ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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Conclusion


 

 

 

ツグミたちは三門スマートシティ内に戸建ての家を用意してもらい、そこで忍田を含めて4人で新しい「日常」を始めた。

彼女たちが帰国するタイミングは城戸と忍田と修の3人にしか知らせなかったのだが、エウクラートンからの艇が到着した時に国際港には彼らだけでなくボーダーからは林藤を含む総合外交政策局メンバーと総司令官の二宮、本部長の東、さらに平日の午前中だというのにレクスと陽太郎の姿もあった。

それだけ彼女たちの帰国を待ち切れなかったのだろう。

だから新生活が始まると「迅家」には毎日のように来客があって、彼女たちの賑やかな声がしばらく絶えることはなかった。

 

 

エウクラートンの女王の役目を辞したツグミは国家元首から一気に無職の庶民になってしまった。

しばらく働かなくても家族4人で暮らしていくことのできる蓄えはあるが、無職という響きが嫌だとツグミは言う。

それに就職活動を始める前にやるべきことをやっておかないといけない。

ツグミと迅は旧ボーダー時代から活躍していた元A級クラスの防衛隊員で、かつて敵であった近界民(ネイバー)玄界(ミデン)の良き隣人(ネイバー)へと変えた中心人物であり、10年以上も近界(ネイバーフッド)近界民(ネイバー)と共に暮らしていた彼女たちが三門市に戻って来ていると知ればマスコミが飛びつかないはずがない。

下手に隠しても見付かった時に大騒ぎになるのは目に見えているので、ボーダー隊員や三門市民向けの帰国報告会を開くということにしてその時にマスコミも招待することにした。

ツグミと迅がエウクラートンへ行くことは一般人にも公になっていて、その理由は「ボーダーを辞めて個人として近界(ネイバーフッド)へ赴き、玄界(ミデン)近界(ネイバーフッド)の交流の近界(ネイバーフッド)の窓口となる」というものであった。

ツグミが近界民(ネイバー)との混血(ハーフ)でエウクラートンでは女王であったなんてことが公になれば、悪意ある者によってこれまでのボーダーでの功績はすべて茶番であったというデマを広められてしまう恐れがある。

そこで同盟国の中でも最も親しいエウクラートンのリベラートがツグミと迅のことを気に入って、近界(ネイバーフッド)における拠点を提供してくれることになったのでふたりは今後エウクラートン王家の世話になっていた…ということになっている。

さらにツグミと迅はエウクラートン政府の外交省の相談役と補佐官という仕事をしながらボーダーとの繋ぎ役を行い、当初は10年の契約であったが最終的に12年半という長期の滞在となったのは彼女たちがそれだけエウクラートンの国民に必要とされていたからであると発表する予定だ。

ツグミはエウクラートンで暇を持て余すと自分の経験を手記として執筆しており、ボーダー編とエウクラートン編という2冊の書籍の出版を予定していて、すでに書き終えているボーダー編をどこの出版社から出そうかと唐沢に相談をしている。

もちろん公開できない部分は隠しているが、彼女が両親をとある凶悪な()()で亡くして親戚に引き取られたことや当時から得体の知れない怪物 ── トリオン兵に狙われていたことで当時のボーダーに身柄の保護をされてそのまま入隊したという「公式なボーダーの歴史」に沿ったストーリーから始まる。

11歳の初陣が第一次近界民(ネイバー)侵攻で、半年後にボーダーが新体制で発足するまでの出来事や、まだ小学6年であったことから学校とボーダーの両立に苦労したことなどローティーン隊員の実態についても描かれている。

そして仲間が増え、技術者(エンジニア)が新しい武器(トリガー)の開発だけでなく緊急脱出(ベイルアウト)システムの導入によって子供であっても安全に戦うことができるようにしてくれたことに感謝しているのだと力強く述べている。

そして新ボーダー創世期ともいえる4年を経てアフトクラトルによる大規模侵攻が発生。

それがきっかけとなりボーダーが近界(ネイバーフッド)に進出して、そこで近界民(ネイバー)が人類であることを知った。

同じ人間なら対話によって問題解決が図れるのではないかと考えたツグミがボーダー上層部を説得して対近界民(ネイバー)交渉窓口として総合外交政策局を立ち上げ、彼女自身が初代局長となる。

以来彼女を中心として若手の行動部隊が第一次近界民(ネイバー)侵攻の際の拉致被害者市民救出に専念して、途中で後輩の修に局長の座を譲ることとなり最終的には無事に全員を生還させた。

これだけの内容であるから彼女の半生は非常にドラマチックで、本人の執筆による自叙伝ともなれば三門市内の若者を中心に飛びつくに決まっているのだ。

それに彼女自身が子供の頃から読書好きであるから、どんな物語構成が人を惹きつけるか、またどんな言葉が読者の心に響くのかを熟知している。

帰国報告会で手記の出版を宣伝することも忘れず、三門ケーブルテレビの全面支援のもとで報告会は行われた。

三門市民会館の1200人収容の大ホールが立ち見になるほどの観客が集まり、マスコミ関係者には午後から別途行われるという盛況ぶり。

ツグミたちがボーダーで活躍していた頃から10年以上経ってもまだ本人の口から直接近界民(ネイバー)近界(ネイバーフッド)のことを聞きたいという市民がそれほど多かったということになる。

 

 

ツグミたちの帰国からしばらくはマスコミ関係者のインタビューやテレビ出演などいろいろ忙しかったが、ツグミの手記第1部「わたしとボーダーと闘いの日々」が書店の店先に並ぶとそれはさらに加速した。

経験者のみが知る事実をわかりやすい言葉と語りかけるような文章が読者の心を掴んだようで、三門市内の書店では発売当日にすべて売り切れてしまう。

自費出版で初版は1000部とはいえたった1日で売れてしまったということは驚くべきことだ。

本人も世話になった人や関係者に配りたいと考えていたのだが想定以上の売れ行きとなったので即日1万冊の増刷が決定した。

それでも全国展開をすれば足りなくなることは明らかで、第2部「近界(ネイバーフッド)の友人たちと共に歩む」は初版を1万冊にすることで計画を進めることになる。

さらに三門市外での講演会をいくつも依頼され、就職活動どころではなくなってしまっていた。

 

 

迅はというと城戸の私設秘書を勤めることとなり、永田町と三門市を行ったり来たりしている。

本人曰く「政治なんてものは全然わからないが体力的には十分だから、城戸さんの手伝いができるのは楽しい」ということだ。

昔から城戸のためにいろいろ「暗躍」していた彼にはちょうどいい仕事なのかもしれない。

 

 

宗一は学校の人気者となっていた。

なにしろ公称「近界(ネイバーフッド)で生まれ育った純粋な玄界(ミデン)の人間」であるから、同級生だけでなく上級生からも一目置かれた存在なのだ。

7月に帰国したのはいいがすぐに夏休みに入ってしまうため学校は新学期になってからということで9月に小学2年生として編入したのだが、その時の挨拶の仕草が貴族の子女として身についていたエレガントなものだったことで「ドラマに出てくる貴族みたいでカッコイイ!」と人気者になったらしい。

特に女子受けが良く、さらにエウクラートンにいる時に正規の訓練を受けたトリガー使いでもあるから男子からも人気が高い。

三門市内の子供たちの多くが中学に入学したら「ボーダー部」に入部したいと考えていて、小学生でトリガーを使えるということはボーダーからスカウトされた防衛隊員しかいないのだから当然であろう。

おかげでイジメの心配もなく、大勢の同世代の子供たちの中にすんなり溶け込むことができたのは本人の気質によるものだと思われる。

自分は自分で他人は他人であるという認識を持っていることで自分と他人を比べることはなく、それぞれの持ち味を尊重できる子供になったのは両親の教育としつけのおかげで、誰とでも上手く付き合っていくことができるようになったのは宗一自身が大勢の人に囲まれていることが好きだからであろう。

最上宗一がそうであったように迅宗一も多くの仲間に囲まれて信頼される大人になるだろうとツグミと迅だけでなく城戸や忍田もそう考えている。

 

 

◆◆◆

 

 

総合外交政策局が積極的に近界民(ネイバー)との友好的外交を進めているおかげで三門市民の間でも「近界民(ネイバー)は敵ではなく友人である」という考え方が広まっていった。

第一次近界民(ネイバー)侵攻から15年以上も経つとその悲劇の過去の記憶は薄れ、人々は希望のある未来を期待して進んでいるのだ。

もちろん深い傷を負った人々は()()を忘れることはできないが、過去を抱えたままでは毎日が辛すぎるからということで神様が少しずつ心の痛みを和らげてくれるのだとツグミは考えている。

それに三門市 ── トリガー特区から消えたものがあるからだ。

三門市内の小学生全員に換装専用トリガーを貸し出して登下校時にトリオン体に換装することを義務付けたことで交通事故による死傷者及び誘拐事件やわいせつ事件など子供が被害者となる犯罪がゼロとなった。

当初は子供にトリガーを持たせることが新たな犯罪を誘発するのではないかと危ぶまれたが、登録した本人以外には起動できない厳重なシステムによって悪用される要素がなくなり子供たちが安心して使用できることになったのだ。

まだ法整備が完全ではないので特区内での使用に限られ、他のトリガーと同じで設定されたエリア内から持ち出されると内部のチップが自動的に破壊されるようになっているのでトリガーの技術が外部に漏れる事件はまだ起きてない。

また市内の消防と警察にも同様の換装専用トリガーが配備され、緊急時には個人の判断での使用が認められた。

これによって火災では防火服やヘルメットなどの装備をせずトリガーひとつで一瞬にしてトリオン体に換装、ただちに消火や人命救助を行うことができる。

肉体強化もされるから瓦礫等を除去するのに重機が不要となってそれだけ早く要救助者を救出できたというケースが増えた。

おまけに通常の防火装備は約9キログラムで、有害な煙から身を守る空気呼吸器がプラス約11キログラム、さらに消火のためのホースやノズルといった用具が約18キログラムということだからレイジのような「冷静な筋肉」でなければ務まらない仕事だが、トリガーがあればこれらの装備が一部不要となって消防士やレスキュー隊員の門戸が大きく開くことになる。

警察も通常携帯している拳銃を簡易トリオン銃にすることで容疑者への威嚇はもちろんのこと行動を停止させるために発砲しても気絶するだけで済むから間違って死なせてしまうこともないし、無関係な民間人への流れ弾の心配もせず安心して発砲できるようになったという。

これにより火災での死傷者は激減し、窃盗や傷害などの発生率は下がって犯罪者の検挙率は格段に上がったということが数値としてはっきり表れている。

そうなるとトリガーの全国展開が切望されるのは当然で、「トリガー基本法(仮)」は法律案の原案が完成して内閣法制局の審査が終わったところなので、次は閣議に進む段階となっている。

この中心となる人物が城戸であった。

日本で最もトリガーのことについて詳しい政治家が彼であることは疑いようがないのだから。

「トリガー基本法(仮)」は誰でもトリガーを使用できるようにするため罰則規定を非常に重くする内容になっていて、「銃砲刀剣類所持等取締法」に準じる罰則を予定しているそうだ。

民間企業におけるトリガー使用についてはまずボーダーのスポンサーであった企業に限定して試用期間を設け、問題がないとなれば公共の福祉に関わる企業・団体から順次許可を出していくということになるだろうとのこと。

だから「ボーダー部」に所属する「トリオンエリート」は将来が期待されていて売り手市場となることは明らかだ。

もっとも武器(トリガー)を使わずトリオン体に換装するだけなら修がボーダーに入隊した時点の「2」レベルのトリオンであっても十分なのだが、やはりトリオン能力が高い人間の方が評価されるのは無理もない。

したがって世間の風潮がそうなるとトリオンを多く含んだ作物が高価格で取引されることになり、近い未来には近界(ネイバーフッド)で生産された作物が多く輸入されるようになるだろう。

玄界(ミデン)では三門市だけでなく全世界にトリオンとトリガーを取り入れた文明が広まっていくことになるが、それが一部の人間の金儲けの手段や戦争の道具に使われてはならない。

これから先、ボーダーは近界民(ネイバー)と戦うのではなく近界民(ネイバー)の文明を悪用する玄界(ミデン)の人間 ── 同胞たちと戦うことになるかもしれない。

それを前提としてボーダーが界境防衛機関の部分を外して「ボーダー」を正式名称とすることにした。

界境防衛の役目はほぼ終わったのだから不要であるという意見が上がったためだ。

「界境」という名称がなくなったのに「界境(ボーダー)」を名乗るのは滑稽だが、ボーダーという名は玄界(ミデン)の人間にとっての希望と安心の象徴であり、創設時の城戸と最上、有吾と織羽たちの思いを忘れないために残したのは当然のことである。

それに名前が変わったところでそこに集まる者たちの思いは永久に変わらないのだから。

 

 

◆◆◆

 

 

その頃、玄界(ミデン)にプラーヌスという乱星国家が近付きつつあった。

現状でその存在を知る者はないが、あと約半年で玄界(ミデン)に最接近することは事実である。

乱星国家とは国が創造された時には決まった軌道を持つ惑星国家であったのだが、近界(ネイバーフッド)(ことわり)に反する行為をしたことで決まった軌道を持たず近界(ネイバーフッド)を彷徨う国となってしまった国のことをそう呼ぶ。

(ことわり)に反するといっても具体的に何をしたのかはわからないが、(マザー)トリガーの機能が正常に働かなくなってしまったために軌道を維持できなくなったのだろうという噂レベルの情報が広まっている。

だから惑星国家の近界民(ネイバー)からすると乱星国家とは異端であるがゆえに交流する国は少ないため詳しいことを知る者は少ないのだ。

そんな国がのひとつが玄界(ミデン)に近付いているという。

近界(ネイバーフッド)には近界民(ネイバー)ですら知らない謎の国が存在し、万能だと思われているトリオンやトリガーの技術(テクノロジー)が通用しない文明があるかもしれないなど誰も想像もしていない。

はたしてこの国が玄界(ミデン)にとって敵となるのか友人になるのか…

それは半年後にわかるのだが、ボーダーによって与えられた平和に浮かれている玄界(ミデン)の人間が知る由もない。

 

 

そして乱星国家(プラーヌス)が近付きつつある中、その国から玄界(ミデン)への亡命を希望している若い夫婦と幼い息子という近界民(ネイバー)の3人家族が乗った小型艇が三門市の国際港に姿を現した。

正体不明の病に侵された妻の命を救いたくて夫は家族と共に祖国を捨てる決心をしたのだ。

彼らが()()ボーダーと接触することによってツグミたちは「近界(ネイバーフッド)(ことわり)から外れた国」の悲劇に遭遇することになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

ワールドトリガー ~ I will fight for you ~     END

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







【あとがき】

2019年から投稿を開始した拙作「ワールドトリガー ~ I will fight for you ~」も約5年3ヶ月という長期連載になるとは想像をしておりませんでしたが無事に完結することができました。
これも読者のみなさんのおかげで、この場を借りて深くお礼申し上げます。

描き始めたきっかけは原作の長期休載で、連載再開とSQ移籍後もなかなか話が進まなかったことで「ならばいっそのことアフト遠征とその先は自分で描いてしまおう」ということにしたのです。
序盤は原作準拠で進めることとし、B級ランク戦が終わった段階でプロットは最後まで出来上がっていたので「アリステラ」や「忍田瑠花」といった第200話以降で明かされた情報は反映されておらず、途中までは原作とほぼ並行してオリ主の物語が描かれていましたが、途中からは完全オリジナルの展開となりました。
原作ではまだ遠征選抜試験の真っ最中ですが、こちらはアフト遠征はもちろんのこと第一次侵攻で拉致された市民の救出も終わっています。
その内容が原作者である葦原先生の構想と同じなのか違うのかはわかりませんが、たぶんまったく違う展開となるでしょう。
これはわたしが「ワールドトリガー」という作品を読んで、その世界観やもしかしたらあるかもしれない「IF」の物語を想像して自分なりのものとして完成させたものだからです。
修や千佳の成長、遊真の寿命、麟児や鳩原の謎の行動、ガロプラとボーダーの共闘関係? など原作ではまだ描かれてはいないが必ず描かれるはずの部分は多く、アフト遠征や拉致被害者市民の捜索や救出など原作内で解決すべきことはたくさんあります。
それを原作者の意思を待たず一個人の考え方で描いてしまったわけですから内容が気に入らないからと途中で離れていった方や最後までお付き合いくださった方といろいろな読者様がいらっしゃることには納得しております。
ただし初期の話を読んだだけで挫折した方にはどういう結末を目指していたのかを知ってからもう一度最後まで読んでいただきたいと思います。
(別に強制しているのではありません)

最後まで読んでいただければわかりますが、主な原作登場人物の成長や未来をきっちりと描き、誰もが幸せになれる「HAPPY END」になっているのはトリガーが人間にとって不幸を招く兵器ではなく、本来は正しい使い方をすることで誰でも幸せになれる道具なのだと考えたからです。
特に修の成長については丁寧に描いたつもりでいます。
トリガー使いとしてはどう足掻いても一流にはなれない彼ですが、防衛隊員でなければいけないという思い込みを取り去れば良い指揮官となって活躍してくれるキャラクターでありました。
だから先輩であるオリ主はアフト遠征など彼の希望を叶えつつも厳しい現実を突きつけて別の道へと導いたのです。
そして修はオリ主の後継者としてトリガー使いではない「三門市民のヒーロー」となりました。

最終話「Conclusion」で正体不明の乱星国家が登場します。
「乱星国家とは近界(ネイバーフッド)(ことわり)から外れた国」と独自の設定にしているのですが、名前とその存在だけを明らかにしたのには理由があります。
拙作を最後まで読んでくださった方には覚えのあるかもしれない国名です。
(オリ主の過去話の中に登場するので忘れてしまっている人が多いでしょうが)

番外編を含めて721話という超大作になりましたが、最後まで読んでくださった読者様に改めて心からの感謝の言葉を申し上げます。
どうもありがとうございました。




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