ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

718 / 721


 

 

【レクス・エリンからツグミ・ジン・オーラクルへの手紙】

 

ツグミ、お元気にしていますか?

ボクは玄界(ミデン)のみなさんに大事にされて元気でやっています。

今日は嬉しい報告です。

ボクは三門市立大学の医学部に合格しました。

8歳の時に三門市へやって来て、医師になりたいというボクの意思を尊重してツグミをはじめとした大勢の玄界(ミデン)の人たちがいろいろと便宜を図って勉強をさせてくれたおかげです。

アフトにいる両親やヒュースと離れ離れに暮らすのは寂しいですが、ボクが自分で決めたことですから医師になるまでは絶対にくじけません。

それに医師になるのはとても大変なことだということですので、今まで以上に勉強を頑張ろうと改めて心に決めました。

ツグミたちがこちらへ帰って来る頃にはボクはまだ勉強中ですから医師になった姿を自慢できないのが残念ですが、医師になってアフトに帰る時にはツグミに見送ってもらえるはずです。

ツグミたちがエウクラートンへ発った後、エウクラートンだけでなくいろいろな国から留学生が来るようになりました。

ボクのように医師になりたい人、玄界(ミデン)の進んだ技術を祖国で活かしたいと考える技術者(エンジニア)、他にも農業や酪農など玄界(ミデン)のやり方を学びたい人たちがいます。

彼らは弓手町のレジデンス弓手町の部屋で共同生活をして勉強をしているのですが、その様子はボクがツグミたちと一緒に暮らしていた時みたいで楽しそうです。

三門市内も近界民(ネイバー)を受け入れる態勢が整い、普通に玄界(ミデン)の外国人留学生と同じように勉強できる環境になっています。

たしかに近界民(ネイバー)が三門市民に対して酷いことをした事実は変えようがありませんが、ボクたちのように玄界(ミデン)の人と仲良くしたいとか教えを乞いたいという近界民(ネイバー)もいるのだと知ってもらえたのかなと感じています。

 

先月の終わり頃にアフトの両親から手紙が届きました。

ハイレイン陛下の治世は過去にないほど安定して国民が安らかに暮らしているとのことです。

軍事大国の名で近界(ネイバーフッド)の国々を力によって支配しようとしていたアフトクラトルですが、現在は対外的にはその「悪名」を利用しつつ内政は国民本位の政策を進めていて支持率はかつての王が成しえなかったほど高くなっているそうです。

父は陛下のことをこう言っていました。

陛下は元々家族との穏やかな日常を好む心優しい青年だが、国内は4つの有力な領主が覇権を争っていて民がその巻き添えを食っている。

それを払拭するには自分が王になって国の構造を変えるしかないと考え、醜い権力争いの中に身を投じた。

自分は陛下のそんな気持ちを知っていて配下として忠誠を誓ったから本心では亡命はしたくなかった。

しかしそうしなければ家族を守ることはできず、ボーダーの力を借りればアフトに変革をもたらすことができるのではないかと考えた。

そしてハイレイン陛下が国王となりボーダーと和解したことでアフトは大きく変わり、民が安心して暮らせる国へと変貌した、と。

父は陛下のことを幼少の頃から知っていましたから、こうなることをずっと期待していたのでしょう。

だからボーダーのみなさんに感謝していて、信頼もしているからこうしてボクを預けているのだと思います。

きっかけはアフト側の蛮行でしたが、それがボーダーのみなさん、特にツグミのおかげで最も好ましい結果になったと思います。

ボクがあなたと初めて出会った時、あなたはボクを否定しなかった。

男の子が女の子の恰好をしていれば誰でも変な子供だと思うというのに、あなたはボクのことを見た目で判断をしなかった。

だからボクはあなたのことを信じることにしたのです。

そして信じて良かったと心から思っています。

これまで受けた御恩を返す方法がボクには見当たりません。

ただ立派な医師になって祖国のために役に立つ人間になることこそが恩返しになるのだと父に言われました。

ボクが頑張れるのはこうした理由があるからです。

 

ツグミがエウクラートンで女王として自分の役目を果たしているようにボクも早く自分で決めた自分の役目を果たしたい。

そのためにも勉強に専念したいと思います。

前にも言われたように無理はしませんから心配しなくてもいいですよ。

一日も早い帰国を楽しみに待っています。

 

 

◆◆◆

 

 

【林藤陽太郎からツグミ・ジン・オーラクルへの手紙】

 

ツグミ、元気にしているか?

おれは元気だ。

4月から高校に通うことになった。

三門市立第一高等学校だ。

ボーダー隊員だからというのではなく堂々と試験を受けて入学したんだぞ、すごいだろ?

おれには生まれついてのトリオン能力と明晰な頭脳、どんな女でも魅了する容姿があるのだから当然だ。

そして高校へ通うようになってもボーダー部に入部するからますます女にモテて困るだろう。

ボーダー部というのは三門市内の中高生の間で超人気になっていて、ボーダー部に入っているというだけで注目される存在なのだ。

前みたいに近界民(ネイバー)と戦うヒーローというのじゃなくて、eスポーツのプレイヤーみたいなカンジで三門市だけでなく全国からも注目されているらしい。

おれは安全安心他人に迷惑をかけないサバイバルゲームだと思っているけどな。

とにかくB級ランク戦や中高対抗の模擬戦をテレビ放映するようになってから普通のスポーツと同じような感覚で見て応援してくれるのだ。

だから入部希望者が多くて、入部できただけでもトリオンエリートって呼ばれて将来も有望視される。

レイジや京介がレスキュー隊員や警察官として活躍していることは全国的に有名になっていて、近いうちにトリオン体を使用した部隊が正式に設立されるというのだから将来が期待される金の卵だって証拠なのだ。

去年の大地震でレイジたちが活躍したことが全国で注目され、世論が政府に対してトリオン体の使用を特区外でも認めることを求める流れになっている。

おれもこのままトリオンエリートでいれば大学進学も就職も思いのままだ、ハハハ。

と言うのは冗談で、おれは自衛隊へ進むつもりでいる。

おれの計画は壮大だぞ。

おれはこのまま学業とボーダー部の両方で結果を出し、そして高校を卒業したら自衛隊に入る。

そして現場でトリオン体を使用した部隊に入って経験者として周囲の人間を認めさせる。

現場で目立つ活躍をすることで影響力や発信力を身に付け、トリオン体やトリガーを戦争には絶対に使わせない。

今のボーダーの一番の悩みはトリガーの使用を広めたいのにそれを悪用しようとする連中がいることだ。

特に権力を持つヤツラの中には戦争を利用して利益を貪る輩と繋がっている糞虫がいるのは明らかで、そういう連中からトリガーを守るために組織の中におれは飛び込んでいくのだ。

そういう関係で城戸さんを政界へ送り込もうとしている人たちがいる。

代議士の大迫先生が自分の後継者として選んだという触れ込みで、城戸さんも引き受けたらしい。

トリガー使用を利益優先の連中に勝手にさせないために政界入りして内部から目を光らせようということなのだろうが、城戸さんもまだしばらくはのんびりできそうにない。

早く楽させてあげたいと思うなら早く帰って来いよ、ツグミ。

 

 

◆◆◆

 

 

【ツグミ・ジン・オーラクルから林藤匠への手紙】

 

林藤さん、ご無沙汰しております。

お元気にしていますか?

先日の手紙でレクスくんとヨータローの成長ぶりに目を見張りました。

レクスくんが医学部に進学し、ヨータローは自衛隊に入るのだと意気込んでいるとのこと、わたしの弟たちも立派に自分の道を歩いているのだと感じた次第です。

ですがそれがすべて林藤さんのおかげなのだと思うと感謝の手紙を書かずにいられませんでした。

特にレクスくんの場合はわたしが面倒をみるからといってエリン夫妻から預かったというのに総合外交政策局の仕事で近界(ネイバーフッド)にいる時間が長くなってしまい、玉狛支部で預かってもらうことになりました。

時々他に手段はなかったのか振り返ることがあります。

別に後悔をしているのではなく、ただあの時に最善であったと判断したこともそれは自分の主観であり、今なら客観的に物事を見ることができるからです。

でもレクスくんの手紙を読んで無用なことだとわかりました。

恵まれた環境でやりたいことを全力でやったという感じが溢れていた内容で、わたしが思っていたよりも三門市での暮らしを楽しんでくれていたのだと安堵しています。

林藤さんは普段は特に何かをしてくれるというのではなく、困ったことや悩みごとがあった時には城戸さんや真史叔父さんよりも適切な答えを与えてくれました。

だから玉狛支部での暮らしが居心地良すぎて仲間から信頼を失ってしまうと居場所がなくなると怯えてしまったのです。

今にして思えばくだらないことで悩んでいたものです。

それはともかく林藤さんがいてくれるからこそみんなが玉狛に集まり、安心して暮らせるのだということは確かです。

旧玉狛支部は旧ボーダー時代の本部基地であり、わたしたちの心の拠り所というか故郷や実家のような意味を持つ場所です。

現在では総合外交政策局の事務局として使われているというのは、ボーダー創設時の理念を体現しています。

そしてオサムくんたちが近界民(ネイバー)との平和的交流を夢物語ではなく現実のものであると証明してくれている。

以前に唐沢部長がオサムくんのことをヒーローだと言って高く評価をしていましたが、本当に彼は三門市のヒーローになりましたね。

かつてのわたしの存在が忘れ去られてしまうほど彼は活躍しています。

でもあまり根を詰めすぎると身体を壊してしまうので必要があれば休ませてください。

 

林藤さんも若くはないのですから無理をせずにこれまでのようにマイペースで生きてください。

それがわたしたち玉狛の子供たちにとって一番安心できることなのですから。

 

 

◆◆◆

 

 

【ツグミ・ジン・オーラクルから忍田真史への手紙】

 

真史叔父さん、今日はとても良いお知らせをします。

先日ロレッタが8歳の誕生日を迎えてお祝いをした時にトリオン能力の測定を行いました。

するとボーダーの基準で「10」と順調にトリオン能力が上がってきていました。

そこで神殿で(マザー)トリガーとの「相性」を確認するための儀式をしました。

以前にわたしが初めてエウクラートンへ行った時にリベラート殿下が自分の孫として認め、女王としての素質があるかどうか確かめたアレです。

(マザー)トリガーの操作ユニットには直径が30センチくらいの水晶のような真球があり、ロレッタがそれを両手で包み込むようにかざすとその球体は強い光を発しました。

つまり彼女には女王としての素質があるということで、それはすなわち(マザー)トリガーから女王となることを許されたという意味です。

これで遅くとも彼女が14歳になればわたしは女王の役目から解放されます。

また3歳のアリーチェもトリオン能力の測定をしたところ彼女は「4」でした。

この数値なら順調に成長すれば彼女も女王になる素質はあるということです。

ふたりとも健やかに育っていますので、ようやくゴールが見えたという感じで安堵しています。

女王だからといって神殿の中に閉じ込められるようなことはないと理解しているのでロレッタは女王になることを嫌がってはいません。

むしろわたしが国をより良いものに変えようとしている姿を見て女王が単なる(マザー)トリガーの操作だけをやる退屈なものではないので興味を示してくれているくらいです。

ただし彼女はまだ子供で世の中のことをほとんど知らないので単純にわたしを尊敬していて自分もそうありたいと考えているだけだと思うのです。

だからわたしは悠一さんに頼んで彼女に「世界」を見てもらおうと考えています。

庶民の生活がどんなものかを知り、彼らが自分の役目を果たしているからこそ国が回っていくのであり、彼らの生活を保障するのが女王の仕事なのだと理解してもらいたいのです。

その上で女王になると決めたなら彼女は良い女王になるでしょう。

わたしも庶民の生活を知っているから女王が(マザー)トリガーの操作だけをやっていればいいなどと考えず、国民の生活レベルの向上を目指していろいろ試行錯誤するのです。

物事を一面からではなく多面的に見ることは重要です。

これは彼女の母親であるイレーネ妃殿下では教えられないことですからね。

もっとも原則として彼女には女王にならない道はありません。

嫌であっても逃れられない。

もし彼女が不適格となれば次の候補のアリーチェに番が回っていくのですが、本人がやりたくないというだけではダメなのです。

わたしが女王を引き受ける時の条件に「次の女王となる人間が決まったら彼女が必ず引き受けること」というものがあります。

ロレッタには関係なく大人たちの勝手な約束ではありますが、これは先代女王のエレナ陛下とわたしの正式な契約ですから反古にはできません。

そしてわたしが契約不履行を理由に女王を辞めて玄界(ミデン)へ帰ってしまったら、否が応でもロレッタは女王にさせられることになるので結果は同じです。

女王が不在となると(マザー)トリガーを操作する人間がいないので国土の維持のためのトリオンの配分ができなくなり、それが長く続けば(マザー)トリガーがあって「神」の寿命が残っていても健全な状態とは言えないので国が荒れてしまいます。

かつてわたしは(マザー)トリガーを操作して特定の割合でトリオンを抽出するよう固定してしまえば女王や巫女と呼ばれる女性が不要になると考えたことがありました。

でも実際に自分が女王になってみるとトリオンの抽出にはその時々に合わせて微調整する必要があり、一時的ですけど大量のトリオンが必要となるケースがあることを身をもって知りました。

だから女王とは必ず必要な存在であり、それゆえに周りから大切にされるのです。

ロレッタの意思を無視するのですから可哀想だとも思えるのですが、これが近界(ネイバーフッド)(ことわり)なのだから仕方がないと諦めるしかありません。

もしかしたら王族の人間が将来の女王となる少女を外界から隔離していたのは「世の中」を知らないままでいた方が本人のためだと考えたからなのかもしれません。

だとするとわたしがロレッタに外の世界を見せることは間違っていることになりますが、わたしは隠し通すことが本人に()()()ことだとは思いません。

女王になるかならないかの最終判断は本人にあり、大人たちにとって都合の良い情報しか与えずに答えを出させる方が間違っていると思うからです。

 

とにかくこれで一段階進展したことは確かです。

ただしほんのわずかな出来事でもそれが大きな影響を与えることになり未来を大きく変えてしまうこともあって確定はしていません。

でもだから人間の強い意思が神の定めた運命というものをひっくり返すこともできる。

わたしはそう信じて自分の望む未来を目指しているのです。

再び玄界(ミデン)で家族や友人たちと穏やかな日々を過ごすことができるように、と。

ですから真史叔父さんもお元気でいてくださいね。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。