしまうのも自分自身。
ツグミさんと同じように考えることになって、わたしは変わりました。
だから後輩に教えるということもできるんです。
以前のわたしなら「こんな教え方じゃわかってもらえないだろう」とか「強く指導したら嫌われるかもしれない」なんて勝手に想像して初めから無理だと決めつけていたはずです。
ただひとつだけ変わっていないこともあります。
それは狙撃の腕前です。
トリオン量のおかげでなんとか先輩の面目が立っていますけど、技術的なものは当真さんや奈良坂さんたちに全然届きません。
修くんにそう言ったら「あの人たちは次元が違うんだから当たり前。でも無理だと思うことで自分に限界を作ってしまうことになるから無理だとは思わず自分らしい
総合外交政策局員となってからはもう
でも
風間さんたちのようにベテランのトリガー使いの人がいるので安心ですが、万が一の時にはわたし自身が戦わなければならないと考えて後輩の指導と同時に自分自身の訓練もやっています。
「ボーダー部」は学校単位で
だからみんな頑張って練習しているんですが、以前のように
でもそれだけ三門市が平和になってきたということで良いことだと思っています。
ではお元気で。
◆◆◆
【ツグミ・ジン・オーラクルから三雲修への手紙】
お手紙ありがとう。
みんな元気そうですし自分の役目を頑張っているようで上々です。
「行方不明市民捜索計画」の件ですが、あなたたちがそうするべきだと判断したのですからそれが正しいのだと思います。
それを信じて進んでください。
第一次侵攻の拉致被害者市民救出計画と違ってゴールの見えない長距離走のようなものですから途中でくじけそうになることもあるでしょう。
でもあなたには心強い仲間がいるのですからやれるはずです。
それにもしゴールまでたどり着けなくても後を引き継いでくれる人が必ず現れるでしょうから、それまであなたがやりたいこととやるべきことが一致した「行方不明市民捜索計画」を後悔のないように頑張ってください。
わたしがエウクラートンへ来て3年目になりますが、時間がたっぷりとあるおかげで年単位の計画が進められて楽しいです。
特に農作物を育てる場合には最低でも半年から長いものでは数年に及ぶものばかりで、
ボーダーにいて行方不明者の捜索をやっていたらできないことで、長い休暇をもらってのんびり好きなことをやらせてもらっている気分ですね。
こちらへ来るまではボーダーを辞めることで失うものが多いような気がしていましたが、それはわたしの勘違いだったようです。
女王という立場は不自由な部分もありますが、
ただし当然護衛付きでないとダメだとか面倒なこともありますが、例の変装用トリガーを使ってお忍びで街の中で買い物をしたり買い食いをしたりと楽しむことも可能。
羨ましいでしょ?
でもやっぱり楽しいことばかりじゃありません。
国という組織のトップにいるとなると国全体を見渡して正しく導かなければなりませんので、各地方領主の声を聞くと同時にそれが正しいかどうか判断しなければいけません。
また庶民がどう感じているのかという声も聞き「最大多数の最大幸福」を目指すことになるわけですが、それにも問題はあります。
「最大多数の最大幸福」は少数派の犠牲を正当化している考えだとも言えるのです。
だから少数派の意見も大事にしなければならず、その折り合いをつけることが重要になります。
こうしてみるといかに城戸さんがボーダーという組織をまとめるのに苦労していたのかがわかりました。
人は立場が変わると物の見方や考え方も変わるものですね。
オサムくんならこの気持ち、わかってもらえると思います。
こちらで収穫したジャガイモを一緒に送ります。
トリオンがたっぷり含まれているからなのか、無農薬栽培だからなのかわかりませんが、
お勧めの食べ方はじゃがバターです。
塩辛を載せて食べると最高なんですが、こちらには塩辛がないのでとても残念です。
試してみてください。
ではお元気で。