ワールドトリガー ~ I will fight for you ~   作:ルーチェ

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79話

 

 

その頃、ボーダー本部基地での攻防戦は激しいものとなっていた。

アイドラに化けていた人型近界民(ネイバー)3人が「壁抜け」のトリガーを使用して本部基地内へ侵入。

人型近界民(ネイバー)の目的とは地下に格納されている遠征艇の破壊であり、事前に調査をしてあるらしく()()()()に地下格納庫へと進んで行った。

遠征艇を破壊されれば再建には膨大な量のトリオンと、費用(コスト)と時間がかかってしまう。

遠征計画が1年は頓挫してしまう()()が生じることとなるのだ。

人型近界民(ネイバー)は短時間で作戦を遂行すべく周囲には目もくれずに進んで行った。

ただしこれらの行動は迅の未来視(サイドエフェクト)によって予測されており、人型近界民(ネイバー)3人が通るであろう経路に迅が待機。

風刃を起動した迅は人型近界民(ネイバー)に遠隔斬撃を加えるが、ダメージを与えることはできずに逃げられてしまう。

しかし敵の姿を視認したことで、迅は彼らの()()を予知できるようになった。

ただし人型近界民(ネイバー)は迅が遭遇した3人だけではなく、まだ視認できていない残りの人型近界民(ネイバー)に関しては予知することができないままである。

 

本部基地内に侵入した人型近界民(ネイバー)に追いついた那須と熊谷はウェン・ソーという名の女性近界民(ネイバー)と戦闘を開始した。

ウェン・ソーは仲間を先へ行かせるためにドグを使って足止めをする役割である。

取り逃がした男性近界民(ネイバー) ── 隊長のガトリンとラタリコフ ── は遠征艇ドック用エレベーターを使用して降下。

敵の目的を事前に察知していたボーダー側は、太刀川、風間、小南、村上というトップ攻撃手(アタッカー)を配置して万全の状態で待ち受けていた。

屋外の部隊はアイドラとドグの排除を続けていたが、三輪と米屋のふたりがコスケロという名の男性近界民(ネイバー)と相対した。

コスケロのトリガー黒壁(ニコキラ)はブヨブヨした粘液のような液状の物体を操り、トリオンで出来た物質に触れると纏わりつき取れなくなることでその物質を使用できなくするという能力を持っていた。

とはいえ「トリオン(体)で触ると致命的」だが「トリオン以外に対しては無力」というハイレインの卵の冠(アレクトール)と似たような性質を持つため、このふたりにとっては初見の技であっても対処方法は会得している。

三輪と米屋の連携であれば手を焼くことはあっても倒せない相手ではなさそうだ。

 

ここまでの防衛体制は迅の予知でほぼ万全であったものの、想定どおりにならないものもある。

迅は遠征艇を守るトップ攻撃手(アタッカー)部隊(チーム)に加わるか、本部基地の外に出て他の人型近界民(ネイバー)を探して敵の作戦の予知ができるようにするか迷うのだが、()を選ばざるをえなくなったのだ。

迅による予知の中では可能性の低かった「未来」を選んだ者がいたからである。

陽太郎がヒュースを追って行ったことが視えたものだから、迅は大急ぎで外へ出て行った。

 

 

◆◆◆

 

 

玉狛支部にひとり残ったツグミは状況がまったく掴めないことで不安と自らへの苛立ちを募らせていた。

なにしろ本部基地では近界民(ネイバー)との攻防戦が始まっており、ヒュースは逃走、彼を追って陽太郎までもが行方不明となっているのだから。

おまけに屋上に出ることも禁止され、できることといえば自室で仲間たちが無事に帰還することを祈ることだけである。

 

(みんな…早く無事で帰って来て! …ひとり取り残されるのはもう嫌。みんなにおいてけぼりにされるのはあの時以来…。みんなが同盟国の戦争に参加した時、近界(ネイバーフッド)から無事に帰って来られたのはたったの9人。大事な時に自分が何もできない辛さを嫌というほど味わったというのに、わたしはまた同じことを繰り返している…)

 

仲間の無事を祈りつつも、自らの不甲斐なさを後悔するツグミ。

旧ボーダーが5年前の同盟国の戦争に参加することになった際、当時11歳だったツグミはひとりだけ遠征に参加できなかった。

それは彼女が迅の未来視(サイドエフェクト)で「近界(ネイバーフッド)へ行けば必ず死ぬことになる人間」のひとりであったからだ。

最上を含む10人の死亡も迅には視えていた。

もちろん迅は遠征中止を申し出たが、その提言は却下される。

彼らが戦わなければこちら側の世界にも大きな影響を及ぼすとされたからで、この戦争はどうしても退くことのできないものであった。

そこで迅はせめてツグミだけでも死なせまいと、模擬戦をして自分に勝てたら連れて行くという条件を出し、結果的にツグミの命を救ったのである。

そのことを知らないツグミは自分が弱いから仲間に入れてもらえない、強くなれば仲間と一緒に戦えると考えて日々の鍛錬により一層力を入れることとなり、現在の彼女がある。

しかしこの一大事にまたもや自分が何もできないのだから、ツグミには自分が今までやってきたことが無意味だったように思えてしまうのだ。

 

(でもきっとわたしが戦いに参加しないことがジンさんの考える最善の未来に至る上で重要なことなのよ。だからジンさんは今回の近界民(ネイバー)侵攻のことも黙っていて、わたしに関わらせないようにしたかったんだ。わたしが真史叔父さんから聞いたと話した時に不機嫌になったのがその証拠。わたしが戦力として役に立つとか立たないとか以前の問題だったってこと。そうに決まっている…)

 

そう考えることでツグミは自分が今回の戦いに参加できない理由をでっち上げて自分に認めさせることにした。

 

 

◆◆◆

 

 

ボーダー隊員と近界民(ネイバー)の戦闘はますます激化していった。

屋外の戦いでは二宮隊・加古隊の参加で押し気味に進んではいるものの、トリオン兵の数はボーダー隊員の数の3倍以上で安心はできない。

そこで地上部隊の二宮は狙撃班の半分を加えて地上からの追撃を提案。

年長者順ということで諏訪がリーダーで二宮が参謀ということになり、お互いに適度な距離を保って火力を集中させ、射手(シューター)銃手(ガンナー)は防御重視の包囲射撃、攻撃手(アタッカー)はその援護、狙撃手(スナイパー)は敵の射程外からの攻撃という作戦となった。

 

一方、格納庫前で待ち構えていたトップ攻撃手(アタッカー)部隊(チーム)はガトリンとラタリコフと遭遇(エンカウント)

戦闘を開始した。

ガトリンは処刑者(バシリッサ)を起動。

このトリガーは使用者の背中に虫の手足のような4本の巨大なアームを展開。

先端は非常に鋭利なブレード状になっており、左腕は大砲となった。

チャージに時間がかかるものの一発の威力はかなり高く、遠征艇への攻撃に用いられたが村上が(シールド)モードのレイガストを使い片腕を犠牲にした上でかろうじて弾道を変えることができたほどである。

ラタリコフのトリガーは踊り手(デスピニス)

土星のような()のある球体を多数出現させ、球体は宙を自由自在に動き回り、輪っかの部分で敵を切り裂いたり、球体をぶつけて敵の攻撃を逸らしたりするもの。

ガトリンの攻撃をラタリコフとドグがフォローするという連携は見事なものだが、迎え撃つはボーダーのトップ攻撃手(アタッカー)部隊(チーム)

頑強な処刑者(バシリッサ)のアームを太刀川の弧月と小南の斧型双月で「寸分違わぬ同じ箇所に二度攻撃を加える」という超絶技を駆使して破壊するなど、敵の侵撃を阻んでいた。

 

同時刻、ヒュースは本部基地の戦闘が見える場所まで来ていた。

今回の侵攻がガロプラかロドクルーンという従属関係にある国である可能性が高く、その人間と接触しすることで本国への帰還の足がかりにしようというのだ。

しかし彼はまだ知らない。

アフトクラトルによる玄界(ミデン)侵攻の目的が次の「神」候補を探すためだけではなく、「神」候補が見つからなかった場合にはヒュースの主であるエリン家当主を()()にするために、邪魔なヒュースを玄界(ミデン)置き去りにすることを視野に入れていたのだということを。

ガロプラの兵士たちはハイレインから「捕虜を発見しても救助・奪還の必要はない。邪魔であれば始末していい」とさえ言われている。

その残酷な真実をヒュースはまもなく知ることとなる。

 

 

◆◆◆

 

 

肉体的にも精神的にも疲れ果てていたツグミは自室の机に突っ伏して居眠りをしていた。

それも眠っているだけでなく夢を見ているようだ。

夢を見る彼女はとても苦しそうな表情で、涙さえ浮かべている。

誰かそばにいればその悪夢からすぐに目覚めさせてやるのだが、不幸にも今は誰もいない。

 

 

「おとうさん…、おかあさん…、おきてよ…。しんじゃヤダ…。おとうさん! おかあさん! うぁあぁぁぁぁ…!」

 

夢の中で小さなツグミは両親の亡骸を前に泣いていた。

そんな彼女を抱きしめる忍田と、ふたりを見守る城戸、林藤、最上、有吾。

彼らの表情はとても悔しげで、大切な家族と仲間を喪った哀しみと同時に残された幼子の将来を憂いて言葉も出ない。

 

「ツグミ、今日から私がおまえのお父さんだ。織羽さんと美琴姉さんの分もおまえを愛してやる」

 

泣き疲れてうなだれているツグミに忍田が力強く言った。

 

「これからは私がおまえを守る。おまえが大人になり、おまえを託せる男が現れるまで、私がすべての敵となるものを排除し、おまえを守り続けよう。だから心配するな」

 

夢の中のツグミは力なく小さく頷いた。

 

 

ツグミが見た夢は遠い過去、彼女の身の上に実際に起きた悲劇の欠片。

辛すぎる現実から我が身を守るために心の奥底に固く封印していた記憶が、彼女の身体と精神に変化が起きたのをきっかけに目覚め始めたのだった。

 

 

「ん…。そっか、眠ってたんだ。なんだかすごく嫌な夢を見たような気がする…。でも、どうせ夢のこと。気にしたってしょうがない。それより戦況はどうなってるのかしら? ヒュースとヨータローは見つかったのかしら?」

 

ツグミは目を擦りながら立ち上がり、見えもしないというのに窓の外をぼんやりと見つめた。

 

ツグミが見た過去の悲劇は彼女自身が夢だと思っている間はタダの悪夢にすぎない。

しかしそれが現実にあったことだと認識した瞬間、過去が彼女の未来を大きく変化させていく。

それは迅が視た「ツグミが俺たちの前からいなくなる未来」へと近付くことになるわけだが、分岐点となる()()()はまだしばらく先である。

 

 

 

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