ワールドトリガー ~ I will fight for you ~ 作:ルーチェ
◆ Yoko’s monologue 5
あの女に敗北し、烏丸さんに嫌われた。
最悪だ…
華に頬を叩かれたのも哀しいけど、あれはアタシも言い過ぎた気がする。
だから仕方がないんだけど、それにしてもあの女のせいで烏丸さんに嫌われたんだから絶対に許さない!
いつか必ずリベンジしてやる。
それも烏丸さんの目の前で辱めてやるんだから。
◆ Tsugumi’s monologue 5
ヨーコがわたしのことを激しく嫌う原因がわからない。
彼女は第一次
キョウスケが言ったように彼女の憎悪の対象がボーダー隊員だと言うなら、わたしひとりにその気持ちをぶつけて鬱憤が晴れるわけがないのだし、なにより自分がボーダーに入るはずがない。
他に何か理由があるのだろうが、わかったところでわたしには彼女のために何もできないし、してやる義理もない。
◆ Yoko’s monologue 6
B級ランク戦の新シリーズがまもなく開幕する。
上位グループに名を連ねているのだ。
上位2
あと少し。
あと少しで遥か高みから嘲笑してやれると思っていたのに、いつでもあの女はアタシの邪魔をする。
今までB級ランク戦になんて興味もなかったあの女が参戦するというんだからムカつく。
それも
まあ、どうせアタシたちのいる場所まで上がって来られるはずないんだから、分をわきまえて下位でおとなしくしていなさいってカンジ。
◆ Tsugumi’s monologue 6
上層部の
玉狛支部での暮らしを守り、さらに「A級になれ」という周囲の声に従うためにはこうするのが
それにB級ランク戦を盛り上げることで、ボーダー全体の戦力アップが見込めるとなればやらないわけがない。
ということで、わたしは
新規参入ということで「玉狛第3」は「玉狛第2」と共に最下位からの出発。
A級への挑戦権が得られる上位2
まあ、せめて上位グループには入りたいかな。
◆ Yoko’s monologue 7
あの女はバケモノだわ。
いくら元A級とか言っても、ひとりで3戦全勝、23得点。
絶対にありえない成績よ。
まあ、相手が下位・中位の
代わりにあの女の玉狛第3が上位に食い込んできた。
おまけにあの女の後輩の玉狛第2までもがアタシたちの上にいるなんて腸が煮えくり返ってくる。
B級になりたてのくせに
弱いくせに強いチームメイトに助けられてばかり。
アタシはああいうタイプが一番嫌いなのよ。
ああ、アイツらのせいで毎日がイライラする。
◆ Tsugumi’s monologue 7
3戦終わったところで玉狛第3は上位グループ入りした。
オサムくんたちも同じタイミングで上位グループ入りし、暫定5位と6位の座をわたしと彼らで占めている。
想定外の速さで駆け上がって来たわけだが、そのおかげで
彼女というのはもちろんヨーコのこと。
開始時には7位にいたのだが、現在は8位に転落。
つまりわたしたちのせいで自分たち
彼女は新人の頃から目立つ存在だった。
なのに気分にムラがあって、その才能を生かしきれていないのだから惜しい。
隊員たちもその点に苦労していそうだ。
上位と中位に分かれているから、順位の変動があって同じグループにならなければ香取隊との試合はない。
だから今度会ったらまた
別に彼女と戦うのはかまわないけど、彼女の場合試合の前に大騒ぎをして観客を集めてしまい、その観衆の中で残念な負け方をするから恥をかかされたと言ってわたしを憎む…という悪循環になってしまうから嫌なのだ。
◆ The third battle
千佳と一緒にバレンタイン用のクッキーを配っていたツグミは葉子に捕まってしまった。
もちろん
「戦うのはいいけど、こっちの条件を呑まなければお断りよ」
ツグミは強気で言った。
「いつもいつも条件ばっかり。で、今回は何よ?」
不機嫌そうな葉子がますます不機嫌になるのがよくわかる。
「わたしたちはふたりともB級ランク戦で戦っているわけだから、これから敵になるかもしれない隊員に対してこっちの手の内を見せるなんてバカなことをしたくないのよ。公の場で戦えば、わたしたちの戦い方が全部ライバルたちに丸わかり。それはあなたも嫌よね?」
「ええ、もちろん」
「ということで、あなたの隊の訓練室を使わせてもらえない? さっき行ったら、中に華さんがいたから設定とかもやってくれるはずだし」
「なんでアンタがアタシの隊室に!?」
「わたしとチカちゃんが作ったクッキーを持って行ったのよ。あとでみんなと一緒に食べてね」
ツグミは笑顔で言うが、それすらも葉子には気に入らないらしい。
「アンタの作ったものなんてお断りよ! …でも他の連中に見られないように戦うってのは賛成。わかったわ、行きましょう」
いくら葉子でも自分の手の内をライバルになるであろう隊員に見られたくはないというツグミの意見には反対する理由がない。
「じゃ、チカちゃんはラウンジかどこかで少し待っててもらえるかな? 終わったら一緒に帰りましょ」
「はい、わかりました」
ツグミは千佳にそう告げ、葉子と一緒に香取隊の隊室に向かった。
「アンタ、今日、いつもと違うわね」
換装したツグミに葉子が言う。
「ええ。今日はランク戦用に普段使わないトリガーの練習をしようと思ってチップを入れ替えておいたから。今日は弧月とレイガストを外して、
ツグミが手にしているのは
「へえ~、アンタって
「普段はそうだけどね。上位グループに入ったから、これからは
「どういうこと?」
「だって、いつもはわたしのこと嫌っていて刺々しいのに、今日は普通にこうして会話もできる。そばに華さんがいるからかな?」
「そ、そんなことはないわよ。それよりアンタって華と仲いいの?」
「仲は良いわよ。だって同じ学校だもの」
「はぁ!?」
「知らなかった? まあ、同じ六頴館でもわたしは通信課程だから学校で会うということはあまりないんだけど」
「……」
ツグミが六頴館というだけでなく通信課程であることを知って絶句した。
自分よりはるかに頭の良い華と同レベルの偏差値を持つという意味で、またもやひとつ
しかし今日はこれくらいのことで大騒ぎをすることはない。
(フッ…いい気になっていられるのも今のうちよ。今日のアタシはいつもと違う。華に言われたとおり、アンタのことは調べられるだけ調べた。だから
葉子はこれまでの敗戦からいくつかのことを学んでいた。
敗因は敵の実力を知らない、侮っていたということ。
そこでツグミのことを詳しく調べた。
葉子が言うとおり攻撃力と機動力は彼女の方が上で、それを活かせるマップや戦術を選べば勝てる自信を持っているのだ。
マップは以前と異なり「市街地B」。
「市街地B」は戸建住宅だけでなく、マンションや学校、ショッピングモールなど高い建物と低い建物が混在し、場所によっては射線が通りにくく、見通しも悪いマップである。
葉子がたまには気分を変えてみたいと言い出したからなのだが、これも彼女の作戦のひとつなのだ。
[霧科ツグミ 対 香取葉子、試合、開始!]
ツグミが転送されたのは5階建てのマンションの屋上で、葉子は戸建住宅が密集している住宅地の路地であった。
これまでなら葉子はバッグワームでツグミに近付いて強襲するという作戦を用いるが、今回は自分の都合の良い場所にツグミをおびき出すことにする。
(あの女のメイン武装は
葉子はほくそ笑みながら周囲を見回した。
自分のルールに敵を乗せるという戦術はありだが、敵が乗ってくれるかどうかは別物。
そして罠を仕掛けるのであれば、ツグミの方が何枚も上手である。
ツグミと葉子はそれぞれ相手に対して罠を仕掛け、じっと獲物が掛かるのを待っていた。
しかし10分、20分と経っても、どちらもまったく動かない。
こうなると我慢比べになるわけだが、こういう場合短気でイライラしがちの人間が先に動いてしまうものだ。
「何でこっちに来ないのよ!? ああ、もう我慢できない!!」
葉子はバッグワームを起動し、ツグミの反応のある方向へと走り出した。
ツグミの反応は転送位置からまったく動いていなかった。
5階建てのマンションの屋上なのだが、レーダーでは位置しかわからないため、どの階にいるのかは実際に目で確認するしかない。
葉子も
(あの女がバカではない以上、マンションの廊下や室内では不利だとわかっているはずだから、屋上にいるに決まっている。だったら隣りのマンションの屋上から様子を見て、グラスホッパーで飛び移ればいいのよ)
葉子の判断は正しい。
ツグミの持つ
よって屋上が一番戦いやすいフィールドである。
これまでは敵の情報もなしで猪突猛進していた彼女だが、前もって敵のことを調べ、会話によって情報を得るということをしている。
これまでは相手がツグミだというだけで頭に血が上って冷静に対処できなかったのだから、これはずいぶんと成長したと言えるのではないだろうか。
2期連続でB級上位を維持してきた香取隊の隊長なのだから、戦闘力や指揮力に問題があったわけではない。
過去2回の試合、葉子は「ツグミが憎い」という怨念のようなもので
葉子は目的のマンションに隣接するマンションの屋上へやって来た。
7階建てのマンションであるから、見下ろす形で敵情視察できる。
「なによ、誰もいないじゃない。…ってことはカメレオン?」
目的の場所にはツグミの姿はない。
身を隠すことができるような場所がないから、この場合はカメレオンを使用していると判断するのはごく自然である。
そして葉子自身はバッグワームを使っていて給水タンクの陰に隠れているから、ツグミには居場所がわかるはずがない…と考えているのは大きなミスである。
Round3で、ツグミにはバッグワームやカメレオンが通用しないということは周知の事実になったのだが、葉子はそのことを知らなかったのだ。
それからさらに10分経ち、試合開始から30分以上経過していた。
30分もまったく動きが見られないということに痺れを切らした葉子はバッグワームを解除してツグミを挑発することにした。
敵がすぐ近くにいるとわかれば必ず動きがあるだろうと考えたのだ。
(グラスホッパーを使わなければ行き来ができない距離だから、こっちに来るならカメレオンを解除しなければならない。フッ…姿を現した瞬間に撃ち殺してやるわ)
そしてレーダーの精度を一時的に上げ、ツグミの反応が屋上のほぼ中央であることを確認した。
「死ね!」
葉子は
しかし命中した気配はない。
いくら精度を上げたといってもレーダー頼りでは当たるはずもない。
もちろん彼女も当たるとは思っていない。
これはツグミに対する挑発なのである。
挑発であるのだが、ツグミには何の動きも見られなかった。
「何よ…アタシを無視するつもり!?」
葉子は苛立ちながらも冷静さを失わず、ツグミからの
「フフッ…ヨーコちゃんが単純なのは変わらないけど、少しは頭を使うようになったみたい。じゃ、そろそろおしまいにしましょうか。…
放たれた弾は約800メートル離れた場所にいる葉子の頭部を正確に吹き飛ばし、彼女の戦闘体は砕け散ったのだった。