ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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【ツグミ・ジン・オーラクルから三雲修への手紙】

 

オサムくん、宗一の誕生のために心温まる手紙と素敵なプレゼントを送っていただきありがとうございました。

遠征の準備が忙しいので行くことができなくて申し訳ないと書いてありましたが、そんなことは気にしないでいいのですよ。

あなたたちにとっての最優先事項は「行方不明市民捜索計画」を進めることなのですから。

その合間で時間のある時やエウクラートン方面に遠征した時にはぜひ立ち寄ってください。

いつでも大歓迎する準備を整えておきますから。

同封した手紙はユーマくんとチカちゃんと麟児さんとテオくんにそれぞれ渡してくださいね。

 

話は変わりますが、先日キオンからテスタ閣下がお祝いにいらっしゃってその時に玄界(ミデン)の人間と思われる人物の情報を持って来てくれました。

近界(ネイバーフッド)各地に派遣している諜報員に対して本来の任務の遂行の際に玄界(ミデン)の人間の情報があれば即本国に報告をするよう指示をしたそうです。

そしてとある国で玄界(ミデン)から来たと言っている人物がいると報告がありました。

拉致されたのではなく自らの意思で来たという意味に受け取れますが、その人物が嘘を言っているのではない限り玄界(ミデン)の人間であることは間違いないでしょう。

過去にも近界民(ネイバー)と接触して自ら連れて行ってくれと頼んで近界(ネイバーフッド)へ渡った例もありますから調べてみる価値はあると思います。

もちろん自分の意思で渡ったとしても帰国したいのに帰国できないでいる可能性もありますし、現地で暮らすとしても当該人物の情報は必要です。

場合によっては生活支援や玄界(ミデン)にいる家族や友人への連絡もすべきだと考えます。

この国の名前は「ミストフォロス」で、傭兵を育てて各国に派遣することを主たる産業としているのでボーダーの平和推進のやり方を否定しているにちがいないとのこと。

だからボーダーの人間だということを堂々と名乗って入国することは少々危険かもしれません。

ボーダー単独で潜入調査を行うよりもキオンのベテランを頼るということも選択肢のひとつです。

ミストフォロスの詳しいことも聞けますから、あなたたちが次の遠征から帰って来たらできるだけ早くテスタ閣下と話をしてください。

近界(ネイバーフッド)の全体像についてはキオンですらまだ把握していないのですから、できるだけリスクを減らすためには単独での行動は避けることが重要です。

エウクラートンは同盟国である玄界(ミデン)に対して支援を惜しみません。

何でも頼ってくれていいですからね、必要があれば連絡をください。

 

任務で忙しいからといって健康を害するようなことはしてはダメですよ。

あなたはB級ランク戦の対策に各隊の情報を調べるためといって深夜まで起きていたくらいですから。

わたしが声をかけず放っておいたら徹夜してしまったかもしれないくらい夢中になる性格だということをわたしは知っています。

ユーマくんたちもあなたのことを頼りにしているのですから、くれぐれも常に心身ともに健康でいてください。

 

 

◆◆◆

 

 

【三雲修からツグミ・ジン・オーラクルへの手紙】

 

新しい情報をありがとうございます。

レプリカの軌道配置図で位置を確認したところ、ミストフォロスはあと約200日後に玄界(ミデン)との距離が最短になるので、それを考慮に入れて遠征計画を立てることにします。

そこでぼくたちは計画を少し変更して遠征を行い、その間に別動隊がキオンへ赴いて詳しい情報収集をすることにしました。

現在の総合外交政策局はツグミさんのいた頃よりも規模が拡大していて、並行して複数のプロジェクトを進めることができるのです。

ぼくたち元玉狛第2のAグループ、元風間隊のBグループ、そして元三輪隊の三輪さんと米屋さんに緑川を加えたCグループがあって、それに麟児さんとテオさんというベテラン諜報員がサポートする形になり、内容によって単独だったり複数のグループで行うなど効率的にやっています。

今回の遠征はBグループにテオさんが加わってレプリカが同行してくれるので彼らに任せてしまって大丈夫だと思いますので、Aグループのぼくたちと麟児さんでミストフォロスの件を進めます。

今ならキオンとの距離も近いですのですぐに行こうということになりました。

往路でエウクラートンへ寄りますので、その時に宗一くんの顔を見せてください。

楽しみにしています。

 

 

◆◆◆

 

 

【城戸正宗からツグミ・ジン・オーラクルへの手紙】

 

手紙ありがとう。

おまえだけでなく迅と宗一も元気にしているようでなによりだ。

エウクラートンでの暮らしは安定していて自分の理想の国を目指して頑張っているとのこと、それがなによりもの朗報である。

おまえたちに心配をかけるつもりはないのだが報告はしておく。

今月9日夕方に某地方でマグニチュード7.5、最大震度7という巨大地震とそれに伴う津波によって多くの被害が出てしまった。

現在のところ死者と行方不明者が1000人を超えていて、第一次近界民(ネイバー)侵攻以来の大災害となっている。

三門市は震源からだいぶ離れているために震度3の揺れを観測しただけで被害は一切ないので安心していい。

そして自衛隊や全国のレスキュー隊が集結して人命救助や避難支援などを行っていて、三門市からは例の木崎を中心とした「トリガー部隊」が現地で活動をしている。

「トリガー部隊」というのはトリオン体を使用したレスキュー隊自体がまだ試行段階なので名称も正式なものではない。

いずれ正式名称が決まるだろうが、ひとまずそれはどうでもいい。

木崎が所属する三門特別救助隊の6人が初めて三門市外でトリオン体を使用した活動を行っているのだが、特区外での活動だというのに地震の翌日午前には現地に到着して活動開始したというのだから驚くべきことだ。

それも大迫先生が総理官邸に駆け込んで直談判してくれたおかげだという。

大迫先生は総理経験はないものの数十年にも及ぶ与党幹部でご意見番とも言われている方だから、こういう非常時に大いに力を発揮してくれるのだ。

トリオン体を使用しているおかげで通常のレスキュー隊員でも危険だという場所での活動も可能なだけでなく重機を使用しなければならないケースでも隊員だけでそれ以上の結果を出している。

三門市でも火災現場で逃げ遅れた要救助者を救出する際に特別な装備をせずに突入できるから迅速に救出ができるし、木崎や特別に許可された隊員には「グラスホッパー」や「スパイダー」などの非攻撃用トリガーをセットしているので高所での活動もこれまでに比べて圧倒的に早まっている。

そんな力を災害現場でも発揮していて、多くの被災者の命を救っているそうだ。

政府も木崎たちの活動を高く評価していて、人命救助等のトリガー使用について本気で考え始めていると大迫先生から聞かされた。

トリガーの平和的利用は大賛成だが、それが悪意ある者によって不正使用されることを恐れているため今のところは管理の厳しい特区内での使用に限定されてしまうのは仕方がない。

しかし今回の地震は結果次第でトリガー使用の範囲が大きく変わる可能性を生んだ。

特に自衛隊と警察がボーダーで使用している銃手(ガンナー)用トリガーに興味を持っていて、防衛省と警察庁からボーダーに問い合わせが来ていると二宮から報告があった。

彼が総司令官なのだから当然であるが彼にすべてを押し付けるのは不憫なので私が対応することにした。

現役を離れたといってもまだまだやることがたくさんあってのんびりとはできそうにない。

だが近界民(ネイバー)の技術が玄界(ミデン)の人間を救い、玄界(ミデン)の技術が近界民(ネイバー)の生活向上に役立つということがとても嬉しい。

有吾や織羽、最上と共にボーダーを立ち上げた時の理想が二十数年を経てようやく叶うのだから感慨無量で、今は亡き盟友3人に胸を張って報告できるというものだ。

正直なことを言うと私はアリステラ遠征で生き残ってしまったことを後悔した。

最上が生き残って私が死ぬべきだったのではないかとさえ考えたこともある。

たしかにボーダーが新体制に移行してからの数年は苦労の連続で自分の本心を偽ってでも進まなければならないこともあったが、今はこうして心静かに若者たちが明るい未来に向かって進んでいる姿を見て、彼らを応援できることがなによりも嬉しいと思える。

忍田と林藤も同じ気持ちらしく、最上たちの月命日には忍田の家に集まって昔の思い出話をし、若い頃のように未来を語り合っているよ。

今となっては昔の苦労を分かち合えるのは彼らだけになってしまったからな。

 

ひとまずこちらの様子の報告だ。

私たちは私たちでやるべきことをやっているし人生を楽しんでもいる。

おまえたちも自分のやりたいことをやれ。

そして納得してから帰って来い。

私たちはいつでもおまえたちを待っているからな。

 

 

◆◆◆

 

 

【ツグミ・ジン・オーラクルから城戸正宗への手紙】

 

お手紙ありがとうございます。

大きな地震があったということを知って驚きました。

でも城戸さんたちを含め三門市のみなさんには影響がなかったとのことで安堵しています。

日本は地震が多い国ですし、季節によっては大雨や台風などの災害も発生するのですから人命救助という仕事はとても重要なものです。

しかし命の危険のある要救助者を救うためには隊員も危険な状態になるのは自明の理。

いくら身体を鍛えているといっても生身では限界があります。

それがトリオン体を使用することでリスクがずっと減るわけですからいずれ災害派遣には必須の装備となるでしょう。

人がすべて善人であればすぐにでも全国の警察や消防、自衛隊などに配備されるものなのに愚かな者たちによってそれが叶わないとは残念なことです。

その点で近界(ネイバーフッド)の国々には天災というものがありませんから生活の上で不安はありません。

ただ(マザー)トリガーが健全に稼働していればという絶対的な条件があって、それがわたしの双肩にかかっているのです。

ひとつの国にひとりの女王または巫女もしくは神官と呼ばれる女性がいて、彼女が全責任を負うことで国民すべての平穏な暮らしを保証される。

「最大多数の最大幸福」のためにたったひとりの人間に全責任を負わせることが正しいのかそうでないのか…当事者であるわたしにもまだわかりません。

個人の自由や幸福を犠牲にして大勢の人間のために生きる女性たち。

わたしはいくつもの国の「彼女たち」に会ってきました。

それぞれ国の事情が違いますから彼女たちの思いや置かれた立場は異なりますけれど、共通しているのは誰もがその役目を放り出して逃げようとはしないことです。

不自由な暮らしを強いられるのですから多少ワガママを言ったり家臣たちを困らせることもありますが、自分の立場をしっかりと弁えているようです。

わたし自身が(マザー)トリガーとなった初代エウクラートン王の王妃と心を通わせて1万年という長い時間を()()()彼女の思いを共有すると自分の役目を果たそうという気になりました。

近界(ネイバーフッド)玄界(ミデン)という2つの世界はそれぞれ一長一短あります。

だからこそ双方の世界が良い意味で競い合って生活レベルをアップする交流を進めるべきなのです。

そう、ボーダーの防衛隊員たちが模擬戦を行って自らの戦闘技術を高めていったように。

 

話は変わりますが、ロレッタが7歳になったので玄界(ミデン)における初等教育、つまり小学校で習う教科をわたしが教えることになりました。

女王の仕事が早朝に(マザー)トリガーの操作を行うだけで、それ以外に特別な仕事がなければ暇を持て余してしまうくらいですから。

エウクラートンの()()はわたしの手を離れて政府の若手 ── 市井に埋もれていた才能ある若者を悠一さんがスカウトしてきた ── が張り切ってやってくれています。

彼らのやる気はわたしのものよりずっと強いもので、やはり「自分の国」という意識があるからでしょう。

現在のところは王都の上下水道の整備と郊外に自然由来エネルギーの大型発電施設の建設を主に進めていて、前者が約70パーセントで後者が約45パーセントの進捗率です。

三門市で研修をしてきた技術者(エンジニア)が中心となって進めてくれていますが、玄界(ミデン)の既存のものを近界(ネイバーフッド)の環境やシステムに合わせることに苦労しているみたいなので時間は少々かかりそうです。

それでもボーダーが近界民(ネイバー)武器(トリガー)を使いやすいように改良し、緊急脱出(ベイルアウト)システムや複数の武器(トリガー)の組み合わせによって使用者にとって最適なものとしたように、近界民(ネイバー)技術者(エンジニア)も試行錯誤しているのです。

トリオン万能の世界にトリオンを使わない技術を導入するのですから難しいに決まっています。

だから長い目で見守ろうと思います。

ロレッタも今は掛け算九九を覚えようとして頑張っています。

王族の人間に必要のないものではありますが、知識は人が生きていく上での武器となるものですから覚えることに意味はあると考えたからです。

神殿の中で過ごすことも次期女王候補として有力な彼女には重要なことです。

(マザー)トリガーと同じ空間にいることで神殿内に漂うトリオンの粒子を体内に吸収するのですが、それがトリオン器官の成長に良い効果を促すらしいのです。

それに(マザー)トリガーには初代エウクラートンの王妃の魂が()()()いますから、()()に気に入られることは好ましいことだとわたしは思うのです。

わたしはそれを「祝福」と呼び、ロレッタに将来わたしの意思を継ぐ女王になってもらおうと()()()ているともいえるのですけど。

勉強することを彼女は遊びのひとつだと考えていて嫌がらないので良い傾向だと考えています。

近いうちに教員になりたいという希望を持つ人たちのために教員育成の学校を開く予定です。

学ぶことを楽しいと感じてくれる子供と将来を託す子供を導きたいという若者がいるこの国には未来があります。

そう思いませんか?

わたし自身が勉強は嫌いではなくむしろ知識欲を満たすために人の何倍もの本を読んだくらいですから、学びたい人には何でも惜しみなく与えようと思います。

 

最後にお願いがあります。

オサムくんたちが行方不明者市民の捜索を頑張っていることは手紙で知らせてもらっているのですが、彼ら自身のプライベートを犠牲にしていないか気になります。

もし無理や無茶なことをしているようであれば城戸さんから忠告してほしいのです。

わたしが総合外交政策局長だった頃に近界(ネイバーフッド)へ行ってばかりでしたが、それは自分の願いを叶えるために最短距離にあると考えてやっていたことです。

でも彼らにとっての総合外交政策局の仕事はやりたいこととやるべきことが一致しただけであって、それが目的ではないはずなのです。

彼らにも家族や親しい友人たちと過ごすという穏やかな時間が必要ですから、あまり根を詰めているように感じたら少し休ませてください。

城戸さんにはそれができる権利があり義務でもあるのですから。

もちろんあなたご自身もお身体ご自愛くださいませ。

 

 

 

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